東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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21話 医者と紅魔と紫さん

「……ん」

 

 長かったような短かったような、そんな暗闇から意識を取り戻す。

 

 ──ああそうだ、幽々子さんに、魂を身体に戻してもらったんだ。

 

 眩しい朝日に当てられたのか、涙が溢れる。

 

「ん? ……ウソォ!? し、師匠〜!! 起きたぁあ!!」

 

 バタバタとドアを開けてどっかに行く鈴仙。

 

「やっぱ夢じゃなかった、か」

 

 長いこと眠っていたのか、喉すらも古びたようだ。

 

「おはよう、よく眠れたかしら? 」

 

 お医者さん、久しぶりに見た。

 声で反応出来ないので、ギチチチ、と頭をゆっくり下げる。

 

「そう。それは良かったわ一旦身体中のチェックするから、鈴仙、チューブは外しなさい」

 

 変な管が身体中に巻き付いてある。これはあれか、話に聞く生命維持装置か。

 

「ビックリね、こんな急に意識を取り戻すなんて」

「全くですよ! 貴方今まで魂が抜けたかのようにピクリとも動かなかったんだから!!」

 

 ──その通りだよ、魂抜けてたんだよ。説明したいのだが、ぁとかぅとか小さい呻き声しか出ない。

 

 

 検査は数分で終わった。色々と体を弄られてちょっとだけこそばゆかった。

 

「……お、ちょっ、とだけ、喉の調子……あ戻ってきあ……」

 

 身体をベッドから起き上がらせようとすると、全身がひっくり返る。

 

「おえっ!!」

 

 地べたにビターン! と叩きつけられる、直前で医者さんが支えてくれた。

 

「はいはい、もう身体も1ヶ月近く動かしてないんだから、最初は他の人の手を借りなさい?」

「そうし、ます……それと」

「?」

 

 起きた直後から感じていたんだが。

 

「ご飯……食べたいです」

 

 物凄く腹が空いていた。

 

「……鈴仙」

「ええっ!? 私薬草摘みに行かなきゃならないですよ!?」

「まぁいいか。じゃあちょっと待ってなさい」

「み、水を先にください」

「鈴仙それだけは用意してあげて。そしたらあとはおつかいに行っていいから」

「はぁーい」

 

 パタン……と、ドアを閉めて遠くに行くのをキッチリ見る。

 

「はぁ……美鈴さんとレミリアさんに会いに行かなきゃな」

 

 しかし腹が減りすぎてロクに動けやしない。

 まずはこっちの用事から済ませないとなぁ。

 

 他にも考えなきゃならないであろうことの心当たりはあるけれど、今考えても仕方がないと思う。問題が起きたら起きた時の俺に任せることにした。

 

 

 ♢

 

 

「上手い!!」

「口に合う様で良かったわ」

 

 袖をめくって誇らしげにしている永琳。だが実際咲夜の料理と張り合えるほどの料理の腕前だった。

 

「本当に美味しかったです! ごちそうさまでした」

「お粗末様、これからどうするの?」

「とりあえず紅魔館に行けるなら行こうと思います……あ〜けど……ん〜」

 

 あんまり順番付けとかしたくないなぁ。

 

「……どうしたの?」

「誰に一番に会いたいとか、そういうのあんま良くないなと思って」

 

 ふふっと笑って皿を片付けていく。

 

「そんな相手は気にしてないと思うけどねぇ」

「あ、俺も運びます……!」

「いいのいいの、病人は大人しくゆっくりしてなさい。紅魔館の人達なら呼んどいてあげるから」

「い、いや! 本当に大丈夫だから! ほら!」

 

 パッと起き上がってアピールする。

 

「あら? ほんとね……それじゃあ手伝ってもらおうかしら?」

「はい!」

 

 カチャカチャと、食器を洗う音が立ちながら。

 ひたすら磨いていく。

 

