「ほらほら早くお姉様、もう起きてるかもよ〜?」
「そう慌てないでフラン。ふふ、でもまぁはしゃぐのもたまにはいいかもね」
走りながらドアを開ける金髪の少女。そして後ろから微笑ましそうに見つめる青紫色した髪の少女。
「お嬢様、本当によろしいのですか?」
「ええ大丈夫よ、それとも貴女は姉妹水入らずの時間を妨げるのかしら?」
「滅相もありません。どうかお気をつけて」
「ありがとう」
正面を向きなおすと日傘を差している金髪の少女は足を止めてこちらを見ていた。
「どうかした? フラン」
「私、今から本当に外に出れるのね……」
「ええ、そうよ。というか貴女私と闘った時に出たでしょう?」
「あれは違うわ、ノーカンよ。今日から初めてだもん」
クク、私に似て身勝手ね。レミリアは笑いながら思った。
自分はこんなにも自由なのに、この子は閉じ込められて生きてきた。でもそれももう終わりだ。
「だって、私とお姉様が一緒に外に出かける初めての日でしょ? だったらそれが私にとっても初めて外に出る日だよ!」
向日葵のような屈託のない笑顔で、無邪気な言葉を発する我が妹。
それは何者にも変えられない大切な子。
その子にこんな事言われて嬉しくない奴なんかいないだろう。
「……そうね、この一歩でようやく皆んな家族だものね」
「うん! だからほらほら美鈴も咲夜も! 皆んなも集まってよ!」
自分と妹を見守る者達を招集する。一体この子は何をする気だろうか。
「せーので、この門を渡りましょ!」
「ふふ、分かったわ。そうしましょうか、貴女達も付き合いなさい」
咲夜、美鈴、そして妖精メイド達が集う。
この一歩は私達の一歩、そして皆んなは私達の家族同然だ、そりゃ当然全員で渡ろうということにもなる。そして私の家族達の顔を見ると、自慢の門番はおろか最高の従者まで顔が綻んでいるではないか。私の親友は照れ臭そうにしているけど。
考えてみれば、こうやって皆んなで何かをやる事というのは極端に少なかった気もする。
「……さて」
さぁ行こう、私達は今ここから始まるんだ。
そして、私は思う、この瞬間に。
これから先、幾度と無くあるであろう出来事を。嬉しいことだったり嫌なことだったり、それこそ多くの出来事を。
その度に思い出すのだ、私がどれだけ幸せなのかを。
これはそんな幸せの始まりの話。私は、今日という日に誓おう。この幸せを絶対に忘れないと。
何故ならこの約束は、今までも、そしてきっと、未来永劫、永遠に守られるのだから。
もう私は、二度とこの子を裏切らない。
そして、全員揃ったところで彼女は言う。
「うん、 それじゃいくよ〜? せ──っのっ!!」
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夢を見た。
洒落た服を着た二人の姉妹が笑顔で、話している。それを見るのは微笑ましいが退屈で、退窟だった。
眼を開ける。そう脳に信号を流す。けれど以前眼は開けられない。
この体験はいつぶりだろうか。
開けようとしてもなお、重い瞼。なんとか半目になりながらも陽射しを受ける。
「く、ぅぅ……」
不思議と身体は重くない。完治しているからか、スッと動く。
「貴方、もう自分で動けるのね…」
長い綺麗な銀髪に三つ編み、真ん中分けした前髪でも子供らしさを感じない。
それより奇妙なのは服だ。
紺と赤左右で色が違う服を着ている。新種のお洒落か。
「院長さんですか?」
「ええ、八意 永琳です。それよりも……」
永琳と呼称する少女は柊の喉仏などを触診しながら呟く。
「喉も声も異常なし、か。異常がないことが異常そのものね。いや、おかしくはないのかしら」
どうにも要領を得ず困り果てた様子で永琳は呟く。
「とりあえず待っていてください」
「?……はい」
言われて待つこと数分弱。
「おっはよ〜! 柊! 久しぶり!!」
「わっ!?」
元気に布団に抱きついてくるフラン。
「おはよう、俺は久しぶりではないかな」
寝てる体感も一日くらいしか感覚がなかった。だから一日寝て、ここで寝てたらフランが来た。という感じだが、フランの言葉を察するにあれから大分時間が経ったのだと理解した。
「まぁいいや……うっ!」
立つと少しばかり身体に痛みが入る。
「あら? 情けない姿をフランに見せないでくれるかしら?」
