「貴方……元気そうね」
「お陰様で」
威嚇といわんばかりの牽制のしあい。紫に至っては右手に力を溜めていつでも弾幕を放てる様にしている。
「遂に私を殺しに来たのね」
「ん? いや落ち着けよ、俺は闘いに来たんじゃなくてさ、宴会に誘いに来たんです。ていうか1対1で俺が貴方に勝てるわけないでしょ。手を下ろしてくださいよ」
「は?」
臨戦態勢を解いてしまう程に、おっかなびっくりした紫は、信じられないと呟く。
「罠かしら?」
「違うわ! ふつうに宴会するんだよ。なんでそんな疑うかなぁ」
「罠じゃない方がどうかしてるわ。というか、私が行っても気まずいに決まってるじゃないの」
ほっぺを膨らませる紫。
「知ってるよ、でもこのまま皆んなとずっと気まずいままでいるつもりか? 俺のことは嫌いでも、幽々子さんとか、霊夢とかとは知り合いなんだろ? 仲直りしとけよ」
「何がしたいのかしら? 狙いは何?」
「だーから何か企んでるとかじゃなくてさ、単純に仲直りしようよって話」
紫は、控えめに言っても超美人だし大人の魅力があるし仲良くなれるのは本望だ。というのは半分冗談だが。
「話がしたかったんだ、貴女と。聞きたいこといっぱいあるし」
自分を殺しかけた相手にもビビったり臆せずに話す。その心根はとても人間のものとは思えないのだけれど。
そこまで言うのなら多少の会話の余地はあってもよい。そう思い紫は会話を始めた。
「聞きたいことって? 貴方から私に聞きたいことなんて……結構あるわね」
「でしょ?」
柊が口を開ける。
「一番は、俺がいるせいでこれから先この世界がどうなるかだ。やっぱりそれは聞いとかないとな、アンタからあんなこと言われた以上は」
ただの人間同士の会話だったら理解できないだろうけれど、この2人には今のコンタクトで何が言いたいかが互いに通じた。
眉を寄せて、様子を見る。怪しい様な気配はないようで紫は観念し疑問に答えた。
「どうしたもこうしたもないけれど。そうね、たしかに貴方にはそれを聞く権利があるのかもしれないわ……」
素直に応じる紫に、ほんの少しだけ違和感を柊は感じた。
(……なんか、あんまり敵意を持ってない様な? なんでだ?)
「まず貴方が変身できないことについてね。それはまぁ単純にベルトとメダルがないから変身できない。それだけよ」
大方予想通りだ、けれど。
「……どうにも俺は物を作ったり浮いたりっていうのが向いてないみたいでさ。皆みたいに何かを創ろうと思ってポンポン作れないんだよ俺は。霊力は確かにあるらしいんだけど」
人間でも空を飛べる、光線を射てる。しかとこの目で見ても尚、頭のどこかでそんな訳はないと決め付けてしまう自分がいる。
「ベルトは創るためのエネルギーが膨大すぎる、今の貴方の力じゃ無理よ」
無自覚であれだけのエネルギーを生み出す人間は極々少数で、しかもそれがオーズの担い手だと気づいた時に紫は正直頭を抱えた。
「……う〜ん、俺が膨大なエネルギーを使った時……というかベルトを創ったって確か神隠しした時だろ? あの頃に比べたら今の方が強くなったと思うけどなぁ」
「その考えは外れよ」
ハズレだと紫は言う。
けどなら尚更いつ作られたのだろうか。
「だ〜〜っ……分からん……いつだ?」
「貴方が異次元を通り抜けた時」
一瞬身体が固まった。
「どういうことだ……?」
「言っても分かりづらいでしょうから実際に見せてあげるわ」
右手を宙にかかげ、空に円を描く。
その円は景色を写すスクリーンのようだ。
「観なさい、これを」
そこには既視感のある物が映し出されていた。
