ゼロライブ! サンシャイン!!   作:がじゃまる

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ベリアロクの詳細が気になって夜しか眠れない


百四十五話 呼び起こす者

 

 

 

「…信じてくれるの?」

 

「……あんなこと聞かされたら流石にね…」

 

「どっちにしろ、こんな状況じゃ無視する訳にもいかないでしょ」

 

 受け入れられない者もいれば、意外に早く順応を見せる者もいる。

 少なからずまだ記憶を取り戻していないこの二人がその姿勢を見せたのは少し以外と言うべきか。

 

「それにちょっと記憶が混濁してるというか、思い出した……みたいなのもあって」

 

「…ま、とにかく信じようって思っただけよ」

 

 梨子と善子の返答に表情を和らげる面々。

 仙道陸と言う存在の背負う過去の壮絶さもあるのだろうが、それ以上に彼が齎したものの大きさがそうさせるのか。

 

 ともあれこれで一歩前進だろう。

 

「…あとはあの二人か……」

 

 ヒカリの声が短く反響する。

 その言葉は誰が継ぐでもなく、数名が飛び出していった病室の戸を見やることで応じることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———陸君は純粋な地球人じゃないんだ

 

 そう告げられた時、言葉に出来ないような漠然とした何かが襲い掛かってきた。

 自分でもどうしてそんな感情が沸き上がってくるのか分からないままに次々と残酷な真実は押し寄せ、確かな痛みを伴って胸が締め付けられる。

 

 そしてまた痛みを増長させるのは、紛れもない彼の声だった。

 

—————ここにいたいからいる! それで十分だろ!

 

—————小さい頃から、それこそ気が付いた時には一緒にいて。散々バカやって、笑って、今も似たように過ごしてて、その時間が好きなんだよ

 

 何度も何度も、まるでその時抱いた感情も蘇るようにその声が聞こえる。

 苦しくて、だけどあったかくて、今の今まで抱いていたそれとはまるで違う何か。

 

—————喧嘩も、苦労も、気遣いも迷惑がる事も全部。全部含めてお前といる時間なんだよ! それが心地いいから一緒にいるんだろうが!

 

 分からない。

 自分の気持ちはどうなのか、何が真実なのか。

 

 そんな渦中に自分がいるのがひたすらに怖くて、逃げるように走った。

 

「……あ、いた!」

 

 どこまで走ってきたのか、それすらも分からないまま掛かった声に足を止める。

 

「急にいなくなるから探したよー……って、何かあったの?」

 

 呼び出される寸前まで一緒にいた従姉妹の顔が目にいる。

 その瞬間、弾かれたように彼女の元へ詰め寄った。

 

「どこまで知ってたの!?」

 

「え…?」

 

「月ちゃんは、陸のこと…!」

 

 この頃ずっと陸について話を持ち掛けてきた月。

 彼女が何を知って何を感じたのか、それを知れば何か分かるかもしれない。

 

「落ち着いて曜ちゃん……りっくん、何かあったの……?」

 

 けれど返ってきた回答は期待していたものではなく、彼女も陸の身のことを知り得ていないことを証明した。

 

「わかんないよ……!」

 

 今まで見せたこともないような顔で膝をついた。

 陸だけじゃない。同様に感情を揺さぶってくるみかん髪の少女の事もあるのに、心はそれを整理させる余裕すらも与えてくれない。

 

「嫌いなはずなのに…、あんな子知らないはずなのに、なんで……」

 

 記憶と記憶がせめぎ合う。

 知らないはずなのに、この記憶は、あの二人の存在する当たり前がどうしても捨てがたく思えてならない。

 

「……私、何を信じたら……」

 

「曜ちゃん……」

 

 縋るような曜に困惑した表情を浮かべつつも、どこか同情するような月の手が肩に触れる。

 従姉妹の自分でも知らない顔、けれども何故か安心感を抱かせてくる彼女は、そのまま寄り添うように言った。

 

「……曜ちゃんの言うりっくんの事が何なのかは分からないけど、りっくんがウルトラマンなのは知ってる。その上で曜ちゃんに話を聞いて欲しくて」

 

「え……?」

 

 想像にしてなかった告白に間抜けた声を漏らす。だが合点は行った。

 ここ最近頻繁に月が陸のことで話を持ち掛けてくるのが疑問だったが、今思えばそう言うことだったのか。

 

