ゼロライブ! サンシャイン!!   作:がじゃまる

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ここへきて更新ペースを上げる受験生の恥です()


百二十九話 芽生えた恐怖

 

 

 

 黒い喪服に、並ぶ暗く厳かな顔、経の独特の響き。

 控えめな彩色の花々に彩られた壇上に備えられた二つの遺影の前で手を合わせてはまた一本花を添えてゆく人々の流れを、陸は虚ろな目で眺め続ける。

 

 

 あの日、穏やかだった漁港は一変地獄絵図と化した。

 出航していた船は一隻残らず大破し、漏れ出たガソリンに引火した事で海すらも赤く燃え上がったその光景は、とても何かに例えられるものではないような惨劇で。

 

 その中で苦しみ、炎に抱かれ、絶望の中息絶えてゆく者達の姿は、それを目撃した人々にすら火傷を残した。

 

 

 暴君怪獣タイラントの襲撃により犠牲になった人々は三十二人。

 遺体すらも残らなかった犠牲者へのせめてもの弔いか、それぞれへの葬式は地域を上げてのものとなり、今日は最後の二人。陸の両親の葬儀が執り行われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「りっくん!」

 

顔も合わせたことのない親族や漁業組合の人々から掛けられる哀悼や励ましの言葉が、何処にも留まることもなく空虚に消えてゆく。

そんな中で陸の意識を引いたのはただ一つ、焦燥を浮かばせた顔で駆け寄ってくる月の声だけだった。

 

「……どうした?」

 

微塵の生気もない乾いた声で返す。

月とは式が始まる前にも顔を合わせたし、その時にお悔やみの言葉も貰ったはずだ。

 

「……ごめんねりっくん。ご両親亡くした後にこんな事聞くのは非常識だってことは分かってるんだけど…」

 

そう断った月の表情はいつになく真剣で、同時に不安も孕んでいて―――陸にとっては危機感すらも感じるものだった。

 

「……曜ちゃんと何があったの?」

 

そして、その予感は早々に現実のものとなる。

家が隣な上に陸の親と親交があった両親に連れられて出席した曜と顔を会わせ、そこで違和感を感じた。訝しむ瞳はそう訴えてきている。

 

「余計なお世話かもしれないけど、何かりっくんを手助けできるようなことないかなって、さっき曜ちゃんに相談しに行ったんだ。…でも曜ちゃん、知らないとか助けなくていいとか言って全然聞いてくれないし、終いには怒って帰っちゃったんだ」

 

それは先日陸と曜の喧嘩話を楽しそうに聞いて笑っていた彼女とは違う。

普段のイザコザでは済まされない程の関係の破綻と、その背景にあるとんでもない何かを不安がっている顔だ。

 

「いくら喧嘩した後だったとしてもこんな時にまで持ち出すのはおかしいし……あんなのボクの知ってる曜ちゃんじゃないよ…」

 

月は陸がウルトラマンゼロであることも、曜がスライに記憶を操作され、陸への憎悪を植え付けられていることも知らない。

陸や曜に関する記憶が弄られていない彼女にとって、この状況は異常事態以外の何物でもないのだろう。

 

「黙ってるってことはやっぱり何かあったんだよね? …お願いりっくん、何があったのか教えて」

 

それが意地悪や好奇によるものでなく、こんな時だからこそ陸と曜を心配してのことだということは分かっている。

その優しさは嬉しくもあるが……それ以上に怖くもあった。

 

「…なんでもねーよ。ただ喧嘩した後にこんなことになったから気まずいだけだろ」

 

「……わかった」

 

咄嗟についた見え見えの嘘に、何かに納得したように首を振る月。

誤魔化せたのか…いや、きっと彼女はこれが嘘だということくらいわかっているはずだ。

 

「…やっぱり今聞くことじゃなかったね。……ごめん、こんな大変な時に」

 

ごめん。再度そう残して去っていった彼女に、ズキリと強烈な痛みが胸を抉った。

違うんだ。彼女は純粋な優しさで親身になってくれただけだし、陸自身もそれが嫌なわけじゃない。

 

ただ、真実を話すことで月までが離れて行ってしまうことが、怖かった。それだけなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ただ喧嘩した後にこんなことになったから気まずいだけだろ

 

その言葉が嘘なのはすぐに分かった。彼だって見破られていることは悟っているはずだ。

嘘をついたことも気にしてはいない。むしろこんな時に聞いた月の方が非常識なくらいだ。

 