素直に歩けばいいものを、わざわざ天井スレスレに飛んでくるレミリア。
「久しぶりですね、レミリア
レミリアがニヤリ、と笑った。
「あら、しっかり立場を弁えてるのね。あいつらと大違いだわ」
「霊夢達のこと? あの気が強い人たちとは一緒にしないでくださいよ。小心者の人間ですよ」
そう言いながら、柊は少しだけ身構えた。
「ふ〜ん。ま、なんでも良いけど」
「?」
「仮にも私に勝った奴にメソメソされてたらこっちが腹立つのよ」
「いっづ!!?」
布団の中の足のすねを蹴られる。
「早く元気出してフランの遊び道具になる事ね」
「いつでもお家に来てよ、 一緒に遊ぼ」
「もう殺し合いは勘弁だぞ?」
「にひ、わかってる」
一通り話すと、身支度を始める二人。
「もう帰るのか?」
「あら、私たちが居なくなって寂しいのかしら?」
「うん、少しはね」
寂しがるのは当然だ。
「そう素直なのは美徳ね」
「ははっ、ビックリした?」
「なわけ無いわ、私に認められたかったらもっと力を手に入れる事ね」
案外サッパリしているレミリア。強くなったら認めてくれるのか。
「霊夢たちに貴方の回復を伝えるわ、こんな辛気臭い所さっさと出なさいよ。アルコール臭いし」
「? あいつらに言う必要あるか?」
「一応ね、宴会では貴方の存在も必要でしょ」
「宴会?」
「ええ、宴会があるわ。明日だけれど」
横のお医者様が口を挟む。
「お見舞いに来て早々無茶させないで下さい。彼はまだ万全ではありませんから」
「ああ、分かってる。明日こいつが来るかどうかもな。ただ宴会があると伝えに来たのとお見舞いに来ただけだよ私たちは。それじゃあね」
「ま、分かった。それじゃフランも」
身体にペタペタくっ付いて離れないフランに言い聞かす。だが。
「もう少しお話ししましょうよ!」
「貴方が羨ましいわ、フランはわたしにはまだ抱きついてくれないのよ」
「いや、そんな事言われても、というかほんと丸くなりましたね、なんか」
姉妹間での険悪なムードが嘘だったかのようだ。
「今度きちんと借りは返すわよ」
「借りなんてそんな大袈裟な」
「はぁ、夢知ならぬ無知な貴方に説明してあげるとね、仮にも吸血鬼、それも紅魔館の主人であるこの私が誰かに借りを作るならまだしも借りを作られるなんてことあってはならないの」
人差し指を上げ、わざわざ羽で羽ばたき柊を見上げる。
「そういうものなんですか?」
「そういうものよ。仮に私が恩を返しきれないほど貰ったその時にはその人に付くのもやぶさかではない、それほど私にとっては大事な話なのよ。だから気を使いたいならありがたく私に恩を返させなさい」
「わ、分かりました。楽しみにしときますね」
「ふっ。貴方とはこれからもそれなりの因果が続きそうね」
レミリアが柊に手を差し出す。
「改めてお礼を言うわ夢知……いえ、柊、ありがとう。それと紅魔館共々よろしくね」
「こちらこそよろしく」
そして姉妹は日傘をして帰って行った。
「一応身体検査するから付いて来て頂戴」
「あ、はい。お願いします」
言われるがまま、医者さんの言う通りに検査する。
「う〜ん、健康体そのものよねぇ」
「そうですか、それじゃあ俺はこれで」
「そうね。それじゃ、何か聞きたい事とかないかしら?」
そう聞かれるが、柊は首を横に振る。
「別に。まずは慧音さんに謝りに行かないと」
「そ、ならこれ見て頂戴」
指差したのはカレンダー。
「一週間くらい寝てた癖にそんな反応なんて、案外サッパリしてるのね」
「い、一週間!?」
それは流石に驚いた。
「やっぱり気づいてなかったのね…」
良くそれだけ寝れたものだ。それでいて症状が無いのだから驚きである。その点ではむしろ彼は異常であると言える。
「俺、そんな心配されるほど酷い状況だったんです?」
「自分がどれだけやらかしたか覚えてないんですか?」
「それは分かってます。けどそんなに。相当な疲労をしていたか」
「もう少し自分の身体は労ったほうがいいと思うわ。保護者の方も心配してたし」
「保護者? どういう事です?」
そんなにか。まぁたしかに包帯巻き巻きだからおかしいなとは思った。
「最初の数日は先生が貴方を見守って居てくれたのよ、ごめんごめんって」
「慧音さん?」
「ええ」
