きっと皆、無水みたいな人間は嫌いなんだなという事。俺もああいうタイプは無理です。
けどまあ、金って人を狂わせますからねぇ・・・。それでもちゃんと大事なものが分かっている鞠莉さんはきっと強い人。
そんな彼女を泣かした無水を俺は許さない(その話を書いたのは俺なので実質俺が犯人)
大ブーメランぶん投げたところで本編どうぞ。
時刻は五時を過ぎ、辺りも薄暗くなってきた頃。
「・・・・・・あのクソガキ・・・・・・!」
ホテルオハラの玄関口から、怒り心頭と言った様子の無水原が歩み出てくる。
庶民の子供に殴り飛ばされて恥辱を味わったどころか、引き下がってきたせいで鞠莉との縁談もお釈迦になってしまった。
「全く・・・・・・これだから田舎は嫌なんだ」
いくら自然や景観が自分好みの土地とは言え、そこに住まう人々までもが自分に都合の良い存在であるわけではない。
これまでも土地を買収する際にそういう事は幾度かあったが、ここ内浦は最も無水の機嫌を損ねたと言ってもいいだろう。
(・・・・・・しかし、どうする・・・)
自分が小原家に取り入るために鞠莉へ近づいた事はもう向こうにもバレてしまっているはずだ。
小原家の後ろ盾は内浦の地以外でも十二分に力を発揮するので得ておきたかったが、こうなってしまってはもう無理だ。
(・・・なら、せめてこの土地だけでも・・・・・・)
幸い強請りのネタなら念の為にと仕入れていたものがたっぷりある。
ここ内浦には、昔から根強くこの地に力を持っている家がある。その家を強請りや買収で落として進めていくしかあるまい。
確かその家は、かつて網元だったという黒澤―――、
「・・・・・・?」
不意に聞きなれない音楽が耳に滑り込んできた。
穏やかではない気配を感じて目線を流してみれば、坊主頭の男が屋台を引きながらこちらに歩いてくるのが見えた。
「・・・仮にもホテルの敷地内にあんなものを入れるだと? ますます理解出来ないな・・・」
これ以上は頭が痛くなりそうなので気に留めない事にし、その横を通り過ぎようとしたその時―――、
「・・・・・・お主、この村が好きか・・・?」
「・・・・・・は?」
細く、萎びた声で坊主が声を掛けてきた。
「・・・・・・村が好きか・・・?」
刃でも当てられたかのような寒気を背筋に感じつつも、先程陸に殴り飛ばされたという事もあり、これ以上逃げ腰でいられるかと気丈に振舞った。
「ふん・・・! こんな場所、さっさとリゾート地に開発してくれるわ」
どうしてこんな事を見ず知らずの男に言ったのかは分からない。
ついさっきどこの馬の骨の骨かも知らない子供にしてやられ、恥をかいた。
だから、質問からしてこの町を愛しているであろうこの男が、内浦がリゾートに開発されると聞いて哀惜の表情を浮かべるのが見てすっきりしたかったのかもしれない。
「・・・・・・」
どんな顔をしたのだろうと、ちらりと坊主の方を伺う。
だが無水の思惑とは違い、坊主は顔色を変えずに、ただ無言で屋台に置いてあった鍋の蓋を開けた。
『あそぼ・・・・・・オビコとあそぼ・・・?』
その瞬間、大きな影の塊が無邪気な少年のような声を発しながら鍋の底から這いあがってきた。
「っ・・・・・・! ああああああああぁぁぁぁ⁉」
「・・・・・・なんだ・・・?」
窮屈なスーツを脱ぎ、ようやく一息つけた陸が唐突に響いた悲鳴に反応する。
『・・・・・・この声、さっきの下衆野郎のだな・・・』
ゲストルームから出ると、同じく悲鳴を聞き付けたらしいAqoursメンバーが扉の前に集結していた。
「・・・りくっち・・・」
