東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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6話 ナイフと鬼と蛇

「フッ!」

「こんなもの!」

 

 ナイフの投擲。それに対し霊力を纏わせたお祓い棒で振り払う。 

 

 霊夢咲夜ともに、互いに膠着を解かず、様子を見る。

 

「アンタ、見てなかった? さっきの男が担いでた奴」

「それが?」

 

「それがっ……てアンタ等のお仲間さんじゃない。柊に投げたナイフ、あのままだったら門番にも当たってたわよ」

「美鈴は妖怪、別にナイフが刺さったとしても死にはしないわ。あそこで死ぬ可能性があったのはあの男だけ」

 

 咲夜の言葉に対し、霊夢が反論する。

 

「そんなことわかってんのよ。たださぁ、あんた自身それをして心が傷んだりとかないわけ?」

「あるわけないでしょう。寝言でも言ってるの?」

「……まぁ、そういう対応が普通よね。私もそう思う。やっぱりお人好しってダメね、ちゃんと利用されてるし」

「!?」

 

 その声は咲夜の背後から聞こえる。

 

「いつの間に……」

「けど、まぁ何となくムカつくからあんたしばくわね」

 

 思い切りお祓い棒を後ろに引く。完全に仕留める為の予備動作。

 

「お終い、あんたも寝てなさい」

「くっ……!」

「これで……!?」

 

 お祓い棒を振りかざすが、視界の先に咲夜は居ず、周りには一面ナイフが現れる。

 

「なるほどね!……っと」

 

 霊夢はジャンプし、避ける。

 

「今のがアンタの能力ね。確かに瞬間移動に近いわ」

 

 と、言いつつも霊夢に余裕はないようだ。

 すると、どこからともなく現れる無数のナイフ。

 

「きっつ……!」

 

 身の回りに陰陽玉を展開させナイフを防ぐ。

 

「……ふぅ」

「これじゃお嬢様に辿り着く前に終わりかしら。……博麗の巫女もこんなものね」

「口説いわよ。そうやって見下すのやめてもらえるかしら」

「貴方はナイフ全てをかわして私を殴れるのかしら?」

「余裕なんですけど? 貴方の相手なんてご飯食べながらでも出来るわ」

 

 咲夜の持つナイフの量に気づき、内心焦りを感じながらも、煽る霊夢。それに少しイラつきを見せる咲夜。

 

「……口だけは達者ね」

 

「良いからやってみなさいよ、すぐにその鼻先へし折ってやる」

「そう……」

 

 咲夜は、時計を握った右手を空に掲げ、言う。

 

「奇術『ミスディレクション』」

 

「──!」

 

 霊夢が気づかぬ間に、全方位からのナイフが飛ぶ。咲夜の怒りを体現するように。

 

「ちっ!」

 

 一番ナイフの密度が薄い場を的確に見抜き、お祓い棒を振りかざして逃げ場を作る。

 

 ──いつもいつも気づいたら周りにナイフが展開されてる……これが何かが分からなきゃ話にならないわ。

 

 咲夜の言葉と柊の言葉を思い出し、推測する。

 

『瞬間移動かなにかか?』

 

 ──瞬間移動。いや違う。瞬間移動ならばもっと認識できる筈だ。ナイフは気づかぬ間に私の前に現れていた。私の意識の外から現れたみたいに。だから瞬間移動ではない。

 

「じゃあ何かしら……ワープ?」

 

「さぁ? 空間移動かもしれませんし? もしかしたらただ身体能力がずば抜けているだけかもしれませんよ?」

 

「ただ身体能力が高いだけの人間なんて妖怪以下じゃないの。あり得ないわ」

「時間はたぁっぷりあるわ? 楽しんでいって頂戴。まあ? その前に? 貴方が死んでしまうかもしれないけど?」

 

 先の煽り返しか。精一杯のドヤ顔で霊夢を挑発する。常人なら対して効かない煽りだが霊夢には効いた、効きすぎた。

 

(絶対ボコボコにしてやる、メイド服……一層の事冥土に連れていってやろうかしら?)

