ソードアート・オンライン ミッシングメモリー   作:神崎はやて

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第2話 決闘

 翌朝、ウィルはいつもより早く目が覚めた。まだ薄暗い室内を寝ぼけた目で見渡し、ふわ、と小さな欠伸をする。

 メニューウインドウを開く。本来ならまだ寝ている時間帯だ。けれどウィル自身にも何と言えばいいのか解らない落ち着かない感覚から、早々と目が覚めてしまった。

 

「……朝ごはんにしよう」

 

 腹が減っては戦はできぬ。細かいことは後回しにして、ウィルは朝食の準備のためベッドを出て、キッチンへ向かった。

 メニューウインドウを開き、アイテムストレージから自分が食う分の食材を適当に選びオブジェクト化していく。朝からあまり凝ったものを作る気はないので、レタスに似た野菜と肉を切り、パンを出して適当にスライスして、そこに複数の素材を合わせたタレを塗っていく。現実世界では様々な手間が必要な料理という行為が、このアインクラッドという世界では僅か数分で完了できてしまう。それがどこか味気なくてつまらないと、リズベットの親友でありギルド〝血盟騎士団〟副団長、閃光の異名を持つアスナが、以前料理好きのよしみで顔を合わせた際にこぼしていたのを覚えている。

 そうして出来上がったテリヤキサンドらしい何かを、ウィルは口いっぱいに頬張った。自分で作ったものながら、美味しい、と思わず呟いて、ほっこりとした表情でウィルはサンドウィッチを食べ終えた。

 

「ふぅ、美味しかった。さてと……時間までまだ少しあるし、お弁当も作っちゃおうかな」

 

 おそらく今日の作戦は昼を過ぎることになるだろう。食事をとりに町へ戻るなどということはできないだろうし、作っていった方が何かと便利だ。そう考えキッチンへ戻ると、先ほどのサンドウィッチと同じものをいくつか作ってバケットに入れ、バケットごとアイテムストレージへしまい込む。

 

「これでよし、と」

 

 満足げにアイテムストレージに表示されているバケットを見ると、いつもの装備を展開して、ウィルは家を出た。料理もさほど時間がかからなかったこともあってか、まだ集合時間までかなりの余裕があった。けれどどこか落ち着かなかったウィルは、時間になるまで適当に町をぶらつくことにしたのだ。

 行くあてもなく、漸く支度を始めた露店を見ながら歩く。中にはよく食材を仕入れているプレイヤーの店などもあって、こちらに気づいて手を振ってくる度ウィルもそれに応えた。暫く歩くと、50層の転移門広場が見えてきた。朝早いだけあって、人影もまばらだ。

 

「さすがに早すぎたかな……」

 

 小さく呟き、苦笑しながら頬を掻く。けれどよくよく見れば、転移門の前に見慣れた赤と白の騎士団服が見える。

 

「やあ、アイナ。こんな朝早くから精が出るね」

 

 手など上げて、ウィルは極めてフレンドリーに話しかけた――つもりだった。いや、確かに今の彼は、周囲から見てもにこやかに笑う気のいい少年であり、彼自身が狙ったとおりの人柄に見えていたはずだ。けれど当のアイナはウィルの存在に気づくや否や、どこか嫌そうな顔をしながらずかずかと歩いてくる。何かまずいことをしただろうか、と反射的にこれまでの己の行動を見返していると、その間にもアイナは目と鼻の先にまで近づいて――。

 

「アンタいいところに! ちょっと匿って!」

 

「ご……えぇ?」

 

 のど元まで出かかっていた謝罪の言葉が、彼女の思いもよらぬ台詞によって寸前で飲み込まれた。代わりに変な声が出てしまったが、そんなことを気にする間もなく転移門が光る。彼女に続けて現れたのは、小太りの男だった。ウィルやアイナよりも若干年上と見える男は辺りを見回すと、いつの間にかウィルの背後に隠れていたアイナの姿を認め、ため息をつきつつ歩み寄ってくる。

 

「アイナ様、こんなところにいたんですか。さあ帰りますよ」

 

「嫌よ! 作戦開始までまだ時間があるじゃない! それまでどう過ごそうと私の勝手でしょ!?」

 

「……我儘を言わないでいただきたい。今や貴女は我が血盟騎士団の一部隊を担う立場のお方。勝手な行動をされては困ります」

 

