東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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41話 増えすぎた使者と死者とギガスキャン

 花映塚異変、此度の事変は幻想郷の自然現象のようなものだ。

 

 

 何せ、この異変では異変を起こした黒幕が──存在しない。

 

 外の世界で死んだ大勢の霊。それらの大体が無縁塚に漂い、死した事実を無意識に否定する。そして不安定になった霊が花に取り憑いた所為で四季違いの花も咲く事態となった。

 

 

 もし仮に此度の異変の原因を辿るならば。

 それは行き場を失った外からの死者が増えすぎた所為なのでしょう。

 

「ってことらしいですよ。花使いの風見幽香って人が言ってました」

「ふーん、それを知る為に魔法の森で倒れてしまうほど体張ったの?」

「あははすいません、でもこれでも結構頑張ったんですよ?」

 

 現在柊は魔法の森で倒れていた所をアリスに運ばれて治療してもらっている。

 

「魔法の森で倒れてたなんて、ちょっとは危機感持った方がいいんじゃない?」

「すいません恩赦を下さい……」

「まぁ、私も以前迷惑をかけたし、これでチャラね」

 

 萃夢想の件だ。彼を異変の加害者と認識して攻撃を仕掛けたことがあった。恐らくその一件で借りを作ったと認識したのだろう。

 

「それじゃ、ありがとうございました。シャンハイもね!」

「シャンハーイ」

 

 頬の傷に絆創膏を張る上海人形。お礼を言うと嬉しそうにどこかへ飛行して行く。

 

「いいわよ別に。それよりもどうするつもり? ここからまた出向くの?」

「いや、その必要はなさそうでした。霊夢は既に全部突き止めてたみたいです」

「こういう目に見える異変の時はほんっと、動くの早いわよね。ま、霊夢らしいか」

「そうですね」

 

 恐らく霊夢はどうすれば早く異変が終わるかも分かっているだろう。いや分からずとも彼女の勘があれば答えには必ず辿り着く筈だ。

 

「それで?」

「え?」

「あの風見幽香と闘ったんでしょ。どう? 強かった?」

「ああ、そうですね、はっきり言って歯が立ちませんでした。単純な力量では紫さんより上かもしれません」

 

 自分の持てる力の全てを力で押しつぶされたあの感覚は2度と忘れないだろう。それぐらい衝撃的だった。

 

「へぇ、それに勝てたんなら貴方もう大妖怪名乗っていいんじゃない?」

「いや勝てませんでしたよ」

「あれ? そうなの? 五体満足だからてっきり……」

 

 柊は包帯を摩り、確認する。

 

「俺が死なないように手を抜いてたんだと思います。あと俺を強くする為に。多分妖怪としての全力でいうなら半分の力も出し切ってないんじゃないですかね」

「貴方を強くする為だけに弾幕ごっこを放棄して修行をつけたってこと? もしかして存外物好きなのかしら。それとも鬼みたいな戦闘狂?」

 

「さぁ。ただまぁ、いかにも幻想郷の人だなって思いましたね。あの人は本当に強かった。いろんな意味で」

 

 右手を握りしめて、今回のことは忘れない。と固く決心する。

 

「ふーん、まぁ、いってらっしゃい。困った事があったらまた来なさいな」

「今度お礼持ってきます」

「じゃあ……ってちょいストップ!」

「はい?」

 

 焦りながらかけつけるアリス。

 

「生身で外に出たら危ないから! 学びなさいよ!」

「シャンハーイ!」

 

 側で柊を眺めていた上海人形が魔力を放つと、柊は身体が軽くなったことに気付いた。

 

「おっ!?」

「全く、連れて行きなさい、森から出て行くまではね」

「アリスさん! 本当にありがとう、また宴会で!」

「ええ」

 

 上海が喉を鳴らし、柊は家を出て駆けていった。

 

「……なんか、明るくなったかしら?」

 

 

 ♢

 

 

 そして。

 ──人里に帰った時点で霊夢が異変は解決した、と宣言したという風の噂を耳にした。

 

 さらに数時間後。

 

 

 

 博麗神社

 

 

「全然解決してないんだが」

「見れば分かるわよ〜っ!!!!」

 

 両手を空に広げ、巫女の威厳を捨てる霊夢。

 

「な、なんでまだ花が散ってないのよ!? 意味わかんないってば!」

 

 事実を告げに来た柊に、霊夢はキレる。

 

「一応聞くが、何をした?」

「花の妖怪に事情を聞いたから、閻魔に会いに行ったわ。もっと霊の管理を徹底しろってね。んで適当に叩きのめしてやったけど……」

 

 お手上げか。両手を組みうな垂れる霊夢。

 

「お前まさか映姫さんに手上げたの?」

「そうよ?」

「すごいなお前。相手閻魔だぞ」

「異変起こしてるやつなんだししょうがないでしょ」

「そもそも考えてみろ霊夢。今季の花の量が増えただけでなく、四季違いの花すら咲いてしまうくらい霊が出てるんなら数時間程度で解決するとは思えないぞ」

「あ〜そういえば、あの時は忙しいから後にしてくれって言われてたのよね……」

「理由は聞いたか?」

「勿論。『外からの霊が出たこのタイミングで霊を斬り無理やり成仏させる愚か者に説法がいる』って言ってたわ」

 

