そういえば、もう自分がこの小説を投稿し始めてから半年過ぎてるんですね。ただの思い付きからよくここまで続いたなと。
まだまだ続く予定ですので、今後ともよろしくお願いします。
「お久しぶりだね。小原家の令嬢さん」
(・・・・・・え? 見合い相手ってこのオッサン・・・・・・)
ホテルオハラのロビーで陸と鞠莉を出迎えたのは確実に四十歳は年食っていそうな中年の男性だった。
目配せして鞠莉に伺い立てると、彼女は心底嫌そうな雰囲気を醸し出しながら首肯した。
「ん~・・・で、君の婚約者と言うのは・・・」
知らないところで滅茶苦茶話が発展していた。ニセの恋人を演じろとは言われたが婚約者まで演じろと言われた覚えはない。
再び鞠莉に答えを求めようとすると、既に彼女は「これがこの世界の頭の中よ。お花畑なの」と訴えてきていた。
「・・・・・・ふひ・・・」
陸の全身を舐め回すように見た後、勝利への確信と嘲りを含んだ笑いを漏らす男。この一瞬だけで相当下に見られているのは理解できた。
「まさかこんなお子様とは・・・・・・、何? まさか夜の遊び相手とか言うんじゃないだろうね?」
「安心して。りくっちはまだチェリーボーイよ」
まだ一分も経っていないがもう帰りたくなってきた。どちらも間違った事は言っていないのだが、もうちょっとオブラートに包めないものなのだろうか。どうしてこんなにもストレートな物言いなのだろうか。
「・・・・・・まあいい。今回はその子供より私の方が君に相応しいと証明しに来たんだったな。始めようか」
偉そうにそう言うと、陸達とはテーブルを挟んで反対側にあるソファーにどさりと腰かける。
とっとといなくなりたい気分だが。とにかく座らないと始まりそうもないし終わりそうもないので素直に陸達も腰を下ろした。
「君ィ・・・、名前は?」
「・・・・・・仙道陸です」
踏ん反り返りながら陸に細目を向けてくる男。オウガ以上にムカつく野郎を目にしたのは初めてかもしれない。
だが、オウガにやるように拳を出す訳にも行かないのでここはぐっと我慢の子。
「ふぅん・・・・・・名前も庶民臭いねぇ。君のような一般人が彼女と釣り合うだなんて到底思えないよ」
礼儀って概念を知っているか怪しくなるくらいに礼儀とモラルを欠いた態度だ。よくもまあこんなで見合いを申し込んだなと思う。
まあ、今回は陸を怒らせるのが目的と見たが。
「愛に身分の差なんて関係ないと思うけど? それに貴方よりりくっちの方が何万倍もましよ」
鞠莉も鞠莉で中々に挑発的かつ聞いていて恥ずかしい事を言う。どうしてこんな会話を素面で出来るのだろうかこの二人。
というか鞠莉は絶対この男を嫌っている。
「・・・ああ、申し遅れたね。私は無水原。ムスイリゾートのオーナーをしている者さ」
鞠莉の言葉を聞かなかったように受け流すと、自慢気に自身の肩書を紹介してくる男―――無水。
(・・・ムスイリゾート・・・)
庶民でお子様な一般人の陸でも聞いたことぐらいはある名前。このグループは規模が大きくて有名なのだ。
もっとも、評判は最悪と言ってもいいが。
ムスイリゾートは一度目を付けた土地は、どんな強引な手を使ってでも手に入れてリゾート地に開発してしまう。
恐喝、買収、そんな黒い噂が絶えないのだ。
(・・・・・・なるほど、土地狙いね)
恐らく無水が鞠莉に取り入ってきたのもここ内浦の地に目を付けたから。
小原家はこの辺の地域にもそれなりの影響力は持っている。それを利用して内浦をリゾートに改造しようとしているのだろう。
「単刀直入に聞こう。君は彼女の事をどう思っているんだい?」
早々に陸に狙いを看破されたとも知らず、無水はそんな事を聞いてくる。それ多分父親が言うやつとか言ってはいけない。
「・・・どうって・・・、素敵な人だと思いますよ? 明るいお調子者だと思われがちだけど、実は誰よりも人の事よく見てるし。何より自分にとって大切だって思ったものは、何が何でも守り抜こうとする強さも―――」
「そういう事を聞いているんじゃない」
陸が中々に恥ずかしい思いをして頑張っていたというのに、無水は冷たい声音でそれを遮ってしまった。
「駄目だね。君はその子の価値を理解していない」
「・・・・・・・・価値・・・・・?」
