やはり師匠の青春ラブコメはちょーかっこいい。   作:黒虱十航

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遅くなりました。ごめんなさい……
残り1、2話で三巻分も終わりになると思います。
すみません。
それと、奉仕部、八幡アンチじみている部分もあるのですが
すぐに修正されますのでアンチヘイトはなしでいきます。


今回は、八幡サイドが基本です。


奉仕部

「すまない、今日も来るつもりはないのか?」

「まあ。ってか、俺、今の関係、全部断つつもりなんで」

「そうか。じゃあその前に一つくらい願いを聞いてくれてもいいだろう?」

「……まあ、色々やってもらいましたからね。正直、そのために電話出たんで」

「よかった。では一つ願いを聞いてくれ。君には――」

 

 特別棟の四階。奉仕部はそこで恙なく行われていた。

 部室は静かだった。

 由比ヶ浜はいる。けれど、由比ヶ浜も今は話すことなく、スマホを操作しているし、雪ノ下はいつものように本をめくっている。今日も小難しい文庫本なのだろう。

 そういや、最近はずっと騒がしかったな。本当に最初の最初は俺と雪ノ下だけで、ずっと沈黙が流れ、それ以外の時間は罵倒し合うだけあった。

 それがいつの間にか、日木が入部して、由比ヶ浜が入部して、気づくと騒がしくなっていた。一、二ヶ月の間のことでしかないのに、随分と懐かしくなり、俺がぼーっとドアを見ていると、それを見透かしたように由比ヶ浜が口を開いた。

「ハチ、来ないね……」

「そりゃそうだろ。あいつはもう、部員じゃない。来るはずがない」

「そ、そっか……あ、あのね。今日、サブレの散歩してたらハチと会ったよ」

 泣きそうな顔で由比ヶ浜が言う。ちくり、と胸が痛み、雪ノ下を見る。

 雪ノ下はひっそりと小さなため息を吐いていた。

「彼のこと、本当にこれでよかったのかしらね」

「いいんじゃねぇの?」

 少なくとも俺は、間違っているとは思えない。

 だが雪ノ下は、曖昧な顔で首を傾げた。

「そうなのかしらね。ええ、そうなのだと思うわ。けれど、なんでしょうね……何かを間違えた気がするわ」

「随分とぼんやりしてるな」

 雪ノ下雪乃がそんなことを言う奴だとは思わなかった。彼女はもっと、理論的に言葉を弄する人間だと思っていた。いや、紛れもなく初めはそうだったはずだ。俺と出会ったときは。

 けど、それは過去の話だ。今の彼女は少しずつ変わっている。変わることをいいことだと手放しに賞賛する趣味はないが、少なくとも今、彼女に生じている変化はいいものだと思う。

 その変化を――言い換えるのなら成長を雪ノ下に与えたのは誰なんだろうか。少なくとも俺ではない。俺にはそんな力はない。それに雪ノ下を成長させるとかんな狂ったことを俺はしない。これ以上成長したら魔王になるだろ、こいつ。

 俺が雪ノ下が魔王になる姿を想像して慄いていると、由比ヶ浜が俯いて深いため息を吐いた。

「まぁ、こういうのはあれだろ、一期一会ってやつだな。出会いもあれば別れもある。それを悲しむことはねぇよ」

「イチゴ? よくわかんないけど、あたしは悲しい、な。ハチ、面白かったもん」

「そう、ね」

 由比ヶ浜だけでなく、雪ノ下でさえ日木の不在を悲しんでいた。そのことに驚く。雪ノ下だって、日木の退部には賛成していたはずなのに。それに彼女は分かっているはずだ。人生は所詮一期一会で、ずっとつながりなんてないことくらい。

