東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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顕現した西行妖はウルトラマンオーブのジャグラスジャグラーみたいな容姿です


15話 弱者とレミリアとグングニル

「この力も考えものよね……『人を死に誘う』なんて物騒なものが何故私に……」

 

──これは、以前の記憶か。西行寺幽々子の身体を乗っ取る際に得た記憶。恐らく幽霊になる前の。

 

「それはこの木と何らかの関連性があったのではないかとつくづく思いますよ」

「……この木が生気を奪うって言う噂? そんなこと、あるわけないわ」

 

 

 そしてまた、幾ばくか時が経った。

 

 記憶で見えるのは、土に埋め込んだ亡骸。それは忘れる事もない顔、見慣れた顔の少女。

 傍らに居るヒトは涙を流している。

 

 ──……何故だ。何故泣く。

 

 

 そしてまた幾ばくかの時が流れていき。

 

 ──その時は来た。

 余の目の前に不意に現れた妖の女。

 

「西行 妖、貴女の力、生気を奪う能力はきっと欲望を奪うことも出来る…だから利用させて貰うわね」

 

 

 ♢

 

 

「利用していたのは、余の方だったがな」

 

 満足気な西行妖が放った莫大な妖気。

 

 それは、何者にも劣らぬ無邪気な殺意。

 

「あの幽霊の体から離れたら、もう後ろ盾は何もないわよ。どうする気」

「まずはあの女からだ」

 

 人間のような身体の作りで、サイズも紫とほとんど変わらない。ただの妖怪となった西行妖は声を発した。

 

「あの女の体では上手く扱えなかった本体も、今では手を取るように動かせる。怨霊ともどもな」

「──魔理沙!!」

 

 地面に蔓延る蔦が集まり、魔理沙とその他の者達を分断させるように、壁となった。

 

「夢想封印!」

 

 霊夢の霊力を込めた弾幕でも、その壁を破壊し切ることはなかった。

 

「くっ……! 紫! スキマで私をあっちへ送って!」

「無理よ」

「はぁ!?」

 

 紫は冷静に、かつ残酷な事実を述べる。

 

「私が展開するスキマの位置はあいつにバレてる。あっちに霊夢を送った瞬間にその位置に罠を仕掛けられるのが関の山ですわ」

「だからって!」

「それに奴の言った通り本体、あの神木そのものも危険だわ。おそらく借り物の身体だったから本領を発揮出来なかったんだと思うけど」

 

 今この場で、人型となった西行妖と対峙している三人とでは力の差はほぼない。つまり逆に言えば一人欠けると途端に均衡が崩れるということだ。

 

「だからって……厄介になったあの木を一人で相手してる魔理沙を放って置けないでしょ!?」

「いや、問題ないわ。あっちにも何人かいるみたいよ」

「え?」

 

 紫は察知した気配から人物を辿る。

 

「紅霧異変の時のメンツのようね。助けに来ているようだわ」

「ああ、レミリアね! そうだったわナイスよ!!」

「美鈴もそうね。あのでっかい木を妨害してくれていますわ」

「その二人と魔理沙が何とかしてくれている事に賭けましょう。私達だって決して楽な闘いではないのだから」

 

 三人は西行妖の攻撃の出方を伺う。

 

 

「そんなボロボロの身体で、本気で余に敵うと思っているとはなぁ!」

「ちっ……!!」

 

 霊夢は幾重もの結界を西行妖の前方に貼り続ける。だが、西行妖はそれを手で軽く破り捨てた。

 

「鏖殺だ!」

「やれるもんならぁ……やってみなさいよ!!」

 

 お祓い棒に霊夢の霊力を覆った渾身の一振り。それを西行妖は妖怪の身でありながら、軽々と受ける。

 

「貴様ごときの力が通用するとでも?」

「しないとでも思ってるのかしら!!」

 

 直後、西行妖が異変に気づく。

 

 

「霊夢、屈みなさい」

「時符『パーフェクトスクウェア』」

 

 屈む体勢を取るとスキマが現れ霊夢を逃し、西行妖を二人の弾幕が襲う。

 

「……ふん」

 

 一気に西行妖が力を解放し、周りの弾幕はオーラにより消し飛ぶ。

 

「……チッ」

「う……」

「怖気付いたか?」

 

 地面が震えると錯覚するほどの体の震え。明らかに自分よりも格上だ。それでも怖気付くことは許されない。

 

 

「バカ言ってんじゃないっての! 夢想封印!」

「結界術の応用か」

 

 西行妖は己を取り巻く弾幕の波を全て身体で受け切る。

 

「こんなものか。封印も何もあったものじゃないな」

「く……!」

 

「今度はこちらの番だな」

「いいえ、まだよ」

 

 頭上から落下する列車。紫は攻撃を間髪入れずに叩き込むことで西行妖に一切の攻撃を許さない気だ。

 

「幻符『インディスクリミネイト』」

 