歩道に突っ込んでいる車と、赤のボール、そして倒れ込んでいる少女とその横で慌てふためく母親らしき女そして、道路で血塗れになって倒れ込んでいる男。
「あれは……俺、か?」
「そう、これは貴方がここに来る前の一件。といっても、貴方の潜在意識から引きずり出してる物だから貴方のイメージであって実際の映像ではないけどね」
死にかけの柊は空に手を広げる。
そして、異変はその時だった。
柊の周りが輝きだした、
そして、柊の身体は跡形もなく消えた。
「うおっ!? 俺が消えた……!?」」
「この瞬間、どういうわけか貴方は次元を越えて私たちの世界に来た」
再び柊が現れた。と同時に腰にベルトが装着してある。そして。
「覚えてるかしら」
「ああ。あの時の衝撃を俺が忘れるわけがない……」
この時に熊と象の姿をした妖怪と闘い、トンネルを抜けて自分は幻想郷へと辿り着いたのだ。
「私はこんな場所知らない。少なくとも幻想郷と外の世界にこんな道は存在していない」
「──え? いや、だって、俺はここから幻想郷に来たんだぞ?」
「このトンネル含め……貴方が体験している世界こそが、時空の境界線なのよ」
「時空の境界線……?」
紫が、鋭く指を向ける。
「貴方自身が備えている力。次元屈折現象。とでもいうのかしらね」
「次元屈折……?」
「第一時空軸から第二時空軸へと干渉する奇跡。その矛盾が孕んだ無の世界があれよ」
沢山の妖怪。そして──怪人。だけではない。彼が時空を超えた時には沢山の異業が住んでいた。
「時の流れもなにもない。ただ異物を排斥するだけの世界。貴方はそこを通ってこの次元へとすり抜けてきた」
「ちょっ……ちょっと待ってください! 意味がわかりません!」
確かに、その記憶はあった。だが、あれは夢だ。
「あれは幻だった! だってその時についた傷もベルトも、幻想郷に来た時にはなかったんですよ!? それに俺がそんな力を持ってるわけがない。だって、俺、車に轢かれる前までただの人間だったんだから」
「私だって幻であって欲しいわ。けど、紛れもない事実だった」
その後スクリーンに映るのは、幻想郷に柊が落下しながら落ちていく映像記録。そこからは彼の知る通りのものだった。
「これがオーズの誕生、この時の欲望のエネルギーが全て具現化されてしまった物が貴方のベルトなのよ」
「欲望が具現化……」
再び宙に円を描く。そして映し出されるこれまでの闘い。
「貴方の力が徐々に増幅していっているのはこれまでの闘いの記録から見ても明白よね。そしてそれはオーズの力に直結している」
もう一つ、円型のスキマにビジョンが写される。
そこには幻想郷の景色らしき絵を横ばさみにしている2つの地球が描かれていた。
「これは?」
「右の地球は貴方がいた地球、ここでは地球aと名付けましょう。そしてその横にあるのが幻想郷そして更に横で幻想郷を挟んでいるものを地球bとするわb、これは私たちの次元の地球」
紫はほかのスキマを消して、この事象の説明に専念した。
「この地球bという世界には、本当に仮面ライダーが実在している、そういう世界なの」
「──え?」
紫の目の色があからさまに変わる。と、同時に柊も戸惑った。
そもそも仮面ライダーオーズになりたいと思ったのは。テレビ番組であるオーズを見て火野 映司という人間性に憧れたからである。当然、それが特撮モノの、一種のドラマに過ぎないという事も理解していた。……のに。
「実在してるってのは、どういうことだ? 実際に、地球にはそういう人たちがいるって? 映司さんも実在するってことか?」
俄かには信じられない。事実として受け入れられない。
だってあれは誰かが作った御伽話で、フィクションである。
