東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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34話 疲労と鬼と満を持す

「珍しい面子で楽しいわね」

「貴女がさっさとやられてくれればね!」

 

 自立型人形達と協力して弾幕を張り続けるアリス。

 実は紫さんを今回の異変の犯人だと思ってるんだが、こっちの話しを聞く間もないので俺もあまり気に留めてない。

 

「なんでこんな事したのよ!」

 

 更に一段階、アリスの弾幕の威力が増した。

 

「ん〜まぁ、楽しいし?」

 

「霊夢も何やってるんだか……!」

「あの子は今寝てるわよ? 私達の所為でちょっと怒ったみたいね〜」

 

 アリスは溜息をつく。

 

「私達で解決するしかないのね…」

「そうそう、でも頑張って私を倒してくれたら褒美でも傅いてあげるわ」

 

 あ、これ紫さん倒したらちゃんと異変の犯人の所に連れて行ってくれる気だ。

 おおよその事情を把握している柊は言葉の裏に気づく。

 

「そう? それじゃ今日は日本酒を頂戴するわね!」

 

 弾幕ごっこの最中でなかったら多分アリスも紫の真意に勘付いてはいたかもしれないが、紫の小癪な弾幕がその思考を遮る。

 

「ほんっと、そのスキマずるいわよね!」

「あ〜アリスさんこのままじゃジリ貧ですよ」

 

 互いの背後の弾幕を打ち消し、薙ぎ払う。

 

「考えがあるのかしら?」

「そうですねぇ、今みたいに互いで全方位から守り合いながら紫さんに近づくってのは?」

「乗った、このままじゃ埒あかないしね」

 

 紫狙いの弾幕から、紫の展開する弾幕を相殺する狙いに切り替えた。

 

「一応言っとくけど、スキマはただ貴女達を動かすためにしか使ってないわよ?」

 

 所謂、通常弾幕というやつだろう。

 まぁタチが悪いのは変わらないけど。

 

「スキマは気配感じないもんな、ちゃんと周り見とかないとすぐ被弾するぞ」

「その点に関してはむしろ私とあいつは相性良いわね。この子達が見ていてくれるもの」

 

 眼を輝かせて武器を振る自立型人形。といっても完全に自立しているわけではなくアリスさんがその都度命令し直しているらしい。

 

「まぁそうね。でも貴女致命的な弱点があることに気付いてる?」

「知らないわねご教授願えるかしら?」

 

 スキマを潜った紫はアリスの背後に迫る。

 

「人形操作に手一杯になっちゃう事よ」

 

 紫の弾幕をカマキリアームで切り裂く。

 

「スキマ、自分に使いましたね?」

「あら、防がれちゃった」

「そういう事、残念ながら今は護衛がいるのよ」

 

 すかさず紫の袖を掴む。

 

「アリスさん!」

 

 人形の槍が紫に向く。

 

「まだまだ」

 

 笑ってスキマに入り込み、再び後ろから弾幕を放つ仕草をする。

 

「シャンハーイ」

「ん?」

「ヤッテヤンヨ」

 

 紫と同時にスキマに侵入した人形の一人が片言で喋る。

 

「あら可愛いわね、でもその槍じゃ難しいと思うわよ?」

「デキルヨ」

 

 眩い光を放ってその人形は爆発した。

 

 

「魔操『リターンイナニメトネス』」

「こっわ」

 

 この人やりやがった。

 

「あっぶないわね、もう…! お酒が溢れちゃうところだったわ…」

「お酒を庇ってたとしても、被弾したわね!? ふふふ、作戦大成功ね!」

「自分の作った人形は壊したくない甘ちゃんと思ってたけど…見直したわ、やるじゃない」

 

 風切り音と共に酒を持って出てくる紫。

 

「ていうかそんな所にいつも閉まってるの…貴女…」

「ふとした瞬間飲みたくなる時ってあるじゃない? だからいつでも飲めるようにとっとくの。あ飲む?」

「貴女が妖気を取っ払ってくれたらね」

 

 クス、と鼻で笑う。

 

「な、何よ!」

「だって私何もしてないもの。その子はとっくに気づいてたでしょうけどね」

「ちょっ」

 

 

 こっちに振るな振るな。余計ややこしくなる。

 ほら、そんな睨まないで。

 

「……」

「それはそうと妖気って…貴女ねぇ」

「妖気じゃないなら、これは何なのよ?」

「これは皆んなを操って萃めていただけ」

 

「え、 つまり無害って事?」

「無問題も無問題。何の問題もないし何なら待っとけばあっちから来たんじゃないかしら」

「何よそれ! 働き損じゃない!!」

 

 正解! と描かれた扇子を開いて嘲笑う紫。

 