 

「悩んでる? ええ、そうでしょうね、それが私の能力のアドバンテージの一つでもあるから」

「バカね、考えても分からないなら私は考えないわ」

 

 壁に一旦張り付く霊夢。

 

「ほら、止まってていいの?」

 

(いきなりナイフが現れる、あのメイドも本当に一瞬で視界から逃れるから動きが読めない……面倒臭いわね)

 

「賭けてみようかしら」

「あら? 死ぬ覚悟ができたの? 安心なさい? 華麗に綺麗に捌いてあげる」

「アンタ本当ムカつく! ってうわあっ!?」

 

 いきなり現れたナイフ。怒声で一瞬反応が遅れて焦った。

 

 その無様で愉快な姿に笑みが零れる咲夜。

 

「面白い姿を見せてくれたお礼に……さっきのお返し、してあげるわ?」

 

「.……お返し……?」

「そ、お返し」

 

「──!」

 

 ナイフがすでに全方位を囲っている。陰陽玉を使う時間もなく、お祓い棒でナイフを払って逃げる隙間もない。

 

「……!」

 

 霊夢の愕然とした表情とともに、身体に幾重ものナイフが突き刺さった。

 

 

「これで終わり、か……博麗の巫女も所詮私の能力には敵わないのね」

 

 空中で綺麗なバク宙をして、地面に華麗に着地する。

 

「さて、と。残りの侵入者を片付け……?」

 

 足を地面から離そうとした瞬間、咲夜は違和感を感じとった。

 

「……な、なにこれ!!?」

 

 光る札が咲夜の足を床に封印している。

 

「くそ……動けない……は、博麗の巫女は……!」

 

 確かにナイフが刺さっていたはずなのに。と、霊夢の方を見ると。

 

 バサッと束ねてある紙が崩れていく音と共に霊夢だったはずの体が札に変わる。

 

「──!」

「この館、暗いから分かりづらかったでしょう、主人の悪趣味さを呪いなさいね」

「これが貴方の賭けってわけね…… 」

「ええ、そして貴方の負けよ」

「……」

 

 黙って霊夢をひたすら睨む咲夜。

 

「……はっ!!」

「……そう」

 

 脚を封じられながらも残りのナイフを霊夢に差し向けた。

 

 そして次の刹那には、霊夢は咲夜の目の前にいた。先程までとは段違いな速度。

 それは最早神速と呼べるものだった。反応が追いつかない。

 

(えっ?)

 

「私の勝ち。ふふ、どう? さっきまで見下して奴に見下ろされる気分は? 愉快?」

「どの口が……!」

 

 ふわりと浮き、霊夢は地に着く咲夜を見下ろした。

 

「……」

 

「ん〜? 何かしら?? 助けて欲しいなら、まずは霧を晴らして頂戴ね〜?」

「さっき地下牢が開いた。貴方のお仲間の所為でしょうね」

 

「……?」

 

「妹様は加減を知らない、急がなければ妹様に近づいたやつは殺され──」

「分かった分かった、そこら辺は私に任せなさい」

 

 咲夜の言葉が、負け惜しみでも冗談でもない本当の心配だと、霊夢は感じたからこそ、霊夢は咲夜の頭に手を乗せて、言った。

 

「まとめて解決してみせるわ」

「……そう、やってみるがいいわ可憐な巫女さん」

「ええ任されたわ」

 

 

 そうして、巫女はその場を後にした。

 

 

 ♢

 

 

 瓦礫に埋もれた柊が這い上がる。

 

「いてて……何するんだ」

「? だってフランと遊んでくれるんでしょ?」

「……遊び!? 今のが? プロレスごっこ!?」

 

「ええ、続けましょ!」

「やだやだ死ぬ!」

 

 全力で逃げるがフランと呼称している少女の方が速度が高く、すぐさま追いつかれる。そして、勢いの乗ったままの蹴りを柊は両手で受け止めた。

 

「君もしかして捕らえられてたんじゃないの!?」

「私? 違うよ? 私は、暴れるから外に出ちゃダメなの。でもさぁ、一人くらい世話しにきてくれてもいいのにね? でも! 貴方が来てくれた! 感謝してるわ! だからアソビましょう??」

 

「そっか、こういうこともあるのか……迷わず首突っ込むのも良し悪しだな。まぁ分かったところでやめないけど」

 

 開けてしまったのが悪いといえば、それまでだが、幼い子供を見て見ぬ振りして見捨てることはない。結果論としてはパンドラの箱だが、柊自身はこれで後悔していない。自分のやった事が、間違いだとは思わない。

 

「あ、遊びはまた今度にしないか!?」

 

 それでも生きたいとは思うので、提案はする。

 

