空へと昇る赤と蒼の光。
胸に輝きを宿す二体の巨人の出現に視線を集めたのは逃げ惑う人々だけでなく、この騒動の引き金である三体の巨影もだった。
『ほぉ…、今度は貴様らが相手か』
メビウスとヒカリを視認するや否や、圧倒的な圧を伴って距離を詰めてくるベリアル。
振り下ろされた鉤爪を両者共にブレスから伸ばした光剣で受け止めると、そのまま流れるように縦一直線に振り下ろす。
『くり返すがこうなったからには覚悟を決めろ。気を引き締めていくぞ果南!』
「わかってる!」
ヒカリの感覚を通して伝わってくる圧力と緊迫感。
海が力を与えてくれた時とは違う、ウルトラマンと一体となって戦う感覚。これがいつも陸が潜り抜けてきたものなんだ。
『デエェェイッ!』
ナイトビームブレードを駆使し、ベリアルの攻撃をいなしつつカウンターの機会を伺う。
蒼い身体が動かされる度にヒカリの思考が流れ込んでくる。動作一つ一つの度に神経が削られてゆく感覚がした。
『セエェェア!』
「ッ…! 後ろ!」
背後からメビウスの波状光線が殺到してくるのを視認し警告の声を上げるも、ヒカリはそんなことはとうにわかっていたと言わんばかりに身体を翻して見せる。
ヒカリの身体が壁となりベリアルに認識されていなかった光の鏃は連続して奴の身体に突き刺さった。
『ヒカリ!』
『ああ!』
ベリアルはたった数歩の身じろぎで今の攻撃の威力を殺してしまうが、二人は既に次の攻撃の準備へと移っていた。
反撃の隙も与えまいと瞬時に奴の懐へ潜り込み、メビュームブレードとナイトビームブレード、その双方を胴体目掛けて疾走させる。
「すごい……」
二人のコンビネーションにまるでついていけない。
振り回されているだけで、思考も身体の動きもヒカリと同調させているとはとても言えない。恐らくメビウスの中にいる曜も自分と同じ状態だろう。
こんな戦いをいつも、何度も、陸は繰り返していたんだ。
『…地球人の気配が混じっているな……それも小娘か』
土煙の向こうでベリアルの双眸が煌めく。
今の連撃が通用しなかった。身体そのものがそう主張してくるかのように傷はおろかダメージすら負っている様子は見られない。
『……随分と舐められたものだな』
「っ———」
鎌鼬のように、切り裂かれた空間の跡がそのまま襲い掛かってくるような光線が迫る。
だがそれは命中する直前にもう一人の赤と青の巨人によって防がれ、その巨人———ゼロはそのまま自分達を庇うようにベリアルの前に立ち塞がった。
『どういうことだ! 何故曜と果南がアンタ達と一体化してる!?』
『彼女達の意思だ』
ゼロに応えたのは最初難色を示していたヒカリだった。
果南達に覚悟を求めたように、彼もまた果南達と戦う覚悟を決めた。そんな意思を感じる。
「そうだよ! 私達から頼んだの!」
「無茶なのはわかってるけどお願い……私達にも戦わせて」
『けどな———』
『言い争うのもお説教も後だよ後! 今は目の前のことだけ考えて!』
ベムゼードもまた前に出て牽制の火球を飛ばすも、それは命中することなく真っ二つに叩き割られる。
『これはこれは……賑やかなことで』
また一人、爆炎の向こうに現れる影。
ベムゼードの攻撃を軽く打ち消して見せたメフィラス星人———魔導のスライは、眼前のウルトラ戦士達へ一瞥をくれると自らの主へと一言。
『陛下、あまり時間がないのは我々も同様です。ここは私にお任せください』
高い知能を誇り、ダークネスファイブの参謀役でもあったスライ……ヒカリを介して奴の情報が流れてくる。
そんなスライの進言だからこそなのか、戦闘を続行する気でいたはずのベリアルもそれを聞き入れるように自らの腕を下げた。
『…仕方ねぇ。スライ、ここはお前に任せる。俺の邪魔をさせるな』
『承知致しました』
『ッ…! 待ちやがれッ!』
直後に開いた何かしらのゲートと思しき次元の裂け目へとベリアルが消えてゆき、それを追うようにゼロまでもがその中へと飛び込んでゆく。
残ったのは二体のウルトラマンにベムゼード、そしてそれらと対峙するスライの四人。
『邪魔をさせるなって言ってなかったっけ? ゼロ君行かせちゃっていいの?』
『如何にゼロと言えどあの状態では何もできないでしょう。それよりも貴方達を足止めする方が合理的と判断したまでですよ』
紳士然としているが、その本性が紳士と程遠いことは知っている。
皆の記憶を書き換え、陸から何もかもを奪った張本人。自然と握る拳に力が入る。
『さあ……貴方達の相手は私ですよ』
虚空を薙いだスライの剣が緊張の糸を断ち切り、四つの巨体が同時に大地を蹴る。
『セヤァッ!』
まず最初に攻撃を到達させたのはメビウスだった。
互いに斬り合う形でスライと剣を交錯させ、火花と共にメビュームブレードの光が舞う。
『如何にあのエンペラ星人を倒した勇者と言えど、剣技は私に分があるようですね』
