東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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13話 自暴自棄とコンボの力と西行妖

 揺らされる感覚を受けて、柊は深い闇から起き上がった。

 

 意識を取り戻した柊はなんとか、目を凝らして、眼前にいるのが霊夢達だと気づいた。

 

 

「ご……ね、……う……ボロに……」

 

 咲夜。何か呟きながら悲しそうな顔をしている。そして地面に降ろされた。

 

 ──もしかすると、今皆は何かと闘っているんじゃないのか? 

 

 柊の耳に確かに地響きのような音が聞こえて来る。皆闘っている。

 

 ──なら俺も立たなきゃ。

 

 

「柊!?」

「……うん、心配させてごめん。首打たれて意識失ってたみたいだけど……全然怪我はない」

「お前、そんなこと言って身体ボロボロじゃねえか! 休んどけ休んどけ」

 

 心配する魔理沙の静止を無視して、柊は空を司る王へと、変身する。

 

「──変身ッ!!」

 

 タカ! クジャク! コンドル!

 タ~ジャ~ドルゥ~~! 

 

「ハァアアッ!」

 

 鮮やかな、灼熱の翼を身に宿す。

 

 

「つ、ぅう……」

 

 痛みは感じないが、身体が疲れや体力の限界を超えないように抑制しているのだろう。柊はぎこちない動きをしてしまう。

 

「お、おい無理すんな! お前さっきまで生身であのでっけえ蔓に身体中締められてたんだ! 無茶だって!!」

「幸いどこも折れてなさそうだ。問題ない」

「問題大有りだこのバカっ! 話を聞けよ!」

 

 魔理沙の心配をよそに、柊はクジャクの背中の羽根を展開する。

 

「柊」

「ん?」

 

 霊夢は変に怒るような素振りも見せずに、その目は柊の全てを見抜くような瞳で見つめる。

 

「そのコンボってやつ、相当力食うんでしょ。あれ相手にしながらあんたのこと気にかける余裕はないからね」

「ああ分かってる」

「うん、なら良いわ。ちゃっちゃと倒すわよ」

 

 短い会話で済まし、霊夢は即座に振り向き直した。見る人が見れば、冷酷かもしれない。現に魔理沙は突っついた。

 

「お、おい!」

「柊が良いって言うんだから勝手にさせなさいよ。それで死んでも自己責任。違う?」

「や、優しくないぞ霊夢……柊はなぁ……」

「何?」

「う、……いや」

「アイツには私ができうる限りの特訓をつけたもの。そんなヤワじゃないわよ」

 

 霊夢はそれ以上話さずに、西行妖だけを見据える。それに応じて魔理沙も慌てて前へ向き直した。そして柊も前を向こうとした時、咲夜が横で言った。

 

「魔理沙も霊夢も今は異変優先、というかあの化け物退治優先だけど」

 

 柊の肩に落ち着けと意思表示する様に。手を乗せて言った。

 

「私がここに居るのは貴方を守る為なの、死なれたら困るわよ?」

「うん大丈夫、安心してください」

「ったく、どいつもこいつも……」

「ごめん、魔理沙。紫って人にどうしても聞きたい事があるんだ」

「はぁ、もういいよ。こーいう時大体私がいつも割食うんだ」

 

 話は終わったか? といわんばかりに西行妖はうねりを伴って力を増幅させて行く。

 

「ハァァアアア!!」

 

 何千の羽根が、孔雀が羽根をはためかせる様に西行妖へ刺さる。それは以前の柊が扱う火力とは見間違えるほどの威力であった。

 目に見えて分かる、これまでとは一線を画した衝撃。

 

「いいぞ!!」

「いや、だめだ、俺の攻撃はほとんど効いてない」

 

 妖夢が本領ではなかったとはいえ妖夢に一撃を入れられる程オーズの力を使いこなせる様になったのだ。コンボの力はさぞかし強大に決まっている。

 それに加えて霊夢達、妖怪退治のベテランも今回は味方と来た。

 状況は五分五分と言って良いだろう。

 

 今の所は。

 

「ええ、全然応えてないわね」

「あいつが力を集めてる最中だってんなら、どれだけダメージ与えても回復しちゃうんだろうな」

「どうにかして力を集めんのを邪魔するしかなさそうだな」

 

 柊の欲望を増幅させる力を紫づてに得ていた筈の西行妖は欲望を増幅させる性質を自分の力へと昇華させた。

 そして今、西行妖は完全に独立し、個として操られる事のないまま、春を奪い尽くすであろう。

 

 満開にさせたいという欲望を叶える為に。

 

