ゼロライブ! サンシャイン!!   作:がじゃまる

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12話後半、いざ決勝の舞台へ
前回同様自己解釈バリッバリなためご了承を


百五十二話 叶えた景色

 

 

 

 その日は快晴だった。

 普段通りの朝、されども特別な朝。冬の置いていった微かな肌寒さと共に心地の良い緊張感が漂う。

 

「ごめんね、付き合わせちゃって」

 

「…別に、やることなかったからいいよ。特別行きたい場所もないしな」

 

 本番前はそれぞれ自由行動で、自分を見つめなおす時間にして欲しい。

 千歌のその提案に異を唱えたメンバーはおらず、今は皆思い思いの場所で自分と向き合っていることだろう。

 

 そんな中で一緒に来て欲しいと陸を誘ったのは花丸だった。

 

「……お前は図書館か」

 

 静けさに溢れていた空間から抜け出た後にそう問うと花丸はこくんと頷く。

 図書館……というよりは本なのだろう。彼女の原点、スクールアイドルとの出会いも、花丸にとっては本だったか。

 

「…千歌ちゃんにね、聞かれたんだ。勝ちたいかどうかって」

 

 千歌だけでなく、全員が抱いていたその問い。

 自分の原点と向き合いながら、彼女はどう答えを出したのか。

 

「勿論あの時も勝ちたいって答えたよ。けど、本を通して今までのことを思い返してたら、改めてそう思ったずら」

 

 そう語る花丸の目に映るのは、本の世界に閉じこもっていた過去の自分なのか。

 けれど後悔のようなものはなく、むしろ未来への期待を含んだキラキラとした情動を感じる。

 

「まるはずっとルビィちゃんと二人で図書室で本を読んでるだけで幸せだったけど、千歌ちゃん達のおかげで外の世界に出られて、皆と一緒なら色んなことが出来るんだって知ったよ」

 

 本を通して、友人を通して、スクールアイドルを通して、体験した色々なこと。

 その全てが今の花丸を形作っている。

 

「だから勝ちたいずら。それが今、一番楽しいから」

 

「…そっか」

 

 本の世界に閉じこもっていた彼女は変わった。

 あの日閉じかけた自分の物語を描き、今も未体験な水平線へ向かい進み続けている。

 

「…歌って、素敵だよね」

 

 そんな花丸が暫くの間の後にそう零す。

 

「思うんだ。上手く言葉に出来ない想いも、歌でなら伝えられるって。それが出来るスクールアイドルって凄いなって」

 

 読書家の彼女が感じる歌を通して伝えられる言葉の力。

 ずっと自分の気持ちと一緒に言葉も抑え込んできた彼女だから、それはより鮮明に感じるのか。

 

「……でも、ちゃんと自分の言葉で口にしないといけない想いもあると思うずら」

 

 そう語る瞳は遠かった。

 もう叶わない。そんな諦めのようなものを孕みつつも、決して悲観などはしていない。そんな瞳は陸に向けられる。

 

「先輩」

 

 一陣の風が吹いた。

 柔らかな感覚と共に花丸の紡ぐ言葉を乗せ、その想いを舞わせる。

 

「……まるは、先輩が好きだよ」

 

 何気なく会話を交わすように、花丸は自身の気持ちを口にした。

 ほんの少しだけ朱に染まった頬は肌寒さからか気恥ずかしさからか。どちらにしろ今声に出したのは本当のことらしい。

 

「…それ言うために俺のこと誘ったのか?」

 

「……む、思ったより反応薄いずらね。これだから()()()()()は」

 

「何言ってんだお前」

 

 最後の方は何を言っているかわからなかったが彼女の気持ちは伝わった。

 何故このタイミングで伝えてきたのか。それは定かではないが、どうであれそれに応えることは———、

 

「…気持ちは嬉しいけどよ、俺は———」

 

「ああ、曜ちゃんのこと好きなんでしょ?」

 

 決勝に響くことがあっては困ると言葉を選びながら答えを綴っていると、花丸はあっけらかんとそう言う。

 

「…え? なに? バレてんの?」

 

「皆知ってるよ。屋上でいちゃいちゃしてたところ見てたし」

 

「はあッ!?」

 

 図書館の中だったら間違いなく追い出されるレベルの声量でのリアクション。

 正直告白されたことよりもこっちの方が衝撃的だった。

 

「……なーんでこっちの方が動揺してるずらぁ?」

 

「いや…だって、その……、えぇ……」

 

 見るからに慌てふためいていると不満気に頬を膨らませられる。

 あの瞬間を見られていたのはもう何と言うか爆散したいくらいだが、となると花丸はそれを知っていた上で今こうしてきたと言うことになる。

 

