青春。
漢字にしてわずか二文字ながら、その言葉は人の胸を激しく揺さぶる。世に出た大人たちには甘やかな痛みや郷愁を、うら若き乙女には永久の憧れを、そして、僕や師匠のような人間には暗い憎悪を抱かせる。
青春をうらやましいだなんて思ったことはない。僕には大切な人がいる。青春を共に謳歌することができる彼女がいる。だから、うらやましいとは思わない。でも。いや、故に僕は青春が大嫌いだ。仄暗い、モノクロームな世界を否定し、ラブコメやスポ根と縁がなければそれだけで不適格だと断じる青春なんて大嫌いだ。嘘に凝り固まった青春など、愛せるはずがない。
僕は好きなのだ。
孤独に昼食を食べることによって風の向きが変わることを知り、その静けさを愛する師匠や、欺瞞を赦さず常に疑問を持つ師匠、孤独な世界でトラウマを抱えた者にしか出来ない方法で数々の人を救って見せた師匠が、そんな師匠のような、人と仲良くすることに疑問を抱く究極の
だから、僕はそんな中で師匠に憧れたことを決して否定しない。むしろ胸を張って肯定しよう。その姿勢はきっと永久に変わることは無い。
しかしながら、師匠のようにはなれないことも僕は知っている。僕はあくまで僕、日木 宗八であって、比企谷 八幡師匠ではないのだ。
師匠のように人を救う事はできない。そんなこと、僕にできるはずがない。
なら、僕には一体何かできるのか。それは、やっぱり決まっている。
師匠のようになろうと足掻いて、才能のなさにもがいて、吐いても吐いても好きなことをやり続け、決して死んだ魚のような目にならなくとも確固たる強さのために仔犬のように瞳を輝かせる。
そして、僕は師匠の青春を見ていこうと思う。
結論を言おう。
とそこまで書いてから筆が止まった。
放課後の教室で、ただ一人残っていた僕はふわぁと欠伸をする。
別に何かいじめにあっていたわけではなく、平塚先生に課されていた再提出用の作文を書いていたのだ。ほんとだぞ? ほんとに平塚先生に課されたんだぞ? 自主的に言い出したとかでは決してない。
途中まではいつも通りすらすらと進んでいた作文なのだが最後の部分だけがどうにもしっくりこず、こんな時間までかかってしまった。
続きは部室で書くか……。
そう考えて、原稿用紙や筆記用具を手早く鞄に放り込むと、誰もいない教室を後にした。今日は、確か彼女も練習があるから帰るまで一切連絡とれないしな。
今日も師匠と雪ノ下先輩は本を読んでいるのだろう。それなら、急いで茶を準備しなければ。
なにせ、あの部活は奉仕をする部活なのだから。
ごくごくたまにお客様がいらっしゃるが、そんなのは本当に稀なことだ。だいたいの活動では先輩方、主に師匠に御奉仕をさせていただきながら小説を書いて時間を過ごしている。
それは僕にとって好きな時間で、望まれる平和なのだと思う。依頼がくるってことは平和じゃない証なのだ。実際、奉仕部に集まる人々は、平和じゃないから依頼をした。
友情だの恋愛だの夢だのもろもろのことは、多くの人間にとってはきっと素敵なものだろう。うじうじと悩んでいることすら輝いて見えるんだろう。
曰く、それを青春と呼ぶのだ。
でも、そいつは結局のところ苦痛を青春と呼ぶことで麻酔をかけて傷を気付かないようにするだけなのだって、僕なんかは思ってしまう。実際、僕もうちの彼女も、かつてはそうだったのだろう。
× × ×
僕が部室のドアを開けると、師匠ははいつもと同じ場所で同じ場所で何かを書き殴っていた。雪ノ下先輩は、というとこれまたいつもの場所で平素と変わらぬ様子で本を読んでいる。
イレギュラーな人が一人。平塚先生が堂々と立っていた。
戸の軋む音に気づくと、三人の視線がこちらに集まる。
「あら、昆虫」
「ふっ、そうだな」
「だからせめてもっと可愛い動物にしろって!」
突然昆虫扱いされて混乱する。が、別に侮辱されたという感じではなく、むしろ本音交じりの会話のようで心地いい。
「平塚先生、どうしたんですか?」
「ああ、勝負の中間発表をしにきたんだ」