 紫が西行妖には意思があるという致命的な見落としをしていたばかりに、結果として、状況を悪化させてしまう事となった。

 

 

「幻想郷の賢者が……こんな体たらく……死んでも死に切れないわ」

「ちょっ紫!?」

 

 スキマを使い、霊夢達の元へ辿り着いた紫。それを西行妖は最重要殺害対象とした。

 

「霊夢、柊を下げろ!」

「あんた……血が」

「おいって!」

「ええ、スキマで逃げる前に、暴れてた蔦に少し巻き込まれたわ……でもこの程度、妖怪()にはさしたる問題ではない」

 

 木をスキマで囲み弾幕を放つ、オールレンジの超高威力弾幕が西行妖の樹体を抉る。

 

「おぉ、すげえ、いいぞスキマ妖怪! でも、なんだ? もう柊は狙わないのか?」

「今の西行妖は命令を聞く状態じゃないから、取り込んでも消滅させてくれるとは限らないんでしょ? 紫が西行妖を祓う前に、中で柊が死んだら終わり。だから今迂闊には手を出さないはずよ」

「そう言うこと、全員離れなさい!」

 

 西行妖の抵抗か、数多の梢が鋭く唸り霊夢等がいる場所目掛けて飛ぶ。

 

「散り散りに避けましょう!!」

 

 

 地面に深く這う根っこの部分。その多くが土を破り、ボコボコと地上へと這い出る。その太く鋭い蔓が、紫目掛けて飛んだ。

 

「……くっ!」

 

 紫は俊敏な動きで迫る蔓を避けながら、西行妖の異変に気づいた。

 

「……なっ!」

 

 紫と、それ以外の人間達。という風に蔦を冥界に張り巡らせて分断させたのだった。

 

「ふっ!!」

 

 範囲型の弾幕をぶつけても蔦はすぐに修復されてしまう。

 

「なるほど、他の奴らは放置して、とことん私を殺したいってワケね。私に弄ばれたとでも思っているのかしら」

 

 こうして喋っている間にも大樹の根っこは地面から這い出て、紫と霊夢達を分断させる為の壁を分厚くさせている。

 

「これでもくらいなさい!!」

 

 両手を前に出し、巨大なレーザーを西行妖に浴びせ樹体を抉る。しかし修復できる西行妖にはまるで効かない。

 

「少し抉ったぐらいじゃ効かないのね」

 

 弾幕が直撃し生じた煙幕を払う数十本の蔓が紫に照準を合わせて疾る。再びスキマで移動した紫だが、紫は攻撃を避けることができなかった。

 

「っっぁ!!?」

 

 紫のスキマでの移動先を察知して攻撃されたからだ。

 

 ──なぜ、移動した先が分かるの……!? 

 

 身体中を貫通した数本の鋭い蔓は紫の身体を縛る。

 

「……く、これじゃスキマで逃げ……!」

 

 木の幹とほぼ同じくらいの巨大な蔓が、空中から振り降ろされる。

 

「!」

 

 避けなければ、身体中の骨が折れる筈だ。だが今の状況ではどうしようもない。

 

「ゴホッ……」

 

 式神を呼ぶ為の陣、もしくは詠唱も、結界術式も蔓が肺を貫いている所為で上手く唱えられない。完全に紫に対しての策が練られている。

 

 ──こんな筈じゃ。

 

 

 遂に眼前にまで迫る蔓。

 

「──!」

 

 反射的に目を閉じた紫。恐る恐る眼を開く紫。

 

 すると目の前にはオーズが、目の前の巨大な蔓を燃やして、立っている。

 

「……ぅ、……あ」

「ああ、待ってくれ、身体に刺さってんだろ。今抜くから、痛みは我慢しろよ」

「……!! ぅ……」

 

 グィッと体内にある蔓を引きちぎり、燃やす。そして紫は数秒呼吸を整えてから、ゆっくりと立ち上がる。

 

「な、何で……貴方が……私を……」

「? なんでってそりゃ危なかっただろ?」

 

 柊が言うと、紫は賢者らしからぬ、キョトンとした間抜け顔になる。

 

「勘弁してくれよ。貴女の力も必要なんだボーっとしてないでアイデアくれ。今は手を出さないでいてくれるんだろ?」

「え、あ、ええ」

 

 紫が右を見ると、分け隔てていた筈の西行妖の蔓の壁がちりちりと燃えている。柊の力で強引に千切ったのだろう。

 

「柊に助けられたってことで良さそうだな、スキマ妖怪」

「……ええ」

「紫」

 

 霊夢が名前を呼ぶだけで紫は肩をビクつかせる。

 

