ちなみに今日に限って大学が休日授業したのでライブ自体はリアタイ出来てません
夜闇に隠れ始める太陽が見せる夕空のコントラスト。
その空の下でカツカツ、キュッキュと床を叩く靴底の音が重なって響く。この時間は自分だけの特権のような感じがして好きだ。
「ルビィちゃん、そこもっとステップ大きく」
「は、はいぃ!」
「花丸ちゃんも、気持ち早めで」
「ずらぁ~」
「よし! じゃあ全体合わせてやってみよう!」
とは言っても、漂う緊張感は本物だ。残り少ない限られた時間の中、ただ一つ見据えた目標へと全力で突っ走っている。
「……なんか、やっと戻ってきたって感じだな」
『言うほど時間は経ってねぇはずなんだがな……なんか懐かしいぜ』
スライが倒されたことにより催眠は解け、世界の歯車はまた元通り回り始めた。
失ってから気付く……とかいうやつなのだろうか、何気なかった光景は前よりもずっと尊く感じる。
「………戻ってきたんだな」
ベリアルから解放され、ようやく全てを取り戻せたあの日。
すごく謝られたし、またすごく謝った。今となっては反省するばかりだ。
「…それで、ベリアルは?」
『さぁな……宇宙警備隊の方もまだ行方を掴めていないらしい』
宇宙警備隊により追い詰められたように思えたベリアルだが、戦闘の最中使役する怪獣の能力を使いその場から姿を眩ませたらしい。
その後は何の音沙汰もないとのことだが、奴のことだ。このまま終わるとは考えられない。
「そういや、俺のことはどうなるんだよ。一応俺、ベリアルの遺伝子、持ってる訳だし……」
『一応今のところは経過観察ってことになったらしいぞ。メビウスとヒカリが相当掛け合ってくれたってよ』
「……そっか」
メビウスとヒカリ。彼等にも相当助けられた。
ヴィラニアスの件から、陸の救出、何から何まで。彼等がいなければ、今こうして元の日々を噛み締めることすらも出来なかっただろう。
「…全部終わった後でいいからさ、師匠にお礼言っといてくれよ、曜のこと」
ベリアルを通して見せられた曜が殺害される様。メビウスが一体化しその命を取り留めてくれていなければ、陸も皆も、本当にどうなっていたかわからない。
話す間もなく光の国へと帰還してしまったが、もしまた顔を合わせることがあれば、その時は自分の口で礼を述べたい。
「それとヒカリにも……ちゃんとハッキリ伝えてくれたから、俺も向き合えたからさ」
『……おう』
自分の生まれ……その全てを受け入れ切れた訳じゃない。正直今も、狂いそうなほどに苦しい時もある。
でも逃げないと決めた。皆がいれば、皆に貰ったものがあれば、向き合ってゆける。そう思えた。
「もーう! まーた暗い顔してる!」
感情の独白に耽っていると、いつの間にかその皆の視線が自分へと向いていた。
既に
「もしかして聞いてなかったの? 今の話」
その皆の内の一人、Aqoursのリーダーである千歌がふくれっ面を寄せてくる。
スライによる人々の記憶改変以降、精神的にかなり消耗していた彼女だが、今では見ての通り持ち前の明るさを取り戻している。
家族の方とも特に問題は起きなかったようで、今はもう完全に元の生活に戻れているようだ。
「…あぁ、ごめん。それで何話してたんだよ」
ネクサスの件もあるが、彼女自身が問題ないと言っていた以上あまり詮索する必要もないだろう。
それより今は聞き逃した話の内容を知るのが先決だ。
「ふっふ、それはね……鞠莉ちゃん、どうぞ!」
妙にハイテンションな千歌により回答のバトンが鞠莉へと渡される。
その鞠莉もまた見るからにご機嫌がよく、彼女を象徴するような声量とイントネーションでその答えを告げた。
「合宿デース!!」
「……職権乱用じゃねーのこれ」
「まあまあ、皆合意の上だから……」
トントンと小気味よいリズムを奏でながら腕と口を動かす。
慣れた作業ではあるが、見慣れぬ場所、なおかつ隣に彼女がいるとどうにも落ち着かない気分になる。
「しっかしまたなんで急に合宿なんて……明日には東京向かうんだろ?」
「…だからだよ。だから少しでも長く、ここにいたいんじゃないかな」
今日はAqours全員で浦の星に泊まる。鞠莉によって陸がそう告げられた時には、皆もうその提案を知った上で受け入れていた。