ただ、一つ。あの瞬間に陸から感じた憔悴とは別の何かが引っかかる。

恐らくだが彼が嘘をついた根底にある、何かが。

 

無論無理に詮索するつもりはないが、人が変わったかのような、曜のあの様子。

月の知っている限りではあの曜が陸を嫌いかのような素振りを見せるなどまずありえないと、従姉妹としての勘が告げている。

それにあの陸が本気で曜に嫌われるような真似をするとも考えにくい。

 

ともなると何か外的なもの、特殊な力でも働いたのか……などとファンタジーめいたことすら考えてしまう。

 

『…知りたいか、娘』

 

「え……?」

 

不意にかかった声に思考と足を止める。

ただ呼びかけられただけならこんな反応にはならなかっただろうが、その声にはまるで月の心を見透かしているかのような、そんな気味悪さに思わず立ち止まってしまった。

 

『知りたければ教えてやろう。・・・ただし―――』

 

声の主を探して目線を挙げた真上。

金色のマントをはためかせた青い異形を視認したその刹那、暗転する視界の闇の中へと意識は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人でいるはずの家の中の空気は随分と重く感じる。

 

 待つことには慣れていたはずだった。

 戦っている陸を信じて、自分は帰ってきた彼を笑顔で迎えるんだって。そう思っていつも彼を待っていたつもりだった。

 

 でもそれは、都合のいい妄想だったのかもしれない。

 

―――――ずっと陸の事・・・・・・好きだったから・・・!

 

―――――まあいいじゃねーか。これでラッキョウ野郎の催眠が解けたら晴れて両想いだぞ?

 

 彼の帰る場所に自分は含まれていないなどと言うつもりはない。

 けれど、今までだって、これからだって、一番陸がお帰りの声を望んでいるのは、きっと彼女のはずだから。

 

「……陸ちゃん…」

 

 こんな時、彼女ならどんな言葉を掛けるだろうか。

 天涯孤独の身となった彼に、どんな顔で接するのだろうか。

 

 それすらもわからずに陸の負担の一因となっている自分は、果たしてここにいていいのか。

 

 日に日に自分の知っている陸じゃなくなっていって、どんどん自分の知っている陸が壊れていって。その原因が自分にもあるのが恐ろしくて。

 

 そんな彼が帰ってくるのが、今日は途轍もなく怖かった。

 

「…!」

 

 きぃ、と音を立てて玄関の戸が開く。

 反射的に飛び出せばやはり陸がおり、しっかりとしたそれながらもどこか不安を覚える足取りで歩み寄ってくる。

 

「りくちゃ―――」

 

 次に続ける言葉を探しながら口に出したその名前は彼によって遮られる。

 

 思い切り抱き締められている。そう理解するのには少し時間がかかった。

 

「・・・・・・ごめん・・・もう少し・・・・・・」

 

 羞恥と驚きに顔を染めながらも、何処かすんなりと受け入れている自分がいる。

 微かに震えるその身体が物語るのは、確かな怯え。

 不意に垣間見えた彼の弱さに覚えた同情が胸を締め付ける半面、何処か救われたような気もした。

 

 

 

 今の陸には、自分しかいないんだ。

 その事実にはどこか、自虐を帯びた優越感があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。もっと互いに依存しあえ」

 

 なにあれーと指をさす幼女に、見ちゃダメとその両目を塞いで足早に立ち去る母親。

 そんな漫画染みたやり取りをする親子の目の向きで、男が一人。

 

「いずれそれは牙を剥き、やがてお前達自身を破滅に導く」

 

 その風貌に不似合いなロリホップキャンディーを舐め回す様は不気味を極め、当然周囲の雑踏から向けられる視線は好奇や畏怖、怪訝と好まれたものではない。

 だがそんなものには興味がない。そう言うかのように笑いを漏らし始めた男の真っ暗な瞳の奥で、何かが渦巻く。

 

「己の心の弱さが大切なものを壊した絶望の味は・・・・・・実に甘美だろうなぁ・・・」

 

 歯を立てられた飴に走るヒビ。

 それは即座に亀裂を広げてゆき、やがて円盤状に型取られた渦巻は砕け、ボロボロと地面に零れてゆく。

 

「ハハ・・・・・・・・・・・・アーッハッハッハッハッ・・・・・・!」

 

