輪廻転生という仏教用語がある。これは生命というのはあらゆる形で繰り返されるという教えの一つである。いい例が六道輪廻という人間として生まれ変わったり、獣、地獄の住人...etcと生命の繰り返しである。わたくしの死生観で語るのであれば、基本人間は地獄に堕ちるだろう。どれだけ修業を積もうが信心を積もうが人間は所詮俗物である、善行しか行わない人間など存在しない。地獄というのは悪業を犯したものがその罪を償う場である。十六の区分けの中にまた無限の数がある地獄の管理人と言えば、閻魔大王である。鬼を統べるその怖い形相から想像しづらいが、閻魔大王も仏を目指す高僧と同じ階級だったりする。閻魔大王は仏のように世の平和を願い、いい方は悪いが汚れ役(閻魔大王はそう感じていないかもしれないが)を引き受けているのだろう。そう感じたのは、今わたくしがその本人を前にしているからである。
「わたくしごときにお手間をかけさせて申し訳ありません。」
「そう自分を卑下するものではない。これも私に託された使命だ。しかし...お前はなぜ自ら命を落とした...その罪の重みを知らないわけではあるまい」
「...わたくしは弱い人間です。そしてまた神や仏を信じない背教者です。幾ら生き永らえたところであの世...ここではこの世ですか。その運命は変えられないと感じたからでしょうか。もう地獄へ往く覚悟はできております...」
「裁量は私にあるが...未だわからぬところがある。お前はこれまで見てきた無宗教(ハイキョウシャ)や狂乱者、自殺願望のクズとは明らかに違う。少しお前のあの世でのことを教えてはくれまいか?」
「はい。あれは私が中学を卒業して間もない頃でした..」
**********
高校への進学も決まり、わたくしは両親に連れられ卒業旅行へと行っていました。しかし、その道中ダンプカーと正面衝突をして前に乗っていた両親は即死。これがわたくしの人生の中で最後の旅行となりました。運転手は居眠り運転をしていたそうです。わたくしは悲しみと憎しみが入り混じりました。裁判に葬儀のことなど中学を出たてのわたくしには荷が重く、また心が壊れかけていました。
葬儀も無事終え、私は両親の遺影の前で呆然としていると一人の少女が歩み寄ってきました。その少女は左眼に眼帯をしており、とても不思議な雰囲気を醸し出していました。
「この度は..ご愁傷様です。」
「...」
「お一人でたいへんでしたね」
「...」
わたくしは声を出すこともできませんでした。色々なことが一気に降りかかりもう何も感じたくなかったのです。本当に強い人はここでなにくそ、と運命にあらがって生きるものなのでしょうが、わたくしにはそんなワザはできませんでした。しかし、その少女はこんな素気ないわたくしを見て顔色ひとつ変えず、何を思ったか私を後ろから抱きしめてきました。
「大丈夫...大丈夫ですよ。私がついてますから..何も心配することはないんですよ..」
「.....っ..う、うう..」
裁判でも、葬儀でも泣きませんでした。男は泣いてはいけないというものというのもそうですが、心が枯れて出す涙がなかったのが本音です。しかし、私はこの親のような安心できるやさしさが欲しかったのでしょう。彼女に抱かれ、そして甘い言葉をかけられ心が潤っていくのを感じました。
「これからどこのお家でお世話になるのですか..?」
「ま、まだそんなことは考えてなくて..色々なことがありすぎてそこまで頭がいかなくて..」
「それじゃあ、私の家へ来ませんか?」
「え?」
「私もあなたと同じ天涯孤独の身で...ですが、祖父が残した資産が腐るほどあり、屋敷はこのメクラには広いですし..もしまだお考えなさっていないのであれば..不自由はさせません。どうか来てくださりませんか?」
普通は私が頼み込むものなのだが、少女から住まうことを懇願された。わたくしからこれを拒否するするなど恐れ多く、わたくしはすぐに「それじゃあお願いしていいかな」と答えました。