「皆んな見舞いに来てたから、早く元気な姿を見せてあげないとね」

「はい、本当にお医者さんには感謝してます。危ない状態だったでしょ?」

「そうね。でも、貴方もよく頑張ったと思うわ。ほら、後はいいから行って来なさい、ありがとね」

「あ、えと……こちらこそありがとうございました!」

 

 永琳は笑顔で首を縦に振る。

 

 それを見て柊は急ぎ服を整えて、立ち上がる。

 

「さようなら! お世話になりました!」

「ええ、行ってらっしゃい」

 

「あ、ちょっと待った! 今思ったんだけど俺の治療費ってどう返せば? 多分めちゃくちゃ高い……すよね」

「あ〜……あの冥界の主人が全部払ったわよ」

「……マジか」

 

 ──さすがは馬鹿でかい屋敷を持ってるだけのことはあるな。

 

「……じゃない、しっかりお礼にいかないとな。ありがとう! それじゃまた!」

 

 手をヒラヒラ振って帰りを見届ける永琳。

 

「……心配する必要ないくらい元気だったわね」

 

 

 足を地面に当てる感触すら、久しぶりな気がするけれど。

 そんなちっぽけな喜びを噛み締めながらちょっとだけ考える。

 

 俺を心配してくれた人達が、いっぱい居たことを。

 

 

「……まだ走れないか……ゆっくり行こう……」

 

 

 ♢

 

 

「よっ! チルノ! 大妖精!」

「? 誰? 貴方」

「えー……うそん……」

「チルノちゃん! ほら! 柊さん! 魔理沙と一緒にいたじゃん!」

「うんうん、大妖精は頭が良いな」

 

 まぁ最後にあったのもかなり前だから忘れられててもしょうがないわな。

 ただ妖精以外の奴らに忘れられてたら流石に泣くぞ。

 

「紅魔館まで道案内してくれない?」

「いいですよ〜!」

 

 

 ♢

 

 

「何しに紅魔館に行くんですか?」

「んー、前ちょっとやらかしちゃったから謝りに行こうと思って」

「やらかしってなんだー? 紅魔館凍らせたりとかか?」

「そんな事するのチルノちゃんぐらいだよ」

「紅魔館って爆発もしてたよな? 災難振りかかりすぎじゃね。あとは毒、麻痺、睡眠くらいか……」

 

 そんな事出来るのかと尋ねるとチルノならば可能らしい。大妖精が言うんだから間違いない。

 チルノは妖精にしちゃ随分力を持ってるな。

 

「前友達を傷つけちゃってね」

「あー、それは謝っておいた方がいいと思います」

「うん、だよな」

「でも今行くのはちょっとオススメしませんよ?」

「なんで?」

 

 チルノが答えた。

 

「今な〜あいつら本気で弾幕撃ってくるんだよ。当たったら痛いぞ?」

「どうせ何か怒らせることしたんだろ〜?」

「そ、それが私もいたんですけど確かにピリピリしてたんです!」

 

 ん〜ピリピリねぇ。

 

「まぁ行ってから確かめるよ」

「あ、待って! なら私に作戦がある!」

「「作戦〜?」」

 

 うーん嫌な予感しかしない。

 

 

 ♢

 

 

「……」

 

「いたいた!」

「いますね、どうします?」

「一気にやっちゃうか!?」

「チルノ声でかいって!」

 

 美鈴さんが珍しく起きて門番をしてる。けど確かに眉間が険しいような? 

 

 

「バレるだろ、コソコソ話しでいくぞ」

「ら、らじゃ……!」

「クフフ、何かワクワクしちゃいますね!」

「確かにこういうのも偶には息抜きになっていいかもな」

 

 さぁ、肝心の作戦内容だが。

 

「いいか〜おさらいするぞ? 大妖精がまず話し掛けに行ってその隙にチルノが近づくんだ。そしたら俺が脅かしてビビった瞬間チルノが凍らせる!」

 

 んー声に出せば出すほどお粗末いうか、幼稚園児っぽいというか。

 若干恥ずかしさを覚える。

 

「じゃあ行って来ますね〜! ウフフ!」

 

