東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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幽霊譚編
17話 処置とこれからと明日のオーズ


 急に目が覚めた。

 

 見慣れない景色だった。

 河原だ。

 たくさんの霊がひゅるりと宙を舞い、どこかへと誘われていっている。

 

 

「ここは三途の川かな?はは……」

 

 見知らぬ土地すぐそばには川があり幽霊が佇んでいる。世にいう三途の川そのものだろう。

 

「正解だよ、よく分かってんじゃん。全く数合わせが揃わんと思ったら」

「? ……誰?」

 

 殺意は感じないので、ゆっくり後ろを振り返る。

 

「なんだよ、つまんない反応だね警戒しないの?」

「いや、敵意も殺意も感じなかったから。それよりさっきの正解ってのは? それと君の名前は……」

 

「そうさな、それならまず自己紹介からかね。私の名は小野塚 小町。気軽に小町って呼んでよ。仕事はぶらぶらダラけながら死神をやってるよ。……こんなもん?」

 

「小野塚 小町? それに死神?」

「ほれ」

 

 後ろにある大きな鎌をちょいちょいと指差す。ああ死神のシンボルマークって言ったらそりゃ鎌だよな。

 

「妖怪がいるのに今更って感じだが、死神もいるんだな」

「ははは、でも私は死神サービスで持ってるだけさ、存在する為にね。実際私の役職では全く使わないよ」

「へぇ。死神でも色々シフトがあるってことか?」

 

「そ。私は霊を船に乗せて三途の川を渡らせる係、船頭なんだけど、あんたほんとに全然驚かないね」

 

 後ろ髪を掻きながら、困ったように話す。

 

「いやぁ、なんかもうどうでもよくなっちゃって」

「ふ〜ん……でも、死にたがりはよくないなぁ全くこっちは迷惑してるっていうのに」

 

 メモをポケットから取り出し言う小町さん。

 

「というと?」

 

「アンタ、まだ死んじゃいないんだよ。その癖こっちに迷い込んじゃうんだからさ。大方自殺志願者かい? よくないなぁ」

「その紙は、死んだ人リストみたいなもんですか?」

 

「そうそう、アンタの名前は載ってない。良かったな彼岸を渡りきっていなくて」

 

 一瞬小町と名乗る少女の雰囲気が変わった。

 

「渡ってたらどうなってた?」

「地獄行き」

 

 ──地獄行き、ねぇ。よく分からないけど、まだ生きているらしい。

 

「アンタを見つけれたお陰で今日の仕事は終わったからさ、少しくらいなら話してあげる」

「それはどうも。さっきの数合わせって何の話です?」

 

「ああそれね。さっき言ったこれは死者の名簿帳。これと幽霊の数が合わないとなると流石に問題ありなんだ」

 

 ──そりゃ死者と幽霊の数が合わないなんて何か作為的な問題が起こっているに決まってる。

 

「そう。しかも今回は死者の数ではなく幽霊の数が多くて合わないなんていうヘンテコ事件だったからね。死者以外の霊魂がここに来るなんて初めてだよ全く。どうなってるのさお前さん」

 

 一体何やらかしたんだ? と聞く小町。

 

「自分でもなんでここに居るのかは分かりません。まだ死んだ訳じゃなさそうですけど」

「そりゃね。実体を持った魂がここに辿り着くなんて普通じゃない。何やらかしたんだ?」

 

 ──最後に意識が途切れたのは西行妖にベルトを装着した時だ。

 

 ──あ、そういえば。

 

「すいません、幽霊達の名前って分かります?」

「ん? あ、ああ分かるよ」

「死んでないか知りたい人達がいるんです」

 

 それから、柊は知人の名前全てを尋ねた。

 

「ん〜誰も死んでないね。全員生きてるよ」

「……良かった」

「なんで? なんかあったのか?」

「いや、えっと」

 