「紹介がまだでしたね..私は姫野愛歌と申します。えっと、網干さんのお名前は..」
「俺は..啓介。網干啓介よろしく...愛歌..呼び捨てでよかったかな?」
「はい。私も啓介って呼んでいいですか..?」
「あぁ。愛歌」
「啓介」
あはは、うふふと笑いあった。わたくしには一筋の光が差したように感じました。そして愛歌という天使が現れ、わたくしの新たな生活が明るいものになると思っておりました。しかし、この少女の眼帯の奥ではわたくしの期待とは別に黒いなにかを宿していたのかもしれません。
わたくしはその後姫野家で預かっていただくことになりました。とはいえ、彼女も両親はおらず二人っきりでの生活です。二人でも姫野家の屋敷は広いものでした。元々姫野家は祖父がやり手の起業家で一代にして関西で随一の財閥一家になったようです。屋敷はたくさんあったようですが、売り払い今はこの三ノ宮にある屋敷だけだそうです。嫌な話ですが、「資産はいくらあるの?」とおそるおそる聞いてみると「この2人で贅沢をしても冥土に持っていくほどには..」とこの少女には多すぎるほど潤沢な資産があるようです。
しかしながら愛歌の生活はひどく質素なものでした。家財や装飾といったものはなく、愛歌の服装も葬儀の時の喪服と変わらない黒を基調としたものを好んできておりました。メイドや執事、世話人の類もおらず家のことはこれまで愛歌がすべてしていたようでした。しかし、片目が見えないため針は苦手なようでそれはわたくしがやることになりました。他にも掃除や料理も分担するよ、と言ったのですが頑なに断りました。外に出ることも彼女はとても嫌がっていたのでわたくしもさして外に出る用事もなく、散歩もこの屋敷や庭を歩けば事足りるくらいでしたので彼女の言いつけを守っていました。あとは本を読んだり、愛歌と話したり、寝るといったなんとも自堕落な生活をおくっていました。最初は眼帯もあってかなんだかミステリアスで近寄りがたいイメージがあったのですが、次第にそんな印象も消し飛んでいました。
桜も咲き始め、日も暖かくなったころ彼女の様子が一変しました。
「啓介は固焼きがよかったでしたよね?」
「うん。ドロッとしたのが苦手で。」
「いいんですよ♪遠慮なさらないでください。だって私たちもう家族...じゃないですか」
愛歌に家族と言われてなんだかうれしかった。二人とも「ひとり」で、半月しかたっていませんでしたがそれぞれの好みや生活習慣が少しずつ分かってきました。今の目玉焼きについてもそうでした。わたくしの家は固焼きが当たり前でしたが、姫野家ではサニーサイドアップだったり、食べ方もわたくしは白身にだけソースをかけて黄身に塩をかけて食べるのですが、愛歌は何もかけずに黄身をつぶして箸で白身を薬包紙を作るように挟み、舌を伸ばして黄身を流し込んで食べていました。愛歌の食べ方がとても艶めかしかったのを今でも覚えています。
「愛歌。愛歌はどこの高校に行くんだい?」
「ごめんなさい。高校に行くつもりはないんです..私が行けるようなところもございませんし」
「そうか。一緒に学校に行けることを楽しみにしていたんだけど」
「はい?今なんと...」
愛歌の表情が一瞬ゆがんだ。
「いや、だから一緒に登校したかったから残念だったなぁって...」
「何を言ってるんですか?高校になんて行く必要ないじゃないですか?何も不自由などさせてないはずです。この家に居れば仕事をしなくても一生遊んで生きていけます。勉強なんて必要ないです。もし研究をされたいのなら屋敷ですべて準備します。お料理だってこれまで以上に頑張りますし、お裁縫ができないことがご不満であればできるようにいたします。欲しいものがあれば何でも用意しますし...性欲処理だって..」
「あ、愛歌..?」