 口を押さえて笑う大妖精はいかにも無邪気な妖精らしさが出ている。

 

「よーしみとくぞ柊!」

「あいあいさー」

 

 

「あっあの美鈴さん!」

「ん? 大妖精さん、こんにちは」

「はっはい! こ、こんにちは!」

 

 どうやら接触に成功したようだ。あとはチルノが隙を見て動く。

 

「ごめんなさい大妖精さん。今日はあまり遊ぶ気分ではないんです、今度でも良いですか?」

「え? い、いやそんなんじゃなくて……え、えと」

 

「お、おいチルノ! 大妖精泣きそうになってるぞ? 何言われたんだ?」

「なっなにぃ〜……! なにをしたんだあいつぅ!」

「お、怒るな怒るな! 兎に角俺たちも近づこう」

 

 

「ど、どうしちゃったんですか? 美鈴さん!」

「どうもこうもありません……グスン」

「あわわわわ……!」

 

 

「な、なんか美鈴さんまで泣いてないか? 何言ったの?」

「ゆ、許さん! 行くぞ柊!」

 

 バッと草むらを払いのけて氷塊を美鈴さんに飛ばすチルノ。

 

(早速作戦無視してるじゃねえか!)

 

「ちっチルノさんまで! ごめんなさい、今日はもう」

「ゆ、許さ〜ん!」

 

「かっ、構えるぐらいしろよ美鈴さん!」

「──え?」

 

 美鈴さんを抱きかかえて横に飛び跳ねる。

 勢いよく横の花壇に突撃してしまった。

 

「いたた……ああくそ……まだ走れねぇか……!」

「な……あ」

「ん? あっそうか」

 

 よくよく考えたら倒れてた奴が急に目の前にいるんだから驚くよなそりゃ。

 

「ただいま! 美鈴さん! それとごめ……美鈴さん?」

「う……あ」

 

 目尻に一杯の涙を溜めて手を振るわしている。

 

「柊さ──ん!!」

「どわっ!?」

 

 急に抱きつかれては、当然びっくりしてしまうというもの。

 

「わ、分かった分かった……!」

「うわーん!! 心配してたんですよ!? お嬢様が未来が見えないって言うから! 本当に死ぬって!」

「悪かったよ……はぁ……謝れる雰囲気じゃなくなっちゃったな。美鈴さんはこんな感じのイメージだったわ、うん」

 

「「な、何なの……?」」

 

 

 妖精二人が帰って行ったあと、事情を説明した。

 

「て訳だけど、大丈夫です?」

「グスン……はい……もう大丈夫です」

 

 心配してくれてたのはありがたいけどここまでとは思ってなかったなぁ。

 まさかこれから会う人皆んなこんなリアクションなのか……? 

 

(あの人に謝る時が怖いな……)

 

「エヘヘ……」

「泣きながら何笑ってるんですか」

「なんか嬉しくなっちゃって」

「そ、そうですか。んで中には皆んないます?」

 

 大振りで頭を縦に振る。

 

「そうですか。……ううん、その前に、美鈴さん、真剣に聞いてくれますか?」

「?」

 

「あの時は傷つけてすいませんでした」

「……ああ」

 

 とうとう言ってしまった。切り出してしまった。

 なんて言われるだろうか。

 

 

 もし嫌われていたらと思うと。

 

 

 一人取り残されたような、そんな侘しい気持ちになる。

 

「大丈夫。私は無事でしたから。貴方が無事でほんっとうに良かった! あのまま死なれてたら私もうどうしようかと!」

「……思うところがあれば、言ってください」

「今言ったじゃないですか、無事で良かったです。それ以外何もありませんよ」

 

(……ああ、よかった)

 

 思わず美鈴の身体に身を寄せてしまう。

 

「……! ご、ごめん!」

「いえいえ、お互い様ですよ。あ、再開を祝ってもう暫くこうしてます?」

「いやいや! だ、大丈夫です」

 

 

