39話 四季狂い咲きと巫女と60周期
「ふふ、やはりここから観る景色は壮観ね」
「そうですね。これら全てが死者の残穢なるものと考えれば些か不謹慎ですが……」
「そんなに肩肘張らなくてもいいでしょうに。綺麗だし害あるものではないのだから」
幽々子が二人に向けて足を運ぶ。
「貴女が言うとちょっとあれよね、冥界の主人がそれでいいのかってなるわよね」
「恐縮です、幽々子様」
「いいえ〜、私もただこの景色を目に納めておこうと思っただけだもの」
扇子を広げ、風を煽る。
「やっぱり幻想郷の賢者としては思うところもあるのかしら?」
「いいえ、別に。こればかりは嘆いても仕方ないしね。ただ幻想郷に変化が起きた時はこうやって全体を見ておきたいの」
「ふーん」
幽々子はあまり関心のなさそうに鼻を鳴らした。
「俯瞰して観る、というやつかしら?」
「そんな大層な物じゃないわよ。私達はただでさえ永く生きる生命なんだから変化には敏感でありたい。ただそれだけのことよ」
「貴女のそういう乙女チックな所私好きよ?」
「乙女……ふえっ!? いきなりなんなのぉ!?」
珍しく幽々子が率先していじりにかかった。
「私知ってるのよ? 貴方自ら柊くんの危機に駆けつけたこと」
「いや、それは別に乙女とかじゃないわよ!」
「普段尊敬され慣れてないから嬉しくてつい世話焼いてしまうのよね」
「ち、違う。本当に検討はずれなんだけど」
「うざ絡みしてもちゃんと構ってくれるから一緒にいて楽しいのよね〜」
「もういいから! 用がないなら帰れば!?」
「そうしようかしら」
「えっ……」
咄嗟に冷たくされ、本気で戸惑う紫。そういう所が愛らしいな、と感じる。
「あ、そうそうこの前面白い少女漫画見つけたけど見るかしら?」
「見るー!」
「紫様……」
ほっこりすると同時に、呆ける式神もいた。
♢
「……ん」
「あ、おはよう。いい天気だぞ」
瞼を開けると、慧音の顔が映っていた。
(……綺麗だなぁ)
「朝餉の用意が済んでいるから顔を洗ってから来なさい」
「もしかして毎朝ああやってるのか……?」
紫が誤想異変、と呼んでいた異変以降。柊は慧音との溝が埋まっていた、いや元から溝などないが、更に親密な一歩を踏みしめたように感じた。
そんな事考えながらゆらゆらとした足並みで洗面台まで向かう。
永琳と一悶着終えてからというもの、猛省に猛省を重ねた柊はすっかり憑物が取れたような立ち振る舞いをしていた。
「いただきます!」
「美味しいか!?」
「まだ食べてませんよ……ん、美味しい!」
「それはよかった!」
けれど以前と違って意識して行っていることもある。一つは思ったことをちゃんと声に出す事。
今まで誤解される事の多かった自分だからこそ、そういう面からしっかり磨こうと思う。ほうれん草。
「慧音さんはいつもどおり寺子屋勤務だと思いますけど、俺は今日ちょっと博麗神社に用があるので別行動になりそうです」
「霊夢の所にか?」
「はい、いい加減俺もこっちの法にちゃんと寄ったがいいかなと」
「というと?」
以前、具体的に言うと萃夢想異変と呼ばれる時にレミリアの話していた事を思い出したのだ。
もうそろそろちゃんと闘ってもいいんではないか、と。
つまり──。
「スペルカードが欲しい……と」
「左様。くれ!」
「あんた何か変わったわね……ったく、朝からいきなり押し掛けられて何かと思えば……ほら、はいどうぞ」
そも、この幻想郷という地には人間だけでなく妖怪や、神々などというものも存在する。当然妖怪と人間には力の差が存在し、また妖怪同士の激しい闘いでは命を落とす危険性が恐ろしく高い。なので『殺し合い』ではなく、『遊び』として扱う事で死合を試合に。死闘を決闘に変えたものが弾幕ごっこである。平和を壊さない為に巫女と大賢者が制定したルール。まぁたまに死者はでるが、建前は遊びである。
「ふーん、元はこんななんだ」
「ええ、ただの紙よ。この紙質が嫌なら別に家の好きな紙を長方形に切って使っても良いわ」
そんな適当な物なのか。適当なのだ。
「魔理沙とかアリスさんはすっごいゴテゴテしてた気がするんだが……」