 咲夜もさらに攻撃を加え、西行妖を止め続けている。

 

 

 先に言ってしまえばこの攻撃は有効だ。西行妖には攻撃が効かないのではない。効いているが力が莫大過ぎるが故に霧散させているという手応えがまるでないだけだ。

 

 したがって、西行妖は攻撃を受ければ確かにダメージを受け動きを止められるのだ。

 

「ほら霊夢、貴方も続けなさい」

「う……うん!」

 

 ただし。

 

「きゃっ!!」

 

 ──自身がエネルギーを放出すれば別の話だが。

 

「雑魚どもめ、抵抗なんぞしてから」

「なっ!?」

 

 己の前方に結界を張り攻撃を防ぐ霊夢だったが、西行妖はそれをたやすく打ち破る。そしてさらに結界を張り直す、という動作の繰り返しが行われていたが。

 

 

「そろそろお前もおしまいだな」

「はぁ……はぁ」

 

 結界を逐一張り直すことと、拳を打ち直すこと。どちらの消耗が激しいかは、語るまでもないだろう。

 

「まだ…まだぁ! 夢想封印ッ!」

「意味のない事をするのだな」

 

 結界を張り、攻撃は防いだ上で、スペルによる攻撃を行う。そして全ての光弾は西行妖に直撃している。なのに、奴は霊夢の元へ着実に歩みを進めていく。

 

「もうっ……!」

「霊夢前に出過ぎよ!」

 

 苛立ちと焦りにより、他の者より一歩前に出過ぎていたことに、紫が攻撃を受けてから気づく。

 

 

「紫っ!!」

 

「貴様には散々妨害されたがようやく仕留める機会が来たわけだ」

 

 腹部を貫くその腕は紫の肉体の中で分裂し毒の棘となって残る。

 

「ぁ……なぁ……!」

「余が対策してなおここまで闘った貴様は間違いなくこの場の誰よりも厄介だった。じゃあな」

 

 風切り音が鳴るとともに紫はその場から消える。

 

「驕りが見えた。ほかの者に頼らずに闘えるという自尊心が。あの賢者はプライドがあっては勝てないことを分かっていたようだがな」

「うっさい!

 

(お札も封魔針も使い果たしてる……これは……)

 

「はぁはぁ……仕方ないけど、もう……」

「む? 増援か」

 

 霊夢の背後に視線をやる西行妖、そしてその言葉に霊夢は後ろを振り向いた。

 

「え?」

「霊夢、諦めるにはまだ早いわよ。まだ武器残ってるでしょ」

「レ、レミリア!あ、あんたは! 黙っててよ!」

 

 レミリアは疲れ果てた霊夢の肩を上げる。

 

「……よもや、この私が妖怪の手を借りることになるなんて」

「言ってる場合じゃないからねえ。人間の中でも上澄みの貴方がここまで疲弊してるなんて、よっぽどね」

 

 そしてレミリアが、霊夢の一歩前へ出る。

 

「私の家族に手をかけたんだ、私に殺される覚悟は出来てるんだろうな?」

「面白い冗談だ、是非とも、やってみて欲しいな」

 

 レミリアは、かつてないほどの怒りを持って、西行妖と対面する。

 

「ふむ。確かに、貴様……ハッタリではなさそうだな」

「今更何を言ったって、手は抜かない」

「かかっ手を抜くだと!? この余を前にして!? 必要……ない!!」

 

西行妖はレミリアに突撃する。対してレミリアもグングニルを創造しつつ、西行妖へ刺し向ける。

 

「死になさい!!」

「どれ、味見と行くか」

 

 

 グングニルと西行妖の拳があたりを吹き飛ばすほどの衝撃を持ってぶつかる。

 

 その衝撃でグングニルは裂け、西行妖の拳には亀裂が生まれる。

 

「ちっ!!」

「──いい。いいぞ吸血鬼」

 

 両者とも距離を置く。

 

「互角か」

「互角? ふふっ、本気で互角と思っているか?」

「──がっ!!?」

 

グングニルを持っていた方の右腕から亀裂が生じ、それは右半身を裂いた。

 

「やるじゃない、この私のパワーを遥かに上回ってるなんて」

「ふ、お前もやるではないか、さっきのは本気の一撃だぞ」

 

 賞賛されたとはいえ西行妖は無傷、対してレミリアは右半身を消される程の威力差。

 

「あっそう、……ふふっ、私もよ」

「?」

 

レミリアはかなりの距離を離し、屋敷の屋根に登る。

 

「……? 今更距離を置いてどうこうできるとでも──」

「軒昂せよ、神槍・グングニル」

「──!!」

 

西行妖と離れた地点で唱えた詠唱。それはグングニルの複製の呪文だった。

 

「パワー比べしましょうか、西行妖とやら」

 

血管が浮き上がり音が鳴るほどの握力を持ってして、槍の口金に当たる部分を握りしめ、西行妖へと投擲する。

 

