ゼロライブ! サンシャイン!!   作:がじゃまる

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高校卒業しました
春からまた心機一転、新たな環境で頑張ろうと思います。


百三十二話 仮面の予定調和

 

 

 

 ―――いいねぇ実にいい。君なら彼の心に変化を与えることが出来そうだ

 

 ―――私はただの傍観者。君や彼の行く末を楽しみにしているだけだ

 

 あの男は一体何だったのだろう。何をする気なのだろう。それで陸に何が起こってしまうのだろう。そんな事ばかりが脳内を反芻する。

 今になってこの声に不安を煽られるのはきっと、目の前で起きている光景に呼び起こされたからなのだろう。

 

「陸ちゃんッ!!!」

 

 しばらく上げる事のなかった大声を巨人に向かって張り上げた。

 傷付き、今にも倒れそうでいる少年と共に戦っている、青い巨人に。

 

『デエェェェイヤァ!』

 

『ギャアアァァァァウゥゥゥッ!!』

 

 勇ましく猛る怪獣に巨人の蹴りが刺さる。

 今のところ苦戦しているような様子こそ見えないが、それでも不安で、怖くてたまらなかった。

 

 これ以上陸が壊れてしまうのが。また何も出来ないでいるのが。

 

 それが、途方もなく怖くて辛い。

 

「はは・・・・・・これはいい。面白いものが見れそうじゃないか」

 

 そんな心情を知ってか知らずか・・・いや、見抜いた上のものであろう声。その正体は振り返らずとも分かった。

 

「・・・やあ。また会ったね、お嬢さん」

 

 音もなく隣に現れていた、無表情ながらもどこか不気味な雰囲気を纏った男。

 初対面はつい一日前だというのに、千歌にはもう何年も前からの因縁があるようにも感じられた。

 

「・・・・・・今度は何の用・・・?」

 

「・・・なぁに。ちょうど甘ーい絶望の香りがしたものでね。ついつい引き寄せられてしまったよ」

 

 怯む姿を見せてはならないと己を振るい立て、頑としてそいつに睨みを向ける。

 だが男は怯むどころか愉快そうにそれを受け流し、むしろ吐息を吹きかけて逆に千歌を怯ませて見せる。

 

「けど私が求めているのはそれじゃない。もっと、もっと大きくて甘美なもの・・・・・・・・・・・・だから、君を助けたくてねぇ・・・」

 

「何言って・・・」

 

「あのウルトラマンを助けたいんだろ・・・・・・? まあ、すぐに分かるさ」

 

 繋がらない文脈に首を捻ったその時、ついさっきまで視線を向けていた方向で地鳴りが響く。

 原因は明白だった。怪獣の攻撃を受けたゼロが地面に叩きつけられたのだ。

 

「っ・・・!」

 

 もう何度も見たはずの光景なのに、今になってそれは不安を煽る。むしろ何故今まで重大視してこなかったのだと思う程に。

 

「・・・・・・私なら君に彼を助けるための手助けができる・・・・・・そう言ったらどうする?」

 

 文字通りの悪魔の囁きが、いつになく強く心を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャアアァァァァウゥゥゥッ!』

 

『シィィヤ!』

 

 振り下ろされたタイラントの右腕を真横に転がり間一髪回避。即座に立ち上がって側頭部に一発お見舞いする。

 

『流石に前よりは動けているようだな!』

 

 注意を払っていた背後のヴィラニアスが動いたのを察知し、真後ろから不意打ちを気配だけで躱す。

 追撃の光弾は投擲したゼロスラッガーで相殺。その隙に一旦距離を取り体勢を立て直した。

 

『ハハハ・・・! それでこそウルトラマンゼロよ!』

 

『うるせぇ! 突拍子もなく現れやがって・・・何が目的だ!』

 

 今度のヴィラニアスは唐突に現れた。

 以前のようにあちら側から挑戦を持ち掛けてくる形ではなく、いきなり街中に出現してはゼロを誘うように破壊活動を開始したのだ。

 

