穏やかな物腰と、エナツキ女子の中で一番背が高く、ちょっとふっくらしてる体型。
そして、天然発言連発と撮れ高のある人材として、
下町がMCを務めるバラエティのみならず、他のバラエティでもお茶の間に露出している。
その際も「エナツキの杏子」と言う肩書は忘れない。
とはいえ、テレビ業界からすれば、杏子はまだまだ数多いる若手タレントの一人の為、楽屋は誰かと相部屋になる。
準レギュラーの一人にKYOKOというグラビアアイドルがいた。
年齢も18と杏子と年が近く、一緒の出演の時は、いつも同部屋を宛てがわれている。
因みに、エナツキでの出演では、専用の楽屋が宛てがわれている。
テレビ局側としても、「
KYOKOは色っぽい系アイドルで、出るとこは出て締まるところは締まってるモデル体型の子で、主に青年誌のグラビアに登場して、青少年の視線を釘付けにしている。
最初は、ぎこちなかったこの二人も、次第に打ち解けていき、携帯の連絡先も交換する仲になっている。
「最近どう?あたしは、また水着の撮影だったよ。最近また際どい撮影で、カメラマンのオッサンがいやらしい目つきで見てて、ちょっと嫌だったんだよね」
「そうなんだ……私のところも車上荒らしがあって、色々盗まれてすごい頭に来たんだよ」
「知ってる知ってる。温厚な恵奈ちゃんがキレた、ってツイッターで話題になってたし」
KYOKOもエナツキ視聴者の一人で、エナツキ事情はよく知っている。
こんこん
ノック音がしてKYOKOのマネジャーが入ってくる。
「KYOKOちゃん、ちょっと別室で緊急ミーティングがあるんだけど……」
男性マネージャーで、顔は少し浮かない。
「なんだろ?」
首を傾げながら出ていくのと入れ違いに、エナツキマネージャーの菅野仁美さんが入ってくる。
先日
その際に
「杏子さん、遅くなりました。結衣さんから、本日の収録が終わったら皆で夕飯にしましょう、とのことです」
エナツキは週末は大抵名古屋にいない。エナツキ名義のゲスト番組があったり、
各地のアスレチックや、パルクール公園等いろんな屋外施設で
エナツキは、運動が得意なのも特徴なのだ。
一番運動神経が良いのはもちろん恵奈で、SASUKEみたいなアスレチックもクリアしている。
一番運動が苦手なのは杏子で、運動神経は悪くないのだが、増加した体重の影響でアスレチックだと途端に
今週は、お台場に新しく完成したアスレチックのプレオープンに、ゲストとして呼ばれているのだ。
「はーい」
「そういえば、聞きました?KYOKOさんの事務所の黒い噂」
菅野さんが周囲を気にしながら杏子に近づく。
「?」
首を傾げる杏子に、菅野さんはちょっと声を低くして、小さめの声で続ける。
「あの事務所、自社のタレントをアダルトビデオに出演させてるとか……」
「まさかぁ。あ、でも、KYOKOちゃんのマネージャー、浮かない顔をしてた……」
「そろそろリハ入りまーす! あれ、KYOKOさんは?」
スタッフが声をかけた時、はっとして顔を見合わせた。
「ちょっとごめんなさい!菅野さん!KYOKOちゃん探そう!」
そう言うと、スタッフの横を擦り抜けて走っていく杏子。
菅野さんはスタッフに手短に事情を説明すると、携帯を取り出した。
「もしもし、浜本さんですか?私MUMUの菅野と申します……」
ちょうど同じ頃、テレビ局の入り口に恵奈と暁がやって来ていた。
杏子は知らなかったが、この日下町がテレビの撮影で来ている為、挨拶に来ていたのだ。
あの下町なうの本音ではしご酒(茶)の企画以来、エナツキを気に入って、毎年大晦日に恒例でやっている、笑ってはいけないシリーズにも呼んだりと、懇意にしてもらっているので、
東京に来る度に挨拶に来ていたのだ。
そんな二人の目に止まったのは、真っ青な顔をして茫然自失でマネージャーに手を引かれて出て行こうとするKYOKOとマネージャー、そしてサングラスの男だった。
「あれ、KYOKOさん?今収録だよね?」
「その筈よ。杏子と同じ番組だもの」
その時、二人は直感で異常事態が起こっている、と気づいた。
「ちょっとKYOKOさん、収録は!?」
その時、
「恵奈ちゃん助けて!AVに出されちゃう!!」
「「はいぃ!?」」
「チッ、余計なことを言いやがって。どっちにしろ、収録ブッチでこいつは干されること確定だ。AVに出るしかねぇんだよ!」
「……KYOKOちゃん、うちの事務所は小さいから言いなりになるしかないんだよ。収入も今までより良くなるし……」
男性マネージャーも諭すようにKYOKOに言うも、KYOKOはイヤイヤと首を振る。
その状況に、恵奈はブチッと
「嫌がってるじゃないですか!」
