東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

30 / 41
30話 激昂と予期せぬと Rの集結 / 集う風都を愛す者

「つ、強い!!」

 

 多くの仲間がアクセルの手によって殲滅されていく。

 

「お前達よりも数倍強い敵と、幾度となく闘ってきたからな」

「か、完敗だ。一思いにやってくれ」

 

「……」

 

 一瞬だけ、立ち止まる。それが隙だと言わんばかりに後ろから他の仲間が攻撃するが。

 

「分かった」

 

 当然、アクセルは気づいていた。

 易々と背後の不意打ちを止める。

 

「く、くそ……!」

「一思いにやって欲しいんじゃなかったか」

 

「そうだ、よっ!」

 

 仮にもこの部隊を纏めた団長。逃げずにアクセルに突っ込んだ。

 

「その勇気だけは讃えよう」

 

 アクセルは一思いに拳でケリをつけた。

 

「急いで左達の元へ行かねば……」

 

 

 ♢

 

 

「──変身っ!!」

 

 ──ライオン! ──トラ! ──チーター! 

 

 ──ラタ! ──ラタ! ──ラトラータ! 

 

 時計のスイッチを入れた。残り変身回数は一回だけど、関係ない。

 

「行きますよ翔太郎さん! フィリップさん!」

「しっかり合わせろよ、柊!」

 

 オーズとダブルは叶へと突っ込んだ。

 

「ふん、ラトラータの力しか持っていない癖に……!」

 

 グリードドーパントが蛸の腕、クワガタの雷を同時に放った。

 

(後退する筈だ、その隙にタコで叩きつけてやる!)

 

 叶は研究者としてはかなり上位に位置する頭脳と判断力を持ち合わせていた。火野映司の戦闘データもしっかりチェック済みだ。しかし。柊の戦闘データは、この世に存在しない。

 

「はっ!!」

 

 柊は熱線で蛸の腕も雷も封殺した。いわば力技で押し殺した。

 

「は!?」

「せやっ!!」

 

 そのまま突っ込みトラクローで斬り裂きまくる。

 

「だらららら!!!!」

「ぎぃ……ぐっ!」

「おっと、逃さねえぜ!」

 

 グリードドーパントは脚をバッタレッグに変えて撤退するが、回り込んでいたダブルが蹴りあげる。

 

「お、のれぃ!」

「今だ!」

 

 オーズはチーターレッグで即座に距離を詰めて行く。そして再びトラクローで身体を裂いた。

 

「ぎゃぁ!」

 

 バッタの超跳躍は隙がデカすぎて出来ない。チーターの脚に変化しようとしても先に脚を引き裂かれる。

 今のグリードドーパントには逃げ場がない。

 

 グリードドーパントは肉弾戦で対抗しようと決め込んだ。

 

 まずはサイだ、重力で二人のライダーの身体に負担をかけ、次にゾウで地面を揺らし走る事すらままならない状態にさせてやる気でいた。

 

 けれど奴はすぐに視界から消える。補足ができない以上重力を載せられない。しかし地面は揺らしているのだ。

 

「な、ぜ動ける……っ!?」

「お前はただメダルの力を引き出すことに固執した。だから負けるのさ、コンボの力ってやつに!」

 

 つまり柊は地面が崩れている所で走るのは屁でもないのだ。今こうしてる間にも身体は斬られている。早く行動せねば。と焦るグリードドーパント。

 

「はっ!」

 

 だが後ろから更に衝撃が来た。ダブルのプリズムビッカーで斬りつけられたのだ。

 

 もうこの距離では闘えないとグリードドーパントは判断する。グリードドーパントは背中に翼を生やして逃げようとした。

 

「逃がさないぞ!」

 

 脚を掴まれ地面に叩きつけられる、そして柊はグリードドーパントを地面に押し付けながら高速で走り続けた。

 

「ぐぉぉ、ぉぉおお、あ、!」

 

 動けなくなったグリードドーパントを宙に投げ、3枚のメダルの力を引き出す。

 

 ──《SCANNING CHARGE》! 

 

「行きますよ!」

「「ああ!」」

 

 ──《PRISM》! 

 ──《MAXIMUM DRIVE》! 

 

 ダブルはプリズムブレイクを炸裂させる。

 

「「プリズムブレイク!!」」

「う……ぐぉぉおおおおおおあああああ!!!!」

 

 グリードドーパントは身体の力を底から引きずり出すように唸った。そして空中へふわりと浮く。

 

「はぁぁぁ……」

 

 オーズが構えると、正面にライオン、トラ、チーターメダルの紋章が浮き上がる。

 

「やっやめ……」

 

 その3枚をくぐり抜ける程に加速していく。

 

 そして勢いの乗ったとんでもない破壊力のクローがグリードドーパントの身体を完全に砕いた。ガイアメモリが体外へと摘発された。

 

「……ぅぅ……っく」

「叶……」

 

 柊の様子を見て翔太郎が慌てる。

 

「あ、お、おい……」

「翔太郎?」

 

 少女達の犠牲を思い出し怒りで我を忘れているのかも、と思案していた柊太郎だったが。

 

「うぐ……こ、れで……終わりだ……叶」

 

 柊はコンボ変身の痛みに耐えながら変身を解いた。

 

「もう大人しくしててくれ、もう抵抗しても意味がないのは分かってる筈だ」

 

 叶に対してかなり憤慨しているのは、わかる。許されるなら今この場で生身の叶をぶん殴りたい。けれど、柊は事情を知ってしまった。

 

 これ以上、叶と対話するのに拳は必要ないだろう、柊はそう思った。

 

 

「今まで犠牲にしてきた人達の分まで、抱えて生きていけ」

「君が冷静で助かったよ、敵に回すと怖いことになりそうだ」

 

 翔太郎の考えは杞憂だった。

 

「……ぬぅ、う……私は……」

「お前が奪った命の中にはお前よりもずっと小さかった命が沢山あったんだ、お前にはちゃんと償ってもらう」

 

「必要な……犠牲だ……!」

「そんな犠牲があってたまるか! 何があっても人を殺す事を肯定はできねぇよ! 例え愛する人を救う為だったとしても、代わりに周りを泣かしてたら世話ないだろ」

 

「黙れ!」

 

 額に血管が浮かび上がる。怒りによる影響もあるかもしれないがどちらかといえばそれは。

 

「過剰なメモリ使用の副作用が出ている。叶、君はもう暴れない方がいい、それ以上無理すると死んでしまってもおかしくない。娘さんの為に闘って無理のし過ぎで死んでしまっては元も子もない筈だ」

 

「フフン、私は……死なないさ。欲望なら人並み以上にある!!」

 

 グリードの再生能力を駆使して ! もう一度闘う!! そう決意した叶。だが右手に握ったメモリは、柊が蹴りで叩き落とした。

 

「今更、そんなヘマさせる訳ねぇだろ……!?」

「近寄るなァ!!」

 

 生きる。という誰でも、赤子ですらも願う欲望が、肥大化した欲望が。叶の肉体にも現れた。

 

「お、お前……お前……」

「……? なんだ……身体が軽く……」

 

 叶の身体の傷が癒えると同時に、額に二本のツノが生える。

 

「クワガタヘッド!? なんでっ……!」

「メモリの力を肉体でも出せる。それはハイドープになったということだ、叶が……」

 

「……ええいっ!!」

「しっしま……」

 

 すぐ側にいた柊は雷に反応し切れずやられるかという所で。

 

「危ねぇ!!」

 

 ダブルが庇った。

 

「ってぇな……! ……っ大丈夫か!? 柊!」

「はい、それよりアイツを!」

 

「もう遅い」

 

 後悔するのはきっとお前なのに。そう心で思う柊。

 

 ──《GREED》!! 