「な、何かしら……」

「柊をアンタは殺そうとした、それは事実よ。けど今だけは手伝いなさい。あれを倒さなきゃ私達共倒れなんだから」

「……」

 

 言うと、札に霊力を貯める霊夢。

 

「アンタ達、全員の力を合わせた渾身の一撃をあの妖怪に食らわせてやるわよ」

「でもそんな時間も隙も……」

「私の能力であいつは止めるわ思いっきりやって頂戴」

 

 恥を忍んで、紫は協力する姿勢を見せた。

 

「そうだな、とりあえずやってみるか」

 

 ミニ八卦炉を斜に構えて胸を張る魔理沙。

 

「行くぜ霊夢!」

「ええ!」

 

 柊は、一息つき、右手に持つ3枚のメダルを変化させた。

 

「今度の俺は、いつもの50倍強いぞ……変身ッ!!」

 

 ── クワガタ! ── カマキリ! ── バッタ! 

 ガ〜タガタガタ・キリッバ・ガタキリバッ! 

 

 

「「「さぁ、行くぞ!」」」

 

 50人のオーズが同時に声を上げ走る。それに続いて霊夢達も走る。

 西行妖が、蔓と蔓を絡めあい、一本の巨大な蔓を作る。その蔓が柊達に当たる直前に紫はスキマで回避させる。

 

 

 そのスキマの出口は、西行妖の真上、50人のオーズはベルトをスキャンする。

 

 ──《SCANNING CHARGE》! 

 

 だが、一手。西行妖が早かった。真上の敵に気付き、蔓を向かわせる。

 

「! くっ……」

 

 ──この人数分の痛みが回るとしたら相当ヤバい! けど、今更引くわけにはいかない。皆んな、この一撃にかけている。だから、俺も掛けてやる。

 

「頼んだよ、紫さん!!」

 

 紫が守ってくれることを信じて攻撃を繰り出した。

 

「ッ……!」

 

 皮肉だ。自分がオーズに手を貸している事、西行妖を操る事が出来ずむしろ掌の上だった事、しかし自分の誇りを、プライドを尊重して世界が終わっては意味がない。

 

 その思い一心で紫はスキマを展開させる。

 柊の前方にスキマが出来る。

 

 表に柊、裏に西行妖の蔓。それぞれが飲み込まれる。

 

 スキマを突っ切ると、目の前には西行妖。そして柊と西行妖の距離、ゼロ距離。

 

 

「「「はぁぁ……せいや────!!!!!」」」

 

 

「今よ皆! 夢想封印!!」

「恋符『マスタースパーク』!!」

「幻符『殺人ドール』」

 

 

 53人のフルパワーの攻撃が西行妖を覆い尽くす。

 

 少し距離を置いていた紫すらも後ずさりするほどの衝撃が冥界を轟かせる。

 煙幕が晴れ、西行妖の幹が深くえぐれていることが視認できる。西行妖が内蔵していた春であろうそれらは確かにその多くが空気中に分散されていった。

 

 

「……紫」

「ええ間違いないわ、今ので相当あいつの力が落ちたわ」

「あんだけ思いっきり削ればそれなりにダメージになるってことか! ならもう一回……」

 

 試行を重ねれば西行妖を退治できる。そう考えた魔理沙。だが霊夢と紫は、目を細めて苦しそうな顔をしている。

 

「霊夢?」

「魔理沙」

 

 気まずそうな顔をする霊夢の横で紫が呟く。

 

「……よく聞いて頂戴。多分、あれは意図的に力を落としたんだと思う」

 

『正解だ。賢者』

 

「「「……!?」」」」

 

 分身を解いたオーズ合わせた4人は驚く。

 

 

「幽々子?」

 

『……其の方の力……しかと心得た。しかし…………』

 

 

 異様な妖力を帯びた()()()と呼ぶべきかも定まらない何かはふわりと宙へ浮かんだ。

 

 

『まだだ、まだ終わらんぞ」

 

「幽々子……!」

 

 紫が心配の目で幽々子と呼ばれる少女を見る。

 

『……まだ終わらせるには早かろう』

 

 いうと、幽々子の形をした。否、幽々子を乗っ取った西行妖は子供を諌める親の様に空間を手で撫でると、鋭い風圧が前方に降り注いだ。

 

「皆……くっ!!」

「霊夢! 大丈夫だから落ち着きなさい!!」

『……む、二人ばかり……外したか……いや違うか全て外した様だな』

「……」

『貴様、他の奴らも助けたな、あの少年を除いて、だろうが』

 

 その暴風雨は、霊夢と紫、柊を除く全ての者を遠くへと吹き飛ばした。西行妖はその思考がすぐに誤りだと気づく。

 

