「夜は私の時間。戦う相手も、時間も悪かったわね」
「うっさい! 万全の状態だったらアンタなんてギッタギタにしてとっくに異変解決してるわよ」
現在の状況的には、霊夢が圧倒的に不利で、下手したら負けるほどダメージを受けている。
「よっぽど咲夜に苦戦したのね、博麗の巫女」
「んなわきゃないっての」
レミリアが、ふと霊夢から視線を逸らし斜め下を見る。それにつられ霊夢も後ろを見た。
「私も混ぜろ────!!!!」
ミニ八卦炉をレミリアに向けながら、箒で接近する魔理沙。
「あら、あの子がフランを檻から出した子?」
「ええ、多分ね」
二人の声が聞こえない魔理沙は、大声で。
「何コソコソ話してんだ!!」
「別に、なんでもないわ。それよりもあいつが犯人だからやりなさいよ。今日は魔理沙に譲ってあげる」
「は? いやもう私全然魔力ないぜ? 私はサポートに回るつもりでお前だよりだったんだが」
「は?」
「は?」
お互いの顔を見遣って、霊夢が怒鳴った。
「どーすんのよ!? 私もかなり力使ったわよ!?」
「いやいや、本職とかいっつもいってるし、いつも通りのテンションで早くあいつやっつけてくれよ!?」
魔理沙も負けじと、反論する。
「今日は諸事情で疲れてんの! いっつもあんた元気じゃないの! こういう時だけへばらないでよ!」
「お前異変解決だって時に諸事情で疲れてるなんて話しにならんぜ!? 無責任巫女! あ、いや柊絡みか!? そゆことか!」
「うっさい!」
「なんだやる気か!?」
「あら、万事休すかしら?」
レミリアがどす黒い笑みで二人へと突進してくる。
「!! 来るわよ魔理沙! 見かけによらず強いから気を付けなさい!」
「わーってるよ!あいつの姉ちゃんだもんな!」
レミリアは魔理沙の言うその言葉に一瞬反応を示した。
「あいつの姉ちゃん……?」
魔理沙の呟きに反応するが、すぐに切り替える。
「まぁいいか……貴方たちはここで終わりにしてあげる」
冷徹な笑み。正に館の当主、吸血鬼に相応しい者だ。
「ふん、やれるならやってみなさいよ」
「それじゃお言葉に甘えて」
両の手から、どす黒い色の弾幕を捻出する。
「げ」
「お前、焚き付けてどうすんだよ!」
「はぁ……売り言葉に買い言葉だったわね、やっちゃったわ」
「異変は私の勝ちのようね、博麗の巫女」
魔理沙は霊夢がレミリアに向けて挑発した事について、焦っていた。
(まずいな、あの姉ちゃんのスペルは今の私達で止められないかもしれん……)
魔理沙にはわかるのだ。彼女の纏う魔力が。
赤黒い弾幕はレミリアの両脇に携えられた魔法陣から発射される。その数はざっと見ても100以上はあるだろう。
「魔理沙!あんたがなんとかしなさいよ!」
「くそっ、うちの巫女さんは無茶ばかり言いなさる子だな!」
魔理沙は箒に跨ると、そのまま一直線に飛び上がる。
「霊夢、一旦引くぞ!!」
「え? なんで!?」
「このまま戦っても勝てる相手じゃないってことくらいわかんだろ!?」
「うぐぐ……だけどこのままじゃ霧が」
「私は移動に専念する! 来る弾幕はお前が防げ!」
「仕方ないわね!」
言われた通り、霊夢は陰陽玉でレミリアの弾幕を相殺していく。
「いい腕だわ、博麗の巫女。それじゃ、もう一段階ギアを上げるわね」
レミリアは左手をかざす。
すると先程よりも遥かに密度の高い赤いレーザーが放射状に放たれた。
