クロとシロの話を聞かされた楯無は一人生徒会室で悩んでいた。
(これ以上…一夏にISを使わせたら一夏の記憶が私たちから消えていく…)
何年も前から愛してやまない一夏とようやく想いが繋がったにもかかわらず
ISを使えば使うほど記憶を失うなど楯無にとってそれは最悪だった。
(嫌! それは絶対に嫌!)
「絶対に一夏を忘れない」
楯無は椅子から立ち上がってある場所へと向かった。
「……それは本当か、更識」
「はい。クロと白から聞いた情報と最近の世界の
動きが一致しているので信憑性は大いにあります」
楯無は放課後の時間に職員室にいる千冬の元に向かい
誰も入れないように虚と本音に頼んで生徒会室でこれからの一夏の
事に関して話しあっていた。
千冬もあり得ないといった様子だった。
「……束に言ってなんとか」
「束でもそれは無理だって」
「真夏」
2人だけの生徒会室だった部屋にいつの間にか真夏の姿があった。
「兄さんが使っているメモリーは束によるとIS制作の途中で
発生した凄まじい数のバグ同士が偶然に重なり合って一つのISに
なっているらしいんだ。僕の考えはISが兄さんの脳に
何らかの悪影響を与えていると思う……でも、ぼくらの中から
消えていくなんてのは僕も初めて聞いた。僕や束でもこの先何が起こるかは不明。
そして……もしも兄さんに関する記憶が僕らから完全に消えた場合に
何が起こるのかも……分からないんだ」
真夏は悔しそうに拳を握り締めながら二人にそう説明した。
「更識……この事は一夏には」
「まだ言っていません……ですが、誕生日の日に」
一瞬、千冬は反論しようと頭をあげるが楯無の真剣な目を見て
何も言いだせなかった。
そしてその瞬間に一夏に必要なのは自分ではなくこいつだとも直感で感じた。
「分かった。更識。この件についてはお前に任せる。
授業などについては私がどうにかしておこう」
「はい」
悲しい誕生日が近づいて来ていた。
キャノンボールファスト。そんな行事がIS学園にはある。
要約すればISを用いてのレースと思ってくれればいい。
今日の実習はISを用いてのキャノンボールファストの練習だった。
「はいは~い! 注目! 今日はね! 今度行われるキャノンボールファストの練習だよ!」
キャノンボールファストの練習場である第4アリーナに
元気なアリシアの声が広がった。
「今回は特別に専用機持ちのレースと訓練機でのレースがあります。
とりあえず何人かで組を組んで訓練機で実践してみてください」
柊の指示により生徒達は仲の良い友人たちと組みを組んでいくが
一か所に集中的に集まっている箇所があった。
「神門君! 私たちと一緒にしよ!」
「申し訳ありません。実は私は体が弱くてレースには」
「え? そうなの?」
一夏がISを用いて連続で戦闘できる時間は3分ほど、それ以上の時間は
無理をすれば戦えるのだがあまりよくないという事で今回は欠場になった。
生徒達は残念そうに肩を落としてチームを組んでいく。
「では、組めた班から訓練機を取りに来て下さい」
その後、代表候補生である簪の手本を見た後に各々練習を始めた。
その夜、簪は姉である楯無の部屋に二人っきりでいた。
「そう。キャノンボールファストは欠場になったのね」
「うん。ISを使えば使うほど記憶が消えていくなんて」
簪は未だに一夏のみに起きていることがにわかに信じられなかった。
ISを使えば記憶が消える。普通に考えてそんなことはあり得ないのだが
一夏のISはバグの塊。何が起きてもおかしくないのである。
「これからは襲撃されても私達の力で相手を押し返すわよ」
「うん。一夏にはこの事はいつ言うの?」
「………一夏の誕生日の日に私が」
楯無の表情はひどく悲しそうなものだった。
そして何日か経ちキャノンボールファスト当日になった。
キャノンボールファストが行われる会場は凄まじいほどの観客で埋め尽くされていた。
「あの」
「どうかした? 一夏さん」
「何故、私もメイド服なんでしょうか?」
一夏は欠場なので楯無から観客の誘導などを任されていたのだが