「だから、だから...片時も私のそばから離れないでください...お願いします...このメクラをひとりぼっちにさせないでください..」
「その...ごめん。愛歌もう言わないよ。そんなこと」
「それじゃあ、諦めてくださるのですか..」
「うん。家でできるのならそうさせてもらうよ。それに愛歌に不満なんて感じてないよ。料理だって美味しいし、家事だって一通りこなしていて愛歌は立派なお嫁さんになれるよ。きっと」
「....//お、お嫁さんですか?そ、そんな..私お嫁さんになれますか..?」
「きっとなれるよ。」
わたくしはこの時広い意味で言ったのですが、彼女には違うようにとられたのでしょう。いや、元々既に会う時から二人には行き違いがあったのかもしれません。愛歌のことを少し寂しがりぐらいにしかこの時思っていなかったのですが、次第にその考えは改められることとなります。
その後わたくしは通信制高校に入学いたしました。衛星放送で授業をするということで愛歌も許してくれました。実際はスクーリングという登校が必要でしたが、姫野家の資金力により衛星放送とレポートだけとなりました。とはいえ、通信制とはいえ高校。生徒同士のコミュニティも大切にしているようでビデオ電話での集団討論やワークショップ、グループチャットで集団レポートについて相談するなど他の同級生と関わることは多々ありました。それを愛歌は快く思っていなかったようです。他の生徒との関わりがある授業では必ずわたくしの隣に座りビデオ通話越しの女の子を強く睨んだり、グループチャットの内容を検閲し女の子と仲良くしようものなら、
「私がいるんですから他の女の子と仲良くする必要なんてないですよね?それともこういった授業も理事会(ウエ)にいって免除してもらえばよかったでしょうか...」
とブツブツと呟き、常に私を監視していました。わたくしは愛歌が私から離れることを嫌っているものだと思っていましたが、この時思いました。彼女はわたくしをおもちゃか何かとしか思っていないのだと。おもちゃを独り占めする、そんな女の子...わたしは一生彼女と壊れる(しぬ)までこの広い屋敷で過ごすのかと思うと心が空洞になったような虚無感、やりきれなさを感じてしまいました。しかし、わたくしも愛歌と同じ天涯孤独です。彼女と同じ身に立っています。しかし、彼女のその独占欲といいますか人一倍強い嫉妬に恐れを抱きました。いつか殺されるのではないか...と。
わたくしは独り立ちをしようと決心しました。それはこの家に来てもう3年が経とうとしたときでした。わたくしは愛歌にばれぬようある人物と連絡をとっていました。ネットにはいろいろな掲示板があるようで、そのなかに「家出を手伝う会」という掲示板がありました。そこでは家庭環境が複雑なわたくしと年も変わらない人たちが相互に家に泊めたり、食事を食べさせたりと家出を支援しているそうです。わたくしも家出ではありませんでしたが、この監獄から抜け出す手助けをしてもらおうと思いました。
『家出する名無し<僕は今三ノ宮にある姫野家の屋敷に住まわせてもらっているのですが、束縛が激しくもう耐えられません。誰か家出を助けてくれる方はいらっしゃいませんか?』
『Re:<姫野家ってあの姫野財閥で有名な姫野家?それだったら裏山。』
『Re:<そんなわけないだろ。あそこは高校生の孫一人だった希ガス。』
『家出する名無し<はい。今その二人で生活しています。彼女は僕にとても依存しています。これではいけないと思ってるんです。今の状況なら生活には困らないでしょうが、生きるだけでいいのかと...何か目標をもって生きるべきなんじゃないかと思って』
『Re:<高校生二人で生活ってどこぞのラノベだよ』
『Re:<嘘乙』
まぁ致し方ないのかもしれません。そもそもわたくしの人生がとてもイレギュラーなものなのですから。信じるほうが難しいでしょう。諦めて別の方法を考えようかと思った矢先..
