東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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16話 白楼剣と正しい心と壊れたベルト

「絶対に……助けるさ」

「柊その光……」

「……」

 

 口に広がる血の味に辟易する。しかし、そんなもの知らないかのように、柊は西行妖の元へ突っ走る。

 

「ァァァ、ギヤィィアアア!!」

 

 両者ともに最後の力を振り絞り合う。

 

 数えるのがバカらしくなるほどの蔦が柊の身に襲いかかる。

 

「させないっ!」

「──!」

 

 もう、妖力が残っていないレミリアは、自分の身体に蔦を刺して無理やり止めた。

 

「アグッ……もう助けられない、走って!」

 

 ここで気を散らせばレミリアが身体を張った意味がなくなる。柊は、ひたすら手に輝く三色の光を西行妖の元へと運び続ける。

 

 当然、西行妖の攻撃は続く。

 身体から数本の蔦が伸びて、柊の心臓目掛けて飛んだ。

 

「……! ぐ、ぅ!」

 

 咄嗟に身体をずらして、蔦を肩に刺した。

 

「ァァァァアア!!」

「ち、くしょう……! あと、少し、あと少しなのに……!!」

 

 かはっ、と血反吐を撒き散らしながら、肩に刺さる蔦を握り、引きちぎろうとするが、無理だった。

 

 蔦は柊の肩に固定され動くことが出来ない。

 

 ──く、そ。

 

 だが、柊の身体を蝕む蔦はレーザーによりかき消される事になる。

 

 

「柊! 援護するぜ!」

 

(魔理沙! ……頼む!)

 

 

 柊は心の中で頷き、走り続ける。無我夢中で、残り30メートル程の距離を走って埋める。

 

「グゥウ!!」

「させっかよ!!」

 

 ここにきておぞましい量の蔦が、超広範囲で柊を襲いかかる。それはあまりの量で魔理沙のマスタースパークでも全てを消すのは不可能だった。

 

「わりぃ! 何本か止められなかったな! ここまでは私がなんとかするから頑張れよ!!」

 

 魔理沙は、柊に襲いかかる蔦をミニ八卦炉にエネルギーを溜めて自爆することで封殺した。

 

「! ……っ」

 

 それでもなお柊の元へと向かう鋭い蔦。それは柊の脳天目掛けて襲いかかる。柊は目を瞑って受けようとした蔦だが、それが刺さる事はなかった。

 

「ほら、行って。それは貴方にしか出来ないのでしょう?」

 

 鮮やかなナイフ捌きで、蔦を切り裂いていく。

 

 柊に迫る対応しきれない蔦は自らの体を犠牲にして止める。

 

「この程度を捌き切れないなんて……メイド失格ね」

 

 意識を失いながらも、瀟洒なメイドは二波を確かに止め切った。

 

 

「……!」

 

 

 綺麗な一本の道。たった数秒の猶予しかないが、通るには十分すぎるほどの猶予だ。

 

 

 ──残りはほんの少しだけ。後ちょっとだ。動け、動け。

 

 

 あと数歩、しかし眼前に巨大な蔦が石畳を破って壁のようにして現れる。魔理沙のマスタースパークでも、咲夜のナイフでも削り切れない。

 ただの人間一人なら容易に殺せるほどの蔦。

 

 お終いだ。と思ってはいけない、どれだけ恐ろしくても柊は走り続けた。

 

 

 

「……たっ!!」

 

 巨大な蔦が、柊に当たる寸でのところを、全身で受け止める美鈴。

 

「一回分、だけですが……守りま……」

 

 今のいままで西行妖の蔦を対処し続けていた美鈴はレミリアの気が減ったことを感知しこの場へ赴いた。そして現状を把握こそ出来なかったものの、最後まで

 人を守って意識をとざした。

 

 そして──。

 

「あと、ちょっと……!」

 

 ほんの数歩で済む。だのに、西行妖の意地か。決死の力を振り絞った蔦が柊を地面に叩きつけまいとする。

 

「!」

 

 

 ここまで来たのに。みんなが助けてくれたのに。最後の最後で俺の非力さがまいた種で、全て水の泡にしてしまうのか。

 

 泣きそうな心を必死に抑え、彼はただひた走る。

 

 

 ──そして。

 

「あんたがあいつと何話したのかは知らない。けど、それでも! あんたが紡いできた物は確かにあった!!」

 

 

 たった一本の武器、霊力はとうに尽き。残るは気力だけ。だがそれでも。

 

 博麗霊夢は、確かに、お祓い棒一つで柊の前に立ち塞がる蔦をなぎ払った。

 

「ほら、行きなさいよ……馬鹿」

 

 そう言って、霊夢は文字通り全てを使い切り倒れ伏す。

 

「……」

 

 ──ありがとう。

 

 後は走り切るだけだ。

 

「……ようやく、辿り着いた」

「ガッ……!!」

 

 ──……あとはベルトを……! 