「いいだろう、そのレベルの速度避けることなど雑作もないわ」

 

拳を前に出し、弾幕を持って槍を砕かんとした西行妖のその言葉は、すぐに間違いだと、現実を持って知らされる。

 

 

「──遅いのね貴方」

「──!!?」

 

西行妖には容易に見えていた、今まさに己の眼前に迫っていたグングニルと呼ばれる槍。それは()()、自らの腹部に突き刺さっていた。

 

「な、にっ!?」

「再起し、常勝せよ。我が至高の槍よ」

 

さらに3つの魔法陣が展開され、レミリアが詠唱を終えた途端、グングニルが全ての魔法陣から現れる。

 

「貴方はとっくに私の掌の上にいる。これが貴方の定められた運命()よ」

 

3つもの槍を、レミリアは高速の手腕を持ってしてほぼ同時に射出する。

 

「またそれか……」

 

目で確実に追っているはずの槍、また同じだ。確実に自分には当たらないように、西行妖は大幅に横に逸れる。

 

「──がっ!!…… ちぃ!!」

 

しかし、その槍は突き刺さった。

 

「ならば──撃ち落とす!!」

 

西行妖は思考する。

 

あれの種は歴然だ。本来なら避けられるはずの槍を受けてしまう。それは途中から魔術を持って大幅に槍を加速させる、ないし瞬間移動させる詠唱を唱えることで可能となる。この距離からそれを封じる手はない。ならば。

 

「あの槍に細工させる前に、粉々に砕いてくれる!!」

 

巨大な弾幕が、二本の槍を彼方へと弾く。

 

「ハッ、これならばどうということばっ……!?」

 

なおも、二本の槍は西行妖の胸を確かに貫いた。

 

「──無駄よ、これが貴方の運命。避けることは決して出来ない。長久の槍」

「フン、なるほどな」

 

 

西行妖は気がかりな発言を一つ思い浮かべた。

『パワー比べしましょうか、西行妖とやら』

 

──先程の発言を踏まえるならば。あの槍の細工は投げてからではなく、おそらく投げる前に。

 

「更なる珠槍が貴方の四肢をもがかんとしているわ」

「……フン、来るなら来い。どうせ避けられまい」

「──お望みどお、りッ!!!!」

 

レミリアの剛腕により投擲された槍、それを西行妖は。

 

「ハッ!!」

 

拳で砕く。

 

「!!」

「なるほど……分かったぞ」

 

グングニルの破片が、地面に消えていく。そして西行妖の拳にも、ヒビが。

 

 

「この現象、両者間での協約と言ったところか? 」

「……」

「大方貴様の能力絡みだろうが、貴様の提案に乗った以上、パワー比べとやらをしなければ懲罰を受けるというわけか」

「……がはっ!!」

 

西行妖が種を看破した直後、レミリアの身体から血が噴き出る。

 

「そして純粋な対決で負けた方は懲罰を受ける、と。なるほどな、面白い」

「……フフ、気付いたところで、貴方はどちらにせよ体力を消耗していかざるを得ない。貴方は私の攻撃を無傷で受けることは出来ないのだからね」

「そうだな。殊勝な女、吸血鬼よ。貴様も存外厄介な奴だ」

「それはどうも」

「では、死合を再開するとするか。おそらくは、こちらから始めても協約の効果は発揮するだろうからな」

「……!!」

 

残忍な笑顔で只管に楽しそうな笑みを、西行妖は浮かべた。

 

「負けることを前提に……より消耗させる択を、か」

 

西行妖は石畳を抉り出し、形を整えていく。

 

「クックックそんな闘い方しか出来ないから貴様らは弱者というんだ」

 

 

 

 ♢

 

 

 

──数分後。

 

 

「……レミリア、あんた、大丈夫なんでしょうね」

 

──私がやるから結界だけよろしくって言って中に籠ったっきり……。

 

「何の策があるってのよ」

 

 不安に思ってからすぐに、結界に異変が生じた。

 

「……破壊される!!」

 

結界に綻びが生じ、中からはボロボロになったレミリアと、余裕綽々といった様子の西行妖が現れた。

 

「レミリア!!」

「……ぁ、霊夢……!」

 

大急ぎでレミリアの身体を抱き抱えながら、地上に降りる霊夢。

 

「西行妖……あんた、本当に……」

「まさかあそこからここまで粘られるとはな。やはり大した女だ。上位種なだけはある」

 

レミリアと西行妖。両者ともに血塗れだった。それがどんなに激しい闘いを繰り返していたのか霊夢には想像もつかなかった。

 

「……ぃったぁい、……ったく、やばくなる前に結界を破壊したわ、ごめんね霊夢。けどまだ諦めるには早いわよ」

 

 身体をコキコキと鳴らし、気楽そうに振る舞うが、霊夢からみてもレミリアの疲弊しきった姿はみていて痛々しいものがあった。

 

