ゼロライブ! サンシャイン!!   作:がじゃまる

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大学関連のことで割とメンブレしてますが辛うじて生きてます


百三十八話 届く呼び声

 

 

 

 見慣れたはずの景色がモノクロに映る。

 知っている場所なのに、まるで知らない場所にいるような感覚。

 

「・・・・・・」

 

 色彩の失われた世界の中で唯一色付いて見えるパソコンの画面が目に入った。凄く印象的で、きっと二度と忘れないくらいに辛く悲しい現実が映し出されていた。

 

 浦の星女学院統廃合の知らせ。届く事のなかった祈りが燻る中自ら綴った悲しみの記憶。

 

 例え今見ている世界が虚構のものであろうとも、きっと。

 この事実だけは、揺るがぬ現実なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し肌寒い静かな夕陽の世界を大声が犯す。

 

「どうなってるのよこの状況!!」

 

 顔を合わせて開口一番にこれである。やはり姉と違い妹の方は少し苦手だ。

 いや違う注目すべきはそこじゃない、どうして彼女達がここにいるのか、だ。

 

「この事態で動かない方がおかしいでしょ! アンタバカなの!?」

 

 それを問うてみれば再度怒声で返される。妙に当たりが強いのは焦り故だろうか。

 

「どうしちゃったのよアンタ達・・・・・・Aqoursは? ルビィも何があったのよ!?」

 

 戸惑い、不安、理亞の表情からはそんな感情が見て伺えた。

 だが混乱している点ではこちらも同じ。本来この二人はここにはいない・・・・・・いや、そもそも訪ねて来るはずもないのに。

 

〈コイツ記憶が・・・・・・〉

 

 理亞が口にしているのは今現在なかった事にされている出来事だ。誰の記憶にも、勿論その当人達にもその記憶はない。

 けれど彼女は今ハッキリと口にした・・・・・・それは理亞がスライの催眠圏外にいる事実に他ならない。

 

 それならば、今起きている事を知る権利ぐらいがあるだろう。

 

「・・・心構えはしといてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 場所は移り仙道家。

 

「・・・・・・そんな・・・」

 

 陸の差し出したココアを啜っていた理亞の手から離れたカップが音を立てて床を叩き、零れたブラウンが広がっていく。

 この反応も無理はない。むしろこんな事を聞いて平然としていられる者の方が珍しいくらいだ。

 

「じゃあ、なに・・・? Aqoursが無くなったの・・・・・? 皆忘れちゃったの!?」

 

『忘れてるっつーよりは、なかった事にされてるって感じだな。ともかく、誰もAqoursを・・・アイツ等自身も覚えちゃいねぇよ』

 

 より詳細に語ったゼロの言葉に理亞が押し黙る。その様子はどこか同じくその事を知った時の千歌と重なった。

 

「つまり、その宇宙人の力で誤った記憶と事実を植え付けられている・・・・・・という事でいいのでしょうか?」

 

 言葉も出ないと言った様子の理亞をそっと抱擁しつつ、聖良が静かに口を動かす。

 

『にしても、まさかお前等が無事だったとは思って無かったよ。エックスの奴が何かしていったのか?』

 

「すみません・・・・・・実を言うと、私も全てを思い出せた訳ではないんです」

 

 流石彼女はこんな時でも取り乱さない・・・・・・と感心した直後に同じ口から語られる意外な事実。

 

「・・・お恥ずかしい話、理亞に異変を訴えられるまでは私も陸さんやゼロさんを人類の敵だと思っていましたし、何なら憎んですらいました」

 

 聖良曰く、その時の彼女はどこで会った、どうしてその正体を知っているのかすらも分からないはずの陸を憎んでいた。しかもそんな矛盾に気付きすらしなかったという。

 

『・・・ん? そうなると理亞、お前はなんで・・・・・・』

 

「私も・・・・・・最初は姉様と同じだった」

 

 自然と理亞に視線が流れ、その理由を問うとともに考察する。

 