「今じゃなきゃ嫌! 今遊びたいの!」

「悪いけど今はちょっと忙しいんだ。ごめん。また今度必ず遊ぶからダメかな?」

 

 

「今度っていつよ、絶対嘘じゃん」

「嘘じゃないよ、必ず守る。君も、俺の知り合いも。だから、今は遊べない。ごめん」

「それ言われてはいそうですかって言うような奴に見える? 私が」

「……うん」

「あっそ」

 

 両手を腰に当てていたフランは、右手を静かに腰から離し。

 

「じゃあもうイイよ」

 

 貯めた妖力を右手に纏わせ、振り払った。

 

「……え?」

 

「勝手に遊ぶから!!」

「ぐ!!」

 

 

 吸血鬼らしく、というべきか尖った爪から放たれる妖力込みの風圧が柊の身体を襲う。柊は地面を強く踏みつけなんとか耐える。

 

「簡単に壊れないでよ?」

 

 フランが右手をこちらに向け、何かを探している。

 

「……?」

 

 

 タカヘッドを起動し、視認したもの。

 こちらに徐々に近づく空気の泡の様な玉。それは、柊の感性からしてみても、妖怪として見ても、誰が見ても異質と呼ぶべき代物であった。恐らく、タカヘッドでなければ観測することすら不可能だったろう、それは、禍々しく唸り始め、柊の胸の前で拳大のサイズのまま静止した。

 

 

「えいっ」

 

 少女が拳を握るとそれは、弾け飛んだ。

 

 

「がふっ……!!?」

 

 嫌な予感がして、一歩引いておかなければ、おそらく即死していた。

 

(なんだよ今の!?)

 

 だが咄嗟に引いてなおその痛みと衝撃を受け止めきれず、柊は必死な思いで駆け上った階段から再び地下に落下した。

 

「ぐ……ぅ、うぅ……」

「逃がさないよ〜」

 

 ──咄嗟に……トラクローで切り裂かなきゃ……今頃身体が粉々だった……か。

 

 

「もう死んじゃったかな?」

「……」

「……?」

 

 フランは不思議そうな顔で、依然として柊に語りかける。

 

「熊と出会した時に死んだふりした方が良いっていうアレ、デマらしいよ?」

「普通にバレてた!」

「あ、やっぱり生きてた」

 

 どうやら鎌をかけていたらしい。飛んだ悪戯っ子だ。

 

「残念」

「残念とか言ってる場合じゃないんだけど。とりあえず、降参したら見逃してくれるかい?」

「やだ。遊びたいもん」

「そう……か。仕方ないか。悪いけど俺は負けられない」

「いいね、私も負けないよ? 禁忌『レーヴァテイン』!」

 

 手から一文字の光を放ち、即座に灼熱の業火に変えて、握りしめる少女。

 

「剣相手の対処法、聞いときゃよかったかな?」

 

 右手を前に左手を腹に置く。柊はここで彼女とやり合う方の選択をした。

 

「綺麗な血飛沫が見たいなぁ。お兄さん何型かしら? 血はO型だったら嬉しいかなぁ」

「? なんでOなんだ?」

「O型のOはオシャンティのOでしょ?」

「そんな洒落てるわけないだろ!!」

 

 レーヴァテインを雑に振り回すフラン。雑に奮ってはいるが吸血鬼の腕力でその軌道は相当な速度を持ち合わせている。柊は鷹の目で予備動作を早くみることでなんとか避け続けている状態だ。

 

「そうなの? 咲夜はそう言ってたけどなぁ」

「……ちなみに咲夜って人は人間? で何型?」

「人間だよ、Bって言ってた。Badの略らしいよ不味いんだって」

「100%嘘じゃん! 騙されんなよ、その人が吸われたくないだけだよ!」

 

 更に一段階振り回す速度が上がる。流石のオーズの力でもこれ以上は見切れないと踏んで退がる。

 

「くそ! 飛蝗!」

 

 呼応して、脚が縁に染まる。

 そしてそのまま壁を跳ね、跳ね、飛び跳ねて。

 

 

「逃がさないよ? そう簡単ニ……折角ノ動く玩具なんだから!!」

 

 急接近したフランにものの見事に頭を蹴り押しやられ、壁に頭がめり込む。

 そのまま少女はオーズを殴りつけ、壁を崩壊させていく。

 

 片手に握っていた炎の剣を消し、両手で殴りつける。

 

「が、! あ! ぉ! ……」

「アハはアハハ! ちぁんと反応してくれる貴方は面白い、もっと遊んでね?」

 