 それとなく予想がつく柊だったがさりげなく話を変えた。

 

「それで?」

「そんなの知ったことないからって言ってぶっ飛ばしてやったわ」

「何やってんだ」

「いや、だって私の面子を保つのが最優先事項でしょ」

 

 この奔放な精神こそが霊夢たらしめてきるのだ。柊は幽香の言っていたことに深く心染み込ませる。

 

「そりゃ図太い精神してるわな」

「あん?」

「ごめん忘れて」

「それじゃ行くわよ。私に任せてついて来なさい」

「え?」

「え、じゃない! もう一度懲らしめて分らせてやるのよ!」

 

 柊の首根っこを掴み、浮く。これで柊は最早従わざるを得ない。

 

「逆らったら落とすわよ」

「おまっ……ああ、うん、いや良いよついてくよ」

 

 別にタジャドルコンボで霊夢に反骨精神を見せてもいいのだが、互いにとって無駄な時間でしかないだろう。

 

 柊は大人しく霊夢に運ばれて行った。

 

 

「なんで俺まで……」

「味方は一人でも多い方がいいでしょ」

「え?」

「ん?」

 

 柊は霊夢の言葉に反応する。

 

「あ、いや」

「?」

「な……なんもない」

 

 不意のことだった。

 

 特段変なことではないのだが、なんの気なしに霊夢に仲間だと言われたことが、嬉しかった。

 

「何よ急に汐らしくなって」

「いや……別に、なんだかな……調子が狂うな」

 

 霊夢がそんなこと言うなんて何かあったのか? いや違う、正確には、柊が変わりつつある。

 

 以前のままなら動じることなどない筈の発言に狼狽えてしまうほど、今の彼はこの世界に馴染んでしまっていた。

 

「ご、ゴホン……えー、と霊夢。今更なんだが行く宛はあるのか?」

「あるわ、というかあいつらがいる所なんて大体決まってるでしょ」

「まぁな」

 

 

 死神閻魔が必要な場所。そう、それは中有の道の最果て。三途の川。

 

 ──なのだが。

 

 

 ♢

 

 

「何あれ……」

「う〜ん……説法中って感じ?」

 

 問答無用と言わんばかりに声を張り上げて説法している者がいる。そして、それを気まずそうに聞く死神も。

 

 

「小町。今はこれまでの行いには目を瞑りましょう。ですが、それを差し引いても余りある愚行。外の世界からの霊も増えて尚更意気込んで行動しなければならないこの時期に事もあろうに、貴女──寝ていましたね? そんな恐ろしい事を容赦なく行える死神なぞ貴女だけです。もしかしてクビを切られたくてやっているの?」

 

「いやほんとにごめんなさい、返す言葉も……」

 

「何度も口説く言うけれど、私達は生前の罪を裁く者。罪を裁く者は常に公明正大に身を正していなければならない。……一度貴女は裁いた方が良いのかもしれないわね、そうすれば少しは反省するでしょう」

 

「いっいや、ごめんなさい! すいませんでした! ちゃんとしますからっ!!」

 

 必死の叫び、そして頭をなんども地面につけているその様子は明らかにこなれている。

 

「あー霊夢あれ12時間コースだから早く止めとけ」

「了解。ねえ! ちょっといいかしら?」

「……!」

 

 パァッと眼を輝かせる小町。

 

「博麗の巫女。こんな所まで何の用件ですか」

「もうすぐ元どおりになるって言った癖に全く持って解決してないから直接言いに来たのよ。今度こそ正面切って相手して貰うわ」

「ふむ。つまりは──」

「あんたらが早くこの事態を終わらせるように忠告しに来たのよ」

 

 死神が総動員して霊を運び続ける。そうすれば確実に異変が終りを迎える刻が縮まる。

 逆を言えばそれしか方法がない。

 

 

「私じゃどうにもならないからあんたらに何とかして貰わなきゃ困るのよ」

「こればかりはどうにもなりま──」

「うるさい」

 

 淡々と、朝起きておはようと言うくらい自然に言った。

 

「異変を放っておくと困るの、つべこべ言わずにあんたらを倒せば元どおりになるんでしょ?」

 

 霊夢が映姫の口を遮ったその瞬間。この場の誰もが重苦しい雰囲気に変わったと、察知していた。

 

 

「──貴女は大した理由もなく大勢の妖怪を退治して来た」

 

 明らかに格が違う。人間や妖怪とは次元が違う。不自然な言葉の圧がそこにあった。

 

「妖怪では無い者を退治した事も少なくない。更に巫女なのに神と交流せず、時には牙をむくことすらある」

 

 黒か白かを見定める。その瞳にはそれ以上の意思は伴っていないように見えた。

 

「そう、貴女は少し業が深すぎる」

「ん……」

 

「このままでは死んでも地獄にすら行けない」

「仕方ないじゃない、妖怪退治は私の仕事なのよ」

 

 悔悟の棒で口元を隠し、霊夢を曇なき眼でとらえた。

 

「泥棒や人殺し、戦争すらもそれが仕事の人がいる。仕事だから、というのは罪の免罪符にはならないのよ」

 

