東方欲望録   作:アンダーソンキャッスル

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7話 タッグとフォーカードとラトラータ

「──はっ!!」

 

 

 ラトラータコンボの柊から放たれる熱線が、柊を取り囲むフランたちに直撃し爆発を引き起こす。

 

「うわぁ!?」

「きゃぁああ!!」

「いたぁあい!!」

 

 その衝撃によって発生した爆炎を、分身の一体であるフランが飛び越えて柊の眼前に迫る。

 

「くっ!」

「小賢しいことしたって、私には勝てないってば!!」

 

 フランの拳が、振り抜かれる。それを間一髪で回避した柊は、着地と同時に横へと駆け出した。

 

「速い! まだ力を隠してたってわけね!」

「私がやる〜!」

 

 他のフラン達も体勢を整えて、再び柊に襲いかかる。

 

「そぉらっ」

「うぐっ!」

 

 軽々と炎の剣を振りかざすフラン。柊は必死でそれを抑え止めた。

 

(熱い熱い! モタモタしてたら本当に殺される!)

 

「はぁい隙だらけだよ〜」

「!」

 

 二人のフランに挟まれた。そして、自分は今剣を抑えるので精一杯。対応する余裕はない。

 

「「バイバ〜イ♪」」

 

 両の手から放たれた弾幕を二人分、モロに食らってしまう。

 

「う〜ん、どうかなぁ? 死んじゃったかなぁ?」

 

 煙で姿が見えない相手に向かって話しかけるフラン。しかし、返事はない。

 

「……終わりかぁ。案外耐えてくれたわね。それじゃ次はあの魔法使い」

 

 くるり、と踵を返した瞬間、フランの足が何かに掴まれる。

 

「え?」

「はぁあっ!!」

 

 煙幕から現れた柊がフランの脚を鷲掴み、地面に叩き落とす。そして、そのまま腕の力だけで壁に激突させた。

 

「うげっ! ……あいたたた」

 

 柊が平然と立ち上がり反撃したことに対して、フランは感動していた。

 

「すごいすごい、思いの外ずっとタフなのね! 貴方」

「ハッ……ハッ……?」

 

 柊は自らの身体に違和感を覚える。

 20秒近く経って、未だ身体にコンボによる痛みが回らない。

 

 痛みが起こらない、それが逆に違和感だった。コンボに慣れていないはずの身体で痛みが生じないということは、別の何かが代償になっているということだ。

 

「何かが起こってる……?」

 

 

 それは、霊夢と交わした約束にあった。

 

 

 

 

「痛っ!!」

 

 地面に転がる霊夢。

 

「あら? 博麗の巫女がこのザマかしら?」

「笑わせんじゃないわよ、この程度で。まだまだ勝負はこれからよ」

 

 膝をついた霊夢が再び立ち上がる。

 

(柊……あいつ何してんのよ私の霊力がどんどん減っていってる……)

 

 その秘密は、霊夢が柊を助けた際に使用した札。

 あれは柊の体力が危険状態にまで陥ると自動で霊夢から霊力を吸い取る機能が付属されている。

 

 効力は30分。これは柊が人里に戻るまでのおおよその時間を考慮した故の霊夢の判断だ。

 

 今霊力を吸い取られるということは、柊が外で妖怪とでくわしたか。

 

「今まだここに居るかってことね。あいつバカだしここで闘ってそう〜……っていうか、もしかして」

 

(地下の奴と闘ってるの柊じゃない?)

 

  そんな可能性を思いつきはしたが、いやいや。そこまで重度ではない。うん、そう信じよう。

 

「まだまだ平気って感じの顔ね、博麗の巫女。早く歪ませたいけど、もうそっちからは来ないのかしら?」

「なーに言ってんのよ、今攻めようとしてた所!」

「そう? なら良かったわ一人で踊る夜ほど寂しいものはないわ」

「勝手に踊ってろ!」

 

 

 ♢

 

 

 トラクローの一振り。

 

「あわわわ!」

「眩しいってば〜!!」

 

 相手に反撃の隙は与えない。何かしようとしたならば、すぐにフラッシュを放つ。

 

「もう〜それ嫌だ!」

「うざいうざいうざい!!」

「死んじゃえ」

「うーまだヒリヒリするわ!」

 

「「「良い加減に、しろ!!!」」」

 

「悪いな……ライオディアス!!」

 

 再びライオンヘッドを灼熱の太陽のように、光らせ、焼き尽くす。

 