「なにこれ、こんなのどうしろっていうのよ……」
「こんにゃろッ!!」
魔理沙の放つレーザーがレミリアの弾幕を掻き消す。
「これも防ぐか、やっぱりやるね」
「はぁ……はぁ」
「魔理沙、あんたまだやれる? ずっと後手に回るわけにもいかないでしょ」
「……ああ、やれる。やってやるよ。やるしかないだろ、いくぜ吸血鬼」
魔理沙のただならぬ雰囲気を感じ取り、レミリアは笑う。
「味見してあげる。見せてごらんなさい」
「ああ見せてやる! これが私の全力全開だ!」
魔理沙を中心に魔力が渦巻いていく。魔理沙は残り少ない魔力を使ってスペルカードを発動させた。
「魔砲『ファイナルスパーク』!!」
魔理沙の手に握られたミニ八卦炉。そこから極太のレーザーが発射される。
そのレーザーは今までのものより数倍の大きさを誇り、まさに魔理沙の全身全霊の一撃だった。
しかしそれは簡単に弾き返されてしまう。
「はぁ?……マジ、かよ」
「前菜にしてはいい威力だったよ。マリサ。それじゃあ、メインディッシュを味合わせてあげる」
レミリアの右手に溜められた弾幕は槍の形状へと変化する。
「神槍『スピア・ザ……」
右腕を後ろに引く。
「グングニル』──!!」
放たれた一本の赤い光は霊夢と魔理沙へ一直線に向かう。
レミリアの弾幕は、誰が見ても、疲労困憊の二人に止められる代物ではない。
「防げっ!!」
魔理沙は密集された星型の弾幕を、霊夢は結界を張り、応戦する。
「ぐぅ!!?」
「流石に高威力ね、耐えなさい魔理沙!」
二人で特大の槍状弾幕を押さえる。
「ぬ、ぬぅぉぉおおお!!!!」
「あぁもう……しんどい!!」
苦しい顔になりながらも、気迫の入った声を荒げるが、徐々に押されて行く。
「魔理沙、本気でやってる? 全然勢い変わらないじゃない!! こ、これ本気で負け……!」
「これで全力だ!! お前の方こそもっと、上げろ、ぉ!!」
二人の全力の抵抗むなしく、グングニルの勢いは全く落ちない。
「こ、これ私達死ぬんじゃないか!? ぐぬぬぬ!!!」
「死にたくな、かったら、抑えてよ!」
目を瞑り、手に全集中を注ぐ。だが、グングニルはもはや二人で抑えられる勢いではない。
「もう限界だ! すまん霊夢! 軌道そらしたらすぐ逃げっぞ!」
二人は必死に堪えるも、この攻撃は霊夢達の想像以上に凄まじく、このままでは押し切られてしまうだろう。
「ちぃっ……」
霊夢は舌打ちをする。そして目を窄めて、苦痛の顔を浮かべた。
(本当にここまでだわ……ったく。私らしくない余計なお世話さえしなければ……影響受けたのかしら)
もう無理か、と半ば諦めに入った霊夢だったが。
「きゅっとしてドカーン」
そんな言葉と共に、グングニルは突然消滅した。
「!?なんで……なんでその子がここに!」
レミリアの視線につられて二人は後ろを見る。
「……任せたまんまで悪かったな、二人とも」
フランに抱えられながら、ヘトヘト顔でこちらを見る柊。
「全く、お前って奴は……」
「ごめん、やっぱ気になって」
「気にすんな、助けてもらって説教もクソもねえよ。ありがとよ」
「どういたしまして……変身!!」
オーズドライバーを傾け、スキャナーをスライドさせる。
──タカ! ──トラ! ──バッタ!
──タ・ト・バ! タトバ! タ・ト・バ!!