 もうさせまい、と両手を握り封じる。

 

「……こうしてどうするの? 足は使えるよ?」

 

 翼で浮きながら蹴りを加えて来る。

 

「ねぇ? どうして急に反応してくれなくなったの? 壊れちゃった?」

 

「……ぞ」

 

「え?「痛いぞ」

 

 彼女を力の限り壁に投げつける。彼女は受け身を取る事なく、壁に浅くめり込んだ。

 

「ビックリしたぁ急に元気になったね?」

「脚が使えるのは俺もだ!」

 

 緑色の脚が輝きを帯び、超強力なバネと化す。

 

「やっぱ咲夜は嘘じゃなかったわ。オシャンティな脚ねぇ」

「お前、すっとぼけてる様で相当強いな」

 

(肉体だけなら美鈴さんよりも頑丈じゃないか? 手応えが微塵もないんだが)

 

 フランはきょとんとした目で尋ねる。

 

「美鈴と会ったの? まぁ美鈴よりは強いかな流石に、私より多分年下だろうし」

「妖怪って年功序列で強さとか決まってんのか?」

「は? 殺すわよ?」

「なんでキレんの」

 

 そう言って柊は、バッタレッグの跳躍で空高く飛び上がり、少女目掛けて急降下。

 

「お?」

 

 赤・黄・緑のエネルギーのリングを通過して、凄まじい破壊力を持つ脚を躊躇なく

 少女へ向ける。

 

「タトバ……キィィッッック!!」

 

「わぁ〜あ! 貴方も奥の手持っているのね……どちらの方が強いか、試してみましょ!!」

 

 さきほど、使わないと宣言したレーヴァテインを解放し、オーズへ振り回す。

 

「せいやぁ────!!!!」

「そりゃあ!!!」

 

 互いの煌めきが混ざり合い、館に轟音が鳴り響く。

 

 

 ♢

 

 

「今のは……近いわね」

 

 ──魔理沙かしら?

 

 しかしそれは頭の奥に放置して、見るからに親玉のいそうな、派手なドアを開ける。

 

「アンタがここの主人?」

「ええ」

「ようやくおでましねお嬢さん?」

「で?」

「外の霧邪魔だからさ、早く消してよ」

 

 猫の目をした鋭い眼光が、巫女を睨みつける。

 

「……貴方達ね? フランを檻から出したのは」

「それは私じゃないけど、出したやつに心当たりはあるわね」

「どうしてくれるのかしら? お陰でオチオチ外も見ていられないわ」

 

 見るからに臨戦態勢の彼女を見るに、それは虚言だと理解して、こちらも乗る。

 

「こんな悪趣味な空眺めててもなーんにも面白くないわよ?」

「下民から見たら、そう感じ取ってしまうのも、無理はないかもね」

「よく言うわ、その人間に護衛させてた癖に。下民に守られる上民って何よ?」

 

「咲夜は優秀な掃除係よ、あれで勝った気になっているんならさぞかし愉快な人生でしょうね」

 

「へぇ、アンタは強いの?」

 

「さぁ?」

 

 けど、と続いて。

 

「貴方、既にヘロヘロだけれどそんな状態で私が倒せるかしら?」

「……こっちにも事情があんの。でもそれを理由に言い訳する気はないから安心してくたばってくれていいわよ」

 

「……私に勝つ気なのね」

「ええ、博麗の巫女として、キッチリ異変解決させてもらうわよ」

「ゆっくり楽しみましょう。こんな紅い月なのだから」

 

 

「楽しい夜になりそうね」

「ふふ、永い夜になりそうね」

 

 

 そう言って翼をはためかせて、レミリアは飛んだ。

 

 

 ♢

 

 

「ねぇ? 今のが全力だったのかしら? お兄さん」

「……う……」

 

 全力のキックを、少女の軽い攻撃で跳ね返された。

 

「私が今手を離したら、落っこちて死んじゃいそうね」

 

 ニヤ、と笑みを浮かべながら、オーズを掴んで浮遊する、少女。

 

 決して身体が動かないわけではない。やろうと思えば少女の握る手をはたき、下に蹴り落とす事も出来るだろうが、少女が下手に動かないのであれば、こちらも抵抗しないのが得策だと考えた

 

 

(俺が……4人になっても、敵わないな)

 