 理亞と他の皆との違いを上げるとするならばエックスのようなウルトラマンと一体化した経験があるという事。その時エックスから付与された何かが催眠を打ち消したのか・・・・・・、

 

「ウルトラマンの事も、アンタの事も憎かったし、姉様も私と同じでアンタを嫌ってるのがなんか嬉しかった。スッキリした」

 

 だが理亞の言葉からするに彼女も割としっかり洗脳されていたようで。

 だったらどうして。月と同じようにどこかで記憶の穴があったのか、それともまた別の理由か。

 

「・・・でも、どうして姉様がアンタを憎んでるとスッキリするのかが分かんなかった。なんかまるで、アンタに嫉妬してたみたいな・・・・・・・・・・・・それを考えてたら思い出したの」

 

 一人考え込む陸をよそに、理亞は一人淡々と言葉を連ね―――、

 

「私、元からアンタの事嫌いだったって」

 

 あっさりとその答えを口にした。

 

「・・・・・・え」

 

 意外過ぎる事実に落胆と言うか、もはやショックとすら思わない。

 

 まあつまり端的に説明するとこう。催眠を受けるまでもなく陸の事を嫌っていたためそこだけは上塗りされず、何故聖良が陸を嫌っているとスッキリするのかを考えていたらその感情の理由と元々それが胸の内にあった事を思い出し、芋づる式に他の記憶も蘇った・・・・・・という事。

 

 まあ味方が戻った分にはいいのだが、どこか釈然としない。

 

『惚けてる場合かよ。コイツのパターンは結構重要な発見だぞ』

 

 例え記憶を塗り替えられていても心身的な感覚までは変わっていないという事を証明できたのは大きいとゼロは言うし、一応前向きに捉えておこう。嫌われていた事は全く喜べないが。

 

「・・・すみません・・・・・・ハッキリ口にはしないよう釘は刺したのですが・・・・・・」

 

 聖良にすら気を遣われる始末。元々自分から切り出した話題だというのに。

 

「そんな事今はどうでもいい! アンタ達優勝するって約束したじゃない・・・・・・こんな事で立ち止まってる場合!?」

 

「・・・・・・つっても、もうな・・・」

 

 正直、ラブライブに関してはもうほとんど諦めていた。

 世界が塗り替わってからかなり日数が経っている。勿論皆を元に戻すことに変わりはないのだが、その頃にはもう既に・・・・・・、

 

「・・・・・・?」

 

 沈黙が舞い降りる。だがそれは想像していたものとは少し違った。

 聖良も理亞も、何故か拍子抜けしたように陸を見る。

 

「・・・アンタ、今まで何してたの?」

 

 イラつきすらしたかのように、棘のある含みで理亞が一言。

 次に彼女が見せてきたのは何か特別変わった感じはしない彼女の携帯電話・・・・・・のはずだった。

 

 ある一点を除いては。

 

「この日付、変だと思わないの?」

 

 画面に映し出された日付は陸の感覚よりも˝二週間˝ほど遅れたもの・・・・・・つまりあの日から時が進んでいないという事になる。

 

『ッ・・・! そうかブルトン・・・・・・!』

 

 ゼロの閃きが頭に流れ込んでくる。

 ブルトンは本来空間を操る怪獣。もし今地球を覆っている結界が時の流れにも作用していても不思議ではないし、それならばこの状況にも説明がつく。

 

「・・・けど、だとしたらブルトンを仕向けた奴は何のために・・・?」

 

『・・・・・・いや、むしろその方が好都合なのかもな』

 

「・・・ちょっと、勝手に話進めないでくれる?」

 

 ゼロが何かに気付いたその時に蚊帳の外の理亞に遮られる。

 

「とにかくこんな事で終わるなんて絶対に許さないから。ルビィ達を元に戻すんだから・・・!」

 

 絞り出すようにそう言った理亞の姿が、今度は少し前までの陸と重なる。

 戸惑って、焦って、見えない何かに怯えているような…そんな様子。

 

