「ん……」
一夏が目を覚ますと鼻に薬品のにおいが入ってきた。
「……ここは保健室か……」
ふと隣を見てみると所々に包帯を巻いた楯無がぐっすりと眠っていた。
「お、お嬢様?」
「ん……あ、起きた一夏?」
「どうなさったんですかその傷!」
(やっぱり覚えてないか……)
「ううん、別に何もないよ」
楯無は笑顔でそう言うが一夏はそうはいかずにおろおろしていた。
「え、えっと誰にされたんですか!?」
「は~だから~」
「お、お嬢様?」
楯無は呆れながらも一夏を優しく抱きしめると頭を撫で始めた。
昔から楯無がこうすると一夏はひどく慌てていても落ち着いていた。
「大丈夫。貴方が心配するほどの傷じゃないわ」
「……はい」
その数日後、楯無は普通の授業に戻っていた。
一夏はまだ安静との事で保健室にいる。
一夏が暴走した事は秘密裏に処理されその場にいた全員には
かん口令が敷かれた。
「会長」
「どうかした?虚ちゃん」
「織斑さんがお会いになられたいとの事です」
「そう……分かったわ、通して頂戴」
「はい、こちらへどうぞ」
虚に通された真夏は少し怒っているように見えた。
「貴方が会長ですか?」
「ええ、そうよ。生徒会長更識楯無」
「そんな事はどうでもいいです。神門って奴に合わせて下さい」
「無理よ。まだ彼は安静中だから」
「会うだけなら良いはずです」
「なぜ、彼に会いたいの?」
楯無がそう言うと真夏は机に手を叩きつけて大声で怒り始めた。
「あいつの所為でシャルは怪我をしたんです! その謝罪をしてほしいんですよ!」
「それだけかしら?それだけなら別に退院後でもいいはずよ」
「それだけじゃありませんよ! 僕だって怪我を負わせられたんです!」
「彼が退院」
「またそれですか? じゃあ、いつ退院するんですか?」
「退院したら教えるわ。お姉さんも忙しいの」
そう言って、まだいいたらないような顔をしている真夏を半ば
無理やり生徒会室から追い出した。
「何なんだよ……急に暴れ出したと思ったら怪我させられるし。
会いに行ったら面会謝絶だとか言って追い出されるし」
真夏はブツブツ不満を漏らしながら歩いていると向こうから
姉であり担任でもある千冬が歩いてきた。
ちょうどいいと思い真夏は千冬に一夏について聞き始めた。
「ねえさ……織斑先生」
「なんだ織斑」
「あの神門っていう奴について聞きたいんだけどいいですか?」
真夏がそう言うと千冬は一瞬、苦虫をかみつぶしたような表情をした。
「悪いが今は私も忙しい。また今度」
「前もそう言われました。その今度はいつ来るんですか?」
「っ!」
真夏に痛いところを突かれた千冬は一瞬黙ったが
そのまま職員室に行こうとすると真夏が道をふさいだ。
「どこに行くの? 姉さん」
「今は先生だ。教師なのに職員室に行ってはならないのか?」
「じゃあ行く前に教えて。あいつは一体何なの? いきなり暴れ出すし。
あいつの処分についてはどうなってるの?」
「処分? 何故だ」
「だって僕に怪我をさせ、シャルルだって怪我をした。
それにアリーナだってあいつの所為で一か月は使用不可能になった」
真夏の言うとおり一夏が暴れた影響で事件のあったアリーナは
修繕するのに一か月かかるという事になったのでほとんどの実習が
潰れてしまい座学になっている。
表向きには定期点検となっているが
全学年の実習がつぶれたことにより生徒から不満の
声が多く上がってきたが、もうすぐ夏休みということもあり、
どうにかして定期点検だと言って押し付けた。
事の真相を知っているのはあの場にいた数人である。
「織斑、その件についてはかん口令が敷かれている。無暗に口に出すな」
「だとしてももう噂になってるよ。定期点検じゃなくて本当は」
「織斑、それ以上喋れば処分が下るぞ」
千冬は若干殺気を込めながら真夏を威嚇した。
「っ! 分かりました。でも、あいつの処分は」
「……お前が知る必要はない」
「姉さん!」
真夏はさらに千冬から聞こうとするも千冬は真夏の声
を無視して職員室に帰っていった。
「……罪は罪だ。姉さん、この世に悪はあってはならない。