 自身がどんな状況であれ滞在している星の原住民に危害が及ぶ可能性があれば出動しなければならないのがウルトラマンの宿命。例え一体化している人間がボロボロであっても、だ。

 

『戦士同士の戦いで目的を問うのは無粋というものではないのか? 吾輩がここに立つ理由は一つ! 貴様との戦いよ!』

 

 高揚した声音で宣ったヴィラニアスが突撃を再開してくる。

 宇宙警備隊という肩書き上あまり声高に言えたことではないが、ウルトラマンの中では血気盛んな自分でも今は戦いは避けたかった。町が破壊されていてもだ。

 

 昨晩から陸の容態の悪化が目に見えて止まらない。

 頭痛に動悸、発熱だけを見ても並みの地球人ならとっくに死に至っていてもおかしくない程だ。

 

 心労か、はたまたまた別の理由か。とにかく原因が分からない以上は戦いなど以ての外だが、始まってしまった以上は仕方ない。

 

『ワイドゼロショット!』

 

『ぐ・・・ぅお・・・!』

 

 早急にコイツ等を突破して光の国との交信手段を取り戻すないしは見つけ出す。それが今できる最善の手だ。

 

『デエェェェヤッ!!』

 

 光線技で牽制をかけた後に素早く接近戦へと持ち込み、宇宙拳法でラッシュをかける。

 気を緩めるな。一瞬の隙を突き続けろ。反撃の間を与えるな。一体化している以上ダメージを受ければそれは陸にも通る事になる。そうなれば何が起こるかなど想像もつかなくなる。

 

 よって被ダメージは厳禁。一方的に押し切れ。

 

『ギャアァァァァウゥゥゥッ!』

 

『オォラッ!』

 

 タイラントの発射した鎖繋ぎの鎌を巻き取る形で掴み上げ、接合部が引き千切れんばかりの力でぶん回しヴィラニアスへと投げつける。

 勿論ダークネスファイブの一角を相手にワンサイドゲームを決めようなど無謀もいいところだろう。だがこの賭け、勝つしか道はない。

 

『ガルネイトバスタァァァァァッ!!!』

 

 灼熱の熱線がタイラントの吸収が作用しない背中へと打ち込まれ、悲鳴と爆音が大地を揺らす。

 余波で上がった黒煙が濛々と立ち昇るが、それを物ともせずにストロングコロナゼロはその拳でタイラントへと追撃をかけた。

 

『その姿との手合わせは初めてだな!』

 

『フ・・・ンッ!』

 

 転倒するタイラントの影から飛び出すヴィラニアスの電磁ロッドを右腕で巻きつけるようにしてキャッチ。胸元へ手繰り寄せると同時に突き出した拳で胸部に打撃を決める。

 

『ダアァァラァ!』

 

『グおぉ・・・!』

 

 ひと際力を籠めて振るったパンチングに悶えたヴィラニアスが堪らず電撃の鞭を解除し先程のゼロのように距離を取る。

 

『・・・既に研究され尽くした形態でなおその強さ・・・・・・面白い!』

 

 開いた両腕の鋏は虹色の光線が伸び、大気を焦がしながらゼロに迫る。

 ウルトラ兄弟必殺光線・・・先日陸がやられはしたが、ゼロとしてはもう何度も見た技だ。そう何度も喰らいはしない。

 

『ナイトビームセイバー!』

 

 煌いた蒼い閃光が光線を両断し、二方向に分かれて地面に着弾。それにより巻き起こった爆風に乗ってヴィラニアスに突っ込んだゼロの姿もまた蒼。

 ルナミラクルにアグルとヒカリの力が上乗せされた強化形態―――グランナイトゼロ。

 

『セエェェェヤッ!』

 

『ぬおぉぉ・・・!』

 

 光剣の刺突と鋏が衝突する度に上がる火花の中で青と青がぶつかり合う。

 同じダークネスファイブのグロッケンやデスローグを圧倒した剣戟ですらもその肉体に完全には到達しない。やはり体捌きならば奴等の中でもトップクラスか。

 