「アンタが出来ないなら私がやる……こんな終わり方認めない!!」

 

 それらに突き動かされるようにして理亞が飛び出していく。その後姿を見れば彼女の心情は想像に難くなかった。

 

「…すみません……色々、焦ってるみたいで」

 

「いえ……元はと言えば俺が原因みたいなもんですし……」

 

 ともかくじっとしてはいられないのは陸も同じだ。目的が不明瞭な以上ナイトファング並びにそれを操る何者かへの対処が最優先だが、並行して皆とも向きある必要がある。

 

 聖良と理亞のケースをみる限り希望はある。今度はこちらから動く番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぶっ……!」

 

『…相変わらず酷いな』

 

 ルビィ達が元に戻るまで帰らないという理亞達と別れて一夜。船酔いにやられつつも粟島へ上陸。

 目的はナイトファング出現直後の様子に違和感を覚えた彼女だ。

 

『……これで元に戻る保証なんてあるのか?』

 

「…別に、元に戻すのが目的じゃないよ。……約束したからな」

 

 その人のトラウマなどを呼び起こす悪夢を見せるというナイトファング。状況からして彼女もその影響を受けたのだということは容易に想像できた。

 

 その悪夢の内容までに確信は持てないが、恐らくは―――、

 

「…やっぱここか」

 

 木漏れ日の差し込む薄暗い木々の間、小さな社の前で一人佇む少女を見つける。

 

「……何か用?」

 

 陸の存在に気が付き、細い陽に照らされる金髪を揺らしながら振り向いたのは小原鞠莉。

 その表情に少し前まで自分に向けられていた柔らかさはない。主に警戒の色が占めていた。

 

「この前ちょっと調子悪そうな気がしたんすよ。何か考え事する時は大体一人でここにきてるって、前教えてくれたんで」

 

「…そんな覚えはないんだけど?」

 

 やはり態度は刺々しい。一体今の彼女に陸はどう見えているのか。

 まあただそれは今関係ない。肝心なのは彼女自身のことだ。

 

「とりあえず外してくれない? 余計調子悪くなりそうだから」

 

「……素直に心配してるのにその言われようはちょっと傷つきますね」

 

 棘があるというか、いくら催眠の影響を受けているとはいえ彼女らしくない発言。

 その裏には何か、無意識のうちに自分を守ろうとしている……そんな風に思えた。

 

「……学校のことっすか?」

 

「ッ……!」

 

 

 眉が揺れた。やはりか。

 

「なに…? 笑いに来たの……?」

 

 その眼光に敵意が差す。

 同時に瞳が映した怯えが心の奥に秘めたものを物語った。

 

「何もできなかった、何も残せなかったって……そんな風に……!」

 

「…鞠莉さ―――」

 

 確証を得るが、同時に揺れた大地の鳴らす咆哮が掛ける声を遮る。

 立ち昇った妖光の中から出現したのはナイトファング。あの声の使わす、鞠莉の悪夢の一端を担う怪獣。

 

「こんな時に……!」

 

『ッ――――――!!!』

 

 唸り声と共に波動が放出され、悪夢の音波が内浦を包む。

 途端に襲い掛かってきた頭痛に顔を歪めながらも、根気で意識を手繰り寄せては倒れる鞠莉を抱きとめる。

 

『タイミングが不自然すぎる……あの野郎見てやがるなッ!』

 

『へぇ……それなりの洞察力はあるみたいだねぇ』

 

 眼前で闇が渦巻いた。

 徐々に大きくなるそれはやがて空間すら歪ませ、生じた狭間から赤く瞳を光らせる一つの影が現れる。

 

「こうして顔を合わせるのは二度目かな、仙道陸君」

 

「お前……」

 

 やがて人の形を成した影の姿に記憶の鐘が鳴る。

 青くメッシュ掛かった髪に左右を白黒に分けたピエロを彷彿とさせるような服装、そして抱く悉くを伺わせないその双眸。

 