ここの生徒ではない陸にはいまいちその感覚は薄いが、浦女はAqoursにとって、学校の皆にとって大切な場所。
この場所が好きで、だから守りたくて。
必死に足搔いて、それでも叶わなくて。けどその度に新たな目標を見つけて走ってこれた。
嬉しいことも辛いことも全部ひっくるめて、皆で培ってきた思い出がある場所。
だからこそ決勝前に、少しでも学校の皆の想いをここで感じたかったのかもしれない。
「……ま、そこに関しちゃ俺が口出すところじゃねーか」
再びトントンとここに放り込まれた時には既に用意されていた食材を刻んでゆく。
合宿にあたって陸と曜は夕食担当だという鞠莉のご指名だった。何というかこう本当にフリーダムだ。
「っ……」
鞠莉もそれを理解した上でこの配置にしたのかはわからないが、曜と二人きりという状況がどうにも落ち着かない。
記憶が書き換えられている間は彼女を元に戻すことに必死過ぎて気に留めてなかったが、月の一言でそれを意識してしまったことが今になって……。
「……なんか、久しぶりだね、こういう感じ」
「そうか……?」
もう十七年は一緒にいるはずなのにどうして今更こんなことになるのか。
自分が意識してしまっているだけならまだいいのだが、どうしても曜に言われたあることが頭から離れない。
「これでいいかなぁ……と、陸―、ちょっと味見してみてー」
「ぅえっ…?」
不意な一撃に今度こそ漏れる情けない声。
どうしてこう次から次へと、コイツもコイツでわかってやっているのだろうか。
「……どうしたの急に」
「いや、なんでもない……」
前にもそれっぽいこと言っていたので狙っているかと思ったがこの顔は無意識にやってる顔だ。
意識しすぎなんだと自分に言い聞かせ、曜から受け取ったそれを口に含む。
「……?」
途端、本来あるはずのそれと共に火照っていた顔の感覚も消えてゆく。
「あり? なんか変な味でもした?」
「ああいや、大丈夫だと思うぞ?」
不安気な顔をする曜へ咄嗟に誤魔化しの言葉を向ける。
この時抱いた違和感は、この先も消えることはなかった。
夕食も済んで数時間、皆が寝静まった夜中。
浦女の屋上から見上げる夜空には視界に映りきらないほどの星空が広がっていた。
「……星ってこんな綺麗だったんだな」
余裕もなく、止まることもできずにただ突っ走ってきて。
ふと立ち止まり見上げた星々は、いつも見るそれよりも輝いて見えた。
『…なあ陸、前にお前言ってたよな、最後まで戦いたいって』
「……なんだよ急に」
『…お前の気持ちは尊重するつもりではいる。けど正直、俺自身はこれ以上お前を戦わせていのかわからない』
そう零した相棒からは、何か哀願めいたものを感じた。
『……おかしくなってるんだろ、身体』
「……」
あの後自分で味見をした時、そして夕食の時も違和感はなかった。
それでも曜に味見を求められたあの一瞬、味を感じられなかった瞬間があったのは確かだ。
『違和感とまではなってなくても、今お前の身体は少しづつ変わってきてる……お前が一番気付いてるはずだろ』
味覚が薄くなりつつある反面、逆に視覚、聴覚といった感覚器官は鋭くなってきている。
まるで戦闘に必要のないものを削ぎ落し、戦うだけの身体に変化していっているようだ。
「…ベリアルに取り込まれてたせいか?」
『さぁな……けど、直接アイツに触れたことでお前の中のベリアル因子がより活性化したとも考えられる』
これまでもそうだったように戦いを続ければ陸の中の遺伝子は更に活性化するだろうとゼロは続ける。
ディザスト・スマッシュは戦うために生み出された先兵、生み出された過程こそ違えど同じ存在である陸が同じ身体に変化するのも不思議はない。
『それに———』
「……人間としての俺の身体がベリアルの力に耐えられなくなってる可能性もある……ってことだろ」
かつてオウガは言っていた。アイツ以外のディザスト・スマッシュは皆植え付けられたベリアルの力に耐え切れず死んでいったと。
元々ウルトラマンが人間に近い姿をしていたこと、そして陸の場合は生まれる前からベリアルの遺伝子を持っていた。そのためある程度の力には耐えられたが、その力が大きくなればなるほど身体への負担も大きくなる。
身体能力や耐久性ではきっと地球人は宇宙の中でも低い部類に入るはずだ。