「パラレルワールドというのとはまた少し事情が違うのだけれど。認識的にはそれで良いわ」
「じゃ、じゃあこの世界じゃ俺が漫画になってたり……?」
「するかもね、もしくは存在ごと消されてたり」
柊は薄い反応を返す。
実際にオーズになれたこともとてつもなく嬉しかった。けれど、実際に仮面ライダーがいる、という事実は俺にとってはオーズになれたことよりも何倍も嬉しいことだった。
「こんな事、多分銀河で初よ、次元屈折現象を起こした人間が幻想郷にくるなんてね」
紫は分かりやすく頭を抑え始めた。
「私は私のいる次元の地球にしかちょっかいは出してない。というか出せない。本当に並行世界があるなんて思ってなかったし……貴方がここに来たことで起きる現象はまだまだ分からないけど……一つ考えられるのは、地球の悪い組織に幻想郷にはオーズがいると知らせてしまうこと」
「……俺の次元の地球の奴らに?」
「いや、それはいいの、問題なのは貴方を通して私の次元の地球からも貴方の存在はバレてしまうってこと。貴方には認識阻害の結界が貼られていないし……貼れないから」
早く殺さなければ、と言ってたのは少しでも情報が確定する前に事態を収束させる為。
もう間に合わない、と言ってたのは。
「財団Xに知られた?」
「……分からない。けれど既に気付いてしまっているのかもしれない。というか、よく知ってるわね、貴方とは違う地球での組織よ?」
「俺はむしろ、幻想郷にいる紫さんがそれを知ってることの方が不思議だ」
「私はよくあっちに行ってるから」
財団X。それは自分も知っている。
「色んな奴らに援助してその成果を巻き上げる死の商人……だったか?」
「そう。そんな奴らが、実物のコアメダルがある場所を知ってしまえば、勢力を持って回収に来るのは必然しかも、ここにはそれ以外にもあいつらが喉から手が出る程欲しがるような物が沢山ある」
ああ、その通りだ。
ここには地球にはない超希少物が山ほどある。
それは妖怪だったり能力だったり。
「……どうにか、ならないのか?」
「財団Xに限らず悪い奴ら全員を壊滅させることが出来たら、確実なんだけど」
紫の歯痒い返答を聞かずともわかる。
それは難しい話だ。
仮面ライダーの力を持ってしても壊滅させるのは難しいという情報を見聞きした事がある。
ましてやその仮面ライダーは俺たった1人。それではどうする事もできないだろう。
「まぁつまり貴方の問いに沿って答えるなら幻想郷は……先の未来、外の世界の力に侵されてしまう可能性が生まれてしまった、ということよ」
「……」
複数のショックで、思考がクリアにならなかった。
自分の所為でこの世界が終わってしまうかもしれない。ならばどうすれば良いのだろう。
「仮に、俺が今から死ねば、その縁ってのは消せるか?」
「いいえ……一度繋がったものは死んでも離れない。それこそ繋がる前に防ぐくらいしか方法はないの、それが博麗大結界……だった」
そんな大掛かりな結界をいとも容易く侵入されるなんて思っていなかった。
「……実際、そういうのって分かるものなのか……? その、縁とか言われてもよく分からない……」
「気付こうとしなければ気づかないとは思うわ、けれど0と1では大きく違う。私たちが張っていた結界は地球の奴らに認識すらさせない結界」
「えっと……」
「それが神秘。つまり秘匿されているもの。貴方が仮面ライダーは実在しないと思っていたのと同じように、本来はそういう認識のまま終わるものなの、けれど縁を結んだ。貴方も霊夢達が飛んでいる姿を見たらそういうものだって理解できてしまうでしょう? 実感してしまえば、それは秘匿性を失う。幻想郷に張ってある結界はその類の、隠すことに特化したものなの」