その言い方に何か違和感が引っ掛かり、陸が眉を顰める。
「考えてみたまえ。彼女はあの小原家の一人娘なんだぞ? そこに目を当てずに明るさ だの強さだの、そんな一銭の価値のない事ばかりに気を取られて・・・・・・やはり君は彼女には相応しくないよ」
「・・・・・・」
隣の鞠莉が俯いたのが横目で伺えた。
瞬時に彼女の心境を読み取った陸は、テーブル上に用意されていた水を自ら引っ掛けた後立ち上がった。
「すんません。ちょっと水溢しちゃったんで、衣装室で拭いて来ますね」
「あ、ああ、私も行くわ・・・・・・」
アイコンタクトを受け取った鞠莉も陸に続き、一度この場から離脱する。
あの胸くそ悪い野郎と同じ空気を吸っているだけで頭が痛い。
「・・・だいじょぶですか?」
逃げ込むようにゲストルームへと入り、普段より静かな鞠莉の顔を覗く。
「・・・うん。ありがとりくっち・・・・・・」
笑みを返してはくれるが、それもどこかぎこちない。
理由は・・・・・・言わずもがなだろう。
「・・・あんな奴なんすね。ムスイのオーナー」
「・・・・・・私も初めて知ったわ。ロクな性格はしてないでしょうとは思ってたけどね・・・」
無水のあの物言い。
あれは鞠莉を小原鞠莉としてではなく、自分にとって利用価値のある小原家の娘としか思っていないのが見え見えだった。
「・・・あんな野郎の言葉、気にしちゃダメっすよ」
「うん・・・・・・分かってる・・・」
そもそもよくあんな態度で鞠莉との見合いが成功すると思っているのだろうか。先程鞠莉が言ったようにマジで頭の中お花畑なのだろうか。
どちらにしろ、あんなクソ野郎に鞠莉はやれまい。
「・・・もういっそこの場でりくっちと既成事実でも作っちゃおうかなー。そうすればもうお見合いなんてしなくて済むし」
「やめんか」
さらっととんでもない事を言ってのけたので細目で諫める。仮にも鞠莉とそんな理由でそんな事になろうものなら他の八人にボコボコにされる未来が見える。
「冗談よ。そんなことしたら私、Aqoursに居場所がなくなっちゃうわ」
「・・・・・・?」
居場所がなくなる人物が違くないかと思い首を傾げつつも、少し落ち着いたらしい鞠莉に続いてゲストルームを出る。
「ちょっと! あの言い方なんなの‼」
ロビーに戻ると、聞き慣れた響きに怒気を含ませた声音が耳朶に触れた。
「・・・・・・何なんだい君は?」
高級ホテルのロビーで一体何が起こったのかとその方を見やれば、臆することなく年上の無水に食い掛かっている少女が確認できた。
「なんだっていい。それより鞠莉に何か言う事ないの⁉ まるで小原家の子じゃなかったら鞠莉に価値がないみたいな言い方して!」
ポニーテールに束ねた長い青髪に、発育のいい身体。先程ゼロが憑依した際に装備されたウルティメイトブレスレット。
陸と鞠莉。二人の幼馴染である松浦果南だ。
「果南・・・・・・」
「・・・何やってんだよ姉ちゃん・・・・・・」
今回他のAqoursメンバーも離れた場所で様子を伺っていると言っていたが、それが災いしてしまった。
「・・・君の顔は見た事があるな・・・・・・。確か一緒にスクールアイドルとやらをやっている子だったかな」
スクールアイドルとして活動している事は知っていた辺り、小原家の娘以外では鞠莉の事を何も知らない、という訳ではないらしい。
「・・・そうだけど・・・・・・」
眉を吊り上げながら果南が頷くと、無水は彼女を威圧するように口を動かした。
「丁度良かった。彼女に言っておいてくれないか? 君は今すぐそのスクールアイドルを辞めるべきだと」
「・・・・・・は?」
フロア全体の空気が凍り付くのを肌で感じた。
無水は穏やかに笑っていた。まるでそうすることが至極当然かのように。
「ちょっと何言ってんの⁉ そんな事言う訳・・・・・・、ていうかそんな事言う権利アンタにないでしょ!」
たまらず果南が反論するが、無水は表情を一切変える事なく、されど威圧感だけは更に背負いながら少し語気を強めて言い放った。
「権利も何もない。君も分かっているだろう? 今のあの子にどれだけの価値があるか。スクールアイドルなんていうくだらないものに時間を使わせて彼女の価値を下げる訳には行かないんだよ」
