ケッコン届を見た瑞鶴が誤解の果てに幸せになる話   作:サリチル酸

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瑞鶴の目覚ましボイスを聞いてたらいつの間にか書き上げていたので初投稿です。

個人的には闇瑞鶴の目覚ましボイスが一番好き。



鎮守府を運営した瑞鶴が提督と手をつなぐ話

――これは瑞鶴と提督がケッコンしたその数週間後の話。

 

 

「~~♪」

 

朝早くまだ静かな廊下を瑞鶴は上機嫌に歩いていく。

何か特別なことがあるわけでもない。ただ今の瑞鶴は提督と会えるというだけで鼻歌を無警戒に奏でる程度には浮かれていた。

 

「~~~♪」

 

その理由は彼女の指に光る一つの指輪。提督と結ばれた証である。

 

「……ふふ」

 

指輪を見ながら瑞鶴はその時のことを思い出す。

自分のミスでケッコン届を持ち出してしまったこと。

それをこっそり返そうとして大ポカをやらかしたこと。

そしてなんやかんやで提督からプロポーズされたこと。

 

当時は恥ずかしく思いだすたびにベットの上で悶えていたが、今となっては全ていい思い出だ。

 

「……よし!」

 

過去を懐かしみながら執務室のドアノブに手を掛ける。

 

この扉の先にはいつも通り提督がいる。そのことを幸せに感じながら瑞鶴はドアを開け――

 

「提督さん、おはよっ!今日も一緒に頑張……って、あれ?」

 

ドアを開けて現れた執務室。しかしそこにはいるはずの提督がいなかった。

 

「……提督さーん?いないの?」

 

オフになっていた電灯をつけ中を見るも、執務室の中には誰もいない。

 

(……提督さん寝坊したのかな?珍しい)

 

少なくとも瑞鶴が秘書艦になってから――つまりこの鎮守府の最初期から――提督が秘書艦よりも遅く執務室に来ることは一度も無かった。

 

(そっか、提督さんが寝坊したんだ。ふーん……)

 

今まで遅刻すらしたことなかった提督が寝坊。

その普段からはあり得ない、少し非日常的な出来事が瑞鶴の悪戯心をくすぐった。

 

「……よっし!」

 

景気づけに一声出した瑞鶴は意気揚々と執務室を後にする。

向かう先は提督の部屋、

つまりは寝起きドッキリ大作戦である。

 

 

 

そして数分後。

 

「提督さーん、起きてるー?」

 

コンコンコンとドアを叩く、しかし中から返事は無い。

 

(本当に寝坊してるっぽい)

 

ドアノブを回そうとしても鍵がかかっていてドアは開かない。

そうなると部屋に入る方法は無いのだが――瑞鶴には一つだけ手があった。

 

「…………初めて使うのがこんな時なのは少し納得がいかないけど!」

 

そう言って取り出したのは一個の鍵。

何を隠そうこれは提督の私室の合いカギである。

 

――ことの発端はケッコン直後。

まだお互いを意識して微妙に気まずかったその時に、提督は瑞鶴にこれを差し出した。

 

『……瑞鶴さん、これを』

 

『ん?提督さん、これ何の鍵?』

 

『私の部屋の合鍵です』

 

『ふーん。…………え?』

 

『……いつか使う時が来ると思うので』

 

『え?え?…………え?』

 

『そ、それでは』

 

『ちょ、ちょっと待って提督さん!?これってその……!』

 

混乱する瑞鶴を尻目に提督はそそくさと去っていった。

 

結局のところ提督がどういう意味で合鍵を渡したのか、それは未だに不明である。

単に信頼の証として渡したのか。

妻となった瑞鶴といる時間を少しでも長くするために渡したのか。

 

――それとも夜戦的な意味合いで渡したのか。

 

「っ!」

 

その時を思い出して少し顔が熱くなる。

瑞鶴だってもちろんそういうことを想像しなかった訳ではない……ただ使う機会と聞く機会が巡ってこなかっただけだ。

ただ今はその想像は必要ない。そう自分に言い聞かせて考えるのを辞めようとするも、こういう妄想はそういう時こそムクムクと膨れ上がる。

終いには何だか提督を起こしに行くこと自体がいかがわしいことに思えてきて――

 

