予告投稿も考えましたがかけたぶんをどんどん投稿してもらったほうが僕の立場ならありがたいので。かけたぶんをどんどん投稿します。よって、今日は三十分おきに登校して行く予定です。
では、どうぞ。
平塚先生から何かを話されるわけでもなく、僕は一人でバンガローに行った。
布団諸々の準備を済ませ、僕は外に出ることにした。まだ、きっと師匠達は話し合っている。葉山先輩の愚行は雪ノ下先輩や師匠が止めてくれるだろうから、とりあえずそちらは任せていい。
じゃあ、僕は何をやるか。
答えを言ってしまうと、何もしない。少なくとも鶴見のためには何もしない。
やるとすれば、それは僕が僕のためになることをするだけだ。
これまでもそうだった。やりたいことをやった結果、僕は一度奉仕部を退部ギリギリになった。それでもなんとかなったのは、僕が折れたからではない。やりたいことを信じ続けたからだ。
だからこそ、今僕は、奉仕部の勝負の審判兼監視員をやっている。
奉仕部を隔離病棟だとするのなら、僕は差し詰めそこの職員だ。あるいは、医者。だから、それがよくないと思えばやる必要は無い。
じゃあ、本当に僕はこの合宿を何もせず、ボランティアだけして過ごすのか。
それもまた、否である。
それは僕の性に合わない。それに、この件に関しては僕もちょっと色々考えたいことがある。それだけだと葉山先輩の欺瞞とやっていることは変わらないし、よくないが、とりあえず今は考えるしかないのだ。ちょっと、自分の中で答えが出ない。
「どうすっかなぁ」
長い事考えていると、スマホが震えた。ここから、色々と情報が送られてきたのだろう。
『大丈夫?』
『おう、問題ない』
『ならよかったぁ。ひやひやしたよ!』
『ごめんごめん。でもほら、色々あったから。で、どうだった?』
『えっとね、雪ノ下先輩と三浦先輩? が、喧嘩しちゃって話は進まなかった』
『だろうな。ちょっと、頭を整理したいな。来れる?』
『うん! あ、いろは連れていってもいい? 三浦先輩泣いちゃってきまずいから』
メールを見て、少し考える。一色か……まあいいだろう。一色はあれで観察眼には優れてるし、色々情報をもらえるかもしれない。
『わかった。連れてきてくれ』
自分の今いる場所を地図で添付して、送る。
高原の夜。実に静謐な夜だ。理性的にものを考えるにはふさわしい。
少し待つと、ちょっと泣きそうなこことそれを見て自然に笑う一色がやってきた。うん、一色いなかったら絶対、ここ怖すぎて来れてなかったな。色々、感謝をしたい。まあ口で言うと調子に乗るし、黙っておくけど。
「ここ、大丈夫?」
「うん……怖かったぁ」
怯えてるここも無茶苦茶可愛い。真剣なムードだったけど、一気に和む。それは一色も同様なようで、先ほどまでの硬い表情は消えていつもの猫被らない一色モードになっていた。
うむ、これなら色々考えられそうだ。
「そっかそっか。いい子だなぁ」
「なんかすごい見せ付けられてるんですけど……まあココが幸せならいいですけど」
一色がちょっと呆れて言うけど、しょうがない。一日中一緒にいた割にあんまりいちゃつけてなかったんだから。本来ならハグとかもしたいくらいだからな。
「んんっ、まあこことは後で戯れるとして。今はちょっと考えたい。けどその前に、一色。今日一日おとなしくしてた理由を教えてくれ」
尋ねると、一色は至極面倒臭そうな顔をする。それもまた、素である証拠。中学時代に一緒のグループだったからこそ垣間見れる一面だ。でも、だからといって全てがわかるわけではない。一色いろはという少女の核を僕は知り得ないのだ。
だから聞くしかない。
「……ちょっと観察したかったですよ、葉山先輩を。私、本当にこの人のこと好きなのかなって」
「なるほど。僕達に感化されたわけか」
「まあ、そんなところ。あざとさを教えてくれたココってやっぱり私の中じゃ憧れなんですよ。だから、私も本物が欲しくなった」
本物――胡散臭い言葉だ、と我ながら思う。
でも、僕はそれがほしくて、ここと一緒に追い求めてきた。それが、一色に伝播したのだとしたら、それは少なからずよいことだと思う。
だが一色の表情は暗い。理由は明快だ。
葉山先輩への気持ちが本物じゃない、と気づいたから。
「まあ、その辺は一色次第だからな。そこにとやかく言える立場じゃない。これに関しちゃただの興味で聞いただけだし。それより、本題だ」
本題、つまりこの合宿での僕の動き方。
「ああ、それで聞きたかったんですけど、どうしてあのタイミングでやらないとか言い出したんですか? ちょー空気悪かったんですけど」
「うんうん! それは私も思ったよ! 考えがあるのはわかるけど、あの後、すごい居心地悪かった」
「あー、それに関しては申し訳ない。その辺はあいつじゃないから、うまいことできないってことで許して」
掌を合わせて謝ると、二人とも何とか許してくれた。ありがたい。……まあ、おかげであいつのこと思い出しちゃったんだけど。
あいつならどうするだろうか、なんて考えるまでもない。こういう問題に関しては彼と僕とは意見が違えるのだ。きっと彼なら師匠達の立場に回る。でもって、僕が考え付かないような作戦で鶴見を救ってしまう。
では僕は――ああ、そうだ。僕は絶対に鶴見を救いたくない。
「僕は鶴見を救いたくない。というか、今回の件については鶴見の自業自得だ。他の子がいじめられているときは乗ったんだ、鶴見は。まあ、そういう空気だったのかもしれないけどな。それでも、空気に抗えなかった自分が悪い。それに、今回鶴見はこっちに助けを求めたわけでもない。自分から『助けて』って言えない奴は救われる資格もない」