「……」

「どうしたの? そんな悔しそうな目を浮かべて。博麗の巫女らしからぬ」

「レミリア、やっぱり貴女がいても勝ち目なんて」

「……ふぅ。諦めるには早いって言ってるじゃないか。まだ、全てを使い果たしたわけじゃない」

 

 ──でも、私達がこれだけ意気消沈しても相手はピンピンしている。

 

「お前より弱い子が諦めていないのにお前は諦めるのか? 後ろを見てみろ」

「え?」

 

 後ろを振り返ると柊がいた。それも変身していない状態で。

 

「今度は霊力、吸ってないけど、ヘトヘトみたいだな、霊夢」

「今の貴方からはもう、妖気を感じないわ」

「ああ、暴走しかけたからな、レミリアさんに血吸ってもらって最大限に薄めて貰った」

 

 なら今の柊は、ただの人間同然ではないか。

 

「危ないから早く逃げて。なんであんたも止めなかったのよ!? こいつが来ても犬死にするだけじゃない!」

「どうせここでどうにかしなきゃ殺されるし、良いだろ。それに確かめたい事がある」

 

 手を西行妖へかざす柊。

 

「……? 何をしている?」

「もう辞めにしないか? 俺達がこれ以上闘い合う必要なんて無い、もう助けたい人は助けれたんだし」

「正気か」

 

 何を考えたか、柊は停戦を提案した。

 

「その感じじゃ無理そうか」

「当たり前だ。余にとって貴様らは不快分子。だから取り除く、それだけだ。これは理性うんぬんではなく本能ゆえ引く気はない」

 

 西行妖の呟きを聞きながら、柊はひたすら睨む。

 

「柊。もうそいつをどうにかするなんて無理よ。こいつは祓うしかないの! 分かったらそこ退いて!」

「紫さんが操ってたと思ってたから闘ってた。そして幽々子さんに乗り移って闘ったから祓おうとした。けど今のお前自身と闘う理由は俺にはない」

「知らん。どうしても闘いたくないのなら今すぐ貴様の仲間を殺して自死するがいい」

「……しょうがない」

 

 右手にベルトを持って、戦闘態勢に入る柊。

 

「お前はどんな時も邪気の籠った感情を持ってる。喜怒哀楽どれにも悪意が詰まってる。自分で気づいてるか?」

「……?」

「おかしいとは思ってたんだ。ただ、操られた事に対して怒ってたこと、そして俺たちが不快だってだけでどうしてここまで強くなれたのか。どうしてそんな悪意ある欲望を保ち続けていられたのか」

 

柊は、静かに、しかし確証を持って言う。

 

「もうとっくに怨霊に精神汚染されてるんだろ。そりゃそうだ俺が想像もつかない数の怨霊を数ヶ月も身体に纏っちまってるんだから」

「怨霊に……?」

 

 霊夢の問いに柊が指を立てて説明する。

 

「いいか? あいつは自分の力を蓄える為に怨霊も取り込んじまった。でも怨霊って少し掻き集めてもやばい代物なんだよ。ほんのちょっとでも怨霊に影響を受けたらそれだけで精神は安定しなくなるくらいだからな。事実俺もそうだった」

「え!? だ、大丈夫なの……?」

「俺に関してはオーズに変身して欲望を肥大化させなければ抑えが効く。でもあいつは違うだろ? この冥界の怨霊を全て取り込んでる。それに加えて欲望を肥大化させる、なんて能力(モン)まで勝手に植え付けられて、そんなのヤバいに決まってるだろ」

 

 霊夢は話を聞く中で一つ疑問を生じた。

 

「勝手に植え付けられてって、そんな話どこで……」

「紫さんに聞いた」

「あいつに?」

「詳しい話は全部終わってから紫さん本人に聞いてくれ」

 

 

 怨霊を取り込んでなお平気だなんてどうやら柊は相当善性だったらしい。だが、そんな柊ですら数分間で汚染の影響を受け始めたのだ。その数十倍の量の怨霊を取り込んでいた西行妖が汚染され尽くすのは道理だ。

 

「それに俺の身体に入ってるやつと共鳴してるから分かるんだよ。お前が今やばい段階まで侵食されてるって事はな。あの時助けてって聞こえた声。あれは()()だろ」

 

 西行妖が眼を見開く。

 

「何を言ってる?」

「いいよ別に答えなくて。今のお前が根っこから俺たち人間を殺したくて仕方ないってのは分かったから。でも聞こえたんだお前の奥底に眠る魂から、助けを求める声が」

 

メダルを握り、柊は西行妖に告げる。

 

「もう俺にはお前と戦う理由なんて存在しないけど、俺がお前を助ける理由なら、それで十分だ」

 

レミリアは、それを聞き笑い。霊夢は少し複雑そうな顔をした。

 