「 貴方、何者?」
「えーっと……フラン、どうぞ」
「弱いけど、強い人。私のはじめての友人ってとこかしら?」
「だそうだ」
うんざりした顔でこちらを見る館の主人。
すると横からヤジが飛んできた。
「カッコつけてるけど、私の力ありきなの忘れんじゃないわよ」
こちらを見るなり、急にイラついた顔で言う。
「あ、そうだ霊夢ありがとな。霊力分けてくれたんだよな? ほんとに助かったよ」
「そう。あとで説教だから覚えときなさいよ」
「なんで!?」
はー、と溜息をつく霊夢。
「門番寝かせたら帰れって言ったでしょうが」
「……あ、いや」
「まぁ良いじゃねえか! 助けてもらったんだしさ!」
「そもそも! そいつが私の霊力持っていかなきゃ私一人で対処できたっての! いいわね?」
「ああ、フランも……ん」
自分を抱えて空を飛んでいるからか、感覚が直に伝わる。腕の震えが、直に伝わる。
「大丈夫だよ、フラン」
「! うん、大丈夫」
返事をするかのように、強く握り返された。
まだ身体は震えてはいるが、心はもう大丈夫だろう。フランはとっくに覚悟を決めている。
「……フラン。どういうことかしら? 中に居なさいって言ったわよね? ここに居る理由、言いなさい?」
「もう私逃げない、引きこもって、みんなを恨み続けたって私もきついし、お姉様にとっても辛いことだろうと思うから、戦うの! お姉様と! そしてお姉さまと外に出る!!」
レミリアが眉間に皺を寄せ、冷徹に言う。
「貴女が? 私を倒して? ふふっ面白い冗談ねフラン」
レミリアはフランに急接近し、蹴りを入れる。
「ぎっ……!」
「この程度で呻き声を上げる癖に私に勝つって?」
「そうよ!」
右手でガードしてそのまま弾幕を放つ。
「ちょっフラン!! 俺落ちる!!」
「永遠に堕ちてなさい」
レミリアは標的を変え。翼をはためかせて、柊を蹴り飛ばした。
「いってぇっ!!」
「非力な男」
「姉様、よくもやったね?」
レミリアはフランのレーヴァテインを蹴り上げて再び空中戦を行う。
「ほら」
フランは、魔力を溜め込み、一気に放つ。
「ふんっ、そんな攻撃で私に勝てるとでも思ったのかしら」
「くっ……!」
レーヴァテインを造りレミリアに突っ込むが、その前にレミリアが先手を打つ。
「無駄よ!『スカーレットディスティニー』」
無数の槍状の弾が放たれ、フランは直撃してしまう。
「うがっ……っ!」
仰け反りながらも、更に巨大なレーヴァテインを生み出し無理やり弾幕を弾き飛ばした。
「……ふぅ」
「やるじゃない……成長したという事かしら」
「私はもう昔の弱い自分とは違うわ」
「それはどうかしらね」
フランが徐々に力を溜めつつあることにレミリアが気づく。
「……今に分かるわ」
♢
「霊夢! 柊は任せる!私はフランの方に行く!」
「分かったわ」
言って、魔理沙は柊の元へ飛んだ。
フランとレミリアは、本気の殺陣を始める。
漆黒の剣と灼熱の刃。互いに鍔迫り合いをするが、どちらも一歩も引かない。
「フラン! 我儘を言うのはいい加減やめなさい…!」
「もう私は良い子でいるのはやめる。貴方の言葉に従う引きこもりなんて飽きたわ……それに……どうして分かってくれないの!」
「何の話をしているの……! 貴方は本当に分からない……!」
「分からないなら教えてあげる! お姉様も本当は私にここに居て欲しいんでしょ!?」
「…………!」
フランの一言がレミリアに刺さる。
「だから……私の邪魔しないで、この世界を壊しちゃいけないって言うんだったら、壊さなければいいだけの話でしょ」
