国東聖杯戦争   作:歩弥丸

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大聖杯が冬木から奪われ亜種聖杯戦争の横行する時代、遠坂家は聖杯戦争を放棄し、間桐家は没落し、そしてアインツベルン家は方針対立により分裂していた。その折、『大規模』な亜種聖杯戦争の噂を聞いたアインツベルンの分派は……
という感じの亜種聖杯戦争を舞台とした物語です。


序章『開戦前夜』
序 第一節『御三家の思惑』


 その昔、冬木という地でアインツベルン、間桐、遠坂という三家の魔術師が万能の願望器……『聖杯』を据え付けた。

英霊(えいゆう)従僕(サーヴァント)として呼び出し、他の従僕及び召喚主(マスター)と最後の一騎になるまで戦え。最後の一騎とその主には聖杯で願望を叶える権利が与えられる』

 それが(少なくとも表向きの)謳い文句であった。

 魔術師たちにとってみれば、英霊を使い魔として行使できるだけでも至難の魔術であり、その魔術式は一見の価値があると思われた。まして勝ち残ればあらゆる願望が叶うとなれば、私的な欲望から魔術研究の短絡化まで、あらゆる選択肢が手に入る。19世紀以来、それは魔術世界の注目を集めていた。

 ところが20世紀前半、戦前に行われた『第三次聖杯戦争』で異変が生じた。ナチスドイツ軍が介入し、恐らくはその手によって聖杯が強奪されたのだ。以来冬木に聖杯が顕れることはなく、また強奪されたとされる聖杯の行方も、ナチス崩壊以降杳として知れない。

 ――が、戦後暫くしてから、魔術世界にある噂が流れた。

『聖杯戦争の魔術式が流出している』

 実際、それを『見た』という者もかなりの数がおり、中にはその魔術式を実行した者もいた。それは不完全な魔術式だったようで、『魔術式を行使した結果実際に願望を叶えた』という者はいない。……居たとしても名乗り出るはずもなかろうが。

 ただ、現に『魔術式を行使して英霊を召喚した』事例はいくつも生じた。それは冬木の聖杯戦争の規定する『七騎』には遠く及ばないものの、二騎から五騎程度の英霊を使い魔として召喚できており、それ自体驚愕すべき成果には違いなかった。

 これら、冬木の聖杯戦争の規模には及ばないまでも、ともかく『聖杯を巡って英霊を召喚して争う』形態を備えた魔術戦を、魔術師たちは『亜種聖杯戦争』と呼ぶ。

 

 ※ ※ ※

 

「そもそも、亜種聖杯戦争で願望が叶うはずもないのダ。流出した魔術式とやらを瞥見したことがあるが、アレには『大聖杯の構築式』が含まれておらぬではなイカ。馬鹿馬鹿しイ」

 たどたどしい口調で、白髪赤眼の女は言った。

「尤も、今の我々にも『大聖杯の構築』を成すほどの財力(ちから)は残されておらヌ。だから私が今こうしておるわけだガ」

 女は、痩せぎすの男と向き合っている。その部屋は暗く、湿気に満ちている。窓一つ無い穴蔵であった。

「大聖杯の構築に協力せよ、という話なら付き合う気は無いぞ。そんな金も魔術も、爺様(臓硯)の消えた俺等にももう無いからな。アインツベルンの……ええと、何フィール?」

 男は、女を品定めするように見つめた。人の貌をしながらヒトから少し外れた美しさは、アインツベルンの特徴である。

「フラウフェル・イン=アインツベルンだ」

「聞かない()だな?」

「我々はな、『分裂』したのダ。あくまでも『大聖杯の再構築』に拘るアハトの群(フォン=アインツベルン)と、亜種聖杯戦争を通して『大聖杯の捜索・奪還』を目指ス我ら分家(イン=アインツベルン)に」

 冬木の聖杯を築いた三家のひとつ、アインツベルン家は『ホムンクルスの鋳造と運用』で知られた魔術師一族であるが、実の所、構成員そのものがホムンクルスであり、『群』としての思考に全体が従うのだという。

 詰まるところ、この女もまた、ホムンクルスの一体であるのだろう。それを女の容姿から見て取るが故に、男は吐き捨てた。

「ひとつ意志の下で動くはずのアインツベルンが分裂? 世も末だな」

「『第三魔法(ヘブンズフィール)の成就』という最終目的では本家も分家も変わらぬヨ。方法論で分立しただけのことダ。それに、大望が喪われて数十年も経てば対立もするというものダ。ホムンクルスならざるヒトでもそうであロウ?」