「鬼の首を取ったようだったわね。まぁまだ取れてないんだけど」

「今度は特大人形爆発させるわよ。…ってさっき言ってた褒美ってもしかして」

「そう。真犯人の所に案内してあげる。今度はちゃんと鬼の首を取って来なさいよね」

 

 そう言ってスキマを正面に展開する。

 

「さ、これで行けるわよ…って行かないの?」

「無害なんでしょ? ならもうとっとと行ってぶっ飛ばしてきてやるわったく…!」

 

 とぼとぼと足を運ぶアリスさん。どうやらほんとに疲れたみたいで意気消沈している。

 

「その冷静さ、もうちょっと早くから取り戻していたらね」

 

 困り顔で紫は笑った。

 

「貴方は? 行くのかしら?」

「善は急げって言いますし、行きますよ。それにレミリアさんもそこに居るんでしょ?」

「あら、正解。鋭いわね。でもこうなると思ってレミリアはまだスキマの中にいるわ。先にアリスを行かせる」

 

 そりゃ元々はレミリアさんを捜索しに来た訳だし。さっきスキマで通って行ったの見てたし。

 

「でも、弾幕ごっこは楽しかったです…俺はほとんど何もしてないけど」

「レミリアはお礼も言わずに行こうとしたけど貴方は偉いわねぇ」

「別に。レミリアさんを捜しに来たんだから一言物申しに行くだけですよ」

 

 素直じゃないものね、と呟く。

 違うんだよなぁ。

 

「あの人に心配で助っ人に来ましたなんて行ったら逆にこっちがやられるでしょ?」

「それもそうね。よく分かってるじゃない。貴方も扱いに慣れてきたみたいね」

「ええま、……ん?」

 

 スキマが再び展開され、誰かが出てくる。

 

「え、ちょアリスさん…!?」

「ケホッ……もう……勝手になさい…!」

「負けたのね」

 

 アリスさんの頭を撫でる紫さん。そしてレミリアさんを投下したらしい。

 

「レミリアが心配で来たんなら貴方も行ってやったら?」

「勿論ですそれじゃ、あ、あと」

「?」

 

 柊は紫に何か思いついたように聞く。

 

「アリスさんには褒美として場所教えてくれたけど、俺の分まだですよね?」

「貴女からのそういう提案も珍しい。ま、確かに被弾しちゃったし何でも言ってごらんなさい?」

 

 ニヤッと悪い笑みを浮かべて言った。

 

「宴会の準備は紫さんがよろしく」

 

 そのまま、スキマに侵入して真犯人の元へ行く。

 

「……ふふ、幻想郷の賢者をコキ使うなんて肝が据わってること……ねぇ藍いる〜〜!?」

 

 

 そして時間はほんの少し遡ること数分前。

 

「はぁ〜あ」

 

 二本の角を頭に携えた少女は言う。

 

「あとどれくらい待ったらいい加減ここに来るのかしら? ちょっと退屈に感じ始めて来たなぁ」

「あーお前か? 最近我が物顏で幻想郷を包み込んでいるのは」

 

 背後からの声に気づき振り返ってみればいきなり尋問して来た。というか、どうやってここに来たのか、

 

「あら、いらっしゃい」

 

 あー紫が案内したか。

 スキマを見て瞬時に気づく少女。

 

「お前が何者か知らんが…ここで勝手な真似は許さないよ」

「私は貴女の事良く知ってるけどね」

 

 レミリアは少し眉をひそめる。

 

「何だって…?」

「本当はずっと気づいてた。私が分散していてもね」

「まぁ皆んながああもなれば気づくでしょう」

 

 皆んなが皆んな快く宴会を受け入れたことや宴会に毎回全員来てたことを言っているのだろう。けれどこいつは。

 

「その前から気付いてた癖に」

「何のことを言ってるんだい?」

 

 うーわ。あくまでシラを切るつもりだこいつ。

 

「本当は別の…特に人間に気づかせたかった」

「当たり前だ。妖怪退治は人間の仕事なんだから」

 

 よく言うよ。自分の部下には大人しくするよう伝えたり、障壁が貼ってある館から外に出ないようそれとなく伝えたりしてる癖に。

 

「余りにもみんなが鈍いから痺れを切らしてただけ」

「嘘。余りにも相手が強大そうに見えたから、人間に任せたら危ないと思ったから!」

「……いいや?」

「じゃあなぜ、冥界に向かおうとした人間と人形使いをわざわざやっつけて疲弊させて帰そうとしたんだ?」

「私の力を知らしめるにはあれぐらいしなきゃと思ってね」

 

 あくまでわざとらしい演技を続けるようだ。くくく、ここまでくると。

 

「可愛い奴め」

「可愛くない奴」

 

 互いに笑みを浮かべて、戦闘態勢に入る。

 

「私の力…未知の力を前にして、夢破れるがいい!」

 