「私は本当に何ともありませんよ! それどころかずっと咲夜さんの帰りを待ってましたからね!」

「ありがとうございます、それで、皆んな無事でしたか?」

「咲夜さんがかなり長い間入院してたくらいで、怪我は何ともないんですけど」

 

 やっぱり、何かあったのか。

 美鈴が口籠る。

 

「あーフランか?」

「いえフラン様は想像以上に強くて。あまりお嬢様を信じていないからかも分かりませんが」

「……まさかレミリアさんが?」

「実は柊さんと咲夜さんの未来が見えなかったらしくて、自分のせいだと、気に病んでらしたんです。あとタイミング的に咲夜さんも倒れてたので、きっと焦ってたんだと思いますけど」

 

 まぁ、絵は思い浮かぶな。

 

(けどまさかあのレミリアさんがねぇ)

 

「やっぱり、ほんと咲夜さんも倒れてたのがどうやら予想以上に苦しかったようで。最近咲夜さんがまともに動けるようになってからはまた元気を取り戻しつつはあるんですが……」

「そっか。……レミリアさんには悪いけどちと嬉しくもあるな、そこまで気にしてもらってたなんてな」

 

「……柊?」

「あら。珍しい組み合わせね」

 

 

「お! フラン! 久し振り! パチュリーさんも!」

 

 奇遇。廊下を歩いてるフランとバッタリ鉢合わせた。

 そして付き添うようにパチュリーも。

 

「あははは! やっぱり〜! 柊だー!!」

「驚いた……貴方生きてたのね。未来が見えないとかレミィが言うからてっきり死んでる物だと」

「本物の柊さんですよ!」

「見れば分かるわよ」

 

 飛びかかってくる事は容易に想像ついてたので、思いっきり手を広げていたが今の筋肉量じゃ支える事はできなかった。

 

「ぐえっ!」

「あら? 弱くなった?」

「うぐぐ、なんか敗北感」

「ねぇ柊。頼みがあるの。フランも満足したらそろそろ離れてちょうだい」

「はーい」

 

 ここまでの流れでパチュリーさんの言いたい事は察しがつく。

 

「……実はね」

「大丈夫、分かってます。美鈴さんから話は聞きました」

 

 パンパン、とズボンの埃を払いながら、ケロッと。

 

「俺からも話したいことがあったし。レミリアさんには俺から直接話すよ」

 

「お、お嬢様、ご飯の時間です!」

 

 ダメだ。また扉を締め切ってしまった。

 

「咲夜さーん」

「? ……え? しゅ、柊!!」

 

 そこには、入院していたはずの彼の姿があった。

 

「ちょっと、もう無事なの!?」

「はい、心配かけてすいませんでした。……ほんとに」 

「……へー」

「ちょ!?」

 

 本物か確認するかのように顔を触れる咲夜。

 

「ん、何よ? その顔は」

「いや、そんな顔を触られると恥ずかしいです」

「これくらい我慢してよ。心配かけたのは貴方でしょ」

「どんな理屈ですか」

 

 どうやら本当に戻ってきたらしい。

 

「お願いがあるの、実はね……」

「ああ、分かってます。続きは宴会で。まずはこの人からだよな」

 

 

 ♢

 

 

「じゃあ咲夜さんもフランたちと一緒に部屋で待っててもらっていいですか。ちょっと俺も二人だけで話したいことがあるので……」

「ええ、分かったわ。貴方が帰ってきたって分かればきっとお嬢様も元に戻ってくれるだろうから」

「あ、それから、もしかしたらだけど……」

「?」

 

「手荒になるかも」

 

(こっちも他人を説得できるほど内心余裕はないんだけどな。……まぁ、美鈴さんとも仲直り出来たと思うし……行くか)

 

 

 

「……入りますよ〜」

 

 二回ノックする。……中で動く気配はなし、と。

 

「しゃあねぇなぁ……よっと!」

 

 少し助走をつけてからドアを蹴り飛ばす。

 紅魔館が鉄製の扉じゃなくて良かった。

 じゃなけりゃ自分の脚を痛めていたところだ。

 