そうサングラスの男に怒鳴りながら詰め寄った。
「何だ?ああ、MeTuberのエナツキか。でかい事務所にいるからって良い気になってんじゃねえぞ」
「いい気になってないです。それよりKYOKOさんは番組の収録があるんですよ!?」
「そんなのブッチだ。こっちは、一気に5本撮りなんだよ」
いきなりアダルトビデオを、しかも5本撮りだなんて正気の沙汰じゃない。ある意味、片桐元司令官より酷い。暁はぐっと拳を握り締めた。
ぶん殴ってでも止めなくては。そう思って一歩前にでた暁を、恵奈が止める。
「だめ、手を出しちゃ!」
そんなやり取りの中、
「見つけた!KYOKOちゃん!行こう!」
杏子が出てきて、有無を言わさず男性マネージャーの手を振り払い、連れて行く。
「待ちやがれ!」
サングラスの男と、本性を顕した男性マネージャーが追いかけるも、その視線の先には……
「なんや、お前等?」
下町の浜本と菅野さんが入り口に立っていた。
「あ、いや……その……」
「ウチは、この事務所との契約通りにAV撮影をしに迎えに来ただけだ」
しどろもどろになる男性マネージャーに、開き直るサングラスの男。
「ワレ、
浜本はブチ切れて、凄みのある顔で男性マネージャーを睨み付ける。
もはや蛇に睨まれた蛙状態である。
そんな浜本に、杏子は軽く頭を下げるとKYOKOと共に、テレビ局の中に入って行く。
「恵奈と暁も行ったりぃや」
「ここからは大人のお話です」
そう浜本と菅野さんに言われ、恵奈と暁も二人を追って入って行く。
まだ青い顔のKYOKOを落ち着かせる時間を取る為、恵奈達三人はテレビ局のスタッフと共に、収録の時間が遅れることを詫びる為、共演者に頭を下げて回った。
事情を知った、浜本の相方である松田が二人の番組の共演者である、同じ事務所の後輩に連絡してくれたのもあって、皆快諾してくれた。
番組は、なんとか回復したKYOKOに杏子、そして飛び入り参加したエナツキの二人が加わり、和気藹々と撮影が進行していったのだった。
偶々、今回のテーマが体力測定回で、恵奈の身体能力の高さに共演者達も舌を巻いていた。
反面、最近体重が増えた杏子はポンコツ連発で、共演者達も腹を抱えて笑っていた。
KYOKOもその二人に救われて、楽しく収録を終えることが出来た。
撮影後。
「でも、これで事務所も馘だよね」
そうぼやくKYOKOに、菅野さんがニコリと笑顔を浮かべた。
「大丈夫です。
翌日、KYOKOは予想通り事務所を解雇された。
そのまま、MUMUに移籍という形になった。
MUMU初の非MeTuberタレントの加入だった。
浜本が元マネージャーである所属事務所社長に話を通し、
超大手芸能事務所である、吉木クリエイティブエージェンシーがマネジメントサポートを行うと発表した為、
首の皮一枚繋がり、KYOKOは芸能活動を続行することが出来た。
更にKYOKOもMeTubeチャンネルを開設すると、頻繁にエナツキとコラボを行うようになっていった。
そして、KYOKOのいた事務所は、程なく倒産した。
事務所にとっての最大の不幸は、大御所芸能人の下町を敵に回したことと、この問題が政治家・矢部晋太郎の耳に入ったことだった。
この問題を政界の元大物でもある彼が、大淀に伝え、彼女が国会で取り上げたのだ。
大淀総理大臣の「AVの出演強要は決して許されるものではない」との発言で、
事務所の信頼度は失墜。所属タレントは逃げるようによその事務所に移籍して、
AV制作会社への違約金等で立ち行かなくなったのだ。
更に、この問題はエナツキニュースでも取り上げられた。
エナツキ全員とKYOKO、更にマネージャーの菅野さんが、この問題を女性として真剣に討論し合ったのだ。
放送も都内のスタジオを借りた生放送で、大淀総理大臣が短時間ながらも出演したり、各著名人からのツイッターでのリプライが取り上げられたり、
エナツキ史上最大の生放送視聴者数を叩き出して、
このAV出演強要問題という、社会の闇にメスが入れられる契機となった。
その後、国会で法整備が成され、出演女優が何時でも販売拒否できる法律が全会一致で可決された。
それでも、まだまだ出演強要問題に苦しむ女性がいなくなった訳ではないが、
また一歩前進したのだった。
その後、KYOKOは女優に転身し、濡れ場シーンにも挑む等、度胸のある女優になっていくのだが、まだもう少し先の話である。
そして、サプライズでそのドラマにゲスト出演することになったエナツキは、必死に台本を覚えることになるのだが、それももう少し先の話である。
KYOKOさんは、下町や矢部という後ろ盾がいるエナツキだから救えたということですね。