ケッコン届を見た瑞鶴が誤解の果てに幸せになる話 作:サリチル酸
初めての二次創作なのでお手柔らかによろしく。
――その出会いを覚えている。
右も左もわからず、今から思えば無茶苦茶な分量で行った初めての建造で現れた彼女のことを。
『――あなたが提督さん?』
『はい、私があなたの提督です』
そう首肯する私に彼女は笑顔で敬礼して言った。
『翔鶴型航空母艦2番艦、妹の瑞鶴です。これからよろしくね、提督さん!』
その時から彼女――瑞鶴は私の秘書官となり、私たちは数々の戦いを共に潜り抜けた。
『見たか、これが五航戦の本当の力よ!どうよ提督さん!』
『素晴らしい戦果です。さすが瑞鶴さん』
『へへ、ありがとっ!』
――ある時は獅子奮迅の活躍で敵艦を壊滅させ、
『ごめん、提督さん……私が大破しなければ……』
『そんなことはいいです!早く入渠を!』
――ある時は沖ノ島の強敵に何度も叩きのめされ、
『やった!提督さん、改造完了したよ!』
『おめでとうございます、瑞鶴さん』
『むー、いい加減さん付けは辞めてよ』
『すいません。どうにもこれが一番落ち着くので……』
『むー!』
――ある時は改造の成功を喜びあい、
『七面鳥ですって!?冗談じゃないわ‼』
『瑞鶴さん落ち着いて!相手は駆逐の子です!』
――ある時はクリスマスが大惨事になりかけ、
『では今回もよろしくお願いします。瑞鶴さん』
『うん!任せといて、提督さん!』
――いつしか二人の間には、確固たる絆が完成していた。
これはそんな鎮守府で、瑞鶴が誤解の果てに幸せになる話。
(むぅ……)
とある日、鎮守府内の食堂にて。
翔鶴型航空母艦2番艦瑞鶴は暇を持て余していた。
――北方海域における他の鎮守府との共同作戦を終え、鎮守府はしばしの平穏の中にあった。
鎮守府のほぼすべてのメンバーが出陣し奮戦。結果、深海棲艦との戦いに勝利し多数の新たなメンバーを獲得することに成功した。
しかし艦娘たちの疲労は溜まり資材は底をついたため、艦娘たちを労わるという意味も含め提督はほぼすべての艦娘たちに一週間の休暇を与えたのだった。
それは着任以来共に戦ってきた瑞鶴も例外ではなく――
(……確かに疲れてたけどさあ)
常に秘書官として提督の隣にいた瑞鶴にも一週間の休暇が与えられていた。
最初こそ瑞鶴も休暇を素直に喜び、姉の翔鶴などと共に鎮守府の外に繰り出したりもした。
だがどれだけ遊ぼうとも現在進行形で働いているであろう提督のことを考えると、瑞鶴はどうにも楽しめなかったのだ。
(……休暇はあと三日)
まがいなりにも軍である鎮守府で、一週間どころか三日であっても連続の休暇は非常に貴重だ。
そんな中で秘書官として仕事をさせるなど酷だろうと、提督も瑞鶴を秘書官から外したのだろうが――
「――うん。やっぱり提督さんには私がいてあげないとね」
それは瑞鶴も同じ。
艦娘として目覚めて以来ずっと一緒に戦ってきた提督が一人で仕事をしているのに自分だけ休暇であるのは気分が悪いし――なにより性に合わない。
(よっし!そうと決まればさっそく実行!)
残っていたお茶を一気に飲み干して席から立ちあがる。
その時の瑞鶴の顔はこの一週間で一番イキイキとしたものであったという。
――そして十分後。
はたから聞けば惚気にしか聞こえない独り言を聞かれ、駆逐艦たちの間で恋バナとして盛大に広まっていることも知らず瑞鶴は執務室の前に来ていた。
「提督さーん、いるー?」
ノックして聞いてみても返事が無い。
鍵は開いているようなので、いつものように中に入る瑞鶴。
案の定、執務室にはひと段落したと思われる書類の山が積みあがっているだけだった。
「……むう。せっかく来てあげたのに」
頬を膨らませながら積み上げられた書類を確認する。
少しチェックしてみるも、これといったミスが欠片もない。
自分たちの提督としてはミスが無いのは非常に非常にありがたいことではあるのだが――
『すいません瑞鶴さん。わざわざ休暇にこんな……』
『いーのいーの!私が好きでやってるんだから!』(ウインク!)
『瑞鶴さん……!』
――的な展開を予想していた瑞鶴にとっては仕事が終わっているというのは面白いものでは無い。
(こ、こうなったら意地でも間違いを見つけて……!)
本来の目的を完全に見失った瑞鶴が不毛な間違い探しを始めようとした時――
「……?なにこれ?」
瑞鶴の目に留まったのは一通の茶封筒。それ自体は珍しいものでは無いが、そこに押してある判が珍しいものであった。
「『厳重注意!提督以外開ケルベカラズ!』……?なにこれ?」
そこにあったのは厳重注意を謳う赤の判。長らく秘書官としてそこそこ多くの書類の処理に追われてきた瑞鶴が初めて見るような厳かな雰囲気がその茶封筒からは漂っていた。
「これ、提督さん以外開けちゃダメってことは秘書官でも中を見ちゃダメなんだよね……」
――この時、もし瑞鶴の精神状態がいつも通りであったなら、又はこの場所に提督がいたならば瑞鶴は中身を見ることはなかっただろう。
――この時、瑞鶴に起きた不幸は三つ。
すでに封筒が開いていたこと。
提督がその場にいなかったこと。
――そして
(こ、これを先に読んで提督さんにうまくアドバイスできれば……!)