「それじゃバックアップ頼んでいいか? 二人とも」

「勿論よ。私達に任せときなさい、ね? 霊夢」

「え? いや、私が──」

「頼む、霊夢。俺にやらせてくれ」

 

柊の透き通る眼に、霊夢は飲み込むしかなかった。

 

 ──頼みます紫さん。

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 ほんの少し前。レミリアが柊の元を散ってから。

 

 

「……どうしよう」

 

 

 レミリアに選択を委ねられた柊は戸惑っていた。

 

 自分は闘いに赴くべきかどうか。それとも……否か。

 

「正直……もう戦える力はからっきし残っちゃいない。まして変身も許されないなんて……」

 

 ──多分、近くにいたら皆んなの邪魔になる。だったらいっそ……。

 

 離れてみんなを信じよう、柊がそう考えた瞬間に。柊の頭にノイズが走る。

 

「が……!?」

 

 

『利用していたのは…余の方だったがな』

──『誰か』

 

「これ……幽々子さんの時みたいに……! ぃっつ……」

 

 頭痛に頭を押さえながら、確かに聞こえてくる声を聞く。

 

 

『お前が余を?』

 ──『助けて』

 

「……え?」

 

 ──西行妖……なのか?、お前……助けてって……言ったのか?

 ──『……』

 

 

 柊は、繋がっている相手に尋ねた。

 

 ──なぁ、助けて欲しいのか!?

 

それからは、一切の反応がなく、頭痛も止んでいた。

 

「……そう、か」

 

そして、柊は気づく。

 

「俺ですら、こんな状態なのに西行妖は俺より遥かに多くの怨霊を取り込んでるんだ」

 

そう、それで何も起こらないはずがない。

 

「……だったらやっぱりさっきの声は」

 

 ──西行妖の中に入ってる誰かの声って、ことだよな……?

 

 

 疑問に思ってるばかりでもいられない。確かめに行かなければ。

 

「ちょ、ちょっと……ゴホッ…待って…!」

「ゆ、紫さん! 大丈夫ですか!?」

 

 身体中穴だらけの紫。当然顔色も悪かった。

 

「大丈夫、今は……妖力を治癒に回していないだけ。それよりも……」

 

最初の敵意はもはや見えず、紫は柊の前に頭を垂れた。

 

「……御免なさい」

「……もう大丈夫」

「……」

 

幻想郷の賢者が一人間に頭を垂れる。見る者が見れば幻想郷をも揺るがす行動ではあるが。

 

「教えてください、俺を殺そうとした理由も、全部」

「……ええ」

 

そして全ての話を聞いた上で、柊は顔を歪ませた。

 

「……そっか」

「他に完璧に処理をする方法は思いつかなかった。……情けない話よね」

 

柊は一瞬口籠ると、紫に言った。

 

「俺、この闘いで生き延びたらどこか幻想郷じゃない遠くに追いやってもらってもいいですよ」

「……え?」

「あいつとの戦いで、幻想郷の人達を困らせて、傷つけた原因は俺だったって分かったから」

「……」

「まぁ、西行妖はもう紫さんに従う気もなさそうだからアイツを利用して完全に俺の存在を消すことは出来ないだろうけど。でも俺がずっと幻想郷にいるよりマシだと思う」

 

紫は思いがけない言葉に、問うた。

 

「ど、どうして……」

「外でも迷惑かけた俺が生き返ってまで他人を困らせる気はないからです。せっかく貰った二回目の人生ですけど、これ以上周りに迷惑をかけるだけならまだしも、危険な目に遭わせるのは俺も嫌だ」

 

其の目に輝きは、なく。既に答えを見つけているのか。

 

「さっきまで、話を聞くまでは、理不尽な死だと思ってたから怒った。でも違う。紫さんが俺を殺そうとした事にも理由がある。俺が生きたいと願う理不尽さを覆すに値する正当な理由が」

 

紫の目を真っ直ぐに見つめて、柊は言った。

 

「だから、解決出来ることなら解決して、そのあと……紫さんが俺の死を望んでるなら、俺死ぬよ」

 

何の感情の振れ幅もなく、述べる。

 

「だから、その前にあれを止める手伝いだけは、お願いします」

 

「……うん」

 

 紫は、この場で柊の頼みを否定せずにいた。

 

「私に考えがある……聞いて」

「はい」

「あいつが怨霊に冒されてしまっているのは多分間違ってないと思うの。なら無策で挑んでもしょうがない」

「何か、あるんですね?」

「ええ」

 

──作戦はその場で確かめてから考えようと思ってたから、何か案があるなら暁光だ。

 

「貴方にはオーズの力がある。それを使いましょう」

「いや……それは無理です。俺が変身した時は怨霊達の力を返って増長させちゃって……あれのせいで綱引きもクソも……」

「今回するのは綱引きではないわ」

「え?」

 

 紫は、その先を言うのを躊躇っている。

 

