とりあえず皆さんお待たせしましたと……
『・・・・・・来たな』
潮風に揺れる林道の影に佇む宇宙人を前にし、無言で構えた。
やはり陸と離れたのは正解だったか。まだ彼は戦わせていい状態じゃない。
「・・・僕を呼んだのはお前か?」
『当然よ。陛下の命とあらばな』
「・・・・・・」
静かにメビウスブレスを構える。
短時間だったとはいえ一度変身したばかりだ。その状態でダークネスファイブの一角にどこまで対処できるか・・・、
『とはいえ、貴様はあのエンペラ星人を倒した猛者・・・・・・例え命でなかろうとも戦う理由などいくらでもある。・・・手合わせ願おうか、ウルトラマンメビウス!!』
「く・・・!」
やるしかない。
彼が何を選ぶかは彼次第。自分にできるのはせいぜいそれを守ることぐらいだ。
かつて教官がそうしてくれたように、今度は自分が。
「メビウ――――スッ!!」
掲げられたメビウスブレスが∞の字を描いた光を迸らせ、その姿を本来の巨人へと変身させた。
無言の間に流れる時には心地よさとその逆がある。
今感じているのは言わずもがな後者。居心地の悪い沈黙と嫌な緊張感が余裕のない心を押し潰す。
「・・・・・・ごめんね。あの時は」
永遠にも感じられたそれを月の呟きが破る。
警戒故か少し強張っていた身体の力がその一言で抜けた気がした。
「あれからさ、色々考えたんだ」
ベンチを見つけて腰かけた月が隣に座れと催促され、言われるがままにする。沈みかけている西日が眩しかった。
「なんでりっくんが・・・・・・ってさ、そしたらなんにもわかんなくなっちゃった」
「え・・・・・・?」
そこで初めて月の顔を見る。あの夜とは違う、妙にすっきりした顔が映った。
「ボクが知ってるりっくんは悪い人じゃないし、それは今も変わってないのも知ってるよ。だからその・・・・・・ウルトラマンと一緒にいるのも何か訳があるんじゃないかと思ってた」
抑えめにおずおずと話す月。やはりスライによるウルトラマンは敵という刷り込みは抜けていないのだろう。
けれどそれでも彼女は今陸の前にいる。彼女にそうさせる何かがあるから。
「・・・・・・でもそこで分からなくなったんだ。˝何が正しい˝のか」
前にも触れた彼女の記憶のズレ。それが周りとの認識もずらしたのか。
スライの催眠下ではまずありえないはずの現状への疑問を彼女は口にする。
「・・・だってそうでしょ? 何があったって曜ちゃんがりっくんを嫌うだなんて思えないし、りっくんは曜ちゃんにそう思わせるような事はしないし」
ずっと陸と曜の関係性を見てきたからこその信頼。それ故なのか。
月は陸やゼロの事を敵だと思い切れていない・・・・・・そう伝えてくる。
「・・・皆ウルトラマンの事を敵だと思ってるし、実際ボクもそれは拭い切れてないんだ。でもそれが心の底から思ってる事なのかって言うと、そうでも無くてさ」
まありっくんだったからって言うのも大きいんだけど、とはにかみ、月は続ける。
「だってあの時りっくん、ボクの事守ってくれたでしょ?」
月にまで離れられてしまったと思っていたあの夜の事。すぐ目の前で恐怖や敵意の対象がいて、その正体が見知った人間だった。彼女にとっては恐怖以外の何物でもなかったはずだ。
でも、それでもそう思えるのは、月自身が陸を信じてくれている事に他ならないから。
「まだウルトラマンは怖いし、よく思って無いのも正直少しあるんだ。・・・でもなにが本当の事で、どれを信じたらいいのかも分からないから・・・・・・」
月と視線が重なる。
その瞳にはまだ迷いこそあったが、言葉一つ一つは嘘偽りのない感情なのだと伝えて来ていた。
「・・・だからボクはボクの信じたい人を・・・・・・りっくんを信じるよ」
月の咲かせた笑顔が、いつになく眩しく見えた。
でもしっかりと向き合えた。眩しさに目を逸らす事なく、真正面から。
そしてその笑顔を・・・・・・その瞳を陸は知っている。
―――陸は確かに、皆の事を危険な目に遭わせたり、ダイヤを傷付けた。・・・・・・でも、それ以上に皆の事を守ってきたんだよ。・・・その事は、忘れないで・・・
―――ずっと私達を守ってくれて、ありがと――――ッ!