「・・・とりあえず行きましょう。宇宙人でも出たのかもしれませんし」
いくらあの野郎が下衆でも、守らない理由にはならない。それがウルトラマンとしての使命だから。
陸が先陣を切り、悲鳴の聞こえた場所へ向かうべく玄関口からホテルオハラの庭園へと飛び出す。
『何ッ・・・?』
そこで目にした異形の怪物に思わず立ち止まってしまう。
腰砕けになる無水と、その眼前にいる坊主頭の男。そして彼の引く屋台から伸びた黒い影。
「ひっ・・・ひぃぃ・・・・・・!」
「・・・マズイッ‼」
無水を飲み込まんと魔の手を伸ばした影を迎撃すべく、陸はゼロランスを構えて大地を蹴り飛ばす。
だが影は尋常ならざる速度で無水を包み、彼を飲み込んだまま屋台に備わった大鍋の中に収納されてしまった。
「くひひ・・・・・・じゃあの~♪」
「ッ! 待てゴラァ‼」
陸が切り込みにかかるも、坊主は建物の影に逃げ込み、一瞬で姿を消してしまう。
「なっ・・・・・・!」
即座に静寂が舞い降り、一体何が起こったんだという静けさがこの場を支配する。
「・・・・・・今のって・・・・・・」
ぽつりと花丸の零した呟きだけが、夕闇に溶け込んでいくのだった。
「オビコ?」
『・・・それが、さっき下衆野郎を襲った奴の名前なのか?』
無水を攫って行った坊主と影の居場所に心当たりがあるという花丸に続き、街灯がつき始めた仄暗い道を行く陸とAqours一同。
別に無水を助けたいと思っている者はいない。ただこの事で無水がまた難癖付けてきそうな事と、何より治安を考えたら動かないわけにはいくまい。
「うん。この地に伝わる妖怪の名前ずら。昔は神様として崇められてたんだけど、次第に人々から忘れられていって妖怪に堕ちたずら」
「・・・そういえば、そんな話をお母様から聞いた事があるような気がしますわ。闇に住むといわれていた神・・・確かお彦様」
「ずら。まるもおばあちゃんから聞いた程度なんだけど・・・・・・」
流石。寺の子の花丸と、歴史ある家の長女であるダイヤはその手の話に詳しい。
「・・・それで? なんでさっきの奴がその・・・オビコ? だって分かったの?」
「確証がある訳じゃないずら。ただ、こんな言い伝えがあるずら。オビコに呼ばれて、振り返ったら食われる・・・・・・って」
となると、無水はオビコの呼びかけに応じてしまったがためにあの影の餌食となってしまったらしい。
「・・・あれ? 最近この辺で急に人がいなくなるって噂があるよね? それって・・・・・・」
「多分、オビコの仕業ずら」
この頃内浦で、夜中に外に出ると帰って来れなくなるという噂がある。
実際その期間に行方不明になっている者もいるので何か事件の匂いは感じていたが、まさか元神様の妖怪が引き起こしていたとは。
『花丸。俺達は今どこに向かってるんだ?』
「昔、お彦様を祀っていたお寺ずらよ。もしかしたら何か手がかりがあるかもしれないし。そこの和尚さんともあった事はあるから行っても大丈夫だと思うずら」
前雨宿りに知り合いのお寺を使わせてもらった時と言い、花丸はこの地域の神道や仏教の方面で顔が広いようだ。
「今まで襲われた人達は無事なの?」
鞠莉の疑問はもっともだ。もし帰って来ないような事があれば噂から事件に発達してしまう。
「・・・無事・・・って言っていいのかは分からないずらね」
「・・・・・・どういうこと?」
首を傾げる一同に、花丸は困った様子で答えた。
「オビコは人を殺しはしないずら。人を捕まえても、その内返してくれる。けど、帰ってきた人は決まって衰弱しきってるという話があるずら」
『・・・・・・捕まってる間に何かされたって事か?』
