「とりあえず失礼します」
「ええ」
レミリアの横に座る。
「もう泣きつかないでも大丈夫なんですか?」
「!? うっうるさいわね! もういいから!」
「3歳児あやしてるみたいで楽しかったです」
「お前ね、次言ったら殺す」
無事にメンタルも回復したみたいで一件落着。
「うーん、そうねぇ、何から言おうかしら」
「……?」
レミリアが柊の身体を見て回る。
「な、なんですか?」
「何ともない? 私の事好きでたまらなくなってたりとか」
「は? バカか? 何言ってんだ?」
「バカはお前だ。貴方一時的に眷属になってたでしょうが。その後遺症がないかって聞いてんの」
そう、柊とレミリアは西行妖との死闘にあたって、一時的な関係を築いていた。
「尊敬はしてますけどそれ以外は別にどうと言うことも……」
「そう? まぁ、問題はなさそう、か。なら良かったわ」
「一回死んでますからね」
「それもあるかもね。簡単に言うことじゃないけど」
精神の核を担う霊魂は三途の川にいた。それに蔓延る負の要素を映姫が全て剥がしたことで、同時に中和されたのだ。
「医者も血を散々抜いてたしまぁ、元に戻れたようで何よりだわ」
「そうですね」
「男とそういう関係になるのは初めてだったんだから、責任……取ってよね」
「ほえっ!?」
「ウソよ、ウソ。今眷属じゃないって言ったでしょ」
レミリアは舌をペロリ、と出す。
「心臓に悪いんで勘弁してください」
「ふふふ、でも、異性同士で眷属になるってそういう事だから、次の機会があったらその時はちゃんと責任とってよね」
「本気ですか?」
「本気よ。それが嫌ならちゃんと実力つけなさい」
若干レミリアの頬が赤かった事に、柊は気付いていなかった。
「今朝は慌てふためいて悪かったわね。柄にもなく」
「気にしなくていいですよ別に。咲夜さんが倒れたなんてそりゃ心配するでしょう」
「……うん」
「むしろ俺の所為で咲夜さんが傷ついて申し訳なかったです」
「それは咲夜に命令した私の責任でもあるから。お前が感じることではないわ」
レミリアは頭を掻く。
「久ッ々にやらかしたわ。ほんと、相手を見誤ってた」
「まだ落ち込んでますか?」
「うーん、落ち込むというか、悔しむというか、やっちまったって感じね」
大きなため息をして。
「ま、こうして桜が見られるようになったんだからクヨクヨしててもしょうがない、て話よ」
「……はい!」
あ、そうだ。と言って柊を向く。
「うーん…単刀直入に言うのが早いでしょうね」
ニヤニヤ柊を見つめる。
「貴方、ま〜た厄介事に会うみたいなの。それも次は多分私じゃ手を貸せない」
「……予知ですか?」
レミリアには予知の能力がある。
恐らくそれで見たのだろうが。端的に言いすぎているから事情を飲めない。
「どういう事件かは、分からないんですか?」
「そうねえ、分かるけど秘密よ」
「えぇ? なんですかそれ」
「ふふ、ごめん。意地悪したわ」
呆れながら座布団に座ろうと思うと。
「右手で机に触れる」
無意識に、右手で机を擦った。
「!予知か」
「ええ、それが私の能力。運命を操ることが出来る程度の能力の一端よ」
更にレミリアはこちらの腕を指差す。
「貴方はその右腕を机から離さない」
「…え?」
いきなり何を言い出すのかと思えば。こちらは全く理解できない。
「ほら、離さなかった」
「?」
「私が見た未来では貴方はその机から手を離しているわ。けれど今私の指示によって未来は変化した。この意味がわかる?」
「簡単に未来は変わるってことですか?」
「そう。ちょうど今みたいに、見えていた未来を止めるように動けば、ある程度の運命力までなら未来が不確定になる、ということよ」
「ん、んん?」
「右手を離すのを止めるくらいなら簡単だけど、誰かが死ぬのを止めるのは同じ熱量じゃないってことよ」
つまり、今の指示では柊が手を離した。が言い方によっては無視して離していたかもしれないし、もっと複雑だったり、強い動機なら止められない。力とはそういうことだ。
「1動作の運命を変えることはそう難しくはないわ。するなと言えば良いのだから。けれど行動する運命を変えるとなると其れ相応の力がいる。私の能力はあくまで悪い方に傾くレーンかいい方に傾いているレールかを見るだけ。その進路を変えるには自力でどうにかする必要があるわ。文字通り、視ることしかできないの」