「貴方の名前……聞いてなかったわね、いつまでも貴方じゃ、お人形として扱うとしても、あまりにも酷い扱いだわ」

 

 どうでもいいところで善性を出すな。そう思いながら、柊は名前を言う。

 

「へぇ、変わった名前なんだね、柊。……あー東洋人に会うのは珍しいから違和感があるのかも」

「……別に……普通だろ……」

「そ? それじゃあ、次は私の番ね、私はフラン。フランドール・スカーレット!! でもスカーレットっていう呼び方嫌いだから呼ばないでね?」

「……フラン」

「ん〜〜???」

 

「詰めが甘いぞ」

 

 身体を回転させた勢いでフランを蹴り飛ばし、地面へ叩きつける。

 

 

「変身が解けてもいないのに、油断は禁物だぞ」

 

(まあ……効いちゃいないんだろうが)

 

「アハハハハハ! まだまだ元気ね柊」

「ああ、身体の力が消えないんだ」

 

 

 本来ならとっくに死体のはずなのに。本当に多くの量の霊力を霊夢はくれたみたいだ。

 

「なぁお前を閉じ込めたやつとお前どっちが強い?」

「ん〜分かんない」

 

 分からないというのはつまり、実力が少なくとも近いという事だ。

 まぁ、閉じ込められるだけの力量があるのだからそれは当然か。

 

 

(……霊夢の全力は知らないがここまで力を渡して大丈夫なのか?)

 

 

「フラン、やっぱりお前は俺が止めたほうがよさそうだ。もう一分間くらいは闘ってやるよ」

「そう? それはいい事を聞いたわ!! それならもっと遊びましょ??」

「けど遊びはここで打ち止めだ」

「え?」

 

 ──《SCANNING CHARGE》! 

 

 

 オーズはメダルをスキャンし、その力を解放する。

 

「せいやっ!!」

 

 瞬間、オーズの姿が消える。

 そして次の瞬間にはフランの背後を取っていた。

 

「あれれ!?」

 

 そのまま、強烈な回し蹴りを叩き込み、吹っ飛ばす。

 

「ぐぅう……!!!」

 

 吹き飛ばされたフランは、壁に激突し、衝撃で壁が崩れる。

 

(今のフランは完全に油断していた、油断した状態でどれくらいダメージが入るんだ?)

 

「凄いわ! 今の私を吹き飛ばした!」

「……ほぼ無傷。全く、嫌になるよ」

 

 吹き飛び、瓦礫を退かしたフランを見ると、服はボロボロだが、本人は更に狂気的な笑みで、こちらを覗いている。

 

 

「柊。ちょっと暴れすぎだよ?」

「そうか? そっくりそのままお返しするよ」

「同感だな」

 

「──!」

 

 綺麗な弾幕が、フランに直撃し、煙を焚く。

 

 

「……魔理沙!」

「派手な音が聞こえたもんで来てみたが、霊夢じゃなくてお前だったんだな、とにかくこっちに来いよ、ほら掴まれ」

 

 言われ、素直に手を出す。以前のようなスピードは御免だが、この状況ではワガママも言えまい。

 

「あれが、封印されてた吸血鬼か! おっかねぇ顔してたぜ〜 なぁ!?」

「封印?」

「この家のやつらが言うにはな。まぁあいつの様子見てたら封印ってのは納得だぜ。抑えが効いてなさそうだもんな」

 

 どうだか。どんな理由があれど監禁していた事に変わりはないのだ。

 

 ふと顔を上げると、魔理沙は苦笑いしながら見ていた。

 

「? なんだよ?」

「いや。お前も切れる時はあるんだなって」

 

 どうやら自分でも気づかないうちに厳つい表情を浮かべていたようだ。

 

「……切れてるわけじゃないけど、事情がわからない以上は変に考えてもしょうがないし」

「そうだな!」

 

 急に声を荒げたかと思うと、一気にスピードをあげる魔理沙。

 

「何やってるんだ?」

「来るぜ! 構えろよ!」

 

 魔理沙の言う通り、悪魔の少女が、人間2人を追跡する。

 

「封印とか……フン、大層なこと言ってるけど要は私が暴れるのが怖かっただけでしょ。封印も別に上に行く理由がなかったから壊さなかっただけだし」

 

「なんかすっごいグチグチ言ってるが、ずーっとあんな感じだったのか?」

「あーなんか、上手く話通じてない感はすごい」

 

「逃がさないよ? 柊」

「……」

 