こちらの世界で力を持つものはあちらの世界では弱くなる。逆もまた然り。
「まぁ、でも地球の民にはここへ来るだけの技術がまずないと思うわ。認知してここに来ることが出来るだけの強者も、それを探り当てるだけのレーダー精度もまだ無いはず」
「……そっか」
それでもやはり柊は凹んだ。自分の所為だと、自責して。
柊が自然と膝を地面につけた。
まぁ仕方がないただの人間には荷が重すぎるって話だ。
けれど、そのまま。今までの一件を放棄しておくわけにも行かなかった。
「ごめんなさい、貴方には罪はなかったけれど……」
「仕方ない。だから西行妖を使ったってのも解った、納得もできるよ」
スッと立ち上がる。
「でも今のを聞いて寝込んだりする訳にはいかない。もう今までみたいにグチグチしてたくないんだ。今更過去のことでどうこうする気はない。からさ」
右手をぎゅっと握りしめる。
「俺を信じて一緒に闘わせちゃくれないか? 俺も幻想郷の人として闘いたい。他に解決法がないのなら……俺も協力したい」
(はぁ〜あ。やっぱり)
彼自体には悪気はなかった。薄々分かっていたけれど。
彼は過去を振り切ろうとした、ただの人間に過ぎないのに。
紫は今まで柊の闘いを見てたから知ってる。心の中では吸血鬼と闘うのが怖かった事も幽々子と闘うのが辛かった事も。
ちゃんと、受け止めなかったのは自分なのに。
けど怖かった。呪いを持ってきた厄災の様な仮面ライダーが、本当は子供だったなんて認めたくなかった。だって殺さなきゃいけないもの。
ああ──またこうやって私は逃げの口実を作る。彼に今までしてきた暴挙から背を向けて。
だって、これ、側から見たら、逆恨みだもの。事情を知らない子のヘマを恨む、汚れた女妖怪でしかない。
御免なさい。
「え?」
──?
自然と溢れていた。
「貴方は、別に幻想郷に悪巧みを企てていた訳じゃない。ええ、そんな事分かってた、貴方を今更殺そうとしても何の意味もないことも。でも、殺せば幻想郷には何も起きない。そういう根拠のない可能性を信じたの。西行妖による魂の消滅ができれば、もしかしたら貴方の存在を消して、間に合うんじゃないかって……現実逃避してた」
淡々と、紫はつげていく。
「貴方が西行妖を助けて病院で寝込んでいた時、殺そうと思ってた。逆恨みで、殺せばまだマシかもって。思えばバカな事だった」
──思い返せば、私が彼にしたことは。彼から見たら、理由も何もわからない殺戮。
「そして最大の失態は……結果として私自身の手で幻想郷に住む者達の犠牲をいっぱい出してしまったこと」
許されない事を沢山してきた。
「御免なさい」
「いいですよ」
彼は笑って答えた。
「紫さんは紫さんで幻想郷を守ろうとしてただけでしょ? それぐらいわかる、笑顔で受け入れるさ。実際俺の責任だし、こっちこそごめん」
「貴方の責任ではないわ、ただ……ただ異次元から迷い込んでしまったというだけ」
「それが貴方にとっては侵されたくないタブーだったんだろ、俺の存在自体がさ」
──でも、彼だって迷いたくて迷ったわけじゃないのは、私も百も承知だったのに。
「今までのことなんて気にしない。て言えるほどシンプルな関係じゃないのは分かったけど。すれ違っただけだ、別に気にすることない。今は俺だって元気だし、幽々子さんや妖夢ちゃんとも仲直り……は今日の宴会でちゃんとする! ほら、結果オーライだろ? だったらそれでいいじゃないですか」
── ポロっと、なんとも軽々しく、彼と私を袂を分けていた歯車が落ちた様な、そんな気分だった。
