わたぬきヤンデレ短編集   作:四月朔日澪

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短編集にしました。何故はじめからそうしなかったのか


日陰のルピナス(再編)

 あれは中学の卒業式だった。高校入試の試験結果が昨日とそれぞれの明暗が分かれた後に行われた。僕のクラスは全員が高校に進学が決まり喜び冷め止まない雰囲気であったが、他のクラスはそうではなかったようだ。神も惨いことをする...

 

 

 

「悠、私と一緒の高校だね。これからもよろしくね。」

 

 

 

男子では僕と同じ高校に行く人はいないし、さして交友関係のない僕は暇を持て余していると同級生でこのクラスの中心的存在の浅岡奈緒がわざわざ僕なんかにあいさつをしてきた。

 

 

 

「ぼ、僕のほうこそよろしく...」

 

 

 

緊張して早口になってしまったが、浅岡さんは「一緒のクラスになれたらいいね」と返してくれた。私の受けた学科は普通科で他に進学クラスや理数科などがあり、成績優秀者である浅岡さんであればもっとレベルの高い高校に行けたはずだろうし、進学クラスにも行けたはずだが何故か普通科に進学したのだった。

 

 

 

「浅岡さん....」

 

「悠、名前で呼んでって言ってるでしょ?」

 

「あ、ごめんなさい...奈緒さん」

 

「呼び捨てでいいのに、まぁいいや。どうしたの?」

 

「その..あのなんで普通科..この高校を選んだんですか?あ、いや、あの別に答えたくないなら答えなくても....大丈...夫...です...」

 

「そんなの悠が行くからに決まってる...」

 

「え?」

 

「ううん。勉強が楽かなって思ってさ。アハハ、ひどい理由だよね」

 

 

 

やっぱり浅岡さんみたいな頭がいい人はただ自分のレベルにあったところに行くより自分がより映えるところを選ぶんだなぁ...これが僕の中学時代の落日。高校時代の黎明であった。

 

 そして、入学式や期末テスト、夏休みを経て秋も半ばといったところであった。僕は休み時間にイラストを描いていた。結論から言えば俗に言う陰キャラというものに落ちぶれていた。中学時代はまだ少なからず人と話すことはあった。しかし、今や見えない壁を自ら作り誰も近づけないようにしている。そのおかげか、絵が日に日に上達している。高校に入ってからは絵を描くことが唯一の楽しみである。美術部にも所属していて、先輩で部長の都先輩にマンツーマンで優しく教えてもらっている。

 

 

 

「悠?何描いてるの?」

 

「ほ?あにゃ*@?$#ん...浅岡さん!?」

 

 

 

机の前には浅岡さんがいた。浅岡さんといえば中学と変わりなく高校でもすぐに社会適応性を発揮し、クラスの中心に君臨していた。僕とはよろしくもしていない関係性である。一体何の御用だろうか?腕で絵を反射的に隠す。

 

 

 

「隠さないでよ。悠がどういう絵を描くのか見てみたいんだ~」

 

「そ、その恥ずかしいというか...その」

 

「大丈夫だって。笑ったりしないから」

 

 

 

いや、そういうことではなく人に絵を見せるというのは本当に恥ずかしいのだ。描くものによっては趣味がばれるし、下手だと感じられるのではという畏れもあって都先輩ぐらいにしか見せたことはない。しかも今描いているのは日曜の朝にやっている「浄土天使みるきー★」の主人公・大谷ミユキちゃんで高校生にもなって童女向けのキャラクターを描いているのが知られたら顔もあわせられないくらい恥ずかしい。

 

 

 

「ほら、見せてよ~」

 

「また...今度なら、今日は...その...見せられないというか...」

 

「見せてって言ってるでしょ」

 

 

 

浅岡さんの冷たい口調にゾッとした。これまでではじめてこんな彼女を見たのではないだろうか。高圧的というか...否応なくすべてを通させるようなこんな態度は。

 

 

 

「えっと、こんなのしか描けないけど...」

 

「ありがと♪....」

 

 

 

凄い睨んでる!やっぱりこんなロリコン野郎に話しかけて損したな、とか思っているのだろうか。しばらくすると、浅岡さんは口を開いた。

 

 

 

「あのさ、悠」

 

「あ、あのごめんなさい...こ、これは」

 

「どうして謝るの?」

 

「え?僕の絵を見て凄い睨んでいたから..」

 

「そんなこと..ないよ。悠こんなに絵上手かったんだね。あのさ、私も描いてよ。」

 

「あ、浅岡さんを?」

 

「悠」

 

「ご、ごめんなさい奈緒さんを描くんですか?」

 

「他に誰がいるの?」

 

「そ、そうです...ね。わかりました。上手く描けるかわからないけど...」

 

 

 

美術のデッサン以来だなぁ人の似顔絵を描くなんて。しかし、あの頃よりは人の描き方も分かっているし大丈夫だとは思うけど...