いざその力の負担が人間としての部分の限界を超えた時、陸の身体は耐えきれるのか……という話だ。
「この先も生きることを諦めるつもりはないよ……けど、ここで逃げ出すつもりもない」
ベリアルは再び陸達の前に現れる。そんな確信があった。
勝てる保証なんてないし、仮に勝てても陸が無事である保証もない。
それでも逃げ出すということだけは出来なかった。
「親父達のこととか、俺の生まれのこととか、多分一人じゃ耐えられなかったし、何なら人間のままいられたかもわかんない……けど、俺が人間のままでいられるのは皆がいたから、皆が作ってくれた今の俺があったからなんだよ」
千歌、曜、果南、梨子、花丸、ルビィ、善子、鞠莉、ダイヤ。皆と触れてきたからこそ今の陸がいる。
今まで皆と一緒にいた中でやってきたこと。それこそが陸が陸である証のはずだから。
「…死ぬのは怖いけどさ、ここで命惜しさに逃げ出したら、俺自身を否定することになる……それはもっと、嫌だからさ」
我儘なのはわかってる。
けどこれは、貫き通さなければいけないことだから。
「だから……最後まで俺でいたいから戦うんだ」
『……何言っても無駄か』
それ以上は何も言ってこなかった。
そこまで言うなら覚悟を見せてみろ。そういうことなのだろうか。
『なんつーか……よかったよ、この星で一体化したのがお前で』
「俺もだよ……お前いなかったらどうなってたかわからんしな」
いずれは壊されていたとはいえ、ゼロと出会わなければもっと平穏に過ごせていたのかもしれない。
けど後悔はない。間違いなくゼロだって今の陸を形作った一人だから。
「……何最後の別れみたいな話してるのさ」
「……曜?」
夜風に乗って耳朶に触れたのは彼女の声だった。
儚い含みで笑みを見せると、そのまま隣に腰かけてくる。
「…明後日にゃ決勝だろ、寝てなくていいのかよ」
「……なんか眠れなくてさ」
ゆっくりと時が流れ、海岸の波の音が聞こえる。
今日の夜は静かだった。
「……いなくならないよね」
とさりと、曜が身を寄せて体重を預けてくる。
離すまいといった様子で腕を掴んでくる彼女の両手は、心なしか震えているように見えた。
「…聞いてたな」
「ごめん……」
タイミング的にもしやとは思っていたが、やはりか。
恐らく味見の感想をはぐらかしたあの時にはもう違和感に気付かれていたのだろう。
「いいよ、言わなかった俺が悪いし」
「大丈夫……なの?」
「さぁ? 正直わからん」
あっけらかんと答えると目を丸くされた。まあ話題に対して態度が軽すぎた感じはあるが。
けど実際そればかり気にしてもキリがないのも確かだ。
「大丈夫……なんて無責任なこと言わないけどさ、でもいなくならないよ」
それより今はそう思うこと方が大事なはず。
自分が犠牲になるつもりはないし、この先の未来も諦めない。改めてそう口にする。
「……やっぱり、聞いてもいいかな……あの日の答え」
それに対する曜の言葉は、少し意外なものだった。
そう言えば彼女に想いを伝えられたのもこの場所だったか。
まだ答えはいらない。そう言っていたはずの彼女がどうして今それを口にしたのかはわからない。
けどただ一つ確かに感じるのは、不安。
「悪い……今は答えられない」
それを理解した上で回答を拒んだ。
こんな形で答えを出すのは陸としても、また曜としても不本意なはずだから。
それに———、
「……今ここで答えたら、やりきったってなっちまうかもしれないからさ。だから……」
実際、答えは殆ど決まっている。
でもここで口にするのは一つ、陸の未来への渇望を減らすことになるから。
「…………全部終わったら、答えを出すから」
「……うん……」
頭を撫でたその手に伝わる暖かさ。
この温もりが確かなものである限り、前を向ける。改めて強くそう思った。
「……敵わないね」
屋上へと続く扉を背に、八つの足音が階段を下ってゆく。
「さあ、大事な決勝が近いのです。あまり夜更かしは出来ませんよ」
「……そうだね」
改めて認識した
それぞれの思惑と共に夜が深まってゆく。
決戦の日は……もう、すぐそこまで迫っていた。
息抜き回(とは)
せめてもの癒しで入れたはずのμ’sリスペクトの決勝前の校内合宿もなんか要素が薄く……
最後のアレはまあ、そう言うことっす(察して)
次から原作12話のお話です
それでは次回で