 彼女はゼロの正体を知った上で陸に力を貸していた。

 つまり月はウルトラマンを……陸を信じることが出来ているんだ。

 

「なんで……」

 

 いつどこでそれを知ったのか。そんなことはどうでもよかった。

 ウルトラマンは敵だ。その記憶があることには自分も月も変わりはないはずだ。それなのにどうして彼女は陸を信じられるのか。

 

「……と言っても知ったのは本当に最近のことだし、始めはボクも色々と戸惑ったけど……信じたくなったんだよ、ボクの知ってるりっくんを」

 

 守ってもらった。正体を知った上でも自分の知る陸と変わりなかった。だから一度逃げ出しながらも信じられた。

 続けて語る月の言葉が心からのものであることは疑うまでもなかった。

 

「……だから曜ちゃんも、曜ちゃんの信じたい人を信じてあげて」

 

 その一言は風のように心を吹き抜ける。

 ただそれだけで月は曜の答えがわかりきったかのようにそれ以上は何も言わなかった。陸を信じているように、彼女は曜のことだって信じてくれているのだろう。

 

「信じたい人……」

 

 何が真実なのか、どうすることが正しいのか。何もかもが不明瞭だからこそ、後悔はしない選択をするべきなのではないか。

 何を信じたい。心はどうすることを求めている。

 

 それを自分自身に問うてみれば自ずと、答えは返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 さざ波の音が聞こえる。

 世界に危機が迫ろうとも、自分達を育んだこの海は今日も穏やかに揺れていた。

 

「……どうしたの? 用があるって」

 

 掛かった声に振り返る。

 百花、幼馴染であり一番の親友。

 

 けど、今は不思議と距離を感じてしまう。

 

「…ほら、さっき呼んだのに来なかったからさ、一応、何があったかだけ言っておこうかなって」

 

「ふーん……」

 

 興味無さげ、と言った様子だった。

 陸の名前は出して伝えていたのだが、少し前に彼と話していた時は感情的な様子を見せていたとは思えない。

 

「……まあ、話したいのは陸のことじゃないんだけどね」

 

「え?」

 

 勿論自分自身でも整理がついてない手前、まだその事実を知らない彼女にこれを話すのは気乗りしないというのもある。

 けどそれよりも、この口で伝えておかないといけないことがあった。

 

「そこで会ったんだ、私の、親友かもしれない子に」

 

「…どういうこと? 曜ちゃん、親友は私だって……」

 

「うん、そうなんだよ。そうなんだけど……なんかこう、あの子にも似たようなのを感じたって言うかさ……私の、親友なのかなって」

 

「曜ちゃん……!」

 

 今度は若干の喜びが籠った声が聞こえた。

 声音、髪色、容姿、全てが親友と似ているが、芯に秘めたものは全く異質なように見える。

 

 高海……千歌。今自分が信じたいと思っている人。

 

「…追ってきたの?」

 

「うん……心配だったから」

 

 何故だからそう言ってくれる千歌に喜びを感じている自分がいる。

 一度や二度じゃない、何度も感じたかのような温かさも胸に生じた。

 

「まさか、その子のこと言ってるの……?」

 

 反面、千歌を視界に捉えた瞬間に脂汗を浮かべた百花が語気を強めて言い寄ってくる。

 その姿がどうにも、自分の記憶の中にある親友の姿と乖離した。

 

「なんで……そんな子知らない、曜ちゃんの親友は私でしょ!?」

 

 憤慨する百花に、回答を曜に委ねるように視線を向けてくる千歌。

 けれど努めて穏やかに、他愛ない会話をするように語り掛ける。

 

「勿論そうだよ。……でも私、この子……千歌ちゃんの言ってることも信じたくてさ」

 

 滅茶苦茶を言っているのは理解している。

 百花との記憶は確かに存在している。けど千歌に対する何かが存在しているのも田鹿なんだ。自分には、そのどちらも否定することはできない。

 

「百花ちゃんのことも信じてるのに変わりはないよ」

 

「だったらなんでそんな子のこと……」

 

「矛盾してるよね、ワガママなのも、わかってる。でも……」

 

 そう、今はどちらも手放せないから。

 