『寝屋川のぬこ<私、三ノ宮なら近いし手伝おうか?』
『寝屋川さん、こんばんは』
『寝屋川さん、乙です。』
寝屋川さん、という方と出会いました。この方、この掲示板の主のような存在だそうでこれまで幾多の家出少年・少女を救ってきた方だそうです。寝屋川といえば確かにこの三ノ宮からはいけなくはない距離です。わたくしはこのチャンスを逃すわけにはいかないと思い頼んでみることにしました。
『家出する名無し<寝屋川さんはじめまして。是非協力していただけないでしょうか?』
『寝屋川のぬこ<家出少年を助けるのが私の仕事だからね。もちろんだよ。それで姫野家ってお金持ちっぽいけど、警備員とかいるの?』
『家出する名無し<警備員とか使用人の類はいないです。問題は愛歌..姫野家の生き残りですがその子が僕に付きっきりなので外に出るタイミングが問題だと思います。』
『寝屋川のぬこ<そっか。ここの掲示板にはそういう束縛が強いヤンデレ娘から逃げようとする子がたまにいるけど...今回みたいな屋敷となるとなかなか難しそうだなぁ。屋敷の中がどうなってるかわかる?』
『家出する名無し<全部を把握しているわけではないですが、愛歌の行動範囲と屋敷の出入り口はある程度把握しています。』
『寝屋川のぬこ<それじゃあ、ひとつずつ教えてもらっていいかな?』
そしてわたくしはこの顔を見たこともないネットの住人に屋敷の内部について知っている限りをすべて教えました。そして、数分の沈黙があり寝屋川さんから家出の決行計画を相談しました。スケジュールやそれまでの所作(ばれないように自然にふるまえとのことでした)、出るタイミング、出るルートなど本当にここにいる方はプロなのだと感心するほど緻密な計画が立てられました。その日は安心して眠ることができました。愛歌が外出することもなく、また日を空けるのも危険ということで決行の日は明日の深夜となりました。
そして次の朝、
「啓介、なんだか機嫌がよさそうですね。何かいいことでもありましたか?」
「え、そうかな?別にいつも通りだと思うけど」
顔に出ていたのでしょうか。自然にいつも通りふるまっているつもりなのですが、あまり不審に思われると今夜の作戦が水の泡となってしまいます。
「あの、啓介...変なことを聞いてもいいですか?」
「なんだい」
「私のこと、好き...ですか?」
「好きだよ。愛歌..」
「....そうですか。私も啓介のことだいすきですっ」
わたくしは嘘でもあり、本当でもある答えを返しました。わたくしは愛歌とのこの生活は嫌いです。しかし、愛歌のことは何故か嫌いではありません。それはまがいなりにも三年間生きてきた「家族」だからでしょうか。この屋敷での最後の過ごし方は庭を愛歌と歩くことにしました。わたくしはこの屋敷の庭が好きでした。春夏秋冬飽きることのない草木や花々がこの何もない屋敷を彩ってくれていたから。
「植物というのはいいね。」
「はい...」
「心が豊かになるというか。いろいろなことを考えさせてくれる..」
「余計なこともこの草どもが考えさせたのでしょうか...」
「え?今何か言ったかい?」
「いえ。本当にこころが洗われますね。この庭はおじいさまがとても大切に手入れをしていました。自らの手で」
「そうなんだ..」
「ええ。きっと自分の園を誰かにおかされたくなかったのでしょう。私、その気持ちとてもわかる気がするんです。たとえば、どこの馬の骨だかわからない方に私の啓介を攫われたり...とか。」
低い声で放たれたその言葉にドキッとしました。まさか愛歌が知るわけがないと。鼓動が高鳴ります。きっと例えだとそう信じたかったしかし、
「私知ってるんです。昨日啓介がいかがわしい掲示板サイトを閲覧していたこと...なんでですか?ねぇなんで、私のこと好きって言ったじゃないですか?私さえいれば他は誰もいりませんよね?おかしいです...きっと悪魔が啓介のことをたぶらかしたに違いありません。啓介は穢されたんです。そうです..そうに違いない..」
愛歌が何を言ってるのか理解できませんでした。ついに壊れたかと思いました。このままではわたくしも壊されると思いました。
「っ...」
「あっ、啓介っ」
一か八かで庭から外へ逃げ出そうと決心しました。こんなことがあろうかと寝屋川さんと事前に連絡先を交換しておいたのです。わたくしは走りながら電話をかけました...出ません。もしかして他の依頼人と電話でもしてるのでしょうか。しかしつながることを信じて待ちました。しかし、不思議です。愛歌が追いかけてきません。ある程度覚悟はしていたのですが足音もありませんですし、人影も見えません。待ち伏せをするつもりでしょうか...しかし今は逃げることを優先しました。しばらく走っていると電話がつながりました。
『もしもし』
「あ、寝屋川さんですか?今庭から西側へ走ってます。B2の勝手口から出るつもりです。そこで待ち合わせしましょう」
『分かった。近くで待っていたから今そちらに向かうよ。赤い車が私の車だ。出口からでたらすぐに乗るんだ。』
「わかりました。」
B2へはあと数分という距離でした。しかし、わたくしは思いました。もしそこに愛歌が待ち伏せしていたら...
