あの密度で毎週新しいストーリーが見られると思うとウルトラ幸せですなぁ
お前は何をしたい。
弱々しい光の中でそう問われる。
「……」
今更何が起きているかわからない訳じゃないし、どうしたらいいかわからない訳でもない。
けれど何故か、答えられなかった。
「…どうしたいのかな」
光の収まった鞘に視線を落とす。
これをしたい。そんな情動は確かに存在している。けれどまた別に存在する胸のしこりがその邪魔をしてしまうのだ。
―――――
「———梨子ちゃん!?」
「っ…!」
鬼気迫ったような声に元の世界へ呼び戻される。
メビウス達がスライを撃破した直後にあちらへ誘われた記憶はある。時間にしてほんの数秒程度だろう。
そんな僅かな時間だったが、それでも目に見える変化は大きかった。
「善子ちゃんも、大丈夫ずら…?」
梨子と、善子。少なからず数秒前までは何ともなかった彼女達が同時に苦悶の表情で頭を押さえていた。
頭痛は一瞬のものだったらしくすぐに頭を上げるが、揃って千歌に向けられた顔色は良いとは言えない。
「……ぁ」
「ち、か……」
か細く震える声で確かに口にしたのは千歌の名前。
確か、この二人に共通して言えることは———、
「……スライが倒されて催眠が解けたんだ。当然、記憶も元に戻るさ」
横から割り入った声。今回は自分だけでなく、その場にいた全員がオウガであるとすぐに理解する。
あの怪獣に変身して戦っていたのは彼なのだろう。全身に傷や火傷の跡を作り、その足取りは心許ない。
「他の人間達は都合よく記憶が補完されるだろうけど、二人は自分達が催眠に掛かっていることを知っていた……だからその間の記憶が消えていないんだ」
つまり、催眠に掛かっている間の記憶がそのまま残っているということ。
別にそれ自体は皆と変わらないのだ。皆だって、催眠下の中の記憶は残ったまま。
ただ一つ違うのは、この二人だけは自力で元の記憶を取り戻していない、という点。
「ごめん……なんかまだ、混乱してて……」
罪悪感や自責の念。そんな負の感情が二人から沸き上がってくるのを感じた。
どう言葉を掛けたらいいのだろう。陸がいない今、その感情を和らげられるのは自分竹なはずなのに。
「…とりあえず、三人で話してきたら?」
三者揃って言葉を探す中、不意にオウガがそう促してくる。
陸の働きかけやそれを受けて元に戻った皆を見てきたであろう彼。だからこそなのか、その言葉には何か確信めいたものを感じた。
「何でもないことだったりするからさ、案外ね」
『二人とも、身体の方は大丈夫?』
「うんまあ、一応はね」
「…所々痛むけど」
万華鏡を覗いた時のような文様が延々と続く空間を進む。
メビウス曰く、この空間は一種のワープゲートに近いものらしく、別の宇宙に繋がっている可能性が高いそうだ。
自身の復活という目的を果たした今これ以上ベリアルがあの地球に留まる理由はないが、過去の行動やその思考を鑑みるにこのまま引くとも考えにくいというのが二人の考えだった。
『…元々ベリアルは強大な力を持っていた。ノアの光や陸を取り込んだ今、その力がどれほどになっているか見当もつかない……少なくとも、魔導のスライとは格が違うと思ってくれ』
やがて見えてきた出口を目前に、ヒカリがそう口にする。
恐らくこれは最後の忠告。退くなら今、ということなのだろう。
「…ここまで来たら退けないよ」
「ていうか、元々退く気もないしね」
『……君達ならそう言うと思っていたよ』
互いに覚悟を再確認し、出口へ向け速度を上げる。
超空間を突破した先で広がっていたのは、今まで見たこともないような光景だった。
『ここは……!』
『怪獣墓場…?』
剥き出しの焦げたような黒い岩盤に、それらの隙間を走る灼熱の溶岩が一面を支配している。
活火山帯のようにも思えるが、それとは別に何か異質な気配を感じる。言うなれば地獄のような場所だ。
「ッ…! ゼロ!」
その深部、反り返った山々が連なる地点の手前に見える二つの影。
丁度、ベリアルの一撃によりゼロが吹き飛ばされた瞬間だった。
『…お前、等……!』
『ほお、スライを突破してきたか』
少しだけ感心したかのようなベリアルの視線が向けられる。
ほんの僅かだが好奇心が湧いた。そんな目だ。
『大丈夫かゼロ』
『心配ねぇ…、ちっとふらつくだけだ』