「……」

 

 しかし霊夢もまた、映姫に対しての気迫は負けていなかった。

 

「少しでも罪を減らす為に、これから善行を積む必要がある」

「──博麗の巫女。そこに事の善悪はなし、其人はただ調停を担うのみ……よく紫から聞かされるわ」

「賢者からのお達しがあれば何をしてもいいと思っているの?」

 

 映姫の基準でいうなれば、博麗の巫女という仕事には人助けという善も人殺しという悪もない。

 

 ただ、調停を担うのみ。

 

「善悪の指標がなければそこに罪はないとでも?」

「それはあんたの価値観でしょ、私は私の思うように飛ぶ。ただそれだけよ」

 

 誰に指図されようと折れる事はない。

 

「私は異変解決の専門家、異変解決の行いで善行も悪行もない。異変を起こす役目の黒幕がいれば異変を終わらせる役目を担うのが私である、ただそれだけ」

「……なるほど一理ある。ただし私一個人としては異変が無ければ暇を潰して過ごすような惰性を貪る日々は治すべきだと思いますが」

「うぐ」

 

 霊夢はわざとらしく口角を吊り上げた。図星だった。

 

「あれでは貴方の神社に纏わる神が可哀想だとは思わない?」

「確かに」

「あら、柊も一緒でしたか」

 

 柊は横から、映姫の言葉に頷く。

 

「なんであんたが納得すんのよ!?」

「だってお前博麗神社の神さまが何の神さまなのかすら知らないんだろ、普通に可哀想じゃん」

「う……まぁ、それは悪かったわ、善処しまーす」

「……まぁ良い」

 

 映姫は視線を霊夢から柊へと変えた。

 

「久しぶりね、柊」

「ええ、どうも久方ぶりです映姫さん」

「随分と変わりましたね。良くも悪くも」

「そうですかね? ……そうかも?」

 

 調子の良い声を張る柊に映姫は淡々と述べる。

 

「それでも敢えて聞きましょう。幻想郷には慣れましたか?」

「……」

 

 先程の声色や朗らかな表情を浮かべていた人間とは思えないくらい、真剣な眼差しを柊は映姫に向ける。そして柊の口から答えが出るのを映姫も大人しく待ち続けた。

 

「んー、ついさっきようやく馴染めた気がする……かなぁ」

「ふ、相変わらず独特ですね。ついさっきですか」

 

 手で口を押さえ映姫は上品に笑う。

 

「いやーあはは、さっきしこたま教えられまして」

 

「何でもかんでも鵜呑みにしてしまうのは貴方の悪い所です。以前も言いましたね?」

「あ、はい……いや、でもほんとに」

「いやじゃない」

「は、はい!」

 

 柊は自然の流れで脚を折り畳み座り始めた。そして映姫も近づき、説法を始めた。横でドン引きする霊夢を尻目に。

 

「前の様に誰かに助けて欲しそうな雰囲気を出さなくなったのは良い事です。あれから色々と善行を積み重ねてきたのでしょう」

「は、はい! あ、えとそこまで気にして行動してませんでしたけど……」

「……はぁ」

 

 映姫の右手に持つ悔悟の棒と呼ばれる笏で柊の頭を軽く打つ。

 

「いてっ」

「意思無き善行に意味は然程なく、互いの助け合いこそが身を結ぶのです」

「む、難しいです……」

「ありがとうとどういたしましては大切なこと、という事です」

「あ、それならなんとなくわかるかも」

「ええ、ちゃんと心がけてね?」

 

 最早世間話に至ろうとしている自分の上司を止めようと小町が割って入る。

 

「あのー四季様〜、お話も良いんですけど横の巫女がですねぇ」

「宴会で続きはしなさい」

 

 顔を見ずとも、霊夢が雰囲気から怒っていることが、柊と映姫には容易に伝わった。流石にまずいと思ったか、映姫は咳払いし。

 

「ゴホン……では、改めて」

「ようやくかしら。全く貴方達の話は長くて──」

 

 霊夢の背後から、小町が鎌を振るう。

 

「……これくらい突拍子がない方が話が早くて助かるわ」

 

 小町の不意打ちに動揺することもなく、滑らかにしゃがみ鎌を避けた。

 

「はは、そりゃどうも!」

 

 霊夢と小町は互いに場を離れ、弾幕ごっこを始める。

 

「……客に対しての振る舞いとしてはあまりに不遜。どうかご容赦を」

「いや別に気にしてないんで」

「あれから、何か進展はありましたか? 一人でも幸せに出来た?」

 

 柊は真剣な面持ちで右手のメダルを見つめる。

 

 きっと多くの困難があったのだろう。此度会った時から以前とは別人のような瞳の輝きをしていた。

 少し色が濃ゆくなって、大人になってしまった眼。

 

「分かりません。幸せかどうかを決めるのは俺じゃないし。でも、やれることはやってるつもりです」

「それが聞けただけでこちらも十分です」

 

 人が一枚岩では生きていないと、とっくに彼は気付いている。果たして、それでもまだ昔と同じようになんの曇りもなく人を助けたいと思えているのだろうか。

 