 君子危うきに近寄らず、来る者は拒み、去る者は追わず。たぶんそれがリスクを負わない唯一の方法だろう。

「人と人とに繋がりなんて案外あっけないものよね。些細なことで簡単に壊れてしまう」

 どこか自嘲気味に雪ノ下が呟く。その口調は、俺が思っていたより悲しそうなものだった。

 すると、唐突に戸がガラっと引かれた。

「だが、些細なことで結ばれもするのだよ、雪ノ下。まだ諦めるような時間じゃない」

 やたらとかっこいい台詞とともに白衣を翻しながら俺たちのもとへと歩いてくるのは誰あろう、俺へのオフェンスに定評のある平塚先生だった。

「先生、ノックを……」

 平塚先生は雪ノ下の苦言などまるで気にしないふうで、部室を見渡す。

「ふむ、日木が退部してからもう一週間か……。今の君たちなら自らの力でどうにかすると思っていたのだが……。さすがだな」

 何をどうにかするのか意味が分からないが、平塚先生は感心したような口調で言った。

「あの、先生……。なんか用があったんじゃ」

「ああ、それだ、比企谷。君には職場見学の時に言ったな。例の『勝負』の件だ」

 勝負、と言われて俺はなんとなく思い出す。確か、俺と雪ノ下、いったいどちらがより人に奉仕できるかロボトルファイトっ! というやつで、ロボボンじゃないほうだ。

 その勝負のルールについて一部仕様の変更をするとかゲーム会社みたいなことをこの間、平塚先生は言っていた。ちなみに、その職場見学には日木もついてきていた。

「今日は新たなルールの発表に来た」

 平塚先生は腕を組み、仁王立ちになった。俺と雪ノ下、そして話についていけてない由比ヶ浜も姿勢を正して聞く体勢に入る。ああ、そっか。由比ヶ浜、勝負の件知らねぇんだな。

 俺たちを交互に見つめ、平塚先生は充分なためを作る。そのゆっくりとした挙動が逆に緊張感を掻き立てた。こくっと自分の喉が鳴ったの意識してしまうほどの静寂。

 流れていた沈黙を破壊するように、平塚先生は厳かに口を開いた。

 

「君たちには殺し合いをしてもらいます」

 

「……古い」

 最近、金曜ロードショーでも見かけねぇぞ。

 というか、最近の高校生はその映画知らんだろ。と思って雪ノ下を見ると、雪ノ下は路傍のゴミでもみるような冷たい眼差し平塚先生に向けていた。由比ヶ浜ははて、と首を傾げている。

 二つの真っ直ぐな視線を受けて、平塚先生は誤魔化すように咳払いをする。

「ん。んんっ。と、とにかく! 簡単に言うとバトルロワイヤルを適用するということだ。三つ巴のバトルロワイヤルだから、共闘もありだ。そう考えれば、日木のやったことを糾弾する理由なんてないと思うがね」