「……ッ…… その通りだけれど、でもそれが出来ないことは自分が一番よくわかっている筈でしょ? 貴方は賢いんだから余計にね」
「じゃあお姉様は、私をどうしたいの?」
「……私は……貴方を……」
それから先の言葉は中々紡がれず、フランが話を続けた。
「……『We live together』」
「! それ……フラン、なんで……」
「もういいよ、お姉様」
「……」
レミリアは一瞬黙ったかと思いきや。
「……もう何を言っても止まらないわね」
「ええ! お姉様が何言ったって……聞かないわ! だってお──」
「なら、力尽くで眠らせてあげる。悪い子にはお仕置きしなきゃ」
腹に肘を入れ、翼を鷲掴み、そのまま背中に蹴りを入れ続けて、抵抗させないまま、下に叩きつける。
「ぐぅううう!!!」
ただ、フランもすぐに上昇し、取っ組み合う。
「く、ぅ……!」
「姉に実力で勝とうなんて……甘いのよ……!」
両手を互いに掴みあう。鷲掴み合む力を高め合いながら睨む…が、フランが一瞬力を抜く。
「!」
するとレミリアも力を抜いて一旦引いた。
その行動でフランは確信する。
「なんで、力抜いたの」
「……別に、様子を見ようと思っただけよ」
「嘘よ! そのまま握ってたら私を傷つけちゃうからでしょ!?」
「……急にどうしたのよフラン……こんなの見えなかったのに……」
「……私は」
内心グチャグチャで何から話せばいいんだろう。そうくぐもっていても、フランはどうにかして気持ちを伝えようとする。
「……もう、こんなの嫌。気持ち悪いだけだわ」
「……」
フランがレーヴァテインを消した時。
レミリアも手にしたグングニルを消した。
思いっきり首を横に振る。
「それだけ、じゃない…この霧は、私を外に出す為の霧でもあるから.」
「……そんなこと、誰から聞いたの」
「パチュリーよ、それにその事が書いてある紙も見た。 お姉様が私と一緒に外に出られるよう画策していたことだってもう知ってる」
「……そう」
一瞬フランの脳裏によぎる数百年前の記憶。精巧には覚えていないが、そこには小さな少女が映っていた。
血塗られた腕と、誰かを抱擁する腕。
「……お姉様は今まで私を守ってくれてた」
何十年も、何百年も。レミリアはフランの未来を見続けていた。いつ誰に危害を加えないか、危害を加えられないか。
「あの時はお姉様のやっていた事わたしには難しくて分からなくて…何回も傷ついた…けど」
レミリアの手を握り、フランは言う。
「今ならわかる……お姉様は私を守ろうとしてくれてた。だから、今度こそちゃんと謝りたい」
そしてフランは頭を下げた。
「ごめんなさい」
「フラン……」
それを見たレミリアはしばらく呆然としていたが、やがてクスッと笑った。そしてレミリアも、申し訳なさそうな顔をする。
「……フラン……私も、いえ、謝るべきは私の方よ」
「……え?」
思いがけない返答に、戸惑う。
「……その、今回もまた、愚かな人間に言いくるめられて暴れたのかと思ってたわ。……でも本当に違うのね」
苦しそうな顔でレミリアは続けた。
「私は貴女の意見を聞かずに…勝手に閉じ込めた。それしか貴女を守る方法がないと思ってたから。そんな訳ないのにね。ごめんなさいフラン……たった一人の…私だけの妹なのに、私に貴女を助ける力がなくて」
「! そんな事──」
「あるのよ、そんな事。現にこうして、貴女の気持ちに気づけなかった。こんなにも長い間」
フランの頬を伝う涙を、レミリアが払う。そしてレミリアはフランより近づいて、フランの身体を抱きしめた。
「……お姉様、私、自分の悪い部分とも向き合うから、頑張って衝動も抑えるから…だから」