 柊は無言でフランを睨みつける。するとフランは顔を歪め、苦しそうに頭を抱え込んだ。

 

「うぅ……」

「……フラン?」

 

 そしてフラリと立ち上がりこちらに向かってきた。

 魔理沙達は構えるが、フランは立ち止まらずに真っ直ぐに駆け出す。

 

「まずは、貴方からだよ! 柊!」

 

「趣味の悪い女に好かれちまったな! で、どうする? お前はどうしたいんだ?」

「出来れば、霊夢の邪魔はしたくない。手伝ってくれ」

 

 帽子を下げ、顔を隠すが、その笑みは溢れる。

 

「よく言った! 男だぜ柊!」

 

 魔理沙は八卦炉を構え、呪文を唱え始めた。

 

「恋符『マスタースパーク』!!」

 

 轟音と共に放たれたのは極太の光線。

 

「ぐあああっ!?」

 

 まともに喰らったフランの身体を焼き焦がす。

 

「さすがにあれだけの火力なら吸血鬼でもひとたまりもないだろ」

 

 魔理沙が呟いた直後、煙を払ってフランは変わらず突っ込んできた。

 

「……マジかよ」

「ねえ、貴方邪魔しないでくれる? 私は柊と遊びたいってさっきから言ってるよね? 聞こえてる? それとも聞こえてないのかな?」

 

「お前の言うことなんかいちいち聞いてられるか!」

 

 星型の弾幕を飛ばすが、フランは華麗に全て避けながら、徐々に魔理沙との距離を詰めていく。

 

「魔理沙! 追いつかれてきてる!」

「ああ! お前が乗ってるからな!」

「ええっ……降りようか!?」

「馬鹿か!? あいつの狙いはお前だろ!」

 

 フランと、柊たちの距離が10メートルを切った。

 

「ふふ、貴方達もそろそろ観念したら? 私の好きにさせてよ」

「やだよ、お前本気で殴ってくるじゃん」

 

「言い合いしてる暇があったら作戦でも考えててくれよ……!」

 

「初陣の人にそこまで頼んないでくれよ」 

「さっきまで少し漢らしいと思ってた私が馬鹿だったよ。ただの何も考えてない馬鹿だったらしい」

「酷い言われようだけど、何も言えない」

 

 返す言葉もない故に、柊はただただ苦言を呈した。

 

「事実だろうがよ」

「はい、否定できません」

 

 むすっとした柊を見て、一瞬魔理沙が頭をあげると共に、呟いた。

 

「まぁ、そっか、よくよく考えりゃお前これが初めての異変解決か。そりゃ無理だ」

「……魔理沙は余力あるか?」

 

「全然大丈夫だけど、良い案浮かんだか?」

 

「ああ、とりあえず魔理沙がうるさいから軽くしてやるよ、ほいっと」

 

「は!?」

 

 魔理沙が後ろを向いた時、柊は既に箒を放棄して、フランの方へ向かっていた。

 

「おまっ……バカやろ!!」

 

 

「あら? 分かってくれたの?」

「いいやちっとも?」

 

 頭の中でオーズの亜種形態を思考する。

 すると、ベルトに装填されていたメダルが変色する。

 

 

「なんとなく出来そうだと思ったが。能力だと……こういう風に変身できるのか」

「?」

 

 無意識にサゴーゾになった時とは違う。意図的なフォームチェンジ。

 柊はこの闘いで着実に成長していた。

 

「変身!」

 

 ──タカ! ──ゴリラ! ──ゾウ!! 

 

 ──《SCANNING CHARGE》! 

 

 

 変身後、続けてスキャンする。

 

「はぁああああ!!」

「色々できるんだね柊は。大して強くはないけど」

 

 両手をフランに向ける。

 

「?」

「だりゃあ!!」

 

 ゴリラの腕がロケットパンチの様に飛ぶ。

 

「わっ!!」

 

 二つの腕はモロにフランのお腹にめり込む。

 

「これで、どうだ?」

 

「いてて……でも大して効かないよ、これくらいじゃ。遊びを止める気にはならないなぁ」

「そっか、びくともしてねぇのは流石にショックだよ」

 

 邪魔。というかの様に振りほどき、構わずこちらに突っ込む。

 

「くそ……!」

 

 

 再び、頭で別亜種形態を投影し、スキャンする。

 

 

 ──タカ! ──ウナギ! ──ゾウ!! 