「紫?」

 

 妖怪の賢者は博麗の巫女に一瞥、そして、彼女もまた別の空間へと──。

 

「!? 待っ──」

 

「あとで必ず説明するわ。何の為に私がここまでやってきたのか」

 

 紫は西行妖をただ見つめる。たった一人場に残されたまま。

 

「私が、生きていたらね」

『ふん……人間を助ける為に命を捨てて時間を稼ぐなど……同じ妖怪として心底軽蔑するぞ、浅はかな賢者』

「命を捨てる? 何を勘違いしているのかしら、笑止千万。もう少し頭を使った方がいいのでなくて?」

『何?』

「ここより妖怪の賢者として、ただ一切の躊躇なく貴方の命を絶つ。残酷なこの世界で、せいぜい惨たらしく去ね!」

『……たかが一妖怪風情が。大地の怒りを思い知ることになるぞ!』

 

 

 油断とも言える煽り。その隙を大賢者は見逃さない。

 

 周りに大量のスキマを展開、そして高速の弾幕を放出する。

 

『……いいだろう、少し力を試すか』

 

 お手並み拝見。そういうかの如く弾幕を身体に浴び続ける。

 

『……ぬぅ』

 

 一通り弾幕を浴びてから、邪悪な笑みで言葉を紡ぐ。

 

 

『クク、さすがは賢者だな、少し効いたぞ』

「ぐ……!」

 

 紫は更にもう数段階上の威力の弾幕を放ち続ける。だが、幽々子の身体にいるそれは、構わず歩き続ける。

 

『これが最大出力か? もう、終わりか?』

「良いや? 全然」

『──!!』

 

 紫の言葉とともに弾幕の威力・速度・密度全てが跳ね上がり西行妖を襲う。

 

『ッ……ぁ、ぐ』

「効いてるみたい、ね! あの樹のまま力を吸い尽くし続けていたらどうなるかと思ったけど、今はただエネルギーを持っただけの妖怪に過ぎないわ!!」

『……つ、ぅ……』

「まぁ、取ったエネルギーは……計り知れないけど、ね!!」

 

 

 一瞬、弾幕が止んだ。その合間を縫って西行妖は紫の眼前に一瞬で入り込む。

 

『ふ!』

 

 当然スキマで距離をとるが、其の人はワープ先を見越して紫の顔面に蹴りを入れる。

 

「がはっ!」

『何故スキマでの移動先が分かるか教えてやろうか?』

「……!」

 

『貴様が余を操っていた時から貴様と余の妖力は今も微弱ながらに繋がっている。それを探知すれば貴様がスキマを展開させようとする位置、逃げる場所が分かる。あとは……』

 

 紫の顔を鷲掴み、地面に叩きつけ、バウンドさせる。

 

「かっ……!」

『貴様が移動したタイミングでスキマの前で待っておけばいい。素のスペックでは余がはるかに上なのだからな』

 

 腹に手を置き、ゼロ距離弾幕を浴びせる。

 

「ぎゃぁっ!!」

『……ふむ』

 

 数メートル吹き飛んだ先で痙攣する紫を無視して西行妖は腹に蹴りを入れた。

 

「かっ……お、ぇ……!」

『そら、逃げろ』

「! 誰が……!!」

 

 倒れる紫の顔を幽々子の姿で踏みつける西行妖。紫にはそれが屈辱で堪らなかった。

 

『妖怪の硬さならそうそう早く死ぬ事はないだろう、せいぜい苦しむがいい」

「紫様に手を、出すな!」

『!』

 

 倒れ込んだ直後、紫の持つ封紙から解放された式神、八雲藍が西行妖の右頬を殴る。

 

「藍、助かったわ」

「いいえ、それよりも全力の一撃だったのですがほとんど効いていませんね」

「多分効いてはいる。けど身体は幽々子だから西行妖そのものへの影響は微々たるもの……なのだと思う」

「正直やりにくい相手です」

「ええ、何より厄介なのは……」

「紫さま?」

 

 紫は扇子を西行妖へ向け、自らの傷と疑問を解消させる為、問うた。

 

「私が攻撃を避けることが出来ないということ、ね」

「それは先ほど札に封せられながら聞いておりましたが、奴の言う通りでは?」

「ええ、スキマがやつに見破られる訳は分かったわ。でもそれが私に攻撃が通る理由にはならない」

 

『それこそ考えずとも分かる筈だろう。余はただ貴様の魂の居所を知覚して攻撃しているだけだ』

「──!」 

 

 一瞬目を閉じて思考し、答えに辿り着く。

 

 