「もう効かないよ!」

「こうすれば良いもん!」

 

 壁を弾幕で壊し、瓦礫で光を防いだ。

 

 

「やるな! でも……」

「「「「??」」」」

 

「ゲームオーバーだよ、フラン」

 

 柊が指を上に指す。

 

 四人のフランが見上げると、ミニ八卦炉が星々を収束させたかのような、ラトラータの生み出す光とはまた別ベクトルの、いわば、星の煌めきを彩っていた。

 

「ほんと、よく耐えたぜ! ちっと時間オーバーして悪いな」

「良いから早く!」

 

 チーターレッグですぐさまその場を離れた。

 

「おう!んじゃ、行くぜ! これが本場のマスター……スパークだ!!」

 

 魔理沙が放ったのは星の煌めきをおもわせるほどの、超超、超極太レーザーだった。

 

 魔理沙の声と共に、光の奔流が放たれ、本体を含めた四人を飲み込み地面に落下して行く。

 

「流石にこたえた……か?」

「ふぃ〜もうくたくただ……が初陣で大金星だな、柊! ……ん?」

 

 極太レーザーは地面に設置してある対吸血鬼用レーザーを起動させてしまった。

 

「!?……アアァァァアア!! 熱いよぉ!!」

 

 確実にレーザーを直撃させる為に吸血鬼に有害な紫外線が放出される。二人には、フランが謎の光に晒されているようにしか見えないが。

 

「な、なんだ。あの光に当たってるから動けないのか?」

「分からん……が」

 

(パチュリーが言ってた仕掛けってやつだな)

 

 突然、フランは急に空中で停止する。しかし柊と魔理沙には何が起こっているか視認することができない。

 

「ぁぁ、ぁ…」

 

「柊、下がってろ。私の魔法であの仕掛けを……」

 

 弱ったフランにトドメを刺すかのように魔法陣からレーザーが放出される。

 

「あ……ぁ…」

「!」

 

 一瞬、フランの姿と、後方のレーザーを見て、脳裏に嫌な記憶がよぎる。

 

 助けられなかった少女と、少女を殺した車。

 思い出して、咄嗟に体を動かした。

 

「……手を出せフラン!」

「えっ……きゃぁぁああああああ!!」

 

 フランの体を抱きしめて、庇うように覆い被さり、目を瞑る。

 

「はっ!? バカヤロウ! ……水符『ベリーインレイク』!!」

 

 フランを庇った柊をレーザーが包みこむ直前、パチュリーから受け持った魔力装填済みの魔力札を放ち衝撃を弱めた。

 

「……だ、いじょうぶか? フラン」

「しゅ、シュウ……なんで?」

「怪我はな、い?」

 

 熱線で相殺しようとはしたが、当然それでどうにかなるはずもなく。

 だが。

 

「う、うん……私は平気……でも……」

「安心して。俺も……平気だよ」

 

 巻き添えを食らうものの、フランだけは抱いて守った。

 以前の記憶を払拭するように、フランの頬の汚れを払った。

 

「柊は、嘘ばかりだね」

「……いや、お前が強いのは知ってた、んだけど……咄嗟に動いちゃった……いってて……ああもう無理、ギブ」

「……」

 

 柊はフランをそっちのけで、瓦礫の山に寝転んだ。

 

「柊! 吸血鬼も! 無事か!?」

 

 箒から降りて様子を確認する。

 

「おい、吸血鬼。流石に弾幕ごっこは中止だ。いいな?」

「吸血鬼じゃなくてフランだよ」

「ゴホッ……もう大丈夫だ、魔理沙」

 

 そう言って、ベルトを戻し、変身すら解除する。

 

「おいおまっ……流石に認識が甘いだろ! 帰ったら説教な!」

「……大丈夫だって」

「なんで?」

「……?」

 

 横で大人しく座るフランの声に、耳を傾けた。

 

「なんで、手出したの?」

「……前似たようなことがあった時……手出さなくて後悔したから……かな」

「お前なぁ。自分が何しにここに来たか分かるか?」

「あー……はい、紅霧を払う為です…ゲホッ……すいません」

 

 魔理沙が深刻そうな顔で身体の傷をチェックする。

 

「なんともないから見なくていいよ」

「んな訳あっかコラ。あんだけ吹っ飛ばされといてよ……ったく」

「仕方ないだろ……強くないから盾になるくらいしかなかったんだよ」

「うっせえ、あとお前もだぞ」

「あいたっ」

 