 隠していてもしょうがないと考えた俺は小町さんに事情を話した。

 その方が手助けしてもらえるだろうし。

 

「マジかぁ〜……!」

「? な、なんです?」

 

 吃驚した顔でこちらを凝視している。

 

「あったんだよほんのちょい前にさ霊魂が一気に消滅したって事件が! アンタ達の仕業だったのか!」

 

 霊魂というのはつまりは怨霊とかそこいらの類いだろう。

 だったらそれに該当しているのは確かに自分だ。あの時西行妖が全ての霊を吸い取っちゃったし。

 

「まぁ生きてるってんならそろそろ帰るよ」

「何言ってんだい?」

「え」

 

 

「ここには入り口はあれど出口はないさね」

「え」

 

「そうなのか……」

 

 つまりは生きたままここら一体を彷徨うことになるのか? それはちょっと退屈そうだ。

 困惑していると、小町が立ち上がった。

 

「行こうかね、迷える子羊を保護しに」

「どこへ?」

 

「どこってそりゃあ、死神が行く場所なんて一つしかないさ」

 

 その文言で場所ははっきりわかる。つまり、地獄だ。

 

「嫌だ! 待ってくれ! 確かにもう良いとは言ったけど!! まだ生きて良いなら全然俺は生きたいぞ!まだ20にもなってないのに!!」

 

「ははは、なーにバカなこと一人で言ってんだい。落ち着きなって」

 

 柊の慌てふためく様子を見て笑う小町。

 

「……?」

「言ったろ? 保護するって。安心していいよアンタは死神の名誉にかけて守ってあげる」

「じゃあ、どこに行く気なんだ?」

 

「あの世の狭間」

 

「やめろ──! おっおれだったらここから動かないぞ! あー!」

「だ──っもう! アンタなら大丈夫だって!」

 

 服を引っ張られて無理やり肩に担がれる。

 

「……? し、しなない?」

「死なない死なない。私の上司に相談してアンタをどうにかして帰れないか聞いてくるだけだよ」

 

 ありがたいことに違いはないけれど、やはりそれでもあの世スレスレの場所に行くのはあまり乗り気がしない。

 

「あ、けど嘘はついちゃダメだからね? 嘘なんてついた日にゃ」

「日にゃ?」

 

 舌をペロッと出し、悪戯する少女のような笑みで言う。

 

 

「閻魔様に舌を抜かれるよ」

 

 

 ♢

 

 

「なぁ小町さん」

「小町でいいよ、んで何?」

 

「全然先が見えないけど、大丈夫なの?」

 

 現在、地獄の裁判所という所へ小町に案内して貰っている最中なのだが。

 正直言って怖い。

 

「大丈夫大丈夫。私はいつもこのルートで行ってるから。生身の人間が無事かどうかは知らないけど!」

「やっぱ帰る!」

「あはは、もう一人じゃ帰られんだろ〜?」

「ぅぅう!」

 

 案内に任せっきりでルートの把握を怠っていた。

 

「旅は道連れ世は情けってな♪」

「いやだぁぁぁぁああ!!」

 

 

 ♢

 

 

「ほぉ〜ら無事。って泣くほど怖かったのか。よしよし」

「お、おれまだ生きてます……?」

「生きてるよ、全然生きてる。うし、やってるやってる」

 

 何のことだろうか。そう思い涙を払って前を観てみた。

 

 

「シロです!」

「ありがたやありがたや……」

「クロ!」

「いゃぁあああ!!」

 

「クロ!」

「クロ!」

「クロ!!」

 

 少女が決めポーズをしている所で。

 

「あれ、は?」

「閻魔様だよ。そして私の上司でもある」

「あれがえんま?ああ、閻魔様で小町さんの上司って?閻魔様にしては優しそうだな…」

「見た目はね。けど中身はおっそろしいほど頑固で怖いよ」

 

 閻魔なんだからそういう一面もまぁあるだろう。

 