「だからまぁ、財団Xの対処は俺も手ずから協力を惜しまないし、困った時はいつでも頼ってくれて構わない。ていうか俺のせいなんだし」
「なら私も、貴方が死なずに済む、本当に最善の方法を探すわ、だから」
「宴会行かない?」
そんな事言われたら、私だって心にあった罪悪感が薄れてしまう。今まで固執してたものはなんだったのかと言わせるくらい、まるで口喧嘩の後に謝って仲直りするぐらいの軽薄さで、
「行く──!!」
♢
「ってなわけで、俺諸共、紫さんをよろしくっ!」
「貴方達にも迷惑かけたわね、ごめんなさい。そしてこれからはよろしくね?」
「「「「意味が分からんわ!!」」」」
その場にいた良識派の面々である人々は突っ込んだ。
「どこで遊び呆けてるのかと思ったら〜、まさか紫の所に居るとはね」
「全くだぜ、せめて事の経緯を話してくれよ柊!」
霊夢と魔理沙はすでに酒を飲んでいる。
まぁ、遅れたし仕方ないけど。
「後でな。まずは乾杯!」
「「「「「乾杯〜!!」」」」」
「柊〜!!」
「どわっ!!?」
思い切りレミリアさんが飛びついてくる。
あいもかわらずとてつもない速度を出してくるが、当たる直前で咲夜が時止めでフォローしてくれた。
「サンキュー、おかげでま〜た骨折らずに済んだ。ありがとう咲夜さん」
「お嬢様の身を案じてのことよ」
「そうかい」
話をしながらも、フランは柊の身体を駆け巡る。
「あれ? フラン?」
「お姉様が乗らないなら私が代わりに乗るわ」
「こしょばゆいからさ〜フラン、もうそろ身体から離れてくんないかな〜?」
「イヤ! 心配したんだからね!」
「そりゃ悪かったけどさ〜」
「ゴホン! ……そのくらいにしなさい、フラン。柊は昨日まで寝てたのよ。それに私の妹として、見ていて恥ずかしいわ」
このお嬢様。数時間前の出来事を綺麗さっぱりなかったことにしてやがる。
「泣き虫の姉がいる方が恥ずかしいと思うけど。もう泣かなくていいの?」
「ちょっと!? な、泣くわけが……ないでしょ!?」
「私の所為で死んでたら申し訳が立たないわ〜! って!!」
「ふーらーんー!!」
「あはは〜」
「こいつ……」
フランの頭をレミリアがグリグリする。
「ま、面倒くさかったのは事実ですしねー。凄い幼児退行してたし」
「生意気になったわね柊……!」
カードを使い、グングニルを持つレミリアさん。
「ちょっ、今変身できないから勘弁!」
「うえっ!? 柊さん変身出来なくなったんですか!?」
横から美鈴さんが言う。
「うん、もう綺麗さっぱり人間だよ。一回レミリアさんに吸血鬼にされかかった事除けばねー。でももう良いんだ」
「あやや! 面白そうな話しですね……聴かせてもらっても!?」
「あ、久しぶりです」
烏天狗の文さんだ。ほんと久しぶりに見たなこの人。
「そんなことも聞かなきゃ知らないのね烏天狗は」
「だってその時の異変について皆さん答えてくれなかったじゃないですか〜〜!!」
そうなのか、と聞く柊。
「ええ、貴方が寝てる間になにもかも知られていると貴方にとっても良い気持ちじゃないだろう。って妖夢が」
「えっ!!? 私ですか……!?」
更に横からひょっこり現れる幽々子さんと妖夢ちゃん。
「あら? てっきり……保護者同然の慧音がそう提案したのかと思ったのだけれど」
「お、俺も……妖夢ちゃんだったんだな」
「何故貴女がそんな気配りしたのか教えて貰っても良いですか!?」
「え!? いや、別に何も……」
そこに幽々子が茶々を入れる。
「んも〜また、嘘ばっかり言って。ずっと謝りたいって後悔してたもんね? 妖夢」