 フランにデコピンを喰らわす魔理沙。

 

「これに懲りたらちったー反省しろよ、フラン」

「うん。……なんか、ごめん」

「なんかって……柊、ほれ、続きだ。身体見るから」

「もう、大丈夫だって。なんかあったら自分から言ってるよ」

「……はぁ。お前はアンバランスな奴だな。霊夢がこの場にいたら殺されてるぜ、多分」

 

 ボロボロな身体なのは、もうむしろ開き直っている。それに観念してため息を吐く魔理沙。

 

「ま、良いや。お前らはここにいろ。異変はまだ終わってねぇからな。柊は外には出るな。フランが横にいた方が返って安全だろうしな」

 

「ああ、頑張れよ魔理沙」

「おう」

 

 再び箒に乗り込んで、何も言わずに地上へ戻る魔理沙。それを見送る柊。

 

「……さて、魔理沙行ったし今なら俺の事殺し放題だぞ、フラン」

 

 横の少女はやられてはいそうですか、で終わらせるような奴ではない。柊はそう思っていたのだが。

 

「そんな気分じゃないわ。流石に」

「そうか……この異変このままじゃ俺たち抜きで終わっちまうぞ」

「良いよべつに……もともと私は関係ないもん」

「そっか、なら暫く二人で話すか」

 

 二人は瓦礫を払い除けて、静かに歩き出した。

 

「柊は……もういかないの?」

「まぁ魔理沙にもここにいろって言われたしなぁ。それ破ったら流石に悪いかなって……まぁ、今更かもだが。あとさっきの言葉通り普通にギブアップ」

 

 チラリとフランを見て、柊が言う。

 

「あ、じっとしてろ、服の汚れ払うから」

「うん……ありがと。私もしてあげる」

 

 互いに肩の汚れを払い除けて、フランのベッドに腰かける。

 

「あ〜あのさ、言いたくなかったら言わなくてもいいんだけどさ。なんでこんなところにいるんだ? よかったら聞きたいんだが、その、捕えられてた理由」

 

 フランは重く硬く閉めていた口を開く。

 

「私は、ずっと仲間外れだよ。誰も何もしてくれない、だから何も知らない。生きた人間を見たのだって、咲夜以外じゃ柊と魔理沙が初めてだもん……」

 

「仲間外れ……って、自分から話しかけに行ったりはしなかったのか?」

「その前にお姉様が来て止めるんだもん、何も出来ないよ」

「この館の主人が、お前の姉さんか?」

「ええ私のお姉様。レミリア・スカーレットっていうの」

「姉妹なのか」

 

 フランがスカーレットが嫌だと言ったのは、自分を監禁してきた姉と同じ呼び名が嫌だからか。

 

「その、レミリアって人ともあまり会う機会がないのか?」

「会ったって碌な話し合いになりゃしないわ。こっちの話なんて聞きもしないんだもの。部屋に戻りなさいの一点張りよ」

 

 話すたびにその時の記憶がよぎるのか、フランの面が不機嫌になっていく。

 

「この地下から出ようとしたことは?」

「ある、というかしたわ。したけど館の中には色んな罠がある。さっきのトラップもその一つよ。私の事があいつら嫌いなのよ」

「……そうだったのか、悪い事を聞いたな」

「別にいいわ、今更気にすることじゃないし」

「しかし、そうなると本当にどうするかだな」

 

 フランは一瞬目を瞑って、言った。

 

「私も一緒に行く」

「……ん、ああ。ひと段落ついたら上に」

「そうじゃなくて、貴方の所」

「……?」

 

 突然の言葉すぎて、柊は口籠もった。

 

「ええっと……」

「私は、ここから出たい。ここでずっとつまらない生活するぐらいなら貴方と一緒に行きたい。さっきのことを許してくれるならだけど」

「……」

 

 柊は考える。

 このままここにいても何も変わらない。なら、ここから出て、別の方法で紅魔館の問題を解決する方法を考えた方がいいかもしれない。

 

「別にそれは気にしなくていいけど……でも」

 

 柊はフランの抱く館に住まう者達の人間像について、一つだけ違和感を感じていた。

 

「……とりあえず全部知ってからでも、遅くはないと思うよ、フラン」

「……何が?」

「フランの話聞いてる限りじゃ、君の姉は、嫌われるような姉って感じだけど、俯瞰して見てみないと分かんないよ。過保護過ぎる姉って人物像もあるかもしれないし。ここに止めてるのにも何か理由があるんじゃないか?」