 

 

 その隙に、怨霊が柊の身体へと侵入する。

 

「────」

 

 悲鳴すらあげられなかった。

 数々の思念、負の感情だけが頭に詰まっていく。

 ただ、周りの全てに憎しみを覚えてしまう。

 

「────」

 

 ニクイ、ニクイ、ニクイ。

 

「───あ」

 

 憎悪のせいで、細く鋭い蔦が己の身体めがけて飛んできていることに一瞬反応が遅れる。

 

「……っぁ!!」

 

 体に刺さる蔦。おそらく臓器を貫いているが関係ない。あと少しだけ体が持てば、それだけでいいのだから。彼が恐れていたことは一つだけ。

 

(脳に刺さらなくてよかった……!)

 

 しかも痛みで一瞬、我に帰る事が出来た。その一瞬で、ベルトを西行妖の腰へと当てる。

 

「……っ! よし!」

 

 残すは、西行妖に巻かれたベルトに装填されている3枚のメダルを自らの手でスキャンするだけ。

 

 ──だが。

 

 重い。そこに到達するための道のりが、あまりに。

 

 僅かな隙を突き、鋭い蔦が右腕を貫く。咄嗟の事で、スキャナーを手放してしまった。

 

「が、ぁ、ぎ!!」

 

 さらに腕を貫く蔦から通された西行妖の妖力が柊の身体を蝕む。

 

「っ、ぁ──!!」

 

 

 全身を稲妻のような速度で張り巡る妖力。おおよそ人が耐えられる代物ではないのに生きているのは、八雲 紫の手によるものだろう。

 だがもはや今の彼にはそこに掛ける思考すらない。ただひたすら、全身を、血管を、神経を、激痛が蝕んでいく。身体内部で激しい火花が幾重も生まれている。

 

「がっ!! ……ぁぁぁぁあああああああああ!!!!」

 

 右目が弾け飛ぶ。左腕は曲がってはいけない方に曲がり、両耳と口からは血が吹き出した。

 

「それが──どうした!!」

 

 左目があれば見える。右腕があればベルトは拾える。耳も口も今更必要ない。

 

 ただ、ただ、右手にベルトさえあれば。

 

 

「……あぁ……!」

「まだ……よ……」

 

 腕一本分ほどのスキマから、スキャナーを拾い上げる紫、再び柊の手にスキャナーを乗せて、握らせた。

 

「ゴホッ!! ……ま、かせたわ!」

 

「ぐ!」

 

 右腕に全ての力を集中させ。スキャナーをベルトにかざす。

 

「こ、の機会を──逃しは、しない!!」

 

 そして、スキャンする。

 

「────」

 

 ニクイニクイ……!!

 コロシタイ!! ハカイシタイ!! スベテユルセナイ!! 

 死ね死ね死ね死ね!! 

 

「────」

「ォォォォオォ、ぉあああああ!!」

 

 苦しそうな姿の西行妖から、怨霊が抜き出ていく。きっと紫が上手くやったのだろう。柊は、かすかに微笑んだ。

 

「がぁぁぁあああああ!!!!」

「──よかっ……た……! あとは全て取り込……む!!」

 

 このまもなく後に自分は死ぬ、多分ベルトも消えるだろう。だがこれでいい。これで、何もかもを助けられたわけじゃなくても、これが今の自分に出来た最善なのだと。

 

 

 

 そして、柊は願い通り方法はどうあれ、たしかに西行妖を救った。

 

 

 ──かのように、思えた。

 

 

「……え」

 

 紫は、咄嗟に理解が追いつかずに呟いた。

 

 

 

 柊の作戦には穴があった。

 既にボロボロの柊の力では怨霊を自分の身体に封じることすら出来ないのだ。

 

 紫が全ての怨霊を上手く呼び出せてももう柊にはそれを取り込む力がない。

 事実、柊はすでに意識を失い、膝を地面に落とし今にも倒れ込もうとしている。

 

 

「そ……んな」

 

 もう、スキマを展開することすらままならない紫は、思わず弱音を吐いた。

 

 

