やはり師匠の青春ラブコメはちょーかっこいい。   作:黒虱十航

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日木宗八は見極める。

 日曜日。

 梅雨の晴れ間とも呼ぶべき晴天だった。今日は奉仕部の面々と出かけることになっている。

 時刻は十時ちょうどになろうかというところだ。少し早く来過ぎただろうか。つい、いつもの癖で早く来てしまった。

 まさかあんだけ拒絶してきた雪ノ下先輩から「由比ヶ浜さんの誕生日プレゼントを買いに行くのに付き合ってくれないかしら」なんて言われるとは……。

 どういしょう……やっぱり断ろうかな……。などと思うこともあるが残念な事に僕にそんな勇気があるはずもない。先日は家出までした僕なわけだが、家出や自殺、退学といった何かを断つような行為というのは勇気がいるものなのだ。……何が言いたいかって言うと、あの時はちょっと頭に血が昇りすぎたわけであって、今は家出はまずいしこことの繋がり断つのもまずいってことになったのである。

 そんな意気地なしの僕が雪ノ下先輩の誘いを断れるとでも? まさか、ご冗談を。あの日、由比ヶ浜先輩を睨みつけ、あまつさえキレたお詫びもしなければならない。それに平塚先生に頼まれたことを遂行するためにも奉仕部に戻りたいのでこれまでの非礼のお詫びもしなければならない。そんな諸々のことをしなければならない僕は、この場に来るしかなかったのである。

 とはいえ、一人ではない。一人は恥ずい。だから強力な助っ人を呼んだ。

「っていうか、そのパーカー着てきたんだね。かわいい……」

 強力な助っ人――ここは僕の服に対し言う。

 今、僕が着ているのはこの前の耳月パーカーだ。正直ださいデザインなのだが、なんとなく最近、これを気に入ってしまった。僕らしい感じがするのだ。

 だが、それは服の印象と僕の印象が同じということを示すものではない。パーカーは可愛いが、僕は決して可愛くないのだ。

「んまね。ぶかぶかだから楽しいし」

「はちくんらしい♪」

 んー、やっぱりここの笑顔は和むなぁ。

 おかげで雪ノ下先輩と比企谷先輩が来ても正気でいられる。

「お待たせ」

「待たせたな」

 涼やかな一陣の風を引き連れて、雪ノ下先輩がゆっくりと歩いてくる。その横には少し背が曲がった比企谷先輩がいる。

 なんかこうして見ているのに一切カップルに見えないあたりが流石だ。

「……ここがいたんで暇しませんでしたから」

「そ。なら良かったわ。櫻木さんも、付き合わせてしまって申し訳ないわ」

「いえいえ、大丈夫ですよ。純粋に、はちくんと出かけたかったですし」

 流石のコミュ力だ。他人に対してのみ発揮されるここのコミュ力が発揮される時点で、ここの中で雪ノ下先輩は完全に他人扱いされているわけなのだが……ま、それが変わると急に喋れなくなるのでこのままでいいだろう。

 二人の姿を和やかに見ていると、隣に薄暗い気配を感じた。見ると、そこには比企谷先輩がいる。しかも、なんか気まずそうにしてる。

「…………」

「…………」

 お互い、何も言わない。ただ、視線だけは合う。近づくことなく、離れることなく。そんな微妙な距離感だった。

 だがいいんだと思う。

 今の比企谷先輩ははっきり言って尊敬すべき人ではない。むしろ、期待はずれな人だ。弱く、偽物を許容する人なら僕にとって嫌悪すべき対象だ。

「そろそろ行きましょうか」

「ああ、おう」

「はいっ!」

「……うす」

 だからこそ、見極めなければならない。そのために僕は来たのである。

 

   ×  ×  ×

 