「理由って何よ。自分の家族を軟禁する理由なんて大体が自分可愛さよ」

「でも断定はできないでしょ……でもまぁ理由も思いつかんな……うーん…でもなあ……なんだかな。全部を投げ出すにはまだ早いと思うんだよな」

 

 こっちの世界の人達の考え方には驚かされてばかりだ。と柊は半ば諦めて、フランに言った。

 

「……んー外出て直接聞きに行くか」

「え?」

 

よっと、と柊は重い腰を上げた。

 

「俺も手を貸すよ。それでもしお前の姉さんが本当に悪い人だったら知り合いの引き取ってくれる人の所まで連れてく」

「……むぅ」

「理由も分からずにここに居てもしょうがないからさ、フランのアイデアには賛成だけど、まずは俺の願いを叶えてもらう。無理そうになかったら、言った通りだ」

「願いって?」

「そりゃ仲直りすることだよ」

「ふぅん……」

 

 柊はフランに尋ねた。

 

「お前は外に行きたくないのか?」

「無理よ。あいつら皆んなして私を攻撃するし」

「まあでも話だけでも聞きに行こう。それがどんな理由であっても。知らないよりマシだ」

「……」

「自分の気持ちは自分にしか分からない。相手の気持ちは自分だけじゃ分からないんだよ。でも、今のフランの思いの丈をぶつければ、きっと聞いてくれるよ」

 

 ブスッとした顔で、フランは言う。

 

「……でも、私じゃお姉様を倒せない。強いもの」

「だから言ってるだろ? 俺も手伝う、勝てるまで、何度でも戦ってやる。今日勝てなくても明日、明日勝てなくても明後日。何回でも戦ってやるさ」

 

 話してる途中、足の痛みに尾を引いて、視線をやる。

 どうやら破片が悪さをしていたようだ。

 

 横に散らばった破片を見て、何かに気づく。

 

「……うん、やっぱり、フランの姉さんはフランを嫌ってるわけじゃないと思うけどなぁ」

「どうして?」

 

 さっき魔理沙が放ったレーザーで壊れた装置の一部を、柊はフランに渡す。

 

「触ってみて」

「……? 何? 何もないけど…」

「だろうな、けどこれ今握ってる俺はメチャクチャ熱いんだぜ」

 

 ほら、と破片を握っていた手を見せる。手は真っ赤に変色していた。

 

「フランには痛みを感じないようになってたんだろ。まぁ俺が脆すぎるっていう線もなくはないけど、魔理沙も触れないようにしてたからその線は薄そう」

「な、なんで?」

「仕組みも理由も分からんが、俺に害があってお前に害がないならお前を守る為の物な可能性が高いだろ」

「でも……さっきの光は!? あんなの、吸血鬼にしか効かないよ!」

「んー……そうだよな、それは確かにあるよな」

 

 柊は腕を組み右上を見やる。

 

「暴れたときの緊急措置とか?」

「何よそれ……」

「何にしても、ここでまたじっとしてたら同じことの繰り返しだと思う。とりあえず進もう」

「ぁ……」

 

 グイッと引っ張られたフランは心配そうな顔をするだけで、そのまま付いていった。

 

 穴を開けてしまった先を見ると図書館に繋がっていた。

 

「ここから上に行けそうだな、行こう」

「……うん」

 

 フランの手を引いて歩いて行く。

 

 少し進むと、背中に羽の生えた女の子が倒れていた。

 

「あれが姉さん? 背中に羽あるけど」

「ううん、あれはパチェの使い魔だよ」

「へぇ。でもなんで倒れてるんだろう?」

「さぁ……」

 

 二人して考え込んでいると。バタン、と大きな音がした。どうやら後ろで何かが落ちたようで、振り向いた。

 

「……ん、そこでぐったりしてる人は?」

「…パチェ」

 

 パチェと呼ばれる少女は椅子に座って目を瞑っていたが、フランの呼ぶ声で起きたようだ。

 

「……殺しに来たのかしら。フラン」

「そんなこと、しないよ」

「ならそこの人間に唆された? 大人しくすれば外に行けるって」

「……」

 

 徐々にフランの柊を握る手も強くなっていく。

 

「違うわ、私知りたいの。なんで姉様は私を外に出さないのか、なんで地下にあんな装置があったのか。教えて頂戴」

「貴女に私から言う事はないわ。さっさと戻りなさい。また力尽くで牢屋に戻されるだけよ」

「ねぇ、パチェ。お願いだから話し聞いてよ、私もう暴れないから。本当に聞きたいだけなの」

「嘘。どうせ事情を言っても聞かないでしょ。今までだっ……」

 