 

 

 

「あ、もうすぐ授業始まるね。それじゃあ、昼休みに一緒に食べない?そしたら絵の続きできるでしょ?」

 

「あ、えっと..」

 

「決まりだね。お昼待ってるね。」

 

 

 

普段、人通りのない階段などで昼食をとっているのでこういうことは初めてだ。慣れないことなので断りたかったが、陰キャ特有の意思疎通ベタが発揮されてしまった。そして時はすぐに過ぎていきお昼になった。

 

 

 

「こうして悠とお昼一緒なのははじめてだね」

 

「そ、そうですね..」

 

「これ、食べる?って私がトマト苦手なだけなんだけどね」

 

「あ、そ、その..食べ..た、食べ..」

 

「食べてくれるの!それじゃあ、あーん」

 

「あ、あーん」

 

 

 

トマトのヘタを指でつまみ僕の口へと運んできた。厚意を反故にするのは主義ではないのでありがたくいただいた。

 

 

 

「なんか、食べさせるってカップルみたいだね。」

 

「がっ、ゴホゴホッ」

 

「大丈夫!?ほら、お茶」

 

「ングング.....プハァ。もう大丈夫です。急にそんなこと言われたので」

 

「嫌...だった?」

 

「そ、そんなことないです...む、むしろあさ..奈緒さんみたいなみんなからモテる方にそう言ってもらえると...って調子に乗りすぎですよね...」

 

「悠に好かれてれば他は興味なんてないのに...それで絵。描いてくれるんだよね」

 

「は、はい。」

 

 

 

なにかボソッとしゃべっていいたような気がするけどきっと独り言だろう。約束通り浅岡さんの似顔絵を描いた。休み時間もそんなに長くないので、あまり凝りすぎずかといって簡略化しすぎないちょうどいい具合のものを仕上げた。

 

 

 

「はぁ~ありがとう!大切にするね!」

 

「そ、そんな...部長とかに頼めばもっといいのを描いてもらえますし僕なんてまだ...そんな」

 

「...そういえば、さ。悠。聞きたいことがあるんだ。」

 

「な、なんでしょう?」

 

「悠は部長さん...黒田先輩のこと好き?異性として」

 

「ぶ、部長のことは...そういう目では見て...ない...ですけど...えっとなんでそんなこと、聞くんですか?」

 

「そっかぁ。そっかぁ...うん。あのね、悠。私は悠のこと大好きだよ。」

 

「はぁ....ってえ?あ?ええ!す、好きって..」

 

「悠は他の男と違って私に興味を持たなかったよね。女の子っていうのは自分を見てくれない男の子を振り向かせたくなる生き物なんだよ?だから、悠に私のこと興味持ってもらいたかった。高校に入ったらもっと距離が縮まると思った。でも....あの女が私の邪魔をして....私の悠なのに...ヘラヘラしてる悠も許せなかった。これって間違いなく浮気...だよね?」

 

「う、浮気って...僕浅岡さんと付き合ってませんし...部長とはそういうあれじゃ...」

 

「嫌なの!全部わたしじゃないと!悠は私のものだし、私は悠のものだよ?悠が他の男と話すなっていえば私は悠だけに接するし、全部悠にゆだねるよ?なのに悠は...あの女は..悠の時間を拘束するだけでも許せないのに二人っきりで仲良くお絵描きなんて...想像するだけでイライラする。悠は私とカップルになれたら嬉しいってさっきいってたよね?」

 

「え......う、うん。」

 

「じゃあ、相思相愛だねっ!わたしたちもう彼氏と彼女だね」

 

「そ、それは...ちょっとよくわからないというか...」

 

「...なんで?私は悠が好き。悠も私が好き。この時点で私たち結ばれてるよね?それとも私と付き合うのは嫌...なの?そんなわけないよね?」

 

「そ、そういうわけでは...」

 

「じゃあ、いいよね…チュバッ…ん…グジュッ…」

 

 

 

浅岡さんは僕に近づきキスをした。僕のことが………好き?未だ信じがたいことである。嬉しいはずなんだけど、彼女に潜む闇というか。その瞳の深淵を受け止められる自信がなかった。




閲覧ありがとうございました。
私も陰キャだったからなぁ。俺もなぁ...されたい
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