『ギャアアァァァァウゥゥゥ!』

 

 加えタイラントにより度々入る文字通りの横槍。訓練された獣の補助が更にそれを阻害する。

 

 せめて一対一か、グランナイト以上のパワーが必要になるか・・・、

 

「・・・ゼロ・・・・・・俺も・・・・・・!」

 

『いいからお前は引っ込んどけ!』

 

 ゼロビヨンドならば・・・一瞬そんな考えが過るも、陸との感覚が今より更にシンクロする以上使う訳にはいかない。

 疲労や力の行使も今の陸には厳禁だ。もしまたベリアルの力に染まるような事があれば容体は悪化しかねないだろう。自分一人で乗り切らねば。

 

『ら・・・ああぁぁ!』

 

 ビームセイバーを用いて突きを受け流し即攻撃へ転じる。

 空いた横腹を張り手で叩き、振り払おうと薙がれた剛腕を屈んで回避しては光剣で斬り返す。

 

『その程度・・・・・・効かぬわァ!』

 

 とは言え速度重視で力の籠っていない斬撃は奴の頑強な外殻の前にはあまりダメージが通らない。

 敢えて攻撃を受けることでゼロの動きを補足したヴィラニアスはその鳩尾目掛け足を振り上げる。

 

『ッ・・・・・・パーティクルナミラクル!』

 

 体捌きでは凌げないと悟り、咄嗟に身体を光の粒子へ変えて攻撃をやり過ごす。

 だが致命傷には至らないはずのその攻撃を必死に回避したゼロを不可解に思ったか、ヴィラニアスは首を捻り―――、

 

『・・・貴様、もしや仙道陸を慮って攻撃を受けないようにしているな』

 

『ッ・・・!』

 

 心中を看破され、狼狽えるようにゼロが一歩後退。

 その反応で自身の推察が正しいことを確信したか、ヴィラニアスは呆れ半分、期待半分と言った様子で息をついた。

 

『・・・吾輩相手にここまでのことをしたのは見事だ・・・・・・だがあまり舐められるのも気分が悪いな』

 

 微かな苛立ちを示すように開閉した鋏で音を立て、ぎらりと赤い双眸をゼロに向ける。

 

『・・・しかしあの立ち振る舞いでこれほどの力を発揮できるのは興味深いのも事実。ここは一つ、貴様の本気というものを引き出してみるとするか!』

 

 ヴィラニアス、そしてタイラントが同時に飛び出し、両者が猛烈な圧を伴ってゼロに迫る。

 二方向から押し寄せる攻撃をバックステップで躱し、一先ず間を開けて状況を分析。

 

 奴等の狙いがどう変わろうと被弾してはいけないことに変わりはない。速攻あるのみだ。

 

『セエェェヤ!』

 

 横薙ぎにされたタイラントの腕を飛び越え、ムーンサルトキックで後頭部を強襲。よろめいたところを更に背後から蹴り飛ばし転倒させる。

 

『リキデイトシュート!』

 

『フンッ!』

 

 十字に組んだ腕から˝弱めに˝打ち出した光の線はヴィラニアスにより易々と弾かれ、撃墜した地面から土煙を上げる。

 

『目くらまし・・・小癪な!』

 

 無論この程度ヴィラニアスに通じないのは分かっていた事だ。予想通り翻したマントが影を生み出し、視界を覆っていた土煙が吹き飛ばされる。

 

 ―――銀色の光を散らしながら。

 

『・・・これは・・・?』

 

 その光の正体は氷。リキデイトシュートの冷気が凍らせた土埃が光を反射し輝いているのだ。

 そしてリキデイトシュートを弾いたヴィラニアスの腕は―――?

