東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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2話 異次元と反動と初変身

 

「う、ぅ……」

 

 身体が()()みたいに重い。妙に重い身体を、無理やり起こした。

 

「うっ……今のは……いやこ、こは?」

 

 柊は辺りを見渡す。見渡してみると見たこともない場所というより辺り一面 木、木、木。

 

「森だこれ!」

 

 ──どうなってる? 俺は確かに死んだはずだろ? なんで生きてる……。

 

 少し考えているとふいに、頭痛を感じ、柊は頭を押さえ始めた。

 

「いてて……そうだ、確か俺は車に跳ねられて、それで……」

 

 あれからというもの記憶がおぼつかない。というよりも、記憶が混濁している。

 起きる直前に見えた何か。あれがなにかも分からないし。本当に車に跳ねられたかどうかも怪しいくらい体はピンピンしてるし。

 

 ただ、ハッキリとした意識と体の感覚があるから夢ではないはずだ。

 

「……走馬灯? いや……それこそあり得ないか」

 

 思い出したくもない記憶が脳内に送られる。別人から無理やり送られるように。

 おかげか、事故の一件を完全に思い出した。

 

「……うぅ」

 

 あの少女の母親の叫び声を思い出し心が締め付けられた。

 だがどれだけ落ち込んでいても、どれだけ悲しんでも誰も何も言ってはくれない。彼は孤独を感じ、一人呟いた。

 

「ははっ……ま、俺みたいな人間が死ぬにはいい場所かもな」

 

 自虐しても意味がないのは分かっている。けれどもう自分の人生は終わったのだ。茫然自失になってもそれは仕方がない。そう開き直るように彼は雑に立ち上がる。

 

「はぁ……ほんと、助けられなくてごめんな。すぐ謝りに行くよ……」

「……バウっ?」

「いや、良いんだ何とでも言って……ばう?」

 

 目を開く、そして柊は一つ気づく。頭に、何かが垂れている、と。

 

「がルル」

「え?」

 

 ここが夢か何かであるかはともかく。目前にいる熊は、剥製とは言えないくらいリアルに、動いていた。

 

「うわぁあー! あー! あー! そんな思考してる場合じゃない!!」

「ガァアアアアア!!!!」

 

 唸る柊に呼応して、叫ぶ熊。

 

(この距離は……多分逃げられない!! ……けど!!)

 

「2度も死ぬのはご免だぁ!!」

 

 よく分かりもしない場所に遭難して、挙げ句の果てに腹を空かせたクマの餌になる。それは、流石に受け入れられない。

 

 柊は木々を使って曲がり曲がって逃げていく。

 

(どっかで聞いたぞ……熊は! 真っ直ぐしか走れない!)

 

 カーブしながら走った。これで自分は無事だろうと期待を持つ。

 だが熊はそんな期待をぶち壊す。といわんばかりに、普通に曲がりながら近づいてくる。

 

「話しとちがぁぁあう!」

「バォオオオ!!!!」

 

 聞いていた情報が正しいことかも定かではないが、今回は仕方がない。なにせ相手はクマではなく、妖怪と呼ばれる類の生物なのだから。

 

 徐々に距離が狭まっていく。巨大な熊は柊が気づかぬ間に真後ろに迫り鉤爪を構えていた。

 

「! うわっ!」

 

 凶器の右腕の薙ぎ払い。僥倖か、性格が功を制したというべきか。彼は熊の爪に怯え、転げ落ちる事で回避した。

 

「はあ……はぁ……!」

 

(次は絶対に逃げ切れないけど……!)