「小町、仕事を放棄しておいてよく平気でここに来られたわね、貴女には話が…」

「四季様、私はホントに要件があって来たんですよ!? それにサボってたわけじゃないですし!」

「ムッ…」

「?」

 

 随分と厳つい手鏡を出してジーッと睨んでいる。どうやら閻魔というのは随分な変わり者らしい。

 

「嘘を言っていない。悪い薬でも飲まされたのかしら」

「そんな反応しないでくださいよ!? ちゃんとする所はちゃんとしてますからっ!」

「失礼しました。小町ありがとう」

 

 四季様と呼ばれる閻魔が柊を凝視する。

 

「精神体の魂ではない、肉体の魂を持っているの?」

 

 一瞬目を瞑り、閻魔は告げる。

 

「訳ありということでしょうか。いいでしょう、もう少しで今日は終わりですからお待ちなさい」

 

 近くの椅子に座ってぼーっとする。

 

「アンタ、随分ラフだね、仮にも閻魔様の前で椅子にもたれかかるなんて」

「ん〜暫くキツイ思いしてたからちょっとズボラになるのは許してほしいよ」

「四季様と話す時には治すんだよ」

「分かってますよ」

 

 そしてどうでも良い雑談をかれこれ一時間。

 

「もう少しで終わりって言ってなかった? 大分経ったと思うけど……」

「ん、いやもう終わったみたいさね」

 

 コトコト、と階段を降りてくる四季。

 

「改めて、初めまして私は四季映姫という者です。役職名はヤマザナドゥ。閻魔として死者を裁く仕事をしています。と言ってもあまり理解されないでしょうが」

 

「ん〜っと俺は」

 

 映姫さんは急に手鏡を取り出してじっと覗く。

 また身だしなみチェックか。まぁ女の子ならそういうものなのかな。

 

「オシャレ好きなんですか?」

 

 でも流石に初対面の人の前で手鏡で顔のチェックはしないと思う。

 

「いえいえ、すみません誤解させてしまいましたね。いつも素性を知る前に使っているのでつい…」

「裁判中も容姿チェックしてるの!?」

 

 すげえ閻魔様もいたものだ。そんなに気を使わなくてもメチャクチャ綺麗だと思いますけど。

 

「違うわ! 四季様が持ってるのは浄玻璃の鏡っつって相手の過去の行いを見る物なんだよ! そんな裁判中に化粧チェックとかする訳ないだろ! てかうちの上司口説くな!」

「あり? 声に出てたか」

 

「いいのです小町」

 

 顔がうっすら赤みを帯びている。

 

「勘違いさせた私が悪いですから……」

 

「なんかごめんなさい」

 

 ゴホンとわざとらしい咳払いをして切り替える。

 

「か、構いません。とりあえず自宅に帰りながら話を聞きましょうか」

 

 自分ではどうしても掻い摘んで言える自信がなかったので、それとなく事情を知ってる小町に説明してもらった。

 

「なるほど、よく分かりました。貴方でしたか」

「やっぱ四季様は知ってたんですか? 幽霊が突然消えた理由」

「名前までは知りませんでしたが。人間と半人半霊が厄介事を起こしたとは聞きました」

 

 淡々と聞いてくれるのがなんだかちょっと怖くて。

 恐る恐る聞いてみる。

 

「やっぱり怒ってます? 仕事増やして……」

「確かに一時期異様な事態で慌ただしかった。しかしそんな私用で他者に怒りを持つなどあり得ませんから、安心なさい」

 

「女神……!!」

 

 反応の一つ一つに困る四季。

 

(変な子……私が閻魔だとほんとに分かっているのかしら?)

 

「まぁいいです。小町、貴女はお帰りなさいお疲れ様でした」

「は〜い! 四季様もほどほどにして下さいね〜」

 

 ──ほどほどに…?普通はほどほどにするなんて言葉使わないだろうに。何かされるのだろうか?