悪は裁かれなければならない」
そして数日が経ち一夏も無事退院した頃、学園は平和になっていた。
……かに見えたが教師が気付かない水面下ではこんな噂が流れていた。
『アリーナの定期点検は嘘で何者かがアリーナを破壊した』
こんな噂が女子の中では流れ始めていた。
もちろんその噂は簪の耳にも入っており会長である
楯無の耳にも入って来ていた。
楯無は一夏以外の役員を呼んで会議を開いていた。
「は~、なんでこんな噂が流れてるのよ。
企業にも晩にしてくれって言ってあるのに」
「分かりません。一応生徒会から注意しておきますか?」
「いや、それは駄目よ。そんな事をすればむしろ噂が
さらに現実味を帯びてしまうわ」
「でしたらどうすれば」
「ん~そうね~。その噂が消えるのを待つしかないわね」
「分かりました」
しかし、一番厄介なのは噂ではなく真夏の方だった。
あれから真夏は毎日のように一夏に会わせろと言って生徒会室にやってくる。
もちろん目的は謝罪をさせるため。
そのたびにあれやこれやと言って真夏を帰らせるものの次第に限界が近づいていた。
「真夏」
「何 ?箒」
「今日も行くのか?」
「当たり前だよ。シャルと僕は怪我をさせられたんだ」
「でも、僕はもう良いよ。怪我と言っても命にかかわる事じゃないし」
あれからシャルは自分の性別を全員に明かしシャルロット・デュノアとして
IS学園に在籍していた。
シャルの怪我は軽い打撲でもう既に治っている。
「駄目だよ。罪は罪だ」
「罪とは言いましても暴走ですので致し方がない分もあるのでは?」
「駄目だよ。そんなんだから世界から犯罪が消えないんだ。
悪はこの世にあってはならないし裁かれなければならない」
そう言い残し真夏は再び生徒会室に向かった。
初めは四組に行っていたのだが埒が明かないので生徒会室に直接殴りこみに行くようになった。
「あの、鈴さん」
「何よ、セシリア」
「真夏さんは昔からああですの?」
セシリアに言われ、鈴は昔の記憶を遡り始めた。
「ん~そうね、小学校の時からあいつ、あんなんだったし」
「正義感が強いだけではないのか?」
「それにしては強すぎだよ。だって僕の打撲なんか
もう治ってるんだよ?」
各々、真夏の正義感に関しては疑念を抱いていた。
「でもまだ昔に比べたらマシよ。だって一回あいつ、忘れ物を
した奴を土下座さしたからね」
「そ、それはやり過ぎなのではないのか?」
箒も驚いたような顔をしていた。
「うん、でもそれは先生の見えないところでやられてたし
その子はやんちゃ坊主だったから誰も言わなかったからね」
それ以外にも色々と中学の時に犯しているのだがそれはまた別の話。
そしてその放課後にも真夏はやってきた。
「貴方もしつこいわね、だから私が彼に代って謝罪してるじゃない」
「意味がありません。本人にしてもらわないと」
真夏が来てかれこれ一週間になる。
「ねえ、ま~くん」
「何? のほほんさん」
「もう良いじゃないの~? ま~君の怪我だって軽い打撲なんでしょ~?」
「駄目だよ。人を傷つけることは許されないんだ」
「でもでも~顔に傷が残ったわけじゃないし~
失明したわけじゃないんでしょ~?」
もう既に本音と同じようにシャルロットも言っているのだが
真夏は断固として引かなかった。
「そうじゃないんだよ。罪は罪、この世に罪はあってはならない」
「あのね、真夏君。確かに貴方の言う罪はいけないわ。でも、あれは
致しかなかったの。分かるかしら? ISが暴走したの、彼自身では止められなかった」
「ISが暴走するなんてあり得ません」
「いい? この世に絶対なんて言うことはあり得ない。極端に
0に近づくとしても決して0にはならない」
「そんな事はない。この世は100と0で出来ている」
「それこそないわ。知ってる? 成功には偶然も必要なの、
あの暴走は偶然起きたものなのよ」
「僕が計算してあり得ないと言ったらあり得ないんだ!」
そうこうしているうちに晩の6時を告げるチャイムが鳴った。
「今日のところは帰ります。次回はあいつに合わせて下さい」
そういい真夏は帰っていった。
こんばんわっす。