「きつい事、結構ありましたけど……まぁ、こうして今生きていられてるってことは少しくらいは成長した……のかな」

「自分の事についての進展は? どう?」

「えっと……」

 

 柊は困り顔で後頭部を掻く。──やはりあまり進展を示していないのだろうか。

 映姫の抱くそんな思考は、杞憂に終える。

 

「やはり、難しいですか」

「いや、やらなきゃいけない事はできました」

「……え?」

「それは人助けとかそういう誰かの役に立てるような事じゃないけど、俺がしなきゃいけない事なんだっていうのは、肌でわかるんです」

 

 ではなぜ困り顔だったのか? 目的がなかったからではない、それが人の役に立たない事だからではない。映姫は、納得してしまう。

 

「……なるほど、それを知れば」

「ええ、俺はきっと俺じゃいられなくなる。今まで出来てた見ないフリも出来なくなる」

 

 ──感覚で分かる。自分の内側にある空洞。それが満たされれば確実に今の自分のままではいられなくなる。

 

「良し悪しは分からないけど……自分の中の大切な何かはきっと変わってしまう」

 

 ──それでも。

 

「でも、俺は調べますけどね。もう決めたんで」

「……そう、もう止まる気はないのね」

 

 彼は静かに頷く。

 

「あの時、俺が魂だけの時。……あの時は皆んなが笑ってるだけで、嬉しかったんだ。それは本当。今でも皆んなが笑ってくれたら俺も楽しいし嬉しい。けど、世界はそれだけじゃ回らない。俺は、俺自身と向き合う為に、あのどうしようもなくバカで、自暴自棄だった俺を捨てたくないから」

 

 もう、今までのような綺麗事だけを見ていた姿はどこにもない。

 

「自棄になってた俺も、周りが楽しいと自分も楽しくなれる俺も、今ここにいる俺も、全部大切な俺の本音なんだ。嬉しいも悲しいも、あの時の自棄も……でも、だからこそやっぱり俺は楽しいと思える人生を目指す。その為に、多少の苦しいは受け入れてみせる。もうそんな簡単には折れないさ」

 

 映姫は嬉しそうに頷いた。

 

「正直に言って、驚いています。貴方が自分の為に動いている事に、そしてその成長に悲しくとも、嬉しくとも思う。なればこそ」

 

 少女は立ち上がり気配を慌ただしくさせた。

 

「今日の程は、お客として存分に相手しましょう。お話は宴会で」

「ええ、俺の相手は後ろの彼女ですね?」

 

 映姫が目を逸らした一瞬で、スキャンを済ませていた。

 

「全力でかかってきなさい、今代の巫女の全霊、我が閻魔の力を持って計りしんぜよう!!」

 

 激励を飛ばす映姫の背から飛び上がるように飛び出す小町。

 そのまま飛行し柊に鎌を向けた。

 

「はっ、霊夢もあんたも……ここに来るだけのことはある!」

 

 ──サイ! ──クジャク! ──チーター! 

 

「どう……もっ!」

 

 タジャスピナーで鎌をガードする。そのまま腕を振り回して、小町を下がらせた。

 

「霊夢!」

「そっちの閻魔はあんたじゃきつい。私に任せなさい」

 

 霊夢はタタン、と軽快な音で岩を飛び、映姫に札を投げつける。

 

「あたい舐められてる!?」

「そういう話じゃないのは分かってるでしょ」

「まぁねぃ」

 

 霊夢はお祓い棒で鎌の刃先を押さえながら、柊の襟、もといオーズの首を引っ張る。

 

「だから、あの根明死神はあんたに任せた」

「りょーかい!」

 

 火球を横に放ち煙幕の様にして小町を威嚇する。

 

「ひいぃ! あっちぃ!!」

「死神でも熱いのか」

「熱いもんはあっついよ! ……ってなもんで」

 

 瞬時に気配が戦闘モードに切り替わる小町の不敵さを、柊は見逃していなかった。

 

 ──サイ! ──ウナギ! ──チーター! 

 

「せいっ!」

 

 鎌の一振りで炎を蹴散らす。だが柊は振り払った後の一瞬の隙を突く。

 

「唸れ!」

「あっ!」

 

 鎌を握る手、その手首をウナギの鞭で縛り付ける。

 

「……ふっ」

 

 口を釣り上げ小町は鎌を左に振るった。すると、柊が掴んでいたはずの鎌はするりと鞭を透けていく。

 

 

「へへっあのとき以来だね、こうして面と向かって話すのは」

「ああ、元気してたか……って死神に言うのはおかしいか?」

「知らんよ死神に常識を問われても。ま、元気してたけどね」

「そりゃよかった」

 

 互いの顔を見て笑い合う。久しぶりに会えた友達なのだ、仮に敵同士でもそうなるのは仕方なし。

 

「んーまぁ今回は敵同士だけどさ、終わったら宴会するんだろ? 私が来ても良いかな?」

「ああ、来いよ、閻魔様ご一行」

 

「へへっだってさ、四季様」

 

 霊夢のお札をひらりと避けながら、小町に語りかけるほどの余裕を見せる映姫。

 