「何が部隊長よ……アスナと違って、客寄せパンダみたいに幹部が勝手に祀り上げてるだけでしょ!? 大体アンタ、なんで私の家の前でずっと見張ってるわけ!? 朝起きたら窓にアンタが張り付いてるの見た時には心臓止まるかと思ったわよ!」

 

「はっ!?」

 

 自分を挟んで言い争いを始める2人に、思わず深いため息をついて事の成り行きに任せていたウィルだったが、続くアイナの言葉に驚いて思わず目の前の男を見た。アイナの言葉を信じるとするなら、男はアイナのストーカーか何かだろうか。少なくともアイナにかける思いがただならぬことだけは確かだろう。

 娯楽の少ないSAOにおいて起きやすいトラブルの上位を占めるのが、レアアイテムや男女関係に関するものである。中でも男女関係は、この圧倒的に男の占める割合が大きいアインクラッドにおいて切実な問題だ。中でも美しいと評判の女性プレイヤーはその被害に遭う確率が高く、ハラスメントコードというものが働き、力に任せて直接的な行為に出ることはできないとされてはいるが、それでもトラブルが絶えないのが現状なのだ。有名な例では、かの〝閃光〟アスナがそうだろう。その美貌と二つ名にふさわしい華麗な剣技に見惚れ、ギルド内外にファンの多い彼女は、その分トラブルに遭うことも多く、最近では護衛がつくようになったのだという話も聞いた。

 が、まさかアイナまでもがそんな事態に発展しているなど思いもよらなかったため、ウィルが呆れ果てて後ろを振り返ると、一瞬目が合った彼女は気まずそうに目を逸らす。無言の肯定。ウィルは再び盛大にため息を吐きだした。

 

「さあ、帰りましょう」

 

「嫌だって言ってるでしょうがっ!……ほら、アンタも黙ってないでなんか言ってやんなさいよっ!」

 

「えぇ!? そこで僕に振るの!?」

 

「そういえばさっきから貴様は何だ? アイナ様に馴れ馴れしく近づきおって……。恥を知れ、恥を!」

 

 アイナに言われて漸くウィルの存在に気づいたらしい男は、ぎょろりとした目を向けてウィルを睨みつけた。できれば傍観者でありたかったというのが本音ではあるが、盾にされた時点で巻き込まれることは確定していたようなものだ。仕方なく、ウィルは一歩前へ出る。

 

「恥を知るのはどっちですか。いい歳して女の子1人追っかけ回して……。護衛といっても限度というものがあるでしょう?」

 

「貴様に何が解ると言うのだ。アイナ様は血盟騎士団に必要なお方! その身辺をお守りするのは護衛として当然の責務である!」

 

「だから限度があるっつってんでしょーがっ!」

 

 憮然とした表情で言ってのける男に、ウィルの背後からガーッ、とアイナが喚き立てた。なるほど、確かに話の通じない男のようだ。

 

「アンタ、今日のゴースト討伐作戦の構成メンバーに呼ばれてないでしょ! 何平然とついてこようとしてるのよっ!?」

 

「アイナ様が行くところに我あり!」

 

「お呼びじゃないって言ってるの!」

 

 どうしたものかと考えている内に、不毛な口論を続けている2人。その2人の騒ぎを聞きつけたのか、野次馬が段々と集まってきているように感じる。早めにこの場を収めねばいい見世物になってしまうことだろう。

 どうしたらいいだろう――思案するウィルが視線を落とすと、腰にささった1振りのロングソードが目に入った。今現在、ウィルが最も信頼している愛剣。それを見た瞬間、ウィルの心は決まった。

 

 

 

「……ねぇ」

 

 

 

 それまで言い争いを続けていたアイナと男が、唐突にウィルより放たれた低音に思わず言葉を止め、彼を見た。俯いていたウィルはゆっくりと顔を上げ、男を真っ直ぐに見据えて言い放つ。

 

 

 

決闘(デュエル)しようよ」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

 転移門広場の中心で、ウィルと男は対峙していた。やる気満々に剣を振り回している男は外見こそ血盟騎士団員に共通した紅白の甲冑姿だが、得物の方は一目で業物と気づく豪奢な大剣。対するウィルの側は装飾もシンプルなもので、まるで宮廷騎士が見習いに稽古をつけてやるような光景にも見える。――あくまでも、見た目だけなら。