「あの、時間もないので」

「貴方と奴は力を共有できる訳でしょ……えっと、だったら……怨霊だけを奪うことも、貴方の力を使えば、出来る。」

「……なるほど。綱引きで力を引き抜くんじゃなくて怨霊だけを……そして引き抜けたら俺の時みたく怨霊が暴走して表に出てくる。その間に俺が全部怨霊を取り込めば良いんだな……けど狙って怨霊を取り込むなんて出来ないから紫さんが調整する……ってこと?」

「え、ええ」

 

 つまり、紫は柊が全てを請け負え、と言っているのだ。

 

「……」

 

「うん、調整は任せた、ありがとう紫さん」

「その、何とも思わないの? どうして怒らないの?」

 

賢者としては愚か、人としては当然の質問。全ての責任を、痛みを何故、こうも軽々しく了承してしまうのか。

 

「今やれる事がそれしかないから、早く行ってみんなを助けなきゃ。皆んなを傷つけたのは俺なんだから」

 

 

     ♢

 

 

 

 

「よし、行くか」

「!」

 

 西行妖の身体から大量の鋭い蔦が現れる。しかしその動きは最初よりも明らかに衰えていた。

 

「無駄だ、西行妖。俺もお前も、もう疲れただろ」

 

 

 レミリアのグングニルが柊を襲わんと迫る蔦全てを弾く。

 

「死ね!」

 

石畳から蔦が飛び出し柊を襲おうとするが、柊を覆う霊夢の結界がそれを許さない。

 

「ちっ!」

 

西行妖が、足に渾身の力を貯める。そして一気に後退するつもりだろう。それは最善策だ。ここで大きく距離を広げ長時間逃げ続ければ、恐らく柊が先に失血で死ぬ。そうなればきっともうチャンスは来ない。

 

「させるか!!」

「この……!」

 

霊夢は、さらにもう一枚、柊と西行妖を中心とした小さな円形の結界を霊夢が張る。そして、この結界は。

 

「!? なんだこれは……」

 

「霊が逃げられないように、特注の術式が張ってあるわよ!」

 

ただ封じ込める為だけの札。複雑な術式を込めず、一点のみの効果を付与した結界だ。だが結界とは効力を一点に絞れば絞るだけ、効力そのものも増す。それゆえに剥がすのはそれなりの時間がかかる。

 

 

「助かった」

「ぐっくそ!!」

 

 柊は西行妖の手を掴むことに成功した。

 

 

「……!」

「うおぉぉぉ!!」

 

 柊は己の身体から力が抜けていくのを確かに感じた。これは以前見えた時と同じだ。力を奪い合う綱引き。

 

 

そう、柊が吸収出来るのだから、西行妖も当然出来るのだ。

 

「来た!!」

 

──紫さん、頼む……!!

──『……けて』

「!!」

 

 

 

「柊!」

「策は本当にあるんでしょうね!?」

「レミリアさん、霊夢」

 

 柊は二人をただ、見つめた。

 

霊夢とレミリアにはそれが、なにかを惜しむ様にも見えた。

 

 

「……柊?」

 

 最後の一瞥をし、柊は西行妖だけを見つめ直す。

 

「ここまで来て、負けられないもんな」

「ぬぬぬ……!」

 

 疲弊しきって傷だらけ、それでも今の柊には、身体中ズタボロとは思えないほどの膂力が備わっていた。ただ──仲間を傷つけた罪を清算させるという願いの為だけに。

 

 

「ぁぁああ!!」

「! クッソ!!」

 

 西行妖は今ある分の妖力を解き放ち、柊は結界の端、約3メートル程吹き飛ばされる。

 

「ぁ、ぁぁ! ……ぅぁぁあ……!」

「!? 西行妖の様子がおかしいわ……」

 

 それは、柊の持つ三つのコアメダル。己の力、欲望を増殖させる性質を持つ自らの能力、それら全てを込めてもらったコアメダル。そして西行妖に吹き飛ばされる直前。それを刹那の時間で西行妖の体に押し当てて、欲望を増幅させた。

 

「出たな……怨霊……!」

 

 柊と西行妖の綱引きにより表面化した巨大な欲望に釣られ、そして柊のちっぽけな一撃で顕現した。

 間違いない。柊の体にある力を、欲望を呼ぶこの嫌なオーラ。

 

 

 数多の協力あって西行妖を攻撃し続けた結果。ついに身体の主導権が西行妖から怨霊達にすり替わってしまった。

 

 だが手を離す刹那再び聞こえた声。

 

 

『……けて』

『助……けて』

 

 今度は幻聴でも何でもない。確かに彼に、柊に向けられた言葉だ。

 

「……ああ、ああ、助けるさ。それで全部……ちゃんと向き合うよ」

 

 血は先程よりも垂れ、力も徐々に失われていく。また近づくには、先程以上の労力を要する事になるが。たかが3メートル弱だ。それに、西行妖は結界から逃げられない。

 

「……?」

 