「……日木くんってほんと理屈っぽいですよね」
「悪かったなっ!」
「大丈夫だよ、そういうところも好きだから」
「うぅ、ここぉ」
マジでここがマイスイートエンジェル過ぎる。まあ、それ以前に嫁なんだけどな。それはさておき、話を整理しよう。
「ちょっと、ここ、話を整理してくれるか?」
「え、うん」
僕は言葉で整理する能力が欠如している。だから、こういうのは文章をまとめるのが得意なここに任せるのがいい。餅は餅屋、である。
ここは任せられて嬉しいのかちょっと胸を張って整理しだす。
「鶴見ちゃんは孤立してる。これは、これまでにもブームみたいな感じで女子の中であったことだったけど、今回だけ長引いてる。それで、そんな鶴見ちゃんを見かけた葉山先輩を含む私達がなんとかしようとしてる。こんな感じかな。まとめちゃうとあっさりしてるよね」
「ああ、そうなんだよな。こういうのって、まとめると一言で、詳しく考えたときに急に複雑になるんだよ」
いじめとか、一言でいじめって言えるけどそこに色んな事情があるわけだしな。どんな事情があってもいじめはダメとか言うが、僕はあれに賛成できない。まあ、そもそもいじめ自体悪いと思わないんだけど。
「あ、今思ったんですけどどうして留美ちゃんだけ長引いてるんですかね。他の子をいじめてる時にいじめてたって理由なら留美ちゃんより早く別の子の時に長引いてた可能性だって十分にあるじゃないですか」
「あー、確かにな」
これ、案外重要かもしれない。何故、鶴見だけ長期にわたってハブられ、ひいてはいじめのような状況になっているのか。
「よくないけど、やっぱり鶴見ちゃんって大人っぽいし可愛いからそれで長引いてるんじゃないかな?」
「やっぱりそれなのかなぁ」
ここも一色も同意見らしい。なんか、女子の世界って怖いなぁ。
でもまあ、分からなくは無い。可愛いから潰す。ありがちな気がする。実際、鶴見はかなり可愛い部類だ。
しかし、しっくりこない。ここの意見だから否定したくはないし、実際全否定する必要は無いと思う。ただ、どこか違う。
どこだ、どこだ。
駄目だな、考えに行き詰った。どうするべきか……迷いどころだが、どちみちもうここや一色には帰ってもらった方がいいだろう。
「ありがと。後は、一人で考えるから先、二人帰ってくれ」
「え! う、うん……一人で抱え込まないでよ?」
「当然だって。だからこうやって呼んだわけだし」
「そっか!」
ここと、僅かな間の別れを済ませ、二人を見送りながら僕は考える。
今、鶴見は一体、どんな気持ちでいるのだろう。皆が修学旅行の夜っぽい会話をして入る中、一人眠っているかもしれない。もしかしたら、そんなこと予想して本の一冊や二冊、用意していたのかもしれない。
なら、僕はそんな鶴見を見て何を思うのか。
きっとそれは僕の根底に関わってくる問題だ。
僕は不登校児を嫌悪している。何故なら、彼らは完全に逃げているから。立ち向かっている人がいる中で、逃げている自分は弱く、不幸なのだと傲慢にも思っているから。
それを今回の件に置き換えるとどうだろう。
結局のところ、鶴見も自分を不幸だと思っている節がある気がする。彼女はこう言っていた。
『ほんと、バカばっか……』
『誰かがハブられるのは何回かあって……。けど、そのうち終わるし、そしたらまた話したりする、マイブームみたいなもんだったの。いつも誰かが言い出して、なんとなくみんなそういう雰囲気になんの』
『それで、仲良くて結構話す子がハブにされてね、私もちょっと距離置いたけど……。けど、いつの間にか今度は私がそうなってた。別に、何かしたわけじゃないのに』
ん? ちょっと待て。よく考えたら、今回がこれまでと比べて長引いてるだなんて、鶴見、一言も言ってないぞ? まして、僕達はほかの人がハブられたとき、どこまで酷かったか知らない。それはつまり、ほかの人もこれくらいだった可能性があるということだ。
更に、発言を思い出してわかった。鶴見は事情を説明していたとき、ちょこちょこ自分を庇うような発言をしている。
『いつも誰かが言い出して、なんとなくみんなそういう雰囲気になんの』
言ってみれば、言い出す人とみんなへの責任転嫁だ。
『私もちょっと距離置いたけど……』
自分はそこまでじゃないのだ、と訴えるための発言にしか思えない。自分は他の人より慈悲の心があるかのようだ。
いや、もちろん確証は無い。鶴見の言った事が事実で、事実を伝えているだけなのかもしれない。
でも、だとしても、ここまで自分を庇う発言をする、というのは異様に思う。無論これは僕の価値観だ。
が、考えるとそうな気がしてくる。
とはいえ、もう少し情報がほしいな。
結論を出すのは、それからにしよう。
僕はふと、夜空を見上げる。
星々の光は遥か昔のものだ、と聞く。それこそ幾星霜の時を超えて、昔日の光を飛ばしている。つまりは過去の残骸。
誰もが過去に囚われている。僕はたくさん先に進んだつもりだった。でも、ふと見上げればありし日のできごとが星の如く、降り注いでくる。笑い飛ばしても、消し去っても、それでも尚、僕の核になっているのだ。
きっとそれを変えることはできなくて、結局のところ僕は過去によってできているのだ。
不意に疑問が生じる。
僕と雪ノ下先輩は同じような過去を持っているはずだ。いじめられ、葉山先輩によって悪化させられたという過去だ。
なのに――僕と雪ノ下先輩はどうしてここまで違うのだろうか。