『いい加減……受け入れろ!』
殴られる。蹴られる。
暗闇に降りしきる雨の中、陸の屈服を求めるように何度も、執拗に、ベリアルの齎す痛みに襲われる。
『抗ったところで何になる? 今更元のようには生きられないのはお前自身理解しているはずだ、結局お前と言う存在に俺以外の居場所はない』
抵抗も意味を成さず、ただただ殴られる痛みだけが走る。
痛みから逃れたい、楽になりたい。何度もそう思うが、それでも気力だけは手放さなかった。
ここで折れれば、全部終わってしまう。
命に代えてでも守りたい、自分と言う存在に意味を与えてくれた彼女達。
絶対に守る。
その想いだけで立つ陸を挫けさせんと、絶え間なく重い音が響いていった。
陸がゼロであることを知る十一人の少女と、三人のウルトラマン。
「まず最初に結論から言っちゃうと、陸君は純粋な地球人じゃないんだ」
自らが集めさせた面々の前で開口一番にオウガが言い放った一言に、その場にいた全員の空気が凍り付いた。
皆一様にベッドに横たわる陸に視線を向け、中には今にも崩れ落ちそうな者もいた。
「…待て、純粋な…とはどういうことだ」
重い沈黙を打ち破ったのは唯一自力でその結論に辿り着いたヒカリだった。
陸からベリアルの遺伝子が検出された。そう伝えられたことで結果として陸があの行動に至ったのだから、ヒカリ自身、何か気負っているものがあるらしい。
「そーだなぁ……とりあえず、少し昔話でもしよっか」
この空気の中でも軽いノリを保てるのはオウガらしくもあるのだが、それはどこか彼自身の気を紛らわせているようにも感じた。
「ベリアルに関する説明はこの際省くけど、そのベリアルが引き起こしたオメガ・アーマゲドンって言う宇宙規模の戦争があったんだよ。それでその戦争の渦中で肉体を失ったベリアルが自身の復活のために伏井出ケイに作らせた人造生命体が君らも知ってるウルトラマンジード」
「…陸っちもそれと同じってこと?」
「まだ答えを急ぐもんじゃないよ。実験には失敗が付き物、当然ジードが誕生する前から様々な実験が行われては失敗した。……で、その失敗例が僕等ディザスト・スマッシュってこと」
ディザスト・スマッシュ。
以前ゼロと陸がオウガから聞いた話では戦闘用に生み出されたという話だったが、元々はジードのようなベリアルの受け皿となるものを作るために計画されたらしい。
「製造法はあら簡単。適当な星の生命体にベリアルの遺伝子を与えれば完成……まあ、ボクを除いて皆すぐ絶命しちゃったんだけど」
その失敗を踏まえた結果ジードが生まれた。そこまで説明し終えたあたりで努めて軽く振舞っていたオウガの顔に影が差す。
「…ジードの成功例を得た伏井出ケイは、ディザスト・スマッシュにベリアルの遺伝子を安定させる方法を見つけてしまった。そこで彼は、もしサイドアースでの計画が失敗した場合に備えて、別の地球に第二のウルトラマンジードを用意しておくことにしたんだ」
永遠にも感じられた一拍の後、オウガは一つの結論を口にする。
「……それが仙道陸君、最後にして最高傑作のディザスト・スマッシュさ」
受け止めるに受け止めきれない事実が波のように寄せては返す。
一人が愕然とすればそれが全員に伝播してゆき、一言一言の度に重力が増したかのように皆が押し黙った。
『…つまりコイツは、お前のようにベリアルの遺伝子を植え付けられた地球人ってことか』
「そういうこと。まあ、厳密にはボク達とは少し違うんだけど」
憐憫と、また別な何かを含んだ視線が陸に落とされる。
「ボク以外のディザスト・スマッシュはベリアルの力に耐え切れずに死んでいっただろ? それは既に出来上がっていたその生物としての機能と、ベリアルの遺伝子が反発しあった結果だ……だからジードのように、生まれる前からベリアルの遺伝子を植え付けることにしたんだ」
淡々と語られるにはあまりに惨い事実がまたも押し寄せる。
だがオウガはこんなのはまだ序の口だと言わんばかりに続けた。
「ほら、この星にもクローン技術はあるだろ? とある生物の卵子から核を抜いて別の生物の遺伝子を移植するってやつ。それを人間の卵とベリアルの遺伝子に置き換えたと考えてくれればいいかな」
「でも陸ちゃんにはちゃんとお父さんもお母さんもいるじゃん……この前だってあんなに……!」