「それはそうですけど……!」
「ふむふむ、なるほどぉ? なるほどなるほど」
嫌味な笑顔で写真をパシャる射命丸。
「クスッ……いいのかしら柊? このままじゃそこのエセ記者に有る事無い事書かれた新聞を人里にばら撒かれるわよ」
「「だ、だっめぇ〜!!」」
最速の烏天狗に全力ダッシュで追いかけっこをする2人。
「ウフフ、頑張りなさいな妖夢〜」
「フフ、冥界の主人とは気が合いそうね」
「奇遇ね、私も同じことを思ったわ。何なら従者の入れ替えっこでもやってみるかしら? 妖夢なら全然貸してあげるわ」
不敵な笑みを互いに浮かべて見つめ合う。2人だけが分かる何かがあるのだろう。
「だそうよ? どうかしら咲夜」
「従者を全然貸してあげるなんて言う主人には付きたくないです」
「フフフフ、それだけ仲が良いってことよ〜」
「ま、私も咲夜が居ないと困るしね。あの子じゃ紅魔館のメイド長は務まらないでしょ」
扇子をはためかせながら笑う幽々子。
「そうね〜、まだまだ要改善ってとこね」
それはそうと〜と、幽々子は後ろから何かを引っ張り出した。
「いい加減出てきなさいな、さっきの音頭の手前。今更黙るのもダサいわよ紫?」
「うぅ……だってぇ」
いざ始まってみると、やはり少し後ろめたい。
「ふふん、情けない賢者もいたものね。なんなら賢者とやらに代わって上げようかしら?」
「残念だけど、優雅に紅茶でも飲みながら月をぼーっと見てる吸血鬼ちゃんには務まらない激務だらけよ〜、代われるなら代わってあげたいのだけどね」
少しムッとしてつらつらと言葉を述べているが、その激務の大体は式神がこなしている。
「あら? 言ったわねこの……へたれ妖怪」
「どっちがよ? 妹に泣かされる弱虫吸血鬼」
「言ったわね〜!? 紫!」
なんだかんだ紫を慮って馴染みやすい雰囲気作りをするレミリアを、愛らしく思う咲夜と幽々子。
そして、
「捕まえたぞ!!」
「あゃやっ!? よく捕まえましたね柊さん!」
羽を鷲掴みすると、大人しく座布団に座る射命丸。
「逃がしませんよ!!」
「ええ、では私からも色々聞かせてください!!」
メモを取り出し質問ぜめする気満々の射命丸。
「「は」」
どうやら逃げられないのはこちららしい。
そうこうして、あっという間に宴会も後半戦に入り、大体の輩は寝てしまった。
♢
「は〜疲れた、お前はそうでもなさそうだな、霊夢」
「あら、風に当たりにでも来たの?」
射命丸の質問責めの休憩がてら、縁側に出ると霊夢が一人で酒を飲んでいた。
「ああ、妖夢ちゃんも口脆くするために酒飲まされて寝ちゃってな。俺も風当たりにきた」
座布団を渡され、霊夢のとなりに座る。
「は〜宴会ではなんだかんだ貴方とここで話すのが風習になっちゃったわね」
「思えばそうだな。毎回こうやって喋ってるし。……なぁ、霊夢」
「ん?」
西行妖との一悶着があって以来話していないのだが。彼は最後霊夢と喧嘩したまま別れていた。
「あの時はごめん。我儘言って」
「……全くよ、アンタ、あんまりにもケロッとしてるから、忘れてるんじゃないかって思ったわ」
二人の雰囲気が、冷たいものに変わる。
「もうその話は無かったものになったと思って、私も考えてなかったのに、なんで今更持ち出すわけ?」
「今日は今までの蟠りをどうにかする為に、宴会を開いたんだ。だからかな」
「どうだっていい。あんたがどういう人間かはもう分かったから。私ももう口出ししない。死にたいなら勝手に死になさい」
柊に目を向けず、桜を眺めながら酒を飲む。しかしどこか、儚げな姿だった。
「ごめん……本当に」