 

『ぬ・・・ぐ・・・!』

 

 周囲の空気に霜を生み出す程の冷気を秘めた光線は振り下ろされたヴィラニアスの腕を地面に縫い付け、その場に固定する。

 

 動かぬ標的へと一閃。全力で振り抜く。

 

『アブソリュートゼロレイド!』

 

『ぐおぉぉおおぉぉッ・・・・・・!!』

 

 迸った極零の刃が遂にその胴へと到達。風圧に乗った氷の塵が舞い散った。

 だが会心の一撃とはいえ致命傷には至らなかったようで、傷口に手を得て呻くもののヴィラニアス自身はまだ健在のようだった。

 

『・・・フハハ・・・・・・これが宇宙最強の肉体と謳われる者の力・・・!』

 

 肩を大きく揺らしながらもヴィラニアスは笑う。

 それは侮蔑や嘲笑などではなく、純粋に今この時を楽しむ、戦士の表情。

 

『この高鳴り・・・この高揚感・・・・・・面白い・・・、面白いぞゼロ! これこそ吾輩が求めていた強者の姿よ!』

 

 高ぶる感情のままに声を上げたヴィラニアスが金色のマントをはためかせ、真正面からゼロへと突撃。

 紙一重でゼロの脇を掠めた電磁ロッドによる攻撃は、心なしか数段スピードが向上しているようにも思えた。

 

『タイラント、お前は手を出すな・・・・・・吾輩一人でやる』

 

 途端、接近戦に持ち込んできたヴィラニアスの連撃が更にその速度を上げ始める。

 その戦闘スタイルの差異に気付くのにそう時間はかからなかった。恐らくタイラントとの連携を断ち切ったことでヴィラニアス本来のスタイルに戻った・・・ということなのだろう。

 

『ヌアァァッ!』

 

『ぐっ・・・!』

 

 一発一発に鋭さが増し、威力も向上しているのが伺える。

 鋏の殴打を躱せば息つく間もなく電磁ロッドの追撃が迫り、それを回避しても今度は回し蹴りが襲いかかってくる。

 

『アブソリュート―――ッ・・・!』

 

 反撃しようにもラッシュに絶え間がなさ過ぎる。

 連携を捨て、ゼロ一人に集中することで動きに隙が無くなっているのだ。

 

『貴様がどう戦おうと構いはしない・・・・・・吾輩はそれを超えるまでよ!』

 

『ッ・・・!』

 

 電撃の掠めた腕に確かな痛みが足る。

 ダメージほとんどこそないが、それ以上に余裕が削られるのが痛い。

 

『それこそが吾輩の・・・・・・戦いに身を賭した戦士の誉れ!!』

 

 更に激しさを増す連撃に思考すらも曖昧に纏まらなくなってゆく。

 そして熱線を躱した直後、体勢を崩したゼロへと一直線にアッパーカットが伸び―――、

 

『がっ・・・あぁぁ・・・・・・!』

 

 衝撃が土手っ腹を突き抜け、痺れるような痛みが全身に広がる。

 加え点滅を始めたカラータイマーが活動時間と余力の限界を告げ、その表れか腕から伸びていたナイトビームセイバーが掻き消える。

 

「ぜ・・・ろ・・・ぉっ・・・・・・!」

 

『ッ・・・!?』

 

 抑え込む力の抜けたその一瞬に陸のベリアルの力が膨れ上がるのを感じた。

 同時にその鼓動は脈打つと共にゼロを蝕み、波が重なる度にその痛みは増幅してゆく。

 

『ぐ・・・あぁ・・・・・・!?』

 

 最悪でも一発二発は耐えられると思っていたが、それが甘い考えだったと悟る。

 一体化して戦う以上、どんなに手を尽くそうとある程度感覚は共有する事となる。ヴィラニアスという強敵との戦いでのゼロの運動や消費エネルギー、疲労が齎す刺激は、今の弱った陸からベリアルの力呼び起こすには十分すぎた。

 

 それが抑え込む力が弱まった瞬間に爆発した・・・という事だ。

 

『ヌエェェイッ!』

 

『がぁあっ・・・あぁ・・・・・・!』

 

