別の案を出さざるを得なくなりました。
まさか、プロットにあった話が実際に発生するとは思わなかったもので…
そっちのタイトルは
「芸能界の闇~杏子、友人を助けに行く~」
でした
エナツキは、登録者数300万人を超える有名MeTuberである。
有名だからこそ、恵奈達は
学校や通学途中に声を掛けられたりすることは、まあよくある。
問題はその
出待ちや、追跡行為はまだ軽い方、
「おい!恵奈」等威圧的系なもの、家のドアホンを鳴らして訪れる者。
家の周辺でエナツキのテーマを流す輩等、少し増えてきていた。
恵奈達学生組は徒歩で駅まで行っていたが、
夕張や結衣が毎日車を出さざるを得なくなっていた。
そして、とうとう事件が発生した。
そんなある日、エナツキが緊急で動画をアップロードした。
―――――――
いつものオープニングムービーから始まって、
そのまま音楽が途絶え、無音の状態でリビングのシーンに変わる。
動画の彼女等は、少し神妙な面持ちで、最近杏子が着ている変なTシャツには、激おこ!と書かれている。
「はいどうも、恵奈です」
「暁よ」
「美雪だよ!」
「杏子です」
「真由です」
「バリです」
「シンタローおじさんだよ」
「雷よ」
「響だよ」
「結衣ねーさんだよ」
『皆合わせてエナツキです』
「はい、不可思議ですよ」
「はい、恵奈の母親の奈緒よ」
「……という訳でですね。皆さんに悲しいお知らせがあります。エナツキで使っているヴェルファイアが車上荒らしに遭いました。その時の映像がこちらです」
車上荒らし、と赤字で書かれたロゴと共に恵奈がそう切り出した。
すぐに映像が変わって、恵奈がスマホで撮影している映像に切り替わる。
「ええ、盗まれたのはこの子達の鞄や体操着や作業着で……」
そう、警察とやり取りしている大人代表の結衣が真面目な顔で警察の人に受け答えをしている映像が流れている。
そしてカメラを横に向けると後部座席の窓ガラスが割れており、内部にもガラスが飛び散っている。
そして再び、皆のいるリビングのシーンに戻る。
「エナツキの保護者として一言。一部の心ない視聴者の人の行為がこれ以上続くようなら、エナツキの活動自体を辞めさせることも考えなければならないわ」
そう、厳しい口調で奈緒が言うと、恵奈が続ける。
「動画にも影響が出てしまいますし、何より近所迷惑です。今までは、それでも応援してくれる人達だと思っていましたが、私達も我慢の限界です。有名税だからいいだろう、と今までは何もしてきませんでしたが、目に余る行為はすべて通報させてもらいます」
今までにない、断固とした表情で宣言する恵奈。
小学校の時にも、そういうことはあり、何度かチャンネル廃止の危機を乗り越えてきた恵奈の、全ての怒りが込められていたのだった。
「取り敢えず、結衣にケンカを売るなら高値で買って……」
車の所有者でもある結衣が言おうとするのを、美雪達が宥めながら恵奈が言葉を続ける。
「結衣さんの言う通り、常識を守れない人にはそういう対処をさせてもらいます。それと!」
ドンッと、恵奈がテーブルを叩いて前のめりでカメラを睨み付けながらスマホを取り出す。
映像は、フリマアプリの画面が恵奈達の私物を売っている画面に切り替わる。
品名は【エナツキ】名古屋高専作業着一式【恵奈】等や、酷いものでは体操着や下着や私物まで、全部高値で出品されていた。
再び、恵奈の怒りの表情が映し出されて、
「こういうことは絶対に許せません。こっちで通報手続きを取ってるので絶対に買わないでください。警察にも通報して逮捕してもらう予定です!」
その恵奈を、暁がまあまあ、と宥めて座らせる。
晋太郎が静かに続ける。