身を乗り出して訴えた千歌の瞼の裏には、あの時の弱り切った陸の様子が浮かんでいるのだろう。
だが言ってることには一理ある。伏井出ケイによって生み出された命だというのなら、確かに存在していた陸の両親についてはどう説明を付けるのか。
「…あの二人が陸君の両親なのに間違いはないよ。けど言った通り、陸君は人間の卵にベリアルの遺伝子を植え付けた、言わば人間とウルトラマンのハーフ……それを生み出すためには、一度人体から卵を取り出す必要があるだろ」
オウガがそこで口を噤んだ意味は全員が瞬時に悟った。
「じゃあつまり、陸君の両親はその時に……?」
「……そう、陸君となる卵を取り出した際に、二人とも殺されている。あとは彼を育てるための傀儡として死んだまま動かされ続けてただけだよ。……ヴィラニアスに始末されたのは陸君を追い込む狙いもあったんだろうけど、多分もう、用済みだったんだ」
生まれて以降殆ど両親が陸と共にいなかったのは、彼等が既に死んでいるという事実を悟られにくくするため。そして漁師と言う職業の夫婦を選んだのも、陸から引き離した際の違和感を生まない為だったのだろう。
周到に練られた計画はあまりにも残酷で、千歌達はおろかウルトラマンであるゼロ達ですら言葉を失う。
「ごめん、ちょっと語り過ぎたよ。……生まれた後しばらくの陸君は、千歌ちゃんや曜ちゃん、果南ちゃんが知ってる通りの彼だよ。その間は奴等も手を出さなかったみたい……六年前にスカルゴモラが出現するまではね」
六年前に出現した怪獣。そのフレーズにこの場にいる地球人全員の表情が固まる。
内浦のみならず東京や函館にもスカルゴモラは出現している。皆一様にトラウマを刻まれているのだろう。
「この星での伏井出ケイが何度も繰り返しスカルゴモラに変身していたのは怪獣へのフュージョンライズの実験にリトルスターの発生状況の確認……そして陸君の観察さ」
既に知らされていた二つの狙いに続き明らかになる本当の目的。
「後に伏井出ケイはサイドアースへ移って君等も知ってる一連の事件を起こす訳だけど、そんな彼の代わりにこの星を監視していたのがダークネスファイブだよ」
ダークネスファイブの母艦へと乗り込んだあの時にスライが見せてきた幼き日の陸の映像。
どうして奴等がそれを持っていたのか、想像してはいたが、説明させる形でようやく合点がいく。
「広く知られていなかったとはいえ一度滅びながらも修復され、その上宇宙警備隊の監察下からも外れていた格好の的みたいなこの星が一度も侵略の危機に晒されてなかったのは彼等が睨みを利かせていたから……全ては第二のジードを作り上げるためにね」
何故サイドアースにダークネスファイブが現れなかったのか、これまでこの星に侵略者は現れなかったのか。引っ掛かりながらも説明が付かなかった点が次々と腑に落ちてゆく。
ここまでくるともう、否定しようのない事実だということは誰もが思い知らされた。
「そしてまあ、後は彼等の計画通りに事が進んで今に至るってこと」
「……それはつまり、ゼロがこの地球に来るのも計算の内だったということか?」
「いや、ゼロ君の登場は計算外だったし、好ましいことでもなかったと思うよ。ゼロ君がこの地球に居座ったら、陸君がウルトラマンになる必要がなくなるだろ?」
陸をウルトラマンにする必要があったのはジードと同じと考えていいだろう。リトルスターは宿主がウルトラマンに祈ることでしか分離されない。ベリアル復活に必要な力を集めさせるのに必要な存在だったということ……そして、
「デュナミストがノアに覚醒するための条件は三つ。先代のデュナミストに触れること、実際にネクサスに変身すること、そして最後の一つ、ウルトラマンに触れるって言う条件はこの地球においてはネクサス以外のウルトラマンが存在しないと成立させにくい……これがこの地球でもウルトラマンが必要だった一番の理由かな」
対象を先代のデュナミストに触れさせること自体はそう難しいことではないが、その時点では対象が変身者な以上デュナミストが変身するネクサスに触れるというのは物理的に不可能だ。
だからこそネクサスとは別のウルトラマンを用意する必要があった。