「成程、スキマの位置が分かるのと同じ理屈ってわけね。私に攻撃が通じる、いや、私が存在している場所が分かるのね」

『左様。他の者であれば通らない攻撃も、全く同じ力、同じ性質を持った余なら問題なく通る。いわば自傷行為の様なものだからな』

「私が利用するために通した貴方と私の繋がり(スキマ)をこんな風に理解できるなんて、飛んだ天敵ですわ」

 

 

 妖怪のみ、それも完全な空想や妄想から生まれた特別な妖怪でしかなし得ない効能だろう。『こういうのがいたら怖いなあ』というあやふやで歪な出自じゃなければ出来なかった神業。

 

 

 それを成し得たのは同じ妖怪であるからでもある。人間でも神でもこうはならない。ただ紫と同じく妖怪である彼だからこその業だった。

 

『良くも悪くも、こんな事貴様クラスの妖怪でなければ出来なかったろうがな。貴様は貴様自身の神にも等しい能力によって殺されるのだ』

 

「紫さま私より一歩後ろへ、攻撃が通ずるとなれば奴との一騎打ちは危険極まりない」

「ええ、任せるわ」

 

 二人は西行妖に全集中を捧ぐ。

  

「幽々子様が乗っ取られてさえいなければ奴を封する方法もあったでしょうに」

「ええ、多分それも見越して奴は幽々子を、乗っ取ったんだと思うわ」

 

 直後、紫の視線から藍が消える。

 

「!?」

 

『そら、どうだ? 九尾。主人を守れて満足か?』

「ぐっ……くっ……ブハッ」

 

 

 西行妖が藍に乗り掛かり拳を撃ち続ける。藍は鼻、口から血を吐き出す。

 

「あ、がっ!!」

『鼻が折れたか? だが流石は九尾。思いの外タフだな、そらそら』

 

 拳と共に鈍い音が鳴り続ける。その背後で。

 

「ぶらり廃駅下車の旅」

『!』

「く、ぅ──逃がさん!!」

 

 当たる直前、藍のみがスキマで逃がされ、西行妖は超スピードで迫る廃電車に激突する。

 

「助かりました、紫さま」

「効いてないか。一両じゃあしょうがないわね」

 

 続けざまに巨大なスキマを展開し、さらに一台、また一台とぶつけ、爆発させる。

 

「……」

 

 藍、紫の式神はあまりの戦闘のスケールに唖然とする。ここまで、紫が弾幕ごっこに力を入れているのを見るのは初めてのことであった。

 

「どうかしら、効いた?」

 

『……少しはな』

 

 西行妖はピンピンしている、そしてそれは事実だろう。ハッタリや見栄を張ったわけではない本当に少しだけ効いた、ただそれだけなのだ。

 

 ──あれだけの威力の攻撃が有効打にならないなんてね。

 

 スキマで西行妖と藍の上へ移動した紫は、魔理沙の服から拝借しておいたミニ八卦炉にありったけのエネルギーを灯しレーザーを放つ。

 

「! はぁ、物理的な火力では効果が薄そうね、自信無くしちゃうわ」

 

 鉄もレーザーもあれには有効でない。西行妖は以前変わらず、ほんの少しだけ妖力を散らして前進し続ける。

 

「紫様の攻撃が効きにくいのであれば私の攻撃も同等もしくはそれ以下の効き目という事。となればあれ自身を削るしかありますまい」

「そのようね。鈍器や単純な火力じゃあれは大して応えない。ならばあれ自身の体力をまずは減らし尽くして差し上げましょう」

 

『……!』

 

 二人がスキマに入り姿を隠す。すると西行妖の周りに無数のスキマからの弾幕が飛び出した。

 

『またこれか、芸のない』

 

「不躾な者にはそれ相応の対応しかしない、という事ですわ」

 

 ホーミング弾、レーザー弾幕、多種多様な弾幕が蠢きその全てを喰らう。

 

「私たちの弾幕を避けなかったわね、その傲慢さが、貴方の失態よ」

『……!?』

 

 ダメージを与えた弾幕は、先程の一撃と遜色ない一撃だった。

 

 だが、与えた対象は──。

 

 

「あくまで幽々子の身体を操っているのは西行妖本体、その樹体そのもの」

 

 西行妖の樹体に対してだ。

 

 

 ほんの少し前、西行妖に四人の人間が攻撃したときの事だ。あの時、四人の人間は自分達の攻撃で西行妖を傷つけたと喜んだがその実、西行妖の力の大部分が幽々子に乗り移っていただけだと伝えられ、驚愕し、焦理を生じた。

 

 だが。

 

 

