世間ではくりすますとか言うやつらしいですけど受験生には関係ないですね
ああもうジングルベルが止まらねぇ
『・・・しかし、虚しいものだな』
波立つ青の中に揺れるそれを見つめ、ぽつりとヴィラニアスが零す。
『傀儡と化した者。利用されるために命を受けた者。それ以上の価値など存在し得ない生・・・・・・呆れるほど虚しい』
『・・・そうですかねぇ? 陛下御復活の礎となれる・・・この上なく誇らしい事だと思いますが』
『・・・・・・そうか』
不穏な参謀の笑いを背に受ける。次は自分の出番だ。
スライの考えがどうであれ、ヴィラニアスとてベリアルの復活に命を捨てる覚悟があるのは変わらない。
だがベリアルに身命を賭したダークネスファイブである以前に、自分は一人の戦士。
戦いの中でこそ、己の真価は輝くのだから。
『・・・行くぞ。相棒』
『グウゥゥゥゥゥ・・・・・・』
紅の双眸がまた新たに開かれ、暗闇の中で瞬いた。
「・・・・・・年明けた辺りに帰ってくるとは言ってたけど唐突だっつの・・・」
早朝に寄越した電話で両親が伝えてきた事は、漁が一区切りついたから一旦帰ってくるという事。しかも明後日。
「・・・しかもよりによってこんな時に・・・・・・」
『・・・・・・』
いつもなら喜べたのかもしれないが、今回はタイミングが悪いと言わざるを得ない。今我が家には世界中から忘れられている千歌がいるから。
千歌の記憶を失くしている両親が彼女を受け入れてくれる保証なんてないし、最悪ここにいられなくなる可能性だってある。
『・・・いいのか? あんな事言っちまって』
「・・・・・・いいんだよ」
当然その可能性には千歌も気付いていたし、不安がっていたのも見て分かった。
だからこそ、陸は自分が何とかすると言った。いや、言わざるを得なかった。
「・・・これ以上苦しめられるかよ」
偶然デュナミストとしての素質に優れ、偶然ネクサスに継承者として選ばれた。
自ら望んだ訳でもないそんな光に選ばれ、自覚もない内に狙われ、挙句の果てに友人や家族、居場所すらも奪われた。
今そんな彼女に寄り添えるのは・・・・・・自分だけだから。
(俺が・・・・・・しっかりしないと・・・・・・!)
「・・・・・・何してるの?」
停留所に止まったバスから降りてきた曜の冷たい視線が刺さる。
記憶改変が為されている中ではいつものように彼女を千歌の家まで送り届ける必要もないのだが、それでも陸は高海家の営む十千万へと足を運んだ。
「・・・別に、今日はお前に用はねぇよ」
十千万に来た以上通学中にここを経由する曜やお隣である梨子から避難や罵倒を受けるのは避けられない事。それでもここへ来た理由は一つ、千歌に成り代わっているあのババルウ星人と接触するためだ。
「・・・じゃあ何? 今日は百歌ちゃんに嫌がらせしに来たの?」
「百歌・・・?」
曜が口にした名前は、千歌と同じ響きを含んだもの。
そこから推測するに、そいつがババルウ星人の人間体なのだろう。
「・・・陸に百歌ちゃんと顔合わせる資格あるの・・・? あの時一番悲しんでたの百歌ちゃんなんだよ?」
曜や皆の記憶がどこまで弄られ、どれだけ事実が捻じ曲げられているかは分からない。
だが彼女の様子から察するに、千歌との記憶は都合よく改竄され、丸々その百歌とやらに置き換えられているのは間違いないと思われる。
「・・・また何か悲しませるような事したら私―――」
「あ・・・」
狙いすましたかのように曜の言葉を遮る形で表玄関の戸が開き、容姿や雰囲気を千歌に合わせたような少女が顔を見せる。
噂をすれば何とやら、その百歌とかいうのの登場だ。
「・・・えっと・・・」
険しい表情の曜と、その敵意の矛先である陸を見て何かを悟ったか、一瞬戸惑うように見せた仕草の後、
「・・・ちょっと・・・二人にしてもらえるかな?」
「・・・何のつもりだ?」
「何って・・・そっちこそこっちに用があって来たんじゃないの?」
庭の木々の裏へと場所を変え、百歌―――ババルウ星人と穏やかではない視線をぶつけ合う。
「ま、大方私の事だろうけど」
見た目は至って普通の女子高生。口調もそれに合わせているのか、星人本来のものでなく容姿相応のそれだ。
「最初に言っておくと、私は自分から動いて地球人に危害を加えるつもりはないよ。変に動くと周りの記憶と齟齬を起こしかねないし」
『・・・それを俺達に言っていいのか』
「・・・言ったところでどうこうできると思ってないしね」