 

「俺が何したってんだ! 急に襲ってくんなよ!」

「ぐるわあぁぁぁ!!!!」

 

 熊ってこんな獰猛だったか? それとも人間の味を知ってる熊か? 何を考えたってしようがない。だってこの数秒後に食われるのだから。

 

「くそ……」

「フシュ……バフゥ……」

「!? もう一匹……ぞ、ゾウ……なのか?」

 

 新しく現れた化物は二足歩行でこちらに近づいてきた。白銀の肉体で、赤く鋭い眼。ゾウのようで、何か全く違う化け物。そんな怪物が、柊の背後から迫る。

 

「……初めからおびき寄せられてたって感じか? 」

 

 象の怪物は鼻をしならせて、柊の左肩を切り裂いた。

 

「ああ……っ!!!!」

 

 柊は左肩の痛みに応えるように膝を崩す。二匹の化け物はそのザマを見て嘲笑うような眼をしている。

 

「……いった……」

 

 徐々に徐々に距離を詰められる。その様はまるで、狩りを楽しんですらいるように見えた。

 

「……いや、楽しんでるんだろうな」

 

 この二体は少なくとも知性を持っている。罠を用意していたこと。そして楽しむように狩りを行なっているんだから、多分そうだ。

 

「……どうせ逃げられないんだろ……」

 

 柊は敵を睨む。そのおよそ常人でない精神力は、自暴自棄からくる開き直りか、それとも──。

 

「……結局、死ぬのが怖いんだな。俺」

 

 決して死を受け入れず、最後までやれることを。そう誓い彼は立ち上がる。

 

「……いいぜそっちがその気なら闘ってやる!」

 

 ──例え惨めに終わるとしても。最後くらい、いつか見た映像のヒーローのように終わりたいんだ。

 

 強く、そう願い、叫んだ時。

 

 カシャン。と何か機械音が聞こえた、と同時に腰には巻いた覚えのないベルトが巻きついていた。

 

「!!? ……これは……!?」

 

 しかも腰に巻かれていたのは、幾度となく見たベルト。忘れるはずもない。

 

「オーズ……のベルト……?」

 

 だが熊はそんな事御構い無しに再び鉤爪を立てて今度こそトドメを刺そうと、突進している。いよいよ死が近づいている。

 ふと、ベルトに目を見やった。

 

 見てみるとメダルも三色揃っているようで。けどこれはきっと何かの間違い。実際に変身出来るわけがない、そう、そのはずだ。

 

 ──現実では、ありえない、わかってる。分かってるんだ。あれはあくまで誰かが造った物語。

 

 分かってはいるけれど、ここで何もせずに死ぬよりは、良いと思った。

 

「グォォォオオ!!!!」

 

 

「──変身」

 

 オーズドライバーを傾け、スキャナーをスライドさせる。

 

 ──タカ! ──トラ! ──バッタ! 

 

 ──タ・ト・バ! タトバ! タ・ト・バ!! 

 

「グゥ!!??」

「アグゥ!?」

 

 急に姿が変わったのを見て、熊とゾウの怪物は様相を変える。

 

「……ぇぇぇええ!? う、嘘だろ……」

 

 力が止めどなく溢れてくる。それに身体を見れば一目瞭然。

 

「オーズに……なれてるぅぅ──!!?」

「ガァアア!!」

「!! う、うわっ!!」

 

 突っ込んでくる熊もどきの牙を握り、勢いを止める。

 

「す、凄い……これでも全然力を入れてないのに……! ……てええいっ!」

 

 牙を掴み空中に放り投げる。

 

「ぐもぉおお!!!」

 

 地面に衝突すると同時に熊モドキは、声を荒げた。

 

「よし……お前も来い!」

 

 ゾウもどきは、挑発に当てられて、柊に突撃した。

 

「ブモォォォ!!」

「オラ!」

 

 力漲る脚の三連撃をゾウもどきの体に浴びせ、軽々と吹き飛ばす。

 

「パォォア!!」

「! 逃げた…」

 

 力の差を理解したのか熊とゾウもどきは森へ帰った。

 

「……まぁ良いか」

 

 オーズドライバーの傾きを元に戻し、変身を解除する。

 

「……なんなんだろ、ここ……」

 

 夢か現か、分からずじまいだが、そうであっても彼はオーズに変身した。それだけは、確かなのだった。

 

 

 ♢

 

 

 暫く歩いていると、トンネルが視界に入った。

 

「……無人か」

 

 先へ先へと、歩を進めトンネルの中へ入る。だが、足を踏み入れた瞬間に何か違和感を感じとった。

 