「そちらは任せるわよ小町。いくら相手が彼でも手を抜いたら……分かってるわね?」

「あーい、そんな無礼はしませんよ。流石の私もね」

 

「柊! 危なくなったら逃げるなりなんなりしなさい今回はまぁ大丈夫だと思うけど万が一」

「要らない心配だよ、なんならそっちの映姫さん共々俺が倒そうか?」

「冗談!」

 

 霊夢の方へと身体を向ける柊に鎌をあてがう。

 

「けっ……ファッション鎌じゃねえのかよそれ!」

「ファッション兼護身用さ!」

「ラトラータ!」

 

 柊は即座にラトラータコンボに変身。そのまま高速で、小町が鎌を振り切る前動作のタイミングで鎌にトラクローを引っ掛けた。

 

「うおわっ!? はっや!!?」

「1発でおしま……ありっ!?」

 

 もう片方の手で拳を喰らわせる手筈だったが、またも小町は避けた。まるで周りには何も障害などないかのように。

 

「ざんねーん、これぐらいじゃやられてやんねー……よっ!」

「ははは! こっちが一本取られたか! 流石に死神だなぁ!」

「元気だなぁ。ま、いいことさね!」

「違いない! シャウタ!!」

 

 水棲を司る王の力。

 

「そりやぁ!!」

 

 シャチヘッドの水流で小町を狙う。

 

「わっ」

 

 足場を失い体勢を崩した小町を、水化した身体で押し飛ばす。

 

「流されるっ!!」

「まだまだ!!」

 

 背後から急に肉体を戻し、そのまま脚をドリルへと変化させ背中目掛けて加速した。

 

「今度こそ!」

 

 小町に水圧を浴びせる間に両鞭で確実に鎌を掴み、過剰な程丁寧に鎌を奪い取る。

 

「うげっ……しゃあないなぁ」

「お!?」

「ほいほいっと」

 

 鎌を手放したはずの左手に、鎌自ら近づくように小町の手に戻された。

 

「あれ〜?」

「うん、まだまだ新米異変解決人ってとこかな」

「ずっずるいぞ! 間違いなく掴んだのに!」

「にししし」

「まぁ船頭なんてやってる死神だから能力自体は大体推測出来るけどな」

 

 大方、死神特有のどんな所までも追いかける、というやつだろう。もしくはそれに近い性質を持っているのだろうが。

 

「ほぉ? じゃあどうやって対策するんだい?」

「う、うーん……どうにかするさ」

「あっはっは! こいつは面白い! 策は特にないときた!」

「笑ってんなよ……? 次は奪ってやるよ」

「かーかっかっか!! やってみなよ、ほらほら!」

 

 器用に持ち手の先端を小指で回転させ、ジャグリングのようにして見せる。

 

「そら」

「あ」

 

 だが当然タネも仕掛けもないので、容易に取られる。

 

「ったくそんなズボラなくせしてよく死神勤まるよ。…いや務まらないからクビにされかけてんのか。死神向いてないんじゃねーか?」

「ふっ、そんな褒めても何も出ないよ」

「褒めてはねーよ」

「褒め言葉だよ、死神に向いてないってのはな」

「いや、ああなんか、ごめん」

「いや謝らなくていいけどさ、これは返して貰うよ」

「……!? また、ああもう!」

 

 柊は子供のように足を地面に踏んづけて、苛立ちを露わにする。

 

「ズボラでも案外なんとかなるだろ?」

「……その能力ずるいぞ」

「だから多用は避けてるだろ」

「避けてねーよ!」

「そうか? まぁ今回は四季様から許可降りてるから……さ!」

「ちっ! タカキリーター!」

 

 小町の振るう鎌を避ける為に、高速で脚を後ろに蹴り続ける。小町も次いで鎌を降り続けるのでこちらも両手のカマキリソードで防ぐ。

 

「あーあ、弾幕ごっこ中だってのに気が抜けちまった」

「……へ?」

「お前さんは本当、変わらんな。今日も今日とてここまで来てさ。どうせまた人助けの為だろ?」

「いや今日は霊夢に無理矢理連れられてきたんだ」

「あっはっは! それでここまできてるってんだから、やっぱお前さんは筋金入りだよな。連れられたからって普通来ないだろ、こんなとこまで」

 

 互いにハイレベルな攻防を交わりつつ、口ずさむ。

 

「死神なんてのはさ。それこそが存在理由ではあるが、大体のやつに疎まれて望まれない仕事だ」

「お、おう」

 

 喋りながらなお、二人は殺陣を継続する。

 

「今日は会えて良かったよ、これなら異変を起こすのもやぶさかじゃないってなもんだ」

「いや普通に会いに来てくれ」

 

 困惑する柊に笑いかける小町。彼は暫くすると、素朴に笑って。

 

「まぁ死神がどうとかは抜きにしても」

「……おん?」

「小町はいい奴だよ」

 

 辺りに生まれたクレーターや煙を差し置いて、一瞬二人の間に静寂が出来た。

 

「……?」

「ハッハッハ!!」

 

 急に大笑いする彼女は、鎌を地面に立て置いた。

 

「あんたのそういう所、ほんっと私大好きだよ」

「は? どこが? なんかそう思われるようなこと言ったか?」

「死神相手に、本気でそう思ってるところさ!」

 

 小町は脚を思い切り前に踏み出して鎌を用いて空気を勢いよく切り裂き、啖呵を掲げた。

 

「『死神 ヒガンルトゥール』!!」

 

「スペル……!」

 

 切り裂いた空気は淀み、円盤状の斬撃となって柊へと襲い掛かる。

 

 ──サイ! ──ウナギ! ──バッタ! 