 SAOにおいて―否、RPGというゲームにおいて何より重要となるのは、レベルや能力値といった数値だ。どれだけ熟練したプレイヤーであろうと、圧倒的なレベル差の前には始めて数日のニュービーほどの力もない。そんな数字が全てのこの世界で攻略組の括りに身を置くウィルの強さは間違いなくSAO内でもトップクラスである。並の相手なら、多少の装備の優劣はものともしないだろう。

 対峙する男の側から、決闘の申し込みのホロウィンドウが現れた。モードは全損から初撃決着まで様々あるが、今回は初撃決着モード。HPが0になることが死を意味するSAOだ、全損モードは滅多なことでは選択されない。今回選ばれた初撃決着モードとは、先に相手にクリーンヒットを当てた側が勝者となる、一般的にもよく使われているルールだ。ウィルもルールに遺存がないのを確認すると、YESのボタンをタッチした。

 

「アイナ様が見ておられるのだ……! 悪いが、貴様にはこの剣の錆になってもらおう!」

 

「……お手柔らかに」

 

 大仰に剣を振り翳す男とは対照的に、静かに会釈をしてからゆっくりとした動作で剣を抜くウィル。互いに構え、ウィンドウに表示されたカウントが減るのを待つ。

 

そして――。

 

「でやああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「……!」

 

 0になった瞬間、男の方がまず大きな声を上げて真っ直ぐに突進してきた。剣はソードスキルを発動している証であるライトエフェクトを纏い、直線的な軌跡を描く。両手剣用ソードスキル、アバランシュ。所謂重突進系の単発スキルで、その一撃の重さからガードを崩し、反撃の芽を摘むことすら可能な両手剣スキルの主力技。

 対して、ウィルの側は動かない。ソードスキルの放つ眩い程の光を、ただ興味深げに見つめているだけだ。その姿にアイナを含む観客達がどよめくのが聞こえたが、次の瞬間、その場の誰もがそれが杞憂であったことを悟った。

 

「な……!?」

 

 男の目が見開かれる。男の剣は、ライトエフェクトを纏ったままウィルの剣に受け止められていた。ウィルの剣には何の変化もない。男と同じライトエフェクトもなければ、特殊なスキルを使った形跡もない。ただ、受け止めただけ。何の変哲もない剣が、ソードスキルを発動した大剣を、である。

 

「……軽いね。キリトのヴォーパルストライクと比べたら全然軽い」

 

「何だとっ」

 

 男の額に青筋が浮かぶ。キリトといえば、チートのβテスター、通称ビーターと呼ばれる単語を作った張本人であり、一部の人間には毛嫌いされていると聞く。きっと男も、そんな人間の1人だったのだろう。血盟騎士団には彼のようなβテスターを嫌う人間が少なからずいると聞いていたのだが、どうやら本当だったようだ。

 

「この……」

 

「……ふんっ!」

 

 ウィルの剣が男の剣を弾き飛ばし、男の体勢が崩れた。その隙にウィルは男の懐に飛び込み、剣を男の首元へと当てる。勝負あり。勝者と敗者が決定した瞬間だった。

 

「はい、僕の勝ち。何か文句あるかな?」

 

「ぐ……」

 

 決着はいずれかの攻撃がクリーンヒットすることによって、ということになってはいるが、このままウィルがソードスキルを発動させて剣を押し込めば、勝敗がどうなるかははっきりしている。男も何も言えず、小さく「……降参だ」と呟いた。あんなに小さな声で、果たしてシステムが認識することができるのだろうかとウィルは思ったが、どうやらそれも要らぬ心配であったようで、システムはそれを問題なく受け取った。

 

「……い、イカサマだ!」

 

「……は?」

 

 と、そのまま終わるだろうと誰もが思ったその時、男が不意に口にした言葉にウィルは目を丸くする。

 

「イカサマだ! 何かズルをしたに違いない。でなければ、栄えある血盟騎士団に属する騎士たるこの私が、こんなどこの馬の骨とも知らぬ男に負けるなどあろうはずがない!」

 

「あ、アンタ! 何を馬鹿なことを……!?」

 