 

「私は……生きる! この力を使って……!」

「それはお前がグリードに近づいてるってことだろ!? やめろ!! もう娘さんに会えなくなっちまうぞ!!」

「おい、馬鹿野郎!」

 

 肉体が膨らんだグリードドーパントに、生身のまま接近する柊。そしてその行為を叱咤する翔太郎。

 

「離れろって!」

「待ってください! 止めなきゃ! このまんまじゃ!」

「柊、僕達もこのまま放置するつもりはないよ。君には紫さん達を頼みたい」

 

 必死な顔で柊は言う。

 

「お前だって知ってるはずだ! グリードには五感ってやつがない! 娘さんの為に生きて行くお前がそんなんで娘さんが喜ぶとでも思ってんのかよ!?」

「五月蝿い……私には闘う理由がある!!」

 

 メモリを使った叶の身体は、完全にグリード態と化していた。

 

 

「もうダメみてぇだ、悪い柊。最後の変身分使って、嬢ちゃん達を全力で恵の元に連れて行ってくれ」

「翔太郎、不味いよ。早くもう一度エクストリームに!」

 

「闘う? 闘いだとぉ? ははははは! バカどもめ!」

 

 身体がドンドンと欲望に比例するように肥大化していく。

 

「──! フィリップ!」

 

 

 肥大化しすぎてバランスが取れなくなったグリードドーパントは周りの建物に倒れて行く。

 

 ──《HEAT》! 

 

 ──《TRIGGER》! 

 

 

 ──《MAXIMUM DRIVE》! 

 

 

「トリガーエクスプロージョン!!」

 

 ヒートトリガーの、しかも最大最高火力をぶっ放す。

 

 グリードドーパントの巨大化した肉体の一部が吹き飛んで肉塊と化した。その行為のおかげで、直接ぶつかる事は防いだものの、グリードドーパントの巨大な肉体が家へと覆いかぶさった。

 

「このヤロっ!! ……っておい! あれもしかしてうちに落ちてねぇか!?」

「どうやらそうみたいだね……肉質が柔らかいおかげで覆い被さるだけで済んでいるのは不幸中の幸いというべきか……」

「どう考えても不幸だろっ!」

 

 発砲の反動で吹き飛んだ身体を即座に起こして、再び肉体に打ち込む。

 

 しかし、すぐに千切れた肉体は再生を始めた。

 

「キリがねぇ! しかもこんなに膨大な範囲で暴れられちゃサイクロンジョーカーエクストリームでも守り切れねぇぞ!」

 

 辺りを見回す。すると柊があることに気づく。

 

「リボルギャリーが!」

「うわぁぁぁ! やっちまった! くそ!」

「翔太郎! 一回変身を解いてくれ!」

「え? あ、おう」

 

 いう通り変身を解くとフィリップは肉塊の壁側、つまりリボルギャリー方面にいた。

 

「エクストリームメモリは紫さん達の方にさっき飛ばしていたからね……それと電波は通じるみたいだ」

 

 肉の壁越しに電話で話す翔太郎とフィリップ。

 

「こうなってくると叶がどうなっているか分からないから、一旦紫さん達をそっちに運ぼうか」

 

 何があるか分からないが、とにかく叶に覆われたままいるのは危険だろう。

 そしてほんの少しのスペースだが、肉壁にも隙間があった。

 

「小柄な体躯なら……可能に見えるが……」

「俺、手伝いに行きます!」

 

 意見を聞くまでも無く走った。

 そして勢いをつけて進入する。

 

「……ふぅ!」

 

 当たったらどうなるかも分からないからとにかくスレスレで避けた。

 そして中に入るなり辺りを見渡す。

 

『入れたようだね、僕がどこにいるか分かるかい?』

 

 声の主は肩に乗っているメモリガジェット。肩に無線付きガジェットが付いてきていたようだ。

 

「すいません……分かりません」

 

 周りを見渡す。小さな肉体の塊がぼどぼどと、少しずつ落下していっている。そして、多分だが風都を包んでいるこの大きな肉体は変化している様に見える。

 

 そしてフィリップは見えなかったが。

 

「! ……すいません、2人とも、叶です。急いで駆けつけてくれると嬉しいです」

 

 眼前に、グリード態の叶がいる。

 

「……暴走してるわけじゃ……ないのか?」

「思った以上に暗くて、怖いものだな視覚がなくなるというのは」

 

「……そうだろうな」

「だがその分無茶も出来るようになった。先の様に肉体を分裂させて自由に動かしたり、増幅させたりとな」

 

 擬似的にグリードの力を使うよりちゃんと力を使う方が自由度は高い。そういう話をしているようだが。

 

「……この肉体は繭みたいな役割をしてるみたいだな。これの外からは干渉出来ないみたいに……」

「心配せずともダブルは駆けつけるだろう。しつこい男達だからな」

「俺の恩人達の悪口は許さないぜ」

「そうか。だが改めるつもりはない」

 

 ゴゴゴ、と地面が揺れる。

 

「……なぁ、まさかと思うけどお前、さっきの肉体をドンドンおっきくさせてねぇか?」

「正解だ。ダブルがなるべくここにたどり着けんようにな」

 

「どうだか!!」

 

 柊には感覚でわかる。叶の分裂した肉体は風都の市民に悪影響を与える性質のものだと。

 

「……地形的にちょうど病院は覆わずに済むだろうしな。……でも風都の人達は絶対助ける。お前をぶっ飛ばしてな」

 

「出来ると思うのか!」

 

 グリード化した叶が火球を放つ。

 

(最後の変──)

 

 その時、機会音と共に、エクストリームメモリが火球から柊を守った。

 

 そして、フィリップがエクストリームメモリの中から現れる。

 

「柊。今のうちに紫さん達を助けに行ってくれ。あと、その子を返してくれるかい?」

「え?」

 

 いつの間にか柊の後ろの裾に挟まっていたファングメモリをフィリップが握った。

 

 

 

 ──《FANG》! 

 

「変身」

 

 ──《FANG》! 

 

 ──《JOKER》! 