「あー、なるほど。結果は?」
身を乗り出して問うと、平塚先生はどこか子供をたしなめるような、けれど悪戯をするようにも見える顔をした。
「判定不可能、だ。君は相当かき回してくれるな」
「へ? なんですか、それ。僕が悪いみたいな言い方を……」
「いや、お前だろ」
「いや、あなただわ」
師匠と雪ノ下先輩の両方に言われてしまい、僕は席に座ってすぐに項垂れる。
「僕が何をしたっていうんですか……」
「色々しているだろう? 由比ヶ浜の件では依頼を先読みし、方針をアドバイスして」
「材木座の時は、完全に一人でやってたしな」
「この前も、結局、成果は果たしたけれどあなたが色々画策してくれたじゃない。依頼外のことまで計算に入れて」
「そ、そりゃそうですけど」
なんだよこの、示し合わせたかのように師匠含めた三人に指摘されるとか。
っていうか、それ聞いても納得できないんだが。基本的に、師匠が活躍して解決してばかりだったように思うわけだし。
「君はあれだな。比企谷への気持ちがなければ、本当に普通の高校生だ」
「それにしてはちょっと変わり者すぎじゃないですかね」
「師匠、残念ですがそれは違います。僕は普通ですよ、本当に」
師匠の言葉を否定するのは気が引けたが、過大評価されるというのも落ち着かない。言うと、平塚先生は頷いた。
「ああ、そのとおりだ。日木は普通だ。もっと言うなら、普通になれるのに、普通になることを拒んでいる。君に憧れるから、彼は普通じゃないんだ」
「は、はぁ」
師匠は少し納得いかなそうに首を捻っている。
でも、平塚先生のその言葉は事実だ。
僕は普通が嫌だ。どこにでもいる奴にはなりたくない。
そんなんじゃ、大切な人を守れないから。周りの人を救えないから。自分が傷ついてしまうから。
だから僕は普通が嫌なのだ。
「謎なんだがお前ってどうして俺に憧れたんだ?」
「そうね、それは私もわからないわ」
出会った日に口にしたはずでは……と考えて気づく。
そういえば、僕はあの時、憧れたポイントを言っただけだ。どうして憧れたのか、という問いに答えられていない。
考える。
確かに、大切な人を守りたかった。けれど、そのためなら師匠以外に憧れたってよかったはずだ。
師匠じゃなきゃダメだった理由。
考えて分からなかった答えは、心に問いかけるとすぐに出てきてくれた。
「師匠のお見舞いに行ったとき、師匠を見て、全身でかっけぇって思ったんですよ。どこが、とかじゃなくて。彼女に対して好きだって思ったときくらいしか、全身でなにかを感じるってなかったんで、すっごく心地よくて」
「そ、そうか……」
「やはり蓼食う虫も好き好き、だな。君はいい後輩に慕われたと思うよ、比企谷。失望させないようにするんだぞ?」
「……うす」
優しい母親のような声を聞いて、頼もしいヒーローのような声を聞いて、それで僕は作文の続きを思いつき、隠すことなく書きなぐる。
やはり師匠の青春ラブコメはちょーかっこいい。
これで一巻分は終わりです。
つたない文章ながらお付き合いいただきありがとうございました。
ところどころカットしながら、オリジナル展開をいれていったのですが、やはりオリジナル展開は難しい部分もあり、非常にお見苦しいものをお見せしてしまいました。
そんな中で、ここまで書き終えたられたのは読んでくださった方のおかげに他なりません。
自分自身、ここまでの方に呼んでいただけた作品はこれまでございませんでしたので感無量です。
これからは更新ペースは落ちるかもしれませんが必死に書いていきたいと思いますので、これからもお読みいただけると嬉しい限りです。
また宣伝と致しまして、ペンネームで調べて頂けると小説家になろう様の方位僕のオリジナル小説の方も見つかりますのでぜひそちらもお暇な時にお読みください。
最後に、この作品を読んでくれ、絵を描いて応援してくれた友人に心より感謝したいと思います。
さて、これで筆を置かせていただきます。
もちろん、完結ではないのでこれからもよろしくお願いします。