 上ずった声で捲し立てる男の言葉に、いよいよ怒りがピークに達してきたらしいアイナが怒声を上げた。全てが数値とシステム的ルールに管理されているのがこのSAO世界だ。確かに、以前はシステム的抜け道を利用した詐欺やPKが横行した時期もあった。しかしこれは、大観衆が見守る中での正当なデュエルであり、そこにイカサマやズルを仕込む余地などないはずなのだ。某黒の剣士が密かに得意としている武器破壊(アームブラスト)も、システム外スキルと言われればズル臭い響きがあるものの、実戦で使用するには相応の反応速度と腕が必要になる神業であり、素人が真似しようとしたところでそうそうできるものではない。つまりこのデュエルには、ウィルがどうあがいたところでイカサマなど挟みようがないことなど周知の事実であるはずなのだが、それでも尚、男は喚き散らした。

 

「そうだ、負けるはずがないんだ……! 今の勝負は無効だ!」

 

「そんな理屈通るわけが……」

 

「やめたまえ、見苦しい」

 

 誰の目から見ても筋の通らないことを叫んでいる男に尚も反論しようとしたアイナの声を遮って、彼女の背後から突如として威厳のある声が聞こえてきた。集まっている群衆を割って、紅の甲冑を身にまとった壮年の男性が前に出る。

 このアインクラッドにいて、知らぬ者はいないであろう彼の登場に、群衆は自ら道を開けた。

 

「ひ、ヒースクリフ団長……!?」

 

 この男こそが、ヒースクリフ。神聖剣という特殊なスキルを有する、ギルド血盟騎士団のトップに君臨する男である。まさか団長自らこんなところまで来るとは想定外だったのか、男もアイナも驚愕顔だ。ギルドの内情を知らぬウィルも、予期せぬ男の登場に開いた口が塞がらない。

 

「やあ、ウィル君。久しいね」

 

「ど、どうも……。あの、今日はどういったご用件で?」

 

「何、任務前に君の料理が食べたくなってね。朝食をご馳走になろうと思って来たのだが……すまない、ギルドの者が迷惑をかけたようだ」

 

「だ、団長! 悪いのはその男です! アイナ様を誑かした挙句、デュエルでイカサマを……!」

 

「た、誑かされてなんかないわよ! 馬鹿っ!!」

 

 周りが呆然とする中、当のヒースクリフ自身はそんなことを気にした風もなく、親しげにウィルに話しかけてくる。どうやらレストランの客として来ただけで、この事態を察知して駆けつけてくれたというわけではないようだが、それでも事態の鎮静化においてこれ以上頼もしい人間もいない。男の「誑かした」という言葉に異様なまでに反応して顔を真っ赤にしているアイナに僅かに苦笑すると、すぐさま表情を真剣なものに戻したヒースクリフは、男へ視線を向けた。

 

「バロッド君。アイナ君のことはともかく、君は正当なデュエルの結果が、イカサマによるものだという。その根拠はあるのかね?」

 

「私が負けた! それが根拠です!」

 

「……やれやれ、話にならんな」

 

 予想以上に話の通じない相手だと理解したのか、ヒースクリフは肩を竦めた。

 

「バロッド君。君はこれまで、血盟騎士団の一員としてよく働いてくれた。それは私も認めているし、だからこそアイナ君の護衛役も任せたつもりだ。だが、どうやら見込み違いだったようだね」

 

「だ、団長、私は……」

 

「くどいな」

 

 ヒースクリフの眼光に男――バロッドは怯み口を噤んだ。彼の有無を言わせぬ威圧感に声も出ないバロッドへ向け、ヒースクリフは宣告する。

 

「君をアイナ君護衛の任から解任する。当分は自宅で謹慎していたまえ」

 

 もはや言い返す気力もなくしたのか、がっくりと俯いてバロッドは遂に沈黙した。観念した様子を見てヒースクリフは左右に控えていた男たちに目配せしてバロッドを捕縛させると、次いでウイルの方へ向き直った。

 

「君も、今日の任務には参加してくれるのだったね」

 

「あ……はい。微力ながら」

 

「助かる。今回の敵は、今までのどんなMobやボスとも違う、独自のアルゴリズム……いや、この場合はシステムと言うべきか。この世界のどれとも隔絶された存在だ。打倒するのに、1人でも戦力は多い方がいいからね」

 

「世界から、隔絶……?」

 

 ウイルは怪訝そうな声を上げるが、ヒースクリフはそれ以上話す気はないようだった。また後で会おう、とだけ言い残して、バロッドの首根っこを掴んだ2人の部下と共に転移門へと消えていく。ヒースクリフの姿が完全にこの場から消滅すると漸くこの事態も収束したと判断したのであろう野次馬達は、蜘蛛の子を散らすようにバラバラに散っていった。