「ああもう!これはそんなんじゃないんだから!」

 

誰に言い訳するでもなく叫び、瑞鶴は鍵を入れる。

するとあっさりと鍵は回り、ドアは開いた。

 

「提督さん、入るよ……?」

 

扉からひょっこり顔を出し中を伺うが、提督からの反応は無い。

 

「お、おじゃましまーす……」

 

そろりそろりと入室する瑞鶴。

別にいかがわしいことをしているでも無いのだが、謎の背徳感が瑞鶴をそうさせていた。

 

そして数歩も歩くことなく、提督が寝ているはずのベッドが見える。

 

(い、いた。やっぱり寝てるみたい……)

 

そこには布団にくるまる提督がしっかりと存在していた。

顔は壁のほうを向いているためその様子を確認することはできないが、とりあえず入れ違いになることは無かったとホッとする。

――しかし、瑞鶴にとってはここからが本番である。

 

(……寝坊してるんだし起こさないとだよね、うん)

 

相変わらず謎の背徳感に苛まれながら、瑞鶴はベッドに近づいていく。

そして提督を起こそうと布団に手をかけて――

 

(ふぅー、よしっ!)

 

一つ息をついて、意を決してここに来るまでに考えていたセリフを口にする。

 

「提督さんっ、朝だよ!」

 

そう言いながら提督の体をゆする。しかし反応は無い。

 

「……むっ、いつまで寝てんの?」

 

ケッコンした女の子が起こしに来たのに何も反応しない――それに少しムッとした瑞鶴は、ここに来るまでに考えたとっておきのセリフを使うことにした。

 

未だに反応しない提督の布団を強くつかみ――

 

「いい加減にしないと……爆撃しちゃうよ!」

 

一気に提督からひっぺはがす!

 

――決まった、瑞鶴はそう確信する。何がどう決まったのかは置いておいて、瑞鶴は自身のユーモアを含んだ実用的な起こし方にほれぼれとした。

 

そしてひっぺはがした掛布団の下から、提督の姿が露になり――

 

(………………あれ?)

 

――瑞鶴はそのことに気付いた。

 

(あれ?提督さん、もしかして具合悪い?)

 

ここまでして何も反応しない提督に流石に瑞鶴は異変を感じ、慌てて提督の体に触れ、

 

「っ!すごい汗……!」

 

その異常に気付く。普段からはありえないであろうその現象に困惑していると、その本人から声が発された。

 

「…………瑞鶴、さん?」

 

「提督さん!?」

 

そこにいたのは顔を真っ赤にし、うつろな目をした提督だった。

 

「て、提督さん、大丈夫!?」

 

「……あまり、大丈夫ではないようです」

 

そう言う提督は明らかに弱っており、瑞鶴はそんな提督のおでこに手を触れる。

 

「すごい熱……あ、ごめん!いますぐお布団かけるから!」

 

そう言って先ほど取り払ってしまった布団を再び提督にかける。

 

「と、とりあえず何か欲しいものはある!?」

 

「……お水を、すこし」

 

「うん、分かった!」

 

提督の私室に備え付きの台所からコップに水を入れ、急いでそれをベッドまで運ぶ。

瑞鶴に渡されたそれを、提督はゆっくりと飲む。そして三分の一ほど飲んだところでゆっくりとコップを瑞鶴に返した。

 

「……どう、提督さん?」

 

「はい、ちょっと良くなった気が、します」

 

「本当?けど、今日はあんまり無理しちゃだめだよ?」

 

「……少しぐらいなら、仕事も」

 

「ダメに決まってるでしょ!?」

 

いつもは頼もしい提督の生真面目さも、こういう時だけは裏目に出る。

 

「ですが今日が期限の書類が……」

 

「ああもう!それくらいは私と大淀さんがやっておくから!提督さんはちゃんと風邪を治すこと!分かった!?」

 

「……はい」

 

 

こうして提督の仕事を全て引き受けることになった瑞鶴。

しかし彼女は知らなかった。

 