 あの目も、そう言うことだったのだろうか。

 

「…知ってたんならなんで今言ってきたんだよ」

 

「さあ? まるにもよくわかんないけど…………多分、伝えておきたかったんだと思う」

 

「はぁ…?」

 

「鈍感な先輩には一生わかんない感情ずらー」

 

 隣を歩いていた花丸がぱたぱたと陸の数歩先を行く。

 心なしか、その表情は気持ちを伝えてくる前よりも晴れやかに思えた。

 

「じゃ、まるはルビィちゃんとの待ち合わせがあるからここで失礼するずら。あとは若いお二人さんに任せるずらー」

 

「は?」

 

「あれ、陸?」

 

 花丸の背中が遠ざかっていく一方で、背後から陸に掛かる声。

 振り返らずとも声の主と花丸の奇行の理由を理解する。去り際に見せていった嫌らしい顔が憎たらしかった。

 

「……あんのマセガキ…!」

 

「今の花丸ちゃんだよね? 何話してたの?」

 

「……何でもない。それよりお前は何してんの」

 

 振り向いた先にいたのは勿論曜なのだが、衝撃の事実を暴露された直後だからか顔を合わせづらい。確実に取り乱す未来が見えるので彼女には言わないでおこう。

 

「別に……ただ何となくぶらぶらしてただけだよ。陸は?」

 

「……俺もそんなとこだよ」

 

「そっか……なら、ちょっと付き合ってくれない?」

 

 そう言うと陸の返答を待たずにその手を掴み、都会の雑踏の中へと足を踏み入れてゆく。

 

「そう言えば陸は知らないんだよね……あの日のこと」

 

「あぁ?」

 

 思い出を想起するように曜が見回しているのは駅前の電気街。ゲームセンターや量販店などが立ち並ぶそこは陸にとっては単に秋葉原の一角に過ぎないが、曜にとっては特別な場所らしい。

 

「…やっぱり、ここだったんだ」

 

 そしてその思い出に導かれここに赴いていたのはもう一人。

 曜がここへ至る際に客引きのメイドに渡された一枚のチラシを手渡したのは、皆に自由行動を提案した千歌だった。

 

「曜ちゃん…陸ちゃん……なんでここに?」

 

「…何となく、見ておきたくてさ」

 

「俺はコイツに連れてこられた」

 

 曜と同じように、千歌もまた自分を見つめ直すためにここに来たらしい。

 彼女達にとっての特別な場所。曜の手渡したチラシにも、同じ意味が込められているのだろうか。

 

「始まりは、ここだったから」

 

 そう言えばと、思い返す。

 去年もこうして秋葉原に来ていた千歌は、スクールアイドルに出会って帰ってきた。

 

 そうなると、この場所は……、

 

「あっ……」

 

 また風が吹き、曜の手から離れたチラシが宙を舞う。

 しばらくは呆然と互いの顔を見つめるだけの二人だったが、やがて何かを重ねるようにチラシを追って走り出した。

 

「オイ……!」

 

 状況を理解出来ぬまま陸もその後を追う。

 駅を超え、階段を超え、風に乗るチラシはやがて巨大なモニターの前まで二人を導いた。

 

『ここは……』

 

(ああそういや……ここでμ’sに出会ったって言ってたっけ)

 

 あの日この場所で千歌が見たμ’sの輝きを知る由はないけれど、今千歌の、皆の手が届きかけているのは、きっとあの人達にも負けないもの。

 

「…見つかるかな。私があの時見つけたいって思った輝き」

 

「きっと見つかるよ。もうすぐ…あと少しで」

 

 モニターに映し出されるラブライブファイナリストの名前。

 そこにはかつて千歌が見たあの名前のように、Aqoursの名前も存在している。

 

「勝ちたい…? ラブライブ、勝ちたい?」

 

「勿論」

 

 曜にもその問いかけをした千歌に対し、彼女は親友の背に顔を埋めながら答える。

 

「……やっと一緒に出来たことだもん」

 

 千歌の誘いを受けたあの日、曜は言っていた。

 ずっと千歌と一緒に何かに向かって、夢中になってみたかったと。

 

 その憧れだった千歌とやっと一緒に出来たことがスクールアイドルであり、ラブライブ。だからこそ勝ちたいと、曜は言う。

 

「…だからいいんだよ。いつもの千歌ちゃんで」

 

 千歌にとっての始まりがμ’sで、花丸にとっては本だったのが、曜にとっては千歌だったから。

 その千歌がいつも通りであって欲しい。そう願っている。

 

