その頃一夏は模擬戦の準備をしていた。
準備と言ってもほとんどすることはないのだが。
「それで。調子はどう?」
「テンションフォルテッシモです!」
「そう、まあ頑張ってきなさい」
楯無は若干呆れながらも一夏に激励を飛ばし椅子に座った。
「という事で神門君の専用機は先程届きましたので
調整は実践中にお願いいたします」
「分かりました秋瀬先生」
「美晴で良いです。言いにくいでしょう」
「まあ神門君頑張ってね~」
そう言うアリシアはビット内にゲーム機一式を持ち込んで
鬼の形相でゲームに打ち込んでいた。
「あ、それよりもこの機体にはまだ名前はないらしいですが」
「あ、そうなんですか?」
一夏はそう言いながら機体に触れると頭の中に
鈍い鈍痛とともに画質が粗い画像の様なものが浮かんできた。
「うぅ!」
「大丈夫? 一夏」
「え、ええ。決めました、名前はメモリー」
「メモリー……記憶」
「メモリーね、分かったわ」
秋瀬は特に気にすることもなく機体名をメモリーと打ち込んだが
楯無は一夏の記憶喪失と一瞬、繋がったが偶然だと思い思考を取り払った。
一夏はメモリーに乗り込みフィールドへと出ていった。
「お待たせしてすみません、お嬢様」
「ううん。そんなに待ってないよ。でも一夏に
しては珍しく赤色とか白色とか入ってるね」
簪の言うとおり一夏は普段から黒い服を好むのだが
メモリーの機体色は白と赤を基調にしたカラーで簪からしたら
大変珍しい光景になっていた。
「じゃあ行くよ!」
「はい!」
簪はまずショットガンをコールすると一夏に牽制を込めて
何発か撃ち込むが一夏は何故か当たってから回避行動をした。
「……おかしい」
「どうかしたのかな~? 美晴ん……ありゃりゃ?」
美晴の驚きの声を上げたのを気になったアリシアは
ゲームをいったん止め、画面を見に行くとそこには
普通ならばあり得ない数値が出されていた。
「神門君の回避行動についていけていない?」
「だね~。そんなことはあり得ないと思うんだけどな~」
楯無はその話を聞いていてそんなに驚きもせずに
モニターを見ていた。
(まあこうなるとは予想してたけど……まさか当たるとはね~)
(う、動きにくいですね)
一夏は簪が撃ってくる弾丸をどうにかして避けながら
考えていたがどうも自分が回避行動をしてからメモリーの
方が回避行動を起こすようでいつもの感覚で動いていた
一夏は避けれずに弾丸を何発か貰っていた。
(それよりも武装は)
一夏が武装一覧を表示させると一本の刀と二丁の銃が収められていた。
(遠近両タイプ……面白い)
一夏は右手にブレードをコールし握りしめ
左手には一丁の銃をコールした。
「剣と銃……一夏らしいかな」
簪はそうぼそっと呟くと撃ち切ったショットガンをクローズし
自分も近接用ブレードの夢現をコールした。
「はぁぁぁ!」
「ぬぅ!」
簪は一夏に斬りかかるが一夏はそれをブレードで
防ぐと銃を至近距離で当てようとするが簪はそれを予測していたのか
すぐさま体を捻り弾丸が放たれる前にかわすとそのまま裏拳の要領で
夢現を振るいメモリーの装甲を切り裂いた。
「くぅ!」
「きゃ!」
一夏は一度距離を取るためにスラスターを簪に向けて
噴射させその風圧で簪を遠くに飛ばし自分も下がった。
「流石は簪お嬢様です!」
模擬戦の最中にもかかわらず一夏は簪の事をべた褒めしていた。
「嬉しいけど今は試合中!」
簪は背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲の春雷を
発動させ一夏に向けて連射しだした。
(今度こそ!)
そう思い一夏は回避行動をとるが逆に今度は一切反応しなかった。
(う、動きが!)
そう思った瞬間に春雷から放たれたものが
一夏を包み込み大爆発を起こした。
「よし!」
簪は直撃したのを確認するとうれしそうに
ガッツポーズをとるが突然、危険を告げるコンソールが
目の前に大量に現れた。
「え? な、何これ」
すると目の前の爆風からドス黒いエネルギーが噴き出し始めた。
「な、何だあれは!」
別のビットで観戦していた箒は突然現れ始めた
ドス黒いエネルギーに驚愕していた。
それはその場にいた全員も同じであった。
「黒いエネルギー……有り得ない、聞いたことがない」
「何が起きているんだ」
「み、見てください織斑先生!」
麻耶が突然千冬を呼びその画面を見せるとそれは
別角度からのメモリーが映されていたのだが徐々にそのカラーが
漆黒の黒に染められている映像だった。
「これは……」
「な、何が起きてるの」
簪は目の前で起きている事が理解できず恐怖と焦りを感じていた。
「……これでようやくメモリーが私専用となった」
黒い何かが晴れるとそこには先程までの赤と白を基調にした
メモリーはおらず目の前にいたのは黒に染まったメモリーがいた。
「第一次移行……」
簪はそう呟きすぐさまもう一度春雷を放とうとしたがそれよりも
早く一夏が行動を開始し黒に染まった刀で背中の二門の春雷を破壊してしまった。
「は、速い!」
『ファーストリミット解除』
頭の中にそんな音声が響いてきた。
「そっか……行きますよ!」
(さ、さっきよりも動きが速くなってる!)
簪は一夏のさらに速くなった動きについていけず何度も
装甲を黒い刀で切られ火花を散らした。
「次は!」
一夏は刀をなおすと二丁の銃をコールし簪に向かって
同時に打ち出したがそれはさっきとは違い実弾ではなく
BT兵器へと変わっていた。
「きゃ!」
簪は少し掠りながらも避けるが一夏は次々と連射し始めた。
(さっきから見てるとあの銃、右の方は威力はあるけど一定時間
間隔を置かないと撃てなくてもう片っぽは威力は低いけど
連射性能で相手を追い詰めていくタイプ…だったら!)
簪は一夏が右手にある銃を撃ち終わった瞬間に瞬時加速を用いて
近づき夢現で斬りかかった。
「隙あり!」
「……」
一夏はそのまま撃ち終わった筈の右手の銃の引き金を引き簪に
直撃させエネルギーを大幅に削った。
「引っかかりましたね簪お嬢様」
「もしかして騙した?」
「はい! 戦いに嘘はつきものです」
一夏は不敵な笑みを浮かべ簪にそう言った。
「ふふ、そうだね。じゃあ、もうこの試合を終わる!」
簪は打鉄弐式の最大武装である山嵐を発動させた。
「では、私もとっておきを!」
一夏がそう言うと体中から黒いエネルギーが大量に噴出しはじめ
銃口にそのエネルギーが集められていった。
「それは……」
「これは単一仕様能力(ワンオフアビリティー)、自由な時間(フリータイム)。3分間のみですが
エネルギーを使い放題になる能力」
「ある意味チートだね」
「でもデメリットはその分でかい。終わりです!」
一夏が凄まじい連射で数え切れないほどのBTを打ち出すと同時に
簪も6機×8門のミサイルポッドから48発の独立稼動型誘導ミサイルを
撃ちだすと爆風が広がった。
こんばんわ