 雑踏の中で一度だけ言葉を交わしたあの男だ。

 

「自己紹介と行こうか。私はトレギア。しがない悪魔とでも思ってくれればいいさ」

 

『トレギアだと……?』

 

 自らを悪魔と称するトレギアという男の名に異様な反応を見せるゼロ。

 オウガのように過去に関わった宇宙人なのか、ただ驚いているだけ……とは思いにくい。

 

「今日は挨拶に来たんだよ。もうじき私の計画を次の段階に移行する頃でね。一度ここを離れる前に何か一言……とでも思った次第さ」

 

「…何が目的だ」

 

「それを言ったら面白くないだろう? お楽しみというのはいつも最後に持ってくるのがセオリーというものだよ」

 

 陸の構える得物には目もくれず、トレギアは自分の思うように言葉を並べる。

 不気味。改めて対峙してもその印象は変わらなかった。込み上げてくるような悪寒が背中を伝う。

 

「…さて、あまり挨拶が長くなってはいけないね。そうだろうウルトラマン」

 

 うすら寒い視線を頂点からつま先まで舐め回すように流し、回した片腕によって黒い魔方陣が生成された。

 

「このゲートを潜れば彼女の悪夢の中に行ける……二択だ。町をとりナイトファングを倒すか、彼女をとり奴を放置するか」

 

 トレギアの後方でまたも轟音が響いた。何かが爆発した音だ。

 今対処しなければきっと、更に大きな被害が出るだろう。

 

 だがそれを嫌って陸が飛び出せばトレギアは意識のない鞠莉に何をするかわからない。

 

 奴が強いているのはそういう二択だ。

 

「さあ、君に何ができるのか、何を選ぶのか私に見せてくれ……!」

 

 自ら突きつけるその選択を楽しむようにトレギアは笑う。

 悪魔……確かに奴には相応しい言葉なのかもしれない。どちらを選ぼうと残るのは拭えない罪悪感のみ。それを理解しつつそうしているのだから。

 

 けど―――、

 

「…選ぶ必要なんざねぇよ。どっちもだ」

 

「はぁ……?」

 

 不機嫌そうにトレギアの眉が釣りあがる。

 

「……言っている意味が分からないな。私は選択を求めたんだよ?」

 

「だからどっちもどうにかするって言ったんだろ」

 

「ははっ……、これはこれは。とんだ欲張りさんのようだ」

 

 しかし余裕然とした態度は崩さず、陸の動揺を誘いたいとでも言うようにまた嗤った。

 

「…だが忘れたのかい? 君一人で全てを抱えようとした結果何が起こったかを」

 

 トレギアが言うのは、恐らく千歌のこと。手の中にあるものをこぼさないために必死で、一人突っ走った結果多くを失った。そんな否定も拭うこともできない事実。

 

「人は強情だが同時に無力だ……それはウルトラマンゼロと一体化している君とて変わらない。全てを守ろうなどと言って、結局最後に残るのは虚無だけだ」

 

「……確かにそうだよ。一人で全部守ろうだなんてできやしねぇ。また同じことの繰り返しだ」

 

「そうだろう? だから君のとれる選択は―――」

 

「……けど、今は一人じゃない」

 

 また別の轟音が上がった。だが今度は破壊の音ではない。

 

『セヤァァァァッッ!!』

 

『ッ―――!!』

 

 破壊音が今度は悲鳴に変わった。

 駆け付けたメビウスとヒカリによってナイトファングの侵攻は停止。二人との衝突に移る。

 

『陸! 元凶はそいつか!』

 

 鞠莉と接触中にナイトファングが出現することも想定して二人と意思を疎通しておいたのは正解だった。

 仲間の存在。改めてその大きさを実感させられる。

 

「師匠ッ! そいつのこと頼みます!!」

 

 ともあれこれで二択は消えた。あとはもう片方を掴みに行くのみ。

 一瞬、睨むようなトレギアの眼と視線を交差させ、暗黒の魔方陣の中へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ…」