 更に追い打ちの蹴りが入り、更なる激痛が外と内両サイドから襲い掛かる。

 遂にはグランナイトすら維持できなくなり、粒子を巻き上げて倒れ込んだゼロが大地を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陸ちゃん・・・・・・陸ちゃん!!」

 

 急に様子のおかしくなったゼロが地面に倒れ伏すのを見た千歌が堪らず悲鳴に近い叫びをあげる。

 全力をもって叩き伏せ、己の力を誇示せんとする宇宙人を前に、既に彼等が満身創痍なのは火を見るよりも明らか。

 

 それでもなお攻撃の手が止まる事はなく、絶えず打撃音と短い悲鳴が周囲に響いた。

 

「・・・やめて・・・・・・死んじゃうよぉ・・・・・・!」

 

 そう思うだけで途方もないくらいの恐怖が脳裏を駆け巡った。

 

 小さな時から近くにいた彼の優しさ、強さ、その全てが他の皆にはない温かさをくれて、安心できる。

 

 そんな陸だけなのに。今の自分には陸しかないのに。

 ここで彼まで失ってしまったら、本当に独りぼっちになってしまう。

 

「おやおや、随分と苦しそうじゃないか・・・・・・君のオトモダチ」

 

 傍らで愉悦に震える男の声もほとんど入っては来なかった。

 自身の目尻から零れるものにも気が付かず、ただただ制止を求め、悲痛に声を上げ続ける。

 

「・・・まさかこうも思った通りに進むとはねぇ。やはり彼等は面白い」

 

「・・・・・・?」

 

 わざとらしく、あえて千歌に聞かせるように男が呟く。

 今度は明確に耳朶を打ったその声に、これでもかと敵意を込めて睨みつけた。

 

「陸ちゃんに何したの・・・?」

 

「おっと、誤解するのはやめて欲しいな」

 

 千歌が食いかかってきたことへの快哉に浸るように口角を吊り上げた男の顔が近付けられる。

 

「前にも言ったが私はただの傍観者。自ら手を出すようなことはしない・・・・・・君が望むのなら、話は別だけどね」

 

 虚空。

 そうとしか例えようのない黒さを持った双眸が千歌の眼前まで迫った。

 

「私はこうも言った。私なら君に彼を救う手助けができるとね。君が望めば今すぐにだ」

 

 取引を求めるように千歌の懇願を望むような男の姿は商人と呼ぶには生温かった。

 悪魔。そんな呼び名が相応しいと感じるまでに男の囁きは千歌を捕らえて離さず、心に付け入ってくる。

 

「勿論強要はしないさ。生命は悩み迷うからこそ美しいもの。それを私自身の手で壊してしまっては意味がないからね」

 

 あくまでも千歌の意志に委ねる。そう言った男の背後でまたも轟音が上がった。

 

 選択の余地などない。そう言うかのように。

 

「・・・・・・まあ、ただ。このままじゃ君のだぁい好きな彼が無事に帰ってくる保証はないだろうけどね」

 

「っ・・・!」

 

 見えざる手によって導かれるかのように、自然と動いた手がポケットの中からエボルトラスターを取り出す。

 脈打つように灯る結晶体の輝きは、まるで千歌の意志に呼応しているようにも見えた。

 

「・・・君は実にいい」

 

 それを承認と取ったか、一歩引いた男の人差し指が千歌の額を弾く。

 いや、正確には˝千歌の記憶に被さっていた蓋˝を。

 

「・・・・・・よき、旅の終わりを」

 

 男がそう口にした時、既にその声を聞く者は場にいなかった。

 

 

 

 

―――――お前は何故戦う?

 

 実体のない縞瑪瑙のような空間の中で問われた。

 

―――――友のため、世界のため・・・・・・それとも己のためか?

