やはり師匠の青春ラブコメはちょーかっこいい。   作:黒虱十航

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短いですが、完全オリジナルです。
お待たせしてすみません!


四巻分
誰しもに過去は存在しうるが私は今を納得していない。


 色んなことがあったわけなのだけれども、なんとか僕は奉仕部に戻る事と相成った。

 と、思っていたらいつの間にか夏休みになっていましたよ、はい。

 夏休みなので基本的に師匠や雪ノ下先輩、由比ヶ浜先輩に会うこともない。確か、一度合宿をするらしいのでそのときには会うことになるが、それ以外では特に予定はない。

 そうなると、夏休みが悪いように見えるが案外そうではない。むしろ、僕は夏休みを待ち望んでさえいた。

 ふと思い出すのは去年の夏休みの地獄のような日々。

 朝起きて勉強。飯食って勉強。夜もギリギリまで勉強し、空いた時間で必死になってラノベ執筆をする。こことメールをしていたのでそれが心の支えだったが(相手が心なだけにな)、ぶっちゃけそれでも日々たまるストレスを抱え、気温が上がっていくばかりの夏休みは酷かった。

 まあ、それ以上の修羅場を僕は知ってるんだけどな。

 ここと付き合うよりも前、毎日何万文字と書いた日々。あの時は、本当に苦しくてしょうがなかった。頭がくらくらしたし、文章の書きすぎて吐くかとさえ思った。

 そう考えると、今年の夏は優雅なものである。

 あの頃と違い、量産よりも一つの目標に向かってペースを守って書くようにしているし、勉強をする必要もあまりない。故に、パラダイスなのだ。

「んー、超おいしい! ここ、りょーり上手い!!」

 幸せな気分で玉子焼きを口に運ぶ。舌に触れ、歯で噛んで、そうして感じるそこはかとない甘さに心を休ませる。

 純粋な技量だけではない。これは、作り手の海より深く、広い愛がなければ決して生み出すことのできない甘さだ。

 作り手の方を向けばそこには、太陽のように眩しく、小動物のように可愛いここがいる。この状況を幸せ、と呼ばずして一体何を幸せと定義すべきなのか、僕にはわからない。

「そう? よかったぁ……頑張ったんだよ!」

「そっか。超うれしい」

 と、言ったのは本音。

 実際、嬉しいしこの状況は幸せだ。

 ただ、それを伝える時の自分の口調を作っている、という感じは否めない。如何せん慣れていないのだ。人と付き合うこと、以前に人に心を曝け出す、という事自体に。

 それでも幸せなのは事実だ。

 折角の夏休みとはいえ、毎日ここと遊んでいるわけではない。僕は暇だが、ここはそれなりに忙しいのである。メールをできる時間も減ってるし、出かけられるペースも全盛期に比べればぐっと下がった。それでも目指したい夢のために、ここは週に一度くらいのペースでスクールに通っている。更に言えばその費用を払うためにバイトもしているので……やばい、その間を縫ってデートしてくれてるとか嬉しすぎる。

 そんなことを考えている間に、呆気なくお弁当を食べ終えてしまった。口にかすかに残っている気がする幸せを何度も噛み締めて、お弁当箱を彼女に返す。洗って返すべきなのだろうが、僕、そういうスキルないんだ。許せ。

 

「次、どこいこっか」

「んー、そうだなぁ。本屋とか?」

「だね! 本屋本屋♪」

 女子とのデートで本屋、というのはもしかしたら珍しいのかもしれないが僕とここの間ではこれは普通だ。というか、僕たち、付き合った頃から必ず本屋には寄っていた。

 ふと、付き合い始めた頃の事を思い出して持っていた夏用の巾着をくるっと振り回す。春に平塚先生に見せたものではない巾着だ。……これも、ここのお手製である。

「ほんと、くるくる回すの好きだよねっ!」

「んっ、まあね。だってほら、なんかいいじゃん?」

「なんかいいって、すっごい子供! 可愛いなぁ」

「いや、だから可愛くはないでしょ」

 言いながら、手を繋いで町を歩く。暑い、すごく暑いが彼女といるのでそこまで暑いとは思わない。これぞ愛の力。

 実際問題、一人でいるときの方が暑さというのは気になるものだ。「暑い、暑い」とか言う奴が近くにいれば別なんだろうけど、少なくともここはそういうタイプじゃないからな。そう考えると、ここは最強の清涼剤なのかもしれない。