 

「……ご、ごめんなさい」

 

 ヒースクリフが吸い込まれていった転移門を呆然と見つめていたウイルは、おずおずと歩み寄って来たアイナの声に我に返った。さすがの彼女も今回のことは迷惑をかけたと思ったのか、態度にいつもの不遜さはない。心の底から申し訳ないと思っているような沈んだ表情だった。

 

「……気にしないでよ。僕もああいうの苦手なんだ」

 

「私さ、あんまりこの世界で友達っていうか……気の置ける仲間っていないし。アスナは今日何か大事な用事があるって言ってたから、咄嗟に思いついたのがアンタくらいしかいなくて、それで……」

 

(あ、一応友達とは思ってくれてたんだ)

 

 少なくともウィル自身は彼女のことを信頼できる友人だと思っていたが、いつも素直ではない物言いしかできない彼女であるから、彼女の方がどう思っているかは結局今の今まで解らなかった。が、どうやら相応に近しい存在には感じていてくれたようだ。

 

「ありがとう、頼ってくれて」

 

「ば、バカ! たまたまアンタしかいなかっただけなんだから! アスナが暇だったらアスナに頼んだわよっ!」

 

「はは、そっか」

 

 いつも通り素直でない言葉で喚き立てるアイナにウィルは苦笑する。今の言葉が照れ隠しであることは、VRMMOの過剰な感情表現による彼女の顔の赤みが如実に物語っていた。

 

「そ、それにしてもアンタ、相変わらずの馬鹿力よね。見た目に似合わず」

 

「む……やめてよもう。一応気にしてることなんだから」

 

 バロッドの放ったソードスキルは、威力は間違いなく攻略組クラスだった。それを難なく受け止め、苦も無く弾き返して見せたウィルはやはり異質なのだろう。それでいて外見的には細見のか弱い少年にしか見えないのだから、余計に。

 当の本人は、その能力に相反する外見を気にしているようではあるが。

 

「STR値が高い……っていうだけじゃないわよね。装備にも特に変わったものはなさそうだし……」

 

「え、ええと……」

 

 何やら雲行きが怪しくなってきたのを感じ取って、詰め寄ってくるアイナに対しウィルは言葉を濁す。彼女の言うとおり、ウィルの力にはバロッドの言うイカサマではなく、ゲームシステムに則ったカラクリが存在する。ズルの類でない以上ウィルとしては明かすことに抵抗はないのだが、それでも彼を言い淀ませている理由としては他プレイヤーの視線という存在があった。ネットゲーマーは嫉妬深い、というのは某黒の剣士がよく言っていた言葉だが、そのカラクリを知らせたとして、プレイヤー達に注目を浴びるような結果にならないかをウィルは危惧していた。たった1つのレアアイテムを巡って、ギルド1つ消滅したという話も聞く。話すこと自体には抵抗はないが、そのような話を聞けば尻込みしてしまうのは当然のことだろう。

 どうしたものか――と彼女の澄んだ目を見つめながら黙り込んでいると、話す気がないと悟ったのか、アイナは不意に身体を離した。

 

「まあいいわ。さっき助けてもらったことだし、聞かないでおいてあげる」

 

「……それはどうも」

 

 仕方ないな、といった様子で苦笑するアイナに、内心で安堵しつつウィルは肩を竦めた。

 

「さて、じゃあそろそろ行こうか。時間的にもそろそろ着いてた方がよさそうだし」

 

「そうね。皆待たせても悪いし、行きましょうか」

 

 いろいろあったが、気づけばそれなりに時間が経っていたらしい。今から向かえばちょうどいい時間に集合場所に着けるだろう。そう考えた2人は、気を取り直して眼前の転移門へと飛び込んだ。

 




観衆の前でKobの護衛と決闘……原作と似た展開になってしまいましたが、それだけアイナの人気を強調したかったということでここは1つ。

ウィルはキリト程器用でもないし、プレイヤーで1番の反応速度なんてものもないので、隠し玉をさり気なく取り入れて戦っています。おかげでアイナに感づかれそうになってますが……。

次回はいよいよゴースト討伐作戦。お楽しみに。

では。以上神崎でした。
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