肩を貸すヒカリにそう答えるゼロ。強がってはいるが、既に満身創痍であるのは火を見るよりも明らかだった。
ウルティメイトブレスによるエネルギー供給で辛うじて戦闘を継続出来ているものの、カラータイマーの点滅は先程よりも目に見えて早くなっている。
『ここまで来れたのは褒めてやる。これはその褒美だと思え』
高く掲げられたベリアルの右腕に、地面から湧いて出た黒い瘴気の塊が集約していく。
その数四つ。更に遅れて自分達が通ってきた空間の穴から飛来してきたものを含め、計五つとなってベリアルの周囲を漂っている。
そしてその瘴気、つい先程見たばかりのそれと全く同じに思えた。
『これが何か分かるか、ゼロ。貴様等が倒したダークネスファイブを
『動かして……?』
首を傾げたのはゼロだけではなかった。
ただ一人、ヒカリだけがその言葉の意味を理解したようにベリアルに目線を向けていた。
『やはりそうか……奴等は、ダークネスファイブはオメガ・アーマゲドンの中で一度死んでいる』
「え……?」
ヒカリの出した結論にゼロ達が固まる中、今度はベリアルだけが笑いを見せていた。
『何かおかしいとは思っていた。オメガ・アーマゲドンの際、俺は確かにダークネスファイブを討ち取ったという報告を受けた』
『けど、現に奴等はゼロや僕達の前に姿を現した。それは一体———』
『俺が蘇らせたんだよ』
メビウスの疑念に答えを出す形で、ベリアルがその真実を告げる。
『あのストルム星人と共にディザスト・スマッシュやジードを生み出す際、その失敗に備えて別な計画を並行して進める要因としてだ。レイブラッド星人の遺伝子を受け継ぐレイオニクスの力と、ギガバトルナイザーを利用してなァ』
レイブラッド星人、レイオニクス、そしてギガバトルナイザー。初めて聞くその名前をヒカリから流れてくる情報が補完する。
つまり果南達の地球に現れていたダークネスファイブは、怪獣を操るレイオニクスの力を持つベリアルによって復活させられた者達……ということになる。
『だがプラズマスパークのようなエネルギーも無しに奴等を蘇らせるのは流石に負荷が大きかった。奴等を蘇らせた代償として、ギガバトルナイザーは怪獣を使役する力を失った』
『……サイドアースで怪獣をモンスロードしなかったのはそういうことか』
『ああ……だが、もうそれも終わりだ。ダークネスファイブに宿っていたギガバトルナイザーの力は、今ここに戻ってきたのだからな!』
ダークネスファイブを倒す度に空へと昇っていた瘴気の正体は、奴等が復活した際に受け渡されたギガバトルナイザーの力。
それが怪獣墓場に来た目的なのだとすれば、ダークネスファイブが全員打ち滅ぼされるのもベリアルの計画の内だったということになる。
『……ウジュイカ・レ・エガミヨ』
『レイバトスの呪文…まさか……!』
ベリアルが不可解な呪文を唱えた刹那、人魂のような炎を纏った何かが瘴気と共に奴の手の中で融合してゆく。
やがて形を成したのは、両端に幾つもの光点を宿す、棍棒状の武器だった。
『ギガバトルナイザー……!』
『冥土の土産だ。最後に味わうがいい』
また別の光が、ベリアルの腕から怪獣墓場の大地に注がれてゆく。
途端、地面そのものが命を宿したかのように鼓動を始め、幾千もの咆哮が轟いた。
『怪獣達の魂が……!?』
『野郎ォ…ノアの光で……!』
魂。そう称されたように、亡霊を思わせる怪獣の形をしたものが何体も地面から這い上がってくる。
その全てをギガバトルナイザーで吸収して見せた後、ベリアルは終焉を告げるように、宣言した。
『百体モンスロードッッ!!!』
「…身体、大丈夫?」
「え…?」
「ほら、あの黒いウルトラマンに取り込まれてたって言うから……」
「あぁ……うん。だいじょぶ」
気の抜けた会話が続いていた。
オウガは得意気な顔をしていたが、正直気まずい。
大好きな友達だったはずなのに、今も大好きなはずなのに。
「……なんか、浮かない顔ね」
しばらくそんな空気を漂わせていると、流石に訝しまれたか善子に首を傾げられてしまう。
「やっぱり、陸君が心配?」
「……」
言葉に詰まる。
そう思っているのは確かなはずなのに、どうしてかそうだと答えられない。
「……もしかして、やきもち焼いてたりする?」
「え?」
「ああごめんね、変なこと言って。でもなにか、やきもちってほどじゃないけどそんな気がして……」