また一つ迷惑を掛けてしまった。申し訳ないな。
「妹紅が急患で私の所に来たから何とか助かったものの……」
「妹紅って……あの白髪の人……?」
「ええ、後でお礼を言っとくと良いわ。知り合いなんでしょう?」
永琳はそうやって頷いたあと、悲しそうな顔で言う。
「自分の命がなくなったら、謝罪も出来ないんだから、死ぬような事は辞めなさいね。見た所あなたまだまだ若いでしょう?」
「はい。なんか、お医者さんって感じですね」
柊が言うと永琳はクスッと笑う。それを見た柊もつられて笑った。
「ありがとう。それじゃあもう行っていいわ、気をつけてね。少し先にあの子がいるから人里まで送って行って貰って」
「? はい。本当にありがとうございました」
支度をし、ドアを開けて、竹林を通る。
「色々、色んな人に迷惑かけたな」
独り言が漏れる。竹林は風が吹いてざわめいていた。すると、前方から誰かが歩いてくる音が聞こえる。
目を凝らすと人影が見えた。その人物はこちらに近づいて来るにつれて、姿がはっきりしてくる。
「? あの人……」
お医者さんに似た銀髪ないし白髪のロング。服はカッターシャツと赤いもんぺのようなズボン。前の異変時に助けてくれた人と姿が合致する。
「すいませーん、あの!」
「?……ああ、お前。もう身体は良いのか?」
「ええ、この通りです。助かりました、どうもどうも」
「皆まで言わなくてもいい。私は慧音に頼まれたから助けただけだよ」
「えっと、妹紅……さんですよね?」
「うん、そうだよ」
柊の体を一眼見て笑う。
「良ければお礼をさせて下さい」
「いいよそんなの。生きてくれてたらそれでいい。とにかく行きながら話そう。人里だろ?」
「持ちます」
妹紅が背にからっている薪を取ろうとする。
「い、いやいらん。気にするな」
「でも」
「ふぅ……分かった分かった。借りは今度返してもらうよ」
妹紅は少し恥ずかしそうな顔をしながら言う。本来ならこの台詞、逆の立場の人間が言うものだろう。と思いつつも口にはしなかった。
「お前休み明けだろうし、私が警護してやるから大丈夫だ。しっかり帰れる」
「申し訳ない」
「気にする事なんてないって。ガキが一丁前に責任持とうとするなよ。子どもらしくしてな」
前に慧音さんに聞いた話では、親友とも呼べる仲らしいが、とても似たり寄ったりではない。性格も外見も正反対と言ってもいいくらい違う。
しかし、不思議と似通ったところがあるように感じた。それはきっと、二人共優しい人だからなんだと思う。自分が妹紅さんの事を悪く思っていないのも、それが理由なのかもしれない。
「それじゃ改めて、私は藤原 妹紅。お前の事は慧音から聞いてるから、説明は良いよ。そっちも私のこと聞いてるか?」
「ええ、俺も聞いてはいたんですが、聞いた話と姿性格が一致していて安心です」
眉を少しピクッとさせる妹紅。
「ほう? なんと聞いてたんだ?」
「気が強くて、子供みたいな奴」
「……」
苦い顔を浮かべる。けれど、まだ説明を終わらせたわけではない、だからあんまり苦い顔しないで欲しい。
「それでいて根は親切で面倒見がいいって」
「! ふん、慧音め……」
嫌な印象を受けた訳ではなさそうだ、むしろ少し照れ隠し? も入っている気がする。
「あと、可愛いって言ってました」
「そ……うか」
今度は目に見えて照れている。顔を赤くして、そっぽを向くその姿は、自分も可愛いと思う。
「まぁ、私はどうでもいいがな!」
「あ、あはは……」
「そ、そろそろ着くぞ!」
「! 分かりました、ありがとうございました」
そう言うと、妹紅は何かモゾモゾとし始めた。
「? も、妹紅さん?」
妹紅は照れながら、頭をぽりぽりと掻いている。
「何か困った事があったら、言えよ。手を貸してやるから。そんで、慧音にはそのことしっかり言えよな?」
「ありがとうございます……嬉しいです」
「慧音の家族みたいな奴なんだろう? だったら見捨てるわけにもいかんからな」
根は優しい。ほんとうにその通りだ。慧音さんは碧眼だと思う。
「それじゃあな」
「本当にありがとうございました.!」
握手を交わし、妹紅は背中を向けて立ち去った。
久々の人里だ。門に着いたとき、帰ってきたんだ。と実感する。そして慧音の家のドアを開ける。
「……柊?」
「はい、ただいま」