「一体、何を渡せばいいのかしらね……」

「んー、わかんないですけどさすがに事務用品は由比ヶ浜先輩、喜ばないと思いますよ……私、よく知らないですが」

「そうね……」

 ……見極める以前の問題だった。

 やべぇな、この人たち。

 雪ノ下先輩は由比ヶ浜先輩へのプレゼントで事務用品探しに行くし、服に行ったかと思えば頑丈さで判断しては売ってる服、却下するし。

 比企谷先輩はと言えば、服屋入るだけで不審者扱いされるし。あれ、僕とここで助けにいかなきゃマジ警察来てたからな。雪ノ下先輩、助けにいかないし。

 なんかなぁ、この感じ。すっげぇ肩透かし感。

「……私、由比ヶ浜さんが何が好きとか、どんなものが趣味とか、……知らなかったのね」

 そのため息は彼女にしては深く、物憂げなものだった。

 知ろうともしてこなかったことを悔いているのだろうか。

 もしそうなのだとしたら、それは彼女の中で大きな成長かもしれない。由比ヶ浜先輩はやはり、雪ノ下先輩の中で大きな存在のようだ。

 暗い表情の相手にここは何も言わない。この状況では、まだ他人であるここは何かを言うべきではないと思ったのだろう。

 僕も何かを言うつもりはない。慰めるとすれば「そんなことないよ」とかになるが、そんな馴れ合いは排斥したいのだ。

「別に知らなくていいだろ、むしろ半端な情報だけで知った顔されたら腹が立つ。千葉県民に向かって、よその落花生送るようなもんだ」

「例えが千葉過ぎてわからないのだけれど……」

 雪ノ下先輩には伝わらなかったか……ま、ちょい千葉過ぎるのでしょうがない。

 ま、要約してしまえば餅は餅屋みたいなことだ。違うか。違うな。

 とはいえ、すごいと思う。僕の頭が足りなかったからだろうが、そんなこと言うなんて思いつきもしなかった。慰める気なんかなく、ただの独り言のような感じがしてすごくいい。そういうところは、装ってない、本物に見える。

「要するに、相手の弱点を突くんですね。由比ヶ浜先輩だと……料理とかですかね」

「あいつの場合、弱点どころの騒ぎじゃないけど、まあはまってるとか言ってたしいいんじゃね?」

「そうね……じゃあ探しに行きましょう」

 言うと、雪ノ下先輩は服屋のはす向かいにあるラグジェリーショップの隣にあるキッチン雑貨の店へと消える。ラグジェリーショップをわざわざ挟んだのは、別にエロいとか思ったわけじゃない。こんなのより、駅ビルとかの下着ショップの方が数倍エロい。

 そんなことを考えている間に、比企谷先輩と雪ノ下先輩は買う物を決めていた。後、決めていないのは僕くらいのものだ。なんなら、ここも付き合いで買ってるし。

 さてはてどうしたものか。色々言っていたが、僕もここ以外にプレゼントするというのは初めてだ。困って、右手の巾着をくるくる回すがそんなんでいい案が出るはずもない。

「あれー? 雪乃ちゃん? あ、それに日木くんもいるじゃん」

 無遠慮な声が僕の思考を遮る。

 ものすごく聞き覚えのある、ものすごくやばい人がものすごく近づいてきている。ものすごくやばい……やばいのは僕の動揺具合だった。

 艶やかな黒髪、きめ細かく透き通るような白い肌、そして、整った端正な顔立ち。輝きを放ちながらも、嘘くさいその笑顔にここでさえ営業スマイルを崩す。

 声をかけてきたのは、とんでもない美人だ。ここが天使なら、彼女は悪魔と言っていい。後ろにわらわらと来ていた人達に「ごめん、先行って」と拝んで謝るような仕草を送った。

「あ、お姉さま!」

 僕は大切な大切な情報源である雪ノ下お姉さまの元に駆ける。一応、こことも面識があり、僕は雪ノ下お姉さまに何があろうと恋愛感情を抱くことがないと理解してもらってなければできないことだ。