「そういえばさ、夏といえばフェスタ、楽しかったよね」

「あぁ……」

 まるで暑さにやられてしまったかのようにぼんやりと、僕は声を漏らした。

 過去の話をするとき、人はどこか遠い目をする。横に立つ彼女もその傾向があるらしく、遠い目をしていた。フェスタ、というのは僕たちの中学で行われていた文化祭の夏休みにやる小規模版、みたいなものだ。

 部活に参加している生徒くらいしか参加していなかったので、師匠は知らないのだろうが、僕もここも、そしてあいつも去年、一昨年のフェスタでは色々とやった。

 あいつ、と言い続けるのも変か。思い出すと胸がちくりと痛むのでこれまで名前は恣意的に記憶の奥底に追いやろうとしていたが、これ以上は伏せたところで無駄だ。あいつのことを最近、よく思い出すし。

 省木 能力(はぶき ちから)は、僕が中学の時、所属していたアニメ研究部の部長にして、僕が〝天才〟と心の底から言える相手だ。

 彼の才能は多岐に渡るが、一言で言うのなら人生の才能と言えるだろう。勉強だけは別だが、勉強以外のことでは常人を遥かに超える能力を持っていて、勉強だって卒業の頃にはかなりできるようになっていた。

 そんな彼が多くの人に信頼されていたが故にそれまで文集を作ったことさえなかったアニメ研究部が文集を作ることになった。300部配った創刊号、受験の中作った第二号。それらは今でも、僕の宝箱の中だ。

 それにここはフェスタで演劇とかバンドをやっていた。

 演劇は軽く参加させてもらったが、バンドは一切関与せず客として見たがあれは本当にすごかった。息を呑む歌声、ギター、ピアノ。あのなんとも言い難い空気を僕は二度と忘れない。

 そんなことがあったフェスタだったからこそ、思い出した……わけではない。

 失ったものがよぎってきたから思い出したのだ。

 上手くやれなくなって、省木と仕事の連絡しかしなくなったこと。他の、仲良くやっていたつもりだった人たちとは一切関わっていないこと。少しずつ、過去の記憶が薄れつつあること。

 そんなことを思い出したから、熱に浮かされたような声を出したのだ。

「とーちゃく♪」

「だね。ってか、ここの方が子供ってぽいでしょ」

「子供ですけど? なにかぁ?」

「……いや、高校生で子供とは言えないでしょ」

「うっ、確かに」

 まずった、と言いたげな顔をするここが本当に愛おしい。本のわくわくする香りと、ここの満面の笑みが失ったものを埋めてくれている気がした。

「ま、そういうところも好きだけどね」

「うっ……うぎゃー♪」

 ぼやくと、ここは全力で照れて繋いだ手を上下に激しく振った。なに、それどこのルロイ修道士だよ。あれ、割と面白かったから好きなんだよなぁ……受験期間じゃなくなったし、普通に買って読もうかな。

 あの頃とは色んなことが違うから、もしかしたらあの時とは違う感じ方をするのかもしれないしな。

 ――そう、本当に何もかも違う。

 省木との関係性も。社会との関わり方も。ここも変わった。そして、おそらく、僕も大きく変わったのだ。

 それでも譲っていないものは確かにあって、信じているものは確かにある。

 だからそれが本物ならいいと思った。

 

 デートが終わり、僕はとぼとぼと家に帰る。

 総武高校からは少し遠い我が家は、ちょうど近くに小学校がある。

 小学校は明日まで学校なのだろう。四時近くなのにランドセルを背負った小学生がちらほらいる。

 小学生でも、やはりグループというのはあるもので、男女混合グループこそ見つからないものの、女子同士の集団、男子同士の集団というのは色んなところに見受けられる。

 その中で一人、俯きながら歩いている少女が目に付いた。

 髪は雪ノ下先輩くらい。艶やかな髪とそれなりの器量からして、クラスでも美人な方なのだろうが……まあだからといってグループに入れるわけではない。ソースは雪ノ下先輩。ここはうまくやっていたが、雪ノ下先輩はぼっちだからなぁ。

 だがまあ、一人でいることは別に悪じゃない。むしろ、意味もなく群れるよりいい。

 

 ――けれど彼女からは昔の僕と同じ、〝いじめ〟の臭いがした。

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