―――苦しくなったらいつでも頼って、一人で戦うなんて言わないで。・・・私達は、皆でウルトラマンなんだよ・・・
彼女達が陸に、そしてゼロに向けてくれた言葉は数多くある。
でもそれは初めから向けられていた訳じゃない。
それこそ最初は誰の応援もなく一人で戦っていたはずなのに。時には自ら離れようとした事もあったくらいなのに。
―――僕は皆を信じていただけ。だから皆も僕を信じてくれた
またメビウスの声が反芻する。
――――何のための強さだい
何のために戦っていたのか。
――――君にだっているだろ。信じられる、そして信じてもらえる仲間が
誰のために戦っていたのか。
何度傷付いても、何度死にかけても、それでも逃げ出さずに戦ってきたのは何故だったのか。
改めて考えてみれば単純明快、皆を守りたかったから。
頼まれてもないのに勝手に戦って、勝手に守って。その結果として皆も陸を信じて寄り添ってくれた。月が改めて陸を信じてくれたのも同じ事だったはずだ。
それが全て崩れ去ったのなら、また最初から積み上げてゆけばいいだけ。
ゼロからイチへ・・・・・・全部彼女達が教えてくれた事じゃないか。
「はは・・・・・・アホくせぇ・・・」
いつだってそう思っていたはずなのに、いつの間にか見落としていたらしい。
失わないためでも、まして独りにならないためでもない。
守りたいものを守っていた。ただそれだけだった。
「・・・・・・なんかスッキリしたわ。ありがとな月」
「ううん。ボクこそ、あの時は―――」
何か言いかけた月の声を遮る形で地鳴りが響く。
ヴィラニアスに・・・・・・あともう一人。
見失っていたものを陸自身で見つけられるよう促してくれた、想いに応えるべきあのウルトラマンだ。
「りっくん!」
駆け出した陸に背後から声が掛かる。けど振り返らなかった。
「守ってくれてありがとう・・・言いそびれちゃったから」
立ち止まらず、片腕のガッツポーズだけで返す。
それに応えるべきもここじゃない。きっちり奴を倒して、両者に示さなければ。
『ギャアアァァァァウゥゥゥッ!!』
『フゥゥン!』
タイラントの斧を側転で躱し、間を開けてはメビュームスラッシュで牽制。
光線自体は吸収されるもその隙に伸ばしたメビュームブレードで腹部を掻っ捌く。
『流石、やはり貴様のようなものとの戦いは心が躍る!』
『グアアァァ・・・!』
とは言え不慣れな一対二。一方に集中すればどうしてももう一方への注意が甘くなる。
ヴィラニアスの電磁ロッドに打ち付けられ、メビウスの身体が宙を舞った。
『不思議だね。そこまでの強さがあってどうしてベリアルに・・・』
『愚問だな』
テンペラ―とタイラント。どちらもかなり腕の立つ星人と怪獣であることに加え、タイラントとの戦闘経験はない。
その為否が応でもタイラントに注意が割かれるが、それではヴィラニアスの攻撃が凌げない。
『強き者が弱者を淘汰し圧する。弱者に価値はない。それだけの話よ!』
『・・・卑しい価値観だな』
そうしてまたメビウスに迫った攻撃は、天に昇った蒼雷によって弾かれた。
ウルトラ兄弟唯一であるブルー族の蒼い身体。ウルトラマンヒカリが手を差し出してくる。
『ヒカリ・・・!』
『全く・・・・・・お前も少し突っ張り過ぎだ』
咎めるように言いつつも怒気はない。むしろ普段よりも冷静に努めているように見えた。
『ツルギ・・・・・・か』
『その名を口にするな。今は仲間に貰ったこの名がある』
『どうでもいい。かつて剣豪と名を馳せた貴様とも手合わせできるとはな・・・・・・!』
『おっと、勘違いするな。俺が来たのはメビウスを助けるためでも、まして貴様と戦うためでもない。・・・・・・この目で見届けるためだ』
『なにを・・・・・・』
首を傾げるヴィラニアスの真後ろでまた新たに光の柱が上がった。
赤と青の閃光が弾け、やがて姿を見せたその戦士は―――、
『・・・・・・見せてもらうぞ。仙道陸』
「ごめんゼロ。もう大丈夫・・・・・・かはわかんないけど、もう見失わない」
見慣れた光の空間。その中で相棒と向き合う。
『・・・お前、本当にこれでいいのか?』
「・・・よくなかったらここにいねぇよ」
どうして戦ってきたのか。何故戦いたいと願ったのか。それを思い出したから。
「・・・・・・だから、最後まで一緒に戦わせてくれ」
「・・・・・・わかったよ」
呆れたようにゼロが頭を掻いた。迷いつつ、考えつつ、それでも陸の意志を尊重するように。
