東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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誤想永紫 編
36話 墓とお参りと永遠亭


紫は今永遠亭の主人とも呼べる医者、八意 永琳(やごころ えいりん)に呼ばれて、永琳の元へ来ていた。

 

「直々に呼ぶなんてどうかしたのかしら? 私も暇ではないのだけれど」

「……直接会って聞きたい事があったの」

 

「……以前貴女と大食漢……もとい幽々子と話つけていたのを見ていたんだけれど」

「あら。盗み聞きなんてはしたないですわ」

 

お前が言うな。という目で紫を睨む永琳。

 

「それで聞きたいんだけど……もう解決策は編み出せたの?」

「全然」

「働いてないじゃない!!」

 

何が暇か! と内心突っ込んだ。

 

「いやいや、ほんとに働いてるわよ。……ん〜以前一回だけ翔と現代に行ったことがあるんだけど、何も変わった事は起きてないから大丈夫よ」

「何やってるのよ!」

 

いきなり首元を掴む永琳、そして紫は泣き出した。

 

「わ〜ん! 意図的じゃないもん! しょうがないじゃない!!」

「……じゃあ、まだ手立てはないのね?」

「ないわよ……っていうか何? もしかして貴女も手伝ってくれるの?」

 

いきなり変化する紫の情緒の変化に永琳はツッコむのを放棄した。

 

「違うわ。私は聞きたいだけ……このままだと私の居場所にいつか危険が訪れるかどうか」

「……?」

 

椅子に座り込んで話す永琳。

 

「……覚えてるかしら、私が以前偽の月を作った異変の事」

「勿論よ、私と霊夢の初めての共同作業だもの」

 

紫が上機嫌に言う。相変わらず胡散臭い紫に苛立ちを覚えても尚、永琳は無視して話した。

 

「あの時は結局月の使者が幻想郷に入れない、という事で事態が収束したけど」

 

分かりやすくいうならば永夜抄。永夜抄異変と呼ばれる異変が以前起こっていた。

 

偽の月を作り月の使者から輝夜姫を守ろうとした永琳によるものだったが、幻想郷の結界は外からの悪意を通す事はない、という紫と霊夢の説得により終焉を迎えた異変だ。

 

「今回はそうも言ってられないのではなくて?」

「う〜ん……流石は天才。というか話を聞いてたんだものね。盗み聞きで」

「……外の世界の民がどれだけの力を持っているかは知らないけれど……私には生きて守らなければならないものがある。……その為には手段を選ばない、とだけ」

 

紫が、永琳の両肩に手を乗せる。

 

「心配しないで、必ずどうにかしてみせるから。私だって貴女と同じ気持ちですわ」

「……彼を殺しても、意味がない、だったわね?」

「ええ、問題は彼そのものではない。それはさっき言った通りよ」

 

一回現世に戻っても結び付きは変わらなかった。結界には綻びも生じなかった。つまりはもう彼の問題ではなくなったのだ。

 

「でも、あの子の()()秘密はあるかもしれないわね。必ず理由はある筈だし。まぁせいぜい私達の愛する居場所を壊されないように頑張りましょう」

 

「……ふ〜ん」

 

 

スキマを縫って帰る紫。そして、永琳は数日永遠亭に籠ったのであった。

 

 

 

ある日の快晴。その中で翔は墓の前で手を合わせていた。

 

「……」

 

この墓は、いぜん現世に行った時に助けられなかった人間の墓である。不運の連続で助けられなかった事、たまたまがある事、そしてあの日の濃密な出来事全てを、忘れない為に一人で作ったのだ。

 

「……こんな所にいたの?探したよ、翔」

「……慧音さん、すいません。何も言わずに出てしまって」

 

萃夢想異変後、幻想郷は平和そのものであった。悪戯する妖精や活気ある人里。常日頃何かを企む妖怪たち。その光景に翔はすっかり愛着が湧いてしまう。

 

「……いつの間にかここが俺の第二の故郷になっちまったなぁ」

 

今は、現世で会った左 翔太郎の言っていた言葉がよくよく理解できる。

 

「この幻想郷で誰にも泣いてて欲しくない……うん」

 

ならば、自分も一歩前に進めたのではないだろうか、と思い翔は無意識に笑顔になった。

 

「どうした? 何かいい事があったの?」

「強いていうなら……慧音さんが笑顔が見れた事、かなぁ……」

 

人里でも屈指の美人である慧音、彼女の笑顔が見られるのは歓喜以外の何物でもないだろう、だが。

 

「うわぁ……誰に影響されたか知らないけどさ、ちょっと恥ずかしいぞ、それ…」

「……」

 