「えっと……」
「春雪異変で例えるなら。私と貴方はよき未来にレバーを傾けようとしてて西行妖と紫が悪い未来のレバー方向に力を掛けてたっていう感じね」
理屈は理解した。しかし疑問が生じる。
「なんで今日、この場で唐突にその説明を?」
「この説明をした方が、貴方が未来を諦めずに済むと思ってね。私からもどうしたら良いかってアドバイスまではできないけど」
「なるほ、ど?」
もとより何が起きても折れるつもりなんてない。
「愚かな人間達は諦めなければ必ず願いは叶う、と言うけれど私はそれを肌身で感じているからね。これほど強い能力もないわ」
フフフフ…、と悪い笑みを零すレミリア。
「ま、兎にも角にも貴方には説明しときたかっただけ。運命は簡単に変わるってね」
「そ、そうですか」
「む〜私の能力を人間が知れたのよ? もっと有り難みは感じないのかしら? こんな詳しく知ってるの貴方とパチェだけなんですけど〜?」
ほっぺを膨らませるレミリア。
「えっと、話ってこれだけなんです?」
「冷たいわね〜! 話がなきゃ喋ることも許されないっての!?」
レミリアが漫画的表現でいう怒りマークを浮かべている。
「ま、レミリアさんは吸血鬼ですし価値観も違うでしょ」
「フフッ、でも貴方も私を、フランの手を借りたとは言え一度は倒しているのよ?」
「あれはほぼフランのおかげですし」
「……謙遜は鼻につくけどまぁ、傲慢になるよりはよろしい」
実際そうだからな。俺一人じゃあの異変は解決できなかった。
「いや、警戒心が薄いのかしら?」
「?」
「そうよ、そうだわ。ねぇ、私思うのだけれど。貴方はここに男一人で来ている訳だけどそういう所意識したりはしないのかしら」
「ああ、いや昔は俺も拒否してたんですけどね。女子会に混じろうとする男子みたいで嫌だからって。でもみんな、具体的に言うと魔理沙が引っ張り出してくるんで諦めました」
「ほら、見てみなさいここで美鈴が爆睡してるわよね?」
「え、ええ」
むにゅ。両手で美鈴の胸を鷲掴みした。
「ちょっ!? 起きますよレミリアさん!」
「だぁいじょうぶ、どうとでも言っときゃ良いのよ。と言うか起きるかどうかが気にするポイントなのおかしくない?」
そういいながらもみ続ける。
「貴方も触ってみなさいよ、こんなバカ乳触らないだけ損よ?」
「だ、だめですよ……バカ乳って」
ジト目で睨まれる。
「つまらない男! 何よ、僧じゃないんだからさ」
軽くディスりが入ったショックを受け流し会話を続ける。
「触られたくないでしょだって」
「うわぁ、そこまでチキンだとむしろ同情するわ」
そうやってもみ続けるレミリアにとうとう天誅が。
「んに……ふがぁ…」
「んぎゃっっ!!?」
寝相の悪さ故か、美鈴の強烈な手刀がレミリアの首を叩く。
「お、お、ぉぉぉおお〜〜!……」
「あーあ」
涙目になるレミリア。バカの子だ、この人。
「もう知らない! 美鈴のバカ! このバカ!」
やっぱり乳が少ない奴が正義ね、と呟くレミリア。そういうわけではないと思う。
「私の胸なら触って良いって言っても触らないの?」
バッと胸に手を当てて言う。
「あの、レミリアさん、残念ながらないですよね」
「死んだままの方が良かったかしら」
こっちをじっくり見つめる深紅の瞼。長いしっとした睫毛。だけど胸がないのは確か。
「ひどいなぁ…」
「くくっ、ごめんごめん冗談よ……もし触ろうとしたら殺してたけど」
「勘弁してくださいよ……こちとらまだ子供なんですよ?」
「人間の年齢で言ったら私もそれくらいよ?それに私は貴方のそういうウブな所好きよ、人間の愚かさが前進に出てて」
まあ、もっとしっかりしてほしいけれど、と一言多いレミリア。
「まぁいいわ。今日はもう帰るわねお休みなさい」
「ん、ああお休みなさい。レミリアさん」
バサバサと翼をはためかせて夜の外へ飛び出して行くレミリア。
「いつも宴会ではああやって帰ってるのかな?」
まぁ、いいか。
片付けをせっせとして、少しでも他の人の負担を減らす。
10分くらい経って眠気も増してきた時、思わず眠気に身を委ねてしまった。
「……すぅ……」
「……皆んな寝たわね」
皆が寝たのを確認して紫がこっそりと廊下を歩く。
「ふぅ、そろそろ忙しくなる時期かしら」