「未来のことに憶病にならないで、いいんだよ」

 

 勝ちたいか。かつて聖良に問うたことが返ってきた時答えを出せなかった千歌の心に引っ掛かっているもの。

 花丸と曜を通じ彼女達の気持ちを見てきたからか、今だからこそわかる。

 

「…お前が何かのためにって頑張ってきたのは知ってるよ。ずっと見てきたから」

 

 廃校を防ぐために奔走したように、これまでスクールアイドルをやる中で千歌は多くの想いを抱いてきた。

 今もそれは変わらない。学校の名前を残して一生消えない思い出を作る。だから優勝という結果を出さなければいけない。

 

その全てを水の泡にする未来を恐れてか、そんな想いが纏わりついているように思えた。

 

「…でも一番初めにお前が思ってたことは、違うだろ?」

 

 千歌がμ‘sに、スクールアイドルに出会った瞬間のことを陸は知らないけれど、その後の事はずっと見てきている。

 自分もμ‘sと同じように輝きたい。始まりはただ純粋な、やりたいという想いだったはずだ。

 

「一人じゃないよ……千歌ちゃんは」

 

 皆だってそうだ。入り方や目標はそれぞれ違ったけれど、皆始まりはやりたいという想いだった。

 今だってそれぞれ背負っているものはあるけれど、精一杯、あのステージで歌いたい。その想いは皆同じはずだ。

 

「あ、梨子ちゃん!」

 

 その想いに引き寄せられるようにまた一人、梨子が顔を見せる。

 昨晩話していたように彼女が行っていたのは音ノ木坂だろう。今ここに顔を出しているということはもう、彼女の中で決着はついたのか。

 

「梨子ちゃんは、勝ちたい?」

 

「うん!」

 

 曜以上に、梨子は力強く、かつ自信をもって答えた。

 

「私、自分の選んだ道が間違ってないって、心の底から思えた。辛くてピアノから逃げた私を救ってくれた、千歌ちゃん達との出会いこそが奇跡なんだって」

 

 悩みを乗り越え、以前にはなかったものを手にした梨子が、改めて訪れた音ノ木坂で見てきたもの。

 その場所で何をしてきたのかはわからなくても、自分の原点で実感した己の変化は彼女に成長を齎している。それだけは確かなことなのだろう。

 

「だから勝ちたい…ラブライブで勝ちたい。この道でよかったんだって、証明したい」

 

 千歌に誘われた時のように、初め梨子にとってスクールアイドルはピアノと向き合えるようになるための手段だった。

 けれど勝ちたい。彼女はそう言った。それはきっとAqoursとして歌っていく内にスクールアイドルを好きになったから、この瞬間が、楽しいって思えているから。

 

「今を精一杯全力で……心から…!」

 

 千歌と曜。今の自分を作った切っ掛けの二人を抱きしめ、梨子は叫ぶ。

 

「スクールアイドルをやりたい!!」

 

 今しかできないこの瞬間を、スクールアイドルを精一杯楽しみたい。

 それがスクールアイドルを通じて逃げてきたものとも向きあえた梨子の、心からの言葉。

 

「…で、さっきから人に聞いてばっかのお前はどうなんだよ」

 

 わかりきった答えだと理解しつつ敢えて問いかける。

 言葉にしないといけない想い。その気持ちは間違いなくそれだろうから。

 

「ゼロをイチにして、一歩一歩進んできて、そのままでいいんだよね。普通で、怪獣で……今があるんだよね」

 

 掲げられた一枚の紙切れは、Aqoursのゼロの象徴の一つ。

 現実に叩き伏せられて、初めてゼロを叩きつけられたあの瞬間のもの。

 

 でも、もうそのゼロは忌まわしき数字じゃない。

 このゼロがあったからこそ、今のAqoursがある。そう言うように。

 

「私も全力で勝ちたい! 勝って、輝きを見つけてみせる!」

 

 曜の、梨子の、皆の気持ちを受けて、始まりの想いに立ち返った千歌はその答えを出す。

 輝きたい。それが最初からずっと抱いてきた、千歌の想いだから。

 

「ありがとう……ばいばい」

 

 今をくれたゼロに感謝を込めて、あの日の悔しさに別れを告げて、吹きゆく風に言葉を乗せる。

 この先にある、未来へと向かうために。

 

「もう大丈夫」

 

「行こっか、千歌ちゃん」

 

「うん!」

 

 

 

 自分を振り返り過去へと戻っていた彼女達は、再び今に、未来に向かって走り出す。

 

 ゼロからイチへ。

 イチから、その先へ。

 

