東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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37話 信頼と信用と生きられない

「その椅子に座ってくれる?」

「はい」

 

柊は用件を聞くこともなく大人しく座った。

 

二人の間に流れる雰囲気は合コンやお見合いのそれではない。剣呑な空気が流れている。

 

「紫から何か言われなかった?」

「言われましたよ。永遠亭から何かメッセージが届かなかったかって」

「ありがとう、私を信頼してくれて」

 

八意 永琳よ、と言って手を伸ばす永琳。だが。

 

「……うーん、お医者さんのイメージが強くて……名称が決めづらいなぁ……八意さんでいいですか?」

 

さっきまでの冷たい空気が嘘のように柊の眼が輝いている。医者を観るのが物珍しいように。

 

「いいわよ。…ていうか別に外の世界でも医者はいるだろうし話すことも珍しくないでしょ?」 

「え? でも俺…一回も病院に行った事なんてなかったですから……」

「へぇ〜、外じゃ貴方も随分元気だったみたいね」

 

感心感心、と頭を縦に振る永琳。

 

「こっちじゃ常連なのにね」

「す、すいません……」

 

困った顔で永琳が笑い、柊は平謝りする。

 

だが、どこか不穏な気配は拭えない。

 

「……でも、その方が都合が良かったんじゃないですか? おかげでなんの怪しさもなく俺に手紙を出せたでしょう?」

「……あら? 企んでるって分かってたの?」

「そりゃ、心当たりがありませんでしたから……って言っちゃうんですね!?」

「だって嘘つくのは良くないもの」

 

どこか抜けていた医者の姿に思わず柊は咳き込んだ。

 

「ごほっごほっ!」

「ちょ、ちょっと!? 大丈夫!?」

「大丈夫…て、…あはは! なんで永琳さんが心配してるんですか!」

 

自分を利用する為に呼んだのであろう永琳がなぜか心配してくるのに柊は混乱してしまう。

 

「あ、え、だって……つい癖で」

「はぁ〜……折角覚悟決めてきたのに…ちょっと気が抜けちゃったじゃないですか」

 

さっきまでの医者たる厳格や敵対心も拭えてきた。医者じゃない時の八意 永琳とはこんなフランクな人だったのか、と。

 

(これが作戦だったら完全に俺は落ちまってるなぁ…)

 

永琳をして、もう天然にしか見れなくなった柊である。

 

「まぁ話を聞いてよ」

「はい、なるべく簡潔にお願いしますね」

「ええ、任せて」

 

永琳はどこからかメガネを取り出して立ち上がった。

 

「貴方の出所は紫と幽々子が話しているところを盗み聞きで聞いたわ!」

「!」

「それでね……このままだと幻想郷に危機が訪れるかもって聞いて……そこで!」

 

メスとナイフを取り出して。高らかに言った。

 

「貴方を調べれば対策が思いつくかも……ってね!」

「! ──変身ッ!!」

 

──タカ! ──トラ! ──バッタ!

──タ・ト・バ! タトバ! タ・ト・バ!!

 

「せいっ!」

「!!ッチィ!」

 

 

オーズはトラクローでメスを弾く。

 

「あくまで反抗するのね……」

「だって……身体いじるって…俺死んじゃうでしょ!?」

「死なせないわよ、約束するわ。別に貴方が困ったりはしないようにするもの」

 

互いに間合いを詰める。

 

「でも……腹とか裂かれるんじゃ…」

「解剖したっていう記憶は消しとくから大丈夫よ」

「……俺が失踪したって知ったら他の人達も心配させるし…」

 

永琳はそれに対して問題ないわよ? と左手を挙げる。

 

「貴方を催眠状態にして、『暫く永遠亭に泊まります』って言わせれば怪しまれないわ」

「……なら……いい、のかな……」

 

誰もそれで被害が出なくて、自分が数日間の記憶がなくなるだけならば、と。柊は思い始めた。

 

だが、そこには当然、倫理観というものが欠けている。

 

「……弄って俺がおかしくなっちゃったら……?」

「うーん、もしそうなっちゃったら正常に見せる薬を使うから。それで周りは誤魔化せると思うけど?」

 

柊にも、永琳にも倫理観が欠如している。その中で柊が否定する理由は一つだけ。

 

「……親が日中仕事で働いてて、寂しがってる女の子が居るんですよね」

「優曇華にでも遊戯に遣わせるわよ? それじゃダメ?」

「う……ん」

 

「……貴方が体張ってくれればそれだけで他の人を助けられるのよ? 迷惑を感じる人はいないわ」

「……なら」

 

いままでの話を聞いてくれないし付き合ってくれない人達とは違う。これは提案なのだろう。と柊は理解すると同時に積年の功を感じる。

 

「……お願いします」

「そう、それじゃあね」

 

容赦のない一撃を放つであろう弓が、柊に向けられる。

 

「安心して、次起きた時には全部終わってるから」

「──!」

 

次の瞬間。

 

何が起こったのか、彼には理解できなかった。

 

見えたのは。ただ、矢が、自分の側に横たわっていることだけ。

 

 

「ちょっと、彼を痛めつけないでくれる? 可哀想じゃない」

「紫さん……」

「紫……!? な、なんで…」

 

その場に現れたスキマ妖怪、もとい八雲 紫は柊の右腕に手を伸ばす。

 

「全く、そこまで困ってたなら相談してよ」

「……はい」

 

それを聞くなり意地悪そうに柊のほっぺに指を当てる紫。

 

「このこの〜、私は貴方の為に人肌脱いだんだからね?」

「すいませんでした…」

 

柊と紫は並一通りの関係性ではない。狙い狙われ、殺し殺されの関係を潜り抜け共に早苗を守った者同士の奇妙な縁。

 

 

「そうね、これからは信頼もしてくれる?」

「元からしてましたよ。……今回俺が貴女に相談しなかったのは俺一人でここに来たかったからですから」

「もう……そういう所は男の子よね」

 

自分の事ならば、自分一人で解決したい。もし無理でも話だけは自分一人で付けにいきたい、と柊は思っていた。

 

二人の笑顔を見て眉を顰める永琳。

 

「あ、それと後で貴方に言いたい事と…見せてあげたい物があるから、さっさと終わらせましょう?」

「そうですね。……こんな所で終われないし…」

「ほら、メダル。次は気をつけなさいな?」

「……はい、ありがとうございます…!」

 

柊は空を司る王の力を、身に纏った。

 

──タカ! ──クジャク! ──コンドル!

 

──タ〜ジャ〜ドル〜!!

 

「……ハァッ!」

 

熱気を払って、紫の横に立つ。

 

「……なんだかんだ言って、これが初めての共闘になるのかしら」

「そうですね、いぜん西行妖とやり合ってた時は…利用し合ってただけでしたから」

「ふふ、楽しいわね。永琳」

「ど、どこが……!」

 

 

「「はぁ……はっ!!」

 

オーズが火球を飛ばし、紫が結界を張る。

 

とうとう、これでこの三人が決着をつけざるを得ない。

 

 

「いいわ……貴女まで敵になるというのなら…貴女も泣かせるだけよ!!」

 

「……貴女まで?」

「気にしないでいいわ、ざ、戯言よ」

 

どこか汗をかいているような紫をよそ目に、柊は永琳に向きあう。

 

「それじゃ…一気に決めましょう!」

 

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