「謝らないでよ本当に気にしてないんだから。……どうせ貴方は誰がいくら口で言っても聞かないタイプだもの。しょうがないわ」
柊の背中に、汗が一筋垂れる。
「前話してくれた女の子のこと、今も忘れられないから、それが貴方を走らせ続けてるんでしょ。それは私じゃどうにもできないし、そういう奴に私が振り回されてもしょうがないしね」
「……」
「その顔からして気付いてるだろうけど、魔理沙も勿論その1人よ」
困り眉をして笑いながら霊夢は言う。
「そういう奴をどうこう……ってつもりもないしね。だから本当に怒ってないの私。ただ見方を変えようと思っただけ」
「見方?」
「うん」
冷たい桜が、咲き乱れていく。その一枚の花弁を、霊夢は懸命に目で追った。
「私が助けてやろうって思ってたのは、上から目線で物を言ってるだけだって気づいたから。もう律儀に手を貸すのも辞めたわ。私はやっぱ自由にする方が向いてるのよ」
「……そっか」
「でも困ったらちゃんと言いなさい、その時は手を貸してあげる。……私の方こそ、貴方を救えなくてごめん」
「それこそ、霊夢が謝ることじゃないよ」
柊は頷く。だが、霊夢はそこで話を終わらせなかった。
「……自分の意思を貫ける力を持ちなさい。でなくちゃ、周りが苦しい目に遭うから。嫌でしょ? 貴方にとっても」
「うん」
桜の一枚が、盃に落ちるのを眺めながら、柊はふと疑問を抱く。
「霊夢は博麗の巫女をやってる訳だけど、それってつまり人里の皆んなを守るってことだろ?」
「んー、まぁ細かく言うと微妙になるけどまぁ、妖怪退治って意味で言えばそうね」
「霊夢はなんで妖怪を退治して、人を守ろうと思ったの?」
それを聴くと霊夢はポケッとして。
「別に? 先代の巫女から、先先代の巫女も。そして最初の巫女もず〜っとそうやって来たのを私も継いでるだけ。別に正義感とかじゃないわ」
俺は彼女の言葉を黙って聞いた。
「ず──っと前から今日に至るまで、博麗神社は無くならなかった。だから私も紡いでいくの、それだけよ」
「……そっか」
強いな、と思った。きっと先代も霊夢みたいに強かったんだろう。
「それが聞けてよかった。そう想ってる人がいる事を知れて良かったよ。だから人の想いはどこかで途切れたりしないんだな……」
「……?」
妙な雰囲気を柊から感じた霊夢。
「ちょっと? また何か無茶するつもり? 困ったことがあるんならほんと、誰かにちゃんと相談しなさいよ?」
「うん、分かってる。俺ももう無茶する気はそうないよ」
「なーんかあんた、仏みたいな雰囲気になったわねぇ悟りというか……」
「え!? っははは!」
ずっと映姫さんとは一緒にいたしな! 少しくらい感化されてても不思議じゃない。にしても相変わらず勘がいい巫女だな。
は〜〜と溜息をつく霊夢。
「どうしたの?」
「さっきはああ言ったけどさ、ほんとはアンタを見てるとなんか、危なっかしくて見てられないのよ。……それにもう変身も出来ないんでしょ?」
「うん、できなくなっちゃった」
「なんかあったら、まずは近くの奴に頼ることね。慧音さんとか色々いるでしょ? アンタの近く」
「そうだな」
霊夢の顔を見やるとそっぽを向く。
「……なんだよ?」
「何なら私でも良いからさ、兎に角……やめてよ。前みたいに、自分の事を悪く言うの。私までちょっとキツくなるから」
「え」
「いやだ、だからこ、困ってるなら兎に角誰かに言う事! 良いわね!?」
「あ、ああ……」
強引に丸められた。
「ねぇ、初めてあった時の事覚えてる? 」
「初めてあった時の……」
スーと肩の力を抜いて思い出してみる。
ああ、初めて会った時って確か。頭押さえつけられたんだっけか? ……ん?