提督に頼られたいという感情が少し暴走してしまったことであった。
見てはいけないものを見ているという背徳感に後押しされながら封筒を開けると、そこに入っていたのは一枚の書類。
(えーと、なになに?『ケッコン届』?ふーん。
……………………………………………………………………………へ?)
一瞬何のことか分からなかった瑞鶴も、一拍おいてその書類の意味を理解する。
「け、けっこんとどけぇぇぇぇぇ!?」
――こうしてここに、瑞鶴の幸せに至る勘違いが始まったのだ。
「ななななななんで提督さんがケッコン届を!?」
あまりにあり得ない出来事に自分が大声を出していることにも気が付かづ動揺する瑞鶴。
――ここで、この鎮守府の提督について軽く説明しておこう。
ここの提督の特徴を簡単に言うならば――『いい人』だ。
毎朝誰に起こされるでもなく定時に起床し、
休憩時間以外は徹底的に働き続け、
艦娘から何か要望を受けた時はきっちり返答し、
可能な限り艦娘たちに便宜を図り、
駆逐艦や潜水艦の少女たちの煩悩攻撃にも過激な反応をせず、
空母や戦艦などの大人な女性達を下衆な目線を見ることもなく、
一部の艦娘たちの間で提督ホモ説が出ていると知った時も思いっきり引きつった顔で説を否定するだけにとどめ、
その説から着想を受けたオータムクラウド先生の提督総受けR18本を読んでしまった時も震え声で表現の自由だからと言うだけにとどめ、
つまりはそういう人間だ。
極度に優秀で、適度に優しく、丁寧に艦娘たちに対して紳士的対応を取り続けるのがこの鎮守府の提督なのである。
話を戻そう。そんな提督が、女性に対しては徹底的に紳士的対応を取ってきた堅物すぎてホモ認定されかけてしまった提督が、まさか何の前触れもなくケッコン届を所持しているなど瑞鶴は夢にも思わなかったのである。
(おおおおおお落ち着きなさい瑞鶴!もしかしたら鎮守府の他の男の人のためのものかもしれないわ!まだこれが提督さんのものだって確証は――)
そこで瑞鶴は気づいてしまう。
残念なことに、この鎮守府には提督以外の男性はいないのだ。
(ま、まだわからないわよ!そ、そう!もしかしたらこれ女の子同士のためのものかもしれないし!雷巡の子たちのためとか!それだったら――)
そこで瑞鶴は再び気づく。
問題の結婚届。そこには――
『提督名: 』
『艦娘名: 』
(って!やっぱり提督と艦娘のためのものじゃないこれえええええええ!)
しっかりと名前記入欄に『提督名』と『艦娘名』と書かれていた。
ひとしきり脳内で絶叫した瑞鶴はいったん落ち着くことにした。
脳内で情報を整理していく。
提督が艦娘との結婚を考えていることはこの書類から明確だ。
ならば問題になるのが――
(…………提督さんが、誰と結婚するつもりかってことよね)
瑞鶴の頭の中で候補が次々と浮かんでいく。
――戦艦の中で一番提督を慕い、毎回大きな戦果を挙げる榛名だろうか?
――戦闘、艦装の整備の両方で大きな力となっている夕張だろうか?
――おおらかな性格で駆逐艦のまとめ役を任されている浦風だろうか?
――食堂の管理を一手に任され、この鎮守府全体のお母さん的な存在となりつつある間宮だろうか?
――それとも
(……わ、わたし……か、かな?)
その妄想で顔を真っ赤にさせる瑞鶴。
彼女とて今までずっと提督と一緒に戦ってきたのだ。提督に対して特別な感情がとっくに芽生えている。
(そそそんなこと急に言われても……!というかこういうのはもっと時間をかけて……!)
「……瑞鶴さん?」
「きゃあああああ!?」
と、瑞鶴が妄想を膨らませている間に、執務室に提督が戻ってきた。
後ろから提督に声を掛けられ思いっきり動揺する瑞鶴。
「ててててて提督さん!?なんでここに!?」
「なんでと言われましても……瑞鶴さんこそ何故ここに?」
提督からすれば仕事をしに戻ってみれば瑞鶴がいたので質問しただけなのだが――
『ケッコンカッコカリ届』を見てしまった瑞鶴からすればその言葉は尋問に等しかった。
「わ、私!?え、えええと!そう!間違えたの!」
「え?いったい何を――」
「そ、そういうわけだから!失礼します!」
ただでさえ動揺していたのに加え提督のエントリーというハプニングを受けた瑞鶴の思考が正常であるはずもなく、思いっきりテンパったまま意味不明な言い訳を残して瑞鶴は走り去った。
――ケッコン届を手に持ったまま。
「……いったい何だったのでしょうか」
――この時の理由を提督が知ることになるのはもう少し先のことである。
後編に続く
後編は明日投稿いたします。
さてE6周回に戻るか。