『けどこれだけは覚えとけ。お前がアイツ等を守るように、俺もお前を守る』
濁してこそいるが意図は伝わった。もう長らく一緒にいるから。
「行こうぜ」
『・・・・・・俺に命令なんざ二万年早ぇよ。・・・・・・ああ!』
『陸君・・・・・・』
爆炎を吹き荒らせてヴィラニアスへと殴りかかる赤熱の巨人・・・・・・彼であるのは言うまでもない。
『・・・・・・意外か?』
『いや、そうではないけど・・・・・・・・・・・・て言うかヒカリ彼の事見てたでしょ』
『それが俺の任務だからな・・・・・・それより、お前もやるべき事があるだろ』
勿論彼を信じていた事に間違いはないのだが、想像していたよりもずっと早かったと言うか。やはり人間の力と言うものには毎度驚かされる。
どうであれ彼は壁を乗り越えてきた・・・・・・ならば師を務めた者としてやることは一つだろう。
『陸君!』
自身の胸に炎の紋様を浮かび上がらせる。
かつてかけがえのない仲間と描いた、不屈の勇炎を。その証を。
『受け取れェッ!!』
突き出された両腕が想いを乗せ、炎と共にゼロを包んだ。
『メビウス・・・・・・!』
熱が湧き上がった。
全身が燃えるような、心の奥底から沸き立つ炎。
「ッ・・・!」
その熱に呼応するように、ウルティメイトブレスから赤い光が漏れる。
陸や皆に触れて変わっていったルイズが灯したリトルスター・・・・・・ジャスティスの光。
「メビウスさん・・・・・・ルイズ・・・・・・!」
そうだ。進むんだ。
守りたいものを守るために。
信じてくれた仲間のために。
―――私達はラブライブで優勝する。だから陸ちゃんも生きて帰って私達の事見守ってよ
あの日の約束を、守るために。
「行くぞ・・・・・・ゼロッ!」
ブレスを叩き、メビウスの炎とジャスティスの光。その双方を我が身に宿す。
途端に激しさを増す炎。それはストロングコロナの力と融合し、更なる闘気を爆発させた。
「『オオォォォォ・・・・・・!」』
金色の炎が溢れ出し、誓いを刻み込むかのようにエンブレムを浮かび上がらせる。
『クラッシャーブレイブ・・・・・・ゼロッ!!』
『だあぁぁぁぁらッ!!』
突き出された拳が炸裂。噴火が如き轟音を上げてタイラントを殴り飛ばし、余波で発生した熱風が周囲の木々を燃やす。
『貴様・・・その姿は・・・・・・!?』
『オオォォォォッ!!』
蹴り飛ばした大地が焦土と化す。
そんな身体に収まり切らない程の熱量はヴィラニアスの電磁ロッドをも燃やし尽くし、灼熱のラッシュが幾度となく奴を捉えた。
『ギャアアァァァァウゥゥゥッ!!』
猛攻の隙を突くようにタイラントの鎌が死角から迫るが、次の瞬間には切り落とされ地面を貫いた。
『アアァァァァッ・・・!?』
一瞬の出来事を理解出来ていないタイラントの懐に今しがた奴の右腕を切断した光剣が一閃。
更にその勢いのまま掲げられたそれは膨大な熱を集約させ、さらに熱く、大きく、刀身を膨れ上がらせてゆく。
『プロミネンスパニッシャァァァァァッッッッ!!!』
天を貫かんばかりの大剣と化した光剣が大気を焼き切りながら振り下ろされ、タイラントを両断。爆発と共に熱波が駆け抜けた。
『クク・・・ハハハハハッ・・・! いい・・・いいぞォッ!!』
相棒が爆散したのにも関わらず嬉々として笑うヴィラニアスの一撃を片腕で止める。
『やはり期待以上だウルトラマンゼロ! もっとだ、もっと楽しませろ!』
『俺一人の力なんかじゃねぇ・・・それに、楽しむだと?』
滾る熱の反面、冷静に攻撃を処理しつつゼロが低く言う。
『仲間が死んだっつーのに楽しむだのなんだの・・・・・・タイラントは相棒じゃなかったのかよッ!』
怒号に乗せた握り拳がヴィラニアスの顔面を射抜く。
その一撃にふらつきつつも笑うヴィラニアスは、嘲るように、見下すように言い放った。
『笑止。仲間とは強き者の事を言う。弱者に掛ける情などないわ!』
『・・・やっぱ、テメェみてぇな奴が一番ムカつくぜ』
静かな声音に反して戦いの過激さは加速してゆく。
拳と拳。意地と意地。双方の譲れないものが幾度となく衝突した。
『ムカつくも何もない。今貴様がここに立っていることがその何よりの証明だろう・・・・・・仙道陸』
「あぁ・・・?」
攻防の間を縫い全てを悟ったように言う。
『惰弱な仲間に価値ないと悟ったのだろう? あの娘共も、貴様の両親も、力がないからこそ淘汰され、足枷にしかならない雑魚共を見限ったからこそ――――』
「ふざけた事抜かしてんじゃねぇッ!」