 

 気づけば暗闇の中にいた。例の画面以外に目視できるものはなく、底の見えない暗闇が延々と続いている。

 

「…鞠莉さん……」

 

「ダイヤ……?」

 

 凛とした声に振り返れば親友がいた。

 けれどその顔は険しく、少なくとも自分には向けられたことのないような黒いものが渦巻いているように見えた。

 

「……貴女、結局何をしに戻ってきたのですか?」

 

「え…?」

 

 凍てつくような視線と共に放たれた一言に出かけていた言葉が完全に消失する。

 

「我儘を押し通して日本に戻り、その結果残ったものは何なのですか? 何も残らなかったじゃありませんか」

 

「ダイ…ヤ……?」

 

「それだけじゃありませんわ……わたくしと果南さんがどんな想いで貴女を……!」

 

 一言一言が重く胸に突き刺さる。

 聞いてるだけで泣き出しそう、そんな痛みが彼女の言葉にはあった。

 

「もう貴女を友人だとは思いませんわ。さようなら」

 

「…ちょ……待ってよダイヤッ……!」

 

 離れていく親友に手を伸ばすが、触れた瞬間に彼女の身体は霧のように消えてしまう。

 

「鞠莉」

 

「か……なん…」

 

 また背後に現れるもう一人の親友。

 彼女もまた眉を寄せ、暗く冷え切った眼で自分を見下ろしている。

 

「…なんで学校を救えなかったの?」

 

「っ……」

 

 一番聞きたくなかった言葉が、一番聞きたくなかった者の口から放たれる。

 

「ねぇなんで!? 学校を救うために戻ってきたんじゃないの!?」

 

「それは…、……ッ!」

 

 言い淀めば、今度は彼女の背後に幾つもの影が現れる。

 同じ制服に身を包み、そして皆一様に冷えた視線を注ぎ、次々と吐かれる言葉が暗い空間に蔓延してゆく。

 

―――無意味。

 

―――役立たず。

 

「いや……!」

 

 羅列される罵詈雑言の嵐に思わず俯きしゃがみ込む。

 頑張ったんだ。精一杯足搔いたんだ。それは紛れもない事実。

 

 けど現実はそれに答えてはくれなかった。残ったのは最悪の結果と、それに伴う周囲の声だけ。

 

―――――全部無駄な努力だったんだ。

 

 

「いやあぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 

 孤独な叫びが虚空に消えていった。けれど声は止まない。

 

「なん……で……」

 

 何度も何度も、泣いても叫んでも、絶えることなく声は聞こえる。

 

 何も残らなかったんだ。

 努力も何も、全部無駄だったんだ。

 

 独りよがりのままで、このままずっと、ずっと―――、

 

 

 

 

「そんな訳ねぇだろォォォッッッ!!!!」

 

 

 

 

 刹那、光が迸った。

 今にも自分を包まんとする闇を切り裂き、もっと前から傍にあったような安心感のある、そんな荒々しくも暖かい光が。

 

「何も残ってねぇし全部無駄だぁ…? 本気で言ってんならぶっ飛ばすぞ小原鞠莉ッ!」

 

 そう訴える少年にはこれでもかというほど見覚えがあった。

 憎むべき対象、そう思っているはずなのに、何故だか今はそれ以上の親しみを覚える。

 

「…だって学校は救えなくて……何も残せなくて、皆も……!」

 

「ホントにそうかよ! 今までアンタが見てきたモンはホントにこれだったのかよッッ!!」

 

 また闇を薙ぎ払った彼が叫ぶ。

 関係なんてないはずの自分にここまで必死になって訴えかける彼を見ていると込み上げてくるものを知っているはずだ。

 

 言葉が紡がれるたびに胸に迫ってくる、彼へのこの感情を。

 

「言ったよな!? アンタのやってきたことは……アンタの努力は否定させねぇって! 俺は誰よりも努力してきたアンタを見たからそう思ったんだよ…………それをアンタ自身で否定してどうするんだよッ!!」

 

「ッ―――……!」

 

――――人の痛みも分かんねぇような奴にこの人の努力は否定させねぇ……。テメェが鞠莉さんの価値を語るなんざ…二万年早ぇんだよ‼

 

 頭に響いた声に酷く頭が痛む。

 

――――誰よりも自分の大切なものに一途な鞠莉さんだったから、俺はあいつをぶん殴ったんですよ。…野郎が手ぇ挙げる動機なんて、それで十分でしょ?