「おー、日木くん、久しぶりだね。何してるの? はっ――ダブルデートだな。このこの」

 雪ノ下お姉さまはうりうり~と雪ノ下先輩を肘でつついて、からかい始まった。ほらな。結局、お姉さまにとって僕はついででしかない。目的は妹の雪ノ下先輩だ。

「えっと、比企谷先輩に紹介すると、こちら雪ノ下先輩の姉の雪ノ下お姉さまです。僕はお姉さまによくしてもらってました」

「へぇ~、比企谷くんって言うんだ! 雪乃ちゃんの姉、陽乃です。雪乃ちゃんと仲良くしてあげてね」

「はぁ、何をよろしくするか分からないですけど」

 嵐のような人だ。ばっちり比企谷先輩も引いてるし。っていうか、どうしてこのモードのお姉さまと仲良くできないのだろう。これくらい勢いあった方が、流せていいだろうに。

 雪ノ下お姉さまは名前の如く朗らかで明るい人だ。……少なくとも、社会にはそう見せている。雪ノ下先輩と顔が似ているのに印象が違うのはその仮面のせいなのだ。こっろころつける仮面を変えるからたちが悪い。

 そうこうしている間にも、お姉さまは比企谷先輩に迫っていた。雪ノ下先輩との関係をからかっていたらしい。雪ノ下先輩に咎められてちょっと落ち着いたけど。

「比企谷くん、雪乃ちゃんの彼氏になったら改めてお茶、行こうね。じゃ、またね!」

 最後にぱあっと華やぐような笑顔を浮かべて、お姉さまはばいばいと胸の前で小さく手を振った。そしてとてとてと去っていく。

 お姉さまの放つ輝きから、比企谷先輩は目を逸らさず、最後まで見送っていた。

 そして、僕たちもとぼとぼと歩きだす。

「お前の姉ちゃん、すげぇな……」

 比企谷先輩の呟きに、僕はチャンスだと思った。

 ここで、比企谷先輩が師匠と呼ぶに値するか見極めよう。そう決めて、僕は二人の後をここと一緒にとぼとぼ歩く。

「姉に会った人は皆そう言うわね」

「だろうな、わかるわ」

「ええ。容姿端麗、成績最高、文武両道、多芸多才、その上温厚篤実……いよそ人間としてあれほど完璧な存在もいないでしょう。誰もがあの人を褒めそやす……」

 あー、そんな一面もあったっけか。なんかお姉さまのこと知りすぎて、そういう面を完全に忘れてた。

「はぁ? そんなのお前も対して変わらんだろ。遠まわしな自慢か」

 ――見込みアリ、だな。

「……え?」

「俺がすげぇっつってんのはあの、何? 強化外骨格みてぇな外面のことだよ」

「……さすがです、師匠! その腐った目だからこそ見抜けるものもあるんですね!!」

 二人の会話に割り込むように僕は言い、そしてお辞儀をする。そんな様子を、二人は驚きながら見ていた。

「ひでぇな。……ま、褒めてるんだろうけど」

「もちろん褒めてますよ! 絶賛です! ……師匠ならもしかしたら僕以上に、お姉さまに踏み込めるかもしれないですね」

「は?」

「……いえ、一身上の都合です!!」

「お前、好きだな氷菓」

「まあ」

 今はまだ、誤魔化しておく。これを教えるのはプライバシーの侵害だ。

 それに、確信した。師匠なら雪ノ下家の哀れな鳥、二羽を飛び立たせることができる。

「さて、と。じゃあ、もう解散しましょう。僕は個人的に買いに行くので。明日は部室行きますね。そこで色々話します」

「そう……わかったわ。ではまた」

「おう、また」

「先輩方、またいつか!」

 僕とここは、二人と別れのっそりと歩いていく。

 向かう先は時計店。エンターティナーな僕のサプライズの準備である。

 

 結論。

 奉仕部はいつか本物を見せてくれる。




 お久しぶりです。
 忙しくなってしまって、なかなか書けていませんがひとまず、次回で三巻は完結予定です。
 というか書いている間にも勉強したほうがいいんですが……できるだけ書き続けるので見捨てないでいただけるとありがたいです!

 それから、小説家になろうのほうでも同じペンネームで投稿しています。
 こちらは予約投稿で、今は執筆していないのですがその分、確定した量を投稿できるので、暇つぶしにそちらをお読みいただけるとありがたいです。

 それでは、またいつか。
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