 実際にはあれにダメージを与えられていたのだ。確かに西行妖の言葉は嘘ではない。力の大部分を幽々子に移した影響で樹体は力を落としたように感じられたが、確実に四人の攻撃も、西行妖にダメージを施していた。

 

「おかしいと思ったのよ、なんで幽々子に乗り移っておいてあの樹木を消さずに残しておいたのか。貴方……」

『……』

 

「まだ西行妖としての魂を樹体(ほんたい)に隠しているわね。それは魂が怨霊に侵されきっていない証拠だわ」

 

 

 だがおそらく西行妖の魂に今の言葉は届いていない。なぜなら今西行妖を動かすものは怨霊達だから、そして怨霊たちが幽々子を操っているから。

 

「貴方の祓い方は分かったわ。このまま樹体を消滅させるだけ、それだけで貴方は消える」

『……できるものならな』

 

 幽々子の身体を操っていた西行妖の様子が明らかに変わる。確信に迫られて焦っているのだろう。

 

「!!」

 

 西行妖の本体、樹体の根が冥界中に張り巡らされる。

 

「何を……」

 

『──終焉だ』

 

根は妖力を纏い、冥界を深い蒼色で染め上げる。

 

「こ、これほどとは……」

「させない!!」

 

 紫は冥界全土を覆う結界を、詠唱なしで張り巡らせた。

 

『──流石、と言ったところか。これでは崩せんな』

「馬鹿なことを……貴方まで死んでたのよ!?」

『それがどうした。元から死んでいる身だぞ』

 

 この時、初めて紫に明確な焦りが生じる。それは、付けいる隙となり──。

 

『貴様がいる限りどうにもならんらしいな。まずは──手っ取り早く取り除く!!』

「……!!」

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

「なぁ、ここなんだと思う?」

 

魔理沙、咲夜はまとめて異空間へと飛ばされていた。

 

「十中八九、スキマ妖怪の仕業でしょうけど何かまでは分からないわね」

「あれ多分私たちを助けたん……だよな?」

「おそらくね。でも霊夢と柊はここにいないわ」

 

 咲夜は眉を顰めた。当然だ。霊夢は距離が離れていたからしょうがないにしても、柊は自分の横にいたのだから、きっと助けられたはずだ。

 

「私の落ち度でもある、だから尚更ここから出して欲しいのだけれどね」

「霊夢がいれば……ってうぉお!?」

 

魔理沙の踏んでいた地面の目が光り、霊夢が現れる。

 

「紫! って、魔理沙踏むんじゃないわよ!」

「いや今急に現れたんだよお前が!!」

「ったた……ここは……ああ、紫の結界の中のようね」

 

 

 パタパタと服を叩き、立ち上がる霊夢。

 

「不甲斐ないけど紫に助けられたみたいね」

「貴方まで、柊は!? どこにいるの!?」

「!!……」

 

 霊夢は辺りを一瞬見やってから、唇を噛んだ。

 

「分からないわ。けど、ここにいないってことはあっちに残ってるようね」

「そんな!?」

「大丈夫、殺されてはいない筈よ。あの妖怪は紫と闘うのに夢中だったから」

 

 霊夢はそう言うと目を瞑り、俯く。

 

「霊夢?」

「結界じゃない、ってことはまるっきり別の場所みたいねここ。なら今の私たちに出来ることはないわ。大人しく対策でも練ってましょうか」

「呑気すぎるだろ! なんとかしてここから出なきゃ皆やられちまうぜ!?」

「だって他にやることなんてないじゃない。今は待つしかないのよ」

「……!」

 

 魔理沙は悔しそうに目を細める。

 

「くそっ、頼むから死なないでくれよ……」

 

 

 

 

「……なんてこと……悪夢でも見てるみたいだわ」

『やはり賢者と呼ぶに値する程の力が貴様にはある。だがそれでも今の余を消滅させるには些か、相性が悪かったな天敵というやつだ』

「ハァ……ハァ。悔しいけど……その通りね。貴方相手じゃスキマを展開するのも一苦労だもの」

 

 

 万が一、次に接近されればその時が己の最後になるかもしれない。それだけの力が、西行妖に集約されていた。

 

『貴様を殺すことは出来る。だがそれなりに消耗せざるを得んだろう、まぁそこでだ、一つ取引をしよう』

「……!?」

『貴様がそこを退けば、当初の望みどおり柊という人間の魂をこの世から跡形もなく消し去ってやる』

「そんな事……可能なの?」

『それからは、余の望む通りにさせて貰うがな。それでいいならば言の葉の拘束を敷け。そしてここから疾く引くがいい、賢者』

「望みって……」

『妖怪たる所以と言ってもいいだろう』

「……」

 