 どこまで来たのか、この道はどこまで続いていくのか。

 わからないけれど、仲間と駆け抜けてきたあの時間と、今思っている全てがあって、今ここに辿り着いているのだろう。

 

 けど、そこは終着点じゃない。その先にある未来へ進まなければいけないから。

 

 雲の上のような場所、空を飛んでいるような感覚。

 その瞬間を思いっきり楽しんで、優勝するために。

 

 今を精一杯楽しんだ先にあるAqoursだけの輝きと証を見つけに、その輝きと共に浦の星女学院の名前をラブライブの舞台に刻むために。

 

 

 これまでの想い全てをその心に抱き、未来へと向かってゆく——————、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――WATER BLUE NEW WORLD

 

 

 光の海。

 Aqours全身全霊のパフォーマンスが生み出す光景は、そう表現するほかなかった。

 

決して平坦ではない道の中で彼女達は幾多の壁にぶつかり、時にその現実に打ちひしがれながらもその一瞬一瞬を全力で駆け抜けてきた。

 

 笑い合ったこと、嬉しかったこと、泣いたこと、悲しかったこと。過ぎ去っていった数多の過去の先にある、最高のこの瞬間。

 その今を重ね、未来へ向かっていく。

 

 雲の上のような、青い光の海。

 その光景は確かにAqoursにしか作り出せない、彼女達だけの、輝きだった。

 

 

 

 

 

「…なーに泣いてんのさ」

 

「いやなんか………ここまで来たんだなって」

 

 WIENER Aqours

 割れんばかりの拍手や歓声と共にメインモニターに表示された優勝者の名前。Aqoursの歩んだ今を、浦の星女学院の名前を、ラブライブの歴史に刻み込んだ瞬間だった。

 

「ま、ボクは彼女達なら出来るって信じてたけどね」

 

「…調子のいいことばっか言ってんじゃねーよ。てかなんでまたお前が隣の席なんだよ」

 

「さっきまで気にしてなかったくせにいきなりかい? 泣いちゃったのが恥ずかしいのはわかるけど誤魔化しにしては無理矢理じゃな………ヘイヘイ落ち着けよ陸君ボク達は会話が出来るだろ暴力で解決なんてそんな野蛮な———」

 

 

「あーくあっ!」

 

 

 余韻もへったくれもなく陸とこれで通算三度目の相席であるオウガが揉め始めていると、ふと会場のどこかからAqoursを呼ぶ声が上がる。

 閉校祭の時のように浦の星の誰かの声なのか、それともそのパフォーマンスに魅了された誰かが上げた声なのか。

 

 それを特定する間もないままその声はどんどん大きく、重なってゆき、やがては会場にいる全ての人がAqoursの名を呼び始めたのだ。

 

「「ッッッ………!?」」

 

 暫くの後にその声に応えるように会場が暗転し、スポットライトがステージを照らした。

 

 Aqours! サンシャイン!

 

九人の掛け声と共に会場のボルテージは再び最高潮へと昇ってゆく。

 

 

 

 

 

 けれど陸とオウガが反応したのはソレではなく、また再び登場する彼女達の姿を注視することもなかった。

 

「…この感じ……!」

 

「………最悪のタイミングで来たね。よりによって今か……!」

 

 全身に走った電撃のような悪寒。

 五万人近い客が入っているこの会場でそれを感じたのは陸とオウガのただ二人。そして()()()()()()()()を持つ陸達のみが察知したということは———、

 

「ベリアルだ……すぐ近くまで来てる」

 

『マジかよ…!』

 

 いつか決着をつけないといけない日が来るとは思っていたんだ。

 けどそれがこんなすぐ近くで、よりによってこの日だなんて。

 

「……行くぞ」

 

 けど、迷わなかった。

 一瞬、衣装を変えて再びステージに立った皆を見てその意を告げる。

 

 この輝きは、会場全体が彼女達を呼んだあの声は、Aqoursの歩んできた結果で、証なんだ。

 それを壊されたくない……壊される訳にはいかないから。

 

 

 

——————青空Jumping Heart

 

 

 

 掴み取った最高の景色、最高の舞台の中で、Aqoursは再び歌う。

 その最高の輝きを背に受け、陸はその場へと————最後の決戦へと向かった。

 

 

 




Aqoursの優勝を経て、いよいよベリアル陛下との最終決戦へ
最高の景色と栄冠を手にした彼女達の輝きを受けた陸が掴み取るものは……

冒頭の花丸のそれに関しては千歌達のシーンの前にワンクッション勝ちたいの気持ちを感じ取らせる意味合いもありますが殆ど作者の趣味ですね(笑)

それでは次回で
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