『ぐっ……?』
粗削りにも思える剣線の網を容易く掻い潜ったスライは、そのまま抜刀術に近い一太刀でカウンターを浴びせる。
三対一のこの状況でも余裕を崩さないのは余程の自信があるのだろうとは思っていたが、やはり相当なものなのだろうと直感で理解する。
『これならばさほど時間は掛からなそうですね。早急に片づけて私も陛下の下へ向かうとしますか』
『舐めるな!』
メビウスとスイッチし、今度はヒカリがナイトビームブレードを斬り下ろす。
だがメビウス同様、重ねて描く太刀筋のキレが弱い。当然そんなものがスライに通用するはずもなく、ヒカリもまた前者の二の舞となってしまう。
『感情だけで突っ走るな果南! 気を落ち着かせろ!』
『曜ちゃんも、気持ちはわかるけどだからこそ冷静になるんだ』
別段怒りに呑まれ我を失っているわけではない。それは曜も同じだろう。
けれど奴と対峙しているとどうしてもその所業と、それにより起きてしまった悲劇が頭を過る。
とてもじゃないが、一体化しているウルトラマンと同調できる状況じゃない。
『こないのならこちらから行きますよ』
対しスライの太刀筋には迷いも雑念もない。余計なものを一切排した、自身の信仰する主へ捧げる剣は幾度となく赤と蒼の身体を切り刻んだ。
「ぁ…うぅ……!」
共有する感覚がヒカリに伝わるダメージをそのまま果南にも与える。
これがウルトラマンと一体化する、ということなんだ。痛みといった全ての感覚はリンクするし、どちらかの感情が不安定になればパートナーにも支障をきたす。
現状自分達はヒカリ達の足を引っ張っているだけだ。
「この……!」
自分から望んでおいてこんな有様では立つ瀬がない。何とか振り払おうとナイトビームブレードを振るうも、今度は強引な突破を図ったメビウスと衝突してしまう。
先程のような連携が取れていない。そんなことは傍目から見ても明らかなのだろう。
『当てないようにかぁ……難しいなもう!』
後方からベムゼードの火球が援護をしてくれるも、この様ではまるで活かせていない。
このままでは陸を助けることはおろか、スライにも勝てぬままここで力尽きることとなってしまう。
『ッ…!』
現状での接近戦は不利と見たか、バックステップを取ったメビウスがブレスから連射するメビュームスラッシュを殺到させるが、これもまたスライは難なく撃墜。
一部の隙も見せていないのにも関わらず、その態度は余裕然としたまま。
『そう言えば、彼女と一体化したのですねぇ』
更にそれは加速してゆき、紅い双眸がメビウス……いや、正確には彼と一体化している曜を捉えた。
『彼女の命を救うためだったのはわかりますが、それが故に戦闘に支障をきたしてしまっては本末転倒なのでは?』
『お前から仕掛けてきておいて何を……!』
やはり曜の衣服を染め上げていた血痕はスライによる襲撃の跡だったか。
あのレベルの出血、メビウスがいなければ確実に命を落としていただろう。その所業にまた沸々と怒りが沸き上がってくるのを感じるが、同時にその目的がわからなくなる。
『そもそも何故彼女を殺す必要があった。目的が陸君なら無益に命を奪う必要はないはずだ』
『ええ、その仙道陸ですよ。完全には復活されていなかったとは言え、まさか体内で陛下を抑え込むとは我々としても想定外だったのでね』
激しい攻防に伴って問答が展開される。
流石はゼロの先輩戦士か。動きが制限されている中でも最低限の戦闘は行えている。
『なので最も彼が心の拠り所としていた彼女を失えば折れると考えたのですが、まさかこんなことになるとは……』
「私が、陸の……?」
『はい。ただ脅しの材料となっただけで心までは折ることはできませんでしたがね。まあ、結果として貴方の足枷となっているので無駄ではなかったのでしょうが』
『下劣な……耳を貸す必要なんてないよ曜ちゃん。君が今できることをやれば、それだけで僕達の力になる』
「…うん……」
ベリアルが陸の身体を乗っ取れたのも、つまりそういうことらしい。
そのために曜を襲った。奴にとっては、ベリアル以外の者なんて目的のための駒も同然なのだと改めて実感させられる。
『……つまり、決して陸がベリアルに屈した訳ではないということだな』
いよいよ抑えきれなくなってきた感情を鎮めたのは、ヒカリによるその一言だった。
彼から伝わってくるのは先程のような落ち着けという声でも、まして足を引っ張る果南に対する呆れでもない。
ただ単純に、目の前の希望を示した。暗雲立ち込めていたと思われていた状況に光を差したのだ。
『……お前は一つ大きな間違いを犯したぞ魔導のスライ』
『…はい?』
不安、怒り、自責、雑多な感情がすっと消え、ただ大切な人への一つの想いを糧にヒカリと心が重なっていくのを感じる。
そうだ。自分は、スライを倒すためにここにいるんじゃない。