提督代理として鎮守府の運営はやることは山積みであり――いくら秘書官を日頃から務めていたとはいえ一筋縄ではいかないということを。

 

 

「えっと、今日は提督さんの体調不良により私が提督代理をやることになりました。提督さんの具合が良くなるまでですがよろしく……って、何か文句あるの一航戦!?」

 

――朝の食堂で提督の不在を発表し。

 

 

「えーっと、これがこうで、こっちがこれで……あれ?あー!もうっ!」

 

「瑞鶴さん、諦めちゃダメです!とりあえずその書類は一時間以内に終わらせないと!」

 

「うにゃあああああ!」

 

――書類の山とタイムリミットとの戦いを繰り広げ。

 

 

「あ、翔鶴姉。えっ、お医者さん来たの!?て、提督さんのところに行かなきゃ!」

 

「ちょ、瑞鶴さん!まだ書類が残ってます!」

 

「放して大淀さん!こういう時は妻として一緒にいてあげないと!」

 

「それ以前にこの書類を終わらせないと貴女の夫がいろいろとマズいんです‼」

 

――大淀と瑞鶴のひと悶着もあり。

 

 

「や、やっと締め切り前を切り抜けた……提督さんにお昼ご飯持ってかないと……え?さっき他の人が持って行ってくれたの?ふーん、ちなみに誰が?

 

………………比叡さんと磯風が?」

 

――病人に劇物を持っていこうとした二人を容赦なく爆撃し。

 

 

「何でお粥が真っ黒なのよ……何でおかゆにマーマイトが入ってるのよ……」

 

「――瑞鶴、瑞鶴!」

 

「あれ、どうしたの翔鶴姉」

 

「どうしたの、じゃないわよ!今日は午後から演習でしょ!?早く準備しないと!」

 

「わ、忘れてたーーーー!」

 

――今日の演習艦隊に自分が含まれていたことをすっかり忘れていたり。

 

 

「――瑞鶴さん、敵の魚雷来ました!」

 

「三時の方向に面舵一杯!」

 

「砲弾の装填が完了したぞ!もう撃っていいか!?」

 

「合わせて撃つからもうちょっと待って!」

 

「艦載機の準備、完了しました!」

 

「了解!全機発艦!やっちゃって!」

 

――旗艦として戦闘の指示を出したり。

 

 

――そんなこんなで、きっちりとフルで行われた演習が終わるころには日が沈みかけていた。

 

「うう、疲れた……」

 

瑞鶴はふらふらとした足取りで廊下を歩いていく。

本来ならば残っていたはずの書類をこなすために執務室に向かうはずだったのだが、

 

『いえ、後は私たちがやっておきますので……瑞鶴さんは提督の傍にいてあげてください』

 

そんなことを言われては従うしかない。

 

(提督さん、大丈夫かな……)

 

一応、提督の様子を定期的に見てくれた他の艦娘から、安静にしていればすぐに治るぐらいの風邪だと聞かされてはいるが、それらは全て又聞き情報。やはり自分の目で確認するまでは安心できなかった。

 

「提督さん、入るよ……?」

 

ドアを開け、朝以来の提督の部屋の入室する。

数歩で終わる廊下を抜けると、そこには落ち着いた様子で眠る提督がいた。

 

(……よかった、治ってきてるみたい)

 

朝からするとだいぶ良くなったように見える提督の顔を見ながら、瑞鶴は取り合えず安心した。

自分の目で提督の快方を確認した瑞鶴、周りのことを見る余裕ができたところでふとベッドに隣接している机の上を見ると――

 

(うわっ、すごい量のお見舞い)

 

机の上にお見舞い品の山があった。

 

お水やのど飴、クッキーや鶴の折り紙、変わったところでは赤ワインなど多種多様な品の数々。どれもこれもが提督を思ってのことだと理解できるようなラインナップだった。

 

(やっぱり、提督さんって好かれてるんだ……)

 

そのことを誇らしく思うとともに、ほんの少しだけ胸の奥がチクリと痛む。

 

わざわざお見舞いをしに来た艦娘たち、その中には異性として提督を好いている者もいたのではないのか?――それはそういった類の痛みだった。

 