 

 それは声として発されている訳でも、直接頭の中に語り掛けてきている訳でもない。

 ぼんやりとしたイメージとしてだけの存在だったが、そう言っているのだろうと、何故だか理解出来た。

 

―――――分かんないよそんなの。

 

 自分の返答もまた声にはならず、仮に伝わってなかろうとも構わなかった。

 

 きっとこれは、自分の中で抱いているだけで十分だろうから――――、

 

―――――でも、私がやらなきゃダメなんだ。・・・絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゼロツインシュート!』

 

 ヴィラニアスの連撃を凌ぐその間髪。

 ウルトラ念力でゼロスラッガーをカラータイマーの両サイドに装着すると同時に両腕のガードを解き、放出した光の奔流でヴィラニアスを振り払う。

 

『いいぞ・・・・・・もっと吾輩を楽しませろ!』

 

 消耗したエネルギー量の関係上ダメージこそ期待できないが、距離を取れるだけ十分。

 以前の言動からして奴等には自分達にトドメを刺す意思が無い。陸の状況を鑑みればここは一度引くのが最善―――、

 

『・・・・・・?』

 

 猛進してくるヴィラニアスから撤退すべく変身を解除しようとしたその瞬間。

 不意に肌を撫でた温かさの方へと視線を流せば、燦然と輝く光の柱が空へと昇っていた。

 

『あれは・・・!』

 

 ヴィラニアスすらも足を止める中、その光は猛烈な既視感を伴って一点へと集約してゆく。

 やがてある姿を形どった眩さは途端に弾け、˝銀色の巨人˝として現出する。

 

『『ネクサス・・・!?』』

 

『シィィヤ!』

 

 光が完全に収束し切るのを待たずに巨人が大地を蹴り、飛び蹴りの姿勢でヴィラニアスへと突撃。

 

「・・・・・・ち、か・・・?」

 

 ネクサス。

 ウルトラマンネクサス。

 

 かつて時空消滅爆弾により崩壊しかけたこの宇宙を救った伝説の巨人―――ノアの仮の姿であり、世代を超えて繋げられてきたその光を今は千歌に宿したウルトラマン。

 

『フゥ・・・アアァァァァァァァ!!』

 

 以前ダークザギによる窮地からゼロ達を救ったネクサスだが、今回は前のような神秘性は感じられず、むしろどことなく人間臭くも感じる。

 焦燥、追捲りなどと言った必死さがひしひしと伝わるその動きでヴィラニアスを攻め立て―――、

 

『邪魔を・・・・・・するなァァァァッ!!!』

 

『アアァァァァ・・・・・・ッ!?』

 

 激昂に乗ったヴィラニアスの剛腕がネクサスの下腹部へクリーンヒット。踏ん張りすら利かせられずに吹き飛んだ巨人が地を揺らす。

 

『人の身でありながら吾輩の興を邪魔するその蛮行・・・・・・身の程を知れ小娘が!!』

 

 ゼロに対するそれよりも遥かに荒々しく、力の籠った打撃からヴィラニアスの激怒具合が窺い知れるが、着目すべきはそこではない。

 

 あまりにもネクサスが弱すぎる。いくら相手がヴィラニアスとは言え、あのダークザギと渡り合えたネクサスがここまで一方的にやられるのは不可解だ。

 

 理由があるとすれば、それは―――、

 

『まさか・・・千歌・・・?』

 

 よくよく考えてみればヴィラニアスへの攻撃も拙い動きだった・・・そう考えると今あの巨人の身体の主導権は千歌にあるという事になるが、どうも合点がいかない。

 

 ダークザギの時と違いネクサスが自身で戦わないのは千歌の意志を尊重したのかもしれないが、例えそうだとしても変身者の危機を知らせるエナジーコアの点滅にも関わらずまだ主導権を切り替えないのはおかしい。

 

 

 そうなると何か、外的な要因でネクサスの人格が表に出れていない・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハ・・・! アーッハッハッハッハッハッハッ・・・・・・!」

 

 蹂躙される銀色の巨人を眺める悪魔の高笑いが孤独に響く。

 

「いい・・・実にいいよ! やはりお前は光の本質を暴くに相応しい!」

 