 反り返った男から伸びる影の中で、仮面の悪魔の笑いが蠢いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直に言ってしまうと、幼少期から両親と過ごした記憶はほとんどなかった。

一年の大半を仕事で家を空けているし、何なら預けられていた曜の家での思い出のほうが遥かに多いくらいだった。

 

けど、それでもたまに電話で交わしたやり取りや、短いながらも帰ってきている間の団欒で、自分が愛されている事は分かっていたし、それは確かに嬉しかった。

 

だからこそあの瞬間から流れているこの時間が、途方もなく苦しいんだ。

 

「・・・残念だったね。ご両親の事・・・」

 

「・・・オウガ・・・」

 

窓から差す月光が照らす部屋に、ふと黒い男が現れたことに気がつく。

普段から気持ちの悪い笑顔を絶やさないその男は珍しく神妙な顔つきをしており、儚さすら感じさせる雰囲気は不思議と慰められているような感覚がした。

 

「ごめんよ、こんな時に。・・・・・・君に言っておかなくちゃいけないことがあるんだ」

 

どうやって入ったんだとか不法侵入だとかはどうでもよかった。

今はもう、こいつでもよかったから。

 

「・・・・・・いつ言うべきなのか分からなかったし、そもそも言っていいことなのかも分からなかった。けど、今だからこそ言わなきゃいけない気がしてね」

 

最近のオウガはどこか物悲しそうにも見える。

今の心情も相まってか、今日はそれが顕著だ。

 

「君は―――ッ!?」

 

『それはルール違反だと分かってのことか? オウガ』

 

物々しく紡がれようとした言葉を遮る声が一つ。

そして次の瞬間にはオウガが吹き飛び、激突した壁が派手な音を立てる。

 

『スライが言うから泳がせていたが…、やはりお前は処分しておくべきだったな』

 

「月・・・?」

 

『いや・・・違う・・・!』

 

音も立てずにオウガを強襲したそいつは、陸のよく知る者。

だが纏う覇気や瞳の奥で燻る闘志は明らかに彼女のものでなく、その身体を支配しているのが全くの別者だということを物語っていた。

 

「・・・久しぶりだってのに随分なご挨拶だね、ヴィラニアス・・・・・・」

 

『貴様に掛ける慈悲などないわ。裏切り者が』

 

ヴィラニアス。

そう呼ばれた月―――の身体を乗っ取ったのであろうテンペラー星人―――極悪のヴィラニアスが不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「何で月に・・・」

 

『・・・我輩も随分とスライに毒されているらしくてな。利用できるものは利用したまでの話・・・・・・それに、今の貴様には覿面であろう?』

 

自身の支配する身体を指差し、人質だと言わんばかりに奴が浮かべる笑みから溢れるスライのものとはまた別質の悪意。

何を企んでいるのか分からないというのではなく、むしろ愚直なまでに己の目論見を示しているような、そんな底意だ。

 

『なに、大したことではない。ただ我等と戦えばよいだけの話だ』

 

『戦えだぁ・・・?』

 

心身ともに消耗している陸達を正面から叩き潰しに来た。恐らくはそういうことなのだろう。

 

『あぁ。・・・ちょうど貴様等も、こいつへの憎しみが募ってきた頃だろう・・・?』

 

身を翻したヴィラニアスの背後。窓枠の外に広がる月夜の中で吼える、紅い双眸の獣。

そのシルエットが奴のものだと悟った刹那には、既に身体はそいつへ向かって動き出していた。

 

「・・・陸ちゃん…? 今の音な―――え・・・?」

 

不穏な気配を感じ取り部屋を覗いてきた千歌の眼前で閃光が迸る。

 

直後に轟いた地響きを上げた赤と青の巨人は、ウルトラマンの象徴であるその胸の光を闇夜に煌かせた。

 

 

 

 




陸がすっかり弱々しく……まだ虐めるんですけどね(不穏)
そんでロクな出番も無しに退場する両親ェ……

本編で言及するか分からないので解説しておくと陸は幼少から一人でいたり曜の家に預けられたりする事が多かったため孤独に対して敏感です。
前にあったように相手の事を案じて自ら離れる場合と違い、他者からの拒絶や別離、特に親しい者とのそれには滅法弱くわりとポッキリ心がいっちゃう訳です。

そしてそれを見抜いたうえで何かを企んでる二大勢力……

次回は久々の戦闘パートです。それでは
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