「あー魔法使いだから見栄えとか気にしてるんじゃない? でも実際の所それ自体はほんとにただの紙よ」
大事なのはそこではないという。
「私はこういう弾幕を使いますよっていう契約書みたいなものだからねそれ」
「なるほどな……あくまでこれを使うっていう宣言が重要なのね」
「そういう事……っていうかあんた今までスペルカード使わずにどうやって決闘してたの?」
顎に手を乗せて上を見上げる。以前の闘いを振り返ってみるが。
紅霧異変ではフランやレミリア。春雪異変では西行妖。最近のケースでいえば永琳との闘い。
あの時は紫が事前にルールを提示していたがよくよく考えるとあれはスペルカードを所持していない自分への配慮だったのか。
「なーんかあんまりハッキリとは決めてなかったかもなぁ。被弾数とかその場の雰囲気とか……ローカルルール的なね」
「うわぁ……良くそれを相手も通したわね。私だったらあやふやにされるの嫌だもの」
しかし柊の言っている事も一理ある。この幻想郷での決闘は大まかなルールこそあれど、大体先に啖呵切った方のルールのノリに合わせることが多いからだ。
「まぁ霊夢はきっちりルール決めないと困るよな」
当然だ。霊夢は仕事柄ゆえに異変解決にしょっちゅう出向く。そしてこの世界での決闘は前述の通り弾幕ごっこである。
ルールに漏れがあったり抜けがあれば相手がそこを突いてシラを切る可能性も捨てきれない。
つまり負けを認めない可能性だってあるのだ。
「今のところそういう奴はほとんどいなかったけど……いた時は叩きのめしてやってるけどね。やっぱり異変なんて起こしてる奴には一度くらい痛い目合わせてやんないと」
「……怖い」
結局の所、幻想郷では精神的な、意地の張り合いという側面が大きい。
弾幕は当たれば死ぬこともある。ただの弾幕でも掠ればそれなりに痛いのだ。数回直撃でもすればそれだけで戦闘を終了するケースもあるだろう。
もしかしたらどこか他の世界ではそれを残機、と命名している事もあるかもしれない。
それを踏まえるとやはり霊夢は異変解決のスペシャリストだろう。霊夢はこと異変解決においては気持ちで負けることなどないからだ。
「ま、最近じゃどこもかしこも大人しいもんだけどね。人里もそうでしょ?」
「そういわれてみれば……そうかもな」
「私は仕事しなくていいから気楽でいいけどね〜」
そう言い切ってから、箒で境内を掃除していく。柊は縁側で紙と睨み合いっこしながらそれを眺めている。
「むむむ……うーん」
スペルカードはいわば必殺技のようなもので、使用することで戦況を大いに変えたりするわけだが。
柊の場合は十中八九コンボがそれに該当するだろう。
「なんでそんなに悩んでるのよ」
「ちょっと……うーん」
こういう時の為の便利な言葉を、柊は知っている。
「ゆっかりーん!」
「はーい!!」
「……は?」
「呼ばれて飛び出てゆかゆかりん!」
「おすおす、この前はどうも」
「うふふ。あれからどうかしら? 上白沢女史との進展はあった? 同じ布団で寝てたりする?」
「いや滅多にないです。でも進展はしました」
「あらそう! うふふ、うふふ。いいわねぇ」
滅多に、という言葉は捨て置け。
昭和のアイドル臭の強い紫が、スキマを通じて現れた。
「所でどうして呼んだのかしら?」
「その前に二人に確認しておきたいことがあったんだけど」
そういってベルトを具現化した。
「俺が変身する場合これを使うわけだけど……スペルカードと併用して使うのって面倒臭くてさ、どうにかなんない?」
わざわざスペルカードを取り出して、宣言したのちメダルを3枚抜き取って力を込めて再び装填してからスキャンする。その工程はそれなりに面倒だしどうにかしておきたい所だ。
「そういう事なら私の出番ね! はいっ!」
空に一周輪を描く。すると柊の握っていたスペルカードに絵が浮かび上がった。
それは、鳥のコンボ。タジャドルのオーズの姿だ。
「宣言してみなさい、『王符 空を統べる王』と」
「……王符 空を統べる王」
紙が光だし、さながらオーロラカーテンのように柊を包み込んだ。