 女の表情は動かない。穴蔵の薄暗さと相まって、白磁の人形のようにも見える。

「……まあ、その前に絶望してしまう方が多いけどな。で? 要件は何だ。わざわざ没落した間桐を探しに来てまで、アインツベルン……いや、イン=アインツベルンが何を企んでる?」

 睨みつける男の目を、赤の眼が見据える。灯が揺れる。

「……亜種聖杯戦争に付き合え、マキリ。勝ち残った時の報酬(ねがいごと)はお前に呉れてやル」

「おいおい、何の冗談だ。さっき自分で『亜種聖杯戦争で願望は叶わない』と言っただろう? それが『願い事は呉れてやる』? それであんたを信用しろと?」

 男は鼻で笑うが、女は笑わない。怒りもしない。ただ、淡々と続ける。

「叶うかも知れん規模の亜種聖杯戦争が起きるのダ、マキリ。私はその話を『トオサカ』から聞いタ」

「遠坂時臣、だったか。冬木の?」

「アア。奴が言うには、九州の重霊地、『クニサキ半島』に亜種聖杯を据え付けた痴れ者がおる、そうナ」

「国東……? 確かに霊脈の規模では冬木よりも大きいが……良く管理者(セカンドオーナー)が許したもんだ」

 信じ難い、と顔に示す様にして、男は首を振った。

「その管理者が、自分でやっておるのダと、西日本の管理者たちの間で噂なのダ

 」

「その管理者、正気か?」

 魔術師がその研究を進める上で、魔力は幾らあっても足りない資源(リソース)だ。魔力には自らの身から生み出すものと外部環境から汲み出すものとがあるが、土地の有力な霊脈を管理することは、その土地においては魔力を優先的に汲み上げることが出来るのと同義である。まして重霊地となれば、たかが亜種聖杯のために霊脈を汚すなど、男の考えが及ぶ範囲では有り得ないことであった。

「さあナ。椚とか云うその管理者が何を目論むかは知らヌが、それだけの規模の霊脈なら、第三魔法は起動できぬまでも、霊脈そのものに英霊の魂を留め、魔力で因果を歪め願望を叶える位は出来るかも知れヌ」

「……願望器を争う、そういう意味では『聖杯戦争』そのものだ、と?」

「そういうことダ。そして、我々とマキリには、『優先権』があル。我々から流出した魔術式を使う限り除き得ぬ『参戦優先権』ガ」

 女は頷くが、男はなお怪訝そうな顔をしている。

「……遠坂は来るのか?」

「来なイ。奴らは聖杯戦争を捨てタ。『大聖杯が行方不明である以上、もはや我が家の魔術を窮める方が「根源」に早く辿り着く』と言い捨ておっタ。だが、今のマキリに必要なのは『根源』より『報酬』ではないカ?」

 男は溜め息をつく。なるほど、男の本拠であろうこの穴蔵も、よく見ればひび割れや欠けが目立つ。隙間風が灯を揺らす。

「少し考えさせてくれ。それと、……フラウフェル、一つお願いがある」

「何ダ」

「マキリは止めてくれ。マトウ(間桐)だ。間桐鶴野という名前がある」

「覚えておこウ。私は一旦『冬の城』に戻ル。心が決まったら、連絡を寄越セ」

 女が穴蔵の階段を登った後に、ただ、手を組んで考え込む男だけが残された。

 




新キャラ便概:

フラウフェル・イン=アインツベルン
アインツベルンの分派が鋳造したホムンクルス。本家で第三次聖杯戦争時期から計画されていた『ヒト型の小聖杯』を模して鋳造しているが、本来要求されるスペックには及ばない。(要するに:外見はアイリスフィールに酷似しているが完全に別人です)

間桐鶴野
間桐の当主。間桐の家が魔術面で没落する中、大した魔術の素養もないのに魔術の修練をさせられ(※この時点で原典設定と異なる)、そうこうするうちに経済的にも没落してしまった。(原典における僅かな出番に比べ、やや粗野な言動であるのはこのため)

このシリーズは、
pawoo上で順次掲載→pixivに纏めて掲出→加筆してハーメルンに投稿/pixivでも加筆
の順で投稿しております。pawoo上では『国東聖杯戦争』のタグを検索すれば色々出てくるかと。
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