ソードアート・オンライン ミッシングメモリー 作:神崎はやて
――これはゲームであっても、遊びではない。
とある天才的ゲームデザイナー、茅場晶彦が雑誌のインタビューに応じた際の言葉だ。いつだったか、たまたま立ち寄った書店で立ち読みした雑誌にそのインタビューの記事が載っていて、少年は彼が開発したという新たなVRMMOの存在を知った。
ソードアート・オンライン、通称SAO。以前に発売しているVRMMOゲームの中でも、屈指の出来と噂されていた。そのことを知った後から、少年はその発売を今か今かと心待ちにする日々を送った。自分の身体を動かして、まるで自分がゲーム世界に入り込んだかのような体験をすることができる。少年のようなゲーム好きには、まさしく夢のようなゲームだった。
ゲーム屋の前にできた長蛇の列に並ぶこと数時間。ちょうど彼で在庫切れとなり、ギリギリのところで購入に成功した少年は、意気揚々と帰宅し逸る気持ちを抑えて自室へ転がり込むと、早速ゲーム用のハードウェアデバイス、ナーヴギアを頭に被る。電源を入れ――ゲーム世界へ入るための呪文を口にした。
「……リンク、スタート!」
「……以上で、ソードアート・オンラインのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る」
数時間後。おそらくはこのSAOにログインしているであろう全てのプレイヤー達が集まっているであろう、SAO内部の第一層、はじまりの町の広場。そこに、かの少年の姿もあった。しかし、ゲーム開始時に設定した勇者然とした美男の姿ではない。現実世界の彼自身の、細く小柄で中性的な黒髪の少年の姿だ。
今まさに彼の、そして数千人もの全プレイヤー達の頭上で姿を消していく、ゲームデザイナー茅場晶彦を名乗るローブを纏った巨大な黒い影は言った。このゲームから今後、自発的にログアウトすることはできない。そして、このゲーム世界でHPが0となった人間は、現実世界の己の脳を破壊され――死ぬ。
――これはゲームであっても、遊びではない。
雑誌に載っていた、彼の言葉が頭の中に重く響き渡った。
「は、はは……」
阿鼻叫喚の叫びに埋め尽くされるはじまりの町の広場に、乾いたような笑い声が上がり、すぐに怒号の入り混じった周囲の声に掻き消されていく。
彼が夢見ていた世界は、一瞬にして地獄と化した。常に死と隣り合わせの世界。ただゲームをしたかっただけ。ゲームの中で、現実とは違う自分になりたかった。ただ、それだけだったというのに――。
「ははは、は……」
壊れた人形のように少年は笑い、やがてその場に倒れ込んだ。頭の中に不快なノイズが走り、やがてそれは溢れ出る負の感情をも飲み込んで大きくなっていく。
少年の意識は、焼けるような痛みと共に段々と薄れていった。