「・・・何ソレ・・・・・・鞠莉はアンタのものじゃない!」
普段は温厚な果南でも流石に頭に来たらしい。友人への情に厚い彼女ゆえだろう。
だがそんな怒りの熱気も、感情を持ち合わせない冷徹さを前には無力だった。
「君はスクールアイドルで彼女から華々しい未来の可能性すらも奪うつもりなのか⁉」
その言葉に中身はない。奴は鞠莉本人の事などはどうでもよく、求めているのは小原家と言う肩書だけ。その事はすぐに看破出来たので普通は気に留める価値のない。しかし、果南に対しては効果覿面過ぎた。
「っ・・・・・・」
かつて鞠莉の将来を考えた果南は、スクールアイドルを辞め、例え彼女と決別しようとも約束されているであろう未来を切り開こうとした。
そんな過去があったからこそ、今の果南は無水に対して何も言い返せないのだ。
「・・・分かったら早く―――」
「勝手なこと言わないで‼」
陸が出るよりも早く鞠莉が飛び出した。
「私は自分でこの道を選んだの! 私自身の意思で! 果南がそんな事言われる謂れはないわ‼」
鞠莉がここまで感情を表に出すのは果南、ダイヤと和解したあの日以来だろう。
ただ今回は純粋なる怒りの感情。まるで果南や、Aqoursの皆が鞠莉の邪魔をし、剰えそれをメンバーから告げさせようとする行為に。
「何も分かってないくせにそんな事―――」
「何も分かっていないのは君の方だ」
「むうっ・・・⁉」
ワガママを言う子供を黙らせるように、無水は片手で鞠莉の口元を押さえつけた。
「あの小原家の人間がチャラチャラした雰囲気で人前に出るなど印象を下げかねない。大体、君の学校はとうに廃校が決まっているんだろう? なのにスクールアイドルを続ける意味がどこにある?」
「っ・・・、それは! 浦の星の名前を永遠にラブライブの舞台に刻んで、一生消えない思い出を作ろうって――」
「それが分かっていないと言っているんだ」
敵意を弱めず必死に言い返そうとするが、再び口を塞がれて黙らさせてしまう。
「いいか? もう一度言うぞ? 君は小原家の一人娘なんだ。もっとその立場の重要性と有用性を理解しなさい! 思い出だのくだらないものに縋って時間を無駄にしてはいけないんだよ」
「・・・・・・くだらない・・・? 学校の皆がどんな気持ちで私達に想いを託してくれたのか分かってるの⁉」
「理解する意味なんて無いし必要もない。・・・・・・私は君の学校が無くなって良かったと思っているからね」
「・・・・・・え・・・」
鞠莉の熱気がささーっと引いていくのを感じた。
「君があの学校に理事長として就任したのは不都合だったんだよ。もう廃校が決まっているような学校に固執し続けるとなれば小原家の評判自体が下がりかねないだろう?」
何度も言うが、コイツは鞠莉自身や小原家自体の事を心配している訳ではない。自分の利益になる小原家の株が下がる事を危惧しているだけだ。
「統廃合が決まり、ようやく君がスクールアイドルをやる意味も無くなっただろうと思っていれば・・・今度は思い出を作るだと? いつまでくだらないアイドルごっこを続けるつもりなんだ」
無水にとっては自分にとって利益になるものが全て。形として価値を残せるものにしか重要性を見出せないのだ。
だが、鞠莉やAqoursメンバー。そして浦の星女学院の皆は、思い出を永遠に残すという事に価値を見つけ出した。
これらは、絶対に相容れないものだ。
「・・・・・・・・・くだらなくなんか・・・・・・ない・・・・・・」
鞠莉は自身の大切にしているものが否定されると打たれ弱い
先程からずっと無水に立場の事しか目を当てられず、自分自身の存在は否定され、更に守ろうとしてきた学校やスクールアイドルを全て価値のないものと言い捨てられた。
「君は欠陥品だが、小原家の娘と言う立場は大いに利用価値がある。私ならそれを最大限に活用できるんだ」
もう完全に鞠莉を道具として認定している言葉。
「・・・・・・私は・・・」
鞠莉の頬を光るものが伝った。
それを目にし、遂に堪忍袋の緒が切れた果南が拳を強く握り、無水目掛けて振り抜こうとした次の瞬間―――、
「だからさっさとスクールアイドルなんか辞め――――――へぶぅあっ⁉」