 

「これで!」

 

 ウナギに変身した事により触手の様な鞭が使える様になった。

 

「はっ!」

 

 鞭でフランの足を巻き取る。

 

 

「魔理沙、 やれ!」

「……あ!? お、おう! 魔符! 『スターダストレヴァリエ』!!」

 

 

 星型の弾幕がフランにどんどん命中する。

 

(手応えあり、ナイスフォローだぜ柊!)

 

 柊の方へ向き、ガッツポーズをする。

 

「待て、魔理沙! フランはこれぐらいじゃ──」

「禁忌『クランベリートラップ』」

 

 煙の中から響く声とともに展開される無数の魔法陣。

 

「ぐっ!」

「うおっ!?」

 

 そして魔法陣から発射される魔力砲。

 その数、数十が柊と魔理沙目掛けて飛んでいく。その様はさながら炸裂花火の様だ。

 

「魔理沙、貴方も柊と一緒にスクラップにしてあげる」

「御免被るぜ! というかスクラップにしたらもう遊べなくなるんだが?」

「ん〜そうね、なら二人の身体を縦に裂きましょう。そしたら咲夜に二人をくっつけてもらうわ?」

 

 魔理沙はどこか諦めついた様に笑い声を漏らした。

 

「は、はは……何言ってんだあいつ」

「ああ、やっぱ魔理沙でも分かんないんだ」

「お前私をあいつと同類と思ってたのかよ!?」

「俺の常識は大体こっちでの非常識だったからさ」

 

 箒の加速を更に一段階上げて避ける魔理沙、そして鞭で対応する柊。鞭をしならせて、一気に弾幕をカッ消していく。

 

「ちぇっ……めんどくさいのが増えたものね。でもまぁ、ちょっとくらい時間がかかる方が愛情が湧くものね?」

「魔理沙! 俺がもう一回隙を作る! その隙にあいつに弾幕ぶつけてやれ!」

「分かった! けど簡単にはいかないと思うが、ほんとに大丈夫なのか?」

「とりあえず隙は作れると思う。多分な」

 

 一つの策が閃き、頭の中で亜種形態を投影する。

 

「変身!!」

 

 ──ライオン! ──ウナギ! ──バッタ!! 

 

 

「柊は凄いコロコロ色が変わって楽しいわね。出来ればその色全て赤に変えれるといいのだけれど」

「行くぞ魔理沙ァ!」

 

「おう!」

 

「……再起、禁忌『レーヴァテイン』」

 

 炎剣がフランの手に現れると同時に鞭を振りかざす。

 

「うおおぉッ!!!」

 

 その一撃を受け止める。

 

「がっ……!……魔理沙!」

「おう!」

 

 柊の声に答えるように、魔理沙は魔法陣を展開し、その中心に魔法を貯める。

 

「思ったよりもやるなぁ! 柊! ……こいつはさっきとは比べ物にならんぜ? フラン」

 

 ミニ八卦炉をフランに向け、叫ぶ。

 

 

「それじゃ私の十八番だ! 恋符! 『マスタースパーク』!!」

 

 ミニ八卦炉から放出されるレーザーはうねりを上げて極細高密度の弾幕となりフランを包む。

 その威力は、柊が巻き込まれないよう配慮してなおも、近くにいた柊をも爆風に巻き込むほどだった。

 

「が……! きゃぁああああ!!!!」

 

 独特な音が鳴り止みレーザーが消えたあと、魔理沙の箒に絡めていた鞭で体を引き上げた。

 

「ふぅ……凄いな、これは……」

「弾幕はパワーだよ! お前も覚えて帰るんだな!」

「この闘い終わる頃には忘れてるかも」

「帰るまでが遠足だぜ?」

「……やっぱ魔理沙もフランと大差ないぞ、うん」

 

 幻想郷の人は誰も彼も自我が強い気がする。

 それはそれとして、流石にこれならばフランもただでは済まないだろう。かなり消耗した筈だ。

 

「……いったぁい、本気で危なかったんだけど? ねぇ、なんか言い分ある? マリサ」

「おいおい、まだ立つかよ、結構タフだなお前。ていうかもうかなり被弾したろ? 止める気にはなったかよ」

「マリサかシュウの腕ちぎったら満足する」

 

「「やだよ!」」

 

「あっそ。……あのさ、私一人に対して二人がかりはずるいと思うのよ。そう思わない?」

「 魔理沙、なんか嫌な予感がする、気をつけろよ」

「……ああ分かってるよ」

 