 心の弱い者、弱った者とは実に乗せやすい。これまで何度そのような者達が身の程を弁えずに自ら果てていったのを見た事か。

 その中でも今目の前で起きている˝実験˝は実に愉快だった。いつになく心が躍る。

 

「手も出せずにただただ眺めている気分はどうだぁ・・・? お前の光とやらに選ばれたせいでそいつは自らを滅ぼす・・・・・・それが光の末路だ」

 

 実に簡単だった。殆ど極限に追い込まれる事で仙道陸への感情に歯止めが利かなくなった高海千歌の背中を押す―――ネクサスに変身した際の記憶を封じていた蓋を開けてやっただけ。たったそれだけだ。

 

「光も、闇も・・・・・・ましてや絆なんてものに意味はない。等しく虚無だ」

 

 ノア―――ネクサスが高海千歌に干渉できていないのは˝あの存在˝が阻害しているからだろう。その状況を知った時は少し驚いたものだが利用しない手はなかった。

 まあ、恐らく向こうも同じ事を思っているのだろうが・・・・・・、

 

『アアァァァァァァァッッッ!!!』

 

「・・・おぉ」

 

 ネクサスが出現した時以上の光が発生するのを感じ取る。

 その正体はウルトラマンゼロ。自身の身体を黄金に輝かせ、ネクサスとヴィラニアスの間へと入った。

 

『シャイニングエメリウムスラッシュ!!』

 

「・・・・・・今どんな気分かな? かつて自分を葬り、蘇らせた正負の因縁を見るのは」

 

『何故それを・・・・・ますます野放しには出来なくなりましたね』

 

 極光の光線を目くらましにネクサスと共にゼロが撤退したのには目もくれず、背後に現れた甲冑を着こんだ宇宙人と対峙する。

 

「おやおやこれはまた・・・・・・お目にかかるのは初めてでしょうか?」

 

『挨拶など結構です。・・・・・・何者ですか貴方・・・!』

 

 赤い双眸に確かな敵意を込めたメフィラス星人―――しかもあの皇帝に使える魔将を前にしてもなお、男は笑うのを止めなかった。

 

「・・・何者ねぇ・・・そんな大層な者じゃないさ。一応、しがない悪魔・・・とでもしておこうかな。心配しなくても君達の計画を邪魔するつもりはない。むしろそちらのとっても私の行動は好都合じゃないのかな?」

 

『それを抜きにしても危険すぎるのですよ・・・・・・貴方からはゼロと似た気配を感じます』

 

「・・・ほぉ・・・!」

 

 カッと見開かれた男の目が更なる享楽を得た事を物語った。

 その現れかのように男の手にはプロテクターのような意匠の施された何かが握られる。

 

「・・・・・・まさか見抜かれるとはね。少々見くびっていたよ」

 

 折りたたまれていたそれは展開と同時に黒い仮面のような形状となり、そのまま薄ら寒く笑う男の顔へと宛がわれる。

 

 その刹那、闇が渦巻いた。

 

『なっ・・・!?』

 

 仮の姿から一変。何かを封じるかのように全身に纏った拘束器具に、素顔を隠す黒い仮面。

 その姿を一言で表すのならば、自称した通りの悪魔であった。

 

『・・・けど悪魔というのもあながち間違っていなくてね。そうだなぁ・・・・・・・・・トレギア、とでも呼んでくれたまえ』

 

 




超久々の登場もパッとしないネクサスさん……実はあのお方が関わっていたり……?

そしてハイ。トレギアです。ちょっと今後の展開でご登場願おうと思っていたトレギアさん先行登場です。今のうちに出しておいた方がこっちとしてもやりやすいので……ネタバレなので何がとは言いませんけども

それと前回更新ペース上げられるかもと言っておいてこのザマなのはパソコンが死んでスマホでの執筆を余儀なくされててですね……パソコンに比べて十倍くらい時間が……
進学までには新調するのでお付き合いください

それでは次回で!
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