唐突に割り込んだ第二の拳が、歪んだ顔面を強襲した。
「陸⁉」
目を剥く果南をよそに、もんどり打った無水はそのままロビー中央まで吹き飛んで行く。
「・・・・・・さっきから黙って聞いてりゃくだらないだの価値がないだのとゴタゴタ抜かしやがって・・・・・」
煮えくり返った怒りで震える声音が世界を満たす。
拳の主である陸は、紅く染まった双眸を酷薄に細めて倒れ伏す無水を見下ろした。
「人の痛みも分かんねぇような奴にこの人の努力は否定させねぇ・・・・・・。テメェが鞠莉さんの価値を語るなんざ・・・二万年早ぇんだよ‼」
コイツがどんな肩書を持っていて、どんな権力を持っているかなど知った事ではない。
そんな上っ面の価値がどうでもいいという訳ではない。ただ、それがどうでもよくなる程に無水の発言の数々は許しがたいものだった。
「・・・りくっち・・・・・・」
涙で濡れた黄土色の瞳が、微かな羨望をもって陸を見上げてくる。
煌く宝石の光のような視線を背中に受け、陸は感情とは真逆の冷たさで吐き捨てた。
「利益でしか測れねぇ価値なんざクソ喰らえだ。一生そうやって空っぽのもの追いかけてろよ」
「な、なにをこの・・・・・・」
自分に手を挙げた無礼者を捲し立てようとした無水だが、その声はやがて掻き消えるように萎んでいった。
陸に宿るはベリアルの力。
形は見えずとも、無水が今まで体験した事のない獰猛な殺気が蠢いている。
「・・・ぐ・・・・・・」
それに本能的な恐怖を覚えたらしく、青ざめた顔で逃げるように後ずさりする。
そしてくるりと踵を返し、早足でホテルオハラのロビーから出て行くのだった。
『あのヤロォ・・・・・・! とんでもなく下劣な奴だな・・・!』
嵐が過ぎ去った後のエントランス。
果南の中でずっと堪えていたゼロは、陸のところに戻ってくるや否や無水への怒りを滾らせていた。
「・・・酷い人だったよね・・・・・・」
「くだらないなんて・・・・・・」
「ああいう成金主義はそのうち身を持ち崩すずら。今に見てるといいずら」
「一人だけとんでもなく口悪いなお前」
それは遠目で見守っていたAqoursメンバーとて例外でなく、千歌や梨子のように心配そうに鞠莉を見やる者や、花丸のように怒りでキャラ崩壊一歩手前の者もいる。
「にしても陸アンタ。派手にぶん殴ったわね~」
善子が言っているのは、陸が一時の感情に身を任せて無水を殴り飛ばした時の事だ。
あの時はああする事に迷いはなかったのだが、冷静になって考えてみればもっと他にあっただろうと反省点しか浮かび上がってこない。
これでまた鞠莉が変な難癖付けられなればいいのだが。
「・・・・・・りくっち・・・」
層思っていた時、鞠莉の口から小さく陸の名前が零れる。
「・・・・・・ごめんね。私のせいでこんな・・・・・・」
恐らく無水はこれしきの事で諦めはしないだろう。
むしろプライドだけは高そうな奴の事だ。自分に恥辱を味合わせた陸を許すとは思えない。報復が来てもおかしくはないだろう。
「・・・・・・いいんですよ。ああ言う奴は痛い目に遭わせないと分からないんですから。それに姉ちゃんにぶん殴らせるよかずっとマシですしね」
「・・・・・・うん、何かゴメン・・・」
鞠莉の隣で委縮する果南。あと少し陸が遅かったらゼロの力を宿した彼女の地球圏最強パンチが無水の身体を粉砕していたであろう。
もしそうなっていたら無水はあの世行きだし、果南は刑務所行きなのでそんな後者を誰も望んでいない未来にならなくてよかった。
「鞠莉さんが気にする必要はないっすよ。俺が自分自身の意思で選んだ道ですから」
陸があの行動に出たのは鞠莉がスクールアイドルを続けているのと同じ理由。
それを伝え、陸は窮屈なスーツの上着を勢いよく脱いだ。
何か普段とは違う、鞠莉の視線を浴びながら。
ヘイトキャラの書き方がよく分からない。そして自分でも何書いてたのかよく分からない。
定番・・・・・・なのかな? こういう展開って。あんまりそういうの読まないからわかんない。
とりあえず自分的には鞠莉さんが陸の事意識すれば何でも良かったんですあやふやでごめんなさいゆるしてください。
ま、これでまた話がややこしくなりそうですね。ところで前回出てきた坊主は何処に?
それでは次回で!