共感性羞恥、というよりかは親しくなったゆえの反応だろうが、翔の心に一閃の傷が入る。

 

「心の傷は男の勲章……大事な経験として閉まっとくぜ…」

「……なぜそう遠回しに言うんだ…さっきのも私と一緒にいると楽しい…でいいだろう」

 

若干慧音が身を引いている。だが今のは慧音も中々攻めているのではなかろうか。

 

「そ、その発言は……勘違いしますよ…」

「? まぁいいや……今日はどうする? また教えに来る?」

 

一つ、嬉しい事が翔にはあった。それは慧音さんが自分への接し方を保護者としてではなく、仲間として見てくれるようになった気がするからだ。

 

あくまで気がするだけで、慧音はその気など一切ないのだが。

 

「……嬉しい誘いなんですけど、今日は行きたい所があるんです」

「そうか、また後でな」

「はい、何かあったらすぐ言いますし、そっちも教えてくださいね、すぐに行きます」

 

翔が向かった場所は。

 

「よっ! 沙耶!」

「あ! 変なお兄ちゃん!」

 

以前猫が迷子になったと言い慧音と翔に頼み込みに来た少女である。

 

「元気にしてたか?」

「うん!」

 

両親ともに働いているが沙耶自身はまだ寺子屋には行っていない。両親が帰ってくるまではいつもペットの猫と遊んでいたのだが。翔が来てからは翔ともよく遊ぶようになった。

 

「どうする? また人里回るか?」

「うん! かた!かたがいい!」

「はいはい」

 

かた、とは肩車の事だ。上から人里を見上げる視線が新鮮で楽しいらしい。

 

そもそも、翔とは猫探しの縁であっただけの話なのだが翔から彼女に会いに行っているのだ。

 

(……俺はまた……いやまだ……)

 

翔は、未だ沙耶という名前に縛られている。ただ、償いの為に遊んでいるわけではないし、また悩んでいるわけではない。

 

「あっちに行こうよ! まだ見てないよね!?」

「え、あ、うん」

 

「よぉ! 兄ちゃん!」

 

横にいた男から話しかけられる。件の少女、沙耶の親父であった。

 

「悪いねいつもいつも!」

「ああ、いえいえ…」

「おとうちゃん! 早くかえってきてな!」

 

手を振りながらまた歩いていく。翔は沙耶の両親からは信頼されている。というのも、慧音と一緒に行動している面が大きかった。以前は特訓メニューの一つで人里での荷物運び等々をしていた為に大体の人が翔の人となりを知っているのだ。

 

「楽しいか?」

「うん!まだおろさないでよ!?」

「わかーってるって」

 

翔は、現代で助けられなかった別人の沙耶の母親の事を、どこか負い目に感じているのかもしれない。

 

「じゃあな、また今度」

「う!! ばいばい!」

 

夕刻になり、翔は帰った。

 

「……今日も平和だった、うん」

 

 

 

 

振り返されるトラウマ。未だ翔には尾を引いているのかもしれない。

 

(……だけど、どっか面影があるんだよなぁ…)

 

現代でであった少女と。もしかすると、関係がないわけではないのかもしれない。なんて言い訳しながら慧音の元へと足を運んだ。

 

「ただいま」

「ああ! お帰り! 手洗っておいで」

 

慧音も変わらないな、と笑いながら洗面台へ翔は向かう。

 

「そういえば、手紙が来てたぞ?」

「内容は?」

「いやいや…お前宛なんだからお前が見ないとダメだろ」

 

そりゃそうか。と思い翔は手紙を開く。

 

『貴方に頼みたい事があります。よろしければ来てください。時刻は〜〜、案内人も派遣しております 永遠亭より ps…」

 

「……これは……」

 

あのお医者さんからの手紙か。と手を口に当てて考える。

 

「何だったんだ?」

「いや……野暮用です。多分くだらない事でしょうけど」

 

とりあえず、慧音には悟られないようにしよう。と意識する。

なんの用があって? なぜ自分が? と疑問はあるが、行ってみようとは思う。どうせ暇なのだから。

 

 

♢   

 

次の日

 

「……紫さん?」

「はぁい、翔」

 

慧音に言われ自分の部屋として使わせてもらっている部屋に突如スキマを使って紫が現れた。

 

「ね〜え、ここ最近不思議な事なかった?」

「……はい?」

「だから〜不思議な事よ」

 

真っ先に思い当たったのは、手紙の件だった。

 

「……何か企んでるんですか?」

「企んでるっていうか……対策してるっていうか?」

 