 結局言いたいのはそれじゃねぇかよ……だが、確かにそうだ。バトルロワイヤルなら、別のプレイヤーを誘導してゲームメイクするようなキャラがいてもおかしくない。

 由比ヶ浜は平塚先生の言葉を受けて、ぱぁっと明るい表情になる。

「先生! それって、ハチは退部しなくていいってことですか?」

「ああ。私は日木に退部を命じてはいない。退部届けも受理していないしな。だから、彼が意志をもって部活に参加するのであれば、受け入れよう」

 意志をもって部活に参加するのであれば、か。どうやら平塚先生は現状の深刻さを理解しているようだ。おそらく、由比ヶ浜よりも。

「じゃ、じゃあすぐに戻ってきてもらえるよう言います!」

「いやそれはやめたまえ。私は退部届けを受理したと彼に言っていない。それだけで充分だ」

「え、でも……」

 由比ヶ浜がその言葉になんと続けようとしたのか俺は分からない。

 ただ。少なくとも平塚先生にとって認められるものではないのだろう。だから由比ヶ浜は口を閉ざした。

「君たちは何か勘違いしていないかね?」

 それは問いかけでも確認でもなく、調告であっただろう。疑問の形をとりながら暗に俺たちの罪科を責め立てるためのものだった。

 答えられず、俺たち三人が黙ると、平塚先生はなおも続ける。

「ここは君たちの仲良しクラブではない。青春ごっこならよそでやりたまえ。私が君たち奉仕部に課したものは自己変革だ。ぬるま湯に浸かって自分を騙すことではない」

「「……」」

 きゅっと唇を噛み締めて雪ノ下と由比ヶ浜がそっと目を逸らす。

「奉仕部は遊びではないよ。れっきとした総武高校の部活動だ。そして、君たちも知っての通り、やる気がない者に構ってやるのは義務教育までだ。いる場所は自ら選択するべきだ。それができないものは、居場所を失う」

「……つまり、日木くん本人が戻りたいと思わなければいけないと?」

「その通りだよ、雪ノ下」

 短く、ただ一言だけを言い残して平塚先生は去っていく。ただ、振り向きざまに見せた表情はどこか笑っていた。

 平塚先生が去り、俺たちは顔を見合わせる。

「なぁ、どうするつもりなんだ?」

「さぁ? ……申し訳ないけれど、思いつかないわ」

「だよな」

 俺も雪ノ下も、こういうのは苦手だ。なんなら俺は、このままでいいとも思っているし。

 その意味では今回の件を一番重く捉え、人と上手くやることに関しちゃプロと言ってもいい人物がここにいる。

 その人物は、というと平塚先生が来る前よりもずっと暗い顔をしていた。

「由比ヶ浜さん?」

「…………」

「由比ヶ浜さん?」

「…………」

 案じるような雪ノ下の言葉を由比ヶ浜が無視しているという現状があまりにも奇怪に、俺には映る。由比ヶ浜なら、雪ノ下に名前呼ばれただけで喜んで三周回ってワンしそうなもんだが。……いや、さすがにそれはしないか。

 だが、それにしたって由比ヶ浜の様子がおかしい。喩えて言うなら、体調悪い犬みたいな。

 ……それで思い出した。

 日木宗八という人物は犬に似ている。気になることがあれば目を仔犬のようにきらきらさせるし、可愛げがある。欲望に忠実だ。

 でも、それは一面だ。その一方で彼が見せた知的な面は、犬というよりも狼のようだった。狼について詳しいわけじゃないからイメージだけどな。

 本物の日木宗八をどうにも掴めない。元々、あいつのことを知っていたわけではないのだから、今更そんなこと言う必要もないが。

「ゆきのん、ヒッキー」

「あ?」

「何かしら、由比ヶ浜さん」

 ふいに由比ヶ浜が真剣な口調で言う。

「あのね、もしかしたら私たち、ハチにとって邪魔なのかもしれない。でもさ……」

 言葉が途切れたことを不思議に思い由比ヶ浜を見ると、彼女の目からは涙が零れていた。途端、俺の頭は真っ白になる。教室で三浦とかとやってたときにも涙目になっていたが、今回のはそれの比じゃないくらいに泣いている。

「だから……っ、そのっ……あのあ、そ、の」

 言葉にならない声に、雪ノ下は申し訳なさそうに微笑んだ。

「そうね。私に考えがあるわ。比企谷くん、由比ヶ浜さん、協力してくれるかしら」

「まあ、別にいいけど」

 正直、まだわからない、日木に戻ってきてほしいと思っていないのは確実だと思うのだが、でも協力したくないとも思えない。

 まあなるようになる。由比ヶ浜が泣いているのも、なんか嫌だしな。

 

 ――何故だろう。

 あれだけ偽物臭いと思っていたのに、今の奉仕部は本物に見える。




短くてすみません。
本当なら戸塚くんとのおでかけやわんにゃんするイベントがあるんですが、
そこもまた、割愛します。
この作品は必要なところを凝縮するスタイルですので。
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