「……私はどっちも信じたいんだ」

 

 都合の良すぎることを言っているのかもしれない。

 どちらも傷つけないように見えて、実はどちらも裏切っている。こんなこと受け入れろと言う方が滅茶苦茶だろう。

 

 けど、自分の知っている˝彼女˝なら、きっと―――、

 

「ふざけないでよ……! ハッキリしてよ! 曜ちゃんの隣にいるのは私でしょ!」

 

 そんな考えを打ち砕くように、焦りを滲ませた百花に詰め寄られる。

 けど屈しも怯みもしない。ただ静かに彼女の眼を見つめた。

 

「くそ…! こうなったら……!」

 

 百花の瞳に非人間的な光が灯る。

 そして像を覚束せる手を曜へ向けて掲げ———、

 

『―――はいはい、そこまでですよ』

 

 制止するように舞い降りた声。

 そして、

 

「え——————』

 

 ずしゅ。

 紅い目のような光が瞬いたかと思った刹那、背中からその身体を貫いた刃物が百花の胸から突き出ていた。

 

『あ、ぁ……? ああぁぁぁ……!?』

 

 何が起こったのか理解できない。

 そんな表情のまま、百花の腕に生じていた輪郭の歪みは全身へと広がり、やがて元の少女の姿は見る影もない金髪の宇宙人のものへと変わる。

 

『スライ…様……? 何、故ぇ……ッ?』

 

『貴方の役目は終わりましたから。これ以上は邪魔なだけです』

 

 慈悲もなく振り下ろされたスライの魔剣が百花だった宇宙人———ババルウ星人を両断する。

 べちゃりと、生々しく音を立てて転がった肉塊に二人揃って声と顔を引き攣らせた。

 

「百花ちゃ……」

 

『そんな人間は始めから存在しませんよ。高海千歌の代わりに過ぎないただの傀儡です』

 

 悪魔のような紅い双眸に、着込まれた白い甲冑が奥底にある記憶を揺さぶった。

 たった今一つの命を散らせたスライは、微塵の呵責すらも感じていないような飄々とした態度でこちらへと歩み寄ってくる。

 

『貴女には二つ謝罪しなければなりませんね。一つはこの件、こちらの都合で記憶を改変したことについては申し訳なく思っています』

 

 刀身にこびり付いた血痕を払うように腕を振るうと、スライは曜の方を向き紳士然として頭を下げてくる。

 これだけ見れば友好的に思えなくもないが、隣にいる千歌の表情、そして訴えかけてくる自身の本能が最大級に危険を告げた。

 

『……もう一つは……また、身勝手な真似をすることへの御許しを』

 

 そして早くもその警告が現実をなるように、

 

「曜ちゃ———」

 

 下げられていた刀身が揺らめき、気が付いた時には曜の背後まで振り抜かれる。

 もはや痛みすらも感じなかった。それどころか身体すらも斬られたことに気付いていなかったかのように、遅れて鮮血が舞う。

 

『そして誇りに思いなさい。偉大なる陛下ご復活の礎となれることに』

 

 自身の身体から流れ出る血潮の海に崩れた曜を見下ろし、冷徹にスライが吐き捨てた。

 そればかりかまだ微かに息が残っているのを確認すると、トドメと言わんばかりに再び剣を振り上げる。

 

「だめぇッ!!」

 

 翳んでゆく視界の中で、それを阻止するようにスライに体当たりする千歌が見えた。

 けれど相手は屈強な宇宙人。そんな衝撃程度では身じろぎすらせず、逆に片手の一振りで千歌を跳ね飛ばしてしまう。

 

『もはや貴女にも用はないのですよ。……そこで見ていなさい』

 

 今度こそ、二度目の凶刃が迫ってくるのが分かった。

 

 

 ごめんね。もはや声にすらならない声で伝える。

 

 結局最期まで彼女のことを完全に思い出せることはなかったのに、それでも千歌がこうまでしてくれたことが嬉しく、それ以上に悔しかった。

 千歌だけじゃない、陸だってそうだ。彼への本当の気持ちを理解しないままに、あんな酷い言葉を吐き捨てたままになってしまう。

 

 だからこれはそんな自分への罰なのかもしれない。

 許される限りの謝罪を続け、やがて力も入らなくなった瞼を閉じ———、

 