「なんで俺頭抑えられたんだっけ?」
「ああ、言わなかったっけ? あれはアンタの中に異物があったからとりあえず払おうとしてね」
「そうだったの!?」
「そうよ? でも今はもう感じないし大丈夫よ。もしかしたら、メダルがそれだったのかもね」
全く知らなかった。
「あの頃からすごい進歩よね〜そう考えると。もう大抵の事じゃ驚いてないもの貴方」
「いやいや、今でも驚きっぱなしだから」
「そうなの?」
「そうだよ……あっちじゃ死神とかにも会っちゃったし」
他愛ない会話を続ける。
「……ふふっ」
寝そべって月を観ながら、自分のこれまでを頭の中で反芻して、いたのだけれど。
「霊夢?」
「なんだかんだ、アンタとももう長いわね」
「そうなるのかな? そーかもな」
ぼーっとしていると普段の霊夢からは聞けないだろう言葉が聞こえた。
「心配したんだからね、私も。レミリアも貴方の未来が観れないとか言って泣きついてくるし。魔理沙は寝たきりだし」
「……おい」
霊夢の顔を見て、違和感に気づいた。
「……霊夢、酔ってるな?」
「そんなこと知らないわ」
「あ、そう」
眼がちょっとうつらうつらして来ている、やはり間違いない。
「普段恥ずかしくて言えないだけ。別に良いでしょ? こういう時くらい」
「こっちが恥ずかしくなるんだよ、お前にそういうの言われると」
「しょうがないじゃない。だって……死なれたら流石に悲しいし」
「……そうか」
そんな事言われたらこっちまで恥ずかしくなる。というか普段口にしないような事ボロボロ言う霊夢にさっきから戸惑ってる。
「まぁ、うん。俺も皆んなが傷付くと俺も悲しいしそれと一緒かな。ほんと、なるべく努力はする」
それに、友達だし。
と言うとどこか霊夢の目が輝いたような気がする。
「……そうね、うん。きっとそう」
「咲夜さん達も無事で良かったよ。でも霊夢は入院すらしなかったんだろ?」
「まぁね」
凄いな、やっぱり。どこか人外じみてる。
「だからって、離れないでね」
「は? ……離れるって? 」
「……! 何でもない! 何でもないから!」
やっぱり何かおかしいぞ今日の霊夢は。
今も寂しそうな目をしてるし。だがまぁ博麗の巫女として生きていく上で色々とあったのだろうという事は容易に想像がつく。冗談半分で振る舞ってはいるがきっと霊夢は誰にも離れて欲しくないんじゃないだろうか。
咲夜さんや魔理沙達なら尚更。
「よくは分からないけどさ、俺はお前が見捨てない限り離れないよ。少なくとも死ぬまでは皆と一緒にいるからさ。魔理沙達だってそう思ってるよ」
「……うん」
「……ったく、俺がこんなのする柄じゃないのにさ」
「柊?」
「ほら、これでいいだろ?」
霊夢の震える右手をしっかりと握る。というかなんで震えてるんだよ。
「何があったかしらないけど、今ぐらい本音で話せよ。俺しかいないんだし……あんだけ喧嘩した相手なら、気兼ねなく話せるだろ」
「……貴方が自分が死ぬ事に躊躇いなんてないって言ってから、本当に死んじゃうから、魔理沙も咲夜も倒れてるのみたら周りのみんなが本当に居なくなっちゃうみたいで怖かったのよ。私一人で何日も過ごしたけど……昔に戻ったみたいで……寂しかった……私が寂しがっちゃ悪い!?」
「いいや全然」
(そっか。霊夢も一人の人間だもんな)
「また寂しいって思った時は慧音さんの家に来いよ。寂しくなくなるぜ。慧音さん優しいし」
「……じゃあ、今日はここで寝てよ」
「そうだな1日ぐらいゆっくりした日があってもいいと思う」
「……うん」
そう言っている最中にも顔を下に傾けている。ああもう完全に眠る体勢じゃないか。
「おい、ここで寝るな。流石に寒いだろうから。ほら掴まれ」
ガシッと、抱っこして中に入る。
「ほら」
布団を引いて、とりあえず寝かせた。
「うぅん……おやすみ……ねぇ、行かないでよ?」
「……うん、おやすみ」
やっぱり宴会やって良かった、楽しかったし。
「……もう皆んな寝ちゃってるわよ?」
「ですね、けどその中で起きてるってなんか不思議と楽しくないです?」
学校生活でも、一際眠い授業で自分だけ起きてたらなんか楽しかったりする、あれに近い。
「そうかもね」
1人だけ、ワイン片手に洒落込んでいるレミリアさんが、話しかけて来た。
「一人で飲み明かすのもなんだし、二人っきりで話すかしら?」
もうすこし、宴会は続く。