 

「へっ、久しぶりだなぁ、叶」

 

「なにっ!? なぜダブルが……」

「やられたよ。まさか柊が入り込む瞬間に肉壁の隙間を閉じるなんてね。エクストリームメモリで外に出られない以上柊に任せるしかないと思っていたんだが……流石は僕の相棒だ。こんな形でファングをプレゼントしてくれるとはね」

「今回は何があるか分からなかったからなぁ持ってきておいて良かったぜ。まぁ元からお前に渡しとけばヒヤヒヤせずに済んだんだが」

 

 翔太郎、フィリップのお互いを信じ合ったゆえの行動が、柊を助けた。

 

「てめぇ、よくも風都から太陽を消し去ってくれたな、おかげで皆んなが困ってる」

「安心しろ、次は貴様らを消し去ってやる!」

「望むところだ」

 

 会話しているところで、柊が気付く。

 

「しょ、翔太郎さんの身体は!?」

 

「心配はいらねぇよ。紫さんが亜樹子だけはって外に出してくれてたみたいでな。今は亜樹子が見てくれてる。照井もいるし万が一はねぇだろ」

 

「さ、ここは任せて、早く行ってくれたまえ。こうなった以上は叶を倒してから会うしかない。君は早苗ちゃんの護衛だ」

 

 コクン、と頷いて。柊は早苗達のいる場所へと再び走り出した。

 

「意地悪いと分かっちゃいたがここまでなんてなぁ」

「言いたい事があるならば、遠回しに言わずに直接言ったらどうだ?」

 

「あん? なら遠慮なく……」

 

 叶を指差して、高らかに二人は叫んだ。

 

『さぁ、お前の罪を数えろ!!』

 

 

 気怠い身体に鞭打って、辺りを探す。エクストリームメモリが居場所は教えてくれる。

 

 風都の商店街だろうか、シャッターは閉まっているがそれらしき建物が複数並んでいる。

 そしてその奥に。

 

「紫さん! 早苗!」

 

 紫を負ぶってる早苗がいた。

 

「どういう状況だ……これ」

「私を庇って……紫さんが……」

 

「ダメージを負った。その間抜けの所為でな」

 

「お、まえ……!」

 

 背後から、再び奴の声がした。

 

「翔太郎さんとフィリップさんを……2人は……!」

「安心しろ、死んでない。この肉体の外に追いやっただけだ」

 

「っ!」

 

「ああ、大丈夫だ。お前はここで殺す。さっきの借りだ」

「やってみろ!」

 

 ──タカ! ──クジャク! ──コンドル! 

 

 ──タ〜ジャ〜ドル〜!! 

 

「ハァッ!!」

「無理だ、諦めろ、それか横の二人を差し出せば命だけは取らん。もう私には時間がないからな」

 

「ふっざけんじゃねぇ!」

 

 クジャクの羽を広げ全てを叶に向けて発射した。

 

「今更コンボで太刀打ち出来ると思っているとはな」

「コンボの力を舐めんじゃねぇ、ただ3枚使った威力とは桁違いだぜ?」

 

 叶は右手で水を生成し、羽の勢いを殺した。

 

「さっきの仕返しだ、そら」

「!? あっっづ!!」

 

 熱線。その妨害により一瞬柊の動きが制限された。その隙に、チーターの速度で迫られ、その勢いを乗せたゴリラの拳を腹部に入れられる。

 

「ぶっ……!」

 

 声が上手く出ないほどの威力に悶える柊。クジャクの羽を自分の周りに展開させ、身を守りながら空へ飛ぶ。

 

「ほう! そういう飛び方をすればよかったのか」

 

「くそっ……!」

 

 

 ──《SCANNING CHARGE》! 

 

 コンドルレッグが覚醒する。開かれた爪は叶を抉らんとするが。

 

 叶は再び水を展開する。

 

「──はっ!!」

 

 タカの眼で叶の体内から水が射出されるのは分かっていた、だから柊は。一度目の前で止まる。

 

 そしてクジャクの羽で叶の背後へ回り。

 

「ぬ!」

 

 コンドルの脚で叶を穿つ。

 

「せいやぁっ!!」

 

 叶の身体に直撃する。

 

「ぐっ……満足か?」

 

 よろめく程度で効果は薄かった。ゴリラの力で耐えたのだろう。そして叶は易々と柊の脚を掴みカマキリの腕に変化させ、柊の横腹を裂く。

 

「ぐあぁぁっ!」

 

 ズザザ、 と地面に倒れこむ。

 

「くそ! ……相性が……」

 

「言い訳か?」

「だま、れ!!」

 

 タジャスピナーによる火球の連続攻撃を繰り出すが、全て水で相殺される。

 

「はぁ……はぁ」

「まだ分からないのか? お前が私に勝つことは絶対にないんだよ。そのコンボしか出来ないお前じゃな」

 

 そう、それはその通りだ。叶に勝てないというのは客観的事実。今の自分じゃ勝てないのだ。

 

「そんなことどうでもいい。勝てる勝てないじゃないんだ」

 

 一度目の失敗は生前で。それは自分とは直接関係のない事故だったけど、無力な自分に力があれば助けられたから後悔した。

 二度目はこっちに来てから。助けられる性能を持っていたのに、力量が無いせいで自分を守るのに精一杯で、見殺しにした。

 だから。

 

「もう嫌なんだよ。力はあっても上手く使えないから取り零すなんて。そんなの……二度とごめんだ」

「どれだけの大義があろうとも人は死ぬときは死ぬ。無駄な正義感は破滅を招くだけだぞ」

「それこそどうだっていい。第一」

 

 叶は誤解している。自分は他人に褒められるような清い精神ではないのだから。

 

「俺は正義感なんかで人を助けられるほど立派な人間じゃない。俺は……俺が嫌な気持ちになりたくないから、人を助けてる」

 

 今回の件、そして前の一件を踏まえて気づいた。

 

「俺は昨日も前の時も、『助けたい』じゃなくて『死んでほしくない』と思って助けてた」

「……」

「最初は誰かを助けるのがカッコいい事だと思って真似してた。けどその考えは1回目の失敗でやめた」

 

 

 幻想郷に来てからは、自棄になってひたすら人の為に動く機械になろうとしていた。だから2回目助ける時は、ただ助けたいと思っていた筈だ。

 助けようと動いていた瞬間、脳裏の片隅に、死んでしまったもしもを思い浮かべていた。そしてそうなるのが嫌で助けようとも。

 

 

「善意なんてない……俺は1回目の失敗を再現したくないから必死でもがいてるだけだ」

 

 失敗をしたくない、その理由なんて、一つしかないだろ。

 

「俺はきっと……人が目の前で死んでると気分が悪いから、助けてるだけなんだと思う。早苗を助けたいっていうのも建前で、本音なんてそんな物なんだよ」

 

 その解釈だと自分の像がしっくり来てしまう。それが尚更嫌だ。

 

「人が傷ついてても気にならないような人間が、俺は心底羨ましい。俺は、そんな強い人間にはなれないから……」

 

 悲しい顔の人間を見るとモヤモヤする。痛がってる人間を見ると自分の胸も痛くなる。それが全くの赤の他人でも変わらないんだ。

 

「知ってる人なら尚更、悲しんでいてほしくない」

 

