やはり師匠の青春ラブコメはちょーかっこいい。   作:黒虱十航

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ええ、ごめんなさい。
本当にすみません。材木座兄さんファンの方、原作者様、ごめんなさいっ。
ですが言い訳させてください。
主人公、マジやばいです。どんどんストーリーをぶち壊します。
ですが宣言どおり、最終的なところは変わりませんのでご安心下さい。


つまり生ゴミ先輩はマジうざい。

 翌日のことである。部室に師匠と一緒に向かうと、珍しいことに雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩が扉の前で立ち尽くしていた。何してるのだろうか、と観察してみるとどうやら扉をちょっとだけ開けて中を覗いているらしい。

「何してんの?」

「ひゃうっ!」

 もはや卑猥な感じの悲鳴と同時に、びくびくびくぅっ! と二人の身体が跳ねた。いや、だから卑猥だって。R18小説じゃないんだからそういうのやめろよ、まったく。

「比企谷くんと日木くん……。び、びっくりした……」

「驚いたのはこっちの方だよ」

「本当ですよ、まったく。挙動不審ですね、もう」

 師匠に同調するようににやっと笑って雪ノ下先輩を攻撃する。昨日、突然事件について口走ったせいなのか僕は雪ノ下先輩にさらに嫌われていた。

「いきなり声をかけないでもらえるかしら?」

「師匠だってあなたなんかに声をかけたいわけないじゃないですか。あなたが不審だから仕方なく師匠は声をおかけになったんですよ」

「あー、もう。お前は一旦黙ってろ。雪ノ下も、睨むな睨むな」

「承知しました、師匠」

「別に睨んでないけれど。そもそもなぜ比企谷くんに指図されなければならないのかしらね。不快だわ」

 不機嫌そうな表情で睨み付けてくるのは前にうちで飼っていた猫にそっくりだ。あの猫、父親にだけ懐いてたんだよなぁ。そういう点でも雪ノ下先輩は前に飼っていた猫にそっくりである。懐かれるのは由比ヶ浜先輩か。

「悪かったよ。で、何してんの?」

 師匠が改めて尋ねると由比ヶ浜先輩は先ほどと同じく、部室の扉を僅かばかり開いて中をそうっと覗き込みながら答えた。

「部室に不審人物がいんの」

「不審人物はお前らだ」

「同感です!」

「いいから。そういうのはいいから。中に入って様子を見てきてくれるかしら」

 雪ノ下先輩はむっとした表情で命令を下した。これは男子二人がいけ、ということなのだろう。まだまだ未熟な僕一人では負けてしまうかもしれないので、師匠と共に僕たちは言われるがまま、二人の前に立つと、新調に扉を開いて中に入る。

 僕たちを待っていたのは一陣の風だった。

 扉を開いた瞬間に、吹き抜ける潮風。この海辺に立つ学校特有の風向きで教室内にプリントを撒き散らす。

 それはちょうど手品で使われるシルクハッとから幾羽もの白い鳩が飛び交う様子に似ていた。その白い世界の中に一人、佇む男がいる。

「クククッ、まさかこんなところで出会うとは驚いたな。――待ちわびたぞ。比企谷八幡」

「な、なんだとっ!?」

「待ちわびてるのに驚いてるという矛盾。師匠をフルネームで呼ぶという愚行。何より折角僕が綺麗にした教室に紙を撒き散らすという大罪。あ、あと神聖な我が奉仕部に、コートとグローブ装着でしかも勝手に入るという無礼。四つ揃って完全ギルティーですね。退場してください、せんぱぁい♡」

 こっちが驚くわこのゴミクズがッ!? 

 舞い散る白い紙を掻き分けるようにして、僕は相手に接近した。

 果たしてそこにいたのは……いや、んなことクソどうでもいい。材木座義輝なんて男、語る必要もないッ。

 いや、まぁ師匠以外の奴はほとんど語る必要もないんだけどさ。その語る必要がないのカテゴリーの中でも断トツで語る必要のない人間だった。いや、むしろ人間じゃなくてゴミクズだ。

 そんな奴に我が奉仕部に入室しる資格はない!