「あくまでも噂だからまるには何も・・・・・・、それに妖怪の考える事なんてさっぱりずら。・・・さあ、着いたずらよ」
顔を上げ、一部だけ切り開かれた森の中にポツンと立っている鳥居を視界に定める。
「こういうのは専門家に聞くのが一番ずら」
「・・・・・・まあ、それはいいとして・・・」
中に進んでいこうとする花丸を一瞥した後、陸は先程からずっと無言で震えている赤髪と青髪の少女達を見やった。
「震えるほど怖いんなら・・・・・・姉ちゃんとルビィは帰ったら?」
Aqoursを代表する怖がり二名。松浦果南と黒澤ルビィ。
「べ・・・別に大丈夫だよ? これ以上被害が出るみたいなら放っておけないし、私は別に・・・」
果南は強がって見せるも、身体と声音はしっかり震えていた。
以前果南のこの一面を見ている一年生と彼女の幼馴染達は既に知れている事なので何も言わない。梨子だけが意外そうな顔をしていた。
「る、る、ルビィは・・・・・・」
そこまで言って何も続かなくなったルビィ。
こっちはまあ予想通りなので誰も反応しない。
「ま、まあ! とにかく行こうよ。もしかしたら何か掴めるかもだし―――「にゃぁ~」―――はぐぅ!」
「「むぎゅ・・・」」
同様を誤魔化すべく果南が先陣を切ろうとするも、道の脇から飛び出してきた子猫に驚いて千歌と曜に抱き付いてしまう。
「・・・・・・おいて行くずらよ」
そんな彼女に細めた瞳を注いだ花丸がすたこらと進み始め、他の皆もお荷物二名を連れてその後に続くのだった。
「許可は貰ったから、常識的な範囲内なら好きにして大丈夫ずら」
花丸の一言で散開する面々。と言ってもダイヤはルビィに、千歌と曜は果南に抱き付かれていて動けそうにないので実質五人での捜索だが。
「・・・・・・なんか大変な事になっちゃったね」
しばらく一人で探索していると、いつの間にか鞠莉が隣にやってきていた。
「そっすね。縁談中に相手を殴り飛ばして、その後に妖怪探しなんざもう一生味わえそうもないです」
苦笑交じりに返す。本当、ゼロやAqoursの皆と出会ってからまるっきり人生が変わったかのように色々とあった。
「・・・・・・ねぇ、りくっち」
普段の快活然した彼女とは対照的に、少し恥じらうようなもじもじとした仕草を見せながら再び声を掛けてくる鞠莉。
「はい?」
何気なく振り返った後にその事に気が付き、何かあったのだろうかと思いながら次の言葉を待つ。
「・・・・・・どうして、さっき私のために怒ってくれたの?」
どこか弱々しいようにも感じ取れる雰囲気が伝わってくる。
「・・・さっきって・・・、無水の野郎のことですか?」
聞き返すと彼女はこくりと首肯した。
この様子を見る限りだと、どうやらまだあの事を気にしているようにも思えた。
「・・・そうっすね・・・」
言葉を纏めるために少し頭を捻り、数秒後に口を開く。
「だって鞠莉さん。頑張ってたじゃないですか」
その理由は至ってシンプル。
「学校が大好きで、学校の皆が大好きで、それを守るために鞠莉さんは精一杯努力してた。その末に流した涙の意味も分かってないような奴が偉そうにゴタゴタ言ってたら、そりゃ腹も立ちますって」
意外そうな顔をする鞠莉に、柔らかに笑みを作って続けた。
「誰よりも自分の大切なものに一途な鞠莉さんだったから、俺はあいつをぶん殴ったんですよ。・・・野郎が手ぇ挙げる動機なんて、それで十分でしょ?」
前にも言ったが、陸はただ自分の信念を貫いたに過ぎない。
鞠莉が学校を救おうと奮戦していた事や、陸が今までウルトラマンとして戦ってきた理由と同じ。