 

「ではお上がりなさい」

「おじゃましま〜す……」

 

 中は割と、普通の家だった。ただ少しへりくだって言えば、娯楽や趣味などの道具は一切なかった。

 あくまで住む為に使っている、という感じの。

 

「すいません、質素な部屋ですが」

「いやいや、別にそんな事ないです」

 

 あくまで予想だけど、この人は仕事の虫という感じがする。

 

「そうですか、ありがとうございます。どうぞ」

「どうも……えっと…」

「四季映姫、です。閻魔様でも構いません」

「はぁ、じゃあ映姫さんよろしく」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 座布団を用意されたので遠慮なく敷いて座る。

 

「では本題に入りましょうか。貴方の処置の件です」

「はい」

 

「始めに結論から言うと、元に戻る事は可能です。しかし今の貴方の体は霊体。すぐに帰ることは残念ながら不可能でしょう。恐らく長い時間を労するかと」

「……?」

 

「ええ、そういう反応になってしまうことは予測済みです。一から説明しましょう」

 

 

 ♢

 

 

「貴方は最後、西行妖を止める際に怨霊に取り憑かれた。そして西行妖を止める為に魂魄妖夢が剣で貴方の身体の魂にまとわりつく怨霊達、つまり霊魂を根こそぎ払った。その事は把握していますね?」

「勿論。小町に全容を聞きました」

 

 よろしい、と頷いで再び話す映姫。

 

「実はその時に魂魄妖夢が誤って怨霊と、貴方の霊魂も切り刻んでしまったようです」

「妖夢ちゃんが!?」

 

 

「未熟だったのが不幸中の幸いか、貴方の霊魂を完全に消滅させる事は出来ていなかったようです。大方半分ほどでしょうか。いや熟達していればそもそも巻き添えには。いやそうしなければ彼が死んでいた以上ファインプレーではあるのね……とにかく魂魄妖夢の半人前さが功を奏して貴方の魂は払われずに済みました。ですが」

 

 ですが、なんて接続詞で次に発される言葉なんて大抵悪い事実だろう。あまり聞きたくない。

 

「貴方の霊魂に纏わりついていた怨霊達が、浄化され浄土に向かう波に飲まれて貴方自身の霊魂はここに来たようです」

「んーと……?」

 

 いきなりそう言われても、はいそうですかとはならない内容だ。

 

「妖夢ちゃんが俺の魂だと識別しないまま怨霊と一緒に俺の魂? も斬っちゃって、俺の霊魂? が二つに分かれた。んで、えー、とその分かれた方の一つが浄化した怨霊に巻き込まれてここに来た、と?」

「その通り、補足するなれば、今貴方に肉体があるのは怨霊達がここに来た貴方の霊魂に纏わりついているからですね」

 

 それについてもよく分からないのでさらに説明を求める。

 

「怨霊は人間の魂に付着します。そして貴方の魂に付着した怨霊達の力を使って貴方は実体を得ているということです」

「なる……ほど?」

 

 四季映姫は語る。

 

「彼女が半人前だったが故に貴方の霊魂に傷が付き、貴方自身の霊魂の力が弱まって他の怨霊たちが浄土へ向かう時に魂から引き剥がされ、怨霊の波に流される程度の力になってしまった。だがそうなっていなければどうなっていたか、分かりますか?」

「ん〜つまり怨霊だけが消えてたらって事だろ? そりゃ死にかけてたし普通に死んでたんじゃないかな」

「ええ、地獄に落ちていたでしょうね」

「……」

 

 ブラックジョークも大概にして欲しい。閻魔がそれを言うと笑えない。

 

「貴方の肉体が完全に機能を止める前から魂が引き剥がされたのも大きい。肉体が死ねば魂の鮮度も比例して落ちていきますから。今回貴方が五体満足な身体として実体化できているのは魂が一切朽ちていないからです」

 

「でも現実での俺の肉体はもうとっくに死に体で……」

「その点に関して心配は必要のないことだと思いますが」

「え?」

 