 早苗のことを知ってしまった以上もう後に戻りたくない。自分は最後まであの少女を守り抜く。このまま不幸な終わりになんて絶対にさせない。

 

「お前にはお前の事情があるんだろう。どうあっても逃げられない事情が。でも、それはこっちだって変わらない」

 

 そう、こっちだって譲れない。

 

「話し合いで解決出来ないんだ。自分の主張を押し通したいなら……」

 

 以前だったら揺れていたかもしれない。相手の事情に同情して力が抜けていたかもしれない。けど、今は絶対に譲らない。俺自身が後悔しない為に。

 

 俺は俺の為にこそ、人を助けるんだ。俺はそれでいい。

 

「力ずくで俺を倒してみろ……!」

「……この食わせ者が……!」

 

 叶は背中からタコの触手を生やし、薙ぎ払うように振り回す。柊は当然のようにそれを受け切った。右手に力を溜めながら。

 

 触手の攻撃は止まらず柊の体に鞭打ち続ける。

 

「なぜ避けない……!?」

 

 それは単純なことだ。もう柊には避けて攻撃を当てるだけの余力がない。タジャドルコンボの力を駆使しても叶に通じないことを悟った柊は無理矢理攻撃を通すための択を選択したのだ。

 

「何を企んでいる……!」

 

 左脇腹を打つ触手を掴み、叶目掛けて右手をかざす。

 

「俺じゃ勝てないけど……お前の思い通りにもさせないぞ」

 

 柊はちらり、と早苗へと目をやって。

 

「紫さんは置いていい。上手く逃げろよ、早苗」

 

 右手に込めた灼熱が放たれる。柊の前方の地面が焦げる。 

 

 暫くして煙が晴れた時、早苗の視界に入ったのは。生身の状態で這いつくばる柊とそれを見上げる叶の姿だった。

 

「……かはっ……」

 

 よろめく身体に鞭打って、叶は足を進めた。 

 

「……存外、効いた、ぞ今のは……だが……も、う終わりだな」

 

 叶は触手を消し、右手に火を出す。

 

「お前の言った…通り、力ずくで願いを叶えることにさせてもらう」

「……」

 

 無言のまま俯く柊に叶は問いかける。

 

「思ったよりも平然とした顔つきだが…悔しくはないのか?」

 

 皮肉でもなんでもなく、それは本音だった。

 

「……多分、俺には闘う才能がない。これだけ恵まれた力を貰っているのに、少女一人を逃すことすらまともに出来なかった」

 

 柊は虚ろな目で語る。

 

「どれだけ悔しくても、腹がたっても……特訓しても……すぐ壁に衝突する」

 

 彼は、声を漏らすとともに、ぽろっと涙を流した。

 

「俺より強い人が誰かを傷つけようとしているのに、その場にいたのが俺だから、結局いつも助けられないんだ」

 

 その言葉を吐くと、自分に嫌悪感を抱きそうになる。

 

 ──だけど、それじゃ自棄になって、また同じ道に進むだけだ。俺はここで、まだ踏ん張らないとダメなんだ。

 

「だから、俺は俺の仲間を信じる。少しでも時間を稼いで、仲間がお前を止めてくれることを信じる」

 

 弱さを胸の内から零しても、決して最後まで気持ちを変えてはいけない。それでいいのだと、願うように信じて。

 

「絶対に皆んながお前を止めてくれる、だから悔しくたって平気なんだ。俺は、俺に出来ることを全力でやり切ってやる……」

 

 その目の力に、叶は動揺した。

 

「……最後まで不愉快だ」

 

 どこか敗北心を覚えながらも、ついに右手の火球を撃ち放つ。

 

「……!」

 

 

 大きな衝突音が間近で聞こえた。だが、柊の身体に衝撃が通ることはなく。

 ゆっくりと眼を開けると。

 

「……さ、なえ」

「……はぁ……はぁ」

 

 自分より後ろの早苗が、息を切らしていた。おそらく奇跡の力で守ってくれたのだろう。

 

 

「もうやめて下さい……!」

 

 早苗は震える手を叶にかざす。すると、透明な鎖が叶の身動きを封じた。

 

「……!?」

 

 しかし、その束縛もグリードの力によって数秒で剥がされる。

 

「思わせぶりな……」

 

 再び炎を溜めて、柊に解き放つ。

 

「……離れろ……早苗!!」

「──やめて!!」

 

 早苗が声を上げると、髪飾りが光り柊を包むバリアーと化した。

 

「……なんだ?」

「知る……か!!」

 

 これが最後の機会だと、柊は立ち上がり叶にしがみつく。

 

「早苗……!! ここから逃げろ! 走ってくれ!」

「やはりお前! 任意で願いを使えるな!? 今すぐ恵を治せぇ!!」

「……もう、他の人を傷つけないで……!」

 

 早苗に願いを行使させるのは不可能だと、叶は直感した。

 

「……もういい、貴様を取り込んで力を私の物にする!!」

 

 叶はいとも容易く柊の身体を振りほどき。分裂した肉体を柊の四肢と結合させた。

 

「う、動けね……え……!!」

「私の任意で好きなようにこれを動かせる、この意味が分かるか? 女」

 

 柊は苦しみの声が漏れる。

 

「そしてオーズ。お前もだ、良いものが見れるぞ?」

 

「……ろう」

 

「ん? ハッキリ言ってくれ」

「この野郎……! ……そんな姿を見て……娘がどう思うか……そんな事もわかんねぇのかよ!!」

 

 叶は四肢と肉体の感覚を狭める。

 

「がぁぁぁあ!!」

「貴様の意見は聞いていない」

 

「私は! 思い通りにやれるわけじゃない……! 本当にどうすればこの力を使いこなせるか分かんない……!!」

 

「こいつが死んだら少しは力も高まるか?」

 

 ポロポロ、と涙を流す早苗。

 

「離しなさい!!」

 

 叶の背後から思い切り蹴りをおみまいする紫。先程まで地に伏していたが、最後の力を振り絞り立ち上がった。

 

「それだけ怪我してまだ意識があったとはな」

 

 だが、ほとんど意味をなさない。

 

「お前はどうでもいい」

 

 左手を蛸の脚にかえ、溝を打ち付ける。吹き飛んだ紫はそのまま叶の分裂した肉体の外まで吹き飛んだ。

 

「!……紫、さん」

「しつこい奴らだ……全く」

 

 

 ♢

 

 

「う、うぅ〜か、かかって来なさいよ!! ほら! ほら!」

 

 片手にスリッパでマスカレイドドーパントに戦う意志を見せる亜樹子。

 

 マスカレイドドーパントが走り出す。

 

「きゃっ! き、来なさいよ!!」

 

「はっ!!」

 

 横一線、ブレードの一撃がマスカレイドドーパントを切り裂いた。

 

「竜く──ーん!!!!」

「所長、君は何があっても俺が守る。だから俺から離れるなよ」

 

 丁度その瞬間、ダブルが肉壁から出てきた。

 