わたくしはそんなもしもを想定して少し遠いですがC3の表中門へ行くことにしました。もう一度庭に戻らなければならずもしもわたくしの予測が外れていれば愛歌に鉢合わせする危険もありましたが、追いかけてこないということは先に待ち伏せをしている公算が高いと考えました。庭に近づきわたくしは庭をゆっくりと屋敷の陰から覗きましたが、愛歌はそこにはいませんでした。やはりB2へいかず正解だったようです。わたくしは安堵しつつも油断はならないと中門を出て、B2を出たとこにいるであろう寝屋川さんの下へと走りました。しばらく走ると赤い軽自動車がありました。きっと寝屋川さんの車でしょう。わたくしは急いで車に向かい、乗り込みました。
「はぁはぁはぁ...なんとか逃げ切れました..ありがとうございました。寝屋川さん」
「誰から逃げ切れたんですか?啓介?」
「え...?」
予想だにしていませんでした。まさかこの車に乗っているはずがない人物が載っていたのだから。
なんで愛歌がこの車に...
いや、もしや待ち伏せをしたときにこの車に気づいたとか。でもそれなら寝屋川さんは乗せないはず...なんでだ?なんで愛歌が?いろいろと整理がつかないでいると愛歌はわたくしに語りかけてきました。
「この女は啓介よりお金を優先したんですよぉ。私が買収工作をかけたら簡単におちました♪」
「噓だ!寝屋川さんはみんなから慕われている人だ。そんなことするはずがない!ですよね..愛歌の言っていることは嘘ですよね...寝屋川さん!」
「...ごめん。私の働いてる会社は元姫野財閥系列で...彼女に逆らったら私の生活を滅茶苦茶にするって脅されて...」
「そんな...そんな嘘だ嘘だ嘘だ....ああああああああああもう誰を信じればいいんだよおおおおおおおおおおおおお」
「ふふふ。啓介?私から逃げようとした...私をひとりにしようとした罰です。悪い子にはお仕置きが必要です。じっくり遊んであげますからね..?大好きですよ?啓介」
「嫌だあああああああああああ」
そのあとバチバチと首筋にしびれを感じたあと意識を失いました。
「あなたには死んでもらいます」
「何を言って...協力したら許してくれるって..」
「許されるわけ....ないじゃないですか?馬鹿なのですか?啓介に口をきいていいのは私だけ..啓介に接していいのは私だけ..顔を見ていいのは私だけなんです。お前みたいなゴミが啓介と一秒でもともに時間を過ごしたなんて許せない...死ね」
*************
「ん...ここは」
起きてみればそこはコンクリート剝き出しの壁でした。屋敷にこんな部屋はあったでしょうか?目の前には鉄格子がありました。刑務所にでも入れられたのでしょうか?そうであれば結果オーライですが彼女の呪縛から解かれたと思ったのですが、鉄格子の向こうには愛歌がいました。
「あ、やっと起きたのですね。」
「ここは一体どこなんだ」
「ああ、ここですかここは屋敷の地下です。まぁそんなことを聞きたいんじゃないですよね..ここは座敷牢です。そう..私のようなメクラや精神障がいの一族がぶち込まれる誰からも愛されない場所...私も物心ついたときからこの何もない座敷牢に入れられました。ろくにごはんも食べさせてもらえず、泣けわめけば折檻をくらい...魂をすり減らしました。誰からも愛されないんだと..そう思っていました。ですが、あなたがこんなかわいそうなメクラに手を差し伸べてくれたのですよ?」