ただこうしたいと言う、自分の気持ちに従っただけだ。
「ほら、それに俺アイツが言うには婚約者(笑)ですし? 恋人が泣かされるような事があれば怒って当然ですよ」
「・・・きっとりくっちは、そうでなくても怒ってくれたと思うよ」
陸のちょっとした揶揄いに対し、幾ばくか安心したように鞠莉は口元を綻ばせる。
「・・・だって、りくっちだもん」
それだけは納得しにくいのだが、彼女としては満足のいく根拠だったらしい。
信頼されているようだし、陸としても悪い気はしない。何より鞠莉がそれでいいなら何も言うまい。
「・・・・・・あーあ。・・・私も落とされちゃったか・・・・・・」
少し頬を赤らめ、普通なら聴こえないような声で鞠莉がそう呟いたのを残念ながら色々と普通ではない陸は聞き逃さなかった。
「・・・・・・? 今のどういう―――――――――」
「・・・うぅ・・・」
その時、紛れもなく人間のものである呻き声が耳朶に触れた。
突然の事に一瞬肩を飛び上がらせたが、その声に覚えがあった陸は即座に切り替えてその方へと足を進めた。
そこで目にしたものとは―――、
「・・・っ!」
あまり当たって欲しくなかった花丸の予想が嫌な形で的中してしまった。
絶句する陸と鞠莉の眼前には、ぐったりとした様子の無水が石造りの井戸に寄りかかっていたのだ。
顔から生気は伺えず、その上余程の目に遭ったのか髪の毛は一本残らず真っ白に染め上がってしまっている。
「何・・・・・・これ・・・」
確実に人間の仕業ではないそれに、ただただ慄く。
『・・・・・・これもオビコの仕業だってのか・・・』
「くひひ・・・・・・♪ 正解じゃ」
「『「っ⁉」』」
咄嗟に鞠莉を庇う形で背中に隠し、いつの間にか現れていた不気味な笑い声の主を見据えた。
「・・・オビコ・・・・・・」
陸が射貫くような視線を向けるが、オビコは平然とそれを受け止め、にやにやしたまま大した反応も見せない。
「・・・お主、この村が好きか?」
その代わりなのか、意図の読めない質問を投げかけてくる。
「・・・・・・」
オビコに呼ばれて振り返ったら食われる。
恐らくあの言い伝えは、この問いに答えてはいけないという事を示していたのだろう。
「・・・村が好きか?」
推測に習い無言のまま固まっていると、再度同じ事を問うてくるオビコ。
きっと、このままだんまりを決め込んだままでは同じ事を繰り返すだけだ。
ちらりと鞠莉とアイコンタクトを交わしてから、恐る恐る言葉を返す。
「・・・・・・それが何と関係がある」
「・・・村が好きか?」
回答の選択肢はYesかNoだけらしい。
とりあえずNoと答えない方がよさそうだ。そもそもそう答える理由など無いのだが。
「・・・私は好きよ。もちろんりくっちも」
陸の代わりに鞠莉が返答を綴った。
「私達だけじゃない。皆そうよ。この町が大好きだから、皆ここにいるの。山も、空も、海も、学校も・・・・・」
学校。そう零した鞠莉からは少し寂しさも感じられた。
これから消えていく、されど大切なものへの純粋な思い。
オビコも彼女の哀愁を感じ取ったのか、初めて笑みを崩す。
「・・・・・・そうか・・・・・」
短くそれだけ言い残すと、特に何か襲いかかってくる訳でもなく、オビコは影の中へと消えていった。
・・・無水がただの可哀想な人に成り下がってて草。陸に殴られるわ廃人同然になるわ散々だな。どうしてこうなった。
んで、無水をそんな事にした犯人はオビコ。ウルトラマンティガに出てきた怪獣(厳密には妖怪)ですね。
ティガ本編に出てきたオビコから若干設定を弄っているのでご了承ください。
それでは次回で!