山風の日記   作:fire-cat

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さいしゅうわだよ~。ぅわぁ〜い。パチパチパチ。


5月 5日~ 5月11日

5月 5日(月)

 秋雲ちゃんにも言われたけど、私もわかっていなかったわけじゃないんです。ただ、パパ達のことを成る丈考えないようにしていただけです。養子縁組までしてもらっておきながらこのまま脩一さんの所まで行くという事はパパ達に、この鎮守府に対する裏切り以外の何者でもありません。これだけ親身になって、これだけ本気になって、私のことを考えてくれているんですから。それはわかっているんです、わかっているんです、脩一さん。でも私は!

 

5月 6日(火)

 脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん、脩一さん。

 昔、一緒に撮ってもらった写真をアルバムからはがして、目の前の壁に貼ってみました。せめて、写真の脩一さんだけでも見ていたい。

 一生、右足が不自由になっていてもかまいません。そんなこと、死んでしまうことを考えたら全然何でもない事じゃないですか。不自由な分は私がずっと傍にいて助けます、助けますから。

 

5月 7日(水)

 返事がきた! 「昔みたいに一緒にいられたら」って。脩一さん! 本当にそんな風に考えてくれてたの? でも、一番ショックだったのは「山風の気持ちはすごくうれしい。でも、今いる鎮守府の事はどうするんだ? 俺の鎮守府を飛び出した山風を保護してくれて大切にしてくれてるんじゃないかな? 戻ってきてくれるなら正規の手続きを踏んで、俺の後輩に迷惑をかけないようにして欲しい」っていう言葉。でも私、今は自分のことしか考えられないんです。

 

5月 8日(木)

 まだ脩一さんへ返事を書けない。あれだけ、なにがなんでも脩一さんの所へ行くつもりだったのに、皆のことを考えると気持ちが揺れちゃって。でもいくら考えても、いくら悩んでも、絶対に答えなんかだせるわけないもん! だって! 

 ……でも、やっぱり脩一さんの所に行くのは諦めた方が良いのかなぁ。ただ脩一さんが生きていてくれたってことだけを励みに、ここで皆と一緒に幸せな生活を送る方がいいのかなぁ。

 取り敢えず一度会いに行って、また鎮守府に戻って異動を待つのが、普通なんだよね。皆とっくに私の様子がおかしいのに気付いてるみたいだから、なかなか言い出せない。きっと、会いにいくだけだったら許してくれるだろう。でも、そんなんじゃ、私が我慢できない! どうすればいいっていうの、この私に。

 

5月 9日(金)

 今日、返事を出しました。私の決めたことを書いて。決心したんです。明日、パパ達に打ち明けます。胸のうちが嘘のようにすっきりしました。これでよかったんだ、きっと。昔の私だったら、こんなに大事なこと、きっと自分で決めることなんかできなかったでしょう。また飛び出しちゃったかも。そんな弱い私が、まがりなりにも自分で考えて行動できるように育ててくれたのはパパ、いえ私の提督、あなたのおかげだったんです。

 

5月10日(土)

 今日、パパ達に私の気持ちを伝えました。話してるうちに泣きそうになっちゃったから、最後の方はちゃんとうまく話せてなかったと思う。なんか、胸がいっぱいで。でも、パパが黙って私に書類を見せてくれました。書類を見たら異動手続きが完了したって内容だったんです。脩一さんの生存が判った後から急いで臨時異動の手続きを進めていたそうです、多分私が無理にでも出ていくだろうから、それなら先輩の下に正規に異動させた方がいいからね。って。そしてここは山風の家でもあるのだからいつでも戻ってきなさいって。私の事、ほんとに良く判っていたんですね。私の我儘で本当に迷惑をかけちゃったこと、ごめんなさい、そして本当にありがとうございました。

  

5月11日(日)

 お部屋の後片付けと荷造りが終わりました。ガランとした自分のお部屋を見てると、なんだかはじめて鎮守府に来たときのことを思いだしちゃった。あの頃はパパ達の事が、まだ信じられなくって、ずいぶん窮屈な思いをしてたなって。私って、本当に馬鹿な娘だったんだなぁ。もちろん、今でもそのまんまなんだけど。

 何も残していけないから、日記帳と「ムーミン谷の冬」の絵を残していきます。たまには私のこと、思い出してほしいから。

 最後に私の想いを日記に書いておきます。この恥ずかしい日記帳と一緒に受け取ってください。

 

 

 わがままばかりの1年だったと思います。そのなかでも最高の我儘につきあってくれてありがとう、パパ。

 お世話になりっぱなしでなんにも恩返しできないうちにこんな形で別れることになってしまって、ごめんなさい。

 でも、私はこれが最後の別れだとは思ってません。脩一さんと落ち着いたら、ここに一度は戻ってきます。

 それでパパにも脩一さんと会ってもらって、私のパートナーとして脩一さんをきちっと紹介しようって思ってるんです。脩一さんとパパは先輩後輩の仲でお互いに知っていると思うけど、私は仮でもパパの娘で、脩一さんはパパから見たら娘婿。義父への挨拶は大事ですから。これも勝手な想いかもしれませんが、パパは心の底から父親だって思えた大切な人だし、それにここも私の大事な場所だから。

 いつでも私のことを考えてくれてて、いろんなことで迷ってた私を助けてくれた家族もいて私がこの姿でこれまで過ごしたなかでは、本当に充実した1年間でした。

 ここで一緒に過ごした時間を大切な宝物にして、脩一さんの所へ行かせてもらいます。

 ごめんなさい、これ以上は書けません。パパ達とのいろんな想い出が後から後から頭の中に出てきちゃって。

 本当にお世話になりました。

 

 

 あ、最後に、恥ずかしいけどパパに。        

                  

【挿絵表示】

                  

 

 ママ達には内緒だよ♪

 

 

 

 

 

 

 




最後のアレは、村雨の日記と同じように草書体で、【やまかぜ】と平仮名で書いてあります。


これで山風の日記の本編は完結となります。
2年ぶりに復活させたものではありますが、最後までお読み頂きありがとうございました。

6/20に山風からの手紙を投稿しますが、それで山風の日記は全て完結となります。
後日談はありません。今のところは。

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