「なに!?」

「いってぇ!! あのヤロウ! 俺達とははなっからやり合う気なんかなかった訳だ!」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ翔太郎。彼は以前よりも出力を増して強くなっている。柊が危ない」

 

 言って、変身を解いた。

 

「問題ねぇ! フィリップエクストリームでこの肉壁蹴散らして早い所柊に追いつくぜ!」

「ああ、行くよ翔太郎!」

 

 口元に手を置いて長考したのち、フィリップが言う。

 

「照井 竜! 君もついてきてくれ!」

 

「ちょっと待て! そしたら所長が……」

 

 紫が肉壁から転がり出てくる。

 

「「紫さん……!!!!」」

「えっ……何この傷……私聞いてない……」

 

「……この人は?」

「俺たちの依頼人だ……クソッ……思ったより事態はやばそうだ……照井!!」

 

「なんだ!?」

「俺たちに身体貸せ!!」

 

 

 ♢

 

 

「……んん〜、いやまだ意識が微かにあるか……しぶといな」

「やめて、お願い……お願い」

 

「なら今すぐ恵の病を治せ。そして……私の……」

「……?」

 

「いや……今はいい、治せた暁にはお前だけは助けてやる。お前が生きていたらな」

「やめ……ろ、早苗……! 」

「お前も随分と意地が悪いな、もう逃げられないことくらい分かっているだろう? ここには私とお前達2人しかいないんだぞ」

 

 頭がクラクラする、四肢がズキズキと痛む。けれど、意識を失っていい時ではない、唇を噛んで耐える柊。

 

「……あ……う……」

「早くしろ! さもなくばお前を取り込むぞ!」

 

 叶が早苗の顔を殴りつけた。

 

「お、前……それ以上手出したら絶対に許さねぇ…」

「もう遅い、お前の弱さが招いた種だ」

 

 柊の目の前に近づいて煽るように指を振る。

 

「……ぅうおお!」

 

 ブチブチブチ! っと叶の分裂した肉体を破壊して、拘束の外れた右腕で殴りつける。

 

「……ぎっ、ぐ……!」

「……この程度の力で助けるなどと宣ったのか?」

「ああ……! 助けるって誓ったんだ! それに……俺はその為にこの世界に来た!」

 

 どういう意味か分からず、叶は思わず聞き返した。

 

「……何?」

「今さっきの光で……確信した! あれは早苗の髪飾りだ……あの子が唯一出した助けだったんだ!」

 

 あの時感じた不吉なオーラは早苗が助けを呼んでいたからだ と気付く。あれは柊しか感じ取れていなかった。

 

「早苗の助けを呼ぶ声が俺には……確かに聞こえた! だから、俺が守るんだよ!!」

 

 再び、叶の肉体が柊を包もうとする。今度は、肉体全て。しかし、早苗の力がそれを封じた。

 

「……早苗……!!」

 

「おい、もう二言はないぞ。今この瞬間に恵を直さなければお前を取り込む」

 

 早苗に語りかける叶を見て、柊は笑った。

 

「……そう言っておいてさっさとやらないのは…取り込んでから力を使える自信がないからだろ…」

「……黙れ」

「早苗。こんな奴の言うことなんて気にしなくていいぞ」

 

 早苗の力は叶に押し負けた。徐々に肉の壁に埋れて行く柊。

 

「ぐ、く……」

 

 徐々に気勢を失う柊を見て、心が折れたのは早苗の方だった。

 

(こうなるのなら、今までこの街で人が死ぬ必要なんてなかった……!)

 

 そして、私はきっとこの力を使った後は、殺されてしまう。だから、この人は先に守らないと……。

 私は……これまでかもしれない……けどきっとこれが私の運命。

 

 

「仕方ない()()だったんです……よね、でも良いんです、皆さん優しくて……それだけは死んでも忘れません……!」

 

「早苗……お前の……!」

 

『仕方ない()()だったんです』

 

 そんなこと、知らない。関係ない。

 

「……運命だとか予知がどうとか……そんなの知ったことかよ!」

 

 大体、運命がどうとかの話をするのはお門違いだ。なんせ自分は一回死んでるんだから。運命なんてもん当てにならない。

 

「早苗……! 眼を開けろ… 逃げるな、見えるか…聞こえるか!?」

 

 火事場の馬鹿力。柊はとんでもない重圧のかかった肉を無理やり振り払った。

 

「なにぃ!?」

「お前の思いから……逃げんじゃねぇ! お前の心は……本当はなんて言ってやがる!!」

「私は……だって……私がやらなきゃ……」

「違う! お前の役目なんかどうでもいい! 言っただろ! お前の我儘叶えてやるって!」

 

 柊にも譲れないものがある。柊太郎達との約束や、亜樹子達からの応援も。全部手放したくなかった。ここで早苗に諦めてもらっては困る。何より。

 

「お前自身の! 思いを! 言葉を聞きたいんだよ!」

「───!!」

 

 叶のタコが柊を吹き飛ばす。

 

「……けて……」

 

 地面にもたれこむも、すぐに立ち上がる。

 

「ば、化け物め……」

「ぅ……ッァ……聞こえねぇぞ! お前の本心が!」

 

 三度も手が届かない思いはしたくない。柊は柊太郎と話した記憶を思い出し、手に力が入る。 

 

『次は必ず手が届く、そう思って本気で手を伸ばすしかねぇんだよ』

 

 そして、心底願った。

 

「───手を伸ばせ! 早苗っっ!!」

「いつまでも五月蝿い奴だ。死ね!!」

 

「……助けてっっ!!!! 死にたくないっっっ!! もう一度恵ちゃんと、生きて会いたい!!」」

 

 その言葉は届いても、無慈悲に肉壁は柊を埋め込んだ。

 

「……ぁ……!」

「はぁ…はぁ……む、無駄な抵抗をしてからに……」

 

 叶は早苗を振り返った。

 

「さぁ、力を使って貰おうか。何、死にはしないだろうさ。保証なぞせんがな」

 

 

 ──タカ! 

 

「……ん?」

 

 ──トラ!

 

「おい、娘、お前何をした」

 

 ──バッタ! 

 

「なんだこの、地面の揺れは──?」

 

 

 ──タ・ト・バ! タトバ! タ・ト・バ!! 