「ちょっと!? 誰よ、私は話す気分じゃないの!」

「なんでだよ、元気になったってのに」

「……柊?」

「はい、お久しぶりです」

 

 笑って言うと、顔を背ける。あれ。

 

「感動の再会の前に、話してくれなくてもいいんで聞いてください」

 

 ここのけじめだけはつけないとな。

 

「この前は傷付けてすいませんでした」

「……うぅ、そんな事聞きたいんじゃない〜!!」

「!? え!? フラ、レミリアさんだよね!? お前!? ん!?」

 

 急に幼さ全開のレミリアに変わる。

 

「な、なんでそんな弱気なんですか……?」

「貴方も咲夜も運命見せてくれないから〜!!」

「ボゲッ──」

 

 ポカポカ、のポの段階で壁に叩きつけられ、クレーターが出来る。

 

「おぇ……」

 

 どうやらいつものおふざけが過ぎているわけでもなく。本気で幼児退行している。

 

(だからフランがあんな冷静だったのか……なんか呆れてたし)

 

「わ──ん!!」

 

 フランとほぼ同じ突進を仕掛けてくる。ああ、やっぱり姉妹だな。

 

「ん〜! 今頃どうしてますかねぇ」

「さぁね。それは私達が知らずとも良い事。貴女は早く霊を運んで来なさい!」

「だ、だってもう今日は運び終わったんですもん!!」

 

 

 以前より幾らか働き屋になったのは上司としてありがたい限りではあるが。

 そもそも死神が働かないのは不味かろう。

 

「あえて言うなれば、大変でしょうね」

「ああ、怒らせてるって言ってましたからねぇ」

「違うわ。彼が、よ」

「え?」

 

 そもそも妖怪の本質を理解してないのかこの子は。

 

「妖怪とは人間と違い精神的に脆い生き物です。普段どれだけ気高く見せていたとしても一度精神が不安になれば右肩下りで落ち込むというものよ」

 

 そういう意味で言えば。

 

「大変なのが彼の方なのは目に見えているでしょう? 年齢的にも子供の躾とかしたことないでしょまだ」

 

 

 

 

「びぇぇぇぇえん!!」

「ん〜……」

 

 どうすれば良いんだろうか。

 フランが泣きついてた時は。

 

「もう大丈夫。心配かけてごめん」

「ぅう〜……!」

 

 

グスン……」

「大分落ち着いてきましたね……んじゃそろそろ……」

「まだ! こうするの! 殺すぞ!」

「はいはい……」

 

 これじゃ謝る暇もなさそうだ。

 

 (まさかレミリアさんがここまで弱くなるなんて)

 

 謝って興味なさそうな対応されたり絶交だとか批難されたらどうしようとか思っていたがレミリアの方が深刻だったようで。

 

「少しの間こうしてても良いんですけど、日が暮れちゃうので、よっと」

「!?」

 

 泣きじゃくるレミリアさんを抱っこする。

 

「落ち着いたら言ってくださいよ」

「うん……」

 

 

 ♢

 

 

「て、訳でそろそろ咲夜さん交代してくれません?」

「……お嬢様」

「や!」

 

 こっちが根負けした。流石にみんなの所に行けば離れるだろうと思っていたんだが全然離れようとしない。

 

「お姉様もパニックになると周りの事が見えなくなっちゃうからね。ぶっちゃけ今抱っこされてるのが柊だと思ってないと思うよ。生温かい何かで安心するからそうなってるだけだと思う。本当に赤子だよね」

「……うーんフランが冷静なのを見ると凄く違和感があるんだが?」

「今のお姉様を見ると否応なしに冷静になっちゃうわ。同じ暴れ方してもアホくさいでしょ。ていうか、私コイツと同じレベルだと思われてたの?」

 

 ごもっとも。反面教師のようなものだな。 

 

「後でまた来ますから、ほら少しだけ離れてくださいよ」

「離さないで!」

「そのまんま連れて行く訳にも行きませんよ……」

 