 溜まりに溜まった怨霊達の怒りは一箇所に集まり鋭い一撃となって今まさに柊目掛け向かおうとしている。

 

『殺してやる……ッ!!!!』

 

「……柊ッ!!!!」

 

 霊夢、魔理沙、咲夜、レミリア、美鈴はすでに意識を失っている。彼女らは紫の叫びに応えることは出来ない。

 

 ──それでも、彼女の叫びに応えたものは、居た。

 

 

 

 

 ──その剣の名は、白楼剣。

 その一振りは柊を蝕もうと企む怨霊を、容易に切り裂いた。

 

 

「この剣に──斬れぬものなどあまりない!!」

 

 魂魄妖夢の剣は、怨霊を斬る。だが、これでも有効打にはなり得ない。

 

『まだだ……!!』

「……くっ!!」

 

 まだ、怨霊そのものを祓う手にはなり得なかった。

 

 

 

 そして──。

 

「正しき場所へ還りなさい、魂たちよ」

『──!!』

 

 その名は、西行寺幽々子。

 ふわり、と。まるで天使のような立ち振る舞いで、霊を祓う。

 

 

『ぎゃぁぁぁ!!!!』

『ぅぁああああ!!!!』

『ぁ、ぁ、嫌だぁぁあああ!!!!』

 

「……」

 

 

 

 ♢

 

 

 

 数多の霊が雄叫びをあげる中で、西行妖(それ)は言った。

 

『まさか最後に貴様の手で詰まされるとはな……大した女だ』

「……貴方に取り憑く全ての霊を祓ったわ。……貴方の魂も。これで貴方は文字通り死ぬ。喜怒哀楽も何も、感じることもない。……最後だからと言って暴れても無意味よ」

『……それはそうだろう余は負けたのだ。ここまで負かされておいて今更みっともなく暴れる程余は愚かではないわ。……ふん、むしろ貴様らの顔を見て一々怒りを浮かべなくていいと思うと清々する』

「……あら? それは喜びかしら。貴方にもそういう感情があったのね」

『ああ、そうだな。……これが喜びと言うモノなのだろう』

 

 西行妖の魂は怨霊達から解き放たれた。

 

「怨霊に汚染なんてされてなくても、そんな風なのね、貴方」

『チッ……口の減らない女だ。こんなナリでも妖怪なのだから、当然だろう』

 

 どこか晴れたような風貌で、されど形作られた肉体と呼ぶべき樹体は綻び始めた。

 

「でもね、彼も言っていた様に貴方の魂が助けを求めていたこと、それは貴方に身体を奪われていた時、私にも常に聞こえていたわ」

『……!』

「だからこそ、今貴方はそんな顔をしているのでしょう」

 

 一瞬目を閉じて、滅びゆく身体で、彼は笑う。

 

『人間相手に助けを求めるなどと、妖怪も堕ちたものだ。これほどまでに無様をした妖怪もそうはいないだろうよ。……』

「そうかしら? 案外周りには同じような方々もいるものよ?」

『はっ、ここまで痛めつけておいてよくもまぁそんな皮肉が言えたものだ』

 

 そして、満足げに言い放つ。

 

『だがまぁ……そのおかげで最後には穏やかに消えられる。……決して貴様らに情を持つことなどないが。……その件に関してだけは。礼を言う』

「……ええ、彼にもそう伝えておくわ」

 

 残滓となる中で、彼は本心から言った。

 

『……まったく。あの男といい貴様といい……』

 

『人間とは本当に度し難い生き物だった』

 

 

 ♢ 

 

 

「……終わった、……のね」

「説明は後よ……貴方は、彼を……急いで病院へ……」

 

 倒れた柊の身体を起こす幽々子。そしてそのまま妖夢へとひき渡す。

 

「行って。私たちにはまだ……仕事があるの」

「はい……ですが」

 

 ボロボロながらも指示をする。

 

「幽々子様……成仏してしまった霊達は……」

「仕方なかった、としか……ゴホ……言えないわね」

 

 幽々子はけほっと咳き込んだ。

 

「……させないわよ、紫。聞こえてるんでしょ? ……ってもう殺すだけの力があるかも分からないけどね」

「……」

 

 幽々子は目を逸らす紫に言った。

 

「貴女と話すのは全てを終わらせた後。今は幻想郷の為だと思って動きなさい」

「……ええ」

 

 皆が冥界から抜けていく中で。幽々子は落ちている3枚のメダルをひろい、呟いた。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 地に残ったベルトと三枚のメダルは砕け散り、悪霊達とともに霧となって霧散して行った。

 

 

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