「……ごめんなさい、そうよね、私はどうしようもなく愚かだから…近づこうとしなかった。こうしてただ抱き締めてやれば良かったのよね」
今までの鬱憤が溜まっていたかのように泣きじゃくるフランに、優しく語りかけるようにレミリアは言った。
「結局私は助けられてばかりなのね。……私がもっと早く勇気を出していれば良かったのに……」
そして、花のように透き通る笑顔でフランに告げる。
「本当に貴方を愛してる。貴方は世界でたった一人の私の大切な妹よ」
この異変は解決だ。
「私もごめんなさい。……これからは、力の制御だって頑張るから、私もっとお姉様とお話ししたい」
「……無理に歩み寄ろうとしなくてもいいわ。貴女があの人間に助けられたのなら、あいつについて行っても……もう、わたしには止める資格なんてないし」
フランには理性がない、と決め付けていたレミリアには、今のフランを咎める権利はなかった。だが。
「そんな必要ないわ。だって今ならちゃんと分かり合えるでしょう?」
「……私は──」
「……ありがとう、お姉様。でももう大丈夫だよ」
「……! ……そう、分かったわ」
優しく手を離す。だが、心は確かに繋がったままで。
「 でももしお姉様が私にやった事に納得いかないんなら、弾幕ごっこで白黒つけましょお姉様!」
「!……そうね。それなら互いに溜まってた今までの鬱憤も全部ここで出し切っちゃいましょう。けどフラン! やるとなったら私も全力で行くわよ?」
「構わないわ! こっちには柊がいるんだもの! お姉様、私もこの戦いでこれまでの嫌だったこと全部ぶつけるわ!そして、 これからのお姉様との楽しい日々の為に戦うの!」
「……えぇ、いい覚悟だわ。それでこそ私の妹よ」
これまでの贖罪、その為に戦う。もはやこの異変に危険性はないだろう。
今から始まるのは、ただの姉妹喧嘩だ。
「あとは……霧が無くなれば一件落着だな」
「ったく人騒がせな姉妹だぜ」
「は〜私はこれで終わってせいせいするわ、ほんとに疲れたんだから今回の異変…って柊!」
「ん?……って!!?」
弾幕がモロに当たる。それは見た目以上に高威力で、中に鉛玉を埋め込んでいるかのようだ。
「いたた…なんだぁ!?」
♢
「……貴女の王子様、へぼっちいけど?」
クスッと笑う。
「あれえ? 友人から知人に格下げかなぁ?」
「フランあなた意外と辛辣なのね…」
「ちょっと待っててね?……やっ!」
一気に柊の元まで跳躍するフラン。
「柊! 手を掴んで! お姉様やっつけるわよ!」
「え…いや、姉妹喧嘩に割り込むのは……」
フランが手を掴み、空を飛ぶ。
「いいから一緒に戦ってよね!」
「そこまで言うなら手伝うよ」
柊とフランが並び、レミリアと対峙する。
「うふふ、何人で来ようとも私には敵わないわよ?」
「円満に解決したのはいいけどさ、霧払ってくれよ」
レミリア、その顔は、清々しく、何か吹っ切れたような顔で、子供の体躯とは思えないほど凛々しく見える。
「そうね、色々と悪かったわ。そしてありがとう礼を言うわね…私はレミリア・スカーレット。よろしく」
「そうか、俺は夢知月 柊。よろしく。霧払って」
「ええ、よろしく夢知月。貴方の血液型は何かしら」
「あんたも咲夜って人の話信じてんのか?……一応言っとくけどO型ってアルファベットのOじゃなくてゼロって意味だからな。あと霧」
「ふーんそうなの? その話は追々聞かせて頂戴」
「なんで無視すんの……」
「ふふ、霧なら私を倒したら払ってあげるわ」
そう言うとレミリアは翼を広げてこちらへ接近する。
「フラン、俺を抱えてちゃ戦いづらい筈だ、俺に気にせず戦え!」
バッタレッグを起動する。そして壁を蹴り跳躍し、レミリアの元へ。