 

『……()()()()()()()!!』

 

 

「────はっ!!」

 

 願いに応えた、仮面ライダーが、そこにはいた。

 

「なっなにぃ!?」

「叶えてみせるよ、その願い!」

「この期に及んでき、貴様! まだ立つか……!」

「ああ何回でも立ち上がってやる!」

 

 オーズのトラクローが唸る。少女の叫びに呼応して。

 

「ぬぉぉぉおおおおお!!!!」

「おらららら!!」

 

 蛸の脚、虎の爪、孔雀の羽。襲いかかる無数の攻撃。全てトラクローで切り刻み、叶に一歩ずつ、近づく。

 

「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁああ!!」

 

 距離にして、数メートル。同時に繰り出される手の数は有に10本を超えていた。だが、その全てが薙ぎ払われている事実に、叶は狼狽した。

 

「ぐくっ……!」

 

 しかし、ダメージを負ったのもまた柊だった。もう既にほとんどの霊力を使い切って満身創痍の身だった体に、鞭を打って変身したオーズの力は、柊の肉体には負担が大きかったのだ。

 

「はぁ……はぁ……!」

「お互い、とっくに気力だけで動いていた、という訳か。だが、それならば私は絶対に負けん!」

 

 なぜなら私の願いは崇高なものだ。正しいものだ。この子供二人の図々しい願いよりも、よっぽど。

 

「私の願いは正しいものだ。決して、決して貴様らが討ち滅ぼして良いものではない! だから私が勝つ!!」

「……思えないんだよ」

「何?」

 

 柊の言葉に叶が反応する。

 

「お前の願いは確かに至極真っ当な物だ。自分の子供を守りたい親の気持ちは、あったかくて、立派で、正しい願いだ」

 

 やり方が間違ってる。などと言うのも今となっては違うと思う。だってこの方法なら治せるんだから、この方法しか治せなかったんだろうから。

 叶が命を賭けてここまでやるのは、道理なんだ。

 

 でも。

 

「ただ友達に会いたかった。ただ普通に生きたかった。それだけの願いだったんだ」

 

 あの子の願いは本来、誰もが平等に享受されなくてはならないものだ。ただ、彼女はそれだけを望んだんだ。

 

「別に同情してるわけじゃない、あの子の願いも、お前の気持ちも肯定したいわけでもない。たださ」

 

 紫さんが手を出さなかったら、あの子はたった独りで戦っていたのだろうか。当たり前を受け入れてもらうために。

 

「簡単に手が届くはずの願いよりも、あんたの困難で、正当な願いの方が正しいだなんて、俺には思えないんだよ。大事なのは願いの正しさとか重さじゃないんだ。大事なのは、きっと何をしたかだ」

 

 だから、何があっても俺は、この子の味方だ。この子が、自分の願いは誰もが許されてる当然のものなんだと気づくまで、守るんだ。

 例え相手の願いが正しくても、この子の願いだって、叶えられて当然の願いなんだ。それがどれほど素朴でも、相手の願いがどれほど綺麗でも関係ない。

 このまま、道化みたいな終わりを認めてやるもんか。

 

「だから、このままでなんて終わらせない。絶対に、あの子の願いを叶える!!」

「──!」

 

 教室でも、放課後でも、休日でも、友達に会いたいなんてきっとどこででも叶えられるただの願い。そんなただの願いを願った早苗にこそ、柊は正義の天秤を傾けた。

 そして早苗は、そんなちっぽけな願いですら捨てようとしなかった、見過ごさなかった人間に、心を打たれた。

 

「いいか早苗、気にいらない事なんて認めなくていいんだ」

 

 コアメダルが光り輝く、少女の心に呼応して。

 

「運命なんて何も関係ない。お前の人生を決めるのはお前なんだから、お前の好きなようにすればいい」

 

 なぜ変身できたのか。そんなことを考える理由はない。今はただ、少女の願いの為に闘えればそれでいい。

 

「諦める必要なんてない。俺は願うよ、お前がお前らしく生きられるように」

「!」

 

 早苗は、一掬の涙を零していた。

 

「絶対、恵さんに会いに行くぞ」

「……うん!」

「おし……よっと!」

 

 再び跳躍し、叶の真面に立ち、睨み合う。

 

「お互い残された時間は短いよな。短期決戦だ」

「言われずとも、だ」

 

 手を前に出して重力を操り、柊を後方へ押す。

 

「……ぁあ!」

 

 脚を踏み込み、地面を抉りながらもなんとか堪える。

 

「ぬぐ、ぐ!」

 

 お互いの消耗し切った身体では能力頼りでも中途半端な結果にしかならない。両者ともにそう判断した瞬間、飛び込んでいた。

 

 多種多様な手で攻撃を仕掛ける叶。そしてそれに応じながらも、カウンターを仕掛ける構図となった。先ほどと同じ展開だが、今回は。

 

「が、うっ!!」

「チッ! おらぁ!!」

 

 多少の攻撃は甘んじて受けて、それよりも高い威力の攻撃を食らわせようとする。互いに消耗度度外視のインファイトが繰り広げられた。

 

「はぁ……はぁ」

「う、ぅう……」

 

 精神的に弱ったのは叶か。肉体的には再生できる分叶が有利であることに間違いはなかった。だが、柊の身体には柊が無意識のうちに灯していた人間としての力がこもっている。それは早苗の力も含めてだ。その視認することすら難しい純白のエネルギー、霊力と呼ばれる物が、彼の背中を後押ししているのだ。

 

「うぉぉおお……」

 

 叶が体を膨らませ、巨大なエネルギーを蓄えている。この一撃で、ケリをつける気だということだ。

 グリードメモリに宿る多くのメダルの力と、タトバコンボの力。ぶつけ合うにはあまりに分が悪い。

 

 それが──どうした。 

 

「はあぁぁぁ……」

 

 自分の憧れが、こんな所で打ちのめされる訳がない。

 叶のように思いっきり力を爆発させる。

 

「俺は……俺の力を信じる!!」

「……叶。お前の全力ってわけか」

 

 これまでの全て、無駄ではないと証明する。俺の憧れはここで終わるほど柔ではないのだと。

 

「なら俺も、俺の全力を持って応えよう」

 

 ──《SCANNING CHARGE》! 

 

 早苗の願いの力が確かに流れてくるのを柊は感じた。それがメダルを経由して通っていると無意識に感じ取りながら脚に力を流す。

 

 

「何があっても、これが俺の最後の一撃になる。行くぞ……叶!」

 

 叶の、身体に貯められた力が右手に収束され、巨大な火球が放たれる。それに合わせて、柊も蹴りを繰り出した。

 

「……っせいや────!!!!」

 

 

 水で軽減する、などという選択肢は最初から頭に入らないほどのタトバキック。片や、全ての欲望を燃やし尽くすほどの火球。

 互いにとっての乾坤一擲の一撃は辺りを破壊するほどの衝撃波を巻き起こした。

 

「ぬぅううう!!」

「ぁぁあああ!!」

 

 力の押し付け合い。柊がわずかに押していた。

 

「ああぁ、あああ!!」

「ぐぅぉお!!」

 

 

 ほんの少しの衝突の後、柊は違和感を感じ取った。

 

「──!? な、なんだ……!?」

「──もう遅い!」

 

 互いにぶつかり合っていた刹那、叶の後ろで何かが蠢いたものをタカヘッドで見抜く。

 それは、もう一人の、叶だった。

 

「は」

 

 右手を蛸足に変えて早苗を絡めとり、孔雀の羽を展開し空へ飛ぶ。

 

「──」

 

 完全にやられた。虚を突かれてしまった。柊も叶がこの選択を取るとは予想していなかったのだ。叶が願いに対して文字通り命を賭けていたのは知っていた。だが、だからこそこの場面では全てを賭けてくると、思ってしまっていた。

 

「っ!!」

 

 火球は徐々に勢いが弱まり、タトバキックで分身体の叶ごと粉砕した。だが、こんなことをしている間に叶は上空へと上がっていく。

 

「何がしたいんだ!」

 

 風都一帯を囲んでいた肉壁。それらの頂上の部位が開けていく。

 

「逃げる気か!?」

 

 だが、逃げて何になるんだ。今更他所に逃げたとしても意味はないだろうに。

 

「きゃぁぁぁ!!」

「お前は、今から私と一つになるのだ…!」

 

 叶が腹部を膨らませ、早苗を取り込もうとしていた。

 

「まさか!」

 

 ── 一か八かで能力を取り込んで直接治す気か!?