「車にはより強化した防犯装置を取り付けて、全周囲から接近した人を録画する設備や、それをメンバーが確認できるような装置、警備会社とも契約して家の周辺のパトロール。地元警察の方にもご協力いただいて周辺の警戒をしてもらっているから、イベントやミーティング以外でのエナツキへの
その言葉に全員が頷いた。
「皆さんのご協力とご理解をお願いします」
そう恵奈が締めて、そのままエンディングテーマが流れて動画が終わる。
―――――――
その動画が公開されてから、
ファン達は思いもよらぬ事件に驚き、憤っていた。
コメント欄には、
「こっちでもフリマアプリに通報しました!」
等と、犯人に対する怒りのメッセージが流れていた。
Twitter等に、各メンバーへの心配のリプライや激励のメッセージ等が続々と寄せられている。
「いい人一杯いるんだけどなぁ……だからこそ悪い人が目立つんだよね」
それを見ながらリビングで大きな溜め息を吐く恵奈。
「そうね。有名税と言っても、踏み入れちゃいけない事はあるわね」
それに答える暁。
「私と杏子は下着まで盗まれたからマジ気持ち悪い」
「うん、頭にくる」
それに美雪と杏子が続く。
それを見ながら、奈緒が全員を見回した。
「これを機に辞める、という選択肢もあるし、どうする?」
「弊社も、こういう事件があって続けてください、とは言うことは出来ません」
と、専属の女性マネージャーもそれに続く。
恵奈は、暫し考えると、
「ううん、辞めるなんて選択肢は最初からなかったよ」
その言葉を聞いた奈緒は、強くなったな、と自身の娘の成長を噛み締めながら、笑みを浮かべる
「OKなら、乗り越えて頑張りなさい」
そう、サムズ・アップしてみせる。
マネージャーも、
「こちらでも、警備の手配をお願いしてあります。当分の間は外ロケはやめましょうか?」
と告げて、本社にもメール連絡してくれる。
「ところで、結衣さんは?」
響がいつの間にかいなくなった結衣について訊くと、丁度お手洗いから戻ってきた真由が、
「出かけられましたよ」
と答えると、全員が顔を見合わせた。
「あっ………」
翌日、全裸で縛られた男達が、名古屋港の
全員、両手両足の骨を折る重傷で、そのまま
「皆ー、盗まれたもの、取り返してもらってきたよ―」
と、笑顔でダンボール箱を持って帰宅した結衣の姿に、自業自得ながら犯人に心の中でちょっと憐れむエナツキの面々だった。
「もしもし、ありがとね、結有ちゃん」
その夜、結衣は自室で電話をかけていた。
『まあ、妹分のピンチに駆けつけない訳には行かなかったですけど、まさか特殊部隊の演習で、車上荒らしの拠点の制圧をするとは思わなかったですよ』
そう。結衣は、齊藤警視長ルートで警察を動かし、更に報復とばかりに、軍ルートで
各務原大佐が、艦娘基本法や国防軍基本法にまだ残っている、警察力補佐の為の出動命令を出したのだ。
制圧は速やかに終わり、犯人はエナツキファンである結有達にボコボコにされていた。
警察はその暴力沙汰は、
相変わらず結衣に喧嘩を売るのは恐ろしい……
そして裕二は、形だけの始末書を提出する羽目になった。
ニュース等で、謎の正義のヒーローが窃盗犯御用、等と警察発表そのままで流されると、
エナツキに手を出そうとする蛮勇な連中は少なくなった。
まだ懲りない連中には、断固とした態度を取って注意喚起をする。
ファンを大事にするからこそ、
そして、恵奈達はファンイベントを更に組み込んで多忙な日々を送るだろう。
そんな多忙な日々なので、最近は真由ちゃんが会社をパートにして編集の面々に加わった。
今ではメインは恵奈と夕張、サブは暁と真由、サードは晋太郎、フォースは杏子が編集を担当するようになっていった。
こうして、エナツキ史上最大規模の事件は幕を閉じた。
現実のYouTuberさんの家にも行かないでください。