「ふふ、私の妹を救った人間の力…見せてもらうわ!」
「はぁ!!」
吸血鬼の固有能力ともいえる、鋭利な爪。それにトラクローで対抗する。
互いに立てた爪が交錯し、甲高い音を立てる。現状、互角だった。
「やるわね!」
「いや、あんた力抜いてるな!」
「いいえ? これの為に時間を稼いだだけよ」
レミリアは横に魔方陣を召喚。
魔方陣から射出される弾幕が柊を覆う。
「ぐっ!」
なんとか避けようとするが、数が多く被弾してしまう。その隙を狙ってレミリアが腕を振り上げる。
「ぐぉぉ……あぎぎぎ!」
「へぇ……! これを抑えるのね」
レミリアの爪をトラクローで間一髪抑え込む。
「フラン!」
「うん!」
レミリアが後ろに下がると同時にフランがレミリアの懐に飛び込んでいく。
「禁忌『レーヴァテイン』!」
フランがスペルカードを発動すると、右手に炎剣が出現する。
「はああああ!!!」
そのまま勢いよく振り下ろす。
レミリアはそれをバックステップで回避するが、フランの攻撃はそこで終わらなかった。
フランが手をかざすと、レミリアの周囲に無数の魔方陣が現れる。
「禁忌『クランベリートラップ』」
「ぐぁっ……!」
魔法陣から次々と魔弾がレミリアに炸裂する。
しかしレミリアもただでは倒れず、両手を広げて力を溜め始める。
そして一気に手を握ると、フランが展開していた魔方陣が一斉に消滅した。
「はぁ……はぁ……もう終わりかしら?」
レミリアが余裕そうな表情を見せる。
「そらっ!」
「!?」
いつの間にか姿を消していた柊がレミリアの背後から蹴りを入れ込む。
「ぎっ……! その足で跳んで姿を隠してたか……!」
「!」
レミリアは負けじと柊に接近し、肉弾戦へと移る。
「はい、ほい」
「ッ…!」
レミリアの拳や肘打ちが、まるで大砲のような威力を持って繰り出される。だが、それはフランによって阻まれた。
「させないよ? 禁符『禁じられた遊び』!」
レミリアの周りに大量の魔方陣が展開される。そこから放たれたのは魔弾ではなく、剣だった。
「良い連携じゃない。通用すると思うわよ、私以外にはね」
レミリアは両手からチェーンを出し放たれた剣全てを包括した。
「まだだよ」
フランが指を鳴らすと、レミリアが立っていた場所に大爆発が起こる。爆風に煽られ、レミリアが体勢を崩したところに柊の追撃がすかさず繰り出された。
「甘いわね!」
追撃は華麗に迎撃され、柊は吹き飛ばされた。
「あら? もうおしまい? まぁ良いわ、フラン! 私も疲れてきたし、ここいらで異変を終わりにしましょう」
レミリアはその手の平を開き、力を集める。
「ええ、お姉様!」
レミリアに呼応して、フランも手のひらに力を集める。
それはただ、お互いの全ての負の想い捻り出した弾幕である。
互いに今までの嫌な記憶を、爆散するようにとありったけ込めた願いの力。
♢
「ぶえっ…げほっげほっ……!まずい!!」
どう見ても、レミリアの貯めたエネルギーの方が大きい。このままではフランが押し負ける。
「近くにいるのは……」
手が空いていて、かつ一番近い──霊夢に向けて声を荒げた。
「霊夢! 頼む俺を投げ飛ばせ!! 説明はなし! せーので投げろ!」
「!?」
いきなり問いかけられた霊夢は一瞬停止するが知るかと言わんばかりに柊は準備を進めていく。
「行くぞ!」
「え!? ちょ……ああ、もう!!」
流石の対応の速さで、言われた霊夢はすぐに柊の襟首を掴む。
「「せーの……で!!」」
かつてない邪気のこもった笑顔で。霊夢はぶん投げた。それと同じタイミングで、渾身の力で地面を踏み抜く。