 

 能力を取り込めなければその時点でお終いだというのにも関わらずその行動を取ったということは、叶もそこまで追い詰められたと言うことだ。

 

「まだ、だぁ!!」

 

 勢いが消える前に、まだ脚に残っている力を上空へ向けて放つが、このままでは間に合わない。

 

「う、ぁ……」

「抵抗は無駄だ! 奴は間に合わん!!」

 

 徐々に肉体が叶に取り込まれつつあるが、早苗は最後まで諦めず抵抗し続けた。

 

「私、は…恵ちゃんと会うんだ…!」

「会えるさ。私と一つになってな!」

「嫌、私は諦めない!!」

 

 その抵抗が実を結び、彼らは現れた。

 

「──は?」

 

 肉壁を開いた先には、バイクフォームのアクセルに乗ったダブルの姿。

 

「させん!!」

「がはぁっ!」

「プリズムビッカー!!」

 

 バイクの姿を解き、叶に蹴りを入れるアクセル。そして拘束が解かれた早苗を華麗にキャッチする。

 

「そっちは任せたぞ、左!」

「今回ばかりは助かったぜ照井!」

 

 空中で攻撃を受け体勢を崩した叶を見下ろしながら、メモリを握る手に力が入る。 

 

「さぁ、いくぜぇフィリップ!!」

「ああ、しっかり決めるよ翔太郎!」

 

 地球に眠る切り札と疾風の記憶が呼び起こされる。

 

 

 ──《CYCLONE》! 

 

 ──《JOKER》! 

 

 ──《XTREME》! 

 

「き、貴様らぁぁぁぁ……!!」

 

 ──《PRISM》! 

 

 ──《PRISM》! 

 

 

 

 ──《XTREME》! 

 

 ──《MAXIMUM DRIVE》! 

 

『ダブルプリズムエクストリーム!!!!』

「うぉぉぉあああ!!!!」

 

 ──まだだ、この攻撃の軌道を逸らして…一気に飛行す、れば…!

 

 この時、叶は思考から外していた。覚悟を決めた男の事を。

 

「叶!! これで、終わりだァ!!」

 

 脚に込めた残り最後の灯火を、最後まで散らすことなく保ち続け、叶に向かっていたのだ。翔太郎たちが来ることを願って。

 

「いくぜ柊! 俺達に合わせろよ!!」

「ミスは許されないよ? 二人とも」

「はい!!」

 

 上下から放つライダーキックは、叶を捉えた。

 

 

『せいや────!!!!』

「お…のれぇ──!!!!」

 

 

 爆風が発生し、ダブルとアクセルは地上に着地。オーズは変身が解け、そのまま落下し続ける。

 

「くっ……早苗!!」

 

 心残り、早苗の行方だけが気になり、照井の方を咄嗟に見る。

 

「柊さん!」

「……ああ、よかった」

 

 落下で視界がぶれているせいでよく見えないが、早苗が自分を呼ぶ声が聞こえる。無事だったようで何よりだ。

 

「うん、本当に、良かった」

 

 ──今回、ようやく手が届いた。あとは翔太郎さんたちが上手くやってくれる。

 

「フィリップ! ルナだ!」

「大丈夫、わかっているとも」

 

 ──《LUNA》! 

 

 ──《JOKER》! 

 

「よっと」

 

 

 柊の足が掴まれる。

 

「え?」

「あれ?」

 

 そして、そのまま地面にペタン、と尻が着く。

 

「よっしゃ、それじゃ帰るか!」

 

「「…………」」

 

 

「……ん? どうかしたのか? 柊」

「いや、う〜んと……なんでもないです」

「柊さん、さっきの会話なんですけど……」

「あ……うん無かったことに……しようか」

 

 

「……どうやら、お邪魔だったようだ翔太郎」

「……はぁ?」

 

 

 叶は照井に運ばれて行った。

 

 

 ♢

 

 

「まぁ心配せずとも僕たちでどうにかするよ」

 

「頑張りなさいな」

 

 ボロボロな服の汚れをはたきながら笑う紫。

 

「おっ、遅れてすみません!!」

 

 叶の肉に取り込まれて衣服がはだけてしまっていたので、安着を紫の金で買い難を逃れた柊。

 

「一生大切にします! これ!」

「はぁ? そんなんやっすいだろ」

 

 大事なのは商品価値ではない、と柊は言う。

 

「思い出の品ですから! 翔太郎さんとフィリップさんと……ていうか皆サイン書いてくれませんか!? せっかくなら思い出に残したいし!」

「……えっ私も!?」

「もちろん!」

 

 そして、全員がマジックペンで思い思いのサインを書き連ねた、

 

「お金は気にしなくていいからね」

「うん、ありがとう紫さん! 」

「いいえ、こちらこそ本当にありがと……あら、柊手が」

 

 左手を見ると粒子のようになって消えていっている。おそらく時間が来たのだろう。

 

「ん? ああ、そろそろ時間みたいだな」

「もう皆んなとお別れってことか……」

 

 早苗の力で呼ばれたが早苗本人が救われた今、幻想郷へ戻るのは当然だろう。今にも全身が粒子と化している。

 

「あ、ちょっと待ってくれ、早苗」

「……?」

 

 一つ頼みがある、と言って早苗にオーズベルトと三枚のメダルを渡した。

 

「これは多分お前の奇跡の力のおかげで造れたベルトだ。返す。それで……少しでも早苗の力になるならその方がいい」

「……」

 

 

 紫が念を押す。

 

「一応言っとくけど早苗、あの子の病は貴方とは無関係よ。気にする必要はないわ」

「はい……でも、それでも、出来れば治してあげたいです」

「うんじゃあ、ほら」

 

 一度空を見上げて、早苗は柊に向き直した。

 

「ですがこれは、必要ありません」

「……」

 

 無言で聞く翔太郎達一同。

 

「な、なんで!? それがあれば、多少は助けに」

「大丈夫です、私ももう頼られてばかりじゃいられません」

 

 奇跡の力は、そう便利なものではない。一番効力を発揮するのは叶の狙い通り早苗を極限まで瀕死にさせて昂った時だ。だがそれでも不治の病という概念を覆す力にはなり得ない。例え柊の力を借りても、それは変わらない。

 

「でも諦めません」

「……!」

 

 拳を前に出す早苗。

 

「皆さんが手を伸ばしてくれたから私は今ここにいる。それと同じように、私も恵ちゃんの手を掴んでみせます! 私の……手が届く時まで……!」

 