 我儘に輪をかけて超我儘だ。

 今日1日をここで終わらせてしまうかもしれない。

 

「疲れて寝るのを待ちましょ、それしかないわ」

「……マジか」

 

 そして、本当に寝るまで待ったのであった。

 

 

「後で怒らないかなぁ」

「大丈夫よ、もういつも通りの姿に戻ると思うわ。それより本当にありがとう」

「いいですって、あ、それよりも……」

 

「レミリアさんが起きたら外に出られる準備しておいた方がいいかもしれません」

 

 

 

「よーし、今日はここまで! みんな今日も一日頑張ったな!」

 

「「きりーつ! 礼!」」

 

 異変解決により春が無事に訪れた。

 

「……はぁ」

 

 大丈夫だろうか。彼は。

 全ての事情は霊夢や魔理沙達から聞いたが、もう終ぞ顔を観れていない。

 

「せんせー!」

「ん? どうしたんだ、遊ぶなら外で……」

「せんせい来てるよ!」

「? 阿求か?」

 

 何か頼んだ覚えはない。もしかすると不審者かも。

 脚だけが先に見えた。

 私は、予想していない突然の事態に椅子から転げ落ちてしまう。

 

「あ……な……!」

「……ただいま、慧音さん」

 

 

 

「柊! ああ……と、とりあえずうちに来い……積もる話もあるだろうし!」

「え、あ、はい」

 

 リアクションが思ってたのと違うことに少し戸惑いながら、柊は慧音の案内する通りに歩いた。

 

 

「ああ、本当によかった! 生きててよかった!」

「!? ちょっと!」

 

 玄関の扉を開けた瞬間一気に飛び込んできた。

 

 

「嬉しい……嬉しいよ……本っ当に良かった!」

「あはは……」

 

 自分がもうすっかり完治していることを慧音も分かってか、この前とは違い明るく振る舞ってくれる。

 

「他の奴らもきっと驚きっぱなしでお前も疲れたろう? 少し休んでいくといい」

「すみません慧音さん俺すぐ行かなくちゃ、今日は急がないと行けない日なので」

「そうか? 何するつもりなんだ?」

 

 そう落ち込まなくていいのに、すぐ会えるから。

 

「妹紅さんには慧音さんからよろしく言っといて下さい」

 

 

 ♢

 

 

「霊夢ー! 魔理沙ー!」

「!?」

「おー! 幽々子がなんとかしてくれたのか! 久しぶりだな!」

「おう魔理沙も久しぶりだな! というか魔理沙たちはやっぱ知ってたんだな。お前らは話が早くて助かるよ。早速なんだけど頼みがあるんだ」

「ちょ、ちょっと待ちなさい」

「なんだ? 霊夢が俺に質問なんてまた珍しいな」

「本物よね?」

「は? いや、何言ってんだよ」

「何でもない。それより早く準備しましょうか」

「そうだな! ようやく出来るな〜!」

 

 柊が遠くに行くのを見届けた後、魔理沙が霊夢に尋ねた。

 

「なぁ霊夢? なんであんなこと聞いたんだ?」

「以前感じた霊力が綺麗さっぱり無くなってるんだもの、疑うでしょ」

「んあ? どういう事だ?」

「分からない、けど何か憑物が取れたような顔してたのと何か関係があるのかもね。おかげで殴る気持ちも冷めちゃった」

「お前、起きたばっかのやつ殴るつもりだったのかよ」

 

 そんな事よりも。

 

「ったく、ここでするなら最初に顔出しなさいっつー話しよ」

「いーじゃねーか、あんな楽しそうな顔で来たんだしさ」

「仕方ないわね、あんたも手伝いなさいよ」

 

 どこか嬉しそうに、呟きながら、準備を続ける。

 

 

 そして、場所は変わって冥界。

 

「いるかな〜……」

 

 辺りを散策して妖夢と幽々子を探す。妖夢は既に視野に入ったが。

 