「……?」

 

 あたり一面が白黒の世界。そして宙に浮く無数のシャボン玉。その中には沢山のナニかが詰まっている。

 

「…夢…だなやっぱ」

 

 柊はぼんやりと周りを見渡す。直後、胸の奥が、チクリと痛んだ。

 

「うっ!」

 

 それが合図となってから辺り一面に浮く沢山のシャボン玉が割れ始める。

 

「「「ヴェぇぇぇぁぁアぁア」」」

「……ごぼっ……!?」

 

 唐突に、何かが口から飛び出てくる。赤い。これは血だ。柊は吐血をしたのだ。

 

「かは……なんで?」

 

 いきなりのことでただただ焦る。だがそんな事知るかと言うようにシャボン玉は破裂し、その度に中から沢山の異形が現れた。その姿はまるで。

 

「か、怪人……くふっ……っ!」

 

 身体が軋む痛みを感じた。上手く立ち上がれない。そして、この痛みの出所にこそ覚えがないが、感覚には覚えがある。

 まるで車に轢かれた直後にそっくりなのだ。

 

「ぶぅぅぅ……」

「ぉオぉォォ……」

 

 

「ぐぁ……ぁ、ぁあああ!! いたぃ……!」

 

 堪え難い痛みの渦に飲み込まれて行く。そして、接近していた怪人の拳が眼前に降りる。

 

「──!!」

 

 ──逃げなきゃ!

 

 そう強く願った時。彼は意識を失うと同時にそこから姿を消していた。

 

 

 ♢

 

 

「ふんふんふーん♪」

 

 当たり前かのように箒で空を駆けている少女は、ご機嫌に鼻歌を歌っていた。

 

「ふんふ……ん?」

 

 そんな少女の前方にある雲から何かが落下した。

 

「なんだ? 」

 

 少女は落下した物を覗くように首を下に向ける。落下している物を捉えた少女は箒の勢いを殺し、落下するそれを見て叫んだ。

 

「いっ!? 待て待て待て!!人間!? …か!?」

 

 慌てて箒の向きを下にし、少女は落ちてくる人間を受け止める体制に入った。

 

「と、止まらない!?」

 

 受け止める事には成功したが、自分よりも重いものを抱き抱えながら体勢を整えることができない。このままでは地面に激突してしまう。少女は焦燥感を募らせながらも、なんとかして抱き抱える姿勢を保つ。

 

「おい! 起きろ!」

 

 大声で叫ぶが男は目覚めない。少女は男を起こすことを諦め落下する先を見定める。

 

「…! 一か八か、やってやるか!」

 

 自分が落下する先に神社が見えた。神社ならば、あれがある。

 

「──ハッ!」

 

 地面に衝突するすんでの所で、地面に向けて手から光弾を放ち、威力のベクトルを縦から横にした。

 

「わぁぁあああ!!」

 

 地面にぶつかった瞬間にバネのようにはねるも、勢いを殺しきれずに神社の賽銭箱に突っ込んでしまう。

 

「……っててて……ふー……うん、ギリギリセーフだな!」

 

 煙りが舞い、少女は咳き込む。

 

「上手くいって何より、だな」

 

 狙い通り賽銭箱の素材である古びた木がクッションになったようだ。咄嗟の判断にしてはかなり良かったと少女が喜んでいると。

 

「まーりーさー??」

「あ……いやそのだな霊夢……」

 

 

 霊夢、と呼ばれる少女は空から降ってきた金髪の少女を睨み、怒鳴った。

 

「あんたってやつは本当に騒ぎをうちに巻き込んでくれるわね! 勿論、賽銭箱も直すんでしょうね!?」

「わーかってる、わかってるよ。ただ今回ばかりは多めに見てくれよ霊夢、別に私もやりたくて賽銭箱に突っ込んだんじゃないんだぜ?」

「はー?」

 

 魔理沙が賽銭箱の方に指を差した。

 

「……誰? この人」

 

 その日、柊は二人の少女と出会い、これが運命の始まりとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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