挑発するようにすぅ、と目を細め、焦点の示す視線の先が木々の間から僅かに見える曜へと移る。
「・・・面白いよね。ここ」
真意は何か、唐突にそんな事を言い出す百歌。
今更だがコイツの名前、そして容姿をあからさまなまでに千歌に似せているのは何の皮肉なのか。
「あの子だけじゃない。学校の子とか、地域の人とか、この旅館の人とか。皆が私に対して温かいのは、高海千歌が築いてきたものがあったからでしょ?」
つらつらと入れ替わってからの出来事を挙げつつ、本来ならばそこにいたはずの千歌の名前を出す。
「・・・その高海千歌との記憶や感情を私とのものだと思い込まされて、本人たちはそれが至極当たり前みたいに接してくるの・・・・・・死ぬほど滑稽だ』
一転して声音がどす黒く塗り替わり、瞳に侮蔑の色が浮かぶ。
その吐き気すら催しそうな悪意と邪念に、改めてコイツが百歌などではなくババルウ星人なのだという事を感じる。
『考えてもみろ。元の奴等ならばこの状況に怒りだったり悲しみだったりの感情を抱いて反発するだろうよ。だが今はそれすらも出来ない・・・いや、しようとも思わなくされている奴等・・・友や家族ですらそうなっているのは滑稽以外の何物でもないだろ?』
「・・・殺されてーのかお前」
込み上がってくる感情のままにゼロランスを首元に突き付けるも、ババルウは薄ら寒い笑いを浮かべたまま飄々としている。
『いいのか? 言った通り今は俺が周りから愛される存在で、逆にウルトラマンゼロは全人類の敵。そんな状況で俺に傷でもつければ、ゼロがお前だと知るAqoursだとか言う連中はどう思うかねぇ・・・?』
「っ・・・」
脳裏にちらついた顔に思わずゼロランスの切っ先が揺れる。
そんな一瞬の動揺の根幹にあるものを見透かしたように不敵な笑みを浮かべたババルウ星人は、少女の姿のままその顔を陸に寄せる。
『とにかく、お前は俺に対して何も手は出せないって事だ。・・・まあ、せいぜい頑張って~」
そう言うとくるりと踵を返し、わざとらしく傷心を取り繕うかのような笑みを作ってバス停の方へと去ってゆく。
奴が向かった先では曜と、いつの間にか来ていたらしい梨子が、敵意を込めた瞳をこちらに向けているのが見えた。
「っ・・・」
この時感じた胸の痛みは、きっと気のせいなどではなかったのだろう。
ぼんやりと西日差し込む賑やかな商店街の中孤独に一人佇む。
『・・・まあ、あれだ。曜達もラッキョウ野郎に洗脳されてるだけで本心って訳じゃねーから、そんな気にする事もねーよ』
「・・・別にそんなんじゃねーし」
口ではそう言うが、実際それ以外の理由も考えられないのが事実だ。
恐らく、いやほぼ確実に、あの時陸は曜達からの非難を想像し、尻込みした。
自分がしっかりしないと。そう決意した矢先にこの有り様とは笑えもしない。
『・・・しっかしババルウの奴、見た目だけじゃなく口調とか性格まで千歌に似せやがって・・・・・・』
「・・・そんだけ皆の中で千歌が影響してたって事だろ」
言うなれば感覚としての慣れ、だろうか。
例え記憶を塗り替えられようとも、言動や雰囲気の些細な違いには無意識のうちに違和感を覚えてしまうのだろう。
スライはそれすらも嫌い、ああやってババルウ星人を使わせた。
「・・・・・・それに比べて俺は・・・」
『・・・・・・やっぱダメージ受けてんじゃねーかよ。めんどくせぇなお前・・・』
自分でもよく分からない。スライの力によるものだとは分かっているのに。元の皆が言うようなものでない事ぐらい分かっているのに。
陸が思っていた以上に、皆から拒絶されるというのが、辛い。
『・・・だが、妙だな』
「・・・何がだよ?」
『お前、鞠莉と曜に告られてるよな? それなのにお前に対する想いが弱かったってのも変じゃねーか?』
言われてみれば、と悲観するばかりの思考を止める。
自分で言うのもあれだし恥ずかしい話だが、ゼロの言葉の通り陸に好意を向けていたメンバーもいる。
好き、という明確な感情を違和感も何もなく捻じ曲げる事が出来て、千歌に対するそれを誤魔化す事が出来ないというのもいささか疑問だ。
『鞠莉と曜だけじゃねぇ、他の連中だって・・・。周りから見たらお前も俺も千歌に負けないくらいには大きい存在にはなってたはずだ』
「・・・お前自分に自信あり過ぎだろ・・・・・・・・・でも確かに・・・」
そもそもウルトラマンであるゼロがいる時点で皆への印象が千歌より薄いというのも疑わしい話だ。