 

 ウナギウィップで円盤型弾幕を弾けるだけ弾く。しかし、取り残した分は。

 

「ふんっ!!」

「おおっ!?」

 

 サイヘッドの頭突きで対抗する。

 

「いちちちち……!」

「いいねぇ、その愚直さ!」

 

 頭を抑えて座り込む柊。しかし死神は鎌を振ることは止まず、絶えず弾幕を放つ。

 

「──今だっ!!」

 

 バッタレッグの跳躍。弾幕を全て避けられるだけの高さまで飛び、ウナギウィップを小町の足首へと這わせた。

 

「(よしっ!!)」

 

 彼の視界の中心にいた筈の小町は、棒立ちのまま彼から見て少し右にズレていた。

 

「! 移動したのは俺か!」

「知ってどうにかなるのかい?」

 

 勝ち目の薄い事実を把握した事による悔しさと風見幽香の激励による昂りが相まって、彼は今人生で一番感情を露わにしていた。

 

「え」

 

 小町も一瞬呆気をとられる程、今の彼には気取られた。

 

 ──笑、ってる? 

 

 仮面をしているから、直接は分からない。けど確実に、そのマスクの奥で彼は、笑っていた。

 

「──は、いや、やっぱり変わったよあんた!!」

「いや、あの時が落ち込んでいただけさ」

 

 小町は再度弾幕を放ち、様子を見る。

 

「タカ、クジャク、コンドル……!」

 

 弾幕の衝撃と共に煙幕が起き、柊の状態を視認できない。

 それもほんの少しの間だ。煙が払うまで待って──。

 

「なんだ……!?」

 

 それは、全てを焼く王。

 

 ──タ〜ジャ〜ドルゥ〜〜! 

 

 

「──はぁぁ……うおりゃあっ!!」

 

 煙幕を潜るように大火球が舞う。

 

「っとぉ!!」

 

 縦に一振り。火球は綺麗な切れ目を作り、二つに割れてから小町を素通りしていく。

 

「へへ……っあっちちち!!」

 

 だが、あまりの熱量で掠るだけで小町の服の端に引火してしまった。

 

「ふーっ! ふーっ!!」

「りゃ!」

 

 猶予なく迫る柊の蹴りを鎌で振り払う。

 

 弾かれた柊には隙が生まれる。そしてその隙を狙われない筈はない。

 

「そりゃ!!」

 

 超大型弾幕をまともに受けた柊は吹き飛ばされる。

 

「ぐあっ……!」

 

 先程までとは動きのキレが違う。自分の力量を測っている段階だったのだ。

 

 鎌の取っ手の部分を振り回して、強打する。そして、鎌による斬撃が柊の身体を切り裂く。

 柊はその威力にたじろいで地面へと落下した。

 

 

「そろそろ時間みたいだな?」

「ハァ……ハァ……」

 

 肩で息し始める柊は、頬に一筋の汗を流す。

 

「つ、強いな小町」

「あんた倒して、四季様に早いとこ加勢しようかね」

 

 朝飯前と言わんばかりに口笛を吹きながら、歩き始める。

 

 身体の痛みに苦しみながらも、足に力を入れて立ち上がろうとする。

 

「観念したか?」

「いいや、お前がどんなに強くても俺は諦めない……もう、教えてもらったからな」

 

 歯を食いしばり、無理やりに立ち上がる。

 

「必死になってもがくことだけが、俺に出来る唯一の闘い方だってな!!!!」

「……お!?」

「── !?」

 

 強く念じた瞬間彼に異変が起きる、いや正確に言えば彼の左手に。

 

「た、タジャスピナーが……光って……!?」

 

 クジャクメダルの秘めたる力。タジャスピナー。メダルを装填することによって力を増幅させる事が出来る代物だが、以前の彼には使うことが出来なかった。

 

 いざスキャンしても、反応がなかったのだ。だが今、それは解放された。

 

「俺の力を、コアが認めてくれたのか?」

 

 颯爽と小町へ振り返り、左手に力を込める。

 

「んじゃ、その力……魅せてみな!!」

「はっ!!」

 

 突如として、火球を放つ。小町はひらりと躱して地に足をつける。

 

 

「完全に回避してこの熱さ、参るねぇさっきよりも火力上がってるじゃないか」

 

 柊の意思に比例して熱さも増している。

 

「本場の火力はそんなもんじゃねえ!」

「……っちちち……おん?」

 

 ベルトから取り出した三枚のメダル。タカ、クジャク、コンドル。

 それらが展開されたタジャスピナーに挿入された。

 

「今の俺にならこれだって出来るはずだ!」

 

 柊が理解してそれを言っていたのか、はたまた感覚で喋っていたのかは分からない。だが、

 

「はぁぁぁ……」

 

 オーズの力は確実に彼の味方をしていた。

 

 ──《タカ》! ──《クジャク》! ──《コンドル》! 