原動力は怒りじゃない。陸と一緒にいたいという想いだ。
そのためだったらこんな壁、超えてみせる。
『見縊ったな、地球人を』
ヒカリと共に、大地を蹴る。
揺るがぬ決意を太刀に乗せ、全ての禍根や因果を断ち切るように振り抜く。
『まさか……よく理解していますよ』
その一刀はまたもスライに防がれるが、明らかに先の一撃よりは手応えがあった。
『…それがわかるのはこの戦いが終わってからだ。よくその目に刻んでおけ』
『今更何を———』
一発、もう一発と叩き込んでゆく度にその重みも、その鋭さも増してゆく。
そして全身に稲光のような感覚が走った刹那、遂に迸った刀身がスライを捉える。
『なあぁッ……!?』
斬撃に刺突、更には光線技も。
形勢逆転……とまでは行かぬものの、ヒカリの攻撃が確かにスライを捉え始めてゆく。
『これはッ…、シンクロ率が上がっている……!?』
『言っていたな、貴様は地球人をよく理解していると。事実それは間違ってはいないのだろう』
見える。ヒカリがどう考え、次にどう動くのかが。
感覚が、呼吸が、一つになる。これが真の意味で一体化するということなんだ。
『人間は確かに非力だ。種族としての能力では俺達宇宙人には遥かに劣る……だが、貴様等にはない強い心を持っている。友を想い、共に未来へ歩もうとする力をだ』
暖かな光の中で円を作る六人の姿が浮かぶ。
ヒカリの記憶、なのだろうか。固く、強く、悠久の時を経ても綻びないと思わせる絆を感じた。
『だからこそこうして記憶を変えウルトラマンと地球人の紡ぐ絆の力を奪ったのでしょうが! その何が理解出来ていないと———』
『その認識こそが貴様の間違いだ。人とウルトラマン、貴様等が恐れているのはそれのみ。
かつて剣豪として名を馳せたヒカリの嵐のような斬撃のラッシュがスライを飲み込む。
『俺達は知っている。どんな絶望の中でも希望を手放さなかった者達の姿を。自分達の力のみで守るべきものを守ろうとした者達の姿を! それこそが人間の力……個々の持つ想いの力だ!』
『がッ…! アアァァァ……!』
スライは曜を嘲り、果南達がヒカリ達の足を引っ張っていると笑ったように、ウルトラマンと絆を紡いでいない人間の力を侮っていた。
実際、自分達の間に絆と呼べるようなものはない。けれど現にこうして力と想いを一人にできている。
それは紛れもなく人の持つ力が起こしたことだと、ヒカリは吠えた。
『ヌゥッ…! 虚は突かれましたが、一騎打ちで負ける私では———』
『だーからわかってないとか言われちゃうんだよスライ』
反撃に移ろうとしたスライに今度こそ何発もの火球が命中する。
動揺もあってヒカリばかりに気が向いていたのか、見るからに奴に隙が生まれている。
『ボクもこの星で陸君達に触れてきたけどさ、人間、そんなヤワなモンじゃないよ』
『貴方に何が……!』
『少なくとも君よりはわかってるつもりだよ』
自信を含んでそう言うベムゼードが現れたのは、スライの真正面。
テレポーテーションでヒカリと位置を入れ替えた彼は両腕の掌底を奴へとあてがい、最大火力で爆炎を噴出した。
『決めろ! メビウス!』
「曜!」
吹き飛ぶスライの行く先で、更に熱い炎が燃え上がる。
『オオオォォォ……!』
胸に炎の紋章を浮かび上がらせたメビウスの腕の中で、太陽にも思えるほどの火球が生成されてゆく。
『セヤァァァァァァァッッッ!!!』
メビウスだけじゃない。曜の想いも乗せた莫大な熱量の炎の塊が放出される。
メビュームバースト。メビウスの技の中でも最強クラスとされるそれは大気を焦がしながら猛進し、瞬く間にスライを飲み込んだ。
『フ……ハハハハハ……! まさかこの私が敗れようとは……ッ!』
炎の中で笑うスライの姿が、やがて灰となって崩れてゆく。
『これ以上のお力添えが出来ぬことをお許しください……そして、この身が…滅ぼうとも……ッ、我が、魂はッ、貴方様に……!』
遂に立つこともままならなくなったか、ゆっくりと後ろへ倒れ込む悪魔の影。
それでもなお揺るがぬのは、その身に刻まれた忠誠心。
『陛下アアアアァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!』
最期の叫びを掻き消すように起こった爆発が奴の全てを消し飛ばす。
ダークネスファイブ、その最後の知将が崩れる。もうベリアルへの道を阻むものはいなかった。
『行くぞ!』
爆心地から上がる黒い瘴気を追うように、二人の戦士はゼロとベリアルが飛び込んでいった時空の裂け目へと消えていった。
苦節百四十七話、遂にダークネスファイブ全員を撃破!(時間かけすぎ)(もう2年)
果たして3年経ってしまう前に終わらせられるのか作者もヒヤヒヤしておりまする……
ダークネスファイブ達を倒すたびに昇っていった瘴気、ベリアル陛下の行く先と共に次回明かされます