否定しようとし、留まる。
そうだ、まだどこかひとりぼっちな感覚がしたんだ。
皆記憶が戻っていくのに、皆も、自分自身も、陸のことばかりでそれどころじゃなくて、心に空いていた穴がそのままだった。
「ごめん……本当に。なんて謝ったらいいのか……」
「…梨子ちゃん達が悪いんじゃないよ」
その受け答えが更なる苦しさを呼び、ぎゅっと手の中のエボルトラスターを握る。
こんな話がしたいんじゃない。もっと普通を感じたい。まだそんなことを考えてしまう自分がいる。
そんなこと言ってる場合じゃないのに……最低だ。
「……千歌ちゃんは、一人なんかじゃないよ」
「それ…」
梨子がポケットから取り出したのは、桜色のシュシュ。
自分の気持ちに素直になって。そう伝えた千歌に応えて東京に向かった梨子が、皆に送ってくれたもの。
「なんで持っていたのかもわからなかったけど、手放しちゃダメな気がして、ずっと持ってたんだ」
離れていても心は一つ。このシュシュを付けてライブをした時、そう思ったのを今でも覚えている。
もしかしたらそう思ってくれていたのは、梨子も同じだったのかもしれない。
「こんなこと私が言うのは都合が良すぎるのかもしれないし、烏滸がましいかもしれないけど、覚えてたんだと思う。記憶じゃなくて、心で。千歌ちゃんに救われたこと」
ちゃんと繋がってた。梨子の目はそう語っている。
ふと思い返す。千歌との関りがなかったことにされているのならば、スクールアイドルに触れてからの彼女も存在しないことになるはずだ。だが、時折見た梨子の表情や仕草はスクールアイドルを始めてからのそれそのものだった。
それはつまり梨子の中で千歌という存在が消されても、千歌が残したものは変わらなかったということ。
「…私だってそうよ。感謝してるのは、同じ」
続き、善子がそう零す。
見上げると、嘘のない澄んだ目がそこにあった。
一人になっても、何もなくしてもいなかった。
自分が勝手に、そう思い込んでいただけで。
「こっちが忘れておいてなんだって話よね……でも、そう思ってるのは本当。あの時、千歌が手を差し伸べてくれたから、私が私でいられる場所でいてくれたから、今の私があるの」
照れているのか、微かに赤い頬を掻きながら伝えてくる。
思えば、不登校だったはずの彼女も記憶や史実の改変に関わらず学校生活を送っていた。
「…千歌にその気がなくたって、それで救われたのは私だけじゃないと思うわ。だから記憶がなくなっても、そこだけは変わらなかったんだと思う」
梨子にも、善子にも、自分が言ったことは一つだった。
「…自分の気持ちに素直になってって、そう言ってくれたのは千歌ちゃんだよ」
自分の気持ち。
そもそも、普通を感じたかったのも、この状況から目を逸らしたがっていたのも何故だったか。
全部皆が好きだったから、皆のいるあの時間が好きだったから、そのはずだ。
自分は今どうしたいのか。
あの日梨子へそうしたように、改めて自分自身に問いかける。
今度はハッキリと答えられた。自分はいつも通りがいいんだ。
皆がいて、同じことに向かって全力で駆け抜ける、あの日常を取り戻したい。最初からその想いだったはずだ。
「……!」
答えを出せた千歌の心に呼応するように、手の中で灯る光。
望むのなら応えよう。そう言ってくれているようだった。
「私、皆と一緒に輝きたいんだよ。まだ何も掴んでないから、今こんな形で誰かが欠けちゃいけないんだって」
孤独に耐え兼ねて、唆されて、脱線していってしまったけど。
元を辿れば全部、皆といたい、その想い一つだった。
「だからお願い……もう一回、力を貸して」
羽のように広がった光に包まれる。
やがて形を成した巨人———ウルトラマンネクサスは、その想いを、光を繋ぐ場所へと、飛んだ。
ゼロライブにて散々やらかしてくれたダークネスファイブは既に落命しており、ギガバトルナイザーの力を依り代にすることで蘇っていた……ということでした
これ最初は普通に存命ってことにしようとしてたんですがね、とあるインタビュー記事でジードを担当した坂本監督が「ダークネスファイブはオメガ・アーマゲドンの中で戦死した」と仄めかしていたのでこのような形にさせていただきました
そして遂に本当の意味でネクサスになった千歌……その行く末に待ち受けるものとは……
それでは次回で