 柊の懸念する悩みに四季は答えた。

 

「あの八雲や冥界の女主人達のことですから、必ずや貴方の肉体を元に戻すでしょう。魂を綺麗な状態に保っていれば貴方は必ず穢土の世界に戻れる」

「俺、色々と運が良かったんですね」

 

 四季は強く頭を下に振った。

 

「さまざまな奇跡が絡み合ったからが故のややこしい事態ですね。貴方がきっと善行を積み上げたからですよ」

「そっか……あ」

「?」

 

 顎に手を乗せて柊は尋ねた。

 

「さっきの怨霊達の力を使って魂を実体化してるってのは、どういうことなんです?」

「どうやら貴方の霊魂と精神が強すぎて怨霊達の負の力を無意識で肉体生成に使っているようなのです」

「よくわからないんですが」

 

 四季映姫は数秒押し黙った。

 

「貴方の肉体に入り込んでいた怨霊たちの半分は魂魄の一振りで消滅しました。そしてもう半分は西行寺幽々子の手によって浄土へ向かったのです。その浄土へ向かう怨霊達の波に貴方の魂が飲まれてここに迷い込んだ。ここまではいいですか?」

 

 柊は頷く。

 

「その際に貴方の魂は無意識のうちに怨霊達を取り込みました。自分が実体を持つためのエネルギー源にするために」

「実体を持つことが大事だと無意識でわかってたんですかね」

「本能が察知していたんでしょう。実際の問題、肉体を持たないままこの付近を彷徨えば魂が揺らぎ何者でもなくなってしまいますから貴方が無意識下で行っていたことは正しかった」

「へぇ」

 

 柊はさらに疑問を重ねた。

 

「というかその、霊魂って別れたりするもんなんですか?」

「本来あり得ない事象です。そればっかりは魂魄妖夢の神業という他ないでしょう。それにしても貴方の霊魂がこっちに流れ着いたのは不幸中の幸いでしたね」

「というと?」 

 

「今の貴方は精神体、魂そのものが意思を持ち、怨霊のエネルギーを持ちいて実体化しているだけ。そして永遠亭で眠っている貴方の本来の肉体である物理体、もし貴方の精神体がここに迷いこまず、ほかの霊と共に浄化されていたら一生起きることはなかったでしょう」

 

「もし肉体の方に霊魂が残っていたら?」

 

「肉体が死に向かっている以上貴方の魂も死に向かう、まぁ人間で言うところの死ですね。貴方はそのまま死んでいたでしょう。推測でしかありませんが…何しろ霊魂が二つに分かれる生物なんて初めて見るので」

 

「うへー怖いな」

「本来霊魂が飛び出ることなんてあり得ませんしね。怨霊と違ってオーラのようなもので目に見えないものですし。貴方が怨霊に憑かれていなければ小町も貴方を見つけることは難しかったでしょう」

 

「うーんじゃあ今の俺を祓えば身体に戻ったりしません?」

 

「そんな事をしたら貴方の肉体は一生意思を持たないまま植物状態で腐るのを待つことになりますが」

 

「消えて同時に俺の体に戻ったりはしないの?」

 

「そんな都合よく事は行きませんよ。魂と肉体が別々の場所にあるなら今は死んでいるのと同等ですし。生き返らせるのにはそれなりに手間もかかると言うものです」

 

「ひゃあ。閻魔の力でどうにか出来ないんですか?」

「私の力は裁く為のもの。そんな魔法のような事は不可能です」

 

 詰んだ。じゃあもう帰れないじゃん。

 

「せめて怨霊が貴方の霊魂に影響を受けてさえいなければ……」

「いなければ?」

「私の力だけで貴方の魂と怨霊を切り離すくらいは出来たかもしれません。そしてそのまま私の家で厳重に貴方の魂を守っていればもう少し話は早かったかもしれません」

 