「ベルトを見なさい」
「! なるほどな」
ベルトの三枚のメダルは、タカ クジャク コンドルのコンボメダルへと変容していた。
「あとはスキャンすればそのままタジャドルコンボになれる。さ、他のもちゃっちゃとやっちゃうわよ!」
てきぱきと、他のコンボ用のスペルカードも作り出した。
「こんなもんかしら」
「そうですね、助かりました」
「用が済んだなら帰りなさいよね」
触れてはいなかったが、霊夢は紫が現れるなり分かりやすく不機嫌になっていた。
「あら? また 私何かやっちゃいました?」
舌を出してウィンクしながら言う紫に一層青筋を立てる。
「うっさいわね! そもそもここ私の家なんだからそんなにくつろがないでよ!」
「霊夢ちゃんが怒ってるみたいだし私もそろそろお暇するとしましょう。あ、そうそう柊、こっち向いて〜」
「ん?」
「はいチーズ」
紫が肩を掴んで笑う。フラッシュが眩しくて、ちょっと目を閉じてしまった。
「スマホ使うのにはもう慣れましたか?」
「慣れたわよ、面白くて重宝してるわ。あ、ラインくれない?」
「幻想郷でライン出来るんですか!?」
「ごめんうそ」
別にインターネットがあるとかそういう訳ではなかった。
「出来る様になったら言うわね、あでゅう!」
「あ、ちょっと待ってください」
「ん?」
「早苗はいつきますか?」
「あら? 言ってなかったかしら」
少し間を置いてから。
「貴方がもう一皮剥けた時にはきっと来るわ。それと、しばらくは私達も忙しくなるから、手を借りる時は他を当たって頂戴」
ぬるっとスキマをくぐり去って行ってしまった。
「ったく、朝からうるさいわね」
「? 紫さんの事となると途端に厳しくなるな」
「あいつ隙を見せたらいじってくるじゃない。面倒くさいのよ」
「そっか。……んーと今何時だ?」
「ん? まだ午の刻よ」
「ちょっとだけここにいても良いか?」
「珍しいわね? いいわよ別に」
柊も霊夢の神社掃除に手伝う。
「こんなもんか」
「助かったわありがとう、でもなんの気の変わりようかしら?」
「いやそんなんじゃない。ただ綺麗にしとくに越したことはないしな」
「……そう? いっとくけどお礼の金とかやらないわよ?」
「いいよ別に。 そこまで切羽詰まってないからな?」
「ま、慧音もいるしね」
むしろうちの方が危ういわ、と自虐を噛ます霊夢。
「はいお茶」
「ありがとう。んん……霊夢お茶淹れるの上手いな」
「えぇ? お茶なんて誰がいれても一緒よ」
お茶っ葉が良いのだろうか。いやそうではない。霊夢は少しでもケチる為にお茶っ葉も香霖に限りなく値切った安物だ。
だが本当に美味しいと柊は感じた。
「……綺麗だからかなぁ」
空が。雲はあるが青空だ。だが、それを言わなかった為に、霊夢には勘違いされる。
「……何言い出してんのよあんた!?」
「え?」
「そんな、変なもの食べた?」
「いや何の話だよお前は思わないのか? 心が清らかになるぞ」
一言少ない為に勘違いしたまま話が進む。
「だって……私は自分じゃ見えないし、そんな、分からないわよ自分じゃ……」
「……? いや聴いた側も多分そんな大層な反応を求めてたわけじゃないと思うが」
「んなっ!? う、うるさいわね! ちょっとくらい浮かれてもいいでしょ!?」
勝手に霊夢がヒートアップしていく様を見て! 宥める柊。
「……まぁ落ち着けよ。らしくもない、どうしたんだよ?」
「こっちの台詞よ! 何でそんなんなっちゃったのよ!? もしかして……わ、悪い人に引っかかっちゃったの?」
「はぁ?」
流石にここまで反応の差があると何かがおかしいと柊は気づく。自分の言動を振り返る。そして、一言足りないことに気づいた。
「あ〜……ごめん! 綺麗って言ったのは空のことだ」
「……んぁ?」
「いや別に霊夢が綺麗じゃないって言ってるわけじゃないんだけどさ、その、もしかして勘違いしてるんじゃ……霊夢?」
「夢想封印!!」
「ぎゃぱあっ!!?」
もう今日は帰れ! と怒鳴られて、柊は落ち込んだ。