となると、千歌の場合は穴を埋めて誤魔化すためではなく、もっと別の目的でババルウ星人を配置したという事になる。
陸には必要なく、千歌には必要だったもの。それは一体・・・、
「ごめんねりっくーん! 待たせちゃった?」
電柱に寄りかかり思考を巡らせる陸に掛かる声。
一度考えるのを止めて目線を流せば、月が雑踏の中からぱたぱたとこちらに駆けてくるのが見えた。
「別にそんな待ってないから気にすんな。・・・てか俺でいいのか?」
「いや、ボクりっくんしかそっちの学校に友達いないからむしろ助かるよ。付き合わせてゴメンね」
先日ここでバッタリ月と会った際、別れ際に統合絡みの事で手伝って欲しいことがあると頼まれた。
初めは断ったのだが、ババルウ星人の件が発覚し、それにより月に対しても確かめておきたい事が出来たために引き受けた次第だ。
「・・・そういや初め断ったから詳しいこと聞いてないんだが・・・何すりゃいいんだ」
「ちょっと統合の事で揉めててさ・・・それで各学校の代表同士で話した方がいいかもって先生が・・・」
これは先日知った事だが、月は陸達の統合先である静真で生徒会長を務めているそうな。
統廃合になった他校の生徒を受け入れる準備のために最近の彼女等生徒会は大忙しらしい。
「大変だよなぁ・・・ウチなんかまず生徒会が存在しねーぞ・・・」
「あはは・・・だからこうやってりっくんに頼むことになっちゃったんだよね・・・」
こんな事を言うのもあれだが、完全に催眠の影響を受けてはおらず、尚且つ陸達の事情を知らない月といるのは少し気が紛れる。
自分が何とかせねばとは思いつつ、周りの敵となったこの状況においてやはり心のどこかで休まる場所を求めていたのかもしれない。
「・・・そういえばさ」
しばらく歩いた後、伺うタイミングを探していたような月がふと話題を変える。
「ボク今日の事で曜ちゃんにも声掛けたんだけどさ、りっくんもいるって言ったらいきなり怒ったみたいに断られちゃって・・・・・・何かあったの?」
気を緩めた瞬間に飛んできた不意打ちに一瞬口元を引き攣らせる。
そんな陸の反応を見、月は何か心辺りがあるように次の言葉を継いだ。
「・・・もしかしてまた喧嘩したの?」
「・・・・・・そんな感じ」
日頃よく喧嘩していたのが功を奏したか、日常茶飯事の一片だと認識してくれたらしい。
実際は喧嘩とかそんな可愛いものではないのだが、誤魔化せるならそれに越した事はないのでそのまま月の勘違いに乗っかるとする。
「ははっ、変わらないね二人共。ホントに仲良しだなぁ・・・」
そう言って笑う月の表情は人当たりの良さを感じるいつものそれだが、どことなくその瞳はどこか寂し気に揺れているようにも見えた。
「同じ学校だったらもっと二人の面白い所見れたんだろうなぁ・・・・・・二人は静真に来ると思ってたのに、どっちとも別の学校行くって言った時は驚いたよ。静真の方が近いのに」
「・・・・・・まあ、アイツが浦女行くって言った時は正直俺も驚いた」
確か学区的にも学力的にも浦女に行くしかない千歌が誘ったのがきっかけだったか。
当初は静真に進学するつもりでいた曜だったが、最終的にはその誘いに乗り、浦女を選んだ。
「曜ちゃんは仲のいい友達に誘われたから~って言ってたけど、りっくんは何で向こうに?」
「・・・俺も大体同じ理由。今の所の方が中学からの顔見知り多かったからな」
曜の家とお隣の陸も当然学区的には静真だったが、色々あって今の高校に行く事とした。
結果として違う学校になった後でも千歌や曜、果南との付き合いは続く事となったので後悔はないが。
「・・・とは言っても、曜ちゃんが静真に来てたら絶対りっくんも静真選んでたよね?」
「・・・・・・なんだその俺がアイツ目当てで学校選んでたみたいな言い方・・・」
「え? そう?」
呆れ気味に返すと、不思議そうに、かつ確信めいた何かを瞳に秘めた月が次の瞬間に紡いだ言葉は―――、
「ボクはずっと、りっくんは曜ちゃんが好きなんだと思ってたけど」
「・・・・・・・・・・・・ほぇ・・・?」
パチモンを生み出す事に定評があります作者です
ババルウ星人が化けたニセちかっちの名前に関してはなにも思い浮かばなかっただけですよええ誰かネーミングセンスください
劇場版の話に繋げるための布石は張りつつ、一応ヴィラニアスとももう2話くらいで衝突します
そんで最後、最後……
それでは次回で
少し早いですがよいお年を