「うぉおおおおお!!!」
オースキャナーはもう使わない、否使えない。体力がもう残っていないのだ。霊夢の霊力補給抜きにスキャニングチャージはできない事は理解している。
だからこそ、最大限に威力を込めるにはこれしか思いつかなかった。
「タトバ……オラアァ!!!!」
♢
赤い翼で飛柊し、拳を突き上げるように構える。右足に全エネルギーを集め、その勢いのまま跳躍する。右足の先に炎が灯り、全身に力がみなぎっていく。
「は!? 貴方も……いいわ! 二人揃って全力で来なさい!」
勢いをつけただけのただの蹴りで、レミリアの弾幕を押し返す。柊にはそれしか思いつかなかった。
「柊!?」
「フラン思いっきりぶちかませ!!」
「うん! はぁあああ!!」
フランの放った弾幕を加速させるように蹴りを繰り出す。
「をりゃぁぁああ!!!!」
それはレミリアのレーザー型弾幕とぶつかり合い、交差した。
「っち! 押されてる……!」
「人間弾幕とな……小賢しい…非力な人間が随分と派手にやるものね!」
レミリアは先程までの余裕綽々な態度から一変し、額に汗を浮かべていた。
レミリアが放っているのは、自身の魔力と妖力を混ぜ合わせた強力な弾幕である。しかし、その弾幕はあまりにも強力すぎるため、レミリア自身長くは持たないことをレミリア自身がよく理解していた。
「負けないよ! 私は! だって今なら進むしかないもの!!」
気苦労なんてない、フランの裏のない言葉には確かに力が宿っていた。だが。
「くくっ成長したわねフラン。……それでも、勝つのは私! たかが二人の力くらい押し返してやる!!」
「グゥぅクッソ〜!!」
フランの気合だけでは押し返せないだけの力の差がある。そう、フランの気合
──《SCANNING CHARGE》!
「……なっ押されている!? なぜ!?」
電子音声と共にオーズドライバーからエネルギーが解放され、右足に収束する。
「この一撃に全部込める……!……ぁぁあああ!!」
柊の気合いも込めた、全身全霊の一撃。この一撃で必ず勝敗が決まる。
「フラン! 決めるぞ!!」
「うん! 行くよ!? 柊も私より大っきい力を振り絞ってみなよ!」
「ああ、行くぜ!!」
「「はぁぁぁぁああああ……」」
「「せいや──ー!!!!」」
蹴りを繰り出した柊の足にOOOの紋章が浮かび。
「……ふふ、強くなったわね、フラン」
爆発した。紅魔館全体が震えるほどの衝撃が走る。そして紅魔館の時計台が粉々に砕けた。
その破片は空高く舞い上がり消えていく。
「ゼェ…ゼェ…や、やったのね……」
爆風の中から、ボロボロになったレミリアが現れる。
「……暫く寝るわ」
一人空に向かってそう言い残しながら、目を瞑った。
「落ち…るぅう!」
そして変身の解けた柊はそのまま落下して行く。
「柊! 手、掴め!」
呼びかけながらこちらに近づく魔理沙。
「ま、りさ!」
柊は魔理沙との位置、地面との距離を咄嗟に測って気づいた。
──あ、ダメだ。マジか、これで俺の人生終わるのか。
けれど柊は助かった。
「危なかったな…無事か?」
「…え?」
白髪の少女が、柊を掴んでそう言った。
「まったく、世話の焼ける奴だなお前。凄い心配されてたんだぞ?」
「あぶねーな!! 助かったぜ! そこのお前!!」
「ああ、知り合いに頼まれたんでな」
「……知り合……」
「ま、それは後で話す。もう寝てて良いぞ……ってもう寝てるし。喋りながら寝るなんて器用な奴」
「これで異変は解決かしら? 霧……はもう晴れてるわね」
霊夢は、先程まで霧だったものが今は青空となっているのを見て呟いた。
これで、紅霧異変は無事幕を遂げた。