 パチェと呼ばれている女の子の頬をフランの弾幕が掠める。

 

「おいおいフラン、チョイストップ」

「……ほらね、少しでも自分の気に入らない事があったら力尽くで解決しようとする。悪い癖よ貴女たちの」

 

 涙目になってフランは肩を震わせる。

 

「私だって、我慢してたじゃない……なんで、なんで酷いことするの、なんでそんなに意地悪するのよっ! 言葉を拒絶してるのはいつだって貴方たちからだよ!!」

 

 ついにフランは涙を零しながら叫んだ。

 

「私が何したっていうの!? 弾幕を撃ったから!? でも、会話をしようともしてくれないなら、気を引くしかないじゃない!」

「フラン……」

 

 フランが声を荒げて叫ぶと、

 

「……貴女が力を扱えていないのは事実。そんな危なっかしい子を外に出したらどうなるか分かったもんじゃないでしょう。人里の人間を貴方が殺しでもしたら、巫女に退治されるわよ」

 

「……」

「……確かにそうだな」

「……貴方は?」

「えっと、侵入者兼……付き添い?」

 

 フランの鋭い目つきは、パチュリーから逸れることはなく、彼女自身もそれを感じ観念したのか、溜息をつく。

 

「……はぁ、レミィに後で怒られるわね」

「いいもん! もう言うこと聞かない!」

「違うわ。私の話よ」

 

 ヨロヨロと椅子を立ち上がる少女を、柊が急いで支える。

 

「あら、悪いわね。でも大丈夫よ」

「…そうですか」

「フラン、それと貴方も。ついて来なさい」

 

 歩いても歩いても本棚ばっかりだ。こんなにおっきな図書館見たことない。

 というか図書館だけでも人里の中枢よりでかい。この館を外から見た時はそこまで大きくなかったはずだが。

 

「さっきは酷い言い草で気を悪くさせたわねフラン」

「いいよ、気にしてないから」

「隠さなくていいわ本音を喋りなさい」

「許さないわ、あとで一発ビンタさせて頂戴」

「……」

 

 ジーッと少女を睨むフラン。

 

「けど、私だって前に貴女達から許されないようなことしたし、おあいこ様よね」

「そう……」

 

 パチュリーは一瞬目を大きくした。今のフランには以前の気性の荒さだけでなく、冷静さも感じ取れたからだ。

 

「この騒動が終わったら一発ずつビンタしましょう、なんなら貴方は本を持ってもいいわよ」

「……それ私が不利じゃない。貴方のビンタに勝てるわけないでしょ」

「ふふっそこに気づくとは流石は魔法使いね」

「でも、何があったのよ? そんな物静かに牢屋を出てくるなんて。ビックリしたわ」

「さっきも言ってたろ装置の仕掛けとお姉さんの真意が知りたいんだってさ」

「……貴方の入れ知恵ね」

 

 少女に睨まれ、両手を上げる。

 

「いや、そうじゃなくてさ……地下牢の装置に人間用の仕掛けがあっただろ? 熱が発生するやつ。あれはフランを守る為の物だと思ってさ」

 

 納得。といった顔になる。

 

「実際あれは何のための装置なんだ?」

 

「フランにもしものことがあった時のための装置よ。あれはフランの弾幕を感知すれば太陽光と同じ成分の光が。他者の弾幕だったらそいつに向けてレーザーを放つように設計してある」

「てことはやっぱり……」

 

 あくまでフランの為の装置だったということだ。

 

「で、でもなんで!? お姉様は私の事が嫌いなんでしょ?」

「少なくとも私の知ってる範囲ではレミィは、今まで貴女の事を嫌いだと言ったことは無いはずよ、まぁあの子も貴女の事については不器用すぎて色々とトラブルを起こしてしまったみたいだけど……っとこれを見なさい」

 

 フランに数枚のプリントを渡す。そして柊も横からちょこっと覗いて見る。

 

「……これ、は」

 

 1枚目のプリントの一番上には『live together』と書いてあった。

 

「シンプルな意味でしょ、『共に生きる』そう書いてあるの」

「なんの目的で作られた紙なんですか?」

 

 柊の問いを聞いたパチュリーがフランに紙を渡す。

 

「この異変を起こすに当たっての計画書よ。霧を出して太陽光を防ごうと思ったんだけど──」

「ね、ねぇ!」

 