(イヤだなぁ……)

 

そんな想像と、そんなことを考えてしまう自分が嫌になる。

 

もちろん瑞鶴とて提督を手放すつもりなど毛頭ない、提督と一生を添い遂げる覚悟だってとっくにできている。

だけどそれはそれとして――

 

(私で、よかったのかな)

 

そういうことを考えてしまう。

今日だってそうだ。提督の代わりと意気込んだものの、仕事に振り回されて自分の演習すら忘れる始末。

いや、今日だけじゃない。もっと早く提督の病気の予兆に気付いているべきだった。そうすればこんなことにはならなかったのに。

今日だけじゃない、昨日だけじゃない、ずっとずっと前から、きっと他の人なら上手くやれていた。

 

 

もし他の人だったら、私より上手くやれる人だったら、提督はもっと幸せに――

 

 

「…………瑞鶴さん?」

 

「っ!」

 

気が付けば、さっきまで寝ていたはずの提督の目が開いていた。

 

「ご、ごめん提督さん。起こしちゃった?」

 

「いえ、そうではないですが……」

 

悲壮な考えを無理やり取り除き、急遽作られた笑顔を振りまく。

そんな瑞鶴を提督はじっと見つめ――

 

「今日はありがとうございました。瑞鶴さんが代わりに提督役をしてくださったそうで……」

 

「あ、ううん!全然大丈夫!ちょっと疲れたぐらいだから!」

 

「……本当ですか?」

 

「う、うん」

 

微妙な沈黙が部屋に広がる。

提督によく見られたいという思いと、提督に嘘をついている罪悪感。

二つの感情に挟まれる瑞鶴を見ながら、提督はふと微笑んだ。

 

「……瑞鶴さん」

 

「あ、うん!なに、提督さん?」

 

「もう少し瑞鶴さんと話したいのですが……早く治すために、もう少し寝ようと思います」

 

「う、うん」

 

「ですがその前に――我儘を、一つ言ってもいいでしょうか?」

 

「我儘?別にいいけど……」

 

瑞鶴は少し困惑した。

今まで長い付き合いだが、提督がわがままを言うなんてことは初めてだったのだ。

どんなことを言われるのかと瑞鶴が身構える中、提督はゆっくりと口を開いた。

 

「私が寝るまででいいので――手を、つないでくれませんか?」

 

「……え?」

 

瑞鶴は提督の言っている意味が分からなかった。

 

「風邪をひいているせいか、心も少し弱っているようで……好きな人の温かみを感じたいんです」

 

「‼」

 

瑞鶴は理解した。

瑞鶴は顔が真っ赤になるのを感じた。

――そしてそんな時だからこそ、その言葉は口から出た。

 

「わ、私で、いいの……?」

 

「ええ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――!」

 

数秒だった。時間にすれば数秒にも満たないような短い間に、瑞鶴は救われた。

 

『好きな人だから、瑞鶴と手をつなぎたい』それだけの言葉で、瑞鶴を苛んでいたトゲは全て消えていた。

我ながら単純だと思う。だけど仕方が無かった。

 

――好きな人から、好きと言われる。それだけで全てのことは報われるのだから。

 

瑞鶴が俯く。提督はそんな彼女を待つ。

しばらくしても瑞鶴は顔を上げない。そのかわり、しっかりと提督の手を握った。

 

「これで、いい?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

そして提督は目を閉じる。

手と手を握り合い、ゆっくりとした時が流れる。

 

(……もう、寝ちゃったかな?)

 

静かに目を閉じたまま、呼吸音だけが室内に響く。

そんな幸せそうな横顔を見て、自分も激務からか眠くなってきて――でもその前に、今の気持ちを伝えようと瑞鶴は提督の耳元にささやいた。

 

「――ありがとう、提督さん。愛してる、ずっと」

 

眠っている提督にはきっと聞こえていないだろう。でもそれでいい。

つないだ手のその先で、きっと思いは伝わっているのだから。





これにて完結。
でもまたネタが思い浮かんだら続きを書くかも。


さあ6-3周回に戻らなきゃ。
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