オウガの使用するライザーも、元々は陸に使わせる予定だった代物らしい。
「だからゼロ君の存在はダークネスファイブにとってもまずかった訳さ。……まあ、結果的に二人が一体化したから、そんな心配はなくなっちゃった訳だけど」
そんなライザーがオウガの手に渡ったのも、結果論とは言えゼロすらも奴等の計画を完遂させるための条件を満たしてしまったから。
偶然が重なった出来事な上に予測できるはずもないのだが、それで片づけるにはあまりにも大きい。
「……そしてボクが陸君が人間じゃいられなくなる引き金を引いた」
ゼロが感じたそれ以上の罪悪感や重責を含むオウガの台詞。
彼が自身の口で語るのを待つべきか、それともきっかけを作るべきか、少し考えた後に後者を選ぶ。
『俺が陸と一体化した時にはベリアルの気配なんざ微塵も感じなかった……それと関係あるのか』
「……そうだね。ジードと違って陸君の中の遺伝子は外部からの刺激を受けないと発芽しないようになってたから、ボクがベリアルの力を与えたその時まではただの人間だったんだよ」
—————オウガがそいつに陛下の力を植え付けたのにはもっと別の訳があるんだぜェ…
ずっと引っ掛かっていた、少し前に函館でグロッケンが言い遺した言葉の意味が判明する。
「なるほどな。ゼロと一体化してしまえば陸の中のベリアルの遺伝子が目覚めなくなる。だから着火剤としてベリアルの力を植え付けるためにお前が使われたという訳か」
「……察しが良くて助かるよ」
オウガだけでなくヒカリの表情までもが苦々しいのは、自身の開発したライザーがまた誰かの運命を狂わせることに利用されようとしていたからか。
「…思い出しましたわ。黒い巨人に襲われるような……あれは夢ではなかったのですね」
「ダイヤちゃんにも迷惑かけたね。あれに関してはボクに非があるから、陸君のことは責めないであげてくれよ」
守るために手を伸ばした力が守るべきものを傷付けてしまった、陸にとっても、ゼロにとっても戒めの記憶。
結果的にあの暴走は克服することが出来たが、思えばそれこそが陸の中でベリアルの遺伝子が目覚めつつある表れだったか。
その後も度々力の暴走が見られたのは、遺伝子が目覚めたことによって制御した以上に力が増幅したから。そして再びその力を克服することで更に遺伝子は覚醒してゆき、また力が増す……この繰り返しで今に至るのだろう。
『……結局何から何まで、俺達はアイツ等の手のひらで踊らされ続けてたって訳かよ』
そもそもその時点で気付くべきだったのだ。
ストルム器官を持つ伏井出ケイですらベリアルの力を一時的にしか保持出来なかったのに、地球人であるはずの陸がその力を溜め込める上に増幅させられるのか。それこそが彼の中にベリアルの遺伝子が眠っている確固たる表れだったというのに。
「助けられないの……?」
「方法がない訳じゃないけど……正直、今のままじゃ……!」
「なんだってやるよ! 皆だって……!」
オウガに詰め寄った後に振り返った千歌に皆頷くが、数名はまだ、迷うように俯いたままだった。
「曜ちゃん……?」
「訳わかんないよ……そんなこと急に言われたって、わかる訳……!」
逃げるように、後ずさりした曜が病室を去ってゆく。
曜だけじゃない。まだ記憶が混濁の中にあるメンバーには少なからず戸惑い以上の何かが伺えた。
「曜ちゃん…!」
後を追うように飛び出していった千歌を横目に、オウガの顔が苦々しく陰る。
救う以前に、全員が一致しない。気持ちの時点でバラバラなのだ。
数名が欠けた部屋の中に、重苦しさだけが残響していった。
陸に関する伏線の回収となりました
一応簡単におさらいしておくと
陛下の復活のためにディザスト・スマッシュを生み出す実験が始まる
↓
その過程で得た結果からジードが生まれる
↓
更にそのジードの結果を踏まえディザスト・スマッシュの完成形を第二のジードとして生み出す計画が始まる
↓
その実験台として偶然陸の両親が選ばれ、陛下の遺伝子を植え付けられた卵が陸になる(この時すでに両親は死んでる)
とまあ、陸の出生に関しては大体こんな感じです
その後はオウガに力を与えられたことによって遺伝子が目覚めた…と言う形になります
陸自身は受け入れたものの、皆は何を選ぶのか
それでは次回で