 太古から続く妖怪の一番単純な欲望。人間が妖怪を恐れるわけ。それがわからぬ幻想郷の住民はいない。

 

『鏖殺、捕食だ。まずは博麗の巫女。あれの腑から食い千切り、人間界への見せしめとする』

「つまり人間を全て殺すと。そんなことをされれば間違いなく幻想郷は立ち行かなくなるわね」

『……』

「残念だけど、その申し出は私には到底受け入れられるものじゃない」

『仕方あるまい。全く、面倒なものだ』

「ふふ、やってみなさい、樹木風情が」

 

 西行妖はその力を解放し、紫へ接近した。

 

 

 ♢

 

 

「──うっ……!?」

 

 柊は、過剰な変身時間による痛みで意識を取り戻す、と同時に変身を解いた。

 そして、それは身体の痛みも呼び戻してしまう。

 

「ぐ、ぅぅぅうぅぅ……! ……ぁ……は、ぁ……」

 

 柊は、痛みと混乱でとっくに満身創痍になっていた。そして記憶を呼び戻す。

 

「……そう、か。あいつに吹き飛ばされて……」

 

 柊はゆっくり立ち上がる。そして、呆然と空を見上げた。だが──。

 

 

『この力は貴様のおかげで得られた力でもある』

「──な」

 

 いつ現れたのかも分からなかったが、西行妖が、目の前に姿を見せた。

 

『其の方のお陰だ、心から礼を言う』

 

 西行妖から柊に向けられた言葉は、おどけた自分への煽り、嘲笑などではなく。

 

「……ぁ?」

『柊、貴様のお陰でこの身体を手に入れコントロールするまでに至った』

 

 心からの賞賛と御礼だった。

 

『貴様は非力なれど内に眠る能力は脅威である。人間をやるなら貴様からやっておかねばな』

 

 しかし、その御礼もここまで。戦意がこちらに向けられる時が来た。

 

『貴様が居たお陰で、随分と力もついた。だから死ね。文句があるならあの賢者にあの世で言うんだな』

 

 まるで理不尽な答えだ。だが、西行妖の思考は絶対に変わらない。妖怪と人間の、当然の関係。

 

 

 逃げたい、このまま後ろへ走り出したい。だが、魔理沙や咲夜、霊夢達を置いて逃げる事は柊には出来なかった。

 

「……死ぬつもりはない!」

 

 精一杯、カラカラの喉で吠える。あまりにも弱い抵抗の意思。

 

 

『そうか……では見せてみろ!!』

「……変……身!」

 

 もはや気力だけでタトバコンボに変わる。そこからの攻防、いや攻々は、一方的略殺は速かった。

 

 

 結局柊の攻撃は、始めの拳同士の鍔迫り合いのみ。

 そこからは、いたぶられ、嬲られ、やられたい放題だった。

 

『驚いた、存外。弱いな』

「……おぇ……」

 

 博麗より威力が低い、と罵る西行妖。

 

『諦めて死ぬか? それも潔くていいが』

「あ〜……それもいいな……でも悪い、諦めるなって言われてるんだ」

 

『──!?』

 

 己の足が地面にひきづられていく事に気づく。

 

『なぜ……地面に引かれ……!!』

 

 地面に隠れておいた、ガタキリバの分身体がサゴーゾへと変化し、西行妖を重量を操作して惹きつける。

 

「せいやぁ!!」

 

 重量操作で引き寄せた西行妖に蹴りを、二撃。

 

『面白い。が貴様の攻撃なんぞ効く筈もない』

「……参ったな、てんで応えちゃいないなんてよ」

 

 マスクのうちに隠れて見えないが、柊が恐怖していることなど理解できない筈もなかった。

 

「……どうすっかな……」

 

(コンボの使い過ぎか? 痛みはないけど、力が入らん。気がする)

 

『ふふ、余興だ ……同じ事をしてみせようか?』

「何っ……?」

 

 西行妖が地面に手を向ける。すると、そこに向かって柊が引き寄せられた。

 

「……っ!!!?」

 

 無慈悲にも、それには抵抗できない。

 そのまま、顔を撃ち抜かれる。

 

「ぐぉづっ……っ……!」

 

 口には鉄の味のような違和感が広がる。直撃した西行妖の拳は、今までの何よりも重かった。

 

「あ……ぎ……!」

『……足裏を見てみろ』

「か……あ?」

 

 確認すると、足裏には見つけるのも難しいほどの細さの蔦が。

 

『それを使って強引に引っ張っただけだなんてことはない』

「くっ!」

 