 

 ──《Gin》!! ──《Gin》!! ──《Gin》!! 

 

 

 ──《Giga Scan》!! 

 

 

 

「な、なんかやばそう……」

 

 鎌を握る小町の手にも思わず力が入る。そして、ほんの一瞬の無音の後に火花が散った。

 

「セイヤ──!!」

「……んんん……せ──いっ!!」

 

 小町は再び火球向けて鎌を振るう。そしてそこには、死神としての本気が見られた。

 

 それは死神気質の、透き通るような殺意。

 

「受け止め……っ!? マジか!?」

 

 まさか真っ向から受けるなどとは。柊が手を咄嗟に前に出すが、すでに遅い。小町が動かなければ既に当たっている距離だ。

 

 超火力による余波で小町の姿が見えない。汗をかいて柊は焦り始める。

 

「ゲホッゴホッ……あー負け負け! あんなの咄嗟にやられちゃ一溜りもないわ」

 

 鎌を落とし、黒焦げになった小町が見えた。

 

「ビックリした……一瞬鎌で振りかぶった様に見えたから焦ったぞ。能力使ったのか?」

「あー、うんまぁ。けど逃げる為に咄嗟に能力使わされたんだ、正真正銘私の負けだよ」

 

 ヘタリ、と弱々しく地面に座り込む小町。

 

「そうか……ぐ!」

 

 コンボの負荷に耐えられず柊もたまらず倒れ込む。

 

「ゴホッ……いてて」

「お前さんも大概だなぁ。身体に鞭打つのは程々にしときなよ。早死にするぞ」

 

 節々の痛みを抑えながら、視線だけを小町に送る。

 

「お前さんが死ぬのを見るのは気分が悪い」

「真顔でよく言えるな、恥ずかしくないのか」

「恥ずかしくても言っといたほうが良いと思って」

「……?」

 

「あたいがあれだけ喋っても変わらなかったのに、暫く見ない内に随分変わってたからさ。思ってることは言えるうちに言っとかなきゃな。変わり切っちまう前に」

「……」

 

 小町はほんのりと頬を赤らめて、意地が悪そうにしている。

 

「あたいは力になれたのか?」

「……あの後、生き返ってすぐ、また戦う羽目になったんだけどさ」

 

 柊はメダルを、石畳に乗せた。

 

「犠牲を出して……ああ、いや、それは正しくないな……」

 

 眼を瞑り、一呼吸おいてからまた口を開いた。

 

「……助けを求めてた人達を助けられなかった。そして助けられたかもしれない人を今度こそ俺のドジで死なせた。俺の所為ってやつだ。思い込みとかじゃない、自棄でもなく、本当に俺に力があれば助けられた筈だった。……けど」

 

 目を閉じるための筋肉に、一層力が入る。

 

「俺はまた助けられなかった」

 

 堅く閉じた瞳を、少しずつ開け始める。現実を、事実を見据えるように。

 

「…….俺は幻想郷に来た時から、ずっと自暴自棄になってたんだ。俺の身を捨てて何か出来るならそれで良い、俺が犠牲になりたいって」

 

 最初の出会いを思い出す。魔理沙と、霊夢に出会った事。

 

「二回目も助けられなくて、あの時は正直心が折れてたな。いや、割と最近までそうだったかもしれない」

 

 脳は停止し、ただ涙だけが溢れ出る。あの残酷な感覚。もしあの時に柊太郎や仲間が居なければ柊は今こうしていられなかっただろうという確信がある。

 

「でも今日ある人に出会えて、ようやく変な呪いみたいなのが解けた気がするんだ。良い人だった」

 

 小町は、少し寂しそうに目を下げる。なぜなら、自分は柊に対して何もしてあげられていない、と思っていたから。

 

「でもそう思えたのもきっと今までの積み重ねがあるからなんだ、俺は小町や映姫さん、他にも沢山いるけど、皆んなの言葉を忘れた事なんてない、どころかそれが頼りになってたんだ」

 

 少しだけ、小町の目蓋が開いた。

 

「皆んなの言葉が俺を支えて、今の今まで生かしてくれた。だからこれからも俺はそうやって甘んじて、支えられながら生きていく」

 

 少し不格好だけどな。柊はそう笑って。

 

「小町がどう思ってるかは兎も角。お前と映姫さんに会えなかったら俺はきっと立ち直れてなかったよ」

「……そっか」

「お前の言葉は俺の力になってくれてる、だからありがとな、小町」

「うん。こっちこそ、な」

 

 小町は膝に手を突きながら恥ずかしそうに笑みをこぼしていた。それが意味するものが何か柊は、分からないままだったが。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「ハッ……ハッ……どんなもんよ!」

「私の負け、ですか」

 

 霊夢は映姫にむけて息を吐きながら、高らかに叫ぶ。

 

「小町達も、終わった様ですし今日はこの辺りでお開きにしましょう」

「そ、なら異変があらかた片付いたらまた来るわね」

 

 ただ青く染まる空。その地に閻魔は笑って寝そべった。

 