そして何気なくさらっとスペルカードをもう数枚かっさらって家へと戻ってから、数日が過ぎた。
「冬の花?」
「ああ、マーガレットが咲いてたのを妹紅が見つけたらしい」
幻想郷の季節。今は春。春は曙、世は情け。
「また一風変わった異変ですねぇ、主犯は何を思ってやってるんでしょう」
過去に春が訪れない異変は存在した。しかし今回は四季の花すべてが咲き誇っている。全ての四季が訪れているともいえるだろう。
「でも害はないのでは?」
「ないことはないがどう見ても異変だろう。霊夢が困ってるだろうな」
「あ、そっか」
この現象をほったらかしにするということは異変を知らんふりするのに等しい。そうなれば博麗の巫女としての威厳は消える。
霊夢はその身を粉にして動かざるを得なかった。
「手伝って来てもいいですか? 割と規模がでかそうなわりに危険もなさそうですし」
「何かあったらすぐに戻って来……いや、言わずとも分かるか、うん。大丈夫だ」
「ありがとうございます! じゃ、行ってきます!!」
「夕方までには帰ってくるんだぞ〜!」
「夜までには〜はい、しっかりと!」
♢
戸を開けて、走り出す。そのすぐ先に知人がいた。
「魔理沙!」
「お? 久しぶりだな!」
「だな! 何やってんの?」
何やら本を読みながら歩いてる見たいだが。
「その本、紅魔館のか?」
「いやこれは鈴奈庵っつう貸本屋から借りたんだ。外の世界の本もあるからお前も行ってみたらどうだ?」
「へえ、そうするよ。鈴奈庵ね」
ワンアクション挟み、魔理沙が本題に入る。
「知ってるか? 柊。今な、幻想郷の四季がおかしくなってるみたいだ。高い所から見るとまた風情がある感じになってるぜ」
「知ってる知ってる、四季違いの花が咲いてるんだろ?」
「そうそう。んで今調べてる」
どうやら魔理沙の見ていた本は花の資料集めのようだった。
「何か共通点はないもんか見てみたけど、なさそうだな」
「魔理沙はどう思う? この異変。危ないと思うか?」
「この異変に犯人がいるとしたら何でこんな事やるのか検討つかんし、被害者なんて出そうもない。むしろ圧巻な景色に心ときめいてる奴らもいるくらいだしな。こういう異変は多分害はないよ。雰囲気でわかる」
「そういうもん?」
「そういうもん。ああでも霊夢だけは困るだろうなぁ。仕事サボってるなんて思われてるだろうし」
「それはあまり否定できないかもだけどな」
「ははは、違いないな」
異変解決に関しては誰も口を出す事はないだろう、が普段の巫女奉行は目に余る。異変解決までサボり始めたと思われたが最後、彼女の生活にまで関わってくる問題だろう。
「でもなんでこんな事になってるんだろうな。魔理沙も初めてなんだろ?」
「ああ。ま、私たちにはどうこう出来る話でもないし、見守るしかないな」
「そっか……」
魔理沙と分かれて、人里を出た。再び紫を呼びつける。
「ゆっかりーん!」
だが、2回目はなかった。
「ん〜もう早速忙しいのかな……」
先刻会ったばかりだったが、もう手は借りられないのだろう。
そして藍に「困ったときに押せば駆けつける」と言われ渡されたブザーを取り出して、押し込もうとするが。
「かっ固い……!」
何故か押せないようになっていた。おかしい。細工されている。そういえば紫が私達、と言っていたな。
つまりは藍も同様ということだ。
「仕方ないか……」
聞き込みの時間だ。
♢
「花? ああ、確認してるわ。悪いけど私達は何も知らないわよ」
「そうですか……」
紅魔館なう。
「私は気にならない事もないけど、お嬢様が今の平穏な異変に関心を持ってらっしゃらないのよ」
「わかりました。なんか有益になりそうな場所とか心当たりありますか?」
「そうねぇ。心当たりなんて特にないからあまり具体的に言えないのだけれど、妖精が多い場所なら何か分かるかもしれないわね」
「妖精?」
紅魔館の洒落たメイド長。十六夜 咲夜は頷く。
「うちの妖精メイドが紅魔館の誰よりも早く異変に気付いてたの。自然から生まれたんだから当たり前といえば当たり前だけど、事情を知ってる妖精もいるかもしれないわ」