控室で着替えようと渡された袋の中身を見ると何故かメイド服しかなかった。
「だって~一夏のメイド服も見たかったもん!」
「楯無様、俺に拒否権は」
「Nothing」
楯無の発音がめちゃくちゃ上手い英語に一夏は大きなため息をこぼした。
「あの~すいませーん!」
「あ、ただいま!」
一夏は観客に呼ばれてすぐさま向かっていった。
「お嬢様。本当は」
「ISの所為で一夏の記憶が私たちから消えていくなら
消しきれないほどの思い出を作っていくわ」
楯無は扇子を広げながらどこかへと歩いていった。
「楽しみだね」
真夏達レースを行う者たちはすでにフィールドで待機していた。
「悪いが一位は私がもらうぞ、真夏」
「そういう訳にはいきませんわ、箒さん」
他の代表候補生たちもいつでもスタートできる体制に入っていると
放送が聞こえてきた。
『では、これよりキャノンボールファストを始めます。
専用機持ちの皆さんはスタート位置へ行ってください』
放送に従い専用機持ちたちはスタートラインに横一列に並んだ。
『では、始めます。3・2・1、GO!』
放送の合図とともに専用機持ちたちが一気にスタートして行き
会場は大いに盛り上がりを見せ始めた。
そしてレースが始まり専用機持ちたちが2週目に差しかかった瞬間
空から青色の光が何本もフィールドに落ちてきた。
「誰だ!」
真夏が叫びながら上空を見上げるとそこには青色のISを纏った少女がいた。
「あの機体は!」
セシリアは侵入者を見るや否や、顔を強張らせて何も考えずに
相手に突撃していった。
「あ! セシリア!」
「真夏さんは他の方の誘導を! 私は敵を落とします!」
真夏の制止も聞かずにセシリアは無謀にも相手に一人で特攻していった。
「落ち着いて避難してください! 侵入者は専用機持ちたちが撃破します!」
一夏は必死に逃げまどう観客達に訴えるが混乱しパニックに陥った
観客達は我さきにと出口へと走っていく。
「また、あいつらか。クロ!」
「おうよ!」
「ねえ、君が神門君?」
「ッ!」
「あ~何もしないから。ほらね?」
後ろから声が聞こえてきて慌てて一夏は警戒心むき出しで
振りかえるが仮面をつけた女性は手を上げて武器も何も持っていなかった。
「貴方は誰ですか? この混乱の中で逃げないとなると」
「正解よ☆私はファントムタスクの幹部。よろしくね」
「何故、襲撃したんだ」
一夏は女性に問うが女性はヘラヘラしたまま一夏に返す。
「別に~☆ただ、貴方に熱烈なファンがいてね。その子の為……かしら」
「熱烈なファン? 普通のファンなら良いがヤンデレはお断りだ」
「大丈夫☆一途な子だから。バイビ~」
「クッ!」
仮面をつけた女性が何か地面に転がしたと思った途端
一夏を眩しい光が襲い視界を奪った。
「セシリア! 落ち着きなって!」
真夏はセシリアを必死に止めようと、説得を何度も試みるがセシリアは
真夏の言うことを聞かず、ただ強張らせた表情をして、侵入者を―――――セシリアと
同じ色をしたISを見に纏っている女性を睨んでいた。
「どうした? 早くかかってこい。ザコ共」
「なんですって!?」
「あぁもう! ちょっとごめんね!」
「きゃぁ!」
相手の挑発に乗ったセシリアは何も考えずに相手に銃口を向け、
引き金を引こうとした。
だが、相手がいるのはバリアの張られていない普通の観客席の前、
さらに言えばまだ避難は完了しきっていない。
周りが見えていないセシリアを真夏は少々、荒っぽいやり方ではあるが
彼女の顔を鷲掴みにして、瞬時加速を使った状態で地面に向かって投げつけた。
「ちっ! 余計なことを」
「悪いけどセシリアは僕の友人なんだ。友人を目の前では傷つけさしたりはしない」
「……その声、その顔……全てを見ているだけで吐き気がする。
所詮はあの女の家族のままか」
「何を」
真夏が侵入者に尋ねようとしたとき、相手は何もしないまま真夏に背を向け、
全速力の瞬時加速を使用して、あっという間に外へと出ていってしまった。
「……いったい、何をしに来たんだ」
こんばんわ。大学も楽しいです!