 

 零れていたものが戻ってくるような感覚。とても、とても大切な何か。

 

「別にアンタが俺を嫌おうが構いやしねぇよ……けど、今アンタが否定しようとしてんのはアンタ自身が皆と見つけたモンだろうが! そんな大事なモンまで見失ってんじゃねぇ!」

 

「……ッ!」

 

 暗闇を完全に光が照らした。

 

 そうだ。そうだった。

 見失ってはいけないもの、忘れてはいけないもの。

 

 彼と、皆と一緒に見つけた、皆で歩んできた証。

 

「だから…………前を向けッ!!」

 

 しがらみのように纏わりついていた闇を自ら弾く。

 差し伸べられた腕をとり、その名前を呼んだ。

 

「りくっち……!」

 

 

 

 

 

 

 

 こちら側に戻ってくると既にトレギアは姿を消しており、丁度ナイトファングも最期の時を迎えた瞬間だった。

 

「りくっち……、その……」

 

「あはは……、なんかすみません、色々偉そうなこと言っちゃって」

 

 伝えづらそうに口籠る鞠莉に、上がった爆発音をバックにたははと笑う。

 彼女の無事を確認したらどっと疲労感が込み上げてきた。もうしばらくは地面とお友達でいよう。

 

「いや…そうじゃなくて……」

 

「無事ならそれでいいっすよ。それだけで十分なんで」

 

 口にした通り本当にそれで十分なのだが、どうにも本人は納得しきれないようで。

 まあ彼女の性格上無理はないというか、記憶が戻ったとわかった時から薄々こうなる予感はしていたが。

 

「……ごめん……なさい……!」

 

 その声と共に溢れ出してきた雫が地面を叩く。

 できれば泣かせたくはなかったのだが、こうなってしまった以上は仕方ない。

 

 ともあれようやく自分の知る顔が帰ってきたのだ。今ただ、それが笑顔になれるよう専念しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ルビィ…」

 

 慣れない海辺の町を一人孤独に歩く。

 昨日の件で警戒されてしまったか、今日は声をかけるどころか顔を合わせることすら叶わなかった。

 

「なんなのよ……もう……!」

 

 催眠だどうだの、そんなことは知るか。現に自分や姉は記憶を取り戻したのだから。

 所詮彼女にはスクールアイドルも、自分との思い出もその程度だったのか。違うと理解していてもそんな考えが浮かび上がってくる。

 

「…どうぞ」

 

「え…?」

 

 突然目の前に現れた白と黒の男。

 その手の中の黒い一輪の花を理亞へと渡し、それ以上は何も言わず、何事もなかったかのように立ち去ってゆく。

 

「なに? 嫌味……?」

 

 無性に腹立たしくなり、たった今手渡された花を乱雑に投げ捨てる。

 

 その後姿を、静かに仮面の悪魔の微笑が見守っていた。

 

 




鞠莉さん帰還……!
とまあ、こんな感じで一人一人丁寧に戻してたら著しく間延びするので早かれ方向性は変えますけども

理亞ちゃんに関してはまあ、陸と聖良が親しげなことに軽く嫉妬していた感情が改変後にも残っていた……とでも思っておいてください。あとは本編で書いた流れです。

ブルトンのそれに関しては完全にご都合主義です!!!(一応今後にも生かすので許してクレメンス)

何故か受験期並みにやること多いので全然書けなくなってますが頑張るので許してください(二度目)
それでは次回で、陛下関連にもちゃんと触れます
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