「クッ、まさか貴様もいるとはな、日木宗」

「黙って失せやがれ、ゴミクズがッ」

 これまでに出したことがないほどの大声を出して僕はそいつを、奉仕部の室内から出すために手を引っ張った。早く出さないと、ゴミはゴミ箱に。というか、今日は収集車が来る日だったはず……。

 雪ノ下先輩は師匠の背中に隠れながらも、怪訝な顔で僕とゴミを見比べる。そのナイスな視線にゴミクズは怯み、師匠に縋るような視線を向ける。

 が、そんなこと関係ない。全身全霊で僕はゴミを部室から出そうとする。

「日木くん、まだ話を聞いていないのだし、少し落ち着きなさい」

「えぇ? 雪ノ下せんぱぁい、誰から話を聞くんですかぁ? 今日も、依頼者は来てないですよ? っていうか、本当に暇ですねぇ。はやく、お茶飲みましょう! ちょっと、ゴミ捨ててくるんで」

「日木……気持ちは分かるが、ちょっとやめてやれ。なんか、そいつ、無茶苦茶泣きそうになってるから」

「し、師匠……命拾いしましたね、生ゴミ」

「フッ、仮に死んでもあの世で国取りするだけよ! 生ゴミと罵られようと、痛くも痒いもない」

 生ゴミが腕(仮)を高く掲げるとばさばさっとコートがはためく。ほんと、この生ゴミ礼儀を知らないなぁ。コートとか、手袋なんて建物入ったら外すのが普通だろ。

「何の用だ、材木座」

「むっ、我が魂に刻まれし名を口にしたか。いかにも我が剣豪将軍・材木座義」

「師匠! やっぱりダメですよ、これ。もう、出しましょう! ゴミ収集車、行っちゃいますよ」

「残念だがな、日木。俺も同じこと思ったがもうごみ収集車は行ってる」

「くっ、そうですね!? おのれ、遅かったか」

 あまりの悔しさに、僕は崩れ落ちた。目尻が自然と熱くなる。

 剣豪将軍とかいう設定に完全に入り込もうとしていた生ゴミは、そのいたたまれない空気に視線を泳がせていた。

「ねぇ……、ソレ何なの?」

 不機嫌、というよりかは不快感を露わにして由比ヶ浜先輩が師匠を睨み付けた。なんで師匠を睨むのか。もう生ゴミを睨めばいいのに。

「こいつは材木座義輝。……体育の時間、俺とペアを組んでいる奴だよ」

「先に言っておきますがあの生ゴミと師匠は類似点、皆無ですからね。友でもないですし。はい、終了。帰ってもらいましょう」

 僕はすっきりとした表情を作って、手をぱんぱんと叩く。また止められても面倒なので、今度は雪ノ下先輩に視線で許可を取ろうとした。

「そうね……けれどそのお友達、比企谷くんに用があるんじゃないかしら?」

「友達じゃないですよっ!」

「何故、俺のことをお前が力説するのかは謎だが、まあそうだぞ。友達じゃない」

 雪ノ下先輩に言われて、師匠は泣きそうになっていらっしゃった。きっと、生ゴミと友達扱いされたことが相当堪えたのだろう。ほんっと、師匠にダメージを与えるだなんて生ゴミ最悪だなぁ。