 柊は、二人が苦虫を噛んだ様な顔で自らを見つめていることに気づいた。

 

「どうした?」

 

「もう霊力が……ごめんなさい」

 

 パシュン。と音を立てて結界は崩れ去ってしまう。そして、霊夢は一言、柊に投げかける。

 

「後は魔理沙か咲夜にやってもらうしか……」

「そうか。なら二人は離れて休んでいてくれ、ありがとな、ここまで一緒に闘ってくれて」

 

更に霊夢は頬に流れる一筋の汗を払いのけ、言う。

 

「柊は知らないかもしれないけどね。怨霊が取り憑かれたまま時が経てば、そいつも怨霊になってしまうの。それに……」

 

 ──それは、貴方も例外じゃない。

 

「……ああ、分かってる。怨霊になったらどうしようもないんだろ? でも、まだあいつ自身は怨霊じゃないあいつの魂は確かに、まだ奥に残ってる」

 

 

吐血しながら、それでも柊は希望に縋った。それを見たレミリアは、もう耐えられなかった。

 

「……ごめん、柊。私は……やる! 手遅れになる前に!」

「!……まっ」

「……ダメよ」

 

柊が咄嗟にレミリアを止めようとしたところを、霊夢が抑えた。

 

「……霊、夢」

 

 

「こ、の……喰らいなさい! これで文字通り私の妖力はすっからかんよ!!」

 

 レミリアが今持てる力の全てで投擲したグングニル。しかし、西行妖を包む怨霊達の妖気を少し浄化するだけで、すぐに霧散してしまった。今のレミリアには、もう怨霊を祓えるだけの力は残されてはいないのだ。

 

「ああ、もう厄介ね!……でも手応えはあったわ……あとは咲夜か魔理沙が来てくれれば……」

「ぉお、ぉぁああ……!」

 

 確かに西行妖は苦しんでいる。それが怨霊によるものか、グングニルによるものかは分からないけど。

 

「待ってくれ……レミ、リアさん」

「……ごめんね」

 

そういうとレミリアは西行妖を蹴りで吹き飛ばした。そして二人は遠くへ行ってしまう。

 

「く……そ」

 

吐血は止まらない。とうとう時間も限られてきたのだ。

 

「柊、もう諦めるしかないわ。急いで止血するから、しゃがんで」

「 ……助けるんだ……約束したんだ……」

「助ける助けるって……いい加減にして!! ただの木じゃない!」

「でも声がした! 俺に向けて!」

「これ以上無茶されたら貴方を守り切れなくなる! 怪我だって軽くないのに!!」

 

ボロボロの身体、武器はお祓い棒だけ。これで西行妖に接近する柊を助けるにはあまりに心許ない。そう考えながら柊の身体の穴一つ一つを、自らの服を破り、布で塞いでいく。

 

「もう……守ってくれなくていい…霊夢は魔理沙達の所に戻れ」

「なんでよ……あんた、一人で……こんな無茶ばっかりしたら、あんた本当に死んじゃうのよ!?」

「……元から、そのつもりで来たんだ」

「……え?」

 

霊夢の頭に手を下ろし、柊は笑った。

 

「皆んなが怪我したのも、あいつがあんな目にあったのも、元を辿れば俺が幻想郷にきた所為だ。だったら、俺は少しでも皆んなに贖いたい。……治療は、ありがとうな」

「あんたの所為な訳……ない、だって、あんたは何も……!」

 

霊夢の口を、柊は手で押さえて、申し訳なさそうに言った。

 

「そこら辺も出来れば詳しく聞きたかったけど……俺はそれが本当だって知っちゃったから。……だったら俺は死んで良い」

「良い訳ないでしょ!」

 

我を忘れ、霊夢が柊の首元を締めようとするが、それより先に柊は霊夢を払い除けた。

 

「!」

「……ごめんな、霊夢」

 

霊夢はそれを聞いて無意識に下唇を噛んだ。

 

「 俺はあいつの魂を助ける。あいつにとってここは帰る場所なんだ。けど俺は……そうじゃない俺に帰る場所なんてない。帰っていい場所なんてこの世界には存在しなかった」

 

 自分でもこんなこと言うのは卑怯だと、思いつつも霊夢はそれを口にした。

 

「慧音の前で、そんな事言えるの!?」

「──!」

 

 最低だと分かっていてもこれ以上の無茶をしてほしくなかった。その一心で、つい口にしてしまう。

 

「……もう言えなくなるな」

 

──でも、それでいいんだ。  

柊は己に語りかけた。

 

もう、こちらに戻ってはいけない。揺らいではならないのだ。

 

思う事すら烏滸がましい。沢山傷つけて、全部全部、俺が悪かったのに。今更。

 

 

 

(……皆んなともっと一緒に、いたかったな)

 

 

 

柊は勢いよく立ち上がる。そして、何度も何度も脳裏に呼び起こすは、仲間との記憶。

 