身体の奥底から吐き出した怒声と共に強くヴィラニアスを殴りつけた。
相棒と呼んでいた者の死にすら心を痛めないコイツに、仲間を語る資格などない。
「強いも弱いも、どう思われてるかも関係ねぇ! ただそこにいてくれるだけで力になるんだよ・・・戦ってこれたんだよッ!!」
勿論、それだけでは拭い切れない痛みもある。けど前を向かない限り何も始まらないから。
だからもう見失わない。
せめて、自分の守りたいものくらいは。
まだ、守れるものだけは。
「これまでもこれからも何にも変わりやしねぇ、ただ自分の守りたいモン守る・・・・・・それだけだこの野郎ッ!!!」
『グおおおォォォッ・・・!?』
より激しさを増したガルネイトバスターの奔流に乗せて薙ぎ払う。
強弱で全てを決めつけるコイツなどに、絶対に負けはしない。
「『オオォォォォ・・・・・・!」』
胸のエンブレムから発生させた炎にありったけのエネルギーを注ぎ込む。
みるみる膨れ上がってゆくそれはやがて巨大な火球となり、その圧倒的な熱量を表すかのように陽炎が躍る。
『小癪な―――――――ぬうぅッ!?』
チャージの隙を突き放ったウルトラ兄弟必殺光線も、疾走する二本の光線により相殺される。
メビュームシュートにナイトシュート。メビウスとヒカリによる援護射撃だという事は確認せずとも分かった。
『貴様等ァ・・・!』
『ゆけ、ゼロ!』
『決めるんだ陸君! 君自身の手で!』
二人の・・・いや、遠方から微かに聞こえる三人目の声も受け、臨界点に到達した火球が∞の字を描くように羽を広げた。
「テメェの歪みを焼き尽くす・・・・・・!」
『俺達の・・・・・・勇炎でな!』
掲げた両腕の間で光をスパークさせ、ゼロの体躯をも超えた火球に叩き込む。
『ダグビューム・・・・・・バーストォォォォォォォッッッッ!!!!』
スローイングのようなモーションで投げつけられた業火球があらゆるものを焼き尽くし猛進する。
『ぐうぅ・・・、これが、力なき者に寄り添う強さだと・・・・・・?』
直撃したヴィラニアスにも例外なく火焔は襲い掛かり、その悉くを融解させてゆく。そして―――、
『認めん・・・、吾輩は・・・・・・認めんぞォォォォォォォッッッ!!!!』
断末魔を掻き消すように爆音が轟く。
塵や黒煙と共に瘴気も空へと昇ってゆくが、そんなものは気にも掛けずにある人の方を向いた。
「・・・・・・ありがとな」
敵意の眼差しの中一人微笑んでいる少女に向けて親指を立てる。
四人目のダークネスファイブ――――極悪のヴィラニアスをここに打ち倒した。
「え? ここに留まるんすか?」
決戦を終えたその夜。
メビウスとヒカリの意外な言葉に陸とゼロが目を丸くする。
「言っただろ、元々お前の事を調べにここに来たのだと」
「ベリアルの復活も知っちゃったから尚更だね・・・・・・それに今地球から出れないし」
とまあ、こう言った理由でメビウスとヒカリはもうしばらく地球に滞在するらしい。
少し意外ではあったが、今この状況において二人がいるのは心強い。
「迷惑かもだけど、もうしばらくよろしくね。陸君」
「は、はい。メビウスさ・・・・・・いや師匠!」
「ししょ・・・・・・!?」
指導への謝意を込めて敬称を口にするとメビウスが異様な反応を見せる。
どうしてかヒカリまでもが呆れたような反応を見せているのが引っ掛かるがこれは一体。
「な、なんか気に障りました・・・・・・?」
「も、もう一回」
「へ?」
「もう一回言って?」
不安になり顔色をうかがってみればどうしてか嬉しそうにしている。
ともかくまあ、本人も言っている事だしもう一度。
「し、師匠?」
「師匠・・・・・・僕が・・・・・・!」
二度口にすれば鼻息が荒くなる。
ピンと背を伸ばして毅然と振舞おうとはしているが感情は全く隠せていなかった。
「えっ・・・・・・と、これは・・・?」
「気にするな。ただの馬鹿だ」
ゼロの笑い声と、ヒカリの溜息が同時に聞こえる。
実はメビウスがあまり後輩に慕ってもらえてない事を気にしていたのを知ったのはこの後だった。
これは月ちゃんヒロイン不可避……(コラそこいつだかの展開と似てるとか言わない)
ともあれこれで陸復活です。事態が好転すると……いいですねぇ……
そして二度目かつ唐突なオリジナル形態クラッシャーブレイブゼロ。ストロングコロナにメビウスとジャスティスの力が合わさった形態です
挿絵はちょっと間に合わなかったのでまたの機会に……
それでは次回で!