「俺が..」
「覚えていらっしゃらないと思いますが、私を唯一かわいがってくださったおじいさまを失った時あなたは私を何も言わず強く抱きしめてくださいましたっ...そのころから私はあなたのことをずっと想っておりました...そして3年前、あなたがお父様、お母様を亡くされた時とてもうれしかった....やっと啓介を独り占めできると...そしてあなたはここに住むことになった。高校に行くといったときはとても驚きましたが、外にもでることはありませんでしたし心安らかに過ごすことができました。そして...こんな平和な日々がずっと続けばいいと考えておりました。でも...あなたはこの家から出ようとした...あまりにも酷いことをすると思いました。わたしの園をおかしたのに...今になって園から出ようなんて許せなかった。それでこうすればいいと思ったんです。わたしが味わった座敷牢での生活をあなたと共有すれば二度とそんなことを言わないだろうって。」
「狂ってる..お前は狂ってる..」
「恋する乙女は狂うんです。好きな男の子には特に...でも、私はあなたには酷いことはしません。この座敷牢で一生愛してあげますからねっ」
「うわあああああああああああああああああああ」
わたくしの心は破綻しました。その数日、わたくしは舌を食いちぎり自殺をしました。
**************
「これがわたくしの今までの人生です。」
「...」
閻魔大王は静かに話を聞いていた。特に何を感じるわけでもなくたんたんと、まぁわたくしごときの人生など地獄の主であれば聞き飽きるほどあるのだろう。
「しかと聞いた。まぁ...辛い人間道であったな。しかし、お前の罪は決して認められたものではない。」
「はい。それはわかっております。」
「望み通り地獄へ往ってもらおう。だが、本当に地獄の意味を分かっているか?」
「とても辛いということは分かっています...しかし、わたくしの犯した罪であれば仕方のないことです。」
「....そうか。では連れていけ」
「はい....大王様」
「な、なんで..............
なんで愛歌がここにいるんだ!」
「私は生まれながら片目が見えません。しかし、あるものは見えたんです。」
そういうと、愛歌は眼帯を取った。眼帯に隠された左眼はウサギのように赤い眼であった。
「私、この目であの世が見えるんです...そして神や仏、閻魔大王の話し相手をしていました。地獄に堕ちることは承知で死神に頼んで両親を阪神震災で殺したり、ダンプカーの正面衝突を装ってあなたのお父様・お母様を殺したりしました。」
「貴様.....貴様が父さん...母さんを...」
「憎んでいますか?いいですよ。一番怖いのは無関心になられることですから...永遠にその憎悪を私に対して燃やしてください。転生輪廻なんてさせません...ずっとずっとこの地獄で私と一緒に過ごしましょうね?あの世ではうまくいきませんでしたが、この世では永遠に過ごせますから...//」
「連れていけ」
「い、嫌だあああああああああああああああああ助けてくれええええええええええええええええええええええええええええええええ」
閻魔大王は断末魔を耳に入れることもなく次の裁定に入った。閻魔大王は罪深き人間を見ていくあまり半端な慈悲はかけなくなったのだ。
閲覧ありがとうございました。
似た作品があるので盗作容疑をかけられそうな…ただ私のは地獄に落ちる故違うと思いたい…