 

「「「「だから、私も4人で楽しもうと思うの」」」」

 

「「──は?」」

 

 

 二人して声が合う。いやきっと、この場面に直面したら、誰もが息を吐くだろう。

 目の前にフランが、四人いるのだ。

 

「禁忌『フォーオブアカインド』」

 

「は、はは。まじかよ。俺四人でようやくあいつ一人に対応できると思ってたんだが」

「こりゃあ確かにバケモンだ。封印されちまうのも無理ないぜ性格的にも、力的にも……一旦逃げに回るか」

 

 若干諦め気味で愚痴を垂らす魔理沙。

 

「どうすっかな……普通にやったんじゃ負けるな。フランの能力が厄介すぎる」

「大体俺四人であいつ一人に対応できるかなと思ってたから、俺が16人になればむしろ魔理沙はお釣りになるな」

「……は? もしかしてバグったのか?!」

 

 いきなりの迷言に魔理沙が思わずツッコミを入れる。

 

「違うわ。俺は正常だ」

「お前……もしかしてバカだったのか?」

「…………」

「え、ちょ、待てよ、マジで何言ってんの? なんで無言なんだよ!」

「なんかフランがこっち見てる」

「え」

 

 

「「「「早く一緒に遊びマショ????」」」」

 

「お〜怖ぇ怖ぇ、自分の顔鏡で見てみろよ。折角の整った顔が台無しだ、なぁ? 柊」

「魔理沙も整ってるだろ、すごく可愛いと思うけど」

「んなっ!? いや、お前なんでこの場で口説くんだよ、ちっと待ってくれ照れて今お前を直視でき……」

 

「あははは隙あり〜!!」

 

 レーヴァテインを横になぎ払うフラン。魔理沙はギリギリ急降下に成功する。

 

「ふざけんな! お前あの吸血鬼の仲間かぁ!?」」

「落ち着け魔理沙! 悪かった! 確かに戦闘中に言うことではなかったよ!!」

「流石に弾幕ごっこ中に気が逸れるような事言うのはもうなしな。タブーてやつだタブー……その、恥ずかしくて身体が熱くなっちまう」

「いやほんとに俺も悪かった……」

 

 どうやら先のマスタースパークが効いたようで、先ほどよりも些かフランの速度は遅くなっていた。

 

「くそ! あとちょっとなのに、このままじゃ負けるぜ!! おい、なにか作戦はないのか?!」

「俺が少しの間あいつらを引きつけて戦う。そうすればなんとか出来るか?」

「そりゃあんな直情バカ時間さえくれれば多分なんとかなりはするが、却下する。お前に危険が多すぎるだろ」

 

「いや、せいぜい三途の河に片脚突っ込むくらいだ」

「ほぼ死んでんじゃねぇか!! ダーメだって。私が3人相手する。お前には一人を任せていいか?」

「3人って……いくらなんでも魔理沙でもきついんじゃ……」

「ああ、だろうな。でもこれしかないだろ」

 

 柊は居心地悪そうに発言する。

 

「俺のせいでこんな事になっちゃって、悪い」

「それは違うぜ、お前が神社で賽銭箱直してる時に霊夢と約束したんだ。困ったときは助けるって」

「……そっか。うん、なら約束する。この作戦じゃ死なないよ俺」

 

 現実的ではないが、柊の声は明らかに本気だった。

 

「ほんとか?」

「本当だ、約束したからな、俺は俺にできることをするって」

「……分かった、信じるぜ」

「ありがとう、魔理沙」

 

 帽子で魔理沙の素顔は見えないけれど、固い意志でこの場にいるのは分かる。

 

 羽根をはためかせて、こちらに接近する四人のフラン。

 

「遊ばれてやるさ、せいぜい手を抜け!!」

 

 そう、死ぬつもりはない。

 頭で投影し、装填したメダル。

 

「本当だったらガタキリバのつもりだったんだけどな……悪いが死にたくなくなった!」

 

 頭から順にライオンの紋章、トラの紋章、チーターの紋章。

 

 即ち──コンボである。

 

(使う時間は、10秒に抑える!)

 

「変身ッ!!!!」

 

 

 ──ライオン! ──トラ! ──チーター! 

 

 ──ラタ! ──ラタ! ──ラトラータ! 

 

 

「行くぞフラン!!」

 

「「「「ええ!!」」」」

 

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