「ムハハハ、とんと失念しておった。時に八幡よ。奉仕部とはここでいいのか?」

 調子に乗りまくってる生ゴミが奇怪な笑い声をあげながら師匠と僕を見る。

 実にムカつく笑い方である。ぶん殴ってやりたい。

「ええ、ここが奉仕部よ」

 師匠や僕の代わりに雪ノ下先輩が答えた。すると生ゴミは一瞬雪ノ下先輩のほうを見てからまたすぐさま師匠と僕のほうに視線を戻す。こっち見んなよ、虫唾が走る。

「……そ、そうであったか。平塚教諭に助言いただいたとおりならば八幡、お主は我の願いを叶える義務があるわけだな? 幾百の時を超えてなお主従の関係にあ」

「師匠と主従関係にいるのは僕だけ、です」

 言葉を遮り、僕は生ゴミにいよいよ殴りかかろうとした。が、その拳を雪ノ下先輩は静かに止める。

 任せろ、と視線だけでそう伝えてきている気がする。流石部長だ。やっぱり頼りになる。

「別に奉仕部ははあなたのお願いを叶えるわけではないわ。ただそのお手伝いをするだけよ」

「……。ふ、ふむ、八幡よ、では我に手を貸せ。ふふふ、思えば我とお主は対等な関係。かつてのように天下を再び握らんとしようではないか」

「主従の関係どこいったんだよ。あとなんでこっち見んだっつーの」

「ゴラムゴラムっ! 我とおお主の間でそのような些末なことはどうでもよい、特別に赦す」

「むしろ僕が赦さないっ! 皆さん、ちょっと会議をしましょう」

「そう、ね。賛成だわ」

 雪ノ下先輩の賛成を得て、奉仕部は一度生ゴミから距離を置き、話し合いをすることになった。

 そのときだ。足元でかさりと何かが音を立てた。

 それは部室の中で舞っていた紙吹雪の正体だった。

 拾い上げると、素敵な文字たちがびっしりと羅列されていて、その黒さに目を奪われる。

「これ……師匠、すみません。しばし、お待ちを」

 深く謝罪してから、僕は部屋中を見渡す。四十二字×三十四行で印字されたそれは室内に散らばっていた。それを僕は急いで一枚一枚拾い上げ、通し番号順に並べ替えていく。

「先輩方も、ご協力いただけますか!? 番号順に、なっているので」

「え、ええ……まあ、あなたがそこまで言うのならいいわよ」

「う、うん! ハチ、必死だし」

「そうだな。待つのも面倒だからな」

 師匠のお手を煩わせるのは心苦しかったが、四人がかりでやったおかげですぐに回収することができた。よかった。

「ごめんな、気付いてあげられなくて……」

 自らの無力をわびるように紙の束を撫でてから、僕は生ゴミを睨んだ。

「それって……」

「ふむ、言わずとも通じ」

「流石師匠。お察しいただけているとおり、この子たちはライトノベルの原稿です。ページは大体、文庫本一冊程度。おそらく、新人賞に出るつもりだったんでしょう、この子たちは」

「この子?」

「ええ。可愛い文字たちです。いい子ですよ」

 意味が分からなそうに首を傾げる由比ヶ浜先輩に、僕はそぉっと紙の束を差し出した。ぺらぺらとめくり中身を改め始める。

「けぷこんけぷこん。ご賢察痛み入る。如何にもそ」

「とりあえず、会議をしましょうか。何となく理解できましたので」

「ええ、そうね」

 ほんっと、生ゴミはうるさい。こっちは会議をするって言っているだろうに。

 今度こそ、僕たちは集まり会議を始めた。

「おそらくですが、あの生ゴミはこの子たちを読んで感想がもらいたいのだと思います。投稿サイトとかだと、辛辣な意見が多いですし、そもそもコメントもらえない可能性がありますからね」

 個人に頼めば、確実に感想はもらえる。それに生ゴミと奉仕部メンバーくらいの関係性なら辛辣な意見は出にくいといっていい。あくまで一般的に考えれば、ではあるが。

 だから生ゴミがここに来るのは普通の思考だ、残念なことに。

「そう。なら、読んで感想を各自が持ち寄り、明日、彼に伝えるということでいいかしら」

「まあ、いいんじゃねぇの」

「うん! いいじゃんいいじゃん、楽しそうで」

 由比ヶ浜先輩は、奉仕部でなんかできればそれで満足なんじゃないかとも思えなくないが、まあそれより普通に否定意見を出すのでそっちは言わないでおく。

「師匠、身勝手かもしれませんがこの依頼、僕に一任していただけないでしょうか?」

「は? お前だけでやるっていうことか? それともあいつを葬るのか?」

「葬りたいところですが、まだまだ師匠のお側にいたいので前者です」

「そんなこと、許可するわけないでしょう、日木くん」

 師匠に許可を得ようと思っていたのに、雪ノ下先輩の冷たい声が割り込んできた。弓矢のような目を、僕は睨み返す。

「何故ですか?」

「依頼は、部員で行うのよ。一人だけに任せるわけにはいかない」

「そうかもしれませんね。ですが、この量です。コピーするにしても用紙がかなり必要になりますし、あいつを見ても人数分用意があるようにも見えません。資源的にも、たくさんの人数でやるのは如何なものかと。それに、この量を読んできて明日感想を言うというのは負担がでかいです。部員だから、とその負担を全員に強いるくらいなら、僕がその負担を背負い、別の依頼が来る可能性やこの依頼の〝裏の意図〟なんかを考えたほうがいいように思います」

 由比ヶ浜先輩は完全に黙り込んでいる。なんか、真剣な雰囲気出してるけど、絶対この人、意味理解してないよ。雪ノ下先輩や師匠と同じ学年のはずなのにな。

 師匠と雪ノ下先輩は二人で目を見合わせていた。多分、雪ノ下先輩が僕が言った〝裏の意図〟というのについて師匠に聞いているんだろう。だが、師匠に分かるはずない。んなもん、僕だって知らんし、何よりそんなものないと思うし。

「……分かったわ。ただし、あなた一人では不安だから私も読むわ。原稿は平塚先生にコピーしてもらいましょう」

「はぁ、まあそれなら」

 師匠のお手を煩わせないならまあ、それでもいい。僕としてはあの生ゴミに現実を突きつけてやれればいいんだし。

「じゃあ、そういうことで。……ざ、ざい、財津くん? この依頼、私と日木くんが解決するわ。読んで、感想を言えばいいのよね?」

「如何にも。では、よろしく頼んだぞっ」

 雪ノ下先輩と話すのが辛かったのか生ゴミは逃げ出すように奉仕部を立ち去ったのであった。

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