 トラクローで即座に切り離す。そして顔を手で押さえながら、西行妖を睨む。

 

『まぁ、これで死ななかった事だけでも褒めてやろう』

 

 西行妖は妖力を一段階高める。

 

『言っておくが、お前を殺す事なんて容易いことなんだぞ? この通りな』

「…………え?」

 

 ズッ。と身体が一旦揺れた。何かが当たったんだろうか、何か温かい感じもする。

 

 そう思っていると同時に感じた違和感。それは下にある、だから下を向いた。

 

「あ、な…………あ?」

 

 幽々子の身体を覆うオーラが変化して、伸びた剣の様な形状となり柊の身体を貫いていた。

 

「う……ハ……ァウ……ぁ、ぁぁ」

 

 現状を受け止めきれない。自分は何をされたんだろうか、よく分からない。分かりたくない。

 

 そして地面に血溜まりができる。紛れもなく自分の血だ。

 ヌメヌメとして、少し温かい。

 

 

 ──死ぬ。

 

 

「……がはっ……ぁ、ぁ!!」

 

 柊は綺麗な色した血が自らの身体から落ちているのだという事に気づいた。

 

「……あ」

 

 オーズに変身する為には3枚のメダルと、ベルトが必要となる。本来ならばそれらは別々なのだが、柊が変身する為に使っているそれらは柊が一律で生み出した物である。

 

 ベルトやメダルを創造するエネルギーそのものが柊から為される仮想変身道具のような物で、ある意味では複合体のような物だ。だが。

 それには柊すら把握していない致命的なデメリットがある。

 

「……あれ?」

 

 エネルギーとは其の人の生命、ひいては気力、人間であれば霊力が大きく関わっている。

 

「……ゴボッ……」

 

 腹に大きな穴が空いていてもなお、全力で敵と闘おう、という意志が今の柊には欠けている。

 つまり、オーズになるには、能力を上手く使うには術者本人の意思も大いに関わってくる。

 

 即ち、精神が揺れていては変身することはできない、若しくは、ベルトとメダルは霧散していく。そして柊はその条件に当てはまっていたのだった。

 

「……い……った」

 

 もう立ち上がる力すら残っていないように感じる。空いた腹から力が抜けていくようで、それでいて多分それは事実だ。腹から力が抜けきった時。きっとそれが命を絶つ合図だ。

 

 

『安心しろ肉体すら残さん、散れ』

「っ……」

 

 西行妖は、容易く身体全身の力を両の手に集める。

 

 ──……もう無理だな。

 

 これはもうどうしようもない。ただ、このまま何も出来ずに負けた事実を認めたくなくて、悟ったように西行妖を睨んだ。

 

『……最後の抵抗はなしか?』

 

 身体が寒くなってきた。もう生きて帰れない。

 

『……ヒヒッ、あははははは!!!! 終わりだ!! お前の何もかも!!』

「……」

 

 死の間際まで到達して柊は、無意識にある行動をとった。それは過去の思い出を遡る事。この世界に来てから今この瞬間までを凝縮した記憶を脳に散らばらせた。

 そして偶々、西行妖が弾幕を放つ前に、何かがフラッシュバックした。

 もう誰が言った言葉かも思い出せないが、その声だけを思い出したのだ。

 

 

『諦めるな、よ』

 

 

 それに何の意味があるかも分からない。というよりもそれを聞いた時自分は意味が分からないと思っていた気がする。だがきっと、今のこの瞬間。自分を立ち上がらせる為の

 何かだったのだろう。故に。

 

「……まだだ」

 

 最後の最後で闘志は消え去らなかった。

 

『いいや終わりだよ』

 

 放たれた、レーザー弾幕。

 見れば分かる。ただの人間には手に負えないものだと。

 しかし、ああ言われた手前。最後に思い出したのがあれだった手前、一度くらいは全力で抵抗してやりたい。

 両の手を張り、足を踏ん張って、力を込める。

 

「まだ何も……終わっちゃいない!!」

 

 すこしでも、少しでも、止めてみせる。

 

「ぐっううぅ…………!」

 

 手が焼けていく。手のひらの肉が飛び散る。痛みは感じない。きっと脳内麻薬のおかげだろう。

 

『口だけか?』

「ぎ、ぁぁぁ……!」

 

 

 微塵も押し返せる気配はなく。

 

 西行妖の言う通りに、徐々にレーザーは柊を飲み込んでいく。

 

 そして。終わりの時が来る。

 

 

「ぎ、ぃ!!」

『それじゃあ、な!!』

「──!!」

 

 光線は、その地形ごと変えた。

 そして、抉れた地面には──瓦礫だけを残して、柊は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

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