「分かった……頑張ってね」

 

 ぱっと開いた早苗の手を、快く握り、握手を交わした。

 

「ありがとうは僕達も同じだよ、柊」

 

 フィリップの方を見やる柊。

 

「君のおかげで最悪の事態を避けられたんだ。君がいなかったら依頼人も……風都の皆ももっと酷い目にあっていたかもしれない」

「フィリップさん……」

 

 後ろから翔太郎がフィリップに肩を乗っけた。

 

「おいおい、全員が頑張っただろ? 相棒」

「ああ、君も、紫さんもアキちゃんも。皆んながよく頑張ってくれたと思うよ」

「だな。今回は特にでっけぇ依頼だったし……ておい亜樹子何で泣いてんだ!?」

 

 横をふと見た翔太郎が亜樹子の異常に気付く。

 

「だ、だってもう早苗ちゃんと紫さんと柊くん達とは会えないんでしょ!? 悲しくなっちゃって!! どうしよう止まんないよお!」

「大丈夫よ、亜樹子。私達は心で繋がってるわ」

 

 涙を指で払う紫。

 

「はい! 紫さんの言う通りです! 亜樹子さん、私本当にお世話になりました! 亜樹子さんの事、私一生忘れません!」

「俺からも、本当に助けられました。ありがとうございました亜樹子さん」

「うわぁぁぁ!!」

 

 早苗と柊にがばり、と抱きつく亜樹子。

 

「騒がし〜なぁ亜樹子はよ、もう少しクールに別れられねぇのか」

 

 柊太郎の口が釣り上がっている。

 

「また、会えたら……嬉しいです」

「ああ、明日さえ迎えられたらきっと会えるさ……困った事があったらいつでも言えよ?」

 

 柊に向けて、指を鳴らしながら告げる。

 

「ライダーは」

「助け合い、ですよね」

「よく分かってんじゃねえか!」

 

 2人は笑って握手を交わす。

 

 あ、それと。と柊が掌を叩く。

 

「髪飾りの件だけど、ごめん早苗。持ってたはずなんだけど見つからなくって。こっちに来たら今度詫びするよ」

「いいんです! 私にはもう髪飾りを持てる余裕がないくらい大切な物がいっぱい出来ましたから!!」

 

 

 

 ……早苗という少女は依頼前より随分と前に進めたようだ。その授業料と考えれば、髪飾りの一つは気が楽になるんじゃないだろうか。嬢ちゃんの今の笑顔を生み出すための代償と考えたら髪飾りも喜んでいる事だろう。

 

「依頼人がそう言うなら良しとすっか! ……恵の事……それから生き残った少女……沙耶、その為諸々は嬢ちゃんと俺達に任せてくれ、必ず助けっから」

「うん、約束しよう。僕達が必ず彼女の涙を止めると」

 

「……頼みます」

 

 

「ああ、すぐに風都の涙を止めるさ」

 

 ……俺たちは良くも悪くも仮面ライダーってやつに驚かされることになった。

 

 

「お前の力はしっかり見たぜ。お前の手がちゃんと届いた瞬間もな。今のお前なら、きっとどんな場所でもお前はやっていけるはずだ。頑張れよ」

「僕も翔太郎に同意だ。ただし、くれぐれも無茶はしないようにね?」

 

 俺たちの言葉一つ一つを身にしみる様に聞くあいつは、本当に不思議なやつだった。

 

「君らがどこに行くかは分からんが、頑張れよ」

「照井さんも、本当にありがとうございました! 一緒に戦えて光栄です!」

「頑張ってね! 柊くん!」

「はい、ありがとうございます。次会うときはもっと立派になっときます」

 

「……嬢ちゃん」

「はい、翔太郎さん」

 

「もう大丈夫だろうから、今度そいつが困ってたら助けてやってくれ。二人で頑張っていけよ。応援してるぜ」

 

「うぅぅう……早苗ちゃん!! あっちでも元気にね!!」

 

 

「はい! 有難うございます。それと……本当にお世話になりました! あ、いやでも」

「早苗はまだもう少しここにあるわよ?」

「えと、はい……そうでした」

「あ、そうだった」

「さっきからその前提で話してたじゃない。嬢ちゃんと俺達でどうのこうのって」

「……ああ」

「未熟が過ぎるのではなくて?」

「未熟というか半熟ですね?」

「うるっせえよ!」

 

 今回一番成長したのは間違いなく嬢ちゃん……いや、早苗、彼女だろう。彼女は自分の意思で立ち上がったんだ、決死の覚悟は並大抵のそれではないだろう。

 

 

「それじゃあ、そろそろ体も消えかかってるし本当にお別れか」

「はい、暫しのお別れってやつですね。会えてよかったです!! それじゃあ……」

 

「おっと! 忘れるなよ、柊。俺達はいつだって同じ空を観てる。苦しくなったら誰かを頼れよ。今回の件は借りにしとくぜ」

 

 俺は、今回くらいは最後までハードボイルドらしくたち振る舞えたんじゃないだろうか。

 

「本場のハーフボイルド、しっかり見させて貰いましたよ柊太郎さんっ! それにフィリップさん! 照井さん! 亜樹子さん!」

「うんうんハーフに……ん、ハーフ……?? ……なっ!? てめっおいこらぁ!!」

 

「──お元気で!!」

 

 

「あっ!!? …………ったく」

「……さてと、帰ろうか」

「……ああ」

 

 

 ♢

 

 

「私もか!?」

「慧音に頭突きされたくないでしょ!」

 

 霊夢と魔理沙。二人が柊の失踪に気づき探し始めたその時。

 二人の横で風が大きく靡いた。

 

 

「……ああ、帰ってきたんだな」

 

「「……は?」」

 

「お! 久しぶり! でもないのかな? ん? どうなってんだ?」

 

 

「いっやぁ〜色々会ったんだけどさ、話せばながーくなっちゃうから……霊夢? 魔理沙?」

 

 霊夢と魔理沙は背中に死神でも居るのかといわんばかりの憎悪をこちらに向けてくる。

 

 

「「説明しろぉ〜〜!!」」

 

「ひぇぇぇえええ!!!!」

 

 

 説教を受けてから数時間後、俺は家に戻るなりすぐに寝てしまった。俺は本当に限界を超えて動いてたんだ。だからその日は気づかないまま死んだように眠った。

 

 横にベルトが置いてあることには、気づかずに。

 

 

 

 ♢

 

 

「……暇だなぁ」

 

 とある病院の一室。ここは沈黙そのものだった。

 

「……は〜あ……人が恋しいよぅ……」

 

 

 今日もまた、診断を受けて、適当にブラブラして終わり、か。

 

「!」

 

 ガラララ、とドアが開く。

 

「はいはい元気ですよー、早く診断終えて……」

「そっか、よかった」

 

「──え」

 

 一凪の風が室内に入り込む。それは、確かに奇跡の出会いを呼び起こしているのかもしれない。

 

「──会いたかったよ、恵ちゃん」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。