紫はふわふわ、浮いて翔の肩に頭を置いた。

 

「ちょ、近いですって!」

「いいじゃない、修羅場を潜り抜けた友達でしょ?」

 

再び以前の記憶が翔の頭で呼び起こされる。

 

「……こっちも聞きたい事があったんです」

「ん?」

「……同じ人間が、幻想郷に生まれ変わりとして生きてる…ってことあり得ますか?」

 

紫は神妙な顔になる。

 

「あり得ないわ、残念ながら……貴方の思っている事も分かるけど…それはあり得ないのよ」

「……そうですか、残念です」

「……そうね」

 

少しの間静寂が流れるが。

 

「……この話はやめましょ! 聞きたい事は他にあるし!」

 

両手を叩き、笑う紫。

 

「聞きたい事…?」

「うん、翔の所にさぁ何か永遠亭からメッセージ的なの来なかった?」

「──!」

 

脳裏に浮かぶ一枚の手紙。

あれにはまだ続きがあった。

 

ps 紫は信用するな、と。

 

その手紙を送った永琳を信じてからか、はたまた紫の人徳ゆえか。

 

「……来てません」

「はーい、何かあったら教えてね。すぐ来るから」

 

翔は嘘をついた。

 

「……何が起こってるんだ……」

 

自分に関係のある事が、自分の周りで起きているのに肝心の自分は蚊帳の外である事に不安を覚える。

 

そして、平和なまま約束の日が訪れた。

 

「……あ、ウサギの人…」

「こんにちは、それでは安全の為にも私が永遠亭へ案内します」

 

鈴仙が、派遣されていた。そして竹林を潜り抜ける。

 

「あの〜……お医者さんが俺になんの用なんでしょうか?」

「さぁ? 私も詳しい話は聞いてませんから……本人に会って直接聞いてください」

「そうですか…」

 

心当たりなんて一切ない。送られた時から色々考えてみて、初めは医療費の請求か何かかと思ったがそれはすでに解決しているはずだ。

 

「……全く……お師匠様も人使いが荒いんだから…」

 

独り言らしき愚痴を鈴仙が零す。どうやら鈴仙は本当に事情を知らないらしい、と確信する。

 

「それを言うなら兎遣いでは?」

 

明らかに兎だし。うさ耳生えてるし。

 

「ああん!?」

「ひえっ……なんもないっす」

 

こういう人だったのか…と反省する翔。

 

「はぁ……歩き続きですし…ちょっと休憩しますか」

「あ、いや気にしなくていいですよ。別に疲れてないんで」

「……そうですか」

 

多分、鈴仙は休憩したかったのだろう。翔を思い切り睨みながら座りかけていた石から起き上がる。

 

「…おかしいわね」

「何がですか?」

 

普段竹林に近づかない翔には異変がわからないので、鈴仙に尋ねた。

 

「いつもだったらバカが落とし穴とか罠で嵌めてくるのに……今日は何もないのよ」

「……えっと、看護婦さんに? 毎日ですか?」

「ほぼ毎日よ。あと鈴仙でいいから」

「あ、はい」

 

辺りをグルグルとみて回る鈴仙。

 

「でも悪戯されないっていうのはいい事なのでは?」

「なーんか、逆に不穏なのよね」

 

なんともまぁ、大変そうな女の人だなと思った翔であった。

 

「…あ、妹紅さん!」

「げ……あんたは」

「……なに? どうしてここにいるの? それに鈴仙ちゃんまで」

 

妹紅はこの竹林近くに住んでいる人間だ。ゆえに鉢合わせすることもあるだろうが。

 

「お師匠様がこの人に用があるの。あんたとは関係ないから」

「ちょっと…そんなあしらうみたいに…言うのは失礼じゃ?」

「いいから! あんたはさっさとついて来ればいいの!」

「ま、また後で! 妹紅さん!」

 

後ろから二人を見送る妹紅。

 

「……」

 

だが、妹紅は確実に二人の様子を訝しげな目で見つめていたことだろう。

 

ようやく、永遠亭へと到着した。

 

「はい、あとはもう一人で行けるでしょ!」

「あ、うん…ありがとうございました」

 

そして一人足を運んで行く翔。

 

「……今更だけど……相当広いよな」

 

流石は幻想郷の病院といった所か。相当広くて危うく迷子になりそうだ。

 

「こっちよ、入って来て」

 

翔の眼前にある一つの扉から声がする。以前から世話になりっぱなしの医者様の声だ。

 

「失礼します」

「ええ……こんにちは」

 

八意 永琳が、翔と邂逅した。

 

 

 

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