「わかりました! ありがとう咲夜さん!」
「いいえ、それはそうとこの頃フラン様が会いたがっていたわ。ちょっとだけでも寄っていかない?」
言う通り、フランや紅魔館の面々と少し雑談をして、再び歩みを進めた。
──のだが。
「ここ、どこだろう」
迷ってしまっていた。夜には帰ると言っていた手前、このままでは慧音さんにも心配されよう。
「なんでこんな事になったんだ」
自分の背丈よりも高い向日葵群。道は綺麗に舗装されているが、場所の把握はできない。
「……でも綺麗だしいいか」
魔理沙の発言も納得の迫力がそこにはあった。風に揺られ一律に動く巨大向日葵。自然の尊さを感じるには充分な光景だった。
「妖怪がここに何の用事かしら? ここら辺にはとんでもなく強い妖怪がいるから気をつけなさい」
「え、あ、こんにちは」
「はい、こんにちは……マイペースね」
大きな傘、日傘を抱えてこちらに訪ねてくる。
そして妖怪と間違われるのもまた無理はなかった。自分はタトバコンボで行動していた。
だが、柊は変身を解き誤解を解消させる気はない。──相手もまた妖怪であると察知したからだ。
「……ん?」
しかしよくよく見れば服の袖が焦げている。
「もしかして闘い終わった後ですか?」
「……ええ、そうです」
「その相手って」
「博麗の巫女よ」
既に霊夢は行動を起こしていたようだ。だが恐ろしきはやはりその勘だろう。恐らく霊夢は聞き込みなどしていない。自分の勘に身を任せて目の前の少女を叩きのめしたのだろう。
で、あれば。この少女は大事なキーだ。
「霊夢に教えたことを俺にも教えてほしい」
「あの時は放っておいたら元に戻ったんだっけ?」
「え?」
「そうか、もうそんな時期なのね」
「……どこに行っても花花、花。最後にこんな事があったのは60年前ね」
「へ?」
「私は花を操る妖怪。風見 幽香」
そう言ってから柊を無視してどこかを凝視する。
柊もそれに合わせて視線を向けた。
「いやまぁ、隠れて観察してただけですよ?」
向日葵のスキマを縫ってひょっこりと現れた鴉天狗。
「文さん!?」
「あ、あはは……」
「そう。やっぱ貴方達グルなのね」
「え?」
「はい?」
傘を片手で持ち替えて、二人に向けて傘の先端からレーザーを放つ。
「あっぶな!?」
「わっ!!」
「あら、やるわね」
幻想郷最速と名高い文は兎も角、そこら辺にいる雑魚妖怪と見縊っていた柊が回避したのに、幽香は一瞬眼を見開いた。
「なっなんで戦うんですか! 俺は話が聞きたいだけです!」
「だって貴方も其奴のお友達なんでしょ? 私の花達に傷を付けた罪は重いわよ」
「は?」
「げっ……」
文には幽香の言葉が何か心当たりがあるようで、苦笑いを浮かべた。
「ここに至るまでに速度を上げ過ぎましてね、向日葵に傷を付けたのはすみません! 謝るから許してください!」
「貴方達が同じだけ痛みを味わったら良いと言っているわ」
「俺まで巻き添え喰らっちゃったじゃないですか……」
「あはは。いやぁ〜申し訳ありません。ここは協力して風見さんをぶちのめしましょうか!」
大声で言う。それにより風見 幽香は柊を明確に敵と認識した。
「花符『幻想郷の開花』」
「王符『大空を統べる王』!」
「風符『風神一扇』」
互いに闘いの認証を宣言した。
「所詮は霊夢さんに既に負けている妖怪です! 早いとこ蹴散らしてあげましょう!」
「貴女の翼だけは必ず捥ぎ取って揚げ物にしてから貴方の部下に食わせてあげるわ」
「こわっ!? もしかして近寄っちゃダメなタイプの妖怪でしたか!?」
幽香の背から感じるオーラには、殺意がもりもりと感じられる。どうやらさっきの文への発言は冗談で発したわけではないらしい。
「今更でしょうよ、ほら構えて構えて」
「他人事みたいな顔してるけど貴方の翼ももぎ取るから逃げちゃダメよ」
「んなっ!? なんでっ!?」
「そのザマを想像するだけでゾクゾクする……ふふ。楽しませて頂戴?」
先程のスペル宣言など梅雨知らず。幽香は傘を二人に向けた。
再び傘から放たれるレーザー。それを柊の火球が相殺した瞬間、闘いのゴングがなった。