「……? なぜ貴方がここに」

「そんなかしこまらないでいいよ。今まで通りでいいって妖夢ちゃん、この前はごめんね」

 

「……すみませんでした!」

 

 妖夢は、すぐさま、頭を下げた。

 

「妖夢ちゃんの所為じゃないよ、こっちこそ、本当にごめん」

 

 庭の花の手入れをしている妖夢に邪魔をする。

 少し気まずい感じがするが。慣れっこである。

 

「ケガはもう大丈夫なんですか? 歩いても」

「うん、この通り、それと、医療費払ってくれてありがとう」

 

 妖夢は妖夢で、気まずそうにそっぽ向きながら話す。

 

「ケガをさせてしまったのですから。それぐらい当然のことでしょう。それに払ったのは幽々子様ですし。話はそれだけですか?」

 

 言い出しきれなくて、唾を一回飲み込んだ。次はしっかり、しっかりして。

 

「できれば宴会に来て欲しいんだけど……」

「宴会? 私達がですか……?」

 

「ああ、うん。だって別にそんな、戦い合った仲だし、異変でちょっと怒られそうなことしたかもしれないけどそういうのも含めて、……っていうか宴会までやってようやく異変が終わるというか……変な感じで終わるのも嫌だし……」

 

 見るからに乗り気でない妖夢に、口が回らない。

 柊がアテアテとしていたら、妖夢の頭にポン、と手を撫でながら、幽々子がやってきた。

 

「いいじゃない宴会〜楽しそ〜ね」

「幽々子様!」

 

「お久しぶりです、地獄では本当っ……お世話になりました!」

 

「い〜え〜私も本当感謝してもしきれないわ」

 

「……地獄?」

 

「妖夢は気にしないでい〜の。それよりも行きましょうよ宴会」

 

 フワフワしている。全体的に幽々子がくると周りの空気もフワフワするのだ。

 

「だそうだ妖夢ちゃん、どう?」

「幽々子様が行くのであれば、それで少しでも罪滅ぼしになるならば……」

「だ──! もう、そんなに気にしなくていいって妖夢ちゃん。一緒に飲んで親睦を深めようっていうだけなんだからさ! そっちが許してくれるなら、俺だって全然許してるよ! そもそも、そんな怒ってないって!」

 

「そうよ〜? 妖夢、楽しみましょうよ」

 

 私がおかしいの……? と疑問を感じずにはいられない妖夢も折れて、今日宴会に来てくれるそうだ。

 

「それじゃ、また後で!!」

「はーい、また後で会いましょうー」

 

「彼も幽々子様も、心が強すぎやしませんか……」

「あらー? 知らないのかしら妖夢、主人ってのはね強くないとやっていけないのよ〜」

「そうですか? ……あれ? また戻ってきましたよ彼」

 

「わ、忘れてた……はぁ……はぁ」

「どうしたの? 魂ならちゃんと身体に入ってるわよ」

「違くて、あの幽々子さんくらいしか頼れる人いないんです。あの人の家なんて知らなくて……」

 

 あの人の家を知ってる奴なんてそうそういないだろう。

 

「ああ! なるほどね、良いわよ連れて行きましょう」

「やった! ありがとう幽々子さん!」

「先に準備にお行きなさい妖夢」

「分かりました! 美味しい料理を作って待ってます!」

 

 扇子をハタハタして妖夢を見送った。

 

「さて、行きましょう」

 

 

 ♢

 

 

「そろそろね」

「え? なにが?」

「え〜い」

「どぅわっ!!」

 

 見慣れない場所に着いたと思ったら、急に壁に押される。

 中に入ると身体が圧迫される。どうやら壁の中に入り込んだらしい。

 

 

 そしてそのまま地面に落下した。

 

「ってて……」

 

「貴方まで……なんで……!」

「お、いたいた。やっぱり優秀だな……あの人」

 

 パタパタと埃を払い、彼女の方を向く。

 

 

「久しぶり、紫さん」

 

 

 

 

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