「———セエェェヤッ!」

 

 その寸前に割って入った一つの影が剣戟の前に立ちはだかるのが見えた。

 だがもう気力も持たない。事の顚末を見終わる前に視界が黒に染まり、闇の底へと意識は引き摺り込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ———」

 

『スライか……よくやった』

 

 ベリアルを通して流れてきた光景に血が凍り付くような悪寒を覚える。

 赤の中に沈む少女が彼女であると認識した途端、途方もないような脱力感に身体が震ええた。

 

『奴等がお前の守るべきものなのはよくわかった……その上での選択だ』

 

 陸を殴る手が止まり、今度は言葉が向けられる。

 だが、それは殴打などよりもずっと暴力的で、卑劣な含みを孕んでいた。

 

『お前が抵抗を続ける限り、一人ずつ殺していく…………そう言ったらどうする?』

 

 もはや選択肢など無かった。

 ここで手放したら何が起こるかなんて簡単に分かる。けど、一度それを見せられてしまうと、目先の恐怖が勝ってしまう。

 

「…………わかったよ」

 

『…それでいい』

 

 絞り出すような声への返答は、全身を覆ってくる闇だった。

 何もかもが手の中から離れていくのを感じる。もはや抵抗すらも利かなくなった暗闇の中で、ただ一人、どうにもできない己の無力感を呪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハハ……!』

 

 また更に数名がいなくなった病室の中、静けさを打ち壊した笑い声に全員の視線が一点に向く。

 不安を抱く反面どこかで期待してしまう。そんな思いは鋭さを増した双眸の見せる紅によって儚くも打ち砕かれた。

 

「先輩……?」

 

「いや……違う」

 

 傍へ寄ろうとする花丸を何かを悟ったオウガが制止する。

 この場においてその意味を悟った者は皆、一様に姿勢を下げて警戒の意を示した。

 

『…こんななよっちい女共と一緒たぁ、俺も甘く見られたモンだな』

 

 ゼロやヒカリが背後に隠す少女達を見て舌を打つ陸。

 これを受ければもう全員、その身体を支配するのが陸でないのは嫌でも理解できた。

 

『それともなんだ? コイツが俺に抗えるとでも本気で信じてたのか?』

 

「ベリアル……陸に何しやがった…!」

 

 呼吸すらも苦しくなるほどに重い緊張感の中で宿縁を持つ者同士の目線が交わる。

 自身へ向けられるゼロの視線が戦意を含むことを悟ると、ベリアルは不敵に口角を釣り上げた。

 

『もうそんなものは関係ない……それよりももっと別なことを心配したらどうだ』

 

 カッと瞳が見開かれた直後、空間すらも恐怖しているかのように空気が震える。

 途端にその身体から沸き上がった闇は瞬く間に柱のようになり、悪魔の咆哮と共に爆発した。

 

『この肉体…この感覚………久しいな』

 

 巻き起こった突風に地鳴りが少女達の悲鳴を呼ぶ。

 だがそんな彼女達も、濛々と立ち昇った土煙の向こうに映る巨影を前に声も出さずに震えた。

 

『フフ……待ちわびたぞ、この瞬間を……!』

 

 黒の中に血のような紅が走る筋肉質な肉体に、釣り上がった双瞳や大きく裂けた口から覗く牙。凶悪さそのものが具現化したかのようなソレの姿は悪魔と呼ぶに相応しいか。

 

 だがその胸に輝く妖しい煌めきが、紛れもなくその巨人もウルトラマンであることを告げる。

 

『フフフ……ハハハハハ……ッッ!!!』

 

 あらゆる者が見上げる先で漆黒の巨人は笑う。

 

 暗く雷鳴を鳴らす天地、荒く波立つ海。それら全てがその存在———ウルトラマンベリアルの脅威を物語った。

 

 

 




必殺情報過多
とりあえず出したことすら後悔してたババルウの化けた某女を始末できたので満足です(名前出すのすら嫌マン)

読者さんが曜と陛下の件のどっちに意識が向いているかはわかりませんが流れ的にはスライの凶刃に曜を貫かせることで陸を従わせた陛下がその身体を乗っ取って復活なさったといった感じです

一行に状況が良くなりませんがどうなるんだこれって方も、またそこは次回で
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