 

 そして数分後───。

 

「…なんだここ? うわっなんか酒臭い…」

「そりゃそこのバカがずーっと酒飲んでるせいでしょうね」

 

 おっと、急に聞こえた声にはビビらなかったぜ。聞き覚えがあったしな。

 

「探しましたよレミリアさん! そいつが真犯人か」

「ええ、よく来たわね…とは言ってやんないわ」

 

 プイッとこちらから視線を外す。

 

「なっなんかしました?」

「もう、何もないわよ!」

 

 理不尽だなぁ、こっちだって一晩中レミリアさん捜索しまくってたのになぁ。まぁそれでこそレミリアさんって感じか。

 

「照れてんだよ、そいつ」

「ちょ、違うわよ!」

「ああ、そうなん…いや、初めましてだよね?」

「うん初めまして。萃香だよ」

「ありがとう。俺は夢知月 柊。よろしく」

 

 律儀に挨拶して握手までする。

 わー凄いフレンドリーだなぁ。

 

「お願いがあるんだけど聞いてくれるかい?」

「んー? 何? 言ってごらん」

 

 首を軽やかに傾ける。うーん異変の張本人なのになんともまぁ隙だらけで。

 

「今すぐ霧全部払ってくんない?」

「無理」

「あっそう」

 

 意見が食い違った瞬間。互いに握り合った手に渾身の力を入れる。

 

「ぬぉぉぉぉおおお!!」

「わっ! すごいすごい! ただの人間じゃないってわけね!」

 

 あれ? 嘘だろ押されてる?

 

 ──タカ! ──ゴリラ!──チーター!

 

 左手を使ってスキャナーをとって無理やりタトバからタカゴリーターに変身する。

 

「おっ!? もっと強くなった!」

 

 まさかこの萃香と名乗る少女、俺の力の少し上の握力を調整して出してるのか!?

 

「ニヒヒ、これ以上はないみたいね?」

 

 ミシッ!

 

 鳴っちゃいけなさそうな音を立てて右手がうねる。

 

「お、ぉぁ…!」

「柊!」

 

 横から攻撃を阻止するレミリア。

 

「もぉ〜今いいところだったじゃん、なんで邪魔するの!」

「全く、これだから人間は!」

 

 レミリアと萃香の拳により発生した風圧で吹き飛ばされる。

 

「ほんっと、規格外だな……!」

「しっかりしてよ、異変解決の為に来たのでしょう?」

「ちょっ、右手…!」

 

 ──肘まで綺麗に吹き飛んでる! グロい!

 

「こんなもんすぐ治るわ。それより余所見しない!」

 

 レミリアは柊の襟を引っ張り、空中に上げた。

 

「いきなり何を…!」

「下見てみなさい、呆れるわよ」

 

 レミリアさんの言う通り下をチラッと見る。

 

 なんということか。元俺がいた場所は、一瞬で焼け野原になった。どうやら水平で広範囲な弾幕を展開したようだが、こんなやり方見たことない。

 

「ね? 呆れるでしょ? あいつ頭おかしいのよ」

「た、助かりました」

「とりあえず私があいつの気を引いてあわよくば被弾狙ってみるわ、貴方は常に隙をついて頂戴」

「了解、変身っ!」

 

 ──クワガタ!──ウナギ!──バッタ!

 

 言われた通り常に萃香を攻撃し続ける。まずはクワガタの雷を放った。

 

「は〜! 二人集まってやる事は陽動と援助か! 単純すぎてつまらんな」

「余所見してる場合じゃないでしょ?」

 

 まずは後方支援を潰す、と目論み立てた萃香を蹴り飛ばすレミリア。いきなり大きな隙が生まれた。

 

「今だ…!」

 

 ──《SCANNING CHARGE》!

 

「!……ストップ」

「え…!」

 

 こちらに接近したレミリアが咄嗟に手を抑える。

 態勢を崩している萃香は受け身を取る。

 

「今……どうして」

「やっぱバトルマニアねあいつ。今貴方を引っ掛けたのよ」

「よく分かったな、やるじゃん。鬼を名前に含んでるだけの事はあるね」

 

 よくよく見ると奴の後ろに回した手には妖力を感じる。

 近づいたところを不意打ちする気だったのか。

 

「動きが胡散臭かったしね。こんなのに引っかかってちゃ先が思いやられるわよ柊」

「す、すいません」

「……ま、弾幕ごっこの経験数は少ないだろうし、これから徐々に慣れるしかないわね。それよりさ」

「ん?」

 

 歩幅一歩もないくらいの距離まで歩み寄るレミリアさん。ちょ、ちょっと距離が近すぎないか?

 

「えい」

 

 レミリアは近づくなり、柊のベルトから胴のメダルを抜き出した。

 

 

 

 

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