「……」

 

きっと皆からしたら他愛もなく、くだらないような記憶もある。けれど。

 

「……楽しかったなぁ」

 

 彼にとっては、文字通り、自分の命なんかよりもよっぽど大切な──。

 

「……守らなきゃ、皆んなも……あいつも」

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

霊夢には柊の気持ちは分からない。たかが木の妖怪の嘆き、声が聞こえただけで身投げをするなんて。馬鹿げてる。

 

「お願いだから、行かないで」

「……俺は恵まれてた」

 

本来なら何もなし得ず小さい子を殺したまま、自分も死んでる筈だったのに。吸血鬼の妹を救えて、怨霊達を、自分の身に収めて周りの被害を少なく出来る。そして幽々子や妖夢達の所有物も守れて死ぬならもう何も言う事はない。

 

「誰かの為に自分が死ぬことに……躊躇いなんてないんだ」

 

 理由も分からず攻撃されていた時とは違う。この自分こそがこの世界に害を成す存在だったと知ればもう、この世界にこそ死ねと言われたら大人しく従う他ない。いつしか彼にとって、幻想郷は、それほど大切な物へと変わっていた。

 

「何の為に慧音が……」

 

霊夢の消えそうな声。揺れる瞼。

 

 そして、今。柊の服の袖を握って、止めようとする震えた霊夢の手。重々しい呪いにも等しいソレを振り払って。

 

「……悪い、もう行く」

 

 覚悟を決めた瞬間、柊のズボンのポケットから輝きが灯る。

 

「!? は……」

 

 三枚のメダルが光りを発していたのだ。

 

「……」

 

 この力に、柊は再び確信を持つ。これなら、絶対に助けられる、と。

 

「行ってくる」

 

柊は立ち塞がる霊夢を追い抜いた。最後の力を振り絞って。

 

「……おねが、……ねぇ! 待ってよ!!」

 

 

 もう霊力も底をついた霊夢は、思わず瓦に足を踏み外して転んでしまう。

 

「って!」

 

──こんな事してる場合じゃない、早く助けに行かなきゃ。……なのに、足が上がらない。

 

「もう……こんな時に……!」

 

 霊夢だけが、今回の異変で一度も仲間への意識を解かなかった。他の者は多かれ少なかれその意識を解いたのに。だが、とっくに限界だった体がここで心より先に根を上げてしまった。

 

 

『悪い。もう行く』

 

 柊の言葉が思わず頭の中で反芻した。

 

霊夢にはそれが、ただの言葉通り、額面通りの意味には聞こえなかった。

 

──『自分を助けようとしてるのに、蔑ろにしてごめん。』

 

 そんな意図を、霊夢は感じて、尚更己を悔やむ。

 

 

──でも、私だって貴方を守ると約束したのに。ここで転んでるだけじゃダメだ。

 

「……ふぅ、お互いボロボロだな霊夢」

「……!?」

「立ちましょう。私達にもまだ出来る事はあるはずよ」

 

 

 

     ♢

 

 

 

「くそ……しつこいって言ってんで……しょうが!!」

「ぁぁあ……ぁ!」

 

 反撃が来ると思っていなかったレミリアは、硬直して西行妖の攻撃を避けれなかった。

 

「! クソ──身体が……がぁっ!!」

 

更に、怨霊に操られた西行妖の右手は触手のように鋭く尖りレミリアの元へ。

 

「レミリアさん!!」

 

 だが、それがレミリアの心臓へ届くことはなく。 

柊は、レミリアの前を遮り、西行妖の攻撃を甘んじて受け切った。

 

「……つ」

 

 腹を、蔦が貫通する。蔦にも、服にも、地べたにも、血は垂れ流し続け。

 

「……そ、んな……ごめ、……」

「大丈夫、それよりも…後は任せて……」

 

 己の傷を無視……するまでには至らないまでも、支障がないかの様に、彼は再び立ち上がる。

 

「……任せる……って」

 

 レミリアの目から見ても、彼はただの人だ。西行妖をどうにか出来るとは思えない。

 

 だが。

 

「信じてください……俺の最後の我儘です」

「──あ」

 

 最後。それが、彼にとってどれほどの重さか、レミリアが分からない筈がない。

 

 なにより、自分の妹を救った男だ。運命を強引に動かしてくれた張本人が、恩人がこう言うのだ。ならば。

 

「……失敗したら、私を呪いなさい。貴方を信じた私をね」

「失敗はしま、せ、ん……絶対に…あいつは救います」

 

 

 

 柊は振り向き直し、西行妖を見つめる。

 

「西行妖。ごめんな、助けるって約束したのにこんな弱っちくて。けど、今度こそ助けるから…!」

 

 掌に三つの輝くメダルを握る。

 

 この時、柊は無意識に柊自身の内に眠っていた霊力をメダルに灯すことに成功していた。

 

「……まだ救える!」

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