 フランが声を遮って話す。

 

「共にって…!?」

「だから、貴女も含めてあるんでしょ」

 

 そういうと、どこからか他のプリントを取り出して、フランに見せた。そこには。

 

「『Flandre』……『フランドール』って何? なんで私の事を書いてるの?」

「レミィはいつも悩んでた。後悔してた。貴女をこんな方法でしか見守る事が出来ないのは私に力がないからだって」

「てことは、牢はフランを守る為のものってことで合ってんの? 万が一でも間違いを犯さないように」

 

 問いかけに、魔法少女は頷く。

 

「レミィの決断の原因はフランの暴走だったからね。レミィは特殊な力を持ってるからフランが遠くない未来他人を傷つけることを知ってた。不安定なフランを野放しにしていたらメイド妖精や咲夜達も危ないと分かってたのよ」

 

 ちらっとフランを見て、続ける。

 

「まぁだから、フランを抑える役目もあったことは否定しないわ。一度の暴走なら兎も角フランが何度も暴走したら、皆んなが危ない目にあうしフランだって可笑しくなってしまうかも分からない。だから牢に入れていた。といっても鍵は開けてあったんだけどね」

 

 もう答えは出ているような物だが、柊はパチュリーに聞いた。

 

「……なぁ、それ聞いて思ったんだけど、そもそもこの霧を出してるのは」

「さっき言った通り、フランと一緒に外に出る為よ。レミィは今回異変を成功させた暁にはフランを解放させるつもりだった。計画の第一歩としてね」

「これで、謎が解けたな。フラン」

 

 フランの頭に手を置いて語りかける。

 

「家の趣味は悪いけど、悪いお姉ちゃんではないってことだな」

「……私の家でもあるのだけど」

「でも事実でしょ。それはそうと」

 

 ポンポン、と二度頭を撫でて。

 

「ここまで知ってフラン、お前はどうするんだ?」

「え?」

「なんで地下にあの装置があったのか、なんで地下に入れられてたのか、そんでなんのための異変なのかはもう分かったんだ。目的は達成しただろ?」

 

 吸血鬼は少しの間下を向いてから、柊に向き直す。

 

「柊はどうするの?」

「……うーんそうだな、もう身体もだいぶ回復したし」

 

 手を何度か握り直し、フランに言った。

 

「魔理沙には止められてっけど、俺は異変を止めに行く。フランとその姉さんの想いを裏切る形になるのは悪いけど今出てる霧は人間にとっては有害なんだ。それは見逃せない。お姉さんにはそのあとで一緒に歩けるように手伝いはするつもりだけどさ」

 

 ふぅん、と呟いてから、フランは立ち上がった。

 

「じゃあ私も行く!」

「ん」

「私、お姉様と話がしたいわ。それに霧なんかなくてもできることはあるって、私言いに行くわ! それで止まらないなら、私も戦う」

「よし、じゃあ行くか」

 

「あーあほんとに、長かったわ」

 

 ひとしきり説明を終えた少女は再び椅子に座り込む。

 

「お疲れ様でした、あと説明ありがとう。よければ寝室に運びましょうか?」

「結構よ、私はここでいいわ。それより早く行ってあげて頂戴。フランもね」

「分かりました」

「うん!」

 

 フランに運ばれて行く柊を見届けてから、椅子にもたれて眠った。

 数分してから、フランは再び口を開く。

 

「……ねぇ、なんで?」

「? 何が?」

「貴方は私より弱いわよね?」

「え、あ、う、うん、そうだな」

 

 ショックを受ける柊。だが確かに強くはないと思い肯定する。

 オーズに変身できる能力を持っているが、その強さは本物よりも数段、数十段下だ。でもそんなことはどうでもいい。

 

「姉様と戦うのは、怖くないの? 私だって話そうと思うだけでも怖いのに」

「あ〜……まぁ、怖いけど」

「けど?」

 

「さっきも言った通り、この霧で人里の皆んなを危険に晒し続けるわけにはいかないってのと霊夢達の助けになりたいのと……あと」

「あと?」

「お前も出来れば助けたいからかな」

「ふぅん……そっか」

「お前はなんで戦うんだ? 別に、話をしたいだけならそれで終わりでもいいだろ?」

「えぇとねぇ、私が柊を守りたいから、かな」

 

 満面の笑みでそう言うフランに笑って返す柊。

 

「それじゃあ、姉さんに一泡吹かせに行くか!」

「うん!」

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