 どう早くなるのだろうか。

 

「切り離せたらどうなるんです?」

「冥界の主人の力を借りて貴方の魂を肉体へ戻せます。が、怨霊を纏ったままでは後々酷い目に合うのでそれも叶いませんね」

 

「そんなぁ」

 

(そもそも霊、ましてや欲望や意志の強い怨霊に対して己の魂と意思で影響を与えることそのものが異常なのですが。ましてや体を構築するほどのものとは)

 

「今離してしまうと貴方が戻ってから影響を受けかねませんから、出来ません」

「そうですか」

 

 ですが、と呟く。

 

「私も見捨てるつもりは毛頭ないです。必ず救いますから信じて。どれだけかかるか分かりませんが幸いここには時間の概念はない、だからどうか待っていただけませんか?」

 

 会話の中の一つ一つから感じる、100%中100%の善意。

 少ない会話だったがもうハッキリと分かる。

 

(根っからの善人だ、この人)

 

「ありがとうございます、俺も早く帰れるように、なるべく手間をかけないように帰れる手段を探します、それでは」

 

 この流れで立って帰ろうとしたのに、映姫はすかさず口を挟んだ。

 

「はい、解決するまで身寄りがないでしょうから、私の家に泊まっていって下さい」

「えっ?」

「今の肉体が存在する貴方には外は少しばかり苦しいでしょう。私の家ならばスペースもまだまだありますし」

 

 なぜか、本来頼む立場のこちらではなく、映姫が頭を下げる。

 

「ちょ、ちょちょ……う、……はい、お願いします」

 

 同じくこちらも頭を下げる。

 

「はい、お願いします。では、いきなりですが」

 

「? え、ええ」

 

「浄玻璃の鏡で貴方の過去を少しながら拝見しました、貴方は少し防衛本能が薄すぎる、そもそも〜」

 

(……なるほど、ほどほどにってこれのことか──!)

 

 

 

「……以上です。私はそろそろ休みます。貴方はどうしますか?」

「……もーちょいおきてますぅ」

「はい、お休みなさい」

「おやすみなさい……」

 

 すーっごい。精神が苦しいわ。

 8時間くらいずっと説教されたんだけど。しかも正論ばっかだから反論できねぇ。

 屁理屈でもないから聞くしかないし、そもそも8時間も説教出来るとか説教する側もきついだろ!

 

「ははは、小町が言うのもちょっと分かるかもなぁ、1日がすっごい長く感じたし。気分転換にちょっとだけ外に出てみるか」

 

 ドアを開けた瞬間花々が吹き荒れる。

 

「すげぇな……綺麗だ……」

 

 紫陽花だろうか。紫色の花をした木々が満開に咲いている。

 

「いい匂いもするなぁ」

 

 思い返せばあっちの世界では景色に想いを馳せる事なんて滅多になかった。

 こんなに綺麗なのは早々ないだろうが地球は広い。探せばこれだけ美しい景色もどこかにあったかも知れない。

 

「あーあ、バカしたかもなぁ」

 

 あっちの世界で女の子を救えずに幻想郷に神隠し、そのまんまオーズになれて浮かれた矢先にみんなの声無視して人生終了しかけてんだからな。

 

 それはまだいいとして、だ。無視できない事実がある。

 柊は一度美鈴さんとレミリアさんを傷付けた。

 この事実からは絶対に逃げちゃいけない。

 

「……帰れたら闘うの辞めるか」

 

 あの二人はきっと土下座すれば許してくれるだろう。そんな姿が目に浮かぶ。けど、俺自身が許せない。

 

「……あーあ、どうしよう……」

 

 元はといえば、西行妖を暴走させるキッカケを作ったのも紫さんに辛い思いをさせたのも俺の存在があったからではないか。

 

 やば、思い返すと涙出て来た。

 

「……もういいや今日は寝よう」

 

 こうして。

 少し長い、霊体生活がスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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