「そうしてくれると助かります。……私たちもすぐに取りかかりますから」

「それじゃあね」

「あ、一つだけいいですか?」

 

 ふわりと浮き背を向ける霊夢に対して、発言した。

 

「さっきあっちの二人の会話で聞こえた事も聞きたいことあるでしょうし、宴会の時は是非呼んで下さい」

「……そうね」

 

 

 ♢

 

 

「……お、来たか終わったようだね」

「んあ?」

 

 石同士がぶつかり、ジャリジャリと音が鳴る方を向いた。

 

「霊夢!」

「ええ、帰るわよ」

 

 ほら早く立ちなさいよ、そう言って柊の腕を引き上げた。

 

「それじゃ宴会でまた会おうぜ、小町」

「ああ、ちゃんと呼んでくれよ? じゃなきゃ拗ねてやるからな」

「当たり前だろ?」

「へへっ……またな」

「ああ、また」

 

 気怠そうに霊夢に運ばれていく柊を、小町は寝そべりながら見送った。

 

 

 ♢

 

 

「今回も大活躍だったな、霊夢。結局対して手伝ってやれなくて悪い」

「そうでもないわ。あいつら二人相手は荷が重かったし。こっちこそ悪かったわね巻き込んじゃって」

「いやいや大丈夫、だってほら、今回割と怪我も少なかったしさ!」

 

 不恰好に霊夢に抱き抱えられながら博麗神社へと帰る。その道の途中だった。

 

「……確かに。あんたも捜索してたのよね?」

「おう。初めてかもな、最初から最後まで意識があるまま立ち会ったの」

 

 それを聞いて霊夢は笑った。

 

「あんたも少しは頼りになってきたじゃない。これでちょっとは肩荷が降りるってなもんよ」

「だろ? って今までは荷物扱いかよ」

「そこはそれ。これから精進なさい」

「へいへい」

 

 もうすっかり夜明けだ。遠目で見える博麗神社の後ろの山から光が刺している。

 

「なぁ霊夢」

「ん?」

「不謹慎かもしれないけど、俺今回凄い楽しかったよ」

「そ。良かったじゃない私もこうしてあとぐされなく帰れるのは少し楽しいわ」

「へへ、また今度異変があったら、頑張ろうな」

「ええ、お互いにね」

 

 二人して微笑みながら、博麗神社へと帰って行った。

 

 

 ♢ 

 

 

「小町、お疲れ様でした」

「……四季様も、お疲れ様です」

 

 木を背もたれにして、寝かかる小町の眼前に映姫が話しかける。

 

「……あ、そっか」

 

 負けたのだから、クビか。柊との戦いに浮かれすぎて忘れていた。

 

「帰りますよ」

「え?」

「? またサボる気だったの?」

「いやでも、クビなんじゃ……」

 

 映姫は首を傾けて、言う。

 

「クビにされたいの?」

「そんな滅相もない! でも、な、なんで」

「偶然が重なったとは言え、まぁ今回は良く働いてくれましたから、普段から働き続けると約束するなら今回はそれで良しとします」

「は、はい! 誓います! 誓います誓います!!」

 

 勢いに任せて肯定する小町を見て、映姫は苦笑いをしながら溜息をつく。

 

 風に揺られて木の葉が舞う。そしてこの木を見るのももうお終い。

 

 

「ふふ、成長してたわね」

「え? ああ、確かに。より人間らしさが増してましたねぇ、いい傾向だと思います?」

「……ノーコメント。しかしまぁ、仮に何かあっても博麗の巫女が止めるだろうという事は確信しました」

 

 よいしょ、と少しだけ勢いつけて小町の横にダイブする。

 

「ああっ!? 四季様!!?」

「ふー……こうして見ると壮観ねぇ……綺麗だわ」 

 

 風に煽られて気持ちよさそうに、映姫は目を瞑る。

 

「こう気持ちが良いと、貴方がサボりたがる気持ちは分かるわ」

「えへへ、今度もっと寝やすい所も、四季様が良ければ案内しますよ」

「仕事をちゃんとしたらね?」

 

 少しの静寂があって、四季は口を開いた。

 

「……随分と強くなってたわね」

「ああ、私もやられちゃうくらいには強くなってましたね」

「力もそうですが……心も。……そう……彼は少し、看過されやす過ぎる」

 

 四季の険しい表情を見て、思わず小町は尋ねた。

 

「あの子は……黒ですか?」

「……ええ、そうね、今の彼は黒だわ」

「……」

「──でも」

 

両の手を地面に広げながら、四季は笑って答えた。

 

「彼の周りの人間達がきっと彼を白に塗り替えてくれるでしょう。なんの問題もありません」

「──」

「? どうしたのよ、そんなキョトンとして」

「はは、いや。四季様がそんなことを仰るとは」

「……そうですね、人とは本当に難しい生き物だ」

 

 今は亡き人の欲望、希望、願望、それらが今散り落ちていく一枚一枚の花びらに込められているのだ。

 別に憐憫も同情もない。だが、それでも平穏であって欲しいとは願っている。

 

 

